狂い咲くかの華の名は正義

作者:銀條彦

●霜月に咲く夏の華
 秋天にむかってまっすぐと咲く黄花。
 ゴミ拾いに精を出していた少年の手が思わず止まる。

 早朝の公園はひっそりと静まり返っていた。
「ヒマワリ……じゃないか、なんだっけこの花の名前。でもたしか夏の花だよなぁ」
 もともとは少年のジョギングコースの一つに過ぎなかったのだが……ずっと気になっていた空き缶のポイ捨てや家庭ゴミの不法投棄に耐え切れず、ついつい始めてしまったゴミ拾いが今では完全に彼の日課として取って変わってしまっていた。
「もう秋だってのにこんなところで頑張ってたのかぁお前、ちっとも気づかなかったな」
 照れくささもあり友人にも家族にも告げぬまま、黙々とその清掃活動は続けられてきた。登校前の限られた時間内、しかもたった一人。
 そんな中、雑木林の端の茂みの奥の、まるで人目を避けるような片隅で見つけた鮮やかな花の光景は、彼にとってまるで己に対するささやかなご褒美にも思えたのだ。
 なんだか元気を貰えたと満開の笑顔でまたゴミ拾いへと戻ろうと少年が考えた、その時。

「この園の有り様もまた人のみに都合の良い虐待行為に他ならない……自然を破壊してきた欲深き人間どもよ、自らも自然の一部となりこれまでの行いを悔い改めるがいい」
 片隅の花と人とをあまさず捉えた鬼あざみが高らかにそう告げると、胞子のような何かが黄花へと注ぎ込まれた。
「いったい何が……うぁぁぁあっ!?」
 有り得ぬ速度で茎を伸ばし葉を広げ、遂には向日葵よりも大きく膨らんだ黄花は、呆然と立ち尽くすばかりの少年を一気に呑み込む。
「いきなさい……罪深き人間どもが許される道はもはや攻性植物としての生あるのみ」
 緑角緑翼の少女が命じたのは人類の絶滅。
 瞬く間に1体の攻性植物──デウスエクスと化した巨大な黄花は創造主にして遥か格上の同族からのそれを忠実に守らんと行動を開始する。
 少年の命ひとつをその胎内に孕みながら……。

●禍の華は正義を執行す
「たいへんなのです! 季節はずれに咲いたルドベキアの花が巨大な攻性植物にさせられて通りすがりの人を取り込んで……もっと多くの人を襲おうとしているんです!」
 あわてた様子の笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)は、そこでいったん深呼吸した後に、依頼のあらましを説明し始めた。
 先だってより長船・影光(英雄惨禍・e14306)から攻性植物勢力の動向に注視すべきとの助言を受けていたヘリオライダーの少女は、とある公園の片隅で美化活動に励む中学生が攻性植物に襲われ取り込まれる未来を予知したのだという。
「……人型攻性植物の一派の暗躍、とまでは予想しなかったが、な」
「ここしばらくずっと『人は自然に還ろう計画』を続けてるうちのひとりで、『鬼薊の華さま』っていうまとめ役のデウスエクスのしわざなのです! 今回もすぐに姿を消しちゃって行方は分かりませんが……それよりも今はまず公園の攻性植物を止めましょう!」
 ねむの言葉に頷くケルベロス達を見回した後、影光はすでに説明を受けた情報について、迅速に無駄なく、彼等に伝えた。
「場所は奈良。敵は1体限り、鬼薊も他の攻性植物もいない。早朝、人気のない公園内での戦闘故、宿主以外の一般人は皆無──だったな、ねむ?」
「はい、そのとおりなのです! あと鹿さんが通りかかる心配もまったくありません!」
「…………そうか」
 刹那その情報は必要なのかと問いたげにねむを見つめた影光だったがまぁ奈良だからなと軽く流すことにしたようだ。続けて攻性植物のデータが開示された後──。
「……デウスエクスとしては所詮『なりたて』、普通に戦えば、ケルベロスならば誰でも倒せる敵だ──たった一人の犠牲を払うだけで、な」
 黒衣の青年は顔色ひとつ変えず本題についてを切り出した。
 宿主と攻性植物は一体化しており命についてもまた同様。攻性植物が活動するかぎりにおいて切り離しは不可能なのである。
「で、でも! くっつきたて状態の今だったら、まだ、宿主さんを助けられる手段は残っているのですっ!」
 実際これまでにもねむが言った通り、粘り強くヒール不能ダメージを積み重ねることで攻性植物のみの撃破を為し、一命を救われた宿主は何人も居た。
 だがそれを為す為にケルベロス側は常に綿密な準備と細部に到るまでの連携とを必須とする難戦を要求されても来たのだ。
 ──多くを確実に救う易戦か、あるいは全てを救えるかもという望みを携えての難戦か。
 影光の『本題』とはその問いかけであった。

「……そういえば、ルドベキアの花言葉は『正義』だそうだ。人型攻性植物が、地球のそれを知っていたとも思えないが……」
 皮肉だな、と、ニコリともせず憮然と最後に影光は零すのだった。


参加者
安曇野・真白(霞月・e03308)
八朔・楪葉(雲遊萍寄・e04542)
シア・ベクルクス(花虎の尾・e10131)
ケイト・クリーパー(灼魂乙女・e13441)
長船・影光(英雄惨禍・e14306)
ザンニ・ライオネス(白夜幻燈・e18810)
ティユ・キューブ(虹星・e21021)
簾森・夜江(残月・e37211)

■リプレイ

●徒花の正義
 奈良県の閑静な住宅街に隣接するとある公園内。
 晩秋の朝を疾走する一団は朝のジョギングに勤しむ若者達ではなく、ケルベロスである。

「たしかに人気は無いようですが……公園という場である以上、何時一般人が訪れるか分かりませんからね」
 いかにも生真面目な青年といった顔立ちの八朔・楪葉(雲遊萍寄・e04542)は辺りを注意深く見回しつつも速度を緩めずルドベキアの花を──片隅で生み出されてしまった攻性植物を求めた。
 頷いた後ほどなく、雑木林の一角に何かを引き摺るような地面の痕を見つけた簾森・夜江(残月・e37211)は即座に殺界形成に踏み切った。
 さほど移動に優れた訳でもなく、なにより、ルドベキアには有り得ぬ巨体のそれを見つけるのは容易かった。
 樹木にも見紛うほどに急成長した巨体をくねらせ、根を脚がわりにずるずると進む花が向かうのは天高くに在る太陽ではなく公園最寄りの住宅街が在る方角。
「彼の様な善良な少年こそ植物との共存に必要な方でしょうに……どちらが、正義なのでしょうね」
 斬霊刀の鞘にそっと触れた夜江の呟きは、研ぎ澄まされた秋水の如くひやりと鋭い。
「ルドベキア。 ……というと初夏に咲く小さなヒマワリに似ている花でしたっけ」
 今は小さいどころの騒ぎじゃないって感じっすけどと緩く笑ったザンニ・ライオネス(白夜幻燈・e18810)の肩には一羽の、青い眼の鴉。
 地球を脅かす攻性植物勢力の好きにさせるつもりは毛頭ないが、それ以上にまず力強く真っ直ぐな心を持った人を守り助けるのが自分達ケルベロスの役目だと、戦いのぞむ青年の内心に呼応するかの様に。
 風切り音ひとつがひゅっと鳴ると同時、ドットーレの名を持つ鴉は瞬く間に魔杖へとその姿を変え、ザンニの掌の内にするりと納まった。

 殺界に包まれた後も攻性植物の歩みに顕著な変化は見られない。
 尤も広域に亘って拡がるそれに対して使い手の位置を把握することは困難であり進行方向の変えようはなかったのだが。
 戦いの先手を取ったのは速やかに迂回し、いまだ遠景に臨むのみの住宅街を庇うように、往く手を完全に立ち塞ぐ布陣で待ち構えたケルベロスの側だった。

「んじゃ、私は私の正義を掲げて――さぁ、戦争でございます!」
 勇ましく突き出された鋼の腕はジャンクのつぎはぎ、収まる『御霊』は数多の動作不良品由来の其ればかり。
 されど戦いの始まりを告げるケイト・クリーパー(灼魂乙女・e13441)の一撃はポンコツの威力を識れとばかりに、高らかに、大輪の『正義』をその場へと打ち据えた。
「仕事の時間でございます、相棒!」
 応えるは漆黒のボティに煌々と輝く青灯。相棒たるノーブルマインドは急発進からのスピン全開で脚代わりの茎根を、当たると幸い、強かに轢き潰した。
「花ことばは『正義』と『公平』──ですが今この場で揮われるそれはグラビティチェインを欲する行いを建前で隠して襲う歪んだ『公平』も、間違った傲慢な『正義』も必ず止めてみせますの」
 固き決意乗せて、見るからにおっとりと華奢な安曇野・真白(霞月・e03308)の手で豪快に振り抜かれた超鋼の大槌は竜砲と化して火を噴く。
 続くティユ・キューブ(虹星・e21021)の星の輝き振り撒くスターゲイザーは紙一重で躱されたが、死角から忍び寄っていたもう一条の流星、長船・影光(英雄惨禍・e14306)の放ったスターゲイザーを見舞い巨大花を重力の内へと叩き落とす。

「え~っと直さーん! 自分たち、直さんを助けに来たケルベロスっす! この攻性植物を取り除く迄暫く耐えてほしいんです!」
 前で闘う自他の周囲に紙兵の守護をバラまきながら、ディフェンダーの1人として巨大華へと肉薄したザンニは宿主の少年に届けと声を上げた。返事は返らない。
 つぶらな氷蒼の瞳を瞬かせたのち銀華が前衛から、ぱたぱたとシャボンの泡を振り撒くぺルルは中衛として。
 白きボクスドラゴン達は減衰発生によってBS耐性を得られなかった一部の前衛役へ改めて属性インストールを施す。
「ひとまず命中率はこれで大丈夫でございますわね」
 ふわふわと新緑に咲く黄花を揺らし、オウガ粒子が淡く光を発し始める。
 前衛列に対しては守りだけでなく攻撃の助けとしてシア・ベクルクス(花虎の尾・e10131)からメタリックバーストが放出された。
 かくて初撃においてサーヴァントを含めた全12名中、実に半分近くが前衛列へのエンチャント付与を仕掛け、難戦を乗り越える為の態勢が急速な勢いで整えられてゆく。

「――我が刃、雷の如く」
 つき従う翼猫から飛輪の援護射撃に呼吸を合わせ、その抜刀はまさに迅雷。
 卓越した霊剣術から放たれた夜江の一閃は、其の刃傷のみならず、痺れにも似た蒼蒼たる縛めの威こそが真価。

(「……善人、なのだろうな」)
 今回の情報元となった影光ではあったが陽河・直について特に深く知るわけではない。
 だがヘリオライダーから提供されたデータ越しに浮かび上がる人柄だけを見ても控えめだがまっすぐと純粋な、それこそ夏の野の花のような眩さを備える少年だ。
 そんな人命ひとつと、狂い咲く『正義』に脅かされようとしている秩序と。
(「採るべき選択は……」)
 秤にかけるべきでない二つを秤にかけ必要とあらば後者を択べるであろう己を影光は許容する。その有り様は目指す『英雄』から程遠いという矛盾を自ら解しつつも──。
 英雄志望者の刃は、正義の華へまっすぐと突き立てられてゆく。

●彼の花・帰り花
 足元が大きく揺れる。
 ルドベキアが地面に己の根を融合させた埋葬形態で反撃に討って出たのだ。
「身体を張らせて貰うよ」
 勝気に踊る真珠の髪は、朝日を受けて、虹色の光彩だけを残像と置き去りに。
 前列すべてを呑みこまんと隆起した大地に対して果敢に駆け回るティユは台詞通り全身を駆使しての盾役を引き受けた。掠めた根の一部からは催眠の毒気が染み出していたが備えは既に万全。幾重もの護りと彼女自身の気合がそれら全てを跳ね返してしまった。

 減衰発生する前衛6名の陣容の前にBS耐性の列付与はやや手間取ったが、その分を埋め合わせるに充分な手数を掛けたおかげでケルベロス達は厚い守りをもって戦いに集中することが出来る。
「本当は後方支援とかの方が得意なんすけどね自分」
 などと嘯きながら華麗に掲げたファミリアロッドで帰花形態からの斬撃を受け止めつつばっちり旋刃脚をお返しするザンニ。
「今日の後方は、私達に任せて下さいね」
 仲間の軽口にクスと笑みを零しながら楪葉がウィッチオペレーションを施す。
 だが再び寄生華に視線を戻せば青年の表情は自然と硬いものとならざるをえない。
(「自然を大切にする事は勿論大事ですし私もシャドウエルフですから理解は出来ますが……これはやり過ぎです……」)
 最悪どうしても救出が無理となり多くの一般人に被害を出すようならば――小を諦め大を取る覚悟を楪葉は心密かに決めていた。
 一方で少しでも早く直くんを助け出してあげたいという強い想いも捨てきれぬメディックは今持てるその力全てを仲間の支援の為にと注ぎ続けていた。

 光花形態を取った巨大花の変化に真っ先に反応し、狙う先は後衛と的確に察知して咄嗟に身を躍らせたケイトを熱線が襲う。
「は、余裕でございますよこんなもん」
「なんでそこで無駄に強がるかな……ほら、とっとと【炎】消さないと」
 余裕アピールでひらひらと手を振るケイトだったが、ディフェンダー同士でありレプリカント同士として肩を並べて闘うティユの眼は誤魔化せない。
 というか別に誰の眼も誤魔化せてない。
 溜め息つきながらもティユは溜めたオーラの一部をデコピン動作から弾き飛ばした。小さな箒星がケイトの鼻先でパチンと砕けると同時、光花の熱と傷とは、瞬く間、星屑に溶けて消え失せた。

 ケルベロス全員一致の方針は攻性植物の撃破、及び宿主の救出――問いへの答えは全てを救うための難戦であった。
 倒すべき敵である攻性植物へのヒール役を担う一人であるシアは初手以降ほぼ魔術切開に掛かりきりとなった。ウィッチドクターとして各種ヒールを揃えた彼女だったが、回復のみならず戦闘支援の効果を引き起こすグラビティを注ぐ訳にはいかないからだ。
「もう少し回復の追加をお願いいたしますわ」
 樹医の如く丹念に敵の傷口を診立て、味方の力量と測り、指示を出す。
 攻撃を担当する者達も同様に慎重な立ち回りを要求され皆それに完璧に応えていた。
 ケルベロス側から繰り出される攻撃のほぼ全てが行動を阻害する類いのバッドステータスを伴うもの。逆にヒール不能ダメージに寄与しないダメージ系バッドステータスや思わぬオーバーキルを引き起こす可能性がゼロではない追撃等のエフェクトはサーヴァントに到るまで徹底して使用を封じている。
「苦難上等、その分の価値はあるでございましょう」
 攻守ともに豪快なケイトもまた時に敵ヒールへと加わった。
 速やかな変形・展開から砲身と化した彼女の腕部からブッ放された特大の光弾は共鳴の性質を備えたとっておき。癒しさえもワイルド特盛なレプリカントである。

 効果的な自陣強化と敵弱体化に伴い、自然、攻性植物に与えるダメージ量は大きくなりがちだったが、互いに声掛け合い、巧みな調整を続けるケルベロス達。
「BS耐性を敵に与えてしまうのは流石に拙うございますわね……」
 銀華にも敵ヒールの補助をお願いしようとした真白だったがこの箱竜が使える回復は属性インストールのみであった故に思い留まった。
 真白自身にも『真珠星』が有るがこちらもキュア付きだ。クラッシャーである自分が攻撃をしばらく控えるだけでも調節は可能だろうがと思案する真白に1回ぐらいならキュアを伴っても構わないのでヒールをと請うたのはシアだ。
「人命第一ですもの。 ……それにBSはまた幾らでも掛け直せばよいですけれど陽河さんの命は決して取り戻せないものなのですから……」
 そう背中を押されて意を決した真白の手から零れる涙滴は、季節を外れた春の星の儚さを湛えて夏の花弁へと降り注ぐ。
「痛い、ですよね。ごめんなさい……でも必ずお助けいたします。秋なのに頑張っていた花と同じく、一緒に頑張ってくださいませ」
「ええ、大丈夫ですわ」
 思わず語り掛けた白狐の少女に次いでそう微笑んだミモザの乙女の言葉は少年への励ましであると同時、仲間へと向けてのものでもある様に真白には想われてならなかった。

 一時的に解除され攻性植物に罹るBSは僅かにその数を減らしただったがそれもほんのつかの間の話。欠けた阻害系BSはすぐさま再び撃ちこまれ、ヒールを挟んで襲来したのは、一羽の犬鷲の爪だった。
 夜江が解き放ったファミリアの、殆ど翼を動かさぬ旋回飛翔から畳み込まれたジグザグが各種縛めを再び悪化させてゆく。大空と森の王者たる猛禽のそんなさまはまるで侵略者の手で歪められた『自然』を自然と認めず頑として拒むかのようだった。

「長期戦の覚悟……は、言われる迄もなく皆完了済みか、頼もしいかぎりだね。ならば僕は唯――導こう」
 宙のレプリカントの周りで瞬いては消えていったグラビティ・チェインの星々。
 それら全てがひときわ輝きを増し、結びついて広がり続け、遂には勝利を指し示すひとつの星図と化してゆく。

 絶え間ない癒しの中、ルドベキアは燦然と真夏のごとき鮮やかさで咲き誇り続ける。
 だが刻まれる端から癒されまた貫かれ……外傷こそなくとも蓄積されたダメージは着実にこの攻性植物の命に重力の鎖を架けつつある。
「あと少しだ、少年」
 たとえ聞こえずともしないよりは良いと、夜江もまた、戦闘のはざま宿主へ声を掛け続けて来た。
 そんな彼女が択んだグラビティは死天剣戟陣。遠列攻撃故に威力の劣るその技を用いたのは皆で積み重ねて来たヒール不能ダメージの増大を見越しての事。
 一体化した二つの命の片方のみを生かし片方を殺す難題を、ケルベロス達は見事やり遂げつつあった。
 無音の脚運びから二つの命の喉元へと滑り込んだ影光の手が創り出したのは、共鳴という名の暴食を促す『悪食結界』。
「……選択肢……どちらにせよ、『正義』を断たねば事を成せないと言うのなら――」

「滅びに追いやられてしまった種があることは事実ですが、それを止める小さな積み重ねを続けてきた陽河さまの命奪うことなどさせません」
 正義の華の向こう、別の『華』へと向けて毅然と言い放つ真白。
 守りたいすべて救う為の難戦の最後に少女が繰り出したのは掌底からの手加減攻撃。
 即座にヒールを施したシアがその手ごたえから発したあと一撃との言葉に、応えたのはメディック――楪葉の纏う殺気だった。
 感情の昂ぶりと共に急速に膨れ上がる黒霧に幾重と苛まれ、遂に不可視の分水嶺を越えた攻性植物の盛夏は此処に終わりを告げた。
 散り砕けたルドベキアの残骸の中から崩れ落ちるようにして現れた少年をすかさず両腕を伸ばしてザンニが受け止め、駆け寄って生存確認を行ったティユが無事を告げればケルベロス達から巻き起こる歓喜と安堵の歓声。

「――少々欲張る程度の『悪』は、誤差か」
 漆黒の襟に隠された影光の口元は、あるいは微かに笑みの形作っていた……だろうか?

作者:銀條彦 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年11月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。