『王子様』決戦~ワイルドカード

作者:そうすけ


「よく来てくれたね!」
 ゼノ・モルス(サキュバスのヘリオライダー・en0206)は緊張した面持ちで、緊急招集を受けたケルベロスたちの前に立った。
 現在、創世濁流阻止戦の最中である。
 多くのケルベロスたちが各地に現れたワイルドスペースの飛び地に出向き、『王子様』の野望を阻止するために戦っている。にもかかわらず、ヘリオライダ―たちから緊急の連絡が発せられた。
「集まってもらったのは他でもない、みんなにはいまから『王子様』の城を落としに行ってもらう」
 久遠・征夫(意地と鉄火の喧嘩囃子・e07214)とソル・ログナー(鋼の執行者・e14612)、フィア・ミラリード(自由奔放な小悪魔少女・e40183)。
 この三人のケルベロスによる地道な調査と、創世濁流に注ぎ込まれたハロウィンの魔力の流れなどを多角的に分析した結果、山梨県山中のワイルドスペースに『王子様』の城がある事が判明したのだ。
「ワイルドスペースは『外部からの侵入を絶対に許さない』特性があり、侵攻は不可能だったんだけど、創世濁流の影響でワイルドスペースの特殊機能が弱まり、少数精鋭での侵攻作戦が可能になったんだ」
 本来、絶対不可侵の拠点である事から、『王子様』側も迎撃準備を整えておらず、短期決戦ならば充分に勝算があると思われる。
「うん。ものすごく危険な作戦だよ。敵の本拠地に少数部隊で乗り込んでいくんだから……でも、ジグラットゼクス『王子様』を、この戦いで撃破する事ができれば、ドリームイーターの目論みを大きく狂わせる事ができるんだ」
 『王子様』の撃破ができなくても、拠点に攻め込み有力なドリームイーターを撃破する事ができれば、今後の戦いが有利になるのは間違いない。
「みんなにはワイルドスペースに真っ先に突入してもらうよ。後続のチームが『王子様』の元に到達できるように、城の外縁部でできるだけたくさんの敵を引きつけて撃破して欲しいんだ。作戦の勝敗を決めるといってもいいぐらい重要な役割だから、頑張って」
 残念ながら、戦力的に勝利は不可能だ。『王子様』を倒さぬ限り、トランプ兵は城から無尽蔵に湧きだしてくるからだ。
「どうやってトランプ兵たちを引きつけるか、きちんと話し合って欲しい。というのも、後続チームがトランプ兵に邪魔された場合、ダメージを受けて戦力が低下するだけでなく、時間制限による強制撤退のリスクが大きくなるよ」
 つまりは作戦が失敗するということ――。
 ゼノは表情を険しくした。
「ワイルドスペース内に留まれる時間は30分。一秒でも過ぎると、ワイルドスペースの特殊機能が回復して強制的に外部へ移転されちゃうよ。ああ、撤退は任意のタイミングでも行えるからね。全滅覚悟で留まって戦う、なんてことは考えないで。ちゃんとみんなで帰ってきて欲しい」
 ドリームイーターを含むデウスエクスたちとの戦いはまだまだ続くのだから。
 それから、とゼノは言葉を継いだ。
「ワイルドスペース内では、他のチームと互いに連絡を取り合う方法はないからね。作戦開始後は、自分達の役割を『最良の形』で果たす事だけを考えて欲しい。くれぐれも忘れないで。ここにいるキミたちが作戦成功の大きなカギを握っていることを」


参加者
ラハティエル・マッケンゼン(マドンナリリーの花婿・e01199)
凪沢・悠李(想いと共に消えた泡沫の夢・e01425)
愛柳・ミライ(宇宙救済係・e02784)
伊・捌号(行九・e18390)
東雲・菜々乃(のんびり猫さん・e18447)
ゼラニウム・シュミット(決意の華・e24975)
折平・茜(モノクロームと葡萄の境界・e25654)
クリスティーナ・ブランシャール(抱っこされたいもふもふ・e31451)

■リプレイ


 そびえる城を前に、鮮朱の炎に輝く翼を広げたラハティエル・マッケンゼン(マドンナリリーの花婿・e01199)は柔和な笑みを浮かべた。
「ケルベロス……マッケンゼン、見参。いざ、お相手願う」
 簡潔な名乗りとともに、燃える翼をはばたかせた。
 一閃、灼熱劫火の超高熱エネルギーが波となって高い城壁を舐めるように覆い尽くす。
『我が鮮朱の炎こそ、殲滅の焔! 揺らぐとも消えないその劫火は……地獄の中でも、燃え続ける!』
 城壁に無数のヒビが走り、大きな塊が音を立てて落ち始めた。火と煙が吹き上がる崩落箇所を飛び越えて無数のトランプ兵が、壁の内側から飛び出してくる。
 ラハティエルは滅魔刀を振るって、襲い掛かって来た敵の首に刃を食い込ませた。
 血のような赤い液体をどっとしぶかせて、ダイヤの2がきりきり舞う。その両脇を二体ずつ、トランプ兵が駆け抜けて行き、王子様の城に突撃を仕掛けたケルベロスを囲った。
 東雲・菜々乃(のんびり猫さん・e18447)はドラゴニックハンマーを振るった。龍の咢に変じたグラビティ・チェインがトランプ兵の囲いの一角を食いつぶす。囲いに生じた隙間に体を押し込むと、白い翼を庇うように立った。
「トランプで遊ぶことってあんまりない気がしますが、この兵隊はトランプの枚数分いるのかちょっと気になりますね。際限なく出てきてしまうと役作りやすくないでしょうか」
 スペードの剣先が不安を口にした頬をかすめる。ざっくり肉が斬り裂かれて血が飛び散った。
「あわわ……」
 内側に赤い点がついた伊達メガネをあわてて外す。
 周りの敵が三体同時に槍と棒を繰りだしてきた。
「プリン、お願いするのですよ」
 相棒のプリンが、ニャンとひと鳴きして顔の傷を癒す。
 そのプリンに、槍の先が迫る。
 大事な相棒は傷つけさせない。菜々乃は爆破スイッチを押して爆音を響かせ、じりじりと距離を詰めて来た敵を怯ませた。
 音を聞きつけて、新手が崩れた城壁の間から次々と出てきた。その数はざっと数えてみただけでも、トランプひと箱分をゆうに上回っている。
「嫌な予感っていうのは、よく的中するっすね。ほら、あれ……ナントカの法則ってやつ……」
 伊・捌号(行九・e18390)は地面にケルベロスチェインを落として、二人の元へ這わせた。トランプ兵の足の間をくぐり抜けた鎖がぐるりと回って魔法陣を作る。
 祈りの声でグラビティ・チェインが癒しの粒子となり、光ながら円陣の中に溢れた。
「傷を癒すついでに守りの力もアップさせておきましたよ、お二人さん。んじゃ、ド派手に暴れてお仕事の時間といくっすか。ねえ、みんな」
 膝を折ると右足を伸ばし、左足の踵を視点にしてくるりと回転。足払いでクラブの3をすっ転ばせた。
 倒れたトランプ兵の頭を踏み台にして高々とジャンプ――。
「ちょいと前を失礼っす」
 捌号は仲間の頭上を飛び越して、前線に立った。
「アハハ! いいね」
 目の前で、巫術士に螺旋忍者顔負けのアクロバティクな動きをされた凪沢・悠李(想いと共に消えた泡沫の夢・e01425)が豪快に笑う。
「それじゃあ、僕も城攻め、始めようか」
 剥きだしの敵意に背中のダイヤを刺されて、トランプ兵が振り返る。
 悠李はギラリと赤い瞳を光らせ、槍もちを睨みつけた。
「せいぜい――楽しませてよね……!!」
 刹那――。
 斬霊刀、神気狼が得物を求めて空を走る。
 鉄の兜の下、驚愕で目を大きく開いたダイヤ兵の首があっけなく転がり落ちた。
「ゼンゼン物足りないな! もっとかかってきなよ」
 遠慮はいらないよ、と悠李は向かってくるトランプ兵たちを煽った。
 そこへケルベロスの絶対勝利を高らかに歌い上げる愛柳・ミライ(宇宙救済係・e02784)の声が響く。
 デウスエクスの欲望で歪むワイルドスペースの空気が、トランプ兵たちの怒りで激しく震えた。
 空中で敵意に鋭さを増した多くの視線を集めながら、ミライは他の班の仲間たちに手を振って先を促す。
「ここは私達に任せて、先に行って……!」
 一度言ってみたかったセリフを口にして、電波アイドルのミライは思わず口元を弛める。
「――と、にんまりしている場合じゃない。ポンちゃん、見切りに注意して。倒せそうな相手を確実に倒すんだよ、いいね?」
 相棒のポンちゃんが、きゅっ、と小さく鳴いた。
 愛らしい口から放たれたキラキラが、地に転がったクラブの3を射抜く。
 仲間の断末魔を合図に、白から出て来たトランプ兵たちが一斉に鬨の声をあげた。
 己を鼓舞する奇声を発しつつ、土塊を跳ね上げながら五枚一組になった兵たちがケルベロスめがけて突撃を開始する。
 赤と黒が渦巻く殺意の大波がケルベロスたちを飲み込んだ。
「ここで止めなくては本命部隊が……。彼らの元に行かせる訳にはいきません」
 ゼラニウム・シュミット(決意の華・e24975)は濁流の中から突きだされた槍をかわすと、ウィッチオペレーションを開始した。
 冷静にバックラーブレイドを振るい、味方の魔に侵されて傷ついた患部を切開していく。右人差し指に魔力を込め、癒しの光を放つグラビティ・チェインを直接打ち込んで命そのものと共鳴させ、強引かつ大幅な治療を行った。
「傷の手当てはお任せください! ハート兵は無視して、役を作らせないようペアになっているものから倒していきましょう。一分一秒でも長く天…いえ、三十分戦い抜くために!」
 広く戦場を見回して敵軍の動きを見切ると、ゼラニウムはチームが突くべき薄い戦線を大声で仲間に指示する。
「三十分なんてみみっちいこと言いませんよ、一年だって持たせてみせます」
 不敵に宣言して、折平・茜(モノクロームと葡萄の境界・e25654)は決意で決めた特攻服の上から、スイーツ食べ放題のお洒落な店のチケットを服上から撫でた。
(「無事に帰って人段落着いたら、あの子とまた行きたいな……」)
 大丈夫。己の役目をきっちりと果たせば必ずみんなと笑って帰れる。勝利を手にして。
 茜はフェアリーブーツでモザイク状にささくれだったワイルドスペースの地を蹴った。 渦巻く角に風を絡み通らせながら、天空高く飛び上がる。
「そこっ!!」
 遥か高みから指示のあった攻撃目標の一か所に仲間の攻撃で深手を負ったスペードのジャックを見つけると、脚を槍のように伸ばして急降下を開始する。
 ブーツの爪先が空気を割り裂きながら落ちてゆく。気圧の差から発生した水蒸気がリボンのようにたなびく美しい虹を作りだし、純白の羊を包み込む。それはスペードのジャックを貫いて、大地に起立する虹となった。
 だが、その美しい一撃は、続くトランプ兵の大群をさらに怒り狂せた。
「チビたんもがんばるの」
 クリスティーナ・ブランシャール(抱っこされたいもふもふ・e31451)は、ぱん、と両手で頬をはたいて気合をいれると、太刀――備前紅桃の柄に手をかけた。もふもふした尾を静かに揺らし、眼前に迫った敵から目をそらさず、腰を気持ち落として力を貯める。
 クラブキングの棍棒が振り下された。
「やあっ!!」
 棍棒が艶やかな桃毛に当たる寸前、一歩、大きく前に踏み出してかわす。間合いを詰めると同時に抜刀し、鋭く薙ぎ払った。
 刃が空を切り、冷たい音が後に続く。
 上下になったキングの柄が、斜めに切り離された。
「ごめんね……なの。いまは、まだ……」
 人とデウスエクスは、いつの日か解りあえる。そう信じている。だが、いまはその時ではない。いま成すべきことは、仲間たちを一人でも多くジグラットゼクス『王子様』の元へ送り込むこと。
「だから、チビたんはたたかいきる、の!」
 元デウスエクスである柴犬のウェアライダーは、押し寄せてくる敵を前に心を鬼にして、刀を振い続けた。


 怒声と悲鳴、怒りと憎悪が渦巻く戦場で一進一退の攻防が続く。
 敵が流した体液で次第に重さを増していく惨殺ナイフを手に、茜は空を仰いだ。
 ワイルドスペースの空は刻々と禍々しさを増していた。城壁の内と外で上がる黒煙が、炎の照り返しで赤く染まる空をまだらに縁取っている。
 敵の攻撃の合間に、ふうと息をついたとき、三回目になるアラームの振動と音を聞いた。
「十五分たちました!!」
 タイムリミットの折り返し時刻だ。
 チームは一丸となって崩れた城壁の前に移動した。
「私達はここで援軍なんか抜けられないように戦闘していくのですよ。突入してるみなさんが戦っている限り、私達もまた戦い続けるのです」
 せっかくおびき出したのだ、一兵たりとも城へ戻らせるものか。
 菜々乃はバトルオーラで固めた左腕でスペードの剣を受け止めると、薄い腹に蹴りを食らわせた。
 モザイクの大地を揺らしながら、大勢の敵兵が城壁の割れ目をめがけて走ってくる。
「私がいく! フォローしてくれ!」
 ラハティエルは翼を翻して体を転じると、単騎、敵中へ躍り込んだ。渾身の力をこめて滅魔刀”レガリア・サクラメントゥム“を振り回す。獅子奮迅の活躍で寄せ返してきた敵の大波を切り崩した。
 純白の羽を飛ばしながら雄々しく戦うオラトリオに対抗して、ダイヤの槍隊が整列。ずらりと大盾を並べた。突撃ではなく、防御の陣形だ。
 しかしこの時、あれほど気を配っていたにもかかわらず、偶然にも役が揃ってしまう。左のダイヤ五枚でワンペア、右のダイヤ五枚でワンペアだ。
 揃って突きだされた槍の先から炎が吹き出し、塊となって左右からケルベロスたちを襲う。
 ラハティエルが炎に飲み込まれると、後ろにいた仲間たちも次々と焼かれた。
「確率から言えば今まで出なかったことの方が奇跡に近いのですが――神よ、よりにもよって、ふたつ同時に出させるとは」
 彼方に居られます我が神よ、みごとこの試練に耐えてみせやしょう。
 捌号は祈った。
『聖なる聖なる聖なるかな。届きたまえや、我が祈り』
 清らかなる光が赤黒く染まる空を割って、地に伏せた天使の翼に降り注ぐ。
 トランプ兵は追撃してこない。なぜか、五枚一組の敵左列からダイヤ2が二枚抜け、右列から抜けたQが一枚入った。右列の穴にはスペードの3が入る。
 プリンは力尽きる寸前、懸命に翼をはばたかせて清浄の風を起こした。風はケルベロスたちの間を吹き抜け、焼けただれた皮膚から熱を取り去り、痛みを和らげた。
「プリン!」
 相棒に抱きかかえあげられたプリンは薄眼を開くと、にゃん、と弱々しく鳴いた。
 同志の頑張りに振るい立ったポンちゃんが、もふもふの毛玉になって敵左列のダイヤの10に体当たりする。
 ミライはすかさず吹っ飛んだダイヤの10にトドメを刺した。
「ポンちゃん、えらい! よく気がついたのです!」
 ダイヤの2が抜けた穴にダイヤのAが走り込んできた。が、すでに10が倒されているため役は成立しない。
 そう、危うくロイヤルストレートフラッシュが成立するところだったのだ。
「ポーカーの役は理解してるのですが、さて戦闘中だと中々難しいのです」
 枚数の縛りなく、これだけの数が戦場にあふれている。すべてのトランプ兵がポーカーにちなんだ協力技を体得しているとは思えないが、使ってくる確率はかなり高いといえよう。
「アハッ、いいねぇ! いつ大技が炸裂するかわからない……ゾクゾクするよ」
 悠李は狂気をはらんだけたたましい笑い声とともに敵の前に躍り出た。
『さーて、君はどこまで付いて来れるかなっ♪』
 魔天狼と神気狼。踊りながら二振りの刀をまるで短刀のようにジャグリングする。
 トリッキーな動きに翻弄され、ダイヤのキングは目を左右に揺らした。躊躇うように剣先を泳がせた後、左腕を狙って切りにいく。
「残念でした♪」
 軽業師は下から救いあげるように右腕を振り上げて空中で魔天狼をキャッチすると、そのまま体をコマのように回してダイヤのキングが突きだした剣先をかわした。
 高速で回転しだしたコマの刃が、薄い体を切り刻んでバラバラにしていく。
 五分おきに設定されているタイマーが鳴った。
 四回目。あと十分で結果がどうあれ、ワイルドスペースから弾きだされてしまう。
「まだまだ! とことん粘らせてもらおうかッ!」
 殺戮コマは回転数を上げた。群がってくるトランプ兵たちを次々とその刃にかけていく。
 ゼラニウムはピンクの花を咲かせると、王冠状に配して頭を飾った。
 その花言葉は『決意』――。
「もうしばらくの間、私達につきあって貰いますよ」
 カーネルバックラーに大型のアンプルを填め、刃先に咲き誇る花から抽出した薬液を浸透させる。茜に向けて腕を大きく振るい、刃先から霧状に薬液を散布した。
 見る間に羊が一匹、羊が二匹、と増えていく。
 撤退を始めた殺戮コマを庇うように、前線で羊が群をつくり、ポジション交代で生じた隙を狙って攻撃を仕掛けて来た敵を阻んだ。
 複数の棍棒が、槍が、分身と本体を見極めもせずやみくもにつきだされる。うち、いくつかが、白い体に赤い血の線を走らせた。
「わたしは倒れない……!」
 全身を貫く痛みが、血に眠っていたアルマジロの因子を活性化させた。瞬く間に肉体が変化し、土色の甲殻で肌が覆われていく。
『――焼け付く痛みを負うことを拒絶したい。されど、倒れることも逃げることも拒絶したいがゆえに、倒れぬ盾となって在りましょう……!』
 鉄壁の盾の後ろに回転を止めた軽業師が逃げ込む。
 入れ替わりに、長く伸ばしたブラックスライムをヌンチャクのように振り回しながらクリスティーナが出ていく。
「なにがあってもおしろへはいかせないの!」
 捕食モードに変形したブラックスライム・ヌンチャクの先が、ハートの4を丸呑みにした。ぺっと、吐き出し、今度は隣で回復を待っていたスペード兵に食らいつく。
「あ……?」
 一瞬の隙をついて、クリスティーナの右の前脇腹からダイヤのJの槍が入り、左の鎖骨の下の皮膚を突き破って飛び出していた。


 悲鳴。飛び交う回復のグラビティ。そして五回目のタイマー音――。
 四方から押し寄せてくる敵が、それらすべてを飲み込んでゆく。
 回復の手当空しく、まずクリスティーナがワイルドスペースを去った。
 つづいて回復行動に集中し、防御が疎かになっていた捌号とゼラニウムが、ディフェンスに入った菜々乃と茜とともにワイルドスペースから弾きだされてしまう。
「くそ!」
 ラハティエルは毒づいた。トランプ兵の波にもみくちゃにされながらも剣を振るい続けるが、多勢に無勢。劣勢は覆らない。
「あと五分なのに」
 ミライは唇を噛んだ。
 勝利を確信するまで頑張りぬきたい。
 だが、通信手段が断たれたワイルドスペースでは、王子撃破、あるいは敗北を知る由がない。
「僕たちはしっかり役目を果たした。彼らはきっとやってくれている……撤退しよう」
 悠李が殿を務める形で、三人はトランプ兵の追撃をかわしながら脱出する。

 直後、城が崩壊した。

作者:そうすけ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年11月22日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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