紅葉の攻性植物!

作者:柊暮葉



 幻想的なほど美しい紅葉の広がる弘前城のある公園。
 一人の男がそこで竹刀の素振りをしていた。
「百! 百一! ……百二!」
 夕焼けを浴びながら紅葉の木々の下で熱心に剣道の特訓をする男。
 近所の高校の剣道部主将、須藤春馬である。
 春馬は素振りを一区切り終えると、肩で息をしながら周囲の紅葉を見渡した。そして一本の樹木の傍に近づいて行ってつくづくと見入る。
「本当に美しい紅葉だ。辛い修行も癒やされる……」
 そう呟く春馬。人一倍の修行が今の彼を作ったのだ。
 その春馬の見えない位置から紅葉に向かって謎の花粉を振りまく少女がいた。
 鬼薊の華さまである。
 花粉を浴びた紅葉はみるみるうちに巨大化し、醜悪に変形し--異形の蔦を春馬に向けて伸ばして行く。
「ば、馬鹿な、紅葉がっ……」
 条件反射で竹刀で振り払う春馬だったが、所詮一般人。たちまちデウスエクスの触手のような蔦に囚われてしまった。
「自然を破壊してきた欲深き人間どもよ、自らも自然の一部となりこれまでの行いを悔い改めるがいい」
 鬼薊の華さまはそう言い捨てると、攻性植物に飲み込まれた春馬を放置して立ち去っていった。


「青森県の弘前城に、植物を攻性植物に作り替える謎の胞子をばらまく、人型の攻性植物が現れ模様です。その胞子を受けた紅葉の株が、攻性植物に変化し、その場に居た一般人を襲って、宿主にしてしまったのです。急ぎ現場に向かって、一般人を宿主にした攻性植物を倒してください」
 セリカ・リュミエールが集めたケルベロス達に説明を開始した。
 カトレア・ベルローズ(紅薔薇の魔術師・e00568)は真面目な顔で話を聞いている。


「攻性植物の能力は以下になります」
 光花形態……身体の一部を光を集める「光花形態」に変形し、破壊光線を放ちます。
 収穫形態……身体の一部を黄金の果実を宿す「収穫形態」に変形させ、その聖なる光で味方を進化させます。
 埋葬形態……地面に接する体の一部を大地に融合する「埋葬形態」に変形させ、戦場を侵食し敵群を飲み込みます。侵食された大地は戦闘後にヒールで治ります。
 セリカは資料をめくって説明する。
「被害者の須藤春馬さんは近所の高校の剣道部主将です。部活の休みの日、高校の帰りに弘前城で特訓していたところ、攻性植物に襲われてしまったのです。周辺の区画には人はいませんが弘前城内は今紅葉が見頃ですので、何人かの一般人がいるかもしれません。避難誘導のためにキープアウトテープなどを利用するといいでしょう」
 セリカは説明を続ける。
「攻性植物は1体のみで、配下はいません。取り込まれた人は攻性植物と一体化しており、普通に攻性植物を倒すと一緒に死んでしまいます。ですが、相手にヒールをかけながら戦うことで、戦闘終了後に攻性植物に取り込まれていた人を救出できる可能性があります。ヒールグラビティを敵にかけても、ヒール不能ダメージは少しずつ蓄積するので、粘り強く攻性植物を攻撃して倒す……ということが可能です」


 最後にセリカはこう締めくくった。
「攻性植物に寄生されてしまった人を救うのは非常に難しいでしょう。だが、もし可能ならば救出してあげて欲しいのです。ただ熱心に剣道の特訓をしていただけの若者が、デウスエクスの犠牲になるだなんて……!」


参加者
一咲・睦月(柘榴石の術士・e04558)
モンジュ・アカザネ(双刃・e04831)
ミント・ハーバルガーデン(眠れる薔薇姫・e05471)
外木・咒八(地球人のウィッチドクター・e07362)
風魔・遊鬼(風鎖・e08021)
クルル・セルクル(兎のお医者さん・e20351)
仁王塚・手毬(竜宮神楽・e30216)
マナ・ティアーユ(エロトピア・e39327)

■リプレイ


 攻性植物発生の情報を得たケルベロス達は、ただちに行動を開始した。

 夕闇の迫る紅葉の弘前城公園にケルベロス達は駆けつけた。
 正に華美な錦のごとく美しい紅葉。それを見に、何人かの一般人が立ち寄っているらしい。
 それに気がついたモンジュ・アカザネ(双刃・e04831)は、風魔・遊鬼(風鎖・e08021)と連携を取りながら剣気解放を行った。
 膨大な殺気が解き放たれて、人々はたちまち虚脱状態になってしまう。
「立ち去れ」
 遊鬼は呆然としている一般人にそう命じた。
「ここは危険だ。立ち去った方がいい!」
 モンジュも別の区画の一般人にそう告げた。
 外木・咒八(地球人のウィッチドクター・e07362)も隣人力をふるいながら公園内を走った。
「ったく、めんどくせえことに、デウスエクスが発生した。早く逃げろ!」
 それらの力を適切に使った事により、一般人達は速やかに出口に向け移動し始めた。
 その間に、クルル・セルクル(兎のお医者さん・e20351)が、発生区画周辺に大急ぎでキープアウトテープを張り巡らせた。
 仲間達も手伝える者は手伝った。
 発生区画内--。
 桜紅葉が生い茂っていた公園の隅の区画には、今や攻性植物となり果てた醜悪な魔性の樹木が、幹の中心に顔面蒼白の少年を抱えて、枝を触手のようにうねらせていた。
 その根を巨大な昆虫の脚のように動かしながらケルベロス達の方へ近づいて来る。
 幹の中心の高校生らしき少年が、被害者の須藤春馬であろう。

「美しい紅葉も悲劇に彩られては美しさが霞みましょう。己の道を究めようと努力なさっていた方が、望まず破滅することなど、認めは致しませんわ!」
 テープを張り終えたクルルは勇敢な表情で攻性植物へと向かった。
「折角の美しい紅葉も、人を襲う攻性植物になってしまったら美しさが台無しですね。少年の救助と攻性植物の討伐、しっかり果たさなければ」
 一咲・睦月(柘榴石の術士・e04558)は、少年を助けたいという思いを明らかにした。
「紅葉の樹ですか、今の季節は紅葉が綺麗ですよね。でも、その紅葉が人を襲うとは……放ってはおけませんね」
 ミント・ハーバルガーデン(眠れる薔薇姫・e05471)は、冷静な無表情のままでそう言う。
「また攻性植物なんですね。巻き込まれた人を助けましょう! いつも通り、真夜もお願いね。回復は任せて!」
 マナ・ティアーユ(エロトピア・e39327)は、ビハインドの真夜とともに、闘志を漲らせている。
 そこに咒八が駆けつけてきた。
「熱心に修業とは感心なことだ。……ったく、めんどくせえが、熱心な一般人を巻き込むのは感心しねえ。さっさと片付ける」
 青ざめて動揺を隠しきれないでいる被害者を見て咒八はそう言った。
 続いてモンジュや遊鬼達も奥の方から走り寄ってきた。
 仁王塚・手毬(竜宮神楽・e30216)が攻性植物の側面に素早く走る。
 ケルベロス達は一斉に、攻性植物を取り囲むように展開して、戦闘準備にかかった。

 攻性植物は、あたかも目が見えているかのように、動きを制止した。
 さながらケルベロス達の動向を観察しているようである。
 そのまま触手のような枝をしならせてその先に、異形の黄金の果実を実らせた。
 黄金の果実が不可思議な輝きを放ち、攻性植物の全体を照らし出す。
 その輝きの加護を得て、攻性植物はうなり声を上げた。
「グゥォォア--」
 それを聞いて、被害者の春馬が引きつった悲鳴を上げて目を瞑る。

「儂の舞を見たいと? ほ、よかろ」
 手毬は手指の爪を超硬化すると攻性植物へ突撃した。
 テレビウムの御芝居様は注意を引くため主人に合わせてテレビフラッシュを撃つ。
 その魔力の加護を打ち破る打撃を与え幹を貫く。
 咒八は、流星を散らしながら重力を帯びた跳び蹴りを攻性植物に直撃させた。

『触れれば爆けるが鬼の腕』

 遊鬼は風魔式斬撃術『爆魔』(フウマリュウザンゲキジュツオハジキ)を行使。
 火薬で成形作成された棒苦無を敵に突き刺した後、着火爆発。
 凄まじい爆炎が巻き起こる。
「この電光石火の蹴りを受けて、痺れてしまいなさい!」
 ミントは鋭く強く旋刃脚を撃つ。

「風に舞う彩りの如く……落葉!」
 モンジュは百戦百識陣を用いて自身と仲間達に破魔の力を与えた。
「グァギャアアッ!」
 攻性植物が高く吼える。
 その動きを見据えながらクルルが魔術切開とショック打撃を用いて緊急手術を行い、攻性植物にヒール不能ダメージを与えた。
「大人しくしなさい」
 冷静な調子で睦月が流星と重力の跳び蹴りを敵にお見舞いする。
 マナもまた、ハンマーでドラゴニック・パワーを噴射。
 加速しながら攻性植物の枝を叩き潰した。
 ビハインドの真夜はマナに呼吸を合わせてポルターガイスト。

「グォオ……ガァアアッ……!」
 攻性植物は根や触手を激しくのたうたせながら、身もだえするような仕草をする。
「くっ……皆さん、逃げてください。何か、おかしい。ここは危険ですーッ!!」
 しかしそこでそれまで真っ青になって沈黙していた春馬が叫び始めた。
 何かを感じ取っているらしい。
 いくら剣道少年といっても一般人。そうとう恐ろしい思いをしているはずである。ケルベロス達は取り乱したと思った。
「必ず助けてあげますので、命を諦めないで下さい」
 ミントは落ち着かせようと声をかけた。
「私が力になりましょう」
 睦月もペースを崩さずに声をかける。
「ったく、めんどくせえ……」
 咒八はそう呟くが、その目は宿主を見据えて、どうにか助け出せないか考えている事が分かった。
 遊鬼は相変わらず戦闘時は無言である。
「気を確かにお持ちになってください! お辛いでしょうが今少しの辛抱です。わたくしたちが必ずあなたを救い出しますわ!」
 クルルも懸命に春馬へと声をかける。
「に、逃げてくださっ……」
 春馬が何か言おうとする度に、攻性植物は枝や根を蠢かして暴れている。

 その激しくのたうつ根が地面を叩きながら融合を始めた。
 根、幹、地面に接する部分がみるみるうちに溶け合って固まっていく。
 噴き上がるデウスエクスの瘴気。
 ケルベロス達が息を飲む暇も無い。
 埋葬形態。
 地面に亀裂が走ったかと思うと見る間にケルベロス達を飲み込んでいく。
 破壊の衝撃。
 襲い来る激痛。
 咒八、遊鬼、クルル、手毬はひとたまりもなく地面の中に飲み込まれ、あたかも埋葬されるが如く埋められていく。

『青き薔薇よ、その神秘なる香りよ、深遠なる加護の力を以て癒しを与えよ』
 ミントは青薔薇から抽出したアロマオイルの小瓶の蓋を開けた。
 空気に躍り出る神秘的な香り。地面の隙間から香りが入り込み、仲間達を癒やしていく。
「回復なら任せとけ!」
 モンジュはフェアリーブーツで華麗に踊り、花を降らせてさらに仲間達を回復していった。
 それらを受けてクルルは立ち上がると、薬液の雨を周辺に降らし、仲間達を全快に持っていく。
(「人間は欲深い生き物、などと…もちろんそれは否定致しませんが。その理由があるのにストイックに己を高めようとしていた若者を狙うなど、無差別もいいところですわね。いままでも幾度か、攻生植物に取り込まれた方を救助してきました。今回もしくじるわけには参りません。すべての人を救うことが無理だとしても、自分の手の届く範囲の方だけでも、命を、その人生を護れるのなら、いくらでも盾となり剣となりましょう!」)
 クルルは仲間達を回復しながら、鬼薊の華さまへ心の中で語りかけていた。
 御芝居様も応援動画で主人を中心に回復を手伝う。

 ケルベロス達は全員立ち上がった。
 手毬は攻性植物へと向かって走る。
『とくと見るが良い――』
 手毬は神楽【人中之竜】(カグラ・ジンチュウノリュウ)を使う。
 竜神に捧げるべき舞を攻性植物に捧げる手毬。
 たちまちヒール不能ダメージが蓄積されていく。
 続いて咒八もまたウィッチオペレーションを攻性植物に使い、更に蓄積。
 遊鬼は体内の豊富なグラビティを破壊力に変換、ドラゴニックハンマーに乗せて攻性植物へと叩きつけた。
 マナは攻性植物にスターゲイザーで重力の跳び蹴りを入れる。
 マナに合わせて真夜は金縛りを撃つ。
「もう一つの剣、受けてみなさい」
 睦月はマインドリングから光の剣を取り出し、攻性植物を切り裂いた。

「ガハッ……ガッガッ……」
 ダメージ、そして重ねられるヒール不能ダメージに攻性植物は瀕死の雄叫びを上げている。
 触手の枝をざわめかせながら、大きく振り伸ばす。
 その先に季節外れの異形の花が咲いた。
 花はさながら獣の口のように大きく開かれる。
 そこから放たれる炎!
 炎はメディックのマナを狙っていた。
 しかし、マナの前にクルルが飛び出る。
 光花形態がクルルを直撃する。
 燃え上がるクルル。

「ありがとうございます!」
 間髪入れずにマナが気力溜めを使ってクルルを癒やした。
 真夜は猛然とビハインドアタックで攻性植物を攻撃する。
「やれやれ、なかなかに疲れるが――此度は救うために舞うとあらば、力も入ろうというものよな」
 手毬は冷静に神楽【人中之竜】を舞い踊り、攻性植物にヒール不能ダメージを蓄積。
 御芝居様はマナとともにクルルを応援動画で回復している。
 遊鬼が攻性植物をツルクサのごとく変形させて襲わせ、同じ攻性植物を絡めて捉えていく。
「そのまま、爆破してあげますよ」
 そこでミントは精神を集中してクルルを襲った枝を遠隔で破壊。
 咒八は攻性植物の状態を見極めながら確実にウィッチオペレーションを行いさらにヒール不能ダメージ。
 モンジュはよろよろと立ち上がったクルルに幻夢幻朧影で回復をかけていく。
 睦月がゾディアックソードに星座の重力を宿しながら全ての守護を打ち砕く重い斬撃を放った。
 そこにタイミングを合わせるようにしてクルルが攻性植物にウィッチオペレーションを使う。
「グギャァアアッ……!」
 一声、暗い夜空に吼えたかと思うと攻性植物は痙攣し、そのまま冷たく動かなくなっていった。
 その幹が大きく真っ二つに割れて、中から被害者の須藤春馬が吐き出された。


「大丈夫ですか、どこか痛い所とかありませんか?」
 ミントが春馬に駆け寄ってそう言った。
「だ、大丈夫です……」
 心配かけまいと春馬は小さく笑っている。
 ミント、クルル、それにマナが中心になって、まずは被害者の春馬にヒールをかけた。
「ありがとうございます。この御恩は忘れません」
 回復した春馬は深々とケルベロス達に頭を下げ、もう遅い時間なので帰宅することとなった。
「あ、待てよ」
 そこでモンジュが春馬に声をかけた。
「何か、奢らせてくれよ。今回の事、楽しい思い出にして欲しいんだ」
「え、そ、そんな」
 春馬はだいぶ恐縮していたが、モンジュの世慣れて親切な雰囲気に安心したのか、その申し出を受ける事になった。
 どうやらけの汁を食べに行く事になったらしい。
 その後、ケルベロス達は戦場だった周辺にもヒールをし、片付けを終えた。
「せっかくここまで来たんだから軽く観光していくか」
 咒八はそう言って、夜の弘前市街へとぶらりと歩き出した。
「観光したいのう。儂は田舎者ゆえ、何を見るのも珍しいのだ」
 手毬も嬉しそうに弘前市街の名物を調べている。
「こんなゆっくりとした穏やかな時間、久しぶりですね」
 一方、マナは恋人のビハインド、真夜とともに夜空の下の紅葉を楽しんでいるようだった。真夜の方は紅葉よりもマナとの時間を楽しみたいようであった。
 公園内にはそれなりに街灯も立っているため、夢幻のごとく美しい紅葉が楽しめる事が出来たのだ。

 こうしてケルベロス達はまた一つ事件を解決し、それぞれが安らぎの時間を持つ事が出来た。
 デウスエクスの襲撃はやむことはないが、人々を守れた達成感と、ひとときの癒しの時間が、彼らを明日へと向かわせる--。

作者:柊暮葉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年11月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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