イルミネーション・アスレチック~少年紳士の憧憬

作者:七凪臣

●少年紳士の憧憬
 いつも、いつも。
 ヘリオンから飛び出す彼らを見送っている。
 悲劇を予知する事はできる。それを伝え、導くことも出来る。
 けれど、共に戦場に立つことは出来ない。
(「僕も皆さんと、肩を並べてみたい……」)
 それは成長過程にある少年の憧憬。

●イルミネーション・アスレチック!
 最近、各地に続々とオープンしている屋内型のアスレチック。
 子供の遊び場としてだけではなく、大人も楽しめる本格的なものも増えつつある。
「面白そうなところを発見したんです。その名も『イルミネーション・アスレチック』。つまり、全てのアクティビティがイルミネーションで飾られてるんです」
 フロアーの照明は殆どが落とされ、光源となるのは様々なアクティビティを飾る電飾のみ。
 ほら、これです! と少し興奮気味にリザベッタ・オーバーロード(ヘリオライダー・en0064)が広げたパンフレットに載っている写真は、成る程どれも幻想的だ。
「エリアは全部で四つ。それぞれテーマが決められてるのも良いなって思うんです」
 そう言って捲られたパンフレットには、各エリアの詳細が記されている。
 第一エリアは、サファリゾーン。
 木々を表す緑の中に、色々な動物の瞳を思わせる光が瞬いており、遊具も深い森をイメージしてあるのだろう、最初は細い足場を並べた空中回廊で、次はターザンロープ。そして起伏を織り交ぜ張ったネットが配されている。
 第二エリアは、オーシャンゾーン。
 青を基調とした電飾の中を様々な光の海洋生物が泳ぐ世界。
 配されたアクティビティはトランポリンのみだが、サイズや形は様々だし、中には角度をつけたものもある。しかもマットに着地する度に光の波紋が広がるのだとか。
「天井近くに飾られているイルカやシャチ、ペンギンやカニなどのぬいぐるみは、ジャンプして取ることが出来たら、そのままお持ち帰りもOKだそうです」
 そして後半に入った第三エリアはスペースゾーン。
 巨大迷路になっているジャングルジムを、内部からも外部からも沢山の天体で彩っている。上へ下へ、右へ左へと縦横無尽に動き回っているうちに、宇宙飛行士気分になれるかもしれない。時折現れる流星を摑まえると、星型のクッションが貰えるという。
「ちなみに此方の施設は、全てのエリアを45分の制限時間内に踏破出来たら、記録を残してもらえるのと、記念品のスマートフォンスタンドが頂けるです。そして最大の難関が、次の第四エリア、ロマンティックゾーン……」
 勿体つけるよう一拍おいて捲られるパンフレットのページ。
 しかしそこにはアクティビティの配置は一つもなく、ただただ素敵なイルミネーションに飾られた空間が広がっていた。
「実はここ、季節ごとのテーマにちなんだイルミネーションが施されるようなんですけど。あまりに綺麗なロマンティックぶりに皆さん見入ってしまい、思わず足を止めてしまうらしいんです。何て恐ろしい罠でしょうかっ!」
 なお、現在はクリスマスモード。噴水のあるお洒落な公園が再現されており、意中の人に告白したい人や、寒さを気にすることなく良い雰囲気を楽しみたい人々などが、このエリア目的でこのアスレチックを訪れる事もあるのだとか。
「如何でしょう、興味は持って頂けたでしょうか? 僕はこれから赴こうと思っているので、ご一緒しませんか?」
 一人で行くのも悪くはないが、折角なら色々な人と競い合ったり、楽しんだりしてみたい。
 ――良かったら、お誕生日様の夢を叶えて下さい。
 最後はそっと、けれど常はみせない茶目っ気たっぷりの笑顔で、リザベッタはケルベロス達を手招いた。


■リプレイ

「最近はこういうのが流行っているのか」
「凄いですね、馨さん」
 様々なアクティビティとそれらを彩る光に馨と最中はパチパチと瞬く。まるで夢と幻で溢れた夜の世界。流れ落ちる滴までもが、不可思議な明滅を繰り返す。
「面白そうだな♪ 腕試しだ!」
 瞳を輝かせるアラタの傍ら、スタートの時を待つ奏多は黙々と準備運動に励む。やるからには徹底的に。勝負に拘るのが、やはり男というもの。
「最下位が一位に肉まんおごり、なんてどうかしら」
 『すず』が屋号の飴屋の面々は、主の千歳の提案に色めき立ち、
「参加賞に餡まんというのも……」
「あらカルナ、それも最下位担当?」
「そんなつもりではっ」
 千歳のツッコミに慌てるカルナを他所に、ますます気合十分。そして――。
「一番踏破に時間がかかった子が晩御飯奢りね!」
 此方は『星棲アクアリウム』ご一行様へのエトヴィンからの提唱。「賭け事あるなら負けられんわ」と勇ましく受けて立つウーリを筆頭に、インドアなのかアウトドアなのか悩むヴィルベルも、所謂運動音痴なアキトもこくり頷き。
「リズはどれを狙ってるの?」
「迷っています。全部、可愛……いえっ、何でもっ」
「勝負しましょう」
 アリシスフェイルの問いに余計な事まで口を滑らせたリザベッタへ、沙夜は宣戦布告。
「了解です!」
 時に競い合うのも友人としての嗜み。かくて珍しくもパンツスタイルで決めた氷翠は、スタート合図の流星群に結い上げた髪を靡かせた。

●輝森
 光る大河の上に架かる天の橋。
「ネットに絡まない限り、行けそうです!」
 森育ちな凪は先に広がる蜘蛛の巣を見据えて足取り軽く、アラタは足元のみに視線を注ぎ軽やかに跳ねる。
 周囲には濃淡様々な緑光が。時折煌く金や赤、青は野生の瞳。こよなく猫を愛する勇は「あの辺にいそうじゃない?」と千歳の罠にかかりかけたが、そこは我に返って螺旋忍者の本領発揮。
「こういうのはひょいひょいっと渡っちゃった方がいいよね」
「その身のこなしはずるっこ!」
 気儘な野良猫ばりの勇の身軽さに思わず唸ったルードヴィヒは、ここは平地と自らに暗示をかける。
「ふむ、こういうのは勢いが大事だきっと」
 対して希莉は勇を手本に揺れる橋を一気に渡り切り。
(「なんだか変な感じです」)
 常ならこういう局面は漏れなく翼に頼るカルナも、タイミングよくジャンプして先達に続く。
 飴屋の皆さま、気付くと団子状態。だって負けられない――のだけど。
「ここはやっぱり、アレよね」
 緑の露が光るターザンロープを前に、千歳の金の人もがキラリ。下手に慎重になるよりも、バランス重視で此処まで来たのだ。つまり、思い付きと勢いも大事!
「アーアアー」
 然して千歳、森の住人になりきり足場を蹴った。
「よーし、僕も! あーああ~」
 千歳のノリを見倣ったルードヴィヒも、えいっ! けれどその語尾が「……ぁぁあ?」となるまでも一瞬。
「あれ、スピード出過ぎて――」
「あら、ルーイもお仲間な予感☆」
 全力のチーターも真っ青な勢いでルードヴィヒと千歳の前にスパイダーネットの壁が迫る! しかし「皆さん、ノリノリですね」とほくほくしてるカルナも気付かず、えいっと綱頼りの人と化し。
「私も見習わなければ」
「えぇと……千歳とルーイは大丈夫かな? いや、まぁいいか。あーああ~」
 勇は実直に、徐々に勝ち負けを忘れ始めている希莉も前に倣えで空を渡る。
「下りは、転がる!」
「なるほど!」
 半端に引っ掛かったネットをルードヴィヒは転がり下り、納得カルナもごろごろごろ。
 視えた絡まる未来を千歳はあらあらと笑う。何だかもう楽し過ぎて。勝負の事を忘れていないのは、もう勇だけ。果たして肉まん餡まん財布の行方は如何に!?

●海踊
 幼いミニュイがころころ転がると、小さな波紋が連なり広がる。青い青い水の底、泳ぐ魚は海の星座。
「シズにぃ、お願いなの」
「――任せろ」
 どんなに手を伸ばしても、頑張って跳んでも届かない頭上のご褒美に、ミニュイはシズネに協力要請。微笑ましい姿に和んで返事が一拍遅れたシズネは、求めの通りに少女をしっかり抱えて――。
「ほらっ、飛べ!」
「わぁあぁ!」
 思い切り跳んだシズネは、二段式ロケットの要領でミニュイをぬいぐるみの海へとふわりと放り。お目当てをしっかり掴んで落下してきたミニュイを再びキャッチして、トランポリンの海底へと降り立つ。
 ぶわり。
 二人分の衝撃に一際大きな青白く輝く輪が広がった。否、加重要員はもう一つ。
「よくやった! って祝ってくれてるみたいだなあ」
「うん!」
 美しい光景に見入るシズネの言葉に、巨大マグロのぬいぐるみを嬉しそうにぎゅっとしている黒猫少女も破顔。
 でも、互いに一等嬉しいのは。信じ合うからこその連携劇の大成功。
 オーシャンゾーン、ぬいぐるみの魅了力はサキュバスないぶきをしても強力なもの。果たしてどの子を連れて帰るかと悩むうち、目に留まったそれはゆる~く跳んだ結弦の腕の中に納まってしまった。
「あれー? 一緒の狙ってたの?」
 へへー、気が合うねーなんて笑い、結弦は可愛いイルカに頬ずり。僕のだから譲る気持ちはナイけれど。
「むむ、早い者勝ちですからね……」
 ならばといぶき、お隣のシャチに狙いを変えて――無事ゲット!
 でも幸せに浸っている暇はあまりない。
「何としてもー!」
 時間内でのエリア踏破が目的の凪でさえ、ぬいぐるみの魔力に捕まっているが、時間は刻々と過ぎわけで。ペンギン目当ての沙夜も頑張り乍ら焦りを覚える。
 だが優先するものが違う氷翠は、じっくりと藍の視線を彷徨わす。
(「クラゲだと六片さんかな……」)
 リザベッタはどのぬいぐるみが好きだろう? 悩み乍ら氷翠は輝く波紋と戯れる。
 小さな一歩、大きな跳躍。足元に描かれる光のアートは、あまり運動が得手でない女の心もほんのり弾ます。
(「んー……イルカさんにしよう」)
 そして定めた狙いに、氷翠は思い切り跳ねた。

 ぬいぐるみ好きの宿利の為、夜は天井すれすれのペンギンを手にし波紋を描いた。その呼吸するような鮮やかさを脳裏に反芻し、宿利は助力を請け負ってくれた男の背を蹴る。
 一瞬の浮遊感。真っ赤なカニを掴んだ感触。達成感に明るい顔で宿利は夜を見下ろし――。
「……何処見てるの」
「ゴチソウサマ?」
 健康的な太腿は、踏み台になって余りあるご褒美。
「もうっ」
 悪びれる様子のない夜に、けれど宿利のむくれは刹那。着地と同時に男の手を取った女は、次の水面へ向けて飛び。引かれた夜も、次々に大小様々な波紋を生む。
 嗚呼、何てアグレッシブなデート。思わず顔も心も踊るというもの。

 先ずは推定距離を測るジャンプ。それから足元回り、目標物を確認し、アリシスフェイルは強く踏み込む。
 注意点は腰が引けない事くらい。果たして体幹バランスに自身のある女はイルカを捉え、華麗に着地。
 そして。
(「あら」)
 困っていたら手を貸そうかと思い巡らせた視線の先、リザベッタは真白と共に唸っていた。
「ただ力一杯飛べばいいという訳じゃなさそうですね」
「どう致しましょう、リザベッタ様」
 一つの課題に一緒に挑める楽しさは格別。でも求めるシャチは、二人の頭上遥か。
(「どう致しましょう。スマホスタンドはご自分の手で掴まれたいと思ったのですが、このままでは……」)
「ね、リズは助太刀とか嫌じゃない?」
「勿論です!」
 かくて途方にくれる少年少女らへ、アリシスフェイルはコツを伝授する。

 一方その頃。
「ううっ、イルカの縫い包み!! 欲しいっ! が、我慢だっ」
 アラタは全力でオーシャンゾーンを突っ切っていた。

●星歌
「凄いね、リザベッタさん。本当に宇宙にいるみたい」
「そうですね……ここまでとは」
 これまでよりぐっと落とした照明に平衡感覚を鈍らされたメイは、七色の星々をリザベッタと共に見上げる。
 まさに宇宙ジャングルジム。綺麗で高さもあって広くて――でも枠の一つ一つは結構狭い!
「ベルちゃん角折れてない? うりちゃんは贅肉引っ掛かってない大丈夫?」
「ちょうど引っ掛かったところだよ――うりちゃん大丈夫? 詰まってない?」
(「エトチャンとベルチャンがウーリに酷い事言ってる気が」)
 互いを気遣い合うようなエトヴィンとヴィルベルのやり取り。しかしアキトが気付いた通り、乙女なウーリにとってはとんだ悪態。無論、黙って見過ごすウーリではない。
「誰が何やって? なぁ、えっちゃん」
 行く手を阻む格子枠など知った事か。先頭を行っていたエトヴィンへまさかの勢いで追いついたウーリは、問答無用で尻尾をがっしり踏み抜く。
「ギャー」
「次はヴィル……って、うわ最年長足遅い。アキトはちゃんと進めてるかー」
 ボクより遅いなんて――と思わず脱帽していたアキト、復讐を断念したウーリに気遣われ、是を応えつつ先を目指す。
 果たして他が早いのか、それともヴィルベルが極めて遅いのか。十中八九後者だが、ふと気付けば皆に追いついていた。場所は、ジムの天辺。満天の星空に見惚れ、動きが止まっていたのだ。けれど。
 ――ごっ。
「「痛ッ!」」
 間近に迫った翔け星を捉えようとして、四人そろって頭をぶつける華麗な連携発動。はてさて、此方のご一行の晩御飯チャレンジの結末はいかに。

 小柄な体躯を活かす凪に、
「始点、よし。終点、よし。光の反射は――」
 物理法則を味方につけた奏多は理知的に歩を進め。
「山で駆け回ってた頃を思い出すなぁ……なぁ、もっくん」
「……そんな事もありましたね」
 いつ以来のジャングルジム。兄と幼馴染の背を追いかけた日々を思い起こした最中は、今は並ぶ馨に応えてのんびり宇宙飛行――だったのは、気付けば随分と背が伸びたリザベッタを見かける迄。
 持ち掛ける真剣勝負は、並び立つ仲間への敬意を込めて。察した少年は歓喜を顔に描き、いざ尋常に!
 男三人、猛烈な勢いで宇宙を駆け翔け。しかし真の強者は想定の範疇外より至るもの。
「見て! リザベッタさん! 取れたよー!」
 リザベッタと共に居たメイが華麗なジャンプで流れ星を捕まえた瞬間、最中の足が止まった。
「そういえば、クッションを頂けるんでしたね」
「Σ もっくん! 違う、それはダメだ」
 最中の行動を先読んだ馨がわたわたしても、タイミングよく流星が最中に迫る。
「俺、あれが取れたらひと眠りさせてもらいますけど、宜しいですか、宜しいですね」
「宜しくないぞ! 全然宜しくないぞっ!」
「お二人とも、お先に失礼します! さぁ、メイさん。ゴールを目指しましょう!」
「うん!」
「あぁ、ずるい。起きろもっくん、起きるんだー!」
「Zzz……」

「……ふぉおお」
 THE☆クリスマス。
 光で模られた靴下にツリーにサンタを目にし、アラタは一瞬悶え、「だがっ」とぎゅっと目を瞑り。
「少し失礼」
「えっ、えっ!?」
 足が止まりかけた宿利を夜は横抱きにして、一気にダッシュ。
「ロマンチック? なにそれおいしいの?」
 年齢=恋人いない歴の結弦にとっては無問題。
「僕に死角などないのだー……悲しくないよ、ほんとうだよ?」
「わかっております、ゆづさん。それに本日のお目当てはスマホスタンドですから」
 言い募る程に真逆が滲みそうだが、いぶきは結弦を是と受け止め先を促す。
 らぶのつまみ食いに興味がないわけはないが、今日の大事は友との色違いのお揃いゲット。

●聖夜
 ジエロにはオーシャンゾーンの青色がよく似合った。
 星空はクィル向き。出逢った時の事を思い出した。
 通り過ぎた場面を語らい乍ら、クィルとジエロは小さなトナカイに縁取られ、六花の耀きが敷き詰められた道をゆるりと歩く。
 クィルがクリスマスをちゃんと知ったのは去年。
「あなたと過ごした時が、初めてのクリスマスでした」
 本当の意味とかは、よく知らないけれど。『素敵』と印象付いたと言うクィルに、「初めてが私と、なんて嬉しいなぁ」とジエロは微笑む。
 人工の灯りも、氷の様な装飾も。綺麗で佳き日、嫌いじゃない。それに、本当の意味など知らなくてもいいかもしれない。
「ねぇ。今日の事、来年に思い出しているかな」
 それとも来年は来年の『素敵』を目の前にして、うっとりしちゃっているのだろうか。
 『未来』をするりと口にし、クィルはジエロと手を繋ぐ。伝わる熱は柔く、見上げてくる星を散らした水色の瞳は、ジエロの心を奪うよう。
「当日になってみないと、分からないなぁ。賭けでもする?」
 応えは戯れを帯びても、願いは二人同じ。共に在れば、未来もまた――。

 雪だるまのアーチを抜け、巨大リースの影になる場所。不意に足を止めた十六夜に、周囲の美しさに見惚れていた結衣は顔を上げる。
「……先生?」
 家庭教師と教え子。それが今の二人の距離。
 けれど。
「……結衣ちゃんの、もっと傍にいたい。近くにいたいと思う」
 一緒に様々な場所を訪れた。結衣との時間は十六夜にとって、いつも楽しく、灰色の心を洗うようで。
「……ただの先生と生徒じゃない、恋人になって欲しい」
「……っ」
 向けられていた男の優しい微笑みに、少女の喉は詰まった。耳が熱い、顔も熱い、目が見られない。
「……わ、たしも……」
 溢れる想いに、声が震える。でも、でも。伝えたくて。
「……す、き……っ」
 懸命に紡がれた重なる想いに、十六夜は一層表情を和らげ結衣を優しく抱き寄せる。重なる影を見守るのは、ツリーの天辺で輝く星だけ。

 景色だけなら、突破できないトラップではない。
「市邨ちゃんはクリアーできないなぁ」
 でも、大切な人の腕に囚われれば、ムジカのレースはここでお終い。だって可愛いスマホスタンドより、この温もりは魅力的。
「アタシも市邨ちゃん捕まえたっ」
 悪戯に笑み、腕で、竜の尾でムジカは市邨に寄り添い絡め取り、捕らえ返す。この時期は尻尾を仕舞いがちな程、寒がりなムジカ。此処は何も気にせず煌きに浸れるのが良い――けれど。それ以上に。
「俺の人生で一番の煌きは、君だけどね」
 ――ムゥ、ムゥ。大好きだよ。
 コンビニの帰り道、ほろり言葉が溢れたあの日からずっと。あの日よりずっと。
「ずっと、ずっと、傍に居てね」
 改めての告白は、頭を撫で、顔を覗き込み。しかし赤らむ頬を誤魔化すように口付けを落とした男は、女の肩口へ顔を埋めてしまうから。
「ずっと、ずっと、傍にいる」
 ――アタシが煌けるよう、一緒に生きて。
 ムジカはそっと、ぎゅっと市邨を抱きしめる。

●祝〆
「うちの勝ちやー!」
 全員頭鉢合わせで瞼に星を散らした晩飯奢り杯のご一同。ほぼ団子状態乍ら僅差でトップはウーリ。対し、最後の最後で躓きかけたアキトを支えるというお人好しぶりを発揮したエトヴィンが最下位。そして飴屋組の勝者は一番堅実だった勇で、華麗に殿を務めたのははしゃぎ過ぎか、はたまた大人の甲斐性かは謎な千歳と希莉の二人という結果。
「リザベッタさん、お疲れ様でした。そしておめでとうございます!」
 時間ギリギリでゴールした少年紳士を笑顔で出迎える凪は総合三位。
「ふははは、アラタが優勝なのだ!」
 ゴール直前まで縺れたアラタと奏多の争いは、跳ねる髪の毛の差で制したアラタが総合一位。奏多が土壇場で大人の男の甲斐性を発揮したかも謎ではあるが。
「凄いです、ユージーンさん」
 然してリザベッタはアラタへ尊敬の眼差しを注ぎ。そんな友人へ先にゴールしていた沙夜は、一つの包みを差し出す。
「お誕生日おめでとうございます。それと、いつもありがとうございます」
「……こちらこそ、氷月さん」
 高価そうな品に躊躇いを見せた少年は眉を下げ、「今回は甘えさせて頂きます」とおずおず受け取る。
「余り気を使わないで下さいね、友達ですから」
「なら、これはどうだ!」
「スタンドコンプに興味は?」
 恐縮しきりのリザベッタ。けれど「アラタにはケニア土産のガゼルさんがあるのだ」と「迷惑でなければ」とアラタと奏多から渡された動物と海洋生物があしらわれたスマホスタンドに肩が跳ねた。
「良いのですか?」
「はい、これも! こっちはオマケね」
「リザベッタ様」
「お誕生日おめでとう」
 兎型の埃取りクリーナーを添えた星型クッション、シャチにイルカのぬいぐるみ。
「メイさん真白さん、天見さん、月織さんと藍染さんまで……」
 メイに真白、氷翠からの贈物に、ゴールの歓喜にハイタッチを交わし爽やかな余韻にあった宿利と夜からのカニのぬいぐるみも上乗せされれば、年相応に子供な少年はすっかりお大尽。
「今日はありがとうございました!」
 興奮に頬を赤らめ、リザベッタは皆へ頭を垂れる。そんな喜色に染まる少年を囲みつつ、アリシスフェイルと奏多は視線を交わす。
 今回は思い切り突っ切ってしまったが。次はゆっくり眺めて回るのもいいかもしれない。その時は、二人で。
 だって――。
「って、時間ヤバいやん?!」
(「あかん。先輩好きそうって思ってる場合やなかった。でも喜ぶ顔、浮かんでもうたし。噴水前のちゅーとか想像したら顔はニヤけるし――誘えへんのにな……」)
 フルパワーで全力踏破を目論んでいた筈の光流が、足を踏み入れた途端に悲喜交交な妄想一色になったみたいに、ここはデートにもうってつけだから。
「急がな!」
 未だ良い雰囲気なロマンティックゾーンから、光流は駆け出す。考えるだけならバチは当たらないよな、なんて思いながら!

作者:七凪臣 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年11月22日
難度:易しい
参加:32人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 6
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