幻想少女は今日も空を見る

作者:澤見夜行

●看板人形
 そのアンティークショップには一体のアンティークドールが置かれていた。
 店主の老婆、柊カナメによれば、それは売り物ではないという。
「今日も一日宜しくねぇ」
 幻想少女と名付けられたそのアンティークドールは、ショーウィンドウから空を眺めるように顔を仰がせる。
 店の顔。看板人形ともいうべき存在に、訪れる客は皆笑顔を振りまいていた。
 ――しかし。
「ああっ……なんて、なんてことを……」
 突如現れた二人組の魔女――ディオメデスとヒッポリュテがその人形を引き裂き、破壊する。
 床に転がる人形の頭部がカナメを見た。カナメの目と人形の目が交差する。
 瞬間、カナメは我を忘れて魔女達へ掴みかかった。
「私の、私の大切な娘を――ッ!」
 掴みかかるカナメの細腕をものともせず魔女達は同時に腕を振るうと、カナメの心臓に鍵が穿たれる。
 カナメはそのまま意識を失い、倒れ込んだ。
「残念、私達のモザイクは晴れなかったねえ。けれどあなたの怒りと――」
「オマエの悲しみ、悪くナカッタ!」
 魔女達が嘲り笑うようにそう言うと、倒れたカナメの傍に金髪の黒と白のドレスを着た二体の巨大な人形――否、ドリームイーターが出現した。
 ドリームイーター――夢喰いのデキに満足した魔女達は来たときと同じように忽然と姿を消し、アンティークショップは静寂に包まれる。
 そして残された二体の夢喰いは、空を仰ぎ見るように、アンティークショップを後にするのだった――。


「アリスさんが危惧していたパッチワークの魔女達が動き出したようなのです」
 クーリャ・リリルノア(銀曜のヘリオライダー・en0262)が集まった番犬達にそう伝えると、傍に立つアリス・ヒエラクス(未だ小さな羽ばたき・e00143)が小さく頷いた。
「……二人の魔女がアンティークショップを狙ったの」
 アリスが危惧し、調査していたアンティークショップの店主である老婆が、魔女――怒りの心を奪う『第八の魔女ディオメデス』と『第九の魔女ヒッポリュテ』によって夢喰いを生み出す生贄にされてしまった。
 クーリャが後を引き取り続ける。
「この二体の魔女は人々の持つ大切な物を破壊して、それによって生じた『怒り』と『悲しみ』の心を奪って、ドリームイーターを生み出しているようなのです」
 クーリャによれば、生み出された夢喰いは二体連携して行動し、周囲の人間を襲ってグラビティ・チェインを得ようとするそうだ。
「なんでも悲しみのドリームイーターが『物品を壊された悲しみ』を語り、その悲しみが理解できないと、今度は『怒り』によって殺害してしまうそうなのです」
「恐ろしい話ね」とアリスは眉を顰める。
 戦闘においても連携は確立されており、怒りの夢喰いが前衛、悲しみの夢喰いが後衛で戦闘を行うということだ。
「皆さんには二体のドリームイーターが周囲の人間を襲って被害を出す前に、このドリームイーターを撃破してほしいのです」
 続けてクーリャは詳細な情報を伝えてくる。
「敵は黒と白のドレスを着た人形型のドリームイーター二体。それ以外の敵は存在しないのです」
「魔女達はいないということね」
「はいなのです。そして、ドリームイーターは言葉を喋ることはできるのですが、自分の悲しみを語る事と、怒りを表現する事以外はできないのです」
 会話は成立しないだろうと、クーリャは言う。
「ドリームイーターは被害者が倒れているアンティークショップから外に出てくるのです。周囲は人通りも少なく避難の準備もできているので避難誘導の心配は無用なのです」
 一般人の避難や交通規制は任せてしまっても大丈夫だろう。
 敵の攻撃方法ついても判明している。
 怒りの夢喰いは、手にしたハサミで傷口を広げる攻撃と、髪を伸ばし捕縛する攻撃をしてくる。
 悲しみの夢喰いは、ダンスのように舞い守りごと薙ぎ払うキックや、本来人形を収めるであろう巨大な棺に閉じ込め催眠状態にする攻撃をしてくるようだ。
「回復は持たないようですが、強気に攻めてくる姿勢を感じるのです。油断しないで挑んで欲しいのです」
 クーリャは資料を置くと、番犬達に向き直った。
「被害者のおばあさんは、人形を本当に大切にしていたようなのです。それを目の前で壊してしまうなんて、とても悲しいですし、怒って当然なのです」
「ええ、そのとおりね」
 アリスの同意にクーリャは一つ頷くとこう締めくくった。
「怒りと悲しみの感情を使ってドリームイーターを生み出すのは絶対に許せないのです。被害が広がる前に速やかに撃破して欲しいのです。どうか、皆さんのお力を貸してくださいっ」


参加者
源・那岐(疾風の舞姫・e01215)
アリシア・メイデンフェルト(マグダレーネ・e01432)
ダレン・カーティス(自堕落系刀剣士・e01435)
鎧塚・纏(アンフィットエモーション・e03001)
赤星・緋色(小学生ご当地ヒーロー・e03584)
月原・煌介(泡沫夜話・e09504)
葛之葉・咲耶(野に咲く藤の花のように・e32485)
月岡・ユア(月歌葬・e33389)

■リプレイ

●接敵
 予知された現場へと向かう番犬達。ふいに葛之葉・咲耶(野に咲く藤の花のように・e32485)が口を開いた。
「またお人形さんがドリームイーターにされたんだねぇ。やっぱり、感情が込められやすいものだからかなぁ?」
 以前、同じように人形が狙われた事件を担当したことのある咲耶が言う。
 その時もまた、思い入れのある人形が破壊され、夢喰いが生み出されていた。
「狙われやすいというのはあるのかも知れませんね。どちらにしても許せないことです」
 源・那岐(疾風の舞姫・e01215)が生まれ育った一族は古物を大切にし、代々受け継ぐ風習がある。
 那岐の身の回りにも使い込まれた古い品々が多数あった。
 古物への愛着。その想いは被害者である柊カナメが人形を大切にしてきた想いと通じるところがあった。
 故に、身勝手な理由でその気持ちを踏みにじる魔女を、那岐は許すことができない。強い怒りを覚える。
 話ながら索敵を行う番犬達。程なくして目的の夢喰いを見つけることとなる。
「見つけましたわ」
 アリシア・メイデンフェルト(マグダレーネ・e01432)が声を上げた。視線の先、二体の夢喰いが被害者の店から出てくるところだった。
 番犬達に気づきゆらりゆらりと、歩みを進める夢喰い達。
「アアァ――、ねぇ聞いて、大切な人形がコワされてしまったの。ずっと一緒だったのに、どうして、どうして? アァァ――悲しい、悲しいヨ。あなたにわかる? この悲しみが」
「アアァ――、許せない、ユルセナイ。なんで壊してしまったの。ずっと一緒だったのに、どうして、どうして? アァァ――許さない、絶対に許さない。お前にわかるものか、この怒りが!!」
 爆発的に殺気が膨れあがり、平和な町並みは一瞬にして戦場へと変わる。
「くるぞ――!」
 番犬達は武器を構え、二体の夢喰いを迎え撃つ――。

●怒りの矛先
「その動き、止めさせてもらいます!」
 飛び上がった那岐が竜砲弾の雨を降らし、怒りの夢喰いの足を止めると、続けざまにグラビティを中和するエネルギー光弾を放つ。
「我が身に寄り添う影の騎士よ。その真価をここに」
 アリシアが纏うオウガメタルから粒子が放たれ、仲間達の超感覚を研ぎ澄ましていく。
「シグ、皆様を守ってあげてくださいね」
 サーヴァントのシグフレドにそう指示を出すアリシア。
 自身もまた、仲間達を守るためにその身を危険に晒していく。
「纏チャン」
 ダレン・カーティス(自堕落系刀剣士・e01435)がそう鎧塚・纏(アンフィットエモーション・e03001)に呼びかけると、纏は一つ頷いて。
「分かってる、わたしはとびっきりクールよ」
 怒りと悲しみを踏みにじるような魔女の行い。許せるわけがない。
 けれど、その想いは胸中へしまい込み、纏は確りと頷くのだった。
「やれ、心配するまでもなかったね。……そんじゃ、俺は俺できちっとお仕事しますか!」
「ええ、いきましょう」
 気合いを入れなおし武器を構えたダレンが怒りの夢喰いめがけて飛び込んでいく。
 壊れてしまった物は、決して壊れる前の様には戻らない、と纏は思う。
「たかが、物。されど、物――」
 纏が一息で怒りの夢喰いに肉薄し、手にした槍で薙ぎ払う。
「見た目は悪くないわ、でも無粋ね」
 夢喰い達に『悲しみ』も『怒り』も語る資格などありはしない。
 神速の突きが怒りの夢喰いの神経回路を焼き切る。
「言葉も吐けない程にその愛らしい首を絞め上げてあげるわ」
 沸き立つ怒りを閉じ込めて、纏は夢喰い達を睨み付けた。
 怒りの夢喰いがその髪を伸ばし、赤星・緋色(小学生ご当地ヒーロー・e03584)の動きを止めると、悲しみの夢喰いが棺を生み出し催眠状態へと誘う。
 その動きに即座に反応するのは咲耶だ。
「すぐ回復してあげるねぇ」
 癒やしのオーラを放ち、治療を行う。
「アナタにわかる? ワタシの悲しみが――!」
「血のつながった本当の娘じゃないんだし、そんなに怒ったり悲しんだりする必要ないんじゃないかな」
「アァァ――! ユルセナイ! ユルセナイィィ!!」
 緋色はあえて理解を示さない答えを声にし、敵視をとると同時に距離もとる。被害者のお店がすぐ傍にあるためだ。
 そうして敵を引きつけ、店とその中で倒れている店主のカナメに被害がでないよう配慮する。
「ユア。君の歌は、とても、素敵だ。思い切り……響かせて」
「えへへ、任せて♪ 思いっきりやってくる!」
 友人である月原・煌介(泡沫夜話・e09504)と月岡・ユア(月歌葬・e33389)は互いに言葉を掛け合うと戦いへと望む。
 煌介は二体の退路を塞ぐように背面に回り込み、梟の狩り如く素早い攻撃を繰り出していく。
「月光に聖別されし雷よ……疾く、縛れ」
 杖から雷を迸らせる。
 神経を焼き切るような痺れが悲しみの夢喰いに襲いかかる。
 そうして二体の夢喰いの連携が崩れたところをユアが歌いながら果敢に飛び込んでいく。
 怒りの夢喰いが放つ反撃の一撃を紙一重で回避するとユアは緩やかな弧を描く一撃を放った。
「アァァ――! ユルセナイ! ユルセナイィィ!」
 怒りと怨嗟の声を上げる夢喰いに、さらに傷口を広げる一撃を放ち間合いをとる。
「さすがだね、ユア」
「いやぁ、人形とこんな形で遊ぶだなんて思わなかったよ。ホラー映画のワンシーンみたい」
 楽しげにそう言うユアだが、その眼は真剣だ。
 番犬達の作戦は怒りの夢喰いを集中することで統一されていた。
 その作戦は功を奏し、見る間に怒りの夢喰いの戦闘力を奪っていく。
「綺麗なドレスだけれど――!」
 魔力を籠めた星形のオーラを蹴り込む那岐。
 直撃を受けた怒りの夢喰いが吹き飛び地面に転がる。
 跳ね起きるように飛び上がると、その凶刃をアリシアに向ける怒りの夢喰い。
「怒りも悲しみも悪いことではないですわ。けれど、その強い想いを誰かに押しつけるような真似はさせません……!」
 怒りの夢喰いが振るうハサミの刃を受けながら、強い意志を持って対峙するアリシア。
 仲間達に危害ができるかぎり及ばぬよう、堅実に立ち回っていく。
「ほら、こっちだよ!」
 適時声をだし、敵の気を引いていくのは緋色だ。
 仲間の回復を中心に立ち回りながら、自身を敵の攻撃の直中に晒していく。
 緋色とアリシアの二人の活躍もあって、仲間達の被害は少なく、また自由に攻撃が可能となっていた。
 怒りの夢喰いに飛びかかる纏の後ろからダレンが走る。
「悪いね、人形サン。本来の姿ならともかく、キミらを愛でる奴はいねぇんだ。だから大人しく眠っててくれよ」
 纏の放った一撃に体勢を崩した怒りの夢喰いに流星纏う蹴りを食らわすダレン。
「許せない……! ユルセナ――ッ!」
 憤慨する怒りの夢喰い。重力の楔によって動きが止まったところを、纏とダレン、二人同時に緩やかな弧を描く一撃を見舞った。
 コンタクトなしによる見事な連携が、怒りの夢喰いをそのまま絶命へと追いやった。
 怨嗟の声を上げながら怒りの夢喰いは地面へと倒れ、モザイクを撒き散らしながら消えていく。
「アァァ! 何故、どうしてェェ――!!」
 悲しみの叫声が響き渡った。

●悲しみの行方
 戦いは終始番犬達の有利で進む。
 怒りの夢喰いを的確に集中して倒した番犬達は、残りの悲しみの夢喰いにその矛先を変える。
 嘆きの声を上げながら出鱈目に攻撃を繰り出す夢喰いだが、もはや勝ち目はないに等しい。
「さて披露するのは我が戦舞の一つ。躍動の風!!」
 それは那岐の得意とする戦舞の一つ。軽やかななステップと共に空色の風が巻き起こる。
 回避しようとする悲しみの夢喰いをステップを踏みつつ逃がさず追い詰める。
 舞いながらの攻撃の数々に悲しみの夢喰いが大きく弾き飛ばされた。
「我が名のもとに『復活』の加護へ呼びかける。我は全ての征服者を否定する者。理を以てその力を顕現せし者なり」
 アリシアの詠唱と共に編み出されるは魔力の宝剣。それは復活のルーンから限定的に力を授かる魔術。
 宝剣のひと振りが仲間達を害する災いを癒やし循環する魔力を与えていく。
「それじゃァ、正義の名の下にオシオキと行きますかね……ッ!」
 想いを拳に、正義執行。青白い閃光が螺旋を描きダレンの拳へ収束する。
 ダレンの力を込めた拳が、悲しみの夢喰いへと直撃した。
 首を回しながら吹き飛ぶ悲しみの夢喰い。
 まるで涙を流すように、モザイクを溢れさせ、反撃にでる。
 その一撃は前列の守護を打ち破る一撃ではあったが、番犬達を止める力とはなりえない。
「出でませ我が朋、我等が女王。これなる者の手を取って、遠き彼方の扉に連れていって――おいで、妖精」
 詠唱と共に現れた妖精達が踊るように、舞うように悲しみの夢喰いを捉える。
 逃げようとするも、すべては無駄だ。取り巻く妖精達がグラビティの光となる。
「――さよならだ」
 言葉と共に悲しみの夢喰いが叫声を上げる。特大のダメージが夢喰いを襲った。
「うぅ、人の大切なものを壊してさらに人を傷つけようなんて、許さないんだからなぁ!」
 恐がりながらも必死に戦うのは咲耶だ。
 御札の呪を解き放ち、仲間達を回復していく。
 この戦いにおいて、番犬達の回復を引き受ける咲耶の働きは確かなものであった。
 すべての傷や状態異常を直すつもりで、一心に回復を行い続ける咲耶のおかげで、他の番犬達は作戦通りに行動できていると言っても良いだろう。
 攻撃を引き受けるアリシアと緋色、そしてそれを回復する咲耶。
 それぞれが十全に自分の役割を果たすことで、戦いは危なげのないものとなっていた。
「アリシアちゃん、もうちょっとだからがんばってねぇ」
「ありがとうございます。ええ、終わりは見えてきましたね」
 残りは悲しみの夢喰いのみ。それももうかなりの疲弊が見て取れる。
 治療しながら咲耶とアリシアは戦いが終わりに近いことを悟っていた。
「いちげきひっさーつ!」
 悲しみの夢喰いに対し、緋色が飛び込み流星纏う蹴りを見舞う。そのまま大きくジャンプして、真下で重力の楔に繋がれ動きが止まっている悲しみの夢喰いに川越市で抽出したグラビティチェインを纏わせた武器を投げつけた。
 命中と同時に解放されたグラビティチェインが大爆発を起こす。
 だが、まだ夢喰いは倒れない。
「アアァ、イタイ、どうして、悲しい、カナシイヨ――!!」
 悲しみの夢喰いの哀惜の言葉が響き渡る。
 その言葉に、失った悲しみや怒りに、ユアの心が痛む。
「娘の様に大切にしてた人形、か。ヒメちゃんも痛かったよね」
 歌いながら、ふいに口をつく言葉。
「友なる黄金番犬の鎖、戒めよ……強く!」
 ユアに襲いかかる悲しみの夢喰いを、煌介が捕縛し止める。
「コイツ倒すことでしか役に立てないけど――すぐに倒すから!」
 動きを止められた悲しみの夢喰いを切り刻んでいく。
 歌に籠められる容赦ない刃。慈愛を込めて乱舞する。
「アァァ、カナシイ、カナ……シイ……」
 悲しみを訴え続ける声が止まる。
 友情により結ばれた二人の連携が、悲しみの夢喰いの命を止めるに至ったのだ。
 こうして人形から生み出された二体の夢喰いは倒されたのであった――。

●ヒンメル
 周辺のヒールを終えた番犬達は、被害者が倒れている店の中へと入っていく。
 古い品々から歴史を感じる匂いが沸き立っている。
 その店の中央で、一人の老婆が倒れていた。
「うぅ……ヒンメル……」
 老婆――柊カナメが意識を取り戻した。
 すぐに傍へと寄り添う番犬達。
「大変なショックを受けたでしょう……お可哀想に」
 那岐は意識を取り戻したカナメに寄り添うと背に手を掛ける。
「あぁ……ありがとう。貴方達はいったい……?」
 事の顛末を伝えるダレン。
「少しでも元通りにできればいいんだけど」
 カナメに寄り添うユアが煌介に向けていった。
「ユアは、優しい」
 煌介はユアに微笑みを向けた。
「壊れちゃったものを完璧に戻すことは出来ないし、おすすめは出来ないけど、もしおばあさんが望むならヒールで直してあげることは出来るよ」
 ヒールによって修復することもできるがと緋色が聞くと、カナメは静かに首を横に振った。
「不思議な力で直して貰っても、きっと以前とは違って見えてしまうでしょう……」
 それは見た目だけの話ではない。ヒールによって修復された人形はもはや別の物だ。
 悲しげに、唯一無事だった人形の頭部を撫でるカナメ。
 纏は涙をぐっと堪えて集めた粉々のパーツ達を渡した。カナメの震える手がパーツに触れ、そして諦めたように離れた。
「人形は顔が命というけれど……この子もまだ生きてるのかねぇ……」
 人知れず呟くカナメ。
「辛かった、ね。でも、貴女とヒンメルの長い、ながい、思い出は誰も傷つける事のできない、素敵な宝物。とても……温かい。ずっと……貴女と彼女の内に在る。これからも……共に、店を護って」
 煌介の言葉に、カナメ瞳からまた涙がこぼれ落ちる。きっとこれまでの思い出を思い出しているのだろう。
 煌介は「カナメを頼むよ、ヒメ」と人形へ優しく語りかけた。
「ヒメちゃんへの想い、これからも大切にね……? どんなコトがあっても、この子がカナメさんの娘であるコトは変わらないから」
 ユアもまたカナメへ語りかける。優しく、どこまでも優しく。
 一頻り涙を流し、カナメが落ち着いた頃合いを見計らって、番犬達はアンティークの修復をする人探しをさせてくれないかと伝える。
「ああ、もしそんなことが可能なのだとしたら、嬉しいねぇ。人の手で治してくれるなら……」
 かなり古い人形になる。
 職人のような人に依頼ができるかはわからないが、望みは繋がった。
 デウスエクスを倒すだけじゃない。番犬の人脈だって誰かの役に立つに違いないのだ。
「ええ、きっとまた空を眺めることができるはず――」
 アリシアの言葉に、カナメは静かに、そして優しく人形――空の名を冠する――ヒンメルの髪を撫でるのだった――。

作者:澤見夜行 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年11月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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