泥の華

作者:深水つぐら

●汚泥
 深みに引きずり込まれるのだ。
 土塊の捏ね繰り回された様にぞわぞわとした嫌悪を感じるのは、それが異物であり、自身を汚していくものなのだからなのかもしれない。
「汚い、汚い、汚い……!」
 だからこんな田舎は嫌なんだ。
 自宅の玄関先で吐き捨てる様に呟いた青年は、衣服をタオルで何度も擦っていた。その脇では先ほどまで着ていた上着がくしゃくしゃに丸めて捨てられている。どうやら帰り道に雨に降られ、さらには水たまりで泥水を被ったらしい。
「なんで雨なんて降るんだよ、泥なんてあるんだよ、汚い……汚いんだよ!」
 その言葉に雨音が被さってしまえば、自身の胸を穿った音は聞こえなかった。
「あはは、私のモザイクは晴れないけど、あなたの『嫌悪』する気持ちもわからなくはないな」
 ――汚されるのは、心地良さと恐ろしさのどちらも味わえるから。
 いつの間にか現れた少女がその手の巨大な鍵を引き抜いた途端、青年の膝が折れる。そうして彼の背後から立ち上った影は人型を取ると、どろりと溶けた。
 それは体の表面を泥で覆った人形。なのに、目があるべき場所には美しいモザイクの多弁花が咲いている。
 生まれたのは新たなる夢喰い――『泥人形』は玄関へと足を向けると低い唸り声と共に外へと歩き出す。後には咲き零れた花が散り、落ちた途端に砕けて溶けた。

●泥の華
 子供の頃の土遊びは好きではなかった。
 十人十色という世界であるのだから、そんな事もあるだろう。それが苦手であり、汚れる事の象徴となっていれば大人になっても嫌悪は残る。
 理由はどうあれ、その『嫌悪』の感情を利用する夢喰いが未だ暗躍しているのだ。
 今回、ギュスターヴ・ドイズ(黒願のヘリオライダー・en0112)が確認した予知もそのひとつであり、新たに生まれたドリームイーターの怪物が起こす事件だった。
「君らには被害が出る前に怪物の討伐を頼みたい」
 そう告げたギュスターヴは、改めてケルベロス達を望むとその瞳を手元へと落とし、今回得た情報を整理する。
 事件が発生するのはとある片田舎の賃貸アパートだ。
 ドリームイーターはそこから人気の無い裏道を通り、新たな獲物を狙ってある場所へ移動するという。
「付近には紅葉狩りの名所として親しまれている銀杏の公園がある。おそらくはその観光客に惹かれて公園へと向かうだろう」
 つまり、討伐の舞台は公園となる。問題の賃貸アパートは公園入口にある銀杏並木の側にあり、並木付近で待ち伏せれば出会えるはずだ。
「人払いなど細かい事前準備は君らに任せよう。きっちり詰めておけば戦を有利に進められるはずだ。だが、手を入れすぎて討伐時の戦略が疎かにならんようにな」
 事前準備と実際の行動。予定とはいえ、両方のバランスを上手くまとめていきたいものだ。
 さらにギュスターヴは手元の手帳をめくり、その顔を少し曇らせる。そうして紡いだのはドリームイーターに関する情報だった。
 それは人の形をした『泥』なのだという。
 黒々と溶けた土塊の塊――なのに、目があるべき場所には美しいモザイクの多弁花が咲いている。その花を、ギュスターヴは『蓮』だと告げた。
「その花、いや、この場合は泥だな。汚泥を扱い仕掛けてくる攻撃は君らの動きを制限する事がある。攻撃を避けにくくなると考えていいだろう」
 こちらが攻撃をするには支障はなさそうな点が救いだろうか。他にもドリームイーター特有の攻撃を行うとギュスターヴは告げ、気を付ける様にと付け加えた。
「なお、『嫌悪』を奪われた被害者もこのドリームイーターを倒せば目を覚ます。保護より討伐を優先してくれ」
 ならば安心してどう動くか考えられる――ギュスターヴは改めて一同を見回すと、小さく笑った。
「紅葉狩りにはいささか物騒な化け物付きだが、君らに任せれば脅威ではないだろう」
 だからこそ、安心して送り出せる。
「君らは希望だ、魔女の悪夢を潰して来い」
 黒龍は静かに手帳を閉じると、満足そうに眼を閉じた。


参加者
リリア・カサブランカ(グロリオサの花嫁・e00241)
メイザース・リドルテイカー(夢紡ぎの騙り部・e01026)
柊城・結衣(常盤色の癒し手・e01681)
ウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)
据灸庵・赤煙(ドラゴニアンのウィッチドクター・e04357)
アラタ・ユージーン(一雫の愛・e11331)
トライリゥト・リヴィンズ(炎武帝の末裔・e20989)
英桃・亮(竜却・e26826)

■リプレイ

●落下
 落葉の様を僅かの合間に見ていた。
 季節に染まる金色の輝きに、アラタ・ユージーン(一雫の愛・e11331)は瞬きをして振り返ると、ひとりの竜人に声を掛けた。
「こっちの準備はいいぞ、赤煙の方はどうだ?」
「はい、こちらもまもなく」
 穏やかな声色で答えを返した据灸庵・赤煙(ドラゴニアンのウィッチドクター・e04357)は、改めて周囲を確認した。
 キープアウトテープの配置は万全である。戦いが始まれば長くはもたないだろうが、事前準備としては十分だろう。その他にも、仲間のケルベロス達は公園へやってきた人々へ声を掛けていた。
「ケルベロスだ、迂回をお願いしたい」
「申し訳ない、この辺りでデウスエクスが出現するという情報が入ってね、安全の為に暫く離れていてもらえないかな?」
 トライリゥト・リヴィンズ(炎武帝の末裔・e20989)の言葉の後でメイザース・リドルテイカー(夢紡ぎの騙り部・e01026)はそう続けると、銀杏見学に来た少女達は残念そうな顔をした。それでも終わってから来てほしいと伝えれば、ほっとした顔でその場を離れて行く。
 同じ様に別の場所では柊城・結衣(常盤色の癒し手・e01681)が避難と誘導を呼び掛けていた。そんな彼女がふと頭上を見上げれば、煌めく光に目を奪われる。
 それは朝に降った雨の名残だった。並木は湿り気を乾かす様にそそと陽の光が落ち、その波間に金色の銀杏が落ちていく。
「……綺麗ですが今はやるべきことに集中しましょう」
 頭を振った結衣は独り言ちると周囲へと視線を走らせた。その青い瞳が捉えたのはもう一つの碧眼だった。人形の様にくりと美しいリリア・カサブランカ(グロリオサの花嫁・e00241)の瞳もまた、近づいてくる観光客を見つけると避難を呼び掛けていく。同じ様にウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)もまた誘導を促して人々の背に降る銀杏に視線を向けた。
 くるりと踊りながら落ちた一枚の銀杏を、追いかけた子供が拾い母親の元へと持って行く。穏やかに過ごす秋晴れの空――その下に広がる銀杏並木をできる事なら眺めていたかった。
 だが、今はケルベロスとしてのこの地を守る責務がある。
 人払いのおかげで周囲にはケルベロスしかいなくなっていた。まるでポツンと取り残されてしまった錯覚に襲われると不意に秋風が通い、その粗暴に追われた銀杏の葉が嘆く様に落ちていく。
 その様が心の波を静かに引かせ、一抹の寂しさを呼び起こした。
「金色に染まった銀杏の葉が綺麗だな……」
「ああ……静かだけど美しいのはなんだか、飽きねぇんだよな」
 アラタの呟きをトライリゥトは受けると静かにその場にしゃがみ込んだ。足元には今朝落ちたばかりの銀杏の実が黄金の海に寝そべっている。
「ゆでてから軽く炒ると香ばしいんだよな」
 にかっと笑えば料理好きのアラタもまた嬉しそうに笑った。機会が合えば拾っていけるかもしれない――そんな彼らの上に再び銀杏の葉が揺れ降る様を英桃・亮(竜却・e26826)は穏やかな心地で眺めていた。手を伸ばせば金毛絨毯と見紛う葉の一片が恥ずかしそうに落ちてくる。
「……随分とまあ、綺麗に染まったもんだ」
 ――本当? それは嬉しいわ。
 そんな声が聞こえた気がして、亮は指の腹で回した銀杏を手持ちのカメラに収めると息を吐く。その様子をメイザースは微笑んで、改めて銀杏並木へと視線を移した。
「黄金の雨、なんて言葉が似合いそうな景色だ」
 その言葉に導かれたのか風に煽られた木々が一斉に身を揺らした。
 ひら、はら、と黄金が降り、その情景が終わる道端に、見覚えのある斑が見える。
 それは花の一弁となったもの。
「この続きは仕事の後、かな?」
 夢紡ぎの騙り部が呟くとケルベロスの間に戦の糸が渡った。

●落涙
 それは針と言える物だろう。
 戦の始まりを告げる様にウィッカの放つ殺気が一気に周辺へ駆け巡る。その感覚を心地よく受け入れたアラタは、自身の腕に栄えた鈴蘭の葉に頬を寄せると静かに前へと進み出た。
 その目に映るのは泥人形――瞳から斑の花咲かせたドリームイーターは、予知の通りに汚泥と醜くも美しい四肢でふらりと黄金の道を進んでいく。その一歩の度に斑の花から花弁が落ち、周囲へ解けて散った。
 泥から生まれた花。それが故事に聞く泥中の華なのかもしれないと思った。
 本来の意味は泥に染る事なく清らかな様を云うのだが、故事は本質として泥の穢れを嫌っている訳ではなかった。何故なら蓮華は泥の養分を吸って伸び、青々とした葉で太陽を受けて大輪の華を咲かせるからだ。故に泥は嫌悪をするものでもない――はずなのに。
 胸元に生まれる苦しみを幼い心は掴みあぐねる。答えの代わりに己の攻性植物に黄金の果実を宿すと、聖なる輝きを後方へと放った。その恩恵にリリアは暖かなものを感じながらも、眼前の敵を睨みつけた。
「どんな敵が相手でも油断大敵!  無茶はせず、確実に攻めていきましょう」
「ああ! さあ、気張っていこうぜ、セイ!」
 リリアの声に応えたトライリゥトは彼の相棒であるボクスドラゴンのセイと共に戦場へと踊り出た。そのまま一気に間合いを詰めて己が手の縛霊手を強かに泥人形へと叩き付ける。
「泥遊びは好きだったけどな。お片付けはちゃんとしねぇといけねぇよ!」
 瞬間、網状の光が舞った。
 叩き付けられた攻撃に悲鳴をあげる暇が有らばこそ。追い駆けたリリアが流星の煌めきを持った蹴撃を放てば、泥人形の身から汚泥が飛び散った。その様に一度だけ結衣の眉根が寄る。
「……蓮の花は泥中から咲くのにそれに染まらないから、清らかさの象徴とも言われているんですけど」
 独り言ちた言葉からは程遠い様子に、結衣は泥の苦手な人もいるという話にも納得する。だが、その嫌悪を他人が都合良く利用していい訳がない。
 その思いはメイザースも同じであった。散った汚泥が周囲の金色を汚していく様を見れば思わず口元を結ぶ。
 汚れの主は泥中の蓮の美しさを未だ知らぬ故に斑の目を持つのかもしれない。何を好み何を嫌悪するかはそれこそ人それぞれなれど、どう感じるかは当人のものなのだ。
「まあ実は私個人としては泥も汚れも厭わない方なのだけれどね」
 独り言ちた男は、人に語らぬ自身の泥と汚れを食みながら多くを掴み取ってきたのだろう。赤と染まる瞳に強い光を見せると戦場を駆ける。
「―さぁ、良い子は「おはよう」。悪い子は、「おやすみ」の時間だよ」
 男が繰るのは光――『太陽』の名と夜と闇の幕引きの任を与えられた光球は、瞬く間に泥人形の腹に肉薄する。その光が弾けた途端、亮の得物が閃いた。
 其は銀刃に揺らぐ流月の如く。
 照り映える光にモザイクの花を散らせば泥人形が声を上げた。その瞬間をウィッカは見逃さない。振り被る相手の腕をすり抜けると強かにその足へと打撃を叩き込んだのだ。
「散り急ぐなら叫びなさい」
 澄んだ声に再び夢喰いの怒声が重なる。そうして生まれたのは二重三重と散り渡る花弁だ。それはほろほろと舞い落ちては千切れて霧散する。
 その様に赤煙は金の目を細めて息を飲み込んだ。
(「もしやこいつは、泣いている……?」)
 それは幼子の様にだろうか。
 夢喰いの目であった一片が赤煙の頬を掠めて落ちていく。それは薄ら散ると微かに心地良い香りをさせた。

●落転
 斑に染まる花が巨大な口を作り上げた。
 それが自身を狙うと悟ったメイザースは避ける為に身を捩るも僅かに遅く牙を受けた。みしりと肉と骨を潰す音が聞こえ男は喉奥で苦悶の声を殺した。
「……はっ」
 腕が鮮血に濡れ、息が漏れる。それはメイザースの口が僅かに歪んだせいだったが、同時に笑ったからでもあった。彼岸花の葉に覆われた己が腕に、びり、と痛みが走るのは聊か不満だが、それでも怯むつもりはない。
 そんな彼になお追い縋ろうとした泥人形――その前に淡い輝きが立ち塞がる。その弓月の刃にルーンの光を宿したリリアの一閃が泥人形の胸を裂けば僅かに隙ができる。その隙間に飛び退ったメイザースにトライリゥトの声が当たった。
「まだまだだ、そうだろ!」
 叱咤の声が朗々と響けば、不思議と癒しの力へ変わり僅かな違和感を消していく。滴り落ちる血は途切れ、それでも削られた痛みは残っている。それを見越していたからこそ、赤煙は己が手からケルベロスチェンを解き放った。
 顕現するのは美しい円――描き出された鎖の魔法陣が最前列を守る者達へ渡るとその身に加護を宿らせた。指先まで瑞々しく渡る甘い痺れは武者震いか、その恩恵を感じながら泥人形へと視線を定め、ふと赤煙は目を見張った。
 泥人形は口を開けていた。それはぽっかりと深淵に似た奈落の穴、そこから零れる音は悲鳴とは言い難い呪詛に似ている。耳を打つのは奇怪な異音ばかりで醜いと覚える様は狂気に満ちていた。
「泥中の蓮、と言えば悪い環境でも自分を見失わない事の例えですが……嫌悪に我を忘れた人からこんなドリームイーターが生まれるとは皮肉ですな」
 独り言ちた言葉は狂った夢喰いには届かない。同じ矛盾もまた抱いていた。
 汚泥と蔑む中から花が咲く――それは辛さや苦しみの中でこそ、美しく咲き誇るというものだと教えているというのに。
 今はその花に炎を灯すのだ。
 ケルベロス達と交戦を続ける泥人形に亮は狙いを定めると、改めてその間合いを詰めていく。
 己に燃える黒き影、それは文様となって天へ伸ばした亮の腕を昇ると龍牙となって戦場を渡った。食らうのは泥人形の肩口――被弾した残り火から亮の耳へ鳴り止まぬ呪を加えたが、それが彼に戦場での冴えを生む。
 戦火の猛る中で結衣は攻撃の合間を縫う様に、全身の装甲から光輝く癒しの力を放った。
 彼女の青い視線が戦場を渡り、仲間の消耗を確認すると改めて動きやすさを覚えた。各々の消耗はあまり無く回復を担う彼女が軽いフォローに回る形で済んでいるのは、それぞれがきちんと敵からの攻撃に対策を持っていたおかげだ。特にサーヴァントを始め、回復役以外の者が互いに異変を察知してカバーに回ろうとする姿勢は敵からの影響をほぼ防ぐ形になっている。
 備えあれば憂いなし、それぞれの手際に感謝しながら結衣は仲間に声を掛けた。
「頑張ってください、私達は絶対に負けません!」
「そうですとも」
 自信と共に言葉を紡いだのは、己が指に光を灯したウィッカだ。
 薄らと輝くかの指が変化自在に紋章と共に描くのは五芒星――その輝きが泥人形の足を始め、周囲を巻き込む円陣結界となって煌めき昇る。
「汝、動くこと能わず、不動陣」
 紡がれた言葉は『呪』だ。光り輝く呪は泥人形の足を昇り、その身へ絡み付きながら突き刺さる。その衝撃に地を這う様な悲鳴が木霊し、眼球である花を散らした。
 はらと、はらと。
 生まれては散り落ちる花弁と銀杏。
 斑の涙が止まらぬ様を見て、アラタはそれが沈殿した泥から生まれると思い出して唇を結んだ。
 嫌悪とされた泥。美しい花を咲かせるというのに汚れの象徴として夢主に認識されたもの――それは感情の澱みであり、泥の様に積もった事で夢喰いの核となったのかもしれない。
 それが不憫だと思った。なのに、泥人形の目に咲く花は美しい。
 ――ああ、それが彼の希望の現れなのか。
 息を吸い、狙いを定めるとアラタは緑の霧を生んだ。
 其は朝の匂い。明日を覚えず死と招く毒の――穏やかに膝を付いた泥人形の身を緑色酸味魔法がうとりと蝕んだ。

●落睡
 明日を忘れた金糸雀の、羽根とも見紛う銀杏が落ちる。
 くるりとひと舞を見せた落ち葉の波に混じり、蓮の花弁が落ちてはいまいかと探してしまうのはなぜだろうか。
「秋は感傷的になっていけませんな」
 自身の戸惑いを胸中に収めた赤煙は、改めて周囲を見渡した。すでに戦いによる並木の破損は確認し終わっていた。幸い壊れたものは無く、被弾した泥も夢喰いの消滅と共に砂へと還り消えていったのだ。
 後に残ったのは朝と変わらぬ、否、朝よりもなお輝き始めた銀杏並木の姿だった。
「素敵な景色、まるで……」
 言いかけたリリアだったがはたと止めると、眼前に降り落ちた銀杏へと手を伸ばした。その白い指の中に納まったのは陽に透けてなお金色に輝く葉――その色合いが愛しい人の髪色の様でふと笑う。
 ああ、帰ったら、さっそく彼に今日の事をお話ししましょう。頼りになる仲間たちとドリームイーターから美しい銀杏の景色を守れた事を。
 くすぐったい想いに指で銀杏の葉を回せば、僅かに起こった風がひやりと冷たく頬を撫でた。
 その回る様を眺めていたウィッカは、瞬きの後でもう一度振り返る。視線の先にあるのは夢喰いの墜ちた場所である。もはや残骸も無いその場に汚泥の影を見た気がして、逃げる様に足元の銀杏へと顔を向けた。
 銀杏の隙間からは舗装された並木道の地面が見えている。その上に散らばる土は今朝の雨の湿り気を失ったのか、もう乾いた色をしていた。
 雨も泥も農作物の成長には不可欠なもの。汚れる事はあるとしても、嫌悪だけを抱くのは如何なものか。いつかはその中に咲くものから美しい物を掴み取れたらいいが――その感傷が引き金になったのか、ふとこの事件の裏に潜む魔女の姿を思い出す。
 彼女が仲間と共に光明神域攻略戦にてパッチワークの魔女の一人、ヘスペリデスを倒してから間もなく一年になる。未だに暗躍する魔女達は半数以上が健在であり、その消息は掴めていない。
 だからこそ。
「今回の元凶たるステュムパロスも早く倒したいところですね」
「おう、次あたり魔女と闘りてぇな!」
 ウィッカの呟きにトライリゥトはにっと白い歯を見せて笑った。
 希望を口にするも、件の魔女と出会うならば邂逅の運命が交わる事を祈るしかない。そう思案した時、アラタが今回の被害者の元へ様子を見に行こうと告げた。
「イライラする様な辛いことがあったのかもしれないが、生きてればそのうち良いこともあるぞ!って励ましたいな」
「私も見た目などで毛嫌いしがちですが、そこから綺麗な花が咲くことも……伝えたいです」
 アラタと結衣の言葉にやれやれとメイザースが頬を掻くと行ってみようかと声を掛けた。そうして歩き始めた仲間達の後ろへ亮もまた続き、ふと立ち止まる。
 振り返った先には金色に染まる風景へ子供を連れた男女が仲睦まじく歩く姿が見えた。子供の手には小さな傘が見えて、ふと雨が好きになれなかった日を思い出す。
 ――彼女が傘をくれて、雨の日が億劫じゃなくなった。雨道も歩き方次第なんだと、そう知ったのだ。
 それは亮にとって非が是となった瞬間だった。ならば、泥の中に咲いた花も、そんな雨の涙に溺れて解かれて美しいものへと変わるのだろうか。
 金色に染まる秋の道を幼子が歩いていく。その様子を眩しげに見つめると青年は静かに息を吐いた。

作者:深水つぐら 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年11月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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