ミッション破壊作戦~自由人は逆境を謳歌する

作者:ほむらもやし

●戦い続ける定め
「今朝は濃い霧がでていたよ。うっかりしていたけどもう11月に入っていたんだね。で、恐る恐る確認してみたら、やっぱりグラディウスに力が漲っていて、また使えるようになっていたので、今月もミッション破壊作戦を進めたい」
 先月と同じようにグラディウスの状態を示しながら、ケンジ・サルヴァトーレ(シャドウエルフのヘリオライダー・en0076)は、あなた方に話しかけた。
「知っている人にはうんざりするかもしれないけど、まず、これがグラディウスだ。通常の武器としては使えないけど、『強襲型魔空回廊』を攻撃できる武器だね。これは時間を掛けて吸収したグラビティ・チェインを1回の攻撃ごとに使い切る。再度使用するにはグラビティチェインを吸収し直す必要がある。で、今回のチェックで使える状態になっているとが分かった」
 攻撃は上空からの降下による敵地中枢への奇襲になるが、撤退に掛けられる時間が短い点は要注意。
 既に攻撃に成功した地域では、敵が対抗策を講じている場合もあり、以前にうまく行った手法を模倣しても、敵の動きが同じとは限らない為、同様の結果が得られる保障は無い。
「今回、僕が連れて行くのは、攻性植物のミッション地域。エインヘリアルのミッション地域じゃないから気をつけてね。あと命に関わることだから失礼は承知で言う、時間にシビアになれないチームは時間切れとなり、全滅か降伏、バッドエンディングにしかならないから。自分の実力を鑑みた上で、勇気をもって参加の判断して欲しい」
 退路を阻む敵の1体を撃破する前に、増援が到着すれば、その時点での戦況が勝利目前であったとしても万事休すだ。何度でも言うが、短時間で敵を倒しきれるかどうかが重要なポイントになる。

 目指すのは各ミッション地域の中枢にあたる、強襲型魔空回廊である。
 徒歩など、通常の手段で目指せば、遭遇戦の連続となり、そこにたどり着く前に、消耗して撤退に追い込まれる。だからグラディウスを奪われる危険を考えれば、行わないのが妥当だ。
「強襲型魔空回廊は上部に浮遊するドーム型のバリアで囲まれている。高高度ではあるけれど、今回もヘリオンで真上まで連れて行くから、速やかに降下して攻撃を掛けて欲しい」
 攻撃はバリアにグラディウスを触れさせるだけで良い。
 使用する本人も一緒に、グラビティを極限まで高めれば、効果が上がる。
 グラビティを高めるには、強い意思や願い、思いを叫びながら、グラディウスを使用すれば良い。
 但し、それを破壊の力へと換えるのはグラディウスであるから、本人がいくら意気込んだと主張しても、期待通りの破壊力の向上に繋がるとは限らない点は注意が必要である。
「それから、グラディウスには個体差があるようだから、どうすれば強い叫びになるか。と言う法則も攻略法は無いと思う。強いて言えば、あなたの中に真に熱い思いがあるならば、——抽象的で申し訳ないけど、熱さは自然と言葉や行動に滲み出る。伝えきれない思いを伝えようとする様は心を打つのかも知れない。僕はそう思う」
 降下に使える時間は長くは無いけれど、攻撃順序は成り行きに任せても良いし、自分らで決めても良い。
 もし、8人のケルベロス全員がグラビティを極限、もしくは、限界に達するほどにグラビティを高め、強襲型魔空回廊に攻撃を集中させられれば、単独のチームであっても、破壊に至る可能性はある。
 もちろん1回の攻撃では無理でも、複数回に渡る攻撃を実施すれば、ダメージの蓄積により、いずれは破壊出来ると見込まれているから、破壊出来なかったとしても、ちゃんと撤退できれば作戦は成功だ。
「それから大事なことだけど、この戦いはひとりでするものでは無いからね。お願いだから、そこは履き違えないようにして欲しい」
 功名や勢いというものは長く続かない。一度の功名に飽き足らず、運が尽きてもなお、柳の下でドジョウを待つようなことをすれば、先にあるのは、身の破滅だけである。
「敵戦力は、上空からの奇襲に有効な対処法を持たないとされている。グラディウスを使用した攻撃時に発生する雷光と爆炎が、グラディウスの所持者以外を無差別に殺傷するという、一方的に有利な効果は引き続き有効だ。同時に発生する爆煙(スモーク)が敵の視界を遮る効果も絶大で、撤退を有利にしているから、好機を逃さずに撤退を成功させて欲しい」
 グラディウス攻撃の余波は精鋭の防衛部隊を大混乱に陥れるほどの凄まじいものだ。
 だが敵の持つ戦闘力が消滅したり減少したりはしない。爆煙が晴れれば、遭遇による単独攻撃から、組織的な追撃戦に転じる。
「敵地のど真ん中に、叫びながら降下攻撃を仕掛けておきながら、誰にも見つからずに逃げおおせるなんて虫のいいことを考えてはいけない。敵とは遭遇するし、必ず1回は戦闘が発生するから、その撃破と撤退は神速をもって。時間が掛かりすぎて爆煙が薄れ敵を撃破する前に、増援が到着すれば最悪だ。もう全滅か降伏しかない。撤退は目的なのだから、負けそうだから逃げるなんて出来ない」
 攻撃するミッション地域を選ぶのは、ケルベロスの皆である。
「短時間で強敵を倒さないといけないという点で状況は過酷だ。本人が希望しない地域に行くことになることもある。だから参加を決める前によく考えて欲しい。本当にこの作戦に参加しても大丈夫なのか。どんな戦場を選ぶことになっても、生死を共にする仲間と協調することができるのかを」
 現れる敵の傾向は、既に明らかになっている情報を参考にすれば、助けになるはずだ。
「デウスエクスは今でもミッション地域を拡大し続けている。今、こうしている間にも、とんでもない強敵が攻め込んで来て、どこかを制圧するかも知れない。だからもう、この戦いを止めるわけには行かないんだ」
 平和に見える世界であっても侵略を受けている日常は、本物の危機だ。
 この危機を救い得る力を持つのは、功名や名誉ではなく、真に平和を願う、純真かつ気力に溢れたケルベロスだけだ。
 ケンジは力を持つ人には、その力を正しく使って欲しいと願う。
 だからこそ、個人的な思いや衝動にのみ依らず、仲間を信頼できて、仲間の思いにも寄り添うことができて、侵略を受けた場所に人々の生活や思いがあったことの意味も知っている、あなた方にお願いしたいのだと、再度強い視線を向けてから、出発の時を告げるのだった。


参加者
九石・纏(鉄屑人形・e00167)
玖々乱・儚(罪花喰らい・e00265)
ミルフィ・ホワイトラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・e01584)
白波瀬・雅(サンライザー・e02440)
ステイン・カツオ(剛拳・e04948)
クオン・ライアート(緋の巨獣・e24469)
夢幻・天々奈(封印されし禁忌の少女・e36912)
カテリーナ・ニクソン(忍んでない暴風忍者・e37272)

■リプレイ

●上空
 屋久島は周囲130km、東西に28km南北に24kmほどの島で、面積は東京都の23区の合計に相当する大きな島だ。集落や街は沿岸部に偏っており、森林が島の90%を占める。地形は大部分が急峻な斜面で、最高峰の島中央部に向かって谷と峰が連続している。
(「この地でグラディウスを振るうのは2回目になるか……」)
 到着を告げるように、扉のランプが赤から青に変わり、ロックの外れる音が響いて、玖々乱・儚(罪花喰らい・e00265)は微かに手を震わせた。
 扉が横にスライドして開くと同時、冷気を含んだ強い風が横殴りの雨と共に吹き込んでくる。
 ヘリオンは発達した雨雲の只中に居た。
「よく見えませんわね。まあでも、見えても見えなくても、影響は軽微ですわね」
 ミルフィ・ホワイトラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・e01584)は、風で飛び散りそうな屋久島の資料を片付けながら、やれやれという表情をみせる。
「しかし、いつまでもこのままと言うわけには、行きませんわ」
 屋久島町ではミッション地域の発生に伴い、全島避難が実施され民間人は居ない。
 現在、有志の旅団などにより実施されている攻撃によって、ミッション地域の拡大を食い止めているが、強襲型魔空回廊への攻撃は2ヶ月間ぶりだ。
「当然だ、目の前にある危機に手を打たないで、何がケルベロスだ!」
 白波瀬・雅(サンライザー・e02440)は扉から身を乗り出すと、真っ白な壁にしか見えない、雲の中に飛び込んで行く。
「あー、もう行っちゃったでござるよ。ドリームイーターどもとの大戦も近いというのに、困ったもんでござるよ」
「そうだな、だが、やるからには最大の戦果は狙いたいな」
「当然、拙者もそのつもりで、ござるよ」
 肩を竦めつつも、絶対に全員で無事に帰ろうと、カテリーナ・ニクソン(忍んでない暴風忍者・e37272)が拳を突き出せば、応じるように、クオン・ライアート(緋の巨獣・e24469)も腕を真っ直ぐに伸ばして、互いの拳を軽くぶつけ合う。
 ケルベロスが、グラディウスを手に入れてから間も無く1年。
 ミッション地域への攻撃を少人数の部隊に依存しているのは、ケルベロス陣営の懐事情の苦しさを象徴している。ヘリオライダーの人数も限られており、稼働率にも差異がある。
「グラディウス、臆病者の私にも大切な人たちがいて、助けたい人たちがいるんだ。これから向かう先には、私たちの敵がいて、その敵と戦ってくれているラクシュミって人がいる」
 そんなタイミングで、夢幻・天々奈(封印されし禁忌の少女・e36912)は、グラディウスに向かって話しかけている、九石・纏(鉄屑人形・e00167)に気がづいた。
「ラクシュミ……お義兄様ほどではないけれど、かなりの力を感じたわね!」
 その名は、かつてスパイラル・ウォーにおいて戦った、謎の種族オウガの女神ラクシュミのこと。
 洗脳は解かれた彼女が、この屋久島で救援を求めているという噂もあり、また遭遇したという者もいるらしい。
「まあグラディウスに意思があるかどうかは分からないけれど、もしかしたら、と思ってね」
「そうなの。殊勝な心がけね、でもスパイラル・ウォーのときにチラッと見かけたぐらいのはずなのに、やけに拘るのね」
「拘っているわけじゃない。多分、ラクシュミは自分たちに協力して戦ってくれているのだと思う。だから可能なら助けたい。ただ、それだけだ。それに、ピルグリムを見過ごせば、大きな禍がもたらされるに違いない。――グラディウス、力を貸してほしい」
 しかし言葉を返してくれたのは、天々奈だけで、グラディウスには何の変化も見られず、今、こうして気持ちを込めていることを、ラクシュミが知る術も無い。
「ちんたらしてる暇はないからな、先に行くぜ」
 雑に言い置いて、ステイン・カツオ(剛拳・e04948)も飛び出して行く。
「さあて、もうこのアテナ様と、あなたしか残っていないようね。――それからね、この星を守るのは、ラクシュミじゃないわ! この星に住むアテナ様たちの役目よね! そこのところ、履き違えたら、ダメよ!」
 ミッション破壊の任を受けたのは、ケルベロスとしての役割であるが、デウスエクスと戦い、愛する地球を救うのは、ケルベロスの役目である。そんな感じだろう、天々奈もまた荒れる空に飛び出して行く。
 すると後に残ったのは纏だけ。
「……死ぬのは怖いよ。戦うことも好きじゃない。でも、戦わないと仲間、友人が酷い目にあう、だから戦う」
 煮え切らない、複雑な思いを整理して、纏が降下を開始したのは、間も無くであった。

●叫び
 儚がバリアにグラディウスを叩き付けたのは、纏の降下開始とほぼ同時だった。
「グラディウスよ、力を貸してくれよ! 俺の嫌悪も恐怖も、全部預けてやるからさ!」
 自分は臆病者だから、本当は戦うことだって怖いけど、あんな奴らが増え続けて、大好きな人たちを使って増えるなんてのはもっと怖い! だから恐怖に震えてなんていられないんだよ。
 儚の突き出す刃が、強襲型魔空回廊を守るバリアに接触した瞬間、大気が揺れ、雨雲を突き破って伸びる閃光の先に、小さな青空が覗く。
 弾かれるような衝撃が身体を突き抜けて、グラディウスを手放しそうになるが、力を込め直して、叫ぶ。
「危険の芽を焼く強き炎を! 侵略者を砕く雷を! 回廊を壊す力として!」
 縮み掛けた火球が広がりを見せて爆発、衝撃波を生み出す、橙色の炎が津波の如くに雨に濡れた山肌、そして森を嘗めて行く。衝撃波に散らされた木々の破片が瞬く間に燃え尽きて灰と消えて行く中、間を置かずにクオンは突入する。
「大王杉・縄文杉を始めとしたこの地特有の植物群系、千尋の滝や洋上アルプスとの異名を持つ神秘で雄大な自然光景、正に『遺産』と呼ぶに相応しい大地だ」
 クオンの脳裏に浮かぶのは、誰もが知る屋久島のシンボル。
 そこに寄生し、命を汚す存在、『星の巡礼者』、ああ、許せん。許せる訳が、無い!!
「我は巨獣! この星に巣食う災いを破壊し! この星の明日を照らす……我は太陽を掲げる緋の巨獣なり!!」
 正に叫びの通り、荒ぶる巨獣の如くに、爆炎が破壊の手を広げて、異物を孕む森を壊して行く。
 跳ね返ってくる衝撃に弾き飛ばされるクオン、入れ替るように、カテリーナが突っ込んで来る。
「美しき屋久島を、今こそ取り戻す時! 悠久の時を経た屋久杉や独自に進化した生き物達たちを、これ以上お主等の食い物にも苗床にもさせぬ!」
 荒れ狂う炎は、異物のみならず、前からあった正常な物も壊して行く。
 それは悪性腫瘍を取り除く為に、正常な部分も傷つける医師の葛藤を思わせる。
「お呼びでない闖入者は、魂のふるさとにゴーホームでござるよ! それからヤクシカの短足もかわいい!」
 愛するヤクシカが、果たして逃げおおせたかは分からないが、今出来るのは、このバリアを破り、少しでも早く魔空回廊の破壊を目指すことだけだ。
「私が生まれ育った、この星には、家族、友達、仲間、今まで出会った大事な人たちが生きている」
 雅にとっての地球には、大事な人たちと一緒に紡いできた、楽しいこと、嬉しいことの思い出が詰まっている。
 良いことばかりでは無い。苦しいことや辛いことも、前を向いて、未来を生きる為の大切な思い出だ。
 直後、胸に去来する、生まれてから今日までの万感が流れ込んだかのように、グラディウスの輝きが増す。
「地球を、かけがえのない私の故郷を! 星の巡礼者なんかの好きにはさせない! 守りたい! 力を私に貸して! 撃ち貫けぇぇぇッ!」
 命を懸けても守ってみせる。決意と共に叩き付けた刃が巨大なバリアを鳴動させ、ミルフィもまた揺れるバリアに刃を突き立てた。
「今回こそ……この魔空回廊を破壊し、貴方たちピルグリム共の増殖を阻止致しますわ!」
 初めてでは無いからこそ知る脅威、一刻も早くケリをつけたい気持ちに叫びは熱を帯びる。
「この島の……美しい自然をおぞましい『星の巡礼者』達の食い物になど……人々の平穏な暮らしを蹂躙し、食い潰すなど、絶対にさせませんわ…!! 必ずや、この島を解放致しますわ!」
 雲を貫く閃光が再び爆ぜて、灰色の風景は眩い光で埋め尽くされる。
 ――ざっくり言っちまえば。アンタらを放置してると、誰かがピルグリムに変えられちまうかもしれないってことだろ。
 それがステインの解釈、思い浮かぶのは、苗床とされた人間を突き破って出てくる、異形の化け物。
「そんな未来、否定して当たり前だろうが。誰かの泣き顔見るのも誰かを救えないのも、もう嫌なんだ。だからこそぶっ壊す。まとめて消え失せろ!!」
 恐怖から来た、敵の絶滅への願いを込めて、ステインはグラディウスを叩き付ける、大気と大地を揺さぶる爆発、だがバリアは健在だった。
(「拙いわね、全くの無傷じゃないの、本当にダメージは通っているのかしら?」)
 降下を続ける、天々奈の表情が不機嫌に歪む。
「無限の繁殖力なんて、どう考えても危険すぎるわ! デウスエクスがいくらでも増えるなんて、ゲートみたいなものじゃないか! この島から絶対に出さず、ひとかけらも残さず殲滅してやるわ!」
 渾身の一撃でもって、それを証明してあげる。その言葉を体現するように、天々奈は赤い瞳を輝かせる。
「魔空回廊よ! 砕け散りなさい! 必殺! 夢幻究極迅雷無双剣!!」
 青白い光が爆ぜて、稲妻の如き無数の光の筋が、叫びに込めた思いに応えるように森に潜む魑魅魍魎を滅ぼさんと降り注ぎ、無数の光が爆ぜる。
「私の大事な人たち、危害を加えるなら容赦はしない!」
 十数秒後、最後に降下してきた纏がグラディウスを叩き付ける。この日8度目の大爆発が起こり、膨れあがった火の玉は破壊し尽くされた山肌を再び熱と火炎で蹂躙した。

●撤退戦
 頭上に浮かぶ魔空回廊の圧迫感に変わりは無く、それを守るバリアも健在だ。
 今は濃いスモークの影響で破壊の全貌は分からないが、グラディウスの余波は護衛戦力にダメージを与えるだけでは無く、周囲にも破壊をもたらしている。
 かくして合流を果たした一行は、撤退を開始。焼け野原と化した数百メートルを、短時間で駆け抜けた。
 そして、土砂降りの雨の中にあっても燃え続ける森に踏み入ろうとしたその時、敵——星の巡礼者(スター・ピルグリム)と鉢合わせる。
 この敵に、知性があるのか、無いのかは分からないが、いずれにしても奇襲を受けなかったことは僥倖であった。
「爆ぜよ焔、彼の者らに恩寵を与えなさい!」
 初手をとればカッコいい。執念で発動した天々奈のブレイブマインが戦いを始める号砲の如くに鳴り響いた。
「GAAAAAAAAAAA!!!」
 心地良い爆風に背中を押されながら、敵前に踊り出たクオンは巨獣の如きに吠えた。咆哮は衝撃波となって立ちはだかる敵に襲いかかる。どちらかが倒れるまで戦おう、クオンはそう告げているように見えた。
 それを解する知性が無いのか、理解しようとしないのか、無造作に突き出された敵の鋏がクオンに突き刺さる。
 激痛、そして体力の大部分を削り取られたと知る。想像を上回る攻撃力、対策は充分に取っていたが、二度続けて受ければ持たない。儚とテレビウムのてれに癒されながらクオンは思い知る。
 入れ替わるようにステインが高速回転と共に突っ込んで行く。
「速攻でぶちのめす、それだけだ!」
 確かな手応え、そして肉とも植物とも分からぬ破片が飛び散り、粘りのある体液が噴き零れる様に、誰もがこの敵の脆弱さに気づく。
「ならば削り尽くすまで!」
 白煙の中から雅の声がした瞬間、流星の如き煌めきを帯びた蹴りが現れる。直後身を守ろうと翳した鋏をすり抜けるように、蹴りは首筋に命中、流れるような連携でミルフィと纏の放った竜砲弾が命中して、二度、大爆発を起こす。
「やりましたか?」
「いや、まだだ」
 爆炎の中で立ち上がる、敵影に向けて、カテリーナが次の手を繰り出す。
「おおっと、動くなでござる、動いたら、お主の秘密を——」
 詠唱の意味は恐らく伝わっていない、だが魔力を孕んだ一手は確かに命を削り、その動きをも鈍らせる。
「これで、次は耐えなさい!」
 天々奈の放った癒術が危険水域にあったクオンの傷を癒やし、さらに盾の加護を与える。
「言われるまでも無い、さあ来い! 侵略者よ!」
 裂帛の叫びと共に、クオンは己の傷を癒すと、燃えるような瞳で敵を睨み据える。
 刹那の逡巡、だが敵が伸ばした産卵管は、クオンでは無く、その斜め後方のステインの左腕に突き刺さる。
「ッ?!」
 チクリとした痛みは小さかったが、体内に流れ込んでくる気配は体力の殆どを削り取り、全身に星形の発疹が浮かび上がる。襲い来る奇妙な疼きにステインの意識は飛びかける。
「傲慢に反逆せよ、傲慢は身を滅ぼし、我等が友を死にいざなう」
 間髪を入れずに、儚の癒技、さらにてれの応援動画に励まされて、ステインは事なきを得る。
(「噂には聞いたが、まさか、な」)
 刻まれたダメージは癒え切れていないが、今は攻め時だと、黒い悪意を右腕に込める。
「ぶち抜けろ、あほんだらぁ!!」
 直後、叫びと共に突き出した右ストレートが敵の頭部を直撃する。大きく揺らぐ異形の敵。
「今だ、やっちまえ!!」
 叫びに導かれるように、伸びるミルフィのフロストレーザーの輝きに貫かれた敵の身体が氷に包まれ、カテリーナの投じた手裏剣が螺旋の軌跡描きながら、吸い込まれるように尻尾の先を砕いた。
 次の瞬間、敵は天を仰ぎ、手足を巨大な口のように広げる。
「やらせませんわ! 今ここに禁忌の封印を解き放つわ!」
 アテナ様に敵対したことを後悔することね、幼きソプラノの唄声と共に繰り出される、幻影の騎士の一閃に揺らぎながらも、砕かれて焼かれながらも尚生きている、周囲の木々の生命力を啜らんと、食らい付く。だが次の瞬間アンチヒール、それを打ち消す力が発動する。
 癒しの一手を阻まれた敵が、まるで仲間を呼ぶかの如き奇声を轟かせる。
「往生際が悪いぞ、滅べ!」
 大上段から振り下ろされたクオンの無銘の大剣が敵の半身をあり得ない方向に押し曲げて、続けて、ステインの拳撃、森羅万象を撃ち貫く、雅の蹴り、後衛からの攻撃が乱れ飛んで、敵の身体は粉砕された。
「よし、全員無事だな」
 呼吸を整えるように、告げると、ステインは駆け出した。
 左腕には虫に刺されたようなかゆみがあるが、変わった様子は無い。
 スモークはこの時点でも濃さを保っており、ケルベロスたちを手厚く守ってくれる。
 そしてステインの持つ隠された森の小路も大きな助けとなる。
 果たして、星の巡礼者と呼称される浸蝕生命体、立ちはだかるそれを打ち倒した一行は、人類の勢力圏を目指して、薄暗い森を駆け続けるのだった。

作者:ほむらもやし 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年11月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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