『王子様』決戦~先駆

作者:藤宮忍

●『王子様』の城
 今も続く創世濁流阻止戦。その調査を行っていたケルベロスは、新たな情報を得る。
 凌霄・イサク(花篝のヘリオライダー・en0186)は単刀直入に話を切り出した。
「お疲れ様です、ケルベロス様。『王子様』の居城について新たな事実が判明しました」
 1つ目は、ワイルドスペースの奥地に城の存在を察知した、ソル・ログナー(鋼の執行者・e14612)の情報。
 2つ目は、久遠・征夫(意地と鉄火の喧嘩囃子・e07214)が、『王子様』の本拠地が城であると推測して調査した情報。
 3つ目は、フィア・ミラリード(自由奔放な小悪魔少女・e40183)が、『王子様』はワイルドスペース内で活動していると想定して調査した情報。
「3人の調査と、創世濁流に注ぎ込まれたハロウィンの魔力の流れ等を、多角的に分析しました結果、山梨県の山中のワイルドスペースに城があることが判ったのです」
 ワイルドスペースの中心にある『王子様』の居城。
 このワイルドスペースは『外部からの侵入を絶対に許さない』特性がある。
 その為、侵攻は不可能だったが、創世濁流を引き起こした影響で、少数精鋭での侵攻作戦が可能となった。
「侵攻できるケルベロスは100名程度。決戦としては少人数となりますが、絶対不可侵の拠点である事から、『王子様』側も迎撃準備は整えていないと推測できます。つまり――」
 イサクは貴方達を見渡して告げる。
「短期決戦であれば充分な勝算がある、と言えるでしょう」
 ジグラットゼクス『王子様』を、この戦いで撃破する事が出来れば、ドリームイーターの目論見を、大きく狂わせる事が出来るだろう。
『王子様』の撃破は出来なかったとしても、拠点に攻め込み、有力なドリームイーターを撃破することが出来れば、今後の戦いが有利になるのは間違いない。
「皆様、非常に危険な作戦となりますが、ご活躍に期待しています」

●the initiative
「さて。此方に集まって頂いたケルベロス様方への依頼事項は、真っ先に突入して、外縁部を護るトランブ兵と戦闘する事です。後続のチームが『王子様』へと辿り着けるように出来る限り多くのトランプ兵を引きつけて戦い、路を切りひらく重要な任務となります」
 各ケルベロスのチームとの連携作戦により、『王子様』を孤立させ、決戦で倒すのが全体の作戦目標となる。
 貴方達を見渡して、ヘリオライダーは改めて告げる。
「この任務は、作戦成功の重要な鍵を握っています」
 後続部隊がトランプ兵に邪魔される事は、戦力の低下、時間制限による撤退のリスクが高まる。
 撤退のリスクとは、このワイルドスペースが『絶対不可侵』の効果を持つ為、突入からおよそ30分を経過した後、外部に弾き出されてしまうことにある。30分後以降は、強制、或いは任意で、ワイルドスペースの外に転移して脱出することができる為、後続の突入部隊は撤退について考える必要が無いだろう。
 だが、『王子様』を撃破する為には、
「――『王子様』を撃破するには、30分以内に行わねばなりません」
 そしてこのチームは先陣を切る部隊。
 可能な限り多くのトランプ兵を引きつけ、後続部隊の突破口をひらき、折を見て撤退する必要がある。全てのトランプ兵を倒しきるには、不可能が明確な数の戦力差なのだから。

「トランプ兵は4種、スペード、ハート、ダイヤ、クラブのスートで、それぞれ違う武器を持ち、その武器によって攻撃パターンが違うようです」
 スペードが剣、ハートが杖、ダイヤが銃、クラブが槍。
 トランプに手足が生えた姿をしており、意思のようなものを感じない機械的な動きをする。顔の部分はモザイクに覆われ、スートは違えど、数は全て『5』で統一されている。
「どの種類が何体現れるかは判りません。個体能力はそう高くないドリームイーターですが、数が多い上に、4種全てのトランプ兵を相手にする必要がある事は留意しておいてくださいませ」
 時間が経てば経つほど、敵は次々と集まってくる。
 後続部隊を突破させた後、自分たちは撤退の必要がある。
 如何に迅速に行動出来るかが、成否に関わるだろう。
 ワイルドスペース内に取り込まれた事で、実際の地形からは大きく形状が変化していると思われる。既存の地図などには頼る事が出来ない。
 それから、と。ヘリオライダーは説明を付け足した。
「ワイルドスペース内では、別の部隊と互いに連絡を取る方法はありません」
 作戦開始後は、自分たちの部隊の役割を、最良の形で果たす事だけを考えるべきだろう。
 全ての部隊が最良の結果を出す事が出来たならば、そのときは、
 ケルベロス達の刃は、『王子様』に届くはずだから。

 イサクは一礼すると、貴方達をヘリポートへと導く。
「――それでは、ヘリオンでご案内致しましょう、ケルベロス様」


参加者
四乃森・沙雪(陰陽師・e00645)
春日・いぶき(遊具箱・e00678)
流星・清和(汎用箱型決戦兵器・e00984)
武田・克己(雷凰・e02613)
月隠・三日月(紅染・e03347)
十守・千文(二重人格の機工巫女・e07601)
エレノア・エリュトゥラー(渡り鳥・e15414)
服部・無明丸(オラトリオの鹵獲術士・e30027)

■リプレイ

●突入
 此処に集うケルベロスの数、102名。いずれも精鋭たる面子。
 攻略リミットは30分。
 1分、いや、1秒たりとも無駄にはしない覚悟で挑むべく、突入のタイミングを計る。
 先駆けには40名、およそ4割相当。残りの面子が後続として有力敵を叩きにゆく。
 後続が上手く突破できねばこの戦いの意味を成さない、つまるところ戦局を切りひらく重要な任務だ。
 ――いざ。
「では、先陣先駆け務めさせてもらうとしよう!」
 服部・無明丸(オラトリオの鹵獲術士・e30027)の高らかな声と共に、40名はワイルドスペースの歪みへと突入した。
 外縁部を警備していた6体のトランプ兵がすぐに集まる。
 クラブの兵とダイヤの兵、ハートの兵も見える。
「……陰陽道四乃森流、四乃森沙雪。参ります」
 四乃森・沙雪(陰陽師・e00645)は、刀印を結んだ指で、神霊剣・天の刀身をなぞる。
 ――路を、開く。
「俺向きだなぁ」
 武田・克己(雷凰・e02613)の直刀・覇龍が雷の霊力を帯びる。
「さぁ行くぜ」
 克己が繰り出す神速の突きがクラブ兵を貫く。致命的命中となって兵が倒れた。
「祓い給い、清め給え、百鬼を避け兇災を祓う、四神の名のもとに悪鬼討滅――」
 初手としては手痛い一撃を与えた克己の隣で、沙雪の麗朗とした声が響く。
 刀印を結び詠唱する。
「急々如律令!」
 周囲に渦巻く穢れが、沙雪の印を結んだ指先に集まり、ハート兵に叩き込まれる。
「グァ……!」
 怒りに囚われた敵が、杖からほとばしる雷を放った。
 十守・千文(二重人格の機工巫女・e07601)が仲間を守って雷を受ける。
「今回の役目は通路の確保と足止めっと……」
 攻撃を受けながら徐々に動く。
 突入した場所から少しずつ離れて後続の部隊を突破させる為だ。
「王子様のご尊顔を拝めないのは少し残念ですが……」
 春日・いぶき(遊具箱・e00678)の魔力を秘めた瞳が、敵群を凝視する。
 ダイヤの兵の構えた銃が、トランプ兵に向く。
「先駆けも立派なお勤めです」
 催眠にかけられたダイヤ兵は、ガトリング銃から弾丸を嵐のように撃ち出した。
 トランプ兵がトランプ兵を攻撃し、敵の足並みが乱れる。
 ハート兵1体が倒れた。
「わははははっ! わはははは!」
 無明丸が思いっきりダッシュしてクラブ兵に距離を詰める。思いっきり力を籠めて、思いっきり振りかぶった。拳に籠もるグラビティ・チェインは夥しく発光する。
「ぬぁああああああああああーーーーーッ!!!」
 全力全開、無明丸の拳が敵のモザイクにめり込む。
 無明神話で破壊されたクラブ兵が倒れた。
「情報ダイレクトリンク完了。補助ユニット射出……」
 流星・清和(汎用箱型決戦兵器・e00984)の可変式機関装甲。補助ユニットドローンを射出する。
「ユニットパーツリビルド……パーツドッキング開始!」
 仲間の種族や戦闘法に合わせて合体した装甲が、破壊力を向上させた。
「鬼機之操戦術、その身に受けよ、だよ」
 千文は天空高く飛び上がり、急降下する。美しい虹をまとう蹴りを敵へ浴びせた。
「皆、上手く敵を引きつけている。では私も」
 月隠・三日月(紅染・e03347)は剣を掲げた。右腕でバンダナが揺れる。
「天に刃を地に屍を、死天剣戟陣!」
 天空より召喚された無数の刀剣が戦場に解き放たれ、トランプ兵達を貫く。
 刀剣が深く突き立ったダイヤ兵が倒れた。
 別のダイヤ兵が弾丸を乱射する。沙雪と三日月が清和とエレノア・エリュトゥラー(渡り鳥・e15414)をそれぞれ庇う。
 トランプ兵の足元が爆ぜた。エレノアが仕掛けた見えない地雷、エスケープマインだ。
「私の武器は、今回はー……そこら中にありますっ!」
 オリーヴがぴょこんと飛び跳ねてめろめろハートで援護する。
「さぁ、こっちに来いです! わたしたちが相手です!」
 エレノアの元気な声に、ダイヤ兵は爆発を踏み越えて押し寄せる。
 更に周囲から新たなトランプ兵が現れた。
 突入と同時に派手に暴れた成果で、トランプ兵の援軍が8体。
 ケルベロス達は10体のトランプ兵に囲まれる。
「捨て石になる気は無いしギリギリまでやれるなら……まぁガンバローか」
 千文の声に清和が頷く。
「僕たちの任務としては作戦通りだね」
「そう、これは楽しい楽しいお勤めですから。甘ったるいメルヘンに囲まれて胸焼けだけの残る成果ではいけません」
 いぶきの言葉通り、トランプの兵隊に囲まれた状況は、傍目にはメルヘンだ。
 武器を手に押し寄せる兵を前に、三日月は不敵に笑みを刷く。
「無論、力尽きるまで戦い抜く覚悟だ」

●遂行
 駆けつけたスペード兵は前列に横薙ぎの斬剣、旋風を生む。
「そう簡単にやらせはしない」
 克己を庇ってダメージを受けた沙雪は、自分にマインドシールドを施す。光の盾が浮かぶ。
「……蹴散らす!」
 獰猛に笑う克己の絶空斬が、スペード兵を切り裂く。
 痛烈な一撃を受けた敵を巻き込むように、いぶきの死天剣戟陣が降る。
「さぁ努めましょう……より永く、敵を排除し続けるために」
 戯れのように口にしながら、狙いは的確。
 スペード兵が果てた。5体目。
 ハート兵が杖を掲げて雷の壁を構築する。続けてもう1体も同様。
 ダイヤ兵が銃を連射する。弾丸は清和を狙って放たれるも、三日月が庇う。
「―――忠勤ご苦労!!」
 無明丸の精霊魔法。召喚された「氷河期の精霊」が、ハート兵2体を氷に閉ざした。
「だがそれも今日で終い、もはや往くも戻るも叶わぬと心得い!」
 清和のヒールドローンが三日月を癒し盾を付与する。
「鬼操、握」
 千文の禁縄禁縛呪。巨大な手のオーラが敵を握りつぶす。
 三日月の虹を纏う急降下蹴りは、スペード兵を引きつけた。
 エレノアのレガリアスサイクロンが、ハート兵の構築した雷の壁を裂く。
「グオォッ……!」
 スペード兵は振り上げた剣を、三日月へと力任せに叩き付ける。
「……っまだまだ」
 両足を踏みしめて衝撃に耐える。
 その視界、弧を描く斬撃がスペード兵を仕留めた。克己の月光斬が急所を斬ったのだ。
 続く沙雪の桜花剣舞が、桜吹雪と共に敵を斬り捨て、更に1体。
 いぶきの催眠魔眼がハートの兵へ。杖から迸る雷は、ケルベロス達ではなくトランプ兵を撃った。
 無明丸のシャイニングレイ。放たれた光はダイヤ兵を攻撃する。
 ダイヤ兵が弾丸を撒き散らし、清和がヒールドローンを展開する。
「鬼操、喰」
 千文のドレインスラッシュがスペード兵を裂き、生命力を簒奪。敵はどさりと倒れた。
 三日月の死天剣戟陣、血濡れた剣がハート兵を貫通する。
 断末魔の雄叫びと共に崩れ落ちて、9体目の撃破。
 周囲に5体のトランプ兵、というところで、再び4体の増援が見えた。
 2体が此方へ、2体は別方向へ進もうとしている。
「オリーヴ!」
 ナノナノばりあが三日月を癒し、エレノアは爆破スイッチを押した。
 轟音と共に、ハート兵が爆ぜる。
 遠隔爆破に引き寄せられ、進路を変えた2体が向かってくる。
「上手くいった……かな?」
「勿論ですエレノア嬢。これで後続は突破しやすい、俺達の任務としては完璧ですね」
 沙雪は神霊剣・天を構える。四乃森の家に受け継がれていた霊剣であり、当主の証。
「さて、参ろうか」

●続投
 派手な立ち回りで敵を引きつけ、的確に撃破してゆく。
 5ターンで12体、10ターンで21体のトランプ兵を伐った。
 しかし倒せば倒すほど、新たな敵が沸いてくる。
 現れるトランプ兵を次々と引き寄せ、後続部隊の為の突破口としては充分。
 ――あとは。
「何体でも掛かってこい、ただただ斬って捨てるのみ!!」
 高揚した克己の雷刃突が、22体目の敵を屠った。
 ――持久戦。
 防御型作戦に変更した為、殲滅速度は落ちた。
 一行は部隊を維持しながら敵を着実に仕留め、撃破数を増やしてゆく。
 12ターンが経過したところで、24体のトランプ兵を倒していた。
 けれど敵も1分毎に増援が現れて、今此処を囲むトランプ兵の数は、30体になっていた。
 ずらりと並んだスートが迫る。
 ケルベロス達は、良く持ち堪えて居た。
 ダメージを最小限に抑え、敵を乱し、治癒で立て直し、各個撃破。
 しかしながら数の暴力は、消耗したケルベロス達を容赦なく襲った。
 13ターン目、スペード兵が斬撃を放つ。
 強烈な旋風が次々と巻き起こり、ケルベロス達を斬り飛ばす。
 沙雪、克己、三日月は裂帛の叫びと共に自らを回復する。
「我、空間の理を知り、陣を描く」
 千文の真紅の要塞。ドローンや護符を展開、それぞれを繋ぐ赤い線を生み出す事で、自身の周囲に防御結界の陣を描く。
「陣よ、我が力を依代に真紅の要塞となりて、我を守れ」
 描き出された赤い光の陣は、千文を癒し、盾となる。瞳から放つのは赤い煌めき。
「まだまだ、倒れるわけにはいかないのです、だよ!」
 清和はヒールドローンをいぶきと無明丸の方へ展開した。
 小型治療無人機が彼らの盾となるだろう。
 ダイヤ兵達が、ガトリングを一斉に構えた。
 より長く戦う、という目標としては、最善の戦法を選択していた。
 乱射される弾丸の嵐に、まずはオリーヴが力尽きた。
 その弾丸の切れ目に、ハート兵の杖から雷が迸る。
 最初から最後まで、部隊の維持に努めた清和が戦闘不能に追い込まれる。
 清和はワイルドスペースから放逐された。
「……いいかげんにこのけったいな場所も、彼奴らの企みごと粉砕してくれようぞ!」
 無明丸の拳がスペード兵の顔面ど真ん中に撃ち込まれる。
 ゴリ、と粉砕の手応えを得た。25体。
 更に、地面から飛び出る水紋のようなエフェクト。
「敵は目の前だけ……だと、思っていましたですか」
 エレノアの作成したグラビティの弾丸は、地面に潜伏し、敵の死角から確実に撃ち抜く。名も無き潜伏者(アノニマス・サブマリン)――水紋を視認した時には、手遅れだ。
 撃ち抜かれたハート兵が、26体目。
 そしてまたトランプ兵の増援が見えた。

●増援
 14ターンの開始地点で、倒した数は26。周囲を囲む敵の数は、そろそろ数えるのも難しくなってきたが38体。機械のように動くトランプ達は、増えれば増えるほど、まさしく『兵隊』だった。
 クラブ兵は槍による猛攻を繰り出す。高速の回転斬撃で、ケルベロス達を薙ぎ払う。
「刀が折れようと、拳が砕けようと、俺の闘志は砕けねぇ」
 克己は、龍玉と自身の闘気を直刀に込めて上空に飛び上がった。
 もはや倒しきれぬと判る数の敵に囲まれても笑みは深い。戦いを楽しむ者の表情だ。
 ダイヤ兵の銃口が一斉に克己へと向く。
「――させない。……祓い給い、清め給え、死天、剣戟、急々如律令!」
 沙雪が召喚した刀剣がダイヤ兵達に降り注いだ。
 そのまま沙雪は、敵が放つ弾丸の嵐から克己を守る。受けた衝撃は、消耗した身体には相当なものだった。皮一枚、かろうじて踏みとどまった沙雪の目の前で、克己の必殺の一太刀が閃く。
 神斬(シンザン)――落下速度と闘気によって強度と威力を増した乾坤一擲の一撃が、クラブ兵を真っ二つに両断した。これで27体目。
 クラブ兵達が一斉に槍を繰り出す。
 ハート兵達は杖から雷を迸らせる。
 千文がいぶきを、三日月が無明丸を庇う。
 沙雪は克己を守って、槍の攻撃に倒れた。
「武田君、もう1体頼む――」
 1体でも多く、と。後を託して放逐された。
「機操、砲」
 千文の髪と同化したアームドフォートが砲口に変形し、砲撃する。
 トランプ兵達を派手に刺激して、攻撃を引き付けた。
 スペード兵が2体、クラブ兵が2体、斬りかかってくる。
「……っ、あとは……」
 千文の視界が眩む。
「さぁ努めましょう、果たしましょう。最高の勝利を味わうのです」
 いぶきの声と、理力を孕むグラビティの発動を感じた。
「後は信じるだけ……だね」
 千文が戦闘不能になり、放逐される。
 いぶきの盲目思想(モウモクシソウ)――毒の雨が、ダイヤ兵達をあまったるく蝕む。
「……もう少し、もうすこしだけ……」
 皆、消耗していた。それでもエレノアは機敏に動き回り、地雷を仕掛ける。
 オリーヴちゃんスイッチII型を押すことで爆炎連鎖獄が発動する。
 トランプ兵達は次々と破壊の炎に包まれた。
 ハート兵達が杖から放つ魔法の矢が、エレノアに集中する。
「ぬぅあああああああーーーッッ!!」
 無明丸の時空凍結弾が、炎に包まれた敵を1体、破壊する。
 エレノアは意識を手放した。
 15ターン目。

●戦果
 ザッザッザ……、足並み揃った足音がケルベロス達を囲んでいた。その数は42。
 トランプの兵隊は、剣を、槍を、銃を、杖を、一様に同じ動作で構えた。
「風雅流千年。神名雷鳳。この名を継いだ者に、敗北は許されてないんだよ」
 克己は獰猛に笑った。
 刀の切っ先を敵へと向けて、足元を強く蹴った。
 どの敵よりも真っ先に動き、間合いへと踏み込むと同時、繰り出したのは雷刃突。
 今、最も命中率の高い一撃を選んで、クラブ兵の身体を貫いた。
「1体目だ、次っ……」
 更に真横のスペード兵に刀を向けたが、大量のトランプ兵が群がって来た。
 トランプ兵に囲まれて見えなくなる。
 いぶきも敵に囲まれた。視界一面のトランプを前に、最後のグラビティを放った。
 死天剣戟陣。
 解き放たれた無数の刀剣は、複数のトランプ兵を切り裂いてゆく。
「これで、28……」
 降り注いだ刀剣のひとつが、手負いのクラブ兵を掻き切った。
 セットしたアラームが鳴るまでは持たなかったが、後続は既に突入した筈。この部隊の戦果は十二分と言えよう。
「さて、奥へと向かった皆々様も、どうぞご武運を――」
 克己といぶきが、ワイルドスペースから放逐される。
「まだ、終わりじゃ無い」
「おうとも!」
 もみくちゃになったトランプ兵達が、隊列を整えていく。
 後方のダイヤ兵とハート兵が、それぞれ銃と杖を掲げて、三日月と無明丸に狙い定めた。
 無明丸は思いっきり力を籠めた拳を、最も手近に居たトランプ兵に叩き付ける。
 ぶん殴られたクラブ兵の頭部で、モザイクの破片が飛び散った。
 グラリ、と敵が傾く。
「もういっぱぁつっっ!」
 更に追撃の拳を一発、傾いた側から全力全開で叩き込んだ。
「わははははっ!」
 拳を高々と掲げる無明丸の隣で、素早い連続跳躍で敵を翻弄する三日月。
「さぁトランプ兵よ。私とお前、どちらが疾いかな?」
 クラブ兵が槍を突き出すより一瞬早く、三日月が死角からの突きを繰り出した。
 兎月(トツキ)――斬撃が敵を仕留めた。
「この戦い、わしらケルベロスの勝ちじゃ! 鬨を上げい!」
 無明丸の声が響き渡る。
 そして、トランプ兵達が怒濤のごとく群がった。
 16ターン目には、8名のケルベロス達は全員ワイルドスペース外へ放逐されていた。
 ――任務、完了。
 撃破したトランプ兵の数、29体。
 彼らが朗報を耳にするのは、それから少し後のこと。

作者:藤宮忍 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年11月22日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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