『王子様』決戦~怒れる赤の女王

作者:真魚

●『王子様』決戦
「おう、集まったな。さっそくだが、説明を始めるぞ」
 ケルベロス達へ、へらりいつもの笑顔を浮かべて。高比良・怜也(饗宴のヘリオライダー・en0116)は此度の作戦について言葉を続ける。
「創世濁流阻止戦が行われている最中だが、調査を行っていたケルベロスからの情報によって、新たな事実が判明した」
 一つ目は、ワイルドスペースの奥地に城のようなものの存在を察知した、ソル・ログナー(鋼の執行者・e14612)の情報。
 二つ目は、『王子様』の本拠地が城であると推測して調査した、久遠・征夫(意地と鉄火の喧嘩囃子・e07214)の情報。
 そして最後が、『王子様』がワイルドスペース内で活動していると想定して調査した、フィア・ミラリード(自由奔放な小悪魔少女・e40183)からの情報。
 この三人の調査と、創世濁流に注ぎ込まれたハロウィンの魔力の流れなどを多角的に分析した結果、山梨県の山中のワイルドスペースに『王子様』の城があることが判明したと赤髪の男は語った。
 ワイルドスペースの中心には、『王子様』の居城があり、ティーパーティーなども行われているようだ。
 敵の本拠地の情報に表情が引き締まるケルベロス達の姿、その頼もしさに怜也はにやり笑みを浮かべる。
「このワイルドスペースは『外部からの侵入を絶対に許さない』特性があってな。侵攻は不可能だったんだが、創世濁流を引き起こした影響でチャンスが到来した。少数精鋭でなら、侵攻作戦が可能だ」
 侵攻できるケルベロスは、百名程度。少人数での侵攻となるが、絶対不可侵の拠点であることから『王子様』側も迎撃準備を整えていない。短期決戦ならば、十分に勝算があるとヘリオライダーは告げる。
「ジグラットゼクス『王子様』をこの戦いで撃破することができれば、ドリームイーターの目論見を大きく狂わせることができる。『王子様』の撃破ができなくても、拠点に攻め込み有力なドリームイーターを撃破することができれば、今後の戦いが有利になるだろう。敵の本拠地に乗り込む危険な作戦だが、お前達にならできるって、信じてるぞ」

●防衛指揮・赤の女王
「さて、作戦を成功させるためには複数の部隊が手分けして行動することになるわけだが。お前達に相手してほしいのは、赤の女王というドリームイーターだ」
 名前の通り、赤いドレスを身に纏った、優雅な雰囲気の女性。この夢喰いは『王子様』の城の防衛指揮をとっていると怜也は語る。
「突入後、他の部隊がトランプ兵との戦闘を開始する。お前達はこの戦いには参加せず前線で隠れて待機していろ。やがて、侵入者の状況を確認するため赤の女王が前線に出てくる」
 現れた女王を、急襲し撃破する。それが、怜也の元へ集ったケルベロス達の役目になる。最も、赤の女王は強敵だ。簡単に倒せる敵ではないが、長期戦で足止めするだけでも、十分『王子様』を討つ仲間の手助けとなるだろう。
「急襲を受ければ、赤の女王は怒ってお前達を攻撃してくるだろう。薔薇を飛ばして切り刻もうとしたり、手にした杖を変形させ首を斬り落とそうとしてきたり、モザイクを飛ばして冷静さを失わせようとしてきたりする。こいつだけの相手も大変なんだが、周辺には女王の指揮で動くトランプ兵がいる」
 トランプ兵は、時間が経てば次々と集まってくる。一体一体の体力は然程高くはないのだが、数が多くなれば苦戦するだろう。また、後衛に位置する赤の女王を守るように前衛に展開してくるので、その中で女王を討つ方法を考えておいた方がよさそうだ。
「俺達の最終目標は、『王子様』を孤立させ、決戦で倒すことだ。そのためにも、赤の女王が防衛指揮をとれない状況におく必要がある。トランプ兵の数が増えないうちに短期決戦を狙い撃破するのか、『王子様』を別部隊が倒すまでの間長期戦で耐え抜くのか……やり方は、お前達に任せるぜ」
 恐らく、どちらを採っても苦しい戦いになる。しかし、彼らの働きは必ず決戦部隊へ影響を及ぼすだろう。
「全ての部隊が、全力で為すべきことを為す。そうやって力を繋いでいけば、それは『王子様』に届くはずだ」
 ぐるり、ケルベロス達を見つめる怜也の表情はいつになく険しい。けれど仲間達の真剣な顔を見れば自然と力が抜けたように――男はふっと笑み浮かべて、ヘリオンの扉を開いた。
「さあ、行ってこい! 防衛指揮を倒し、仲間を助け、『王子様』を倒すんだ!」
 かける言葉は、ケルベロス達の信頼に溢れて。いってらっしゃいの言葉で無事を祈り、赤髪のヘリオライダーは彼らを送り出した。


参加者
巫・縁(魂の亡失者・e01047)
ジューン・プラチナム(エーデルワイス・e01458)
フィルトリア・フィルトレーゼ(傷だらけの復讐者・e03002)
王生・雪(天花・e15842)
ウィリアム・シャーウッド(君の青い鳥・e17596)
オランジェット・カズラヴァ(黎明の戦乙女・e24607)
アスカロン・シュミット(竜爪の護り刀・e24977)
八尋・豊水(ハザマに忍ぶ者・e28305)

■リプレイ

●急襲
 周囲に響くは、剣戟の音と鬨の声。
 戦場となったワイルドスペースの中で、赤の女王を担当するケルベロス達は仲間の戦闘を見守り身を潜めていた。
 殺到するトランプ兵を押し込むように、前へ前へ。先陣切って戦う仲間の、その前線。そこに一際目立つ女が現れたのは、戦闘開始後ほどなくしてのことだった。
 真っ赤なドレスに、モザイク纏う王冠と杖。豊かな黒髪をなびかせる彼女は優雅に進軍してくるが、その表情は険しい。
「あれが、オネイロスの幹部……!」
 声漏らしたフィルトリア・フィルトレーゼ(傷だらけの復讐者・e03002)が、思わず身を乗り出した。そんな彼女の気持ちを汲むように、少し離れた物陰からオランジェット・カズラヴァ(黎明の戦乙女・e24607)が砲撃形態のハンマーより竜砲弾を発射する。それは女王の死角から迫り、その身に着弾すると同時に轟音を響かせた。
「く……っ!?」
 横合いからの突然の一撃。避ける隙なく、まともに受けた赤の女王は体勢を崩す。
「縁さん、お願いします……!」
「任された」
 呼びかけに応えたのは、巫・縁(魂の亡失者・e01047)。恋人の傍らで腕を振るい、仮面の男は蒼き鞘を高々と掲げる。
「奔れ、龍の怒りよ! 敵を討て! 龍咬地雲!」
 言葉と共に、重厚な鉄塊剣の鞘を大地に叩きつければ、生まれるのは衝撃波。地にめり込む『斬機神刀『牙龍天誓』』、さらにその鞘持ち上げ揮えば、衝撃波が女王目掛けて飛んでいく。
「だが私だけではない。この激闘の地を制するのは私達だ!」
 叫ぶ縁、呼ばれたように女王背面の物陰より現れたのは、白き髪に牡丹咲かせた娘。
「凜冽の神気よ――」
 王生・雪(天花・e15842)の涼やかな声が戦場に響き、閃くは氷雪の霊力帯びた一太刀。その凍てつく太刀は吹雪を生み出し、赤の女王の視界を、動きを、感覚さえも奪い去ろうと襲い掛かる。
 慌てて女王が振り向こうとすれば、反対側に位置する相棒のウイングキャット、絹が輪を飛ばし追撃した。
「おのれまだいたのか、ネズミ共が! 妾を襲うなど、無礼にも程があるわ!」
 怒りに声荒げ、女王が手を横に振れば紅薔薇の嵐が巻き起こる。その花弁は鋭利な刃となり、前方に位置するケルベロス達を襲った。しかし攻め手への攻撃は、縁のオルトロス、アマツとアスカロン・シュミット(竜爪の護り刀・e24977)が受け止める。
「どうした? 海パン野郎一人倒せないのか?」
 挑発するように語りかけ、ブーツに纏う星型のオーラで女王へ回し蹴りを叩き込む。動きは鮮やかだが――彼のケルベロスコートが風にはためく度、中にちらちら見えるのは本人が言う通りに海パンのみの出で立ち。
 そして、それは恐らく彼の狙い通りに――赤の女王は、アスカロンの姿を侮蔑の表情で睨みつけた。
「あぁ、やだやだ、これだからこの星の者は野蛮なのじゃ!」
 不快げに眉吊り上げ、揮われるモザイクの杖。その動きに周囲のトランプ兵が反応する。
「トランプ兵どもよ、何をしておる! 妾を守れ、ここへ集まるのじゃ!」
 号令が下されれば、兵士達はたちまちこちらに注目した。一人、また一人と、トランプ兵が女王を守るべく接近してくる。
 けれどフィルトリアはそれにも臆せず、真っ直ぐに女王を見つめて声張り上げた。
「赤の女王さん、一つお聞きしたい事があります。創世濁流を起こし、貴女方は一体何をするつもりですか?」
 問いを、敵に聞く気があるかどうか。表情ひとつ変えずにフィルトリアへ視線向ける女王へ、彼女は拳握りしめて再び口開く。
「もし多くの人の命を脅かす作戦を行い、何も感じないというなら、私は貴女方を許しません!」
「ふん。殴り込みに来ておいて、よくも言ったものよ。まったく、野蛮すぎて会話する気にもならぬわ」
 言葉と共に、振り下ろされる杖。それを待っていたかのように、兵士達が武器を揮う。
 剣戟、銃声、雷光。それは、女王側には戦う意志があると言うこと――。
「そうですか……」
 諦観胸に、フィルトリアは腰を落とす。次の瞬間弾けるように駆け出して、接近したのはトランプ兵の守り手。
「せめて、安らかな眠りを……」
 殺しを望まぬ相手なら、可能な限りわかり合いたかったのだけれど。自身の想いと決別するように、彼女は純白の炎を放出した。熱さも、痛みも、感じさせぬ浄化の炎。安らかな死へと導くその一撃に、トランプ兵の姿は掻き消えた。

●攻防
 女王の撃破を目指し、戦う。時間稼ぎだけでもいいと赤髪のヘリオライダーは言っていたが、彼らが採ったのはより困難な方針だった。
 けれど、全力を尽くせば必ず達成できる。そう信じて、彼らはグラビティを揮い続けたのだが――。
「こりゃ、思ったよりトランプ兵が多いですかね」
 ウィリアム・シャーウッド(君の青い鳥・e17596)が眉寄せ呟いたように、彼らは押し寄せるトランプ兵の数に苦戦することになった。
 決して、捌けないペースで敵が表れているわけではない。けれど多いと感じたのは、兵士の撃破がいまひとつ効率よく行なわれていなかったからだ。
 ケルベロス達が採った作戦は、攻め手を務める二人が兵士を蹴散らし道を開け、他の者が女王を狙うというもの。それ自体はもちろん有効な作戦なのだが、個々の行動がうまく噛み合っていなかった。
 攻め手の一人、フィルトリア。彼女は、複数の敵を討つグラビティを一種類しか用意していなかった。同種のグラビティを撃ち続けるのは、命中精度の点で難がある。彼女はどんなに兵士が増えても範囲攻撃と単体攻撃を交互に使うことしかできず、それが敵前衛の撃破速度を遅らせた。いかに攻め手と言えど、ウィリアムの範囲攻撃一撃で倒れてくれるほどトランプ兵も軟ではない。
 次に、女王を狙うはずの妨害手と狙撃手。彼らの大半は討ち漏らしたトランプ兵へのとどめも行おうと考えていた。フィルトリアが範囲攻撃を行なえない時、討ち漏らしは大量に発生する。それを彼らが落とすとなると、女王を狙う人数が減ってしまう。
 敵の数に限りのある戦場ならば、それでも押し切れただろう。しかし、此度の戦いにおいては敵の増援が途切れることはない。
 敵前衛を適度に蹴散らし女王の撃破を狙うのならば、攻め手はひたすらに範囲攻撃を行う方が効率がよかったのだ。特に、彼らが警戒していたのは敵の守り手。ならば、範囲攻撃で彼らに敢えて庇わせれば、効率的に疲弊させることができたのではないだろうか。
 そして、女王を狙う者達も、もっと女王優先と考えた方がよかった。気持ちは女王を倒したくとも、一撃で倒せる前衛が多くいる状況。優先度を考えターゲットを設定するのなら、条件達成難度についても考慮するべきだったのだ。
 結果的に、彼らの戦い方は女王の撃破優先と言うよりは、持久戦の形となった。ジューン・プラチナム(エーデルワイス・e01458)と絹が回復で戦線を支えたためそれでもなんとか戦えていたのだが――先に疲弊したのは、ケルベロスの方だった。
 まず、仲間を庇ってアマツが姿を消した。続けて八尋・豊水(ハザマに忍ぶ者・e28305)のビハインド、李々。彼らは貴重な女王専任だったため、これでさらに赤の女王に届くダメージが少なくなる。
 戦局が思うように進まず、大切な相棒も倒された。それでも豊水は、『鉄塊槌・パラダイムマッシャー』を振り上げて、砲撃形態へと変えたそれで女王を狙った。
「あの子達が作ってくれたこの好機、逃すような私ではないわ!」
 頭に浮かぶのは、創世濁流の戦いへと向かっていた弟子の姿。大切な人のためにも、負けられない。
 けれど、赤の女王は意に介さず杖を振り上げる。モザイクが広がり、蠢き、杖は瞬く間に大きな鎌へと姿を変える。
「まったく、しつこいネズミじゃ! これで首を切り落としてくれよう!」
 ぎらり光る刃、纏う力は強力で。彼女がそれを振り下ろした先は――ウィリアム。
 鋭利な刃は、彼の肩口へ食い込んで。女王は、残念外したようじゃと口では言いつつにやり笑った。
「兵士達、ぼさっとしておるでない! 妾に続くのじゃ!」
 女王の号令に従って、トランプ兵達も動く。
「おいおい……っ!」
 殺到する敵に、思わず身を引くウィリアム。けれど、その手が腰に差した二本の刀に触れて――男はふっと、笑みを浮かべた。
「いやいや、女王様にゃ俺らともっと踊ってもらいたいんですけどねェ。紙の壁は取っ払わせてもらいますよ」
 いつものように軽口、続けて呟くような言葉。それを合図に、トランプ兵達の視界が青に埋め尽くされた。それは、全てを覆う青い羽。目の覚めるような世界を見た敵は、そのままばたばたと倒れ込む。
 けれど、敵の盾に守られた攻撃手は生き残って。それが女王の命のまま手にした槍を突き込めば、ウィリアムはたまらず倒れ込んだ。
 意識手放すと同時、消える体。ワイルドスペースの外側へと弾き出されたのだと、仲間達が理解するのには一瞬の時がかかった。

●窮地から
「ウィリアムさん!」
 癒しの矢を射ようとしていたジューンが、消えた男の名前呼ぶ。間に合わなかった。歯がゆさに唇かむが、その間にも敵の攻勢は止まらない。
 増え続けるトランプ兵、繰り出されるグラビティ。それらを戦闘開始時から必死に受け止め続けたアスカロンにも、限界が訪れる。両手を胸の前で合わせて、深呼吸。自身を回復しようとするが、回復できたのはわずかな体力で。それでも、最後まで仲間を守ろうと金髪の男は女王を見据えた。
「兵士の強さもこの程度か。部下がこれなら幹部のあんた、それに王子様とやらもその程度ってことか」
「ふん、しぶとさだけは立派じゃな。しかしこれで終わりじゃ!」
 挑発に応え、女王が鎌を振る。首目掛けて描く斬撃に、アスカロンの身体もまた外の世界へと消えていった。
 前線が崩れた今、ケルベロス達にできることは持久戦しかない。
 意を決して武器を構え直す彼ら見て、赤の女王は訝しげな表情を浮かべる。
「ここまで崩壊して、それでも妾に挑むのか。ただの無謀か、それとも……」
 呟きは、そこで途絶えた。そして次の時には、女王は得心がいった顔でにやりと笑う。
「ほほう、なるほど。妾も舐められたものだ。トランプ兵、こやつらは囮じゃ、恐らくは『王子様』こそが狙い!」
「しまった……!」
 思わず漏れたのは誰の声だったか。赤の女王が続けて兵士達へ号令出さんと杖を振り上げる。その動作を見た瞬間、先に動いたのは縁だった。
 息を詰めて、精神を集中。そして彼のグラビティは、離れた女王の身体を爆破する。
「なっ……!」
 上擦る声、止まる女王の手。しかし、止められたのはその一瞬だけだ。
 顔を真っ赤に怒りの表情浮かべた赤の女王は、縁目掛けてモザイクを飛ばした。心を浸食するその一撃は強力で、彼の身体もその場からなくなる。
「縁さん!!」
 悲痛な叫びは、オランジェットのものだった。恋人が倒れる場面を目にした彼女は、そのまま泣き崩れるようにうずくまる。
 そんな彼女を、一瞥して。赤の女王は気を取り直したように、唇を開いた。
「ふん、妾を邪魔するなど、無礼にもほどがある。トランプ兵達よ、今すぐ城へ引き返すのじゃ! こやつらの相手は、妾がいれば十分じゃ!」
 その言葉を耳にして、オランジェットの心で何かが弾けた。
 地に伏せた彼女の服が、朱い炎を纏う。白銀の鎧は、じわり闇が滲むように漆黒へと染まっていき――。
「オランジェットちゃん?」
 異変に気付いたのは、豊水だった。しかしオレンジ髪のヴァルキュリアは、それには答えず闇色の『無貌の槍』を構えた。ただ真っ直ぐに女王を捉えるその瞳もまた、燃えるような色に染まって。
「……っ」
 小さな声、放たれたのは炎の色した光線。それは赤の女王の眼前で五つに分かれて、あらゆる方向から敵を撃った。
「あっ、あああ!」
 身を貫く光線は、今までとは比べ物にならぬ威力を持っていて。ただの一撃に女王はよろめき、初めて動揺を顔に映す。
「な、何だ、こやつは! 何があったのじゃ!」
 切羽詰まった女王の声、それに女王の命のおかげで減ったトランプ兵。
 この状況を見て――気を引き締めたのは、フィルトリア。
「倒しましょう、赤の女王を! まだ、戦えます!」
「はい、暴君に屈する訳には行きませぬ」
 頷く雪は、刀をしっかりと構え直し。凍結の弾丸を撃ち出せば、それを追うようにフィルトリアの凍結光線が戦場を奔る。
 女王を覆う氷は、暴走したオランジェットの炎にも解けはしない。焦る女王に畳み掛けようと、豊水は指先動かし唇開いた。
「マガ……グモ……ッ!」
 声により解放された力が、豊水の指先にひび割れを生む。しゅるり、ひびから射出されるは蜘蛛の糸。それは幾筋にも広がり、女王を囲み、そしてその全身を絡め取っていく。
「赤の女王、覚悟しろ! なにせボク達はしつこいよ!」
 元気に声上げ、羽広げ。フィルムスーツ姿のジューンも、溶岩のグラビティ操り攻めに転ずる。
「おのれ、ネズミ風情が……!」
 苦しげに声上げ、揮われる女王の鎌。しかしその一撃は、オランジェットの身に傷ひとつ残せない。
 反撃に、闇色の女が古代語を唱える。生まれ出た魔法の光線は赤の女王を穿ち、その身を石化しようとしていく。
「あ、あぁ……!」
「赤の女王さん、これで最後です」
 響く声は、フィルトリア。傷負った目でしかと宿敵を見つめ、彼女はバスターライフルを構える。大きな音と共に、放たれたのはエネルギー光弾。深手負った女王に逃れる術はなく、彼女はその一撃の前に声も上げずに掻き消えた。

●果て
 女王の消滅を見届け、零れたのは深いため息。緊張の解けたフィルトリアは、その場に倒れ込みそうになる。
「フィルトリアちゃん、大丈夫?」
 声かけ、助け起こしたのは豊水で。彼はそのまま視線を、戦場に残ったトランプ兵達へ向ける。
「みんな、まだ戦えるでしょう? トランプ兵達を少しでも減らしておかなくちゃね」
 朗らかに語りながら、一歩。踏み出した豊水は、そのまま空気にとけるように疾駆し、手にしたハンマーで残兵を叩き潰した。
 その姿に頷いて、ジューンも翼を広げる。
「そうだよね! 鎧装天使エーデルワイス、いっきまーす!」
 言葉と共に、放たれるのは英雄の必殺技。その一撃に倒れ込むトランプ兵見て、フィルトリアも、雪も、再び武器を構える。
「貴方達の夢は、此処でお仕舞――」
 お休みなさい。雪の静かな声が、不思議と戦場に響く。
 女王の命受け城へ撤退しようとするトランプ兵を、可能な限り引きつけ、撃破していく。赤の女王倒し、さらに倒れるまで戦い続ける彼らの働きは素晴らしいものだった。
 ――その努力が実を結び、この日ケルベロスは『王子様』の撃破に成功する。
 それを彼らが知るのは、ワイルドスペース外で目覚めた時のことだった。

作者:真魚 重傷:なし
死亡:なし
暴走:オランジェット・カズラヴァ(黎明の戦乙女・e24607) 
種類:
公開:2017年11月22日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。