●ヘリポートにて
創世濁流阻止戦が行われているところであるが、ケルベロスの調査で新たな事実が3つ判明した。
1つ目の情報は、ワイルドスペースの奥地に城のようなものの存在を察知したソル・ログナー(鋼の執行者・e14612)によるもの。
2つ目の情報は、『王子様』の本拠地が城であると推測して調査を行った久遠・征夫(意地と鉄火の喧嘩囃子・e07214)によるもの。
3つ目の情報は、『王子様』がワイルドスペース内で活動していると想定して調査したフィア・ミラリード(自由奔放な小悪魔少女・e40183)によるもの。
「この3人の調査結果と創世濁流に注ぎ込まれたハロウィンの魔力の流れなどを多角的に分析した結果、山梨県の山中のワイルドスペースに『王子様』の城がある事が判明したんだ」
ワイルドスペースの中心には『王子様』の居城があり、ティーパーティーなども行われているようだと、ウィズ・ホライズン(レプリカントのヘリオライダー・en0158)は続ける。
「このワイルドスペースの特性として『外部からの侵入を絶対に許さない』というものがある。そのため侵攻が不可能だったが、創世濁流を引き起こした影響で少数精鋭での侵攻作戦が可能になった」
侵攻できるケルベロスは100人程度の少人数だ。しかし、城は絶対不可侵の拠点であることから敵側も迎撃準備を整えておらず、短期決戦とするなら勝算は充分。
「ジグラットゼクス『王子様』を撃破できれば、ドリームイーターの目論みを大きく狂わせられる。仮に『王子様』の撃破ができなくとも、拠点に攻め込んで有力なドリームイーターを撃破できれば、今後の戦いが有利になるのは間違いない」
いずれにせよ、非常に危険な作戦であることには変わりないのだ。ウィズはケルベロスたちの活躍を期待し、さらに情報を説明する。
作戦の成否は『王子様』の撃破にかかっているが、ケルベロスがワイルドスペースに侵攻して時間が経過すれば、敵は次々と集まってきてしまう。
そこでそれぞれの持ち場に向かうケルベロスがうまく立ち回り、『王子様』を孤立させて撃破するのが今回の作戦目標だ。
「こちらのヘリポートからは、『王子様』に向かってもらう。……責任重大、だ。他の場所に向かったケルベロスの状況によって変化する可能性があるが、基本的には30人で『王子様』と戦うことになるだろう」
戦闘となった際に『王子様』が仕掛けてくる攻撃はどれも強力。かつて『王子様』が食べたというママのお菓子を具現化したような攻撃のほか、たくさんのお菓子の幻影を見せて催眠状態にする攻撃を仕掛けてくる。
また、ワイルドスペースに侵入してから30分が経過すると、強制あるいは任意でワイルドスペースの外部に転移する。そのため、撤退について考える必要はないといえるだろう。
「ワイルドスペース内で連絡を取り合う方法はない。だからこそ自分たちの役割を念頭に、確実にやり遂げることを意識して欲しい。……君たちならできると、信じているぞ」
全ての部隊が最良の結果を出せば、ケルベロスの刃は『王子様』に届くだろう。それを願い、ウィズはケルベロスたちを見渡した。
参加者 | |
---|---|
神門・柧魅(孤高のかどみうむ缶・e00898) |
泉本・メイ(待宵の花・e00954) |
ロイ・リーィング(見兔放犬・e00970) |
草火部・あぽろ(超太陽砲・e01028) |
橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125) |
リラ・シュテルン(星屑の囁き・e01169) |
コロッサス・ロードス(金剛神将・e01986) |
アルケミア・シェロウ(トリックギャング・e02488) |
水沢・アンク(クリスティ流神拳術求道者・e02683) |
レーン・レーン(蒼鱗水龍・e02990) |
東雲・苺(ドワーフの自宅警備員・e03771) |
皇・絶華(影月・e04491) |
ゼノア・クロイツェル(死噛ミノ尻尾・e04597) |
カルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112) |
タクティ・ハーロット(重力を喰らう晶龍・e06699) |
久遠・征夫(意地と鉄火の喧嘩囃子・e07214) |
円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214) |
ヴィンセント・ヴォルフ(銀灰の隠者・e11266) |
ソル・ログナー(鋼の執行者・e14612) |
ティ・ヌ(ウサギの狙撃手・e19467) |
穂村・華乃子(お誕生日席の貴腐人・e20475) |
バジル・サラザール(猛毒系女士・e24095) |
シルヴィア・アストレイア(祝福の歌姫・e24410) |
マーシャ・メルクロフ(月落ち烏啼いて霜天に満つ・e26659) |
祝部・桜(玉依姫・e26894) |
プラン・クラリス(愛玩の紫水晶・e28432) |
霧鷹・ユーリ(鬼天竺鼠のウィッチドクター・e30284) |
風陽射・錆次郎(戦うロボメディックさん・e34376) |
瀬入・右院(夕照の騎士・e34690) |
フィア・ミラリード(自由奔放な小悪魔少女・e40183) |
●持てる力の全てを
トランプの兵が守る扉が見えた。彼らが構え、ケルベロスを迎え撃とうとするのを見て、霧鷹・ユーリ(鬼天竺鼠のウィッチドクター・e30284)は声を張り上げる。
「他のチームの皆さんが敵を抑えてくれている今のうちに全員突撃ですね! さあ、全員で本丸を叩きましょう」
「心得たでござる! 『王子様』、いざ尋常に勝負ー!」
マーシャ・メルクロフ(月落ち烏啼いて霜天に満つ・e26659)は馬形のライドキャリバー「まちゅかぜ」に騎乗し、トランプ兵ごと扉を破ってゆく。
「こんにちは死ねェ!!!」
ソル・ログナー(鋼の執行者・e14612)も掌から竜を象る炎を放ち、トランプ兵を炎上させながら突撃する。
燃えるトランプの兵を気にも掛けず、ケルベロスたちは次々と室内へと雪崩れ込んだ。
一丸となって進軍してきたことで、30人全員が無事に王子と相まみえることとなった。しかし、代わりに犠牲となったのは時間。今や、ワイルドスペース突入から22分が経過している。
「残り時間8分、です。急いで、撃破、しましょう……!」
リラ・シュテルン(星屑の囁き・e01169)の報告に、焦る時間すら勿体ない。
「往きましょう、すべてのものを、救うために。王子様、いたずらは、ここまで、ですよ」
言われ、『王子様』はゆっくりと椅子から立ち上がる。すぐそばのテーブルにはスコーンやケーキなどの様々なお菓子と、紅茶が載せられていた。
「随分と騒がしいと思ってはいたが、ケルベロスであったか。本日のアフタヌーンティーに招待状は出していないはずだが、さて」
そう言って『王子様』はレモンクッキー、パウンドケーキ、マドレーヌなど、さまざまなお菓子の幻覚をケルベロスに見せつけて幻惑させる。
うそぶく『王子様』を前に、カルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)は鼻で笑う。
「招待状? そんなことより、ママのケーキを落とさないようにお気を付けくださいね――風よ、嵐を告げよ」
氷晶を伴う嵐が『王子様』を包み込んだ。甘党であるカルナは『王子様』の手にするケーキを叩き落とすには心苦しいものがある。しかし時間が時間だ、部位狙いなどしている時間はない。
「ママとやらはどんな人なんでしょうね? お菓子をたくさんくれるなら、僕も仲良くなりたいものですが……」
カルナの言葉に東雲・苺(ドワーフの自宅警備員・e03771)はうなずき、オウガメタルから輝く粒子を放つ。
「だよねっ、たくさんのお菓子持ってるのはちょっといいなー。敵じゃなかったらお菓子とお茶ご馳走になってたかもしれないねっ。でも残念だけど敵同士だし、決着つけないとだねっ」
何より、『王子様』を見つけたこの機会は逃しがたい。ボクスドラゴン「マカロン」が傷ついたケルベロスへ属性をインストールする。
「残る8分、拙者も全力でお相手いたす!」
マーシャはウサギの耳を揺らしながらフェアリーブーツ「抜刀-文明開化-」で跳躍し、星を象るオーラを『王子様』に蹴り込んだ。主に続くまちゅかぜは、炎を纏って『王子様』へと突撃する。
「僅かな綻びを生み出したてめェの失態だ、王子様とやら。此処が貴様の終焉だ!」
ギガンティックハンマーを噴射させて『王子様』に肉薄し、ソルは力の限りの一撃を叩き込んだ。
「先刻までアフタヌーンティーのつもりでいたが――そうだな、舞踏会も悪くない」
「王子様がそのつもりなら、こっちも遠慮なくやらせてもらうよ! さぁ、王子様! ここからが王子様への特別なステージだよっ!」
踊りも織り交ぜ、シルヴィア・アストレイア(祝福の歌姫・e24410)は「紅瞳覚醒」を歌い上げる。
余裕の『王子様』を遠くから眺めつつ、ユーリは巨大ワニの力を具現化した。
「私も援護しますよ! 野生パワー全開! わに! わに!」
両手を合わせてワニのようにパクパクさせ、味方に野生の力、すなわち状態異常への耐性を送り込む。
今回、王子の居城を見つけた功労者のひとりである久遠・征夫(意地と鉄火の喧嘩囃子・e07214)は、巨大ハンマーを変形させて竜砲弾を放った。
「『王子様』なら城に居るだろうとノリで動いた結果が、まさか発見に繋がるとは思いませんでしたよ」
言いつつ、眼鏡ごしの目はやや不機嫌そうだ。それもそのはず、今回は一番の得物である刀を所持していないためである。
「仕方ない、ですが……その分は城を見つけた手前もありますし、全力で『王子様』にぶつけさせていただくとしましょう」
ケルベロスたちは、死に物狂いで『王子様』に攻撃を叩き込む。あるいは、仲間の強化を施す。
しかし『王子様』が仕掛けて繰る攻撃によって削れる体力は少なくない。状態異常も蓄積する。ライドキャリバー「ベガー」がボディに炎を纏わせて『王子様』へと加速するのを横目に、リラは癒しの術を発動する。
「星は謳う、貴方のために。傷を癒す、この、謳聲。どうか、貴方に、届きますよう」
リラが優しく示した先には、穂村・華乃子(お誕生日席の貴腐人・e20475)が。
(「星達よ、どうか、わたしに、力を貸して。彼に優しい、終わりを――」)
流星の軌跡は、華乃子へと癒しをもたらした。
「ヒールありがと、リラちゃん!」
おかげで攻撃に専念できると一度だけ手を振り、華乃子は『王子様』へと駆け寄る。
「それにしても、マザコン王子様かぁ……乙女の夢をぶち壊しね」
そうして間合いに入るや否や、ブーツのかかとに仕込んだ刃を表出させた。
「これもお姉さんの愛の形よ!」
首元を狙った回し蹴りを仕掛け、『王子様』の向こう側に着地した。威力を重視したグラビティで、少しでも多くの体力を削るのが華乃子の狙いだ。
一方で、風陽射・錆次郎(戦うロボメディックさん・e34376)はひとまず傷ついた癒やし手のヒールを優先する。
「さぁ、傷を見せてねぇ? 大丈夫、痛くしないからねぇ?」
仕込んだ機械腕が、手早く処置を施してゆく。挙動不審な肥満体が行っていることを除けば、処置は的確だ。
今回は、作戦に参加する人数も多い。人一倍冷静な行動を心がけ、錆次郎は時計を見た。
「あと5分だよ!」
あらん限り大声で、仲間へと知らせる。
「承知いたした! では……むむ、拙者も回復に回るでござる!」
想定以上に回復が追いつかないと見て取ったマーシャは、近場の仲間を【王護之型】矢倉囲いで癒す。
いくつもの傷を負ったまちゅかぜは、幾度目かの突撃で『王子様』に炎を灯さんとエンジンを唸らせた。
「随分と後手に回っているようだな。……こんな時はママのスフレチーズケーキが食べたくなるものだ」
「お菓子より林檎の方が遥かに美味しいです! お砂糖の甘みばかりで、舌が鈍っているんじゃないですか!?」
裂帛の叫びを上げ、ユーリは耐える。少しでも『王子様』の攻撃を引きつけようという算段だ。その意図を理解したと、シルヴィアはユーリにウインクをする。
「ユーリさん、無理しないでね?」
一人だけに負担はさせないつもりだ。小声で告げたあと、シルヴィアはさまざまなスイーツを取り出す。
「お菓子なら私も持ってるよ♪ ケルベロスの仲間達が作ったお菓子がね♪」
うさぎだいふく。まろやかクリームのアールグレイ紅茶シフォン。ウィングヘッドフォン。シナモンアップルクランブルケーキ。それらを一瞬で眺めた『王子様』は苦笑し、首を振る。
「かつて私が食べたママのお菓子に敵うとでも?」
ならば、とシルヴィアは即興で歌を作り出した。
「守護者に祝福を…! 罪人に罰を…!」
城にて奮戦する番犬を謳う歌は、『王子様』内部のグラビティ・チェインを暴走させる。
ソルが振り下ろすのは、チェーンソー剣「ブラッディサージ・アサルト」。これまで『王子様』に与えられた傷がやにわに増える。
「随分と余裕ぶっこいてるようだが、闘いをナメてんのか御坊ちゃまよ。ママとやらの膝に甘えてよちよちされるのがお似合いってか?」
中指を立てて笑うソルを、『王子様』は一笑に付した。
「この私を挑発したいのなら、他のやり方を考えることだ」
言われながらも、ソルは『王子様』の目論見を察しようと、視線に注視する。しかし『王子様』の視線はただケルベロスの様子を観察しているだけで、別段変わったところはない。
「ええい、挑発なんてまどろっこしいことしてられるか! ここまで来て逃がすものかよ!」
残存体力のせいか、征夫の口調は普段よりも荒いものになる。そのまま翼を広げて飛び立ち、上空へと急上昇した。
「飛竜脚……行っけぇぇぇっ!」
征夫は『王子様』の顔面を蹴り飛ばそうと急降下し、片足での蹴りを見舞った。残念ながら顔は外れたが、飛竜脚は確かに肩口へと命中する。
「時間が少ないようですが……まだまだ遊び足りません。あいにく『舞踏会』のルールは存じ上げません。しかし『武闘会』は何方かが斃れるまで続けるものでしょう? 逃がしませんよ」
カルナはライフル銃を手にゆるりと立ち位置を変え、『王子様』へと凍てつく光線を放った。
「うんうん、時間がなくなって諦めそうな時こそがんばらないとだねっ」
マカロンの属性をインストールされ、苺はうなずく。
「どんなに厳しい戦いになっても王子様は討ち取るよっ。だから……勇敢なる戦士に戦う力を与えたまえ!」
苺は自身の生命力を高め、ソルへと触れた。とたん、ソルの傷が消えてゆく。
「あ、あと1分だよ!!」
そう叫び、回復に重点を置いていた錆次郎も流石に攻撃へと移る。
「王子と戦うなんて、手に汗握っちゃうよ! いや、本当に!」
掌が湿るような感覚を覚えながら、錆次郎はN-35組み立て式リボルバーマグナム「痛銃 マリリン」から銃弾を放った。狙うは『王子様』がお菓子と紅茶を楽しんでいたテーブル。銃弾は目論見通り跳ね返り、『王子様』を貫く。
ため息ひとつ、華乃子はドラゴニックハンマーを砲撃形態へと変えた。普段は拳で語る華乃子は、今回のために調整した武器はなかなかに慣れないものがある。不満をこぼしつつ、華乃子は『王子様』をじっと見て。
「『王子様』ってば(ダイエット中の)女子の敵ね。おまけにマザコンとか……でもね、食べられない物を見せられても興味ないわよ!」
叫び、しっかりと砲弾を撃ち出すのだった。
ケルベロスたちの攻撃は、苛烈を極めた。当然、応戦する王子の攻撃も相当のもの。庇い立てるケルベロスやサーヴァントたちの体力が削れるたびに、癒やし手たちがヒールを飛ばす。
やがてリラがライトニングロッド「Baguette etoile」を握りしめ、告げる。
「もう、30分が、経過、します……」
『王子様』も時間を把握しているのだろう、リラの言葉にゆっくりとうなずいた。
「創世濁流の隙をつき、我が前にまで戦力を送り込んだ勇気は称賛しよう」
『王子様』が両の手を合わせ、拍手をした。その顔には勝ち誇るような笑みが浮かんでいる。
「だが、間に合わなかったようだ。退散の時間だぞ」
手にしたケーキにフォークを入れて、『王子様』は勝利の甘味を口に含んだ。
●立ちはだかるもの
祈るような気持ちで、バジル・サラザール(猛毒系女士・e24095)がうなだれる。
「せめて、時計塔に向かったチームが成功していれば……」
「残念だったな。さあ、刻限だ」
『王子様』が指をぱちんと鳴らした。ここで、ケルベロスたちは『王子様』とお別れだ。
――と、誰もが思った。
しかし待てども待てども、ケルベロスたちが強制的に撤退させられるような事態にはならない。
「何故だ!? 超越の魔女が時計塔で特殊空間の維持を担っていたはず! 侵入から30分が経過すれば機能が回復し、敵はワイルドスペース外に弾き出されるというのに――まさか」
はっとした表情の『王子様』を見て、神門・柧魅(孤高のかどみうむ缶・e00898)は思わず笑みを漏らす。
「くっくっく、ケルベロスを舐めすぎたようだな。超越の魔女は、時計塔に向かったチームが撃破したようだ」
「馬鹿な……」
よろめき、数歩下がる『王子様』を前に、柧魅が仁王立ちになる。
「お前の敗北は確定した……フフ、最後がオレでよかったな」
その顔には、自信満々の笑み。本当はちょっと足が震えそうだし心の中ではかなりビビっているのだが。
ケルベロスたちの攻撃は、勢いを増し始める。
「――苦いなぁ。その程度でこのわたしがどうにかなるとでも? “甘く”見てんじゃねぇぞ――マザコン野郎」
アルケミア・シェロウ(トリックギャング・e02488)が、魔術でワイヤーを顕現する。
「往きなさい」
術者の意図通りに空間を往くワイヤーの一端が『王子様』に触れると、華のような氷塊を咲かせた。
「決めます…! 外式、双牙砕鎚(デュアルファング)!!!」
左足に蒼い冷気を纏い、水沢・アンク(クリスティ流神拳術求道者・e02683)が『王子様』に迫る。地獄化した右腕は戦闘開始時点から既に地獄が解放され、右腕の手袋と袖は炎に包まれている。
確実な間合いに入った後は足刀で『王子様』を浮かせ、加えて白炎を纏った右拳で追撃し、床へと叩きつける。
「さあ、ダンスの再開を。用意はよろしくて、王子様?」
レーン・レーン(蒼鱗水龍・e02990)が巨大な剣を振り下ろす。
「そう急ぐな。ダンスの相手は私だけではないのだからな」
いずれ駆けつける援軍のことを言っているのだろう。『王子様』は指先ひとつを剣に当て、剣の軌道を逸らした。
「正確な剣筋だ。だがそれゆえに読みやすい」
『王子様』は言い切るが早いか、タクティ・ハーロット(重力を喰らう晶龍・e06699)のいる前衛にモザイクのプディングをばらまいた。
「はっ! そんな不味そうなお菓子いるかよ! ダメージ発生するお菓子とか作り手が悪いんじゃねーのかだぜ」
仲間の分も受け止めつつ、タクティは嘲笑しながら『王子様』に接近する。
「『王子様』とやらもワイルドスペースを泳いでるかどうかは知らんけど、深く深く沈めてやろうか……!」
タクティの右腕が起点となって、結晶化が始まる。
「たとえ、何者であろうとも砕き潰すのみ…! 魔王掌! 晶滅!」
空間ごと『王子様』を結晶化し、右手で握りつぶすような動作をすれば、結晶が崩壊する。
『王子様』がいる居城の発見。ワイルドスペースへの侵入成功。『王子様』とそして超越の魔女が撃破されたことで、『王子様』撃破の機会は大きなものとなっている。だからこそ、とバジルは呼吸を整える。
「慌てず迅速に行きましょう……ただし無理は禁物よ」
バジルは後衛の背後で、極彩色の爆発を起こす。火力の底上げを受け、ティ・ヌ(ウサギの狙撃手・e19467)が素早く質量弾にグラビティを込めた。
「目標補足」
スコープを覗いて短く告げ、ティは仲間たちの間を縫って『王子様』へと弾丸を撃ち込んだ。スコープ越しに、弾丸が『王子様』の内部で爆発を起こす様が見て取れる。
ティは銃を抱え、次の狙撃ポイントを定めるために移動する。その間に、ボクスドラゴン「プリンケプス」がブレスを吐きつける。
「神門の秘術、魅せてやる」
柧魅は鋼の糸を『王子様』へと巻き付け、電撃のようなものを走らせる。かつて宿敵に敗走した柧魅が、その宿敵を倒すためだけに編み出したものだ。
「さあさあさあ、どうした『王子様』!」
追い立てるように柧魅が呼びかける。『王子様』が口を開いたその時、空間が大きく揺れる。ただごとではない様子に、ゼノア・クロイツェル(死噛ミノ尻尾・e04597)はもしや、とあたりを見回す。
現れたのは、肉塊のようなもの。
「やっと来たか。遅いぞ、公爵夫人」
公爵夫人、と呼ばれた肉塊は王子の方を見向きもせず、ケルベロスに向かって動き出す。
「ハラヘッタ……タベタイ……」
公爵夫人の大部分は凍り付き、さらは砲撃や弾丸が全身にめり込んでいる。そして蠢く目玉のいくつかは刀によって斬られ、潰されている。さらには一本のゲシュタルトグレイブが一本、突き刺さっている。
公爵夫人を相手取ったケルベロスは全滅したのだろう。だが、そこに至るにまでには凄絶なものがあったのだとうかがえる。
「……ここまでよくやった芙蓉。後は任せろ」
ゼノアは公爵夫人を足止めしていた知人を想い、小さくつぶやいた。
「これならば体勢を立て直せる。さあ、公爵夫人よ――」
「タベル……オナカ……ミタス……」
公爵夫人は『王子様』の命令を待たず、ケルベロスたちへと襲いかかる。
ケルベロスの一部が公爵夫人へとあたり、残りは変わらず『王子様』への対応を。
「タクにゃん、カバーよろしく! でも無理して大怪我しないでね」
「はいよ、任せなぁ! 攻撃はそう易々と通さねーのだぜ?」
ティに応答し、タクティは公爵夫人の攻撃から仲間を庇う。腕の肉が削がれた痛みに、タクティは呼吸を荒くする。
「ウマイ、ウマイ」
公爵夫人は咀嚼し、同時に自身の体力を回復した。タクティは膝を突き、痛みにあえぐ。
「ぐ、うっ……見た目も攻撃も化け物だぜ……!」
「大丈夫!?」
バジルはタクティに緊急手術を施し、どうにか一部の傷をふさいだ。
せっかく見つけられた数少ないチャンス。誰もが絶対に成功させたいと願い、怯むことなく公爵夫人、そして『王子様』相手に奮戦する。
ロイ・リーィング(見兔放犬・e00970)は強敵との戦いに意識を高揚させながら、公爵夫人の防備を弱める一撃を放った。
「たとえどんな強敵でも、皆と力を合わせれば、きっと、きっと勝てるよ。……だから、俺は俺のなすべきことを、ここでやりとげてみせる」
公爵夫人は満身創痍ではあるが、繰り出す攻撃の意威力はどれも高く、確かにケルベロス8人を沈めてきただけはある。
攻撃と癒しを繰り返す中、ひとり、またひとりとサーヴァントが、ケルベロスが、落ちてゆく。
公爵夫人が目玉を動かす。四角はないと言わんばかりの、自由自在な目玉の移動。公爵夫人に睨み付けられる仲間を庇ったマーシャとまちゅかぜが、共にくずおれる。
「無念でござる……! あとは……頼んだでござる……!」
「はい! お任せください!」
託されたからには、前を向いて。マーシャと同じ盾役を担う祝部・桜(玉依姫・e26894)は、ティへと癒しを与えた。大好きな友人であるリラが自分にしてくれたようにと、桜は癒やし手の補助としての回復を行う。
ライドキャリバー「ノラ号」の塗装がいくつか剥げ落ちているが、全身を炎で包み、果敢にも公爵夫人へと突撃する。
盾役が庇って応戦するだけでは負担が大きいと判断したアンクは、攻撃の矛先を公爵夫人へと変えた。
「この攻撃力は、捨て置けませんね。壱拾四式……炎魔轟拳(デモンフレイム)!!」
右の拳に白い炎を灯し、アンクは公爵夫人の肉塊に拳を沈める。
『王子様』への抑えに回るケルベロスも、決して油断ならない状況だ。
プリンケプスが『王子様』にブレスを浴びせるのに続き、ティはアームドフォートを展開した。主砲からの砲撃音が響くと、ゼノアの袖口から蛇のようなものが飛び出した。
「縛り、逃さず、絡みつけ」
『王子様』を戒めたのは、神経毒を送り込み、動きを阻害する鎖状のエネルギーだ。
「……王子ともあろう者が、番犬相手に逆に尻尾巻いて逃げると? 誇りを捨てた姿、母親はさぞ悲しむだろうな」
「逃げる? 逃げた方が良いのは君たちの方だと思うがね」
念のための挑発に、『王子様』は肩をすくめた。
「お前を始末した後は“ママ”とやらも地獄へ送ってやるから感謝するがいいぞ」
エクスカリバールを投げつけ、柧魅も挑発する。
「ならば、まずは私を始末してみることだ」
言い放つ『王子様』のそばには、気付けばレーンが佇んでいた。
「先ほどはダンスの指南、ありがとうございました。その成果を披露したく……踊れ、歌え、叫べ。千の痛み、千と一つの快楽の渦の中で、花のように舞い散り。そして、狂え」
にっこりと笑顔を浮かべ、レーンは全身からオーラを放った。これで、『王子様』の攻撃がレーンに向かう可能性が高まる。危険ではあるが、ケルベロスが勝利する可能性を少しでも高めたいがゆえの選択だ。
それにしても、公爵夫人の進撃は凄まじいものであった。最初に公爵夫人を足止めしていたケルベロスたちが与えたダメージや状態異常の蓄積こそある。しかしそれらが効果を発揮してなお、公爵夫人の勢いは凄まじいものがある。
シャウトを連打していたユーリの回復は追いつかなくなり、公爵夫人の抱擁を受けて限界を迎える。
「……オイシクナーレ……オイシクナーレ……」
「私なんかおいしくないでうよぅ……でも、私を倒しても、私達の勢いは止まりませんよぅ……皆さん、後はお願いします」
「ああ、ここで」
どこが傷口かわからないほどに負傷したタクティは、ドラゴニックハンマー「ligula」を振りかぶり、狙いを定めた。武器を変形させて撃ち出す砲弾は、公爵夫人の頭頂部に直撃する。
アルケミアの傷も、深い。それでも最後まで強がろうと、ペインキラーの恩恵にあずかる。
「何はともあれ、わたしのやることは変わらない。徹底的に嫌がらせをしてあげるよ……ねぇ、『王子様』?」
気合いの入り方は、人一倍。一度だけ視線を『王子様』へ遣り、アルケミアははファミリアロッドを小動物の姿へと変えて公爵夫人へと射出した。その軌道で、ちょうど桜の射線ができあがる。
「ありがとうございます、アルケミアさん!」
礼を述べる桜の影から、黒刃の大剣が現れ始めた。
「峰打ち、ですよ」
言葉と薙ぎ払いは、ほぼ同時。打ち据えられた公爵夫人にノラ号のガトリングが響浴びせられ、さらにロイが飛び出した。
「公爵夫人、さすがに強かったよ。でも――」
ロイの武器から、狼の形をした霊力が形成される。浴びた血、あるいは自身の血を気にせず、ロイは続ける。
「勝つのは、俺たちだ。さぁ、シメオン。毒の味を教えておいで?」
最後まで罵ることなく、強い敵には敬意を示して。『シメオン』は顎を開き、公爵夫人へと噛みついた。牙から流し込まれる毒に、公爵夫人は体を震わせる。
「アマイ……デモオイシクナイ……タベラレタクナイ……マダ……タベタイ……モウ……タベレ、ナイ……」
公爵夫人が、上下左右に伸縮し始めた。ケルベロスは警戒し、距離を取る。
「イヤダ……イヤダ……イヤダ……!」
公爵夫人の抵抗はひたすらにむなしく。暴虐の限りを尽くした肉塊は弾け飛び、終わりを迎えた。
●威風堂々
一瞬の静寂の後、『王子様』はため息を漏らす。
「まさか、公爵夫人を撃破するとはな。ケルベロス、なかなかに侮りがたいようだ。だが、そう簡単に降伏するようではママのガナッシュを味わう視覚はない。援軍が駆けつけるまで、耐え抜いてみせよう」
マントを翻し、『王子様』はケルベロスたちを見渡す。赤の女王やパティシエール鈴音、トランプ兵。援軍がこの場に到着すれば、おそらく戦況は変わだろう。
それでも当初より時間はあると見て、皇・絶華(影月・e04491)は『王子様』に問う。
「貴様もアポロンのようなドリームイーターを操る術を持つ者か! それともそれはママとやらか?」
「私が答えるとでも? それに何か言ったところでそれが正しい情報だと思える根拠はあるまい?」
「……そうか。なら、ここは貴様を倒す以外なさそうだ」
情報は引き出せないと悟った絶華は、螺旋の氷を放った。
ここまでケルベロスが集まることに珍しさを覚えながら、プラン・クラリス(愛玩の紫水晶・e28432)は『王子様』に微笑みかける。
「私の夢に招待してあげる、帰ってこれる保証はないけどね」
夢と現実の境を曖昧にする、サキュバスの夢魔としての伝承を顕現するグラビティだ。『王子様』の現実感を無くして存在感を薄め、夢に同化させる。
大規模討伐への参加は初めてではあるが、目的は仲間と一緒、大団円。どうにかここまで耐えてきたプランに、橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125)がプレゼントボックスを渡した。
「私からのとっておきのプレゼントよ♪」
「わ、ありがとう!」
プランが開いた箱の中から癒しのエネルギーが飛び出し、傷口を優しく塞いでゆく。テレビウム「九十九」もプランの前で勇気づける動画を流した。
前衛で壮絶な攻撃を仕掛け続けていた公爵夫人が消えたいま、『王子様』に近接攻撃が仕掛けられる。コロッサス・ロードス(金剛神将・e01986)はドラゴニックハンマー「終焉砕き」を加速させた。
ケルベロスは総勢100人でこの城に挑んでいる。たとえ卑劣との誹りを受けようとも、コロッサスが武人として恥よりも勝利に重きを置くのは当然の理。守るべき人々の命運を慮ればこそ、だ。
「相対すれば戦の掟に従いて唯討つのみ。貴公の齎す悪しき終焉……我らが武と意地を以て打ち砕く」
と、どこ厳かな顔つきで『王子様』に全力の一撃を叩き込んだ。
バスターライフル「ヒナワシューター」で、瀬入・右院(夕照の騎士・e34690)は狙いをつける。
「『王子様』の戦闘力は高い……でも、勝機は見え始めてる」
見え始めた勝利に期待するように引き金を引き、右院は氷を与える光線を放った。
ヴィンセント・ヴォルフ(銀灰の隠者・e11266)に届いたヒールは、頑張りやでしっかりり者、そして頼りになる友人からのものだ。感謝を胸に、ヴィンセントは言の葉を紡ぎ始める。
「悲しみよ凍えよ。苦しみよ凍えよ。痛みよ凍えよ。すべてを閉ざせ永久の果てに」
ヴィンセントが契約した氷の精霊を呼び出す精霊魔法は、零す涙で『王子様』にさらなる氷を与えた。
幾度か攻撃を仕掛けていたフィア・ミラリード(自由奔放な小悪魔少女・e40183)であるが、『王子様』の居城で戦っているということに未だ驚きがある。
「皆の期待を背負ってるんだから、負けられないよね!」
強く思うからこそ底抜けに明るい笑顔を浮かべ、跳躍した。星屑を纏った蹴りが、『王子様』を強かに打つ。
戦況は『王子様』が劣勢だ。『王子様』は時折首を傾げながら、ケルベロスたちの攻撃を受け、あるいは捌く。
そのうち『王子様』は何かを悟ったようにうなずいた。
「なるほど……どうやら、援軍は来ないようだな」
『王子様』の顔に、いっそ清々しい笑みが浮かぶ。
「創世濁流の隙をついたとは言え、お前達が送り込めた戦力は100に満たぬ筈。たったそれだけの寡勢で、公爵夫人に瀕死の手傷を負わせ、赤の女王とパティシエール鈴音を制し、超越の魔女すら撃破して見せたというならば、見事というしかないな」
だが、と『王子様』はケーキを手にした腕を高く上げる。
「私もジグラットゼクスの『王子様』だ。お前達がたった百人でここまでして見せたのならば、私一人でも、お前達全てを撃破するくらいしてみせねばな」
不敵に笑う『王子様』へ、草火部・あぽろ(超太陽砲・e01028)が日本刀「GODLIGHT」を手に斬りかかった。
「甘ちゃんのお前にできるのかよ? それにお菓子はモザイクばかり……城にはお前独りだけ。お前にママなんて本当にいるのか?」
刃を躱す『王子様』は、何も答えない。
「さあ、たっぷりと味わうがよい。バレンタインには早いが、この空間はそれまで保たないだろう?」
不敵な笑みを浮かべ、絶華が大声で呼びかける。
「私の本能が叫ぶのだ! 貴様のママの御菓子はパワーがまだ足りない!! ならば貴様に喰らわせてやろう! ママのガナッシュを超える圧倒的なパワーを秘めた我がチョコをなぁっ!!」
『王子様』の口めがけて投擲したチョコレートは、弧を描き。
「さぁ……とくと味わいドリームイーターへの頂点へと導くその圧倒的なパワーに酔いしれ……あ、あれ?」
『王子様』のフォークに弾き飛ばされる結果となった。
「甘いな」
「いや、実際のところグラビティで圧縮したカカオ10000%チョコレートに更にグラビティ強化した漢方薬を添えているから、甘いはずはないぞ!」
泉本・メイ(待宵の花・e00954)は、表情を曇らせながらも氷を纏う槍騎兵を召喚する。『王子様』はメイの宿敵だ。しかし、いや、だからこそ『王子様』を罵る言葉は辛い。
それでも、劣勢となった今も決して取り乱さず優雅で焦らない『王子様』の振る舞いは、メイにどこか安心感を与える。何よりも。
「宿敵である王子様に伝えたい想いを胸にここまで来たんだもの。絶対に負けられないの」
持ち込んだ種々のスイーツにそっと触れ、メイは槍騎兵のエネルギー体を『王子様』へと向けた。だが『王子様』はマントを翻して氷を遮断し、オルトロス「アロン」の放たれた瘴気をもはね除ける。
「……っ、調子乗ってるんじゃないわよ……!」
出来ることなら『王子様』の股間を蹴り上げてやりたいと思う円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)であるが、ひとまずは傷を負った仲間を満月の光球で癒やした。
「ゆくぞ」
目を細め、『王子様』はモザイクのプディングを作り出す。
その攻撃から守るべく、桜はヴィンセントの前に立ちはだかった。幻影を受け、桜はゆっくりと背中から倒れる。
ヴィンセントは、どこか安堵したような表情の桜を抱き留めた。
「そんなこと頼んでないだろ……? 怒るぞ、本気で……」
贈り物である装飾品をいくつか握りしめ、ヴィンセントは歯噛みする。
『王子様』の攻撃を幾度となく引きつけたレーン、公爵夫人の抑えに回っていたロイとタクティ、そしてケルベロス庇い立てたサーヴァントたちがことごとく戦闘不能に陥ってゆく。
「さすがはジグラットゼクスの『王子様』といったところかしら――でも。悪いけど、そんな不味そうなものより帰ってハンバーガーでも食べてた方がマシね」
芍薬も『王子様』の攻撃から仲間を庇ったものの、わずかに体力を残してどうにか耐えていた。庇われたフィアは、急ぎ指先にグラビティが込めながらハートを描く。
「マスター……お願い! 力を貸して!」
仲間と共に、敵を討つ。その決意が、何よりもフィアに力を与える。
フィアを背後に守り、芍薬は鼻で笑って髪を払う。
「王子様だか知らないけど、ワイルドスペースを使って随分好き勝手やってくれたじゃ無い……ママのお菓子は地獄でゆっくり味わってろ!」
芍薬が言い切ると同時に、フィアの描いた起点と終点が繋がった。
「ぶっとべ! ブロークン・エナジーハート!」
現れたハートを押し出せば、『王子様』に命中して破裂する。その結果に驚きを隠せないが、まだ終わりではない。
「デタラメな悪夢はもう終わり。しっかり醒めてね! プランさん、続けて!」
「はーい、それじゃ……いくわよ」
プランが掲げたファミリアロッドは、白い蝙蝠の姿へ。投げキッスひとつ、魔力が籠められた蝙蝠は『王子様』に激突する。
右院も畳みかけようと、ファミリアロッド「Huginn og Muninn」をワタリガラスに変える。
(「ここがドリームイーターとの決戦への大きな一歩だ……もう一息、頑張らないとね」)
「カラーリングとか食の好みとか結構キャラ被るのにどうしてお前だけ無条件にモテるんだ! 許さん殺す!」
建前を胸に本音を叫び、右院はワタリガラスに魔力を籠めて、それはもう凄い速度で撃ち出した。
あぽろも畳みかけようと、右手に太陽の力をチャージし始める。
「よく見ろ引きこもり野郎! 濁りの無い、太陽の、超克の光を!」
一気に距離を詰めれば、あぽろの髪が太陽のように輝く。
「『超太陽砲』! 光に、還りやがれーーーッ!!」
声が掠れるほどの咆吼の後、全てを消し飛ばさんばかりの、極大の焼却光線が放たれた。
しかし、王子は未だ倒れず。
「本気でいい加減にしなさいよ、このクソ王子……!!」
今度こそ、キアリは攻撃に回る。ハロウィンからここまでの連戦を思い返しながら、両手のガトリングガンからこれでもかと弾丸を撃ち出した。
コロッサスも闇を纏う炎の神剣を顕現させる。
「我、神魂気魄の剛撃を以て獣心を討つ――」
剣が抜き放たれた折りに訪れる光は、さながら夜明け。
そして、回ってきたメイの手番。
「甘い魔法を、ひとさじ」
思い浮かべるのは、楽しいおやつの時間。お母さんの作ってくれる美味しいお菓子。砂糖と見るぷをたっぷりいれた紅茶。
やがて形作られた光は、柄に小さなベルがついた銀のシュガースプーン。メイはスプーンをきゅっと握りしめ、甘い幸せを「すくう」ように手を伸ばした。思わず閉じた目を再び開けると、メイの視界には膝を突く『王子様』が。
メイは駆け寄り、『王子様』に語りかける。
「ね、王子様。私もお母さんの手作りお菓子が大好き。ココアもガナッシュも。……母に愛された記憶、甘い幸せ。今はっきり分かった……私と貴方は敵だけど本当の想いは重なる」
手を伸ばすメイを、『王子様』は黙って見遣る。
「……ママのお菓子は、最高だからな」
メイは、思わず笑顔をこぼす。
「この想いは、きっと心の奥で繋がってるから。私と貴方だけの絆だから。私、その絆に導かれて会いに来たの」
メイが抱きしめようと腕を回せば、『王子様』の胸元からモザイクが零れ始めた。手を止めて目を見開くメイを、ケルベロスを前に『王子様』はなおも強みの笑みを浮かべ、よろけながらも立ち上がって朗々と話し始めた。
「まさか、ジグラットゼクスの『王子様』がこのような所で滅ぼされるとは。だが、既にジュエルジグラットは進撃を開始している」
その言葉に、ケルベロスたちは色めき立つ。
「この『王子様』を滅ぼし、創世濁流を阻止しようとも――ジュエルジグラットの抱擁がこの世界を覆い尽くすのだ」
『王子様』の掲げた手にはモザイクが及び、ついに『王子様』は消滅した。『王子様』の持っていた、青い宝石が飾られたフォークがからんと落ちる。
とたん、大きな揺れが疲弊したケルベロスたちを襲った。
「いかん、城が崩壊する!」
コロッサスが叫ぶと、窓が、天井が、床が落ち、崩れ始める。これでは探索はままならないと、ケルベロスたちは手負いの者を手分けして抱え、脱出を急ぐ。
「ばいばい、王子様。貴方の見る夢が穏やかであります様に……」
『王子様』が消えた場所を一度だけ見て、メイは小さく手を振った。
城から出た後は、さらにワイルドスペースの外へ。
外部からの侵入を許さないワイルドスペースは、ケルベロスたちによって内部から崩壊させられた。
ケルベロスの刃は、確かに『王子様』へ到達したのだ。
作者:雨音瑛 |
重傷:ロイ・リーィング(紫狼・e00970) レーン・レーン(蒼鱗水龍・e02990) タクティ・ハーロット(重喰尽晶龍・e06699) マーシャ・メルクロフ(月落ち烏啼いて霜天に満つ・e26659) 祝部・桜(玉依姫・e26894) 霧鷹・ユーリ(鬼天竺鼠のウィッチドクター・e30284) 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年11月22日
難度:やや難
参加:30人
結果:成功!
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得票:格好よかった 40/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 4
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