『王子様』決戦~シャッフルせよトランプ兵!

作者:林雪

●『王子様』のお城
「新たに敵の拠点が判明したよ! なんと山梨に『王子様』の城があるんだ」
 ヘリオライダーの安齋・光弦が集まったケルベロスたちにそう告げた。
 ワイルドスペース内に城がある、と睨んだソル・ログナー(鋼の執行者・e14612)、その城がワイルドスペース内にある、と推測したフィア・ミラリード(自由奔放な小悪魔少女・e40183)、そして『王子様』の本拠地は城だろうと調査を進めていた久遠・征夫(意地と鉄火の喧嘩囃子・e07214)。この三名の調査と、別途ハロウィンの魔力の流れの情報を擦り合わせて分析した結果、山梨県の山中にあるワイルドスペースの内部に『王子様』の城があることが判明したのである。
「このワイルドスペースは『絶対不可侵』つまり、外部からの侵入を絶対に許さないっていう特性があるんだ。けど、創世濁流を引き起こした影響でバランスがちょっと崩れたんだろうね、僅かな歪みの一点を突いて、少数精鋭でなら攻め込める」
 侵攻できる人数はケルベロス100人程度、軍勢と呼ぶにはかなりの少人数だが敵も敵で、まさか絶対不可侵の城に攻め込まれるとは思いも寄らないため、隙を突けば大いに戦果があがるだろう、という判断で作戦が決行されることとなった。
「『王子様』を倒せれば一気に優勢になるね、でも撃破に至らなくても戦力を削いでやれば、今後もケルベロスがイニシアチブを取れる。拠点攻めっていうかなり危険な任務だけど、是非成功させて欲しい」

●連携作戦
「君たちに頼みたいのは先鋒、真っ先に突入をかけて外縁部を護ってるトランプ兵と戦って欲しいんだ」
 トランプ兵は所謂下級ドリームイーターで、個体差や感情といったものはなく、機械的に戦い続ける兵士である。
「勿論、ここでの目的は敵を全滅させることじゃない。とにかく数が多いからそれは不可能だ。ただ、君たちが奮戦してなるべく多くのトランプ兵を引き付けてくれれば、後続のチームが『王子様』の元に到達できる。派手に、長く戦い続けることが重要になってくる。全体の作戦が成功するかどうかが決まる、大事な戦いだ。無理はして欲しくないけど、なるべく踏ん張って」
 トランプ兵は、本物のトランプと同じく4種類のマークごとに使う武器が異なるが、さして大きな能力差はない。
「スペードは剣、クラブは槍、ダイヤは銃、ハートは杖……ということは、前2つが接近戦、後の2つは遠距離支援型かな。大体はこの4種でひと揃え、だろうけど時間が経てば経つほど敵の数は多くなる。恐らくかなりの乱戦になるね。あまり突っ込みすぎて時間が稼げないと意味がないから、あくまで敵を『引き付ける』って役目を、忘れないで。それと、撤退についてなんだけど」
 今回は必要ないんだ、と、光弦が意味深なことを言った。
「『王子様』のワイルドスペースは、さっきも言った通り、侵入者を許さない特別な能力がある。今回はその能力の穴を突いた作戦なわけだけど、恐らく作戦開始から30分経過した時点で、この能力は復活してしまう。そうするとどうなるかと言うと……君たちはたとえ戦闘中であっても、ワイルドスペースの外に弾き出されてしまうんだ」
 それ以前に戦闘不能に陥った場合も、やはり同じく弾き出されるという。一度弾き出されればもう戦線には復帰できず、そうなれば援軍が『王子様』や他の有力敵の元へ向かいかねない。
「『王子様』を孤立させて決戦で倒すのが最終的な作戦目標だ。連携作戦だけど、中に入ってからは他チームと連絡を取る手段はない。それと、地形も恐らくかなり変化してしまっているから既存の地図は参考にならない。それぞれお互いを、自分たちの成功が全体の成功に繋がると信じて目の前の敵と戦って欲しい。君たちの拳ならきっと、『王子様』に届くよ!」


参加者
貴石・連(砂礫降る・e01343)
ラズェ・ストラング(今年のクリスマスは本気出す・e25336)
ウルトレス・クレイドルキーパー(虚無の慟哭・e29591)
ラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869)
アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)
霧山・和希(碧眼の渡鴉・e34973)
安海・藤子(道化と嗤う・e36211)
月・いろこ(ジグ・e39729)

■リプレイ

●シャッフルせよ、トランプの海!
 予想はしていた。だが、こうして目の当たりにしてみると。
「まさしく『軍勢』って感じね……」
 貴石・連(砂礫降る・e01343)が思わず呟く。
 ここはジグラットゼクス『王子様』のワイルドスペース内。遠く見える城へ別働隊のケルベロスが侵入出来るか否かが、自分達に託されている。そう思えば怯む心よりも俄然、血の疼きを感じずにはいられない。
「こんな大勢に注目されるなんて久しぶりで照れるぜ……なぁんてな」
 そう言って不敵に笑うのは、月・いろこ(ジグ・e39729)。巨大鎌エクリプスをフラッグの如く片手に持って、眼前の軍勢を見据える。4種類のスートはあっという間にこちらを捉え『侵入者発見! 総員戦闘配置に~つけっ!』と、どこからか号令が飛ぶのが聞こえた。
「ま、予想通りだな……さぁて、ド派手にいくかねぇっ!!」
 ラズェ・ストラング(今年のクリスマスは本気出す・e25336)が両手を擦り合わせ、狼煙代わりに、パキリと小気味よく指を弾いた。爆音と共に上がる煙幕、その煙の中からギュイン! と硬質なベースギター音をかき鳴らしながら現れたのはウルトレス・クレイドルキーパー(虚無の慟哭・e29591)、そして鉛色のバケツヘルムに地獄の炎の色を映してどっしりとした歩を進めるラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869)である。響くベースの音色が、ケルベロスたちの戦意を底から押し上げる。
「俺たちは!」
 言って、ラズェが天に向けて指を一本高々と掲げた。オオッ?! 一瞬どよめいて一斉にそちらを見るトランプ兵。仲間たちも思わずそちらを見るが。
「……ケル『ヘ』ロス参上?」
 見れば空には煙幕文字で番犬参上の文字、ただし、濁点のヌケを安海・藤子(道化と嗤う・e36211)が指摘し、
「ちょっと……力が抜ける感じじゃないかな」
 と、アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)もツッコむ。が、ラズェ本人は至って満足、という顔である。霧山・和希(碧眼の渡鴉・e34973)も無言でそちらを見たが、すぐに眼前の敵を睨みつけた。トランプ兵たちもすぐに我に返ったようで、鬨の声をあげてケルベロスたちに殺到する!
「さあ、楽しくバトりましょ。この拳が振るえる限り!」
 連がそう言って両の拳同士を胸の前で合わせれば、ラーヴァは辺り一面に響く声で敵兵を挑発する。
「『王子様』はどちらにいらっしゃいますか! 我々こそ彼を討つ者にございますよ」
「番犬が遊びに来てやったよ、王子様!」
 と、アンセルムも四方から集まってくるトランプ兵を煽りつつ、懐中の時計の針を思う。この大軍勢を相手にどれだけ粘れるか。不安がないと言えば嘘だが、こうして頼もしい仲間と、分けても親友である和希と共に立つ戦場で役目を存分に果たせるのは嬉しくもある。
「世間じゃカードバトルが流行ってるらしいが」
 演奏の途切れ目に、ふとウルトレスが至って真面目な顔で呟く。
「敵がカードってのもそのうちに入るのか?」
「……入らないんじゃない? それより、演奏続けて。この戦場を彩る華になるのは私達よ!」
 藤子がまたしても率直にそう言うと、ウルトレスは、そうか、と短く頷き再び重低音を響かせる。
「目を逸らさずに、ちゃんと見といてくれよ? 今日はサービスするぜっ!」
 いろこが片足でバランスを取りながら、大鎌を大きな弧を描くように振り回した。鋭くも、どこか優雅な舞踏にも似た構え。ボッ、と気炎をあげてラーヴァも前に出る。
「確かに、こんなにたくさんの注目を浴びるなんて気分が良いですね? さあ、まとめてお相手致しましょう!」
『構えーーっ!』
 敵の先陣が、槍の穂先をケルベロスたちに向ける。
「そう簡単にはいかんぞ……」
 低く呟いてウルトレスがドローンの軍団で応戦する。とにかく多くを引き付けて時間を稼ぐのが目的だ。とすれば、まずは防御を固めないことには持久戦は見込めない。かと言って防御のみに特化していては、敵の数は増える一方だ。守りを固めつつも降りかかる火の粉を払い、戦線を維持する難しい戦いに、果敢に挑むケルベロスたち。
 ドローンの妨害をかいくぐって剣の切っ先を向けてきたスペードと一番槍のクラブに向けて、和希がブラックバードとアナイアレイターを二丁構えで狙いをつけた。次の瞬間、派手な輝きの軌跡を残してビームが発射され、双方に命中する。その眩しさに一瞬アンセルムが双眸を細めた。
「おっと、もらったぜ!」
 吹き飛ばされたスペードに、横からラズェが重たく速い拳の一撃を叩きつける。
『怯むなーーーッ!』
 どこかから、号令が聞こえる。遠くからわらわらと集まってくる敵の姿に、ラーヴァの炎が妖しく揺れ、そして彼は名乗りをあげる。
「我が名は……ケルヘロス」
「おい、それもう忘れてくれって」
 ラズェが小さく訴える。微笑するかの如く、細い炎がもう一度揺れた。
「そしてもうひとつ……我が名は熱源。王子の城を焼く炎をお見せ致しましょうか!」
 言うやラズェから放たれた矢が、トランプ兵たちに無数に降り注ぐ。燃え盛る炎が辺りを明るく照らす。
「ああ、いい炎だ……私まで興奮してくるよ」
 いろこがどこか恍惚とした様子でその炎の色を眺め、ならば自分も、と、片手を胸元に沿え、盛大に竜の炎を吐き出した。スペード兵が悲鳴を上げて、そのまま全身を炎に包まれたまま倒れ伏した。
「いいね、派手な舞台になってきたんじゃないか! 和希も皆も、盛大に斬ってやってよ」
 アンセルムが更に華を添えよとスイッチを押し、カラフルな爆煙をあげる。ケルベロスたちが派手に動く度に、敵もまたウオオと声を上げて対抗してくるかの様である。引き付けは成功。ここからいつまで持ちこたえられるか、が勝敗の鍵になる。
「付与すべきは守りの力……!」
 藤子がチェインをなるべく広く布陣させ、全体のバランスを見た。一応向こうも隊列らしきものを組んでケルベロスに当たってきているが、数にものを言わせて一気に囲まれようものなら、あっという間に全滅してしまうだろう。
『エイ、オウ!』
 クラブの槍先が、ついにドローンをくぐり抜けてウルトレスに命中した。しかしその槍の柄の短い部分を掴んで投げ飛ばし、すかさず武器を構え直して敵から生命力を奪い返す。極力、回復の手を割かずに済めばそれだけ長く戦える。
『構えーっ、銃!』
「来たね!」
 ダイヤのモザイク弾が一斉に藤子に襲い掛かろうとしたところに連が身を割り込ませ、一度着地を決めてから反転して蹴りを繰り出した。
「カモン、紙切れさん。破り捨ててあげる!」
 元より、敵を全滅させることを目的とした戦いではない。それだけに、やることが多かった。攻撃を受けすぎず、体力を温存しつつ、減りそうにもない敵の手数を減らさなくてはならない。
 そんな無謀とも思える戦いに挑めるのも、仲間がいるからだ。自分たちがここで踏ん張れば、他の仲間がきっと『王子様』に一矢報いてくれると信じていればこそ。
 和希がこの混乱した戦場でも冷静さを保って淡々とレーザーを放つ。スペードに次いでクラブを倒すも、どうせまたすぐに次が来る、と装填を確認する。この激しい戦場においてもペースを崩さない親友の様子を、頼もしく見つめながらアンセルムが己の肩の少女人形を撫でた。
「解き放つは光盾。其は、万難排する護りの祝福……」
 放たれた魔力が輝きとなって戦場を照らす。この場に安全な場所はない。とは言え、最前線に身を置く和希たちがより攻撃を受け易いことには変わりない。少しでも守りを厚く、とアンセルムは視線を強くした。
『構えーッ!』
「……調子に乗るなよ」
 戦闘に入り、常よりも強い口調となった藤子が、遠距離から狙ってくるダイヤ兵を見据える。
「我が言の葉に従い、この場に顕現せよ。そは怒れる焔の化身。全てを喰らい、貪り、破滅へと誘え。その恨み、晴れるその時まで……」
 詠唱を終えると同時、藤子の周囲にボボボッと焔が現れた。その焔は一体となり怒れる狼王を形作る。咆哮と共に引き倒されるうすっぺらい体に、新たなトランプ兵が駆け寄っていく。
『前へーっ、前へーっ!』
 あっという間に、スペードとクラブ4体が殺到し、こちらを剣槍で威嚇する。その隙に発砲準備に入ったダイヤに向けて、いろこが手のひらを差し出した。
「存分にいただきましょう、明日からは苦難の日々」
 ふわり、とたとえるには不穏な動きで、白骨化した屍魚たちがいろこの手の中から泳ぎ出でる。群がられたダイヤの1体は体を貪り食われ、発砲する前に息絶えた。
『エイ、オウ!』
 一斉に突き出された剣が連の肩を裂き、槍が和希の脇腹を掠める。残ったダイヤ兵が放った弾丸は、駆け込んだウルトレスがその身で受け止めた。
「チッ……もっとだ、もっと防御が要る!」
「わかってる、任せておけ!」
 ラズェの声に応じた藤子がチェインを操り始める。
「っ、やってくれるね。退屈しなくていいよ!」
 怯むことなく連がトランプ兵の前衛たちを煽り、片腕を伸ばす。
「輝ける地の申し子よ、我が敵を捕らえ葬らん」
 裂地・改から放たれる水晶の粉末が煌き、その力を削ぐ。
「さて、まともに動けるかな?」
『進めーーッ!』
 後から後から、ケルベロスたちが全力で戦うほど、躍起になった敵は増援に次ぐ増援を繰り返す。だがそれは願ってもないことだった。ここでこちらに雪崩れ込んでくれれば、その分『王子様』の防御を削ぐことが出来るのだ。今回の作戦は少数突破、小さな積み重ねがものを言う。
 そのことを十二分に理解していればこそ、攻撃手である和希とラズェは決して手を緩めずに苛烈に攻めた。
 己の内なる狂気を感じ、引き出して御し、その力で敵を喰らえ、喰らえ、喰らえ……。
「喰い尽くせ……ッ!!」
 和希が放った肉色のそれがスペードに絡みつき、引き千切る。
「重粒子相転移・弐式、お前らなんざ消し炭も残さねぇよ!」
 ラズェの放った炎の柱の前に、壁役のクラブどもが殺到した。
「こンの、欲しがりどもめ!」
 増え続ける敵を目の前に笑い飛ばしてみせるそれは、余裕と言うより勇気と呼ぶべきものだった。数に押されても、気持ちは負けない。
「さぁさ、めいっぱい派手にいこうか!」
 藤子が再度、色とりどりの爆煙を上げた。決して折れない心を象徴するかのように。

●絶対不可侵領域
 永遠に続くかとすら思われた乱戦、だが実際はやっと10分が過ぎたといったところだった。
「もうきついですか?」
 ラーヴァが軽口気味にそう言えば、和希が表情を変えぬまま答える。
「……まさか。そちらはどうです」
「それでこそ!」
 全員、気力は充実していた。とは言え、体力的には限界が見えている。目の前の敵は援軍に援軍を重ね、既に20体。更に4体がそこに加わる。
「……貴石さん!」
 攻撃役のスペードの剣が、一斉に連へと殺到した。ウルトレスの声掛けで気づきはしたものの、目の前にいる敵に阻まれてかわすこともままならず、斬撃が連の右腕を深く抉った。
「……ゴメン、皆、あとはお願い」
 傷を押さえてガクリと膝をついた連の、口惜しげな言葉の終わるか終わらないかのうちに、連の体が消えた。味方を多く庇った結果、体力の限界で戦闘不能状態に陥ったと同時、恐らくワイルドスペースの外に放り出されたのだ。
 ここからは、カウントダウンだった。
「ラーヴァさん、固まろう。これ以上壁を減らすわけにはいきません!」
 ウルトレスの言葉にラーヴァも頷く。が、厚くなるほどに当然敵の矢面である。
「まだいける! まだ戦線は崩させないッ!」
 アンセルムが冷静に黄金の実を生成し、味方を見回す。敵の攻撃に、こちらの防御魔法を崩せる類のものはない。それならばと少しでも耐性を付与しておくべきだと考えたのだ。藤子もまた、声をあげて敵の気を引いた。
「まだまだこっちは元気だぞ! かかって来いッ」
 ケルベロスたちの戦意は仲間をひとり失ってなお高かった。とは言え、圧倒的な敵の数は一向に減らず増えていく。
 パララッ、と弾丸が降り注ぐ。ダイヤの新たな部隊からの一斉射撃がいろことアンセルムを狙ったのだ。元より、敵の数が増えた時点で弾丸は後衛にもかなりの数が飛んでおり、自身の回復をほぼしていなかったアンセルムが限界を迎える。
「……和希、もう一息頑張れる……よね?」
「アンセルムさん……っ」
 解き放つは光盾。其は、万難排する護りの祝福。アンセルムの身体は盾を放ったと同時、ワイルドスペースから消え去った。外に弾き出されただけだとわかってはいても、やはり案じる気持ちが抑えられない。
「……!」
「皆は攻撃を続けろ! 回復は……」
 引き受ける、と言おうとした藤子に、槍の穂先が集中する。前衛だけでも2桁を超える数に殺到されてしまえば、庇いきれるものではない。藤子が消え、後衛から敵の生命力を削り取って自身の回復に努めていたいろこも、もはや追いつかぬと判断し、威力重視の技に切り替える。
「なんか、久々に興奮したよ……らしくないけどな」
 ニヤリと笑みすら浮かべ、いろこはエクリプスに炎を纏わせる。そのまま大きく振り回して敵陣深くへ突入、そのままスペードに刃を突きたてると脚を高く振り上げ、蹴りで深く叩き込む!
「一枚、道連れだ」
 次の瞬間ダイヤの集中砲火を浴び、妖しい笑みの余韻を残していろこも空間から弾かれた。
 遂に攻撃と守備がマンツーマンの状態に追い込まれる。互いに背を預けあい肩で息をしつつも戦いを放棄する者はいない。
「おい、ラーヴァさんだったな……無事生き残れたら一杯奢らせてくれ。ついでにこの戦いが終わったら、俺は地元に帰って花屋でも……」
「フラグ立ててる場合ですかラズェさん。まだまだお元気そうなんで、とっとと行って頂きましょうね」
「厳しいじゃねーか……」
「首魁を討つ誉れはございませんが、こういう戦いも悪くない……ご照覧あれ! わが炎を!」
「置いてくんじゃねぇよ!」
 ラーヴァの炎に重ねるようにラズェも火柱を上げ、トランプ兵を巻き込むが、技を放った隙に大群が彼らの姿を覆い隠していった。
「15分か……」
 万が一にも味方が生命の危機に晒されることがあれば、最後の手段を使う覚悟がウルトレスにはあった。しかしこの場所であればよほどのことがない限り、外に放り出されるだけで済む。
 この時間が、果たして王子攻略に足るものであったのか。それを考える余裕は今はない。咄嗟に和希を狙う剣戟を受け止めたウルトレスの腹に、槍が深々と突き立てられる。
「く、ッ、すまん……!」
「任せて下さい。皆の頑張りを無駄にはしない」
 最後のひとりになった和希に、40体を越える敵が押し寄せる。
「デウスエクスどもが……!」
 狂気の光を瞳に宿し二丁を構えた和希が、この戦場に自分が残っている意味を噛み締めながら引き金を引いた。

作者:林雪 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年11月22日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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