『王子様』決戦~道を拓け!

作者:東雲ゆう

●新たなチャンス
「『王子様』の本拠地が見つかったわ!」
 レナ・グルーバー(ドワーフのヘリオライダー・en0209)は、集まったケルベロスたちを前に、興奮気味に切り出した。
「いま、創世濁流阻止戦が行われているけれども、そこで調査を行っていたケルベロスのみんなから、3つの情報がもたらされたの。
 1つ目は、ワイルドスペースの奥地に城のようなものの存在を察知した、ソル・ログナー(鋼の執行者・e14612)さんの情報。
 2つ目の情報は、『王子様』の本拠地が城であると推測して調査した、久遠・征夫(意地と鉄火の喧嘩囃子・e07214)さんの情報。
 最後が、『王子様』がワイルドスペース内で活動していると想定して調査した、フィア・ミラリード(自由奔放な小悪魔少女・e40183)さんからの情報よ」
 レナの話によると、この3人の調査と、創世濁流に注ぎ込まれたハロウィンの魔力の流れなどを多角的に分析した結果、山梨県の山中のワイルドスペースの中心に『王子様』の城がある事が判明したとのことだ。
「『王子様』の居城のあるワイルドスペースは、本来は『外部からの侵入を絶対に許さない』特性があって、侵攻は不可能だったの。でも、創世濁流を引き起こした影響で、少数精鋭での侵攻作戦が可能になったようね」
 侵攻作戦に参加できるケルベロスは100名程度。少人数ではあるが、『王子様』側は絶対不可侵の拠点ということで迎撃準備を整えていないため、短期決戦ならば十分に勝算はあると考えられる。
「ジグラットゼクス『王子様』をはじめ、城にいる有力なドリームイーターを撃破することができれば、今後のドリームイーターとの戦いで私たちが有利になるのは間違いないわ。少人数ということで危険も伴うけれど、ケルベロスの皆なら、このチャンスを最大限活かしてくれると信じているわ」
 レナの言葉に、ケルベロスたちは力強く頷く。
 
●道を拓け!
「それでは、ここに集まってくれた皆にお願いしたいことを説明するわね」
 レナはケルベロスたちを見渡すと、ゆっくりと言葉を続ける。
「侵攻作戦全体では、連携作戦で『王子様』を孤立させて、決戦に持ち込み撃破するのが目標よ。ここの皆には、侵攻作戦に参加するケルベロスたちが『王子様』の元に到達できるように、先陣を切って、外縁部を護るトランプ兵を引き付けて戦ってほしいの」
 侵攻作戦に参加するのはおよそ100名。そのうち、当チームも含めて5チーム40名がトランプ兵との戦いを担当する、とレナは補足した。
「『王子様』のワイルドスペースは、侵入者を許さない特別な能力があるわ。作戦開始後、30分経過するとその機能が回復して、ケルベロスの皆は例え戦闘中であっても、ワイルドスペースの外に強制的に弾き出されてしまうようね」
 ――それはつまり、外縁部で足止めされればされるほど、時間制限による強制撤退による作戦失敗のリスクが高まる、ということ。
「それに、後続部隊がトランプ兵に邪魔されてしまうと、ダメージなどで戦力が低下してしまって、有力敵と戦う際に火力不足になってしまう可能性もあるわ。だから皆には、なるべく後続部隊がトランプ兵から攻撃を受けずに外縁を突破できるよう、全力を尽くしてほしいの」
 一息つくと、とレナは続ける。
「トランプ兵は、『心を抉る鍵』を使ったり、『モザイク』を飛ばして敵の精神に影響を与えるようなグラビティを得意とするわ。また、モザイクを利用して回復を行う個体もいるようだけれど、どうやら単体攻撃しか持っていないみたいね。
 一体一体だと皆ならそんなに苦労せず倒すことができると思うけど、トランプ兵は次々に増援を呼んでくるわ。こちらの戦力的に殲滅は不可能だから、後続のチームが突破したのを見計らって撤退してほしいの」
 それから、とさらにレナは説明を続ける。
「『30分』という時間制限についてだけど、時計塔に侵攻した部隊の成果によっては、強制的な撤退は行われなくなるわ。この場合、時間を気にせずに戦う事ができるけれど、周囲からの援軍が集まってくるので、長期戦が不利になる事に変わりはないわね」
 ちなみに、強制撤退されなかった場合も、撤退することを決断したり、戦闘不能になったりした場合には、即時にワイルドスペースの外に弾き出されるようだ。
 一通りの説明を終えて、レナは改めてケルベロスたちの顔を見渡す。
「トランプ兵との戦いは、とても厳しいものになると思うわ。でも、皆ならきっと後続のチームのために道を拓くことができると、信じているからね」
 そう言うと、レナは瞳を輝かせ、笑みを浮かべた。


参加者
一式・要(狂咬突破・e01362)
ヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)
熊谷・まりる(地獄の墓守・e04843)
シルディ・ガード(平和への祈り・e05020)
カロリナ・スター(テイクオーバー・e16815)
卜部・サナ(仔兎剣士・e25183)
マヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402)
モヱ・スラッシュシップ(機腐人・e36624)

■リプレイ

●覚悟と突入
 山梨県のとある山中。創世濁流阻止戦での情報収集によって得られた成果――ワイルドスペースを前に、8人のケルベロスとサーヴァントたちが息を潜めていた。
「ケルベロスになってからは護る戦いばかりデシタガ、今日は奪うのデスネ」
 何か心が浮き立つ様子のモヱ・スラッシュシップ(機腐人・e36624)とミミックの収納ケースとは対照的に、マヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402)のシャーマンズゴースト・アロアロはフルフルと震えている。
「難しい作戦で不安もあるけど、ここまできたら成功させるって意気込みで行くしかないよね!」
 優しく語りかけつつアロアロを撫でるマヒナだったが、その言葉は自身に向かって言っているのかもしれなかった。
「縁の下の力持ち、って役割だねー、我々」
 熊谷・まりる(地獄の墓守・e04843)が呟くと、ヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)が苦笑する。
「確かにそうだね。でも、僕らは僕らの仕事をしっかりこなしていこうじゃないか」
「はい、できる範囲の事をめいっぱい、気負わず、でも後悔のないように……頑張ろうね!」
 シルディ・ガード(平和への祈り・e05020)が意気揚々と目を輝かせると、一式・要(狂咬突破・e01362)のテレビウム『赤提灯』が答えるかのように手にした酒瓶を突き上げる。
「ええ、王子サマとやらのお庭で盛大に暴れさせてもらうわよ」
 オネエ口調の要だが、その視線はこれから乗り込む先を鋭く見据えている。
 と、その時、モヱとまりるの腕時計が振動する。作戦開始1分前だ。
「さあて、反撃タイムだね! 裏方仕事だけど手は抜かずに頑張るよー! おーっ!」
 卜部・サナ(仔兎剣士・e25183)の言葉に、カロリナ・スター(テイクオーバー・e16815)も深く頷く。
「行きましょう。ボク達は、やれます!」
 その言葉を合図に、チームの皆で一斉にワイルドスペースに飛び込む。
『多く敵を引付け、長く戦う』
 ――他の仲間のための、覚悟と共に。

●陽動作戦
 ワイルドスペースに飛び込んだケルベロスたちの前に広がっていたのは、不思議な形に隆起した草原と、その奥に連なる城壁だった。
「あ、2時の方角に、クラブとスペード、ハートのトランプ兵を発見……!」
 双眼鏡を覗いていたカロリナの声につられ、他のメンバーもその方角を見やる。
「まずはご挨拶、だね」
 これ使うのは久々だけど……と呟きながら、ヴィルフレッドはuccello biancoを構えると、敵に向けて連続して発砲する。普段は使用を控えているほどのその威力で、敵の注意を引くと、
「切り刻めっ!」
 立て続けに、要の隠しナイフを仕込んだ水の塊が、鮫となって襲いかかった。
「トランプ兵はきっと城を守るよう命令されてるよね。敵襲を黙って見てたりはしないはず!」
 シルディとマヒナは「せーのっ」と息を合わせて、スイッチを押す、と。
『――!!!』
 トランプ兵の近くの城壁に、規模も派手さも2倍になったカラフルな爆発が命中する。その煙が収まるころには、ケルベロス達は城壁を背に、敵と対峙するよう陣形を整えていた。
「ケルベロス、只今参上なのっ! 『王子様』の首を頂きに来たよ!」
 高らかに名乗り口上をあげたサナは、朧三日月を構えると、軽々とした身のこなしで一番近くにいたスペードの兵に斬りかかる。ヴィルフレッドが跳弾で意表を突き、モヱが豪快な回し蹴りを放つと、収納ケースが愚者の黄金、赤提灯がおでんを振り回しながら続いた。
「お手並み拝見、といきましょうかね」
 敵のポジションを見極めるべく、要もスペードに蹴りを入れる。それは、クラブの槍に妨害されそうになりつつも、スペードの急所を貫いた。
「みんな! クラブはディフェンダーよ!」
 要の言葉に皆が頷く。攻撃力を見るに、スペードはクラッシャーのようだ。
 一方、シルディはハートの平静喰らいを受けると、
「ガード!」
 すかさず前列の味方を守る盾を展開する。
「王子様のお城って、SNS映えしないー!」
 両手にスマホを持ち、叫んで挑発しているのはまりるである。
(「これ、何かの手掛りにならないかなー」)
 音量最大に設定したシャッター音を鳴り響かせ、情報収集も兼ねて城方面を連写しながら、ちゃっかり『SNS映えしない写真選手権』への投稿も目論んでいる。
 その時、騒ぎを聞きつけたのか、新たにダイヤの兵も戦列に加わった。
「ふむ、音と見た目、両方派手なほど効果ありそうですね」
 カロリナは観察しつつ、意図的に大きな仕草で鎖を操り、スペードに時空凍結弾を放ち、マヒナも同じ技で続く。明らかに動きが鈍ったその敵に、愛用の星火燎原で斬りかかるのはサナだ。
「寄るな寄るな、寄らば斬る! なーんてね!」
 三日月のような剣筋の残像と共に、スペードが消滅する。
「まずは1体! さあ、次に斬られたい子はどの子かなーっ!」
 勢いに乗るサナの挑発に、ヴィルフレッドも言葉を続ける。
「にしても趣味の悪い城だね、代わりにトランプタワーを作ろう。……さて、何段まで建てられるかな?」
 言うが否や、攻撃態勢に入っていたハートとダイヤの背後に回りこむと、2丁の拳銃を乱射する。どうやらこの2体は後列のポジションのようだ。
「侵入者としてお騒がせ致しマショウ」
「いや、侵入者はこいつらの方だ。疾く、お引き取り願いましょうか」
 モヱが光の壁を展開している側から要が飛び出し、クラブを爆破する。
「ボクたちの力、見せてあげるよ♪」
 長期戦を見越してシルディが再び盾を、そのやや後方でカロリナが黄金の果実を展開する。
「ワイルドスペースは外部からの侵入絶許って、王子様って実は自宅警備員? しかも、ママのココアだの菓子だのマザコンっぽいし……トランプ兵さん、そんなのが上司で大丈夫?」
 まりるがクラブに殴りかかり、アロアロも勇敢に飛びかかる。間髪入れず、マヒナがココナッツを落下させると、クラブはその衝撃に耐え切れずに地面に倒れこんだ。
「2体目! このまま一気にお城を目指そう!」
「ガオーっ!」
 マヒナの言葉に応えるように、サナが雄叫びを上げる。モヱと収納ケースがダイヤに襲い掛かるとほぼ同時、ヴィルフレッドは気配を消してその背後に回っていた。
「さぁ、君にラブコールを!」
 Thanatos(タナトス)を放ち、敵を葬ったヴィルフレッド。新たに駆けつけたクラブとスペードを睨みつけながら、銃を構え直す。
「3体目。こんな雑魚しかいないなら、お城にいる王子様とやらも大したことないだろうさ。このまま僕らが乗っ取ちゃおうか」
「そうよね。これくらいなら押し切れそうだし?」
 ダイヤの銃から放たれた攻撃を防具で軽減しながらマヒナが続ける。その視線の先には、駆けつけてくる新たなダイヤとハートの姿があった。
「どんなに敵が増えたって、ぜったい、あきらめないから……ね!」
 戦いの激化を予感したシルディは、オオアリクイ形のオウガメタルをぎゅ、と抱きしめる。

●根競べ
 攻撃力の高いスペードとダイヤを中心に列攻撃で広くダメージとBSを与え、弱った敵を確実に撃破する。事前に攻撃対象の優先順位を決めていたことが功を奏し、ケルベロスたちは次々とトランプ兵を仕留めていた。
 しかし、1体倒すとまた1体、さらに1体、と敵は次々と沸いてくる。まだ背後の城壁まで距離はあるものの、戦線は予断を許さない状況と化していた。
「敵の撃破を確認。――7分経過シマシタ」
 モヱの冷静な声が戦場に響く。最初の頃は撃破した敵の数を数えていたが、10体を越えた頃からそんな余裕もなくなった。ただひらすらに、敵と向き合う。
「一回、体勢を整えよう。カロリナさん、ボクは前列にブレイブマインするね!」
「了解、私は後列に」
「ワタシもライトニングウォールを唱えマス」
 シルディの言葉にカロリナとモヱが頷く。
「アロアロ、私たちも手伝おう?」
 マヒナの身に纏う光の羽衣の淡い光が、仲間を包む。それはアロアロの祈りと合わさって、前列のメンバーの傷を癒し、さらに耐性を与えた。
「てやぁーっ!」
 サナが傷を負いながらも、小さな体を一杯に反らし、鎌の刃でスペードの生命力を奪う。ヴィルフレッドはfarfalla neroに持ち替え、敵の前列に弾丸をばら撒いた。
「うん、やっぱりこっちのが手に馴染むね」
 すぐさま、まりるも追撃する。
「なんやかんやパワーで大人しく洗脳催眠されてくださいなー!」
 かなり弱ったスペードの様子を見て、要も赤提灯と共に加勢し、敵を倒した。
「うん、撃破。まー、暴れやすくて助かるわ、王子サマん家の庭は」
 しかし、トランプ兵もやられてばかりではない。別のスペードが2体、最前線のサナに襲い掛かり、次いでダイヤとハートから放たれた攻撃が、シルディとモヱに直撃する。
「ボクは自分で回復するから、カロリナさんはサナさんを頼むよ!」
「わかった!」
 シルディが叫ぶと、カロリナはすぐさま詠唱を始める。
「――キミに主の御加護がありますように」
 カロリナの羽に貯められた魔力が、サナを癒す。
「ありがとね」
 一瞬笑みを浮かべたが、サナは再び表情を引き締める。また新たな兵が隊列に加わっていたからだ。
「敵を多数確認。多層域への熱エネルギー拡散を許可。抽出モードに入りマス」
 モヱが敵の周囲を高熱で灼き尽くすと、マヒナも掌から巨大光弾を発射する。その攻撃で、ダメージの蓄積していたトランプ兵が2体消滅した。
「……ふぅ。なかなかしつこい奴らだよね」
 目の前を埋め尽くしているトランプ兵を前にヴィルフレッドが呟くと、側にいたシルディが首肯する。
「だね。でも、逆に考えれば、他の皆へ増援が行くのを防ぐことができている証拠、だよね☆」
 シルディはおどけた口調で『まう』を構え直すと、轟竜砲をぶっぱなす。その爆風で、柄に結ばれたリボンが強くはためいた。
 その時、別の場所からスペードがマヒナに斬りかかる、が。
「おっと、邪魔するわよ。怪我させてその子の彼氏に睨まれたくないんでね」
 要がコートを脱ぎ捨て、敵に被せて蹴り飛ばす。マヒナは要に軽く微笑むと、敵にはお返しとばかりにココナッツの雨を浴びせかけ、さらに1体撃破した。

 時間の流れが、粘りつくように感じられる。
 耐性防具の効果もあり、一つ一つのダメージはそれほどでもないが、回復不能な傷は確実に増えていた。戦闘開始から9分経過した頃、ついに赤提灯が戦線から脱落した。
「回復しないと持たないけど、攻撃をしないとますます敵に攻められる、か……!」
 後方で必死に回復に努めるメンバーたちのジレンマを感じながら、ヴィルフレッドは両手に構えた銃を放つ。その弾道は炎となって、前列にいるトランプ兵を1体焼失させた。
 しかし、攻撃力の高いスペードがまだ複数残っている。
(「少しでも、敵を減らさないと……!」)
 自身も少なくない傷を負っているサナは、意を決して星火燎原を構える。
「お日様、お月様、お星様……サナに力を貸して下さいっ! ……日月星辰の太刀っ!」
 その刃の輝きは、まるで太陽のようでもあり。容赦ない攻撃はスペード兵の急所を貫き、敵は霧散した。――しかし、側にいた別の兵から反撃を受け、サナも深手を負ってしまった。
「ごめんね、みんな……応援してるから、ね」
「「サナ!」」
 サナが意識を失い、華奢な体が草むらへと倒れこんだ次の瞬間、その姿は消えていた。
 ――それは、戦闘開始からちょうど10分経過した時だった。

●拓いた道を行け!
 クラッシャーであるサナの離脱。それはトランプ兵の撃破ペースの鈍化、つまり、敵の増加ペースの加速を招いていた。
「駆けろ羽撃け 展望を想起せよ 中枢を志せ!」
 苦戦を強いられている現状を打破すべく、まりるは自分を、味方を信じる心をペンギンの形に具現化する。それはまるで疾風の如くスペードへと駆けて行き、敵を倒した。
 一方、シルディも力を振り絞ってクラブへと突撃する。
「とおぉぅ! よし、撃破!」
 だが、休む間もなく敵の攻撃が襲いかかる。カロリナやマヒナ、アロアロが必死に回復してはいたが、味方をかばいつつ近距離攻撃を受け続けているディフェンダーの3人の体力は限界に近づいていた。
 と、カロリナに向けてダイヤの攻撃が放たれる。
「させま、セン……!」
 最後の力を振り絞ってメディックのカロリナを守ったモヱ。しかし、その直後、膝から崩れ落ちてしまった。
「戦闘不能。不本意ながら離脱シマス」
 モヱは去り際、まりるに目配せしながら自身の腕時計を指し示す。タイムキーパーの役割交代の意思を読み取ったまりるは、自身の頑丈なリストウォッチに目を落とす。
「――13分、経過!」
 ヴィルフレッドは必死に敵との間合いを保とうと射撃を繰り返すが、その努力も空しく、容赦ない敵の攻撃が仲間を襲う。
「要っ!」
 マヒナの悲痛な叫びとほぼ同時、敵の槍の殴打をまともに受けた要が地面に崩れ落ちた。
「……申し訳ないけど、一足お先に失礼するわ、ね……」
 ウインクをしながら軽く左手を挙げる。声をかける間もなくその姿はなくなった。
「14分、経過……!」
 1分でも、1秒でも長く――。その想いから懸命に応戦するケルベロスたちだったが、敵の無慈悲な連撃はシルディの僅かに残された体力を完全に奪った。
「次に目覚めた時、少しでも世界が良くなっていることを信じて……!」
 倒れこみながらも気丈に笑みを浮かべたシルディだったが、無情にもその体はスペースの外へと排除される。
 じり、とトランプ兵が更に間合いを詰めてくる。正確な数は分からないが、既にその数は50体を超えている。
 ――それに対し、残されたケルベロスは、4名。事前に皆で撤退すると決めた人数だ。
「ここらが潮時だね。皆、帰ろう」
 まりるの言葉に他の3名も頷く。
「みんなー! 僕達には構わず先に進んでくれよ! あ、パティシエール班の皆は、お菓子どんな味だったか教えておくれよー!」
 姿は見えないが、どこかで激戦を繰り広げている仲間たちに向かって、ヴィルフレッドは叫ぶ。
「そういえば、王子様のママ、については対王子様組が聞きだしてくれる、かな?」
「……向かった部隊を信じるのみ、だね」
 マヒナとまりるは迫り来るトランプ兵を押し返しながら、背後の城壁を一瞥する。その隣では、いつの間にかカロリナが狐の面を身に着けていた。
「お邪魔しました、トランプさんたち。お役目ご苦労様でした」
 囮の私たちにここまで構ってくださって感謝です、とニヤリと呟くと、4人の姿が戦場から消える。――その場に残されたトランプ兵は、狐につままれたようにも見えた。

 作戦開始から15分、撃破したトランプ兵は24体。
 チームの皆で拓いた道は、きっと勝利へと続いているはずである。

作者:東雲ゆう 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年11月22日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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