回転の極意

作者:霧柄頼道

 紅葉色づく人里離れた山中。周りを木々に囲まれた広場で、その武術家の青年は陽光を受けながら一人、黙々と修行に励んでいた。
 気勢を込めて突き出される拳。その腕から肘までには、固い材質で作られた木の棒が垂直に伸びている。棍棒のようなそれは、両腕に装着して振るうトンファーだった。青年は握り込んだトンファーを縦横に繰り出し、時折蹴りを混ぜて体術をより磨き上げていく。
「……奴の背には、まだ遠いか」
 一息つき、ぽつりと漏らした直後、背後からだしぬけに声がかかった。
「お前の、最高の『武術』を見せてみな!」
 振り返った先には一人の少女が立っている。すると青年は操られたように双眸から正気の色をなくし、トンファーを振り上げて襲いかかっていた。
 咆哮を発しながら鍛え上げた技の数々を浴びせかけるが、少女は微動だにしない。青年はならばと地面を踏みしめ、半身を斜めに傾けながら独楽のように回り始める。
「くらえっ、我が回転の嵐撃を!」
 遠心力を得た上で凄まじい連撃を叩き込むが、少女は面白そうに笑ってからおもむろに持っていた鍵を突き出し。
「僕のモザイクは晴れなかったけど、お前の武術はそれはそれで素晴らしかったよ」
 乱打の間隙を縫った一撃を胸に受け、青年は回転をやめてぐらりと崩れ落ち、気絶する。その隣から、代わりに起き上がるようにして一体のドリームイーターが出現していた。
 顔面がモザイク化している以外は、武道着を羽織った精悍な武術家風の出で立ちだ。
「お前の武術を見せ付けてきなよ」
 少女の言葉を受け、ドリームイーターは螺旋の紋様が刻み込まれた両腕のトンファーを持ち上げると、やおらその場で回転する。それは次第に威勢を増し、周りの木の葉を巻き上げながら巨大な竜巻へと変貌していく。
 竜巻はゆっくりと前進し、立ちはだかる木立を残らず薙ぎ倒しながら、災厄そのものとなって一路山を下っていくのだった。

「トンファーを用いた武技を極めるべく修練していた武術家の青年が、ドリームイーターに襲われる事件が起きてしまうっす!」
 集まったケルベロス達へ、黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)が告げる。
「ドリームイーターの名前は幻武極。自分に欠損している『武術』を奪ってモザイクを晴らそうとしているっす。今回襲撃した青年の武術ではモザイクは晴れないようっすが、代わりに武術家のドリームイーターを生み出して暴れさせようとするっす」
 出現するドリームイーターは、襲われた青年が目指す究極の武術家のような技を使いこなすようで、なかなかの強敵となるだろう。
 幸い、このドリームイーターが人里に到着する前に迎撃する事が可能なので、周囲の被害を気にせずに戦う事が出来るのだ。
「敵はドリームイーター一体のみで増援はなく撤退もせず、遭遇すれば全力で挑んでくるっす。ものすごい竜巻を起こしながら山を下ってくるので、見逃す方が難しいっすね」
 それだけに戦闘能力は高い。二つのトンファーを自在に操り、蹴撃をも交えた目にも止まらぬ連撃、そして間合いの離れた相手をすかさず穿つ猛突進からの打ち込み、さらに青年の編み出した奥義を進化、発展させた真・回転嵐撃は竜巻を纏いつつ死角から何十発もの攻撃をぶちかます、必殺技と呼ぶにふさわしい威力を備えている。
「ポジションはクラッシャーっす。一切回復しない攻撃一辺倒の相手ですが、守りをしっかりしないと打ち崩されかねないっすね。敵は山を下り、町を目指しているので皆さんも山道を進んでいけばおのずと出くわす事が可能で、ひと気もないから存分に暴れて大丈夫っす」
 敵はすでに竜巻を起こしながら進んでいるため、戦闘開始時の一手目は高確率で真・回転嵐撃を打ってくると思われる。出鼻をくじかれないよう要注意だ。
「ドリームイーターを倒せば、山中で倒れている青年も無事目を覚ますので、もしも時間があれば彼の修行に付き合ってあげてもいいかもっすね。それじゃ、よろしくお願いしますっす!」


参加者
花道・リリ(合成の誤謬・e00200)
眞月・戒李(ストレイダンス・e00383)
イルヴァ・セリアン(あけいろの葬雪花・e04389)
多留戸・タタン(知恵の実食べた・e14518)
ノアヴァル・デルガーサン(火を噴くドワーフ拳・e20865)
フレック・ヴィクター(武器を鳴らす者・e24378)
レオ・フォーサイス(赫灼のソレイユ・e32519)
速水・紅牙(ロンリードッグ・e34113)

■リプレイ


 涼やかな中にも冷たい風の吹き抜ける山中。花道・リリ(合成の誤謬・e00200)達ケルベロスは、紅葉の散った山道を踏みしめながら進んでいた。
「厳しさに己を投げ込む人間ってのは一定数いるのよね。理解できない」
 あかね色に染まった木立を眺めつつも時折あくびを漏らすリリに、レオ・フォーサイス(赫灼のソレイユ・e32519)は少し苦笑して。
「山奥で修行したくなるの、僕も経験者だからすごく良く分かるかな……。自然の中って、何だかとっても落ち着く、んだよね」
 だから、あまり他人事に思えない――方々に目を配り、木の葉を揺らしながら流れる風の音に耳を傾ける。ドリームイーターに襲われた武術家の青年もまた、この自然に心を洗われるような心地でいたのだろうか。
「天才、か……」
 フレック・ヴィクター(武器を鳴らす者・e24378)は思い起こすように語る。青年についてはほとんど人里に姿を見せなかったため分かる事は少ないが、その人物像を推し量る事はできた。
「勇者もまた天才とも言える人達は多かったわ。そういう意味で彼はその資格があったのかもしれないわね」
 時代が時代ならまさに勇者となっていたかもしれない。逆に言えば、デウスエクスに狙われるのもある意味必然であったのだろう。
「極めた武って天災に等しくなるものなのかな……何にせよほっとけないね」
「磨き上げた技術は何にも勝るその人の宝……奪わせるわけにはいかないし、意に染まぬ破壊に使わせるなど以ての外ですね」
 眞月・戒李(ストレイダンス・e00383)に、歩調を合わせるイルヴァ・セリアン(あけいろの葬雪花・e04389)も頷く。
「誰かのココロを盗っても自分のじゃないですのでーモザイクは晴れないと思うですけどもー、どしてドリームイーターは人のものでなんとかしよーと思うでしょかね?」
 その後をとてとてとついていくのは多留戸・タタン(知恵の実食べた・e14518)である。
 三人揃って頭をひねるが、タタンは気持ちを切り替えるように声を張って。
「ともかく! 武術はカンケー無い人を傷つけるものじゃないですから! 早く止めてあげるですよ!」
 するとその時、耳を澄ませていたレオがふと目を上げ、引き締まった声音を発して前方を指す。
「激しい風の音が……くる、よ」
「……あぁ、すごいわね、あそこ。紅葉の竜巻」
 指し示された方向を見やるケルベロス達。そちらではいつしか凄まじい旋風が巻き起こり、吹き飛ばされた土がめくらめっぽうに空を舞い、木の葉が壁のようなドームを作り出している。
「来たなドリームイーター! さあ、お前の回転を見せてみな!」
 地面を削り取りながら接近するドリームイーターにも臆さず、速水・紅牙(ロンリードッグ・e34113)はここが天王山と啖呵を切る。
 それを契機としたように、巨大な竜巻からこちらめがけてとてつもない数と威力とスピードの攻撃が襲いかかって来た。
「皆、ここを耐えよ! しかる後に果敢に攻めるのだ!」
 強烈な攻勢を受け止める前衛をノアヴァル・デルガーサン(火を噴くドワーフ拳・e20865)が激励しつつ、紅牙の守護をもたらすケルベロスチェインと合わせながら、オウガ粒子を浴びせてすかさず回復していく。
「邪魔は入りません、全力で参りましょう」
 殺界形成を展開したイルヴァの視線の先で、竜巻が晴れトンファーを備えたドリームイーターが姿を現す。ここからいよいよ反撃開始だった。


「……ちょっとアンタ、銀杏が潰れて臭うじゃないのよ。止まりなさい」
 かと思ったらまたも回転を始めようとするドリームイーターへ、眉をしかめたリリが半透明の御業を投げつける。禁縄禁縛呪を受けた敵は、糸の切れたようにぐらりと傾ぎ。
「武を以て挑むのはあたしも好きよ。だから……やる事は一つよね?」
 魔剣に雷を宿し、フレックが疾駆する。よろめく敵はトンファーを十字に構えて防御姿勢を取るが、先んじて打ち込まれた雷電の刺突はその胴体を貫く。
 だがすぐさま体勢を立て直し、ドリームイーターは前衛へ向けて迫る。その目前へ立ちふさがったレオは、野太刀を手に敵の猛ラッシュを防ぎにかかった。
「お兄さんは、そんな風に使われるために武術を極めてた訳じゃない……!」
 突き、払い、薙ぎ――回転を織り交ぜて繰り出される連撃を受け止めつつ、逆袈裟の一撃を返すも、勢いをとどめきれず後退を余儀なくされてしまう。
「一人で守りきれないなら、二人で三人で、ってね」
 そこへたどり着き、寸前でレオをかばったのは戒李である。
「アナタは回転にコダワリがあるですね! わかるですよ!」
 ミミックのジョナ・ゴールドが敵の足下へ食らいつき、動きが止まった瞬間タタンがぐっとしゃがみ込む。
「タタンは! ジャンプです!」
 ミサイルの如く一気に跳ね上がったジャンピング頭突きが敵を思うさま吹っ飛ばし、その間に戒李が傷ついた前衛へ抜け目なく気力溜めを使っていく。
「出遭った時点で、あなたはわたしの戦闘領域(テリトリー)の中……もう逃がしませんよ」
 イルヴァの振るうエクスカリバールがトンファーと強烈な火花を散らし合い、拮抗する。傷を恐れず踏み込んだ上で横殴りのバールが、ついに敵の胸部をしたたか打ち付けた。
「奴の攻撃が止まらぬというなら、その分こちらも回復してやるだけの事!」
「心配すんな、アタシらがついてる!」
 胸を張って仁王立ちするノアヴァルと紅牙が、殴り合う前線を支えるべく癒し続けていた。後方には我らありとどちらも恐れは見られず、やたら頼もしく感じるものである。
 戦いはとどまる事のない技の応酬がより戦況を加速させていく。この猛攻に前衛が耐え抜ければ、あるいは勝機も見える事だろう。そしてあの強烈な真・回転嵐撃を打ち破れるか否か、ケルベロス全員の連携にかかっていた。


 回転が引き起こす遠心力で落ち葉が木が土が舞い上がり、柱のように席巻する。ケルベロス達の前にはまたしても巨大な竜巻が形成されていた。
「貴方のそれが打撃という形で万能なように、我が刃もまた斬る事には万能であることを見せる!」
 雨のように降り注ぐ嵐撃のただ中を、フレックは敵目指して一直線に駆ける。狙うは竜巻の中心。敵の回転技の完成度は異常なレベルに達しているものの、こちらの集中力と研ぎ上げた観察眼、そして剣があれば。
「我が剣と我が技が一体になれば……時空や因果さえ……斬って見せる!!」
 無数の打撃に肩、腕、膝といった部位を打ちのめされながらも、構えを取ったフレックから、渾身の時刻みが放たれる。剣閃が瞬時にして竜巻を突き抜けた、その直後――ずるり、と竜巻の位置が空間ごと横一線にずれ、半瞬後には内側から破裂するかのように破られていた。
「ふ……見事。――む……来るか!」
 鮮やかさに感嘆するノアヴァルだが、ドリームイーター自身は早くも地面に降り立ち、彗星のような素早さでこちらへと距離を詰めている。
 身構えた矢先にタタンが飛び出してきて、間一髪でその打突と衝撃を抑え込む。
「おおー! あんまり痛くないです!」
 声を弾ませるタタン。それもそのはず、彼女をさらに防護するように、背後からノアヴァルの放ったマインドシールドが張り巡らされていたのだ。
 そのままジョナが黄金をばらまいて敵の気を引き、せーのと意気込んだタタンが全身でぶつかるみたいに思い切りハウリングフィストをぶちかましてのける。
 後ずさるドリームイーター。そこへリリも一応気合を込めるみたいに間延びした声調で。
「そーれ」
 狙い澄まして投げ放たれたバールが敵の頭部を直撃し、ぐらんぐらんと揺さぶっていく。当のバールはえぐれた地面とか積み上がった木の葉の中に埋もれてしまっている。
「あーあ、回収がめんどそ……」
 やれやれと肩をすくめるリリを標的に決めたのか、改めて向き直るドリームイーターの後方で、積み上がっていた木の葉の山がばっと弾け、レオが飛び出して来た。
「これ以上、好きにはさせない……!」
 敵の背後を取った上で迅速に詠唱し、かざした腕から光線を射出する。それは相手の肩口を捉え、よろめかせた上で音を立てながら石へと変じせしめていく。
「勝負です!」
 如意棒を手に挑むイルヴァ。ドリームイーターとせめぎ合い、隙を突いて棒でトンファーを絡め取る。それまでに痛打を数度もらってしまうが、手元で棒を裏回しに突き上げ、的確に顔面を打ち抜いてやった。
「イルヴァ、無理は禁物だよ! ここはボクが」
 戒李が割り込み、至近距離でオーラの弾丸を連射してドリームイーターを退かせようとするが相手もさるもの、円を描くような転回する動きでかわしつつトンファーをぶん回し二人へまとわりついて来る。
「お困りのようだな! 援護するぞ!」
 ただちに紅牙が光の盾を発し、敵の攻め手に対し防壁を作り出す。ところが今度はこちらにトンファーを向け、ドリームイーターが旋回しつつ滑るように近づく。
「おっ、やるか? こう見えてもアタシは1日中前転を繰り返す、とにかくグルグル回る、崖から全力転がり下りるなんて修行をしていたのだ! 回転には一家言あるんだぜ!」
 紅牙もまたぐるぐる回りながら移動する事で敵を困惑させるように牽制し、その間にできるだけ離れた味方の傷を癒していく。
 しかし攻防が長引くほどにドリームイーターの回転は勢いを増大させていき、ついには発生した竜巻はこれまでにない最大規模となり、天を突く見上げんばかりのハリケーンと化している。
 信念なき形だけの夢想か、結集した守るための力か。その甲乙を、いよいよ決する時が来た。


「行けえ、みんなぁっ! ――ルオオオオオオンっ!!!!」
 竜巻の轟音にも負けじと紅牙の発したギガ・シャウトに、少なくない被害を受けていた仲間達は活力を取り戻し、一斉に竜巻へと突撃を敢行する。
「極に挑み打ち勝つのはまさに誉れ。ならば全霊を尽くし我が技をぶつけるだけよ!!!」
 一度は回転嵐撃を破っているフレックが、先陣を切って突入。文字通り暴風の如く襲いかかる敵の猛撃を歯を食いしばりながら耐え凌ぎ、そして全力を振り絞った一撃は竜巻へと巨大なヒビを与えていた。
「これでどうにかならなきゃそろそろやばいし……とっとと終わらせちゃいましょ」
 そう言ったリリもまたしゃれにならない乱打の嵐に巻き込まれていたが、動じずに竜巻へと気咬弾を発射。着弾した瞬間に爆発を引き起こし、竜巻全体を傾かせる。
「竜巻に呑み込まれちゃう前に、やっつけるですよ!」
 ジョナが林檎飴型の武器でがしがし竜巻を攻撃している間、タタンもふんわりと回りながらジャンプし、ファンシーなブーツから彩り鮮やかな星形のオーラを飛ばして打ち込むと竜巻が崩れ始め、負傷しながらも円運動を続けるドリームイーターの姿が垣間見えた。
「これ以上暴れられたら山も滅茶苦茶に、なっちゃう……止めるよ、ぜったいに!」
 身体を次々と打ち抜かれ、立っているのも厳しい。それでもレオは、肩で息をしながら刀を握り込み、正面から竜巻へと斬りかかる。
 その風と打撃の障壁を縦横に叩き斬り、そして一歩……という段階で弾かれてしまう。何か決定的な後一手が、必要だった。
「ならば余が行こう!」
 仲間達の切り開いてくれた道。その一助となるため、ノアヴァルが疾走する。地面を蹴り、上空で回転するドリームイーターへとまっしぐらに接近して。
「貴様が真に拳士の矜持を持つ者ならば、余の拳が喰らうのは夢喰いの魂のみである!」
 全身全霊を込めた拳を、竜巻に引き裂かれるのも構わず撃ち出す。空気を割り、舞い踊る木の葉を纏い、噴き上がる土を抉り――その一撃は、竜巻と正面衝突して互いに吹き飛び合っていた。
 巻き上がっていた木の葉や土砂が散るが、ドリームイーターはいまだ余力があるとばかりに疲労するケルベロス達へ肉薄しようとする。
 刹那に現れたのは戒李だった。残像もなく忽然と出現したように見えたのは、足の魔術回路に魔力を流し込み、圧倒的運動能力によって先回りしていたからである。
「それじゃ、蹴り技勝負と行こうか」
 瞬時にトップスピードへ乗った戒李が超高速で敵の周囲を駆け巡ったかと思うと、四方八方から終わらぬ雨の如き斬蹴を叩き込み、反撃は無論、回避も防御すらも許さない。
「さあ、次はもっと痛いのが来るよ。イルヴァ、食らわせてやれ!」
 縮地『乱樋』の痛手により棒立ちになった敵から戒李がバク転の要領で距離を取りつつ目配せを送ると、バトンを受けたイルヴァが脇から入れ替わるように突貫した。
 眼前で地を蹴り、軌道を真横へと変えて流れるように背後を取る。敵も半回転しながら向き直ろうとするもこちらの方が一寸速く、影を纏った斬蹴が一閃して急所を貫き、斬り裂いていた。
 トンファーを取り落としたドリームイーターは、動作を終えた片膝立ちの姿勢で呼気を吐き出すイルヴァの前で、ゆっくりと消えていく。人と山を苦しめる嵐は、もうどこにも存在しなかった。

「おにーいさん! お手合わせしーましょ!」
 山中奥の広場で目を覚ました青年は、ケルベロス達から事情を聞いて礼を述べると、イルヴァからの誘いに喜び、二つ返事で了承した。
「トンファーは扱ったことないから、素手での組手とかの方が……嬉しい、な」
「俺自身もこの拳が錆び付いていないか、今一度初心に戻るのもいいだろう」
 旅立つ前には毎日のように義父と素手での組手をしていた懐かしさから口元をほころばせるとレオと不敵な青年、相対する双方には意味合いの違う笑みが浮いている。
「鍛えた拳で何を成すかこそ肝要。手合わせにてそれぞれの信念伝わる事も有ろう……余も拳士なれば相手仕る」
 ノアヴァルの言葉に、青年も後は拳で語るべく、無言で闘気を放ったものだ。
「ったく、よくやるわねぇ。喧嘩なんて、むかつく気持ちを拳にのせて、思いっきり殴ればいいのよ」
 手近な切り株に腰を下ろしだるそうに呟くリリだが、それでも彼らが拳を合わせる様子を眺めている。時々ちらりと、隣で少しでも技を学ぼうというように食い入るフレックを見ては肩をすくめたり。
 修行が一段落すれば、イルヴァから打ち上げにぱんけーきが食べたいという提案が。
「ぱんけーきは貴様が奢るか焼いてやるが良い、拳以外の事を学ぶも修行である故に!」
「食べるだけなら、たまには甘味もいいか」
「町で良さそーなカフェを見つけるです! パンケーキパーティーしちゃうですよ!」
「いいね。ちょうどお腹が減ってきたところだったんだ」
 タタンの言葉に戒李も同意し、全員で山を下る事に。
「降りる時も修練だぜ、前転しながら転がり降りるのぜ!」
 元気に坂道を転がっていく紅牙と青年を横目に、赤らむ空の下で息をついたのはリリだ。
「……またあっという間に寒くなるわねぇ。やだやだ」

作者:霧柄頼道 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年11月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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