鎖鎌、鎌で裂くか? 分銅で潰すか?

作者:刑部

 風を唸らせて飛来した分銅が、断末魔を上げる間もなく男の顔をザクロの様に砕く。
「逃げろっ! 誰か救援要請を……」
 飛び散る鮮血と肉片を浴び、そう声を上げた男が2人目の犠牲者だった。
 外から聞こえる大声に、様子を見ようと外に出た女性が3人目の被害者。
 女性の上げた悲鳴に、ただならぬ事が起こっている事を察した他の村人達は、息を潜めて警察に連絡を取る。
「もしもし警察ですか? 今家の外でキャアアァァアァ!」
「もしもし!? どうされました!」
 状況を説明しようとしていた声は、硝子の割れる音と悲鳴が最後。何かが爆ぜる様と共に聞こえなくなった。
 その日、村は鎖鎌を操るエインヘリアルに襲撃され、無事翌朝を迎える事が出来たのは、僅かな人数だけだったのである。

「エインヘリアルが村を襲撃して、村の人らを虐殺する事件が予知されたわ」
 口を開いたのは、杠・千尋(浪速のヘリオライダー・en0044) 。
「この暴れとるエインヘリアルは、過去にアスガルドで重罪を犯した凶悪犯罪者みたいで、放置したら多くの人らの命が奪われる上、人々に恐怖と憎悪をもたらしよるから、地球で活動するエインヘリアルらの定命化を遅らせる事になりよる。
 ヘリオンかっとばすから。みんなで協力して、このエインヘリアルを撃破してや」
 と笑う千尋の口元に八重歯が光る。

「現場はここ、高知県高岡郡は檮原町にある集落。
 現れるエインヘリアルは1体、3m近い体躯を誇り、鎖鎌で武装しとる。
 鎖鎌は判るかな? そこに居る汐音さんのもっとる鎌より小ぶりの鎌の石突側に鎖の付いた分銅が付いとる武器や」
 千尋が、言われて月海・汐音(紅心サクシード・e01276)が強く握って抱き寄せた愛鎌『Blood Adamas:Origin』を指し、エンヘリアルの持つ武器を説明する。
「破壊し殺す事しか興味のない、殺戮の衝動みたいなエインヘリアルや、視界に入る生きてるもんを全部殺そうと、その鎖鎌を振るいよる。
 エインヘリアルとしても捨て駒として送り込まれとる様やから、不利になっても逃げはせーへんやろ……むしろ死ぬ間際まで、こっちを殺そうとしてくる筈や。十分気ぃつけなあかんで」
 汐音らケルベロス達の瞳を見て、注意を促す千尋。

「散発的に兵力を繰り出して意味がない事にそろそろ気付いても良さそうな頃なのにね」「せやな。せやけどあちらさんにしたら野放しに出来ない犯罪者や。デメリットもないし、戦術的には有効な策やな。まぁ、やられた方はたまったもんちゃうから、このエインヘリアル絶対止めたってや!」
 肩をすくめる汐音を見て少し笑ったと千尋は、汐音らケルベロス達にそう言って送り出しのだった。


参加者
蛇荷・カイリ(暗夜切り裂く雷光となりて・e00608)
楡金・澄華(氷刃・e01056)
月海・汐音(紅心サクシード・e01276)
一条・雄太(一条ノックダウン・e02180)
百丸・千助(刃己合研・e05330)
九十九折・かだん(自然律・e18614)
藤林・シェーラ(曖昧模糊として羊と知れず・e20440)
月城・黎(黎明の空・e24029)

■リプレイ


 村に近づいたエインヘリアルは。いつ獲物が視界に入ってもたちどころに殴殺できる様に、分銅のついた鎖を振り回し始め、周囲にその鎖が風を切る音が響き始める。
「ぬっ……」
 その眼前に何かが落ちて来て衝突音と共に砂煙が上がると、その砂煙を裂いた竜砲弾が迫りエインヘリアルは鎌を裂いてその砲弾をいなすも、続いて逸れたもののサイコフォースの爆発が近くの地面を穿ち、エインヘリアルの足が止まる。
「お前が正々堂々とした武人なら名乗りの一つでも上げるとこだったが、こっちの方がお似合いだったろう?」
 ハンマーの砲撃形態を解きつつ言い放った百丸・千助(刃己合研・e05330)と、頷く様に開閉を繰り返すミミックの『ガジガジ』の近くに、次々と落下してくる仲間達。
「鎖鎌ねー……鎌も分銅も痛そうー。じゃあボクも鎖で守りきってみせよう。ヨミ君も気合い入れて行こっかー」
 白衣の裾をはためかせて着地した月城・黎(黎明の空・e24029)は、そう言って敵との間合いを計ると、死の属性を持つボクスドラゴン『ヨミ』が同意を示す様に哭いて舞い上がり、
「人は……居ないね。じゃあ始めるとしようか」
 その隣に降り立り、ぐるりと辺りを見回した藤林・シェーラ(曖昧模糊として羊と知れず・e20440)が、エインヘリアルに向き直ると歯を見せて笑い、拳同士を打ちつける。
「念には念を入れておくわね」
「えぇ、備えていれば不測の事態にはならないのだからね」
 続いて降下してきた蛇荷・カイリ(暗夜切り裂く雷光となりて・e00608)と、月海・汐音(紅心サクシード・e01276)が、着地するや否や周囲に殺気を放って強き意志なければ踏み込めぬ『界』を形成する。
「邪魔ヲ……するか……」
 その様子を見てぐるんと首を回したエインヘリアルが、その顔を突き出す様にしてしゃがれ声を出す。
「あぁ、折角お目覚めの所だが邪魔をさせてもらおう。永遠におやすみなさいだ」
 蒼氷のオーラを纏う楡金・澄華(氷刃・e01056)が、口元に布を上げて腰を落とし、
「鎖鎌と言えば宍戸梅軒だよな? 宮本武蔵ってわけじゃないが、鎖鎌退治といこうじゃないか」
 降下しながらサイコフォースを放った一条・雄太(一条ノックダウン・e02180)も、腕に嵌めた『ザ・テイカー』の掌を向けて間合いを計る。
「邪魔スルなら殺ス!」
「邪魔しなくても殺すつもりだよな? いいぞ、私達を殺していい」
 殺意を漲らせるエインヘリアルに応じた九十九折・かだん(自然律・e18614)は、心の中で、
(「お前如きに、出来るものならな」)
 とつけ加えて構えもとらずに一歩踏み出す。
「望み通リ、殺してくれヨウ」
「散れっ!」
 エインヘリアルの振り回す鎖の分銅が唸りながら迫り、カイリの声で散開したケルベロス達は、そのまま地面を蹴ってエインヘリアルへ踊り掛る。


 飛来する分銅から味方を庇ったかだんが直撃を受け、思わず片膝をつく中、
「さぁ、鎖よ――踊れ。我らに堅牢たる盾を齎せ!」
「この技、避けきれるかな……?」
 黎の鎖が前衛陣を守る様に展開し、印を結んだ澄華がその腕を広げると、エインヘリアルの周りに現れた幾つもの魔法陣からい出た閃光が、疾風の如く次々とエインヘリアルを穿つ。
 ヨミがダメージを受けたかだんに、死の属性をインストールする間にも、シェーラの起した爆煙が皆を後押しし、
「見せてやるよ。喧嘩での鎖の使い方をよ!」
 踏み込んだ雄太が、ケルベロスチェインを撒き付けた拳を叩き付けると、その雄太目掛けて鎌を振り下ろそうとしエインヘリアルに、千助の放った竜砲弾と汐音の業炎砲が爆ぜ、それと呼吸を合わせたカイリが木刀を手に斬り掛る。
「虫ケラ供メ!」
 バックステップを踏みつつ分銅を手繰り寄せたエインヘリアルは、今度はそちらを持ったまま鎌の方を投擲する。
「うわっ……と、申しわけないんだよ。ヨミ君、回復を! 吹き抜ける風は鋭く、早く!我らが剣と化せ!」
 前衛陣と鍔迫り合いを演じる中、予想していなかった自身に向かって飛んできた鎌に虚を突かれた黎であったが、シェーラが庇って射線に入り裂かれながらも鎌を押し返し、黎はヨミに回復を指示すると、自身も須佐之男の力を借りて前衛陣の回復とエンチャントの付与を図る。
「鎖を絡め取れればいいんだが、流石にあのサイズは無理だよな?」
 3mの体躯に合わせた鎖はそれだけで鈍器を思わせる太さをしており、思わず肩を竦めた雄太が誰とはなしに問うと、
「まったくだ。あれは本当に鎖鎌なのか?」
 後ろからサイコフォースをぶつけたものの、そのまま振り回される分銅に、澄華が嘆息気味に応じる。

「痛ぅ――やってくれるぜ」
 大角の付け根辺りをさすりながら上体を起こしたかだん。
 仲間を庇いエインヘリアルの攻撃をいなしたものの、鎖が自慢の大角の先を引っ掻け薙ぎ倒されたのだ。
「かだん君、大丈夫?」
 庇う様にエインヘリアルの間に割って入ったシェーラが、エインヘリアルを見据えたまま上げた声に、
「引っ掛けただけだ」
 回復を施そうとする黎にも掌を向けて制止して答えたかだんは、ギリッと奥歯を噛むと再びノーガードまま、雄太とカイリに鎌を振るうエインヘリアルへと距離を詰め、
「角のオマエ、鬱陶しいゾ!」
 ただただ向かって来るその姿に苛立つエインヘリアルは、殺意の衝動に駆られドス黒い殺気をその身に纏い、斬り掛る汐音を無視してかだんに鎖分銅を振るい、割って入る千助とガジガジを吹き飛ばすも、続いて放たれた澄華の気咬弾に一瞬気を取られた隙を突き、ガントレットに内蔵されたジェットエンジンも使って一気に踏み込んだかだん。
「口だけで殺させるのか? この角が目障りながらその腕を使ってへし折ってみやがれ!」
 跳躍すると鳩尾辺りにその拳を叩き込み、エインヘリアルのドス黒い殺気が霧散し、
「……挑発の必要がないってのは楽だけど、鎌も分銅もぶん投げて来るのは厄介だよねぇ」
 跳び退くかだんと入れ代る形で踏み込んだシェーラが、空の魔力を帯びた手刀でエインヘリアルの脛を打ち、
「散発的に出てきたって各個撃破されるだけって学習しないとダメだよ」
 と小馬鹿にしながら斬り抜けた。

「下がれカイリ!」
 白き迅雷となってエインヘリアルに一撃を見舞ったカイリの首に、千助の声が届くにより早く絡み付く鉄鎖。
「捕まエた……」
 エインヘリアルが僅かに口角を上げると、食らい付くガジガジをものともせず、そのまま鎖を振り回しカイリの体を地面に何度も叩き付ける。
「ここは……魔力伝播、術式起動……顕現せよ、白の氷晶!」
 その様に少しだけ眉を顰めた汐音が地面に手を着き詠唱を紡ぐと、エインヘリアルの足元から水晶柱が飛び出し、カイリを絡めてピンと張っていた鎖が緩み、バランスを崩したエインヘリアルに放たれた澄華の斬霊波に続く形で、雄太とかだんが踊り掛る。
「大丈夫か?」
 その隙にカイリの首に絡まった鎖を千助が解き、喉を押えて苦しむカイリに黎とヨミが回復を施す。
「あー、まったく乙女の柔肌になんてことしてくれるのよ……アンタ何か言いたそうね」
 首をさするカイリは『乙女』の部分で表情が動いた千助をジロりと睨むが、
「ブジデヨカタデス……あう」
 千助は棒読みで台詞を読む様に口を動かし、腹にカイリのパンチを受けた。
「遊んでないで攻撃してよ!」
 シェーラに振り下ろした鎌に力を込めるエインヘリアル目掛け、熾炎業炎砲を放ちながら汐音が唇を尖らせると、2人はバツが悪そうに顔を見合わせ、
「じゃああんたは右、私は左ね」
「了解だぜ」
 汐音の左右を抜ける形で、木刀の切先を突き付ける様に構えたカイリが左、くせっ毛を揺らした千助が、吹っ飛ばされたガジガジの下をくぐる形で右から斬り掛る。


 エインヘリアルの凄まじい一撃で、たびたび誰かがピンチになりはするものの、シェーラにかだん、千助とガジガジらディフェンダー陣が『盾』となって常にカバーに入り、黎とヨミが的確に回復を施す事で戦線を支え続け、雄太とカイリ、澄華と汐音が『矛』となりエインヘリアルにダメージを蓄積させていた。
「ゴガアァァアァァ!」
 分銅の付いた鎖を振り回し、ケルベロス達を押し返したエインヘリアルが天を仰いで咆え、その身がドス黒いオーラに包まれる。
「こけおどしは効きませんよ。此方側も満身創痍ではありますが、キミの体も相当に蝕まれているはずだね。ここはあと一押し、荒れ狂う嵐神の御名に於いて命ずる――吹き抜ける風は鋭く、早く! 我らが剣と化せ!」
 白衣の裾を翻した黎の腕の動きに合わせて揺蕩っていた空気が流れ始め、仲間達の傷を撫でて風刃となって得物に宿る。
「ゴロスゥ!」
 向かい風となった戦場をものともせず、鎖を振り回しながら迫るエインヘリアル。
「来やがれ!」
 その前に果敢に立ちはだかった千助の姿を認め、遠心力を加えて薙がれる鎖。
 千助はハンマーの石突側を地面に立ててそれを受け、巻き付く様に体に叩き付けられる鎖に歯を食い縛って耐え、すかさずヨミが属性インストールで回復を図る。
「……どうだ。耐えて見せたぞ!」
 エインヘリアルを睨み開いた千助の口の端から血が滴るのも構わず、ハンマーを突き立てたまま駆けて繰り出した拳がエインヘリアエルのオーラを掻き消し、ガジガジが偽りの黄金をばら撒いてエインヘリアルの気を逸らすと、更にその隙を逃さず、ハンマーに絡まった鎖を足場に跳んだのはかだん。
「ヘラジカの方がお前よりでかい。潰えて、終え!」
 ギロリと緑眼で睨み付けると、氷を纏った拳を叩付け、更に体を回転させて逆手の拳も叩き込む。この一撃でエインヘリアルは片膝を着くも、ケルベロス達が仕寄るより早く鎖を引き戻し、再び攻撃態勢を整える。
「踏み込むのは危険だケド、ここは押しの一手だよね。行くよっ!」
 エインヘリアルが引いた鎖を振り回すより早く、シェーラの声で懐へ飛びこむ前衛陣。「構わず行って!」
 薙がれる鎖を受けたシェーラは、仲間達にそう告げるも堪え切れず体が浮きそうになるが、
「どんだけ巨体でも鍛えようのない箇所はある! ここが、急所だ!」
 その間に飛びこんだ雄太の貫手がエインヘリアルの喉に付き入れられると、持った鎖ごと後ろへ飛び退こうとするエインヘリアル。
「逃がす訳ないだろう」
「逃がさないわよ」
 澄華と汐音が同時にそう口にし、澄華が印を放つとエインヘリアルの後方に現れた魔法陣から退路を断つ様に閃光が奔り、
「超……鋼拳!」
 汐音のオウガメタルが鋼の鬼となってその拳を叩き付けると、エインヘリアルの星霊甲冑に亀裂が奔りぼろぼろと崩れ落ちる。
「いざ、我が身模するは神の雷ッ! 白光にッ、飲み込まれろぉッ!」
 そのがら空きになったところへカイリ。
 白き閃光となってエインヘリアルを抜けたカイリの形が、陽炎に揺られつつ元の形をとる後。
「バカ……な……こノおレが……」
「言っても無駄だっただろうけれど……やめておいた方が良かったわね?」
 慟哭するエインヘリアルに汐音がそう告げると、目だけを汐音の方に向けたエインヘリアルは、何も言わずにそのまま前のめりに倒れたのだった。

 こうして鎖鎌を使うエインヘリアルの脅威から村を救った一行は、負傷者の治療と周辺のヒールを済ませた後、村に状況報告を行い帰路についたのだった。

作者:刑部 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年11月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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