現在、各所のワイルドスペースで行われている創世濁流阻止戦。
その間にも久遠・征夫(意地と鉄火の喧嘩囃子・e07214)、ソル・ログナー(鋼の執行者・e14612)、フィア・ミラリード(自由奔放な小悪魔少女・e40183)によって調査が進められ、新たな事実が判明した。
サーシャ・ライロット(黒魔のヘリオライダー・en0141)がテーブルに地図を広げ、纏められた3つの情報を簡潔に述べてくる。
「ソル・ログナーはワイルドスペースの奥地に城のような何かの存在を察知し、久遠・征夫は城を『王子様』の本拠地ではないかと推測した。そして、フィア・ミラリードが『王子様』のワイルドスペース内の活動を想定して調査を行った結果……」
創世濁流に注ぎ込まれたハロウィンの魔力の流れなど、多角的に分析して導き出された地点が指差された。
「山梨県の山中にあるワイルドスペースに『王子様』の城が存在することが判明したぞ」
『王子様』の居城があるのは、ティーパーティーなども行われているワイルドスペースの中心だ。
「そのワイルドスペースには『絶対に外部からの侵入を許さない』という特性がある。攻め込むことはできないはずだったが、創世濁流を引き起こしてきた影響で少数精鋭の侵攻作戦が可能になっているのだ」
突入可能なケルベロスは100人程度の少人数。とはいえ、機会を見逃す理由は無い。
「本拠地ではあるものの、絶対不可侵の特質から『王子様』側も堅固な迎撃態勢を整えてはいなかったようだな。短期決戦ならば勝算があるだろう」
ジグラットゼクス『王子様』を討伐することにより、ドリームイーターの目論見は大きく狂う。惜しくも首魁の討伐には至らずとも、名立たる敵の撃破で……今後の戦いを有利に運べるに違いない。
作戦概要の説明を終え、サーシャが微笑を崩さないながらもケルベロスに真剣な眼差しを向けてくる。
「とても厳しい作戦になるが、君達の力が必要なのだ」
決戦に不可欠な情報の説明に移ると地図が畳まれた。ワイルドスペースの内部は地形が変化していると思われ、もう不要になったらしい。
サーシャはテーブルに敵についての資料を並べてきた。
「君達は『超越の魔女イペルヴァティコ』の残霊を倒すために時計塔へと急いでくれ。絶対不可侵の機能を維持しているのは奴なのだ。その機能が作戦開始から30分で回復してしまう」
それは超越の魔女が生存する以上、ケルベロス達に与えられた猶予は『敵地侵入から強敵撃破まで30分』しか無いということ。それでも好機には違いない。
「機能が作用すればワイルドスペースの外に弾き出されるぞ。30分以内に討つことで強制力は失う。それ以降は撤退を受け入れると任意の転移も可能だ」
何にせよ、別動隊や今後のためにも超越の魔女は確実に討つべきだろう。
「超越の魔女は時計塔の広い屋上にいる。時間を経る毎にやってくる敵は……援護しやすそうだな。挟撃で対応が遅れないように気をつけてくれ」
己が背負う役割から、皆との戦いを長引かせてくるはずの超越の魔女。
「奴の周囲には、三色の魔女が傍に連れていた者と同じような使い魔が3体いる。合図一つで呪力を消し去るヒールを使うようだ」
守りを固めた上で攻撃の回避も試みてくるため、圧倒的な火力または堅実な一撃で消耗させるのが勝利の筋道になるかもしれない。
「右掌に浮かぶ一部がモザイクに染まった三色の球体からは、各色に対応した魔法を放ってくる。赤は火、青は氷、緑は風で本命の攻撃はどれか1発だけだが、牽制用の2発とて当たればかなりの威力だぞ」
最初は援軍が来るまで単独となれば、最後の攻撃手段は恐らく……。
「超越の魔女は乗っている箒から降りてくる時がある。箒を振って君達の周囲にモザイクを発生させ、それに邪魔されると攻撃の威力を吸収されてしまう」
ふと困ったような表情で嘆息してくるサーシャ。
「時間制限やら援軍やらがあるというのに……全く、厄介な敵だ。隊列の人数調整で対策する際は構成に注意してくれ」
必要な情報は出揃った。
「30分で全ての決着をつけられるに越したことはないが。君達はこれまでに時間で悔しい経験をしたことがあるだろうか?」
一度は表情を曇らせたサーシャが、今日一番の穏やかさで微笑んでくる。
「此度はケルベロスと『王子様』の決戦であり、君達にとっては……大切な者や仲間にそんな悔いを残させないための戦いだ。どうかよろしく頼む」
参加者 | |
---|---|
月宮・朔耶(天狼の黒魔女・e00132) |
ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815) |
ランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490) |
霧城・ちさ(夢見るお嬢様・e18388) |
櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597) |
セラフィ・コール(姦淫の徒・e29378) |
霧島・トウマ(暴流破天の凍魔機人・e35882) |
土門・キッス(爆乳天女・e36524) |
●時を刻む社
時計塔制圧チームは囮チームのおかげで余計な戦闘を免れた。
巨大時計を目印に急いで時計塔に到着し、ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)が大扉に触れる。
「みんな行くよ!」
時計塔内部に侵入すると、『超越の魔女イペルヴァティコ』の残霊2体に遭遇した。屋上にて待ち受けている者も残霊であり、ダンジョンに多数存在する現象と同様なのだろう。
月宮・朔耶(天狼の黒魔女・e00132)は白犬のオルトロス『リキ』達と一丸になって残霊達を一掃した。
「コイツらが援軍に来るんやろね」
二手に分かれた広い通路の片方を進み、最終的に螺旋階段前で合流するという構造だと発覚した。時には急がば回れで消耗を抑えられるかもしれない。
螺旋階段を上がりながら、霧島・トウマ(暴流破天の凍魔機人・e35882)が時計塔の主について呟く。
「屋上の奴どかさねぇと安全撤退どころか強制撤退か。なんとかしなきゃ作戦どころじゃねーなァ……!」
「いつもそうではあるけれど、今回はそれにもまして失敗できないね。時間計測は、ぼくに任せて」
「わたしも10分の区切りと制限時間の5分前にタイマーをセットしておりますの」
セラフィ・コール(姦淫の徒・e29378)と霧城・ちさ(夢見るお嬢様・e18388)は……改めてチームが背負う役目の重要性に頷き合った。
運悪く鉢合わせしてしまった残霊は蹴散らし、上を目指すケルベロス達。
(「どんな理由があろうと……可愛い女の子が傷ついたり、いなくなったりするなんて嫌なの」)
そんな想いを抱いている土門・キッス(爆乳天女・e36524)が、けっして戦闘で手を抜くことはなかった。仲間に迷惑をかけるぐらいならば涙を呑むのだ。
1度目のタイマーにも慌てないで移動していき、ケルベロス達は風が吹きつけてくる階段の手前にて一旦立ち止まった。双方から敵の気配は感じず、螺旋階段を駆け上がる。
櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597)は屋上に辿り着くと、今一度足を止めて階段に振り返った。
足音の有無を確認する千梨の横を抜け、最後尾だったセラフィが訊く。
「どうかな?」
「いきなり挟撃される心配は無さそうだな」
先頭のトウマは巨大時計の側にいる人影を発見した。
はっきり見える地点まで距離を詰めた時、セラフィの声とちさのタイマーが屋上に響き渡る。
「20分経過だよ」
「付き合ってもいねえオンナに時間を縛られる趣味はねえんだ」
気合を入れるように銀と白の狼毛を逆立て、ランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)が両手に持つ得物の柄を握り締めた。
「とっとと倒して時間を取り戻させてもらう!」
ケルベロス達は臨む。長いようで短い、『10分』の戦いに……。
●時限を巡って
ケルベロス達は援軍の警戒も忘れずに散開した。前線に並び立ったのは攻めのミリムとトウマ、守りのちさとキッスとリキだ。
どことなく大人らしい優雅さで、超越の魔女イペルヴァティコが箒から降りる。
「つれない男じゃ。口説き文句1つ無いとは」
「生憎と、お前さんは俺の好みじゃねえんだ!」
ランドルフに再度心にも無い一言を返すことなく、ミリム達に箒を振るってきた。
「小娘の方が素直で可愛らしいわ」
「ボクは強い、男なのだ!」
急を要す作戦でイペルヴァティコとの長話は諦めながら、獣の耳と尻尾が本心を語って動いているミリム。近頃の彼女は思い込みのメッキも剥がれ易い。だが冷たい現実を込めたような『進化可能性』を奪うハンマーの打撃は、紛れもなく痛烈だった。
間髪を容れず、トウマが治癒力を鈍らせるウイルスのカプセルをイペルヴァティコに投射する。
「てめぇ、城の連中とタメ張れんのか?」
「我の力をそれ程と思うておるのか」
幹部に比肩する力があるかはどうあれ、不敵に笑ってくる眼前の者は侮れないはず。ただちに援軍が現れたところで……己は人体理解が高い医者として、ひたすら暴力のメスを執る。
千梨は朔耶達を横切ってイペルヴァティコに蹴りを炸裂させた。
「時は金なりと言うな。此度は一分一秒が値千金だ」
「エクレアは回復をお願いしますわね」
若干淡い輝きのオウガ粒子を放出したちさ、セラフィの近くで黒翼を羽ばたかせたウイングキャット『エクレア』が、前衛陣にヒールをかけていく。
朔耶も効果的に呪力を付与していこうと、煌々と輝くオウガ粒子で前衛陣の超感覚を覚醒させた。
「リキさん!」
再び箒で浮遊しているイペルヴァティコの死角に、白き風のごとく疾駆したリキ。研ぎ澄まされた動きで飛びかかり、口に咥えた神器にて法衣ごと左腕を斬り裂いた。
「お主の使い魔もやるではないか」
ランドルフがハンマーを『砲撃形態』に変形させてイペルヴァティコを挑発する。
「偉そうじゃねえか。所詮お前さんは王子とやらに媚びるのが、関の山だろうが!」
先程蹴りかかっていった千梨とは逆に、自身はその場で轟音と共に竜砲弾をぶっ放した。
キッスの爆破演出によって前衛陣の士気が向上しても、イペルヴァティコはあくまで冷静だ。
「我もお前達に媚びられておるのかの?」
指を鳴らされた使い魔達が、各属性で手を繋ぐように主を囲む輪を作って愉快に回り出す。火と氷と風を浴びれば不思議と傷が癒えた。ウイルスも死滅したらしい。
朔耶とミリムは攻撃後に思わず使い魔達に見入った。
(「あれ、いいなぁ……ほしいなぁ……」)
(「ファミリア可愛い……1体欲しいのだ」)
2人の熱い視線に気づき、葉っぱで顔を半分隠してくる風の使い魔。
キッスは攻撃に転じ、チェーンソー剣でイペルヴァティコの法衣を斬り破った。
イペルヴァティコに黒き鎖を伸ばして締め上げ、セラフィが問う。
「やあ、超越の魔女イペルヴァティコ。みんなの助けがあって、ぼくらはここまで来たよ。君には……支えてくれる仲間がいるのかな?」
「お主達は何度も会ったはずじゃ」
道中で幾度も残霊と交戦したことは僥倖だったのだろうか?
イペルヴァティコが床に降り立ち、鋭く箒を振ってきた。前線の空間が歪んで3色のモザイクに包まれていく。
トウマを庇ってイペルヴァティコと視線を交えたキッスの頭に、ふと先日死に別れた敵の顔が過った。
(「アリスちゃん……」)
「お主、何を考え込んでおるのじゃ?」
目の前にいるのが残霊であろうとも、色々の中で一番に『死なない事』を訴えかけたい。だが決戦を継続させるためには討たねばならず……やはり運命というものは残酷だ。
攻め手の攻撃は安定して当たっているようで、千梨が鎌を投げて回転させる。灰色の刃がイペルヴァティコの左肩を斬り刻み、『灰隠』が手元に戻った。
「善き戦いになりそうかな?」
トウマがイペルヴァティコにウイルスを打ち直し、セラフィが薬液の雨でミリム達からモザイクを洗い流す。
その時、イペルヴァティコはケルベロス達より早く階段の方を見やった。
「ようやく援軍到来じゃ」
●焦燥の5分へ
3つの球体に魔力を注いだイペルヴァティコが、渾身の魔法を発動させてくる。
「それにしても、お主は面倒な男じゃな」
トウマの左半身は真空波に引き裂かれ、右半身は鋭い氷柱に貫かれた。さらに炎弾が頭上から落ちてきて火柱があがる。
ちさはどこからともなく出現させた袋をトウマに寄越した。
「ふぁいとですの!」
袋の中には、食せばヒール作用があるおにぎりやパンが入っている。どれも簡単に食べられる一口サイズだ。
少し回復したトウマはイペルヴァティコに氷結の螺旋を放った。
攻守も回復も両立させるため、キッスが真言を唱える。
「オン・マ・カ・シリ・エイ・ソワ・カ」
広い屋上に喜見城の幻が投影されると、エールを送るように『ミトゥナの舞』が踊られ、トウマにさらなる活力を満ちさせる。
「仕上げだね」
セラフィはトウマに魔術切開とショック打撃を伴う緊急手術を始めた。それぞれの部位に負った傷に応じて施すのは、ある程度治すための的確な処置だ。
「至れり尽くせりだなァ」
瞬時の手術が終了してからやってきた援軍。
イペルヴァティコに畳みかける直前で加勢してきた援軍を、ちさと朔耶が一瞥する。
「援軍は計4体ですのっ」
「たぶんディフェンダーとメディックの2人組やね」
階段からの次なる増援は無かった。間隔から逆算してみれば……増援があるとしても、後1度だろうか。
イペルヴァティコは景気づけに使い魔へと合図を出してきた。そのヒールは捗らなかったものの、ミリムのハンマーが守り手に止められてしまう。
「形勢は逆転かの?」
間もなく、攻撃対象を絞る時間。
後々無視したことで悔やまぬように、千梨が傷を負った守り手に『灰隠』を投げつける。朔耶は『御業』を召喚して回復手を鷲掴みさせた。
守り手達がちさとキッスに魔法を撃ち、回復手達がイペルヴァティコの回復を図ってくる。ヒールに専念しながら、まずは傷の深い2人を追い出すのが狙いらしい。
「ラスト5分だよ!」
セラフィはちさのタイマーが鳴ると同時に大声で伝えた。
確実に攻撃の威力を殺させないため、リキがミリムの分までモザイクに身を投じる。
折れそうな使い捨ての剣を投げ捨てたミリムは、2本目を懐から取り出した。
「裂き咲き散れ!」
刀身に緋色の闘気を纏わせていき、完璧にイペルヴァティコを捉える。そして、牡丹を描く完全な斬撃を見舞った。
「……その強さは認めるしかないようじゃな」
「当然だよ!」
千梨が回復手の周囲に結界を張り、内部に『御業』を呼び出す。
「紅に、惑え」
降ろされた『御業』は舞い散る紅葉に変じ、結界内にいる者の視界を覆った。赤々とした紅葉の合間からも容易には姿を晒さない鬼が……容赦ない爪撃で強襲する。
朔耶は『Porte』を杖から白いコキンメフクロウの姿に変身させた。
「ポテさん、お願いします!」
自らの魔力を込め、爪で引き裂かれた回復手に魔法弾と化した『ポルテ』を撃ち放つ。命中した魔弾のペットは神経回路を凄まじい程に狂わせてやった。
負傷していながらもキッスのチェーンソー剣を代わりに受けた守り手。イペルヴァティコが三属性の魔法でトウマを牽制し、守り手達がちさとキッスに襲いかかってくる。
「ここまで来て、倒せずに帰るなんてできませんのっ」
フェアリーブーツに星型のオーラを纏わせたちさは、イペルヴァティコに思い切り蹴り込んだ。
「我としてはお帰り願いたいのじゃが」
ランドルフが槍で超高速の突きを繰り出し、稲妻の帯びた刺突によってイペルヴァティコの胸を貫く。
「俺にビビッと来たかい? だがさっき言った通りで悪いねえ!」
「やれやれ……本当につれない狼男じゃな?」
売り言葉に買い言葉で、どちらも負けてはいない。そんなやりとりに限れば、まさに両者は拮抗していると言えよう。
もはや持ち堪えられそうにないキッスは……トウマだけでも癒し、直後の攻撃で転移させられた。セラフィが彼女のヒールを無駄にさせないために彼の手術を執り行う。
イペルヴァティコは使い魔に時間稼ぎのヒールをさせてきた。
「お主達も必死じゃな」
「必死だァ?」
今まで必死という感情を意識してこなかったトウマ。だが今回は常に、『心』がざわついていた。その原因が明らかになり、嵐のように荒ぶる感情を剥き出しにする。
「そうか、これが……必死ってことかァ!」
螺旋力で小規模な嵐を発生させると、イペルヴァティコに乱流の槍を叩きつけた。
●覚悟の境界線
イペルヴァティコの限界は遠くないはずだが、ワイルドスペースに突入から満28分。幸いにも増援の兆しは無い。残り2分間で……何もかも出し尽くすのか、無念にも敗北を喫してしまうのか。
味方にとっては頼もしく敵には脅威のトウマを、ちさが全力でイペルヴァティコの魔法から護った。牽制2発の直撃は辛うじて避け、炎弾の1発を派手にくらって背中から床に倒れ込む。
(「みなさまっ……!」)
ミリムは外部に弾き出されたちさの気持ちを受け取り、仲間3人と息を合わせた。
「せんりさん!」
「好機逸すべからず。ま、気張ってみようか」
捉え所の無い所作で、千梨がイペルヴァティコに『灰隠』を投げ飛ばす。激しく回転する鎌の刃が瀕死の身で防いできた守り手を刈り殺した。切羽詰まった状況で邪魔者を1人減らせても、彼の様子は何ら変わらない。
トウマの強力な一撃は生き残っている守り手に阻まれてしまった。だが幸運はそう長続きしないものだ。
「唸れ拳よ! このイカれスペースごとブチ砕いてやらあッ!」
咆哮で両拳に音波衝撃を宿らせたランドルフが、間隙を突いてイペルヴァティコに肉迫する。対峙すると怒涛のコンビネーションブローを打ち込んでいった。
「……我に勝つとはの」
続く攻撃もくらいそうだと観念したらしい相手に言い切る。
「知らなかったのか? 魔法は解けるモンさ!」
ミリムはドラゴニック・パワーを全開で噴射し、ハンマーを最大加速させて突撃した。その一打をもってイペルヴァティコを巨大時計に叩き潰す。
声を絞り出してくるイペルヴァティコ。
「我を超えた、お主達の行く末を見られぬのが、実に残念じゃ」
その態度の裏には凌げなかったことの口惜しそうな思いが感じられた。皆を称賛するような一言は、残霊ながらも超越の魔女としての矜持から出たのかもしれない。
消えゆくイペルヴァティコへと、ミリムが静かに告げる。
「王子様がそっちに逝くのも時間の問題だよ」
超越の魔女イペルヴァティコの残霊は、一瞬驚いてから微苦笑を浮かべて消滅していった。
自分達の役目は果たされ、ランドルフが皆に呼びかける。
「長居は無用だ!」
程なくして30分が経つと、撤退を受け入れて脱出するケルベロス達。
トウマはワイルドスペースから帰還してから、すぐに付近で倒れているキッスを見かけた。声をかけると意識を取り戻した彼女に報告する。
「俺達は勝ったぜェ」
チームの勝利は喜んで、キッスが密かに心の奥底で残霊のイペルヴァティコとも相容れなかったことを悲しむ。
(「ティコお姉ちゃん……」)
(「アイツは、欲しかったものは手に入ったのかな?」)
朔耶はそれが何となく気になった。三色魔女が渇望した力の名を冠する魔女の残霊。どこか達観していた彼女にとって、最期は『超越』の二文字に相応しいと思えたのだろうか?
ちさにも酷い怪我は無いか診たセラフィが、計測に使った時計に目をやる。
(「魔女は討ち取ったよ。これで時間制限は無くなった」)
後は制約より解放された者達からの朗報を……信じて待つのみだ。
作者:森高兼 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年11月22日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 9/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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