スイートポテトスクランブル

作者:飛翔優

●さつまいもはかどわかされて
 お爺さんにとって、それは大切に育てた娘のようなもの。
 一つ一つを丁寧に慈しむことはとてもではないができないけれど、精魂込めて手入れしてきたことに違いはない。
 それは山の麓の小さな町、様々な畑が集まる区域。お爺さんはいち早く目覚め、さつまいも畑で収穫を行っていた。
 大きな箱の中に積まれている、土をかぶったままのさつまいもたち。彼女たちはこれから手入れされ、引き取り手を探すために市場へと運ばれる手はずになっている。
 良い引き取り手に出会えるよう、お爺さんは思いを込めてさつまいもを手入れする。
 美味しいさつまいもになるように、願いを込めて作業を行って……。
「……?」
 背後に気配を感じ、お爺さんは作業を中断して振り向いた。
「なっ……お、お前さんは……?」
 視線の先、うごめいていたのは数多の蔓。
 地面を半ば潜行するように動いている、さつまいもと思しき巨大な植物で……。
「っ、や、やめ……」
 巨大な植物はお爺さんを飲み込んだ。
 地上で蠢く地下茎の中へと取り込んで――。

「……」
 その光景を、畑の中で見守る影が1つ。
 植物をモチーフにしたような豪奢な椅子に腰掛けている少女が……鬼薊の華さまが、満足げな表情を浮かべていた。
「自然を破壊してきた欲深き人間どもよ、自らも自然の一部となりこれまでの行いを悔い改めるがいい」
 華さまが街の方角へと手を伸ばせば、巨大な植物は……攻性植物は全ての地下茎を地面から引き抜き、住宅地の方角へ向かって歩き出す。
 これより住宅地で暴れるのだろう攻性植物の背中を満足気に眺めた華さまは、何処かへと立ち去って……。

●攻性植物討伐作戦
「そうですか、それじゃあ」
「はい、ですので……と」
 ロージー・フラッグ(ラディアントハート・e25051)と会話していたセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は、足を運んできたケルベロスたちと挨拶を交わしていく。
 メンバーが揃ったことを確認し、説明を開始した。
「茨城県の山の麓にある街に、植物を攻性植物に作り変える謎の胞子をばらまく、人型の攻性植物が出現したみたいなんです」
 その胞子を受けた未収穫のさつまいもが攻性植物に変化し、そのさつまいもが植えられていた畑を管理しているお爺さんを襲って宿主にしてしまったようだ。
「ですので、急ぎ現場へと向かい、お爺さんを宿主にした攻性植物を倒してきてほしいんです」
 続いて、セリカは地図を取り出した。
「具体的な発生場所はこの、畑が集まっている区域の一角。攻性植物は区域を踏み荒らすように通り抜け、住宅地へと向かっています。幸か不幸か、その歩みは遅いので……」
 畑と住宅地を隔てる大きな道路に印をつけた。
「この場所周辺で、攻性植物と相対する事ができるかと思います」
 また、幸いなことに畑作業を行おうとしていた農家の方が攻性植物を発見し、危険を報せてまわってくれたおかげで、避難は完了している。最低限、何も知らない誰かが近づかないような配慮を行っておけば、後は戦いに集中することができるだろう。
「そうして相対する攻性植物は一体。姿は、沢山の地下茎が繋がったまま地面に引きずり出された上で巨大化したさつまいも……といった形ですね」
 戦闘においては、ただただ力任せに攻撃を叩きつけてくる。
 グラビティは3種。戦場ごと複数人の敵を侵食する埋葬形態、地下茎の一部をツルクサの茂みが如き形状に変えて相手を捉える蔓触手形態。そして、可食部である地下茎をミサイルのように飛ばし、爆発させて複数人の加護を砕く根菜形態。
「また、取り込まれたお爺さんは攻性植物と一体化しており、普通に攻性植物を倒すと一緒に死んでしまいます」
 しかし、攻性植物にヒールをかけながらたたかうことで、戦闘終了後にお爺さんを救い出せる可能性が生まれてくる。
「お爺さんを救う道を選んだ場合、厳しい戦いにはなると思います。ですが、叶うのなら……どうか、お爺さんの救出を」
 以上で説明は終了と、セリカは資料をまとめていく。
「それではどうか、よろしくお願いします。最良の結末を迎えることができるように、さつまいもが血で汚れてしまわぬ内に……」


参加者
エイダ・トンプソン(夢見る胡蝶・e00330)
露切・沙羅(赤錆の従者・e00921)
シリル・オランド(パッサージュ・e17815)
柊・沙夜(三日月に添う一粒星・e20980)
言樺・奈央(行屍走肉・e36516)
三雲・雪音(ヴァルキュリアのウィッチドクター・e39035)
シャーロット・ファイアチャイルド(炎と踊る少女・e39714)
ミカエル・ヘルパー(白き翼のヘルパー・e40402)

■リプレイ

●サツマイモを待ち受けて
「わー! おっきなサツマイモだー!! これ、倒しちゃったら消えちゃうのかな?」
 道路に立つ三雲・雪音(ヴァルキュリアのウィッチドクター・e39035)のキラキラおめめに映るもの。
 可食部とされる根を異常なほどに肥大化させ、それを足代わりに畑の上を暴走していたサツマイモをもとにしたらしき攻性植物。
「おっきな焼き芋作ってみたいのにー! でもでも、おじいさんはちゃんと救ってみせるんだからね!」
 同様に大きさを増す蔓におじいさんのシルエットが見えたから、雪音は気合を入れていく。
 支える役目を彼女に託し、エイダ・トンプソン(夢見る胡蝶・e00330)は距離を詰めていた。
「すみません。今から植物ごと攻撃しますが、これしか助かる方法が無いんです。仲間がヒールをかけ続けますので頑張って耐えて下さい」
 シルエットに語りかけながら、無数の紅い蝶を生み出し解き放った。
 攻性植物の根に纏わりつき、まるで蜜を吸うかのようにその体力を奪い始めていく。
 さほど気にした様子なく、攻性植物は根の1つを蔓草の如き茂みに変えた。
 地面の上を滑るようにして向かってきたその茂みから、エイダはバックステップを刻み逃れていく。
 すれ違う形で、言樺・奈央(行屍走肉・e36516)が懐へと踏み込んだ。
「さて。頑張ってお爺さんの救出を目指すかねぇ!」
 蠢く根を踏み越えて、蔓に向けて蹴りを放つ。
 攻性植物が大きく揺れる中、ビハインドの令嬢さんが僅かな呪縛を施していた。
 若干動きが鈍った攻性植物の頂点に、降り注いだのはまばゆき雷。
「この子も、泣いてる……」
 担い手たるミカエル・ヘルパー(白き翼のヘルパー・e40402)は先端に花がサイているライトニングロッドを撫でながら、悲しげに瞳を伏せていく。
 頂点を焦がしながらもケルベロスたちの間を駆け回り始めた様を捉えながら、静かな思いを巡らせていく。
 今回の一件は、人型の攻性植物がもたらした人為的なもの。
 気持ちはわかる。
 確かに人間は地球に酷いことをした。環境を破壊してまで得た医で生に執着する老人を許せないのは。
 けれど、その存在が死んだら地球の緑はどうなるのだろう。慕う草花を置いて消えるのだろうか?
「……」
 叶うならより良い形での決着を。
 その為にも目の前に起きている事件を、一つ一つ解決していく。それが、真実に繋がると信じて……。
「……ご先祖様に槍をもたせたこと、後悔なさい」
 ゲシュタルトグレイブに持ち直し、その刃に雷を走らせる。
 稲妻とも思しき速度でミカエルが駆けた時、エイダも待た根を踏みしめ弓に矢をつがえていた。
「しっかり当てていきましょう。少しでも早く、お爺さんを救い出すために」
 雷を帯びた穂先が根の1つを切り落とした時、別の根のつなぎ目めがけて射出した。
 根は蠢きはねのけようとしたけれど、矢は巧みに鶴の間をくぐり抜けつなぎ目へと突き刺さっていく。
 攻性植物の動きに惑わされることなく、ケルベロスたちは攻撃を重ねることができていた。
 後は反撃に負けないよう立ち回り、望まぬ結末を迎えぬよう治療を欠かさず……。

●甘い根っこを踏み越えて
「やれるだけのことはやらないと」
 露切・沙羅(赤錆の従者・e00921)は放つ、冷たく鋭い弾丸を。
 暴れまわる攻性植物を、少しでも押さえつけるため。
 呪縛を嫌うか、攻性植物は根を振り乱し激しく道路を叩いている。そのたびにコンクリートの破片が飛び散るけれど、青空に響く音色は少しずつ小さくなっているように思われた。
 数もまた減っている。
 攻撃を重ねるに連れて、連なる根は切り離されているのだから。
 現在の総数、おおよそ5つ。
「っと、待って待って! おじいさんが危ないよ!」
 討伐が近いと判断し、沙羅は仲間たちに制止をかけた。
 従い反撃に備えていく仲間たちに混じり、シャーロット・ファイアチャイルド(炎と踊る少女・e39714)と柊・沙夜(三日月に添う一粒星・e20980)が攻性植物のもとへと歩み寄った。
「さ、治療しますわよ。おじいちゃんのためにも」
「……うん」
 シャーロットは古代魔術の術式を構築し、沙夜はお伽話を語り始めていく。
 聖なる光の中で紡がれていく七人の小人たちは行進曲を歌い、攻性植物を盛り立てた。
 再生していく根がある。
 切断面の癒合に留まる箇所もあった。
 身体の変化など関係ないとばかりに、攻性植物は根の1つを地面に埋め込んでいく。
「みんな、下がって」
 シリル・オランド(パッサージュ・e17815)が警告を飛ばしつつ、沙夜のウイングキャット・カゲと共に最前線に留まった。
 一拍遅れて、地面が歪む。
 脛の辺りまで飲み込まれ、シリルは……。
「痛くない、痛くない。――ほうら、痛くない」
 飄々とした笑みを浮かべたまま、両足を地面から引き抜いていく。
「――ね?」
 気の抜けた笑顔に変えると共に地面の状態を確かめ、元に戻っていると仲間に伝えた。
 そんな彼の残ったダメージを癒すため、雪音が薬瓶を取り出していく。
「カゲくんも一緒に、ゆっくりと休むんだよー!」
 透明な青の羽をはためかせながら放り投げ、薬液の雨を巻き起こす。
 カゲが、そしてシリルが万全の状態を取り戻していくさまを確認した上で、攻性植物へと向き直った。
「……うん、大丈夫。また攻撃して大丈夫だよー!」
 倒しきってしまう心配はないと断定し、仲間たちを送り出す。
 再び切り落とされる、砕かれる……と言った形で失われていく根を見つめながら、ぎゅっと手を握りしめた。
 互いのダメージコントロールはできている。
 被害も少なく、全力をつくすことができている。
 この調子を保つことができたなら、きっと……!

「あれは、地面に着弾したら困りそうだね」
 何でもないかのように呟きながら、シリルは根を足場に跳躍する。
 目指す先には別の根。
 攻性植物自ら切り離し、ミサイルのように最前線へと迫っていたものだ。
「確か爆発するって言ってたよね。なら」
 握りこぶし大に固めたオーラを向かい来る根にぶつけていく。
 小さな音が響くと共に、その根は爆発した!
 まばゆい光と爆煙が戦場を満たし始める中、シリルは静かな息を吐き出した。
「大丈夫。ボクしか巻き込まれていないみたいだから」
「そうみたいですわね」
 爆煙の中から飛び出してきたシリルに対して心を急かすような感情を覚えながら、それを表現することはできずに杖を掲げていく。
 掲げられた杖は白いフクロウへと変貌し、腫れていく爆煙の中へと飛び込んでいった。
 そのくちばしが蔓をついばんでいる気配を感じながら、視界の端でシリルの様子を確認した。
 雪音が歩み寄り、治療を施している。
 ダメージを拭いきれる程ではないけれど、次に耐える程度には回復したようだ。
「……」
 自然と吐息がこぼれていた。
 それが何なのか、うまく表現はできないけれど。
「……次は、治療いたしますわ。あの攻性植物を」
 ただただ笑顔を浮かべ、術式を構築を始めていく。
 さなかには、ミカエルが根の1つを槍で貫き砕いていた。
「きっと、もうすぐ終わります。ですので、今しばらくのご辛抱を……」
 お爺さんに、そして攻性植物に、優しく語りかけながら……。

 前衛陣を護るために根の着弾点へと歩み寄っていたカゲが、爆風に煽られ吹っ飛んできた。
 沙夜は放物線を描いて飛んでくるカゲを抱きとめて、顔を覗き込んでいく。
 腕の中、体中を焦がしながらも面倒くさそうに体を預け始めていくカゲがいる。
「……まだ、大丈夫……?」
 しゃがみ込み地面におろしたなら、カゲはノロノロとした動きで……けれど動きの乱れた様子なく、再び最前線へと戻っていった。
 だから、沙夜は背中を見送り、攻性植物へと向き直る。
 古代の言葉を小さく紡ぎ、石化の呪いを攻性植物へと浴びせかけた。
 根と蔓のつなぎ目が石と化し、砕けていく。
 同時に別の根が砕け散り……残りは2つ。
 仲間たちが手を止めていく中、沙夜がシャーロットと共に治療を施したけれど、根の数は戻らない。
 傷跡も塞がらない。
「……大丈夫、きっと、だから」
「僕が音頭を取ろうさあ行こう! お爺さんを救い出すために!」
 颯爽と奈央が手を広げ、帽子を目深に被り直す。
「誰も居無い森で鴉が鳴いた時、其の鳴き声は果たして本当に鴉なのだろうか。――あれ? そして、誰が居無く成った?」
 紡がれた言葉に誘われ、黒鴉の羽の形をしたグラビティが攻性植物に襲いかかった。
 残されている根を縦横無尽に斬り裂く中、攻性植物が砕いてきた地面のかけらが宙を舞い始めた。
 かけらは令嬢さんが導くまま、攻性植物を掠め地面へと埋め込まれていく。
 直後、根の1つが破裂した。
 乾いた音色を響くと共に。
「後もうちょっと、ラストスパート!」
 沙羅がリボルバー銃から立ち上る硝煙を吹き消す中、エイダは生み出す赤い蝶を。
「さぁ踊りましょう、蝶のように」
 攻性植物へと差し向けて、体力という名の蜜を吸わせていく。
 逃れることはできない。
 雪音の御業が、攻性植物をがんじがらめに縛り付けたから。
「これで……」
「……トドメ、お願い。――!」
 沙夜が精一杯の咆哮を重ねれば、もう、攻性植物は動けない。
 最後に残された根へと、奈央が静かに歩み寄る。
「さて、それでは終わらせてしまおうか」
 手の平を広げ、漆黒よりも深い鴉の羽を風に乗せていく。
 風に乗り攻性植物に纏わりつく羽は蔓を切り裂き、根を落とし……あらゆるものを刈り取った。
 茎の隙間からはお爺さんが飛び出してきた。
 落ち着いた足取りで抱きとめた奈央が聞いたのは、安らかな寝息で……。

●来年、また
 砕けた道路、荒らされた畑。
 攻性植物のもたらした被害を可能な限りもとに戻すため、ケルベロスたちは修復作業を開始する。
 沙羅は作業の中、奈央に誘いの言葉を投げかけていた。
「空巣の皆にお土産買って行かないかい?」
「あっは! それはいいね。全部終わったら、探しに行こうか」
 明るくこれからの事が語られていく中、シャーロットはお爺さんの介抱を行っていた。
「おじいさん、ごめんね。大切なお芋壊しちゃった」
 目覚めぬ老人に語る謝罪の言葉。それを紡ぐシャーロットは、果たしてどんな表情を浮かべていたのだろう。
 背中に表情を隠したまま、シャーロットはお爺さんが身動ぎするのを見た。
 彼女は顔を離し、仲間たちにお爺さんの目覚めを知らせていく。
 ケルベロスたちが集まる中、お爺さんは目を覚ました。しかし、体力を消耗したのか起き上がる事はできず……病院まで運んでいく運びになる。
 ちょうど、修復も終わっていた。
 皆で病院を目指す中、エイダは奈央に背負われているお爺さんに語りかけていた。
「スイートポテト……サツマイモ、美味しいですよね。ついつい私も食べすぎて……」
「……そうじゃのう。今年も、美味しいものが……」
「そうだね」
 お爺さんが落ち込まないよう、シリルが言葉を割り込ませた。
「すっごく美味しそうだったよ。見た目も、ちょっとだけ漂ってきた香りも……きっと、お砂糖が入ってるみたいに甘いんだろうね」
「あの、その……」
 沙夜も精一杯の声を上げ、お爺さんを見上げていく。
「もし、よければ……収穫を、終えていたけれど、傷になってしまった、お芋さんは、撃って、いただけないでしょうか」
「……」
「愛情込めたお嬢さん、なのでしょう? きっと、とっても、おいしいはず……」
 まっすぐに見つめつ先、お爺さんは首を横に振る。
「それはできない」
 傷ついたものを人さまに売るわけにはいかない。何があるかわからないのだから。もっとも……。
「だが、ありがとう。よければ、もらっていって欲しい。そして、来年また来て欲しい。来年もまた、美味しいサツマイモを育てるからのう」
 その瞳に迷いはなく、声音は力に満ちていた。
 決意がケルベロスたちの足取りを軽くしていくのを感じながら、ミカエルは1人空に祈りを捧げていく。
 暗躍している人型の攻性植物が、かつての自分のようにはならないことを……。

作者:飛翔優 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年11月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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