創世濁流撃破作戦~水晶竜が咆哮よ

作者:志羽

●水晶竜が咆哮よ
 モザイクに覆われた領域――ワイルドスペースにて、それは一声鳴いた。
 その声は力強く、ああこれがと満たされた力に満足しているような咆哮であった。
 ハロウィンの魔力。その力をそれは感じているのだ。
 この力があれば、ワイルドスペースは濁流となり世界を覆い尽くす事すら、可能となる。
 ワイルドスペースを確かめるように歩を進めれば、水晶が生まれ、そして砕けていく。
 それは青い鱗の竜。しかし、その翼と尾の一部は水晶で出来ており、角のあった場所からは炎が揺らめいていた。
 そして、それは歩みを止めると再び、咆哮をあげた。空気を震わせるその声は響ききって消えていく。
 それは力強い、水晶竜の心のありようの現れだ。
 この場所を、ワイルドスペースをいくつも潰しているケルベロスという存在がある。
 それがやってきても恐れるに足らぬ。あの『オネイロス』を増援として派遣してくれた『王子様』の為にも、必ず、この『創世濁流』作戦を成功させてやろうという、決意の咆哮だった。

●予知
 ハロウィンのイベントが終わったばかり。けれど、緊急事態なんだと夜浪・イチ(蘇芳のヘリオライダー・en0047)は集ったケルベロス達へと告げる。
 それはドリームイーター最高戦力であるジグラットゼクスの『王子様』が、六本木で回収したハロウィンの魔力を使って、日本全土をワイルドスペースで覆い尽くす『創世濁流』という、恐るべき作戦を開始したという事。
 現在、日本中に点在するワイルドスペースに、ハロウィンの魔力が注ぎ込まれており、急激に膨張を開始している。
 このまま膨張を続ければ、近隣のワイルドスペースと衝突して爆発、合体して更に急膨張し、最終的に日本全土を一つのワイルドスペースで覆い尽くされる事になるのだという。
「幸い、ケルベロスさん達の多くが動いてくれたおかげで隠されていたワイルドスペースの多くが消滅してる」
 ハロウィンの魔力といえど、すぐさま日本をワイルドスペース化するまでの力はないみたいだとイチは続けた。
「戦闘が行われる空間は特殊な場所だけど、特に支障はないよ。それから、向かってもらうワイルドスペースにいる敵は、水晶を纏う竜」
 それはケルベロスの、暴走した姿の外見を奪っただけのドリームイータ―。
 青い鱗の竜は、額のあたりから炎を揺らめかせ、翼は水晶。尾の一部もそうなっているという。
 攻撃は、咆哮と水晶を放つ攻撃。それから水晶纏って傷を癒し守りを固めるといったことを行うようだ。
「それから、ワイルドスペースには『オネイロス』という組織からの援軍が派遣されているらしいんだ」
 オネイロスの援軍は『トランプの兵士のようなドリームイーター』なのだが、詳細はよくわからない。
「援軍は一体のみだけど、ワイルドハントと同時に戦う事になるから苦戦することになるとおもう」
 そしてその援軍は、特に重要と思われるワイルドスペースには、『オネイロス』の幹部と思われる強力なドリームイーターが護衛として現れる可能性もあるとイチは続けた。
 その幹部は強敵ではあるが、今回の作戦の中核戦力である彼らを撃破する事ができれば、今後の作戦が有利に運べることにもなる。
「もし、幹部と遭遇したら撃破を狙うのか、それともワイルドスペースの破壊を優先するのか。そこも大事になってくると思うから意志を統一しておくのは必要だと思うよ」
 けれど、とイチは続ける。
 現れたのが幹部であるのなら戦闘力が高い事は容易に想像できる。中途半端な作戦ではどちらも撃破できずにという事もあるかもしれないと。
「戦いがどうなるか、俺も予知しきれないところがあって申し訳ないんだけど、この先の戦いはケルベロスさん達にしかできないことだから、託すよ」
 どうかこの創世濁流作戦を挫いてきてほしい。
 そう言ってイチはケルベロス達をヘリオンへと誘った。


参加者
藤咲・うるる(メリーヴィヴィッド・e00086)
疎影・ヒコ(吉兆の百花魁・e00998)
狗上・士浪(天狼・e01564)
ジルカ・ゼルカ(ショコラブルース・e14673)
スヴァリン・ハーミット(隠者は盾となりて・e16394)
深宮司・蒼(綿津見降ろし・e16730)
朝霞・結(紡ぎ結び続く縁・e25547)
王・美子(首無し・e37906)

■リプレイ

●水晶竜と兵と
 そのワイルドスペースに踏み入れば、すぐさま目を引いたのは青い鱗持つ竜の姿。
「あれがワイルドハントなのね」
 駆け寄って、足を止め。藤咲・うるる(メリーヴィヴィッド・e00086)はそして、とその傍らに視線向ける。
 そこにいたのは御伽噺にでてくるような、トランプの兵隊だ。手には剣を持ち、抜き放って構えを取っている。
「あれが正体不明、オネイロスの援軍か」
 狗上・士浪(天狼・e01564)は敵を見据え、ふんと鼻を鳴らす。
「……猿真似野郎が有り難がる程の連中。謎も多いが実力は確か、か……気ぃ引き締めてくかね」
 士浪は敵としては不足無しと笑って構えをとる。
 すぅ、と息を吸い込んで吐く。深呼吸で弱気を押し込めるジルカ・ゼルカ(ショコラブルース・e14673)はペコラ、と翼猫の名を呼ぶ。こつんと額を合わせれば、ぬくもりを感じた。
「あったかい、大丈夫」
 その呟きにペコラも一声鳴いて返す。
「フン、不思議の国に迷い込んだってか? 夢オチはナシだぜ」
 口端を上げて笑う王・美子(首無し・e37906)の首からは、長い炎の尾が揺らめいている。
 このワイルドスペースには慣れたが、相手は未知の敵。警戒しなきゃな、と疎影・ヒコ(吉兆の百花魁・e00998)は想いそっと、懐に入れている御守を、夜さり桜を服の上からそっと握り、祷る。
「――……さて、夢もまことも纏めて叩き潰してやるよ」
 瞳閉じたのは一瞬。敵の姿を捕らえれば、好戦的な光が宿る。
「君も紳士的幹部なら! 自分が本当に幹部なのか証明してみせてよ!」
 と、スヴァリン・ハーミット(隠者は盾となりて・e16394)は兵に声を。
 けれど、名乗るも何もなくスヴァリンは唸る。
「……あれは幹部じゃないね、間違いなく紳士じゃない」
 紳士的幹部なら――名前や所属を戦闘前に名乗るとスヴァリンは言うのだがそれがないのが判断の理由。
「ん~……何かよく分かんねーけど、こいつ倒さないとヤバイって事だよな?」
 それなら、難しくないしわかりやすいと深宮司・蒼(綿津見降ろし・e16730)は思い。
「って事は、要はいつも通り全力で殴ればいいって事だよな! うっし、任せろ!」
 溌溂と、その力を、気持ちを漲らせる。
「うん、ドリームイーターの好きになんてさせないよ……!」
 ね、ハコと。傍らの箱竜へと朝霞・結(紡ぎ結び続く縁・e25547)は声かける。ハコはもちろんと言うように一声鳴いて返した。
 相手が何者でもやることは、たったひとつ。
 倒すのみ、だった。

●兵と水晶竜と
 互いに姿を視界に納め、最初に打つ一手はそれぞれ違う。
 ジルカはまず、狙いを兵へ。
「いけるかも!」
 狙いをつけたその瞬間、本能的に感じるものがある。
 この攻撃は、はずれないと。命中精度に有利な位置にいるのは確かだが、何もできない。そんな状況ではないとわかる。
 しかし、守りが固いという事を感じていた。
 放った黒色の、魔力弾が兵へ悪夢を見せるもの。
「こっちだぜ!」
 走りこんだ蒼は流星の煌めきと重力のせて敵を蹴りつける。
 その間にスヴァリンはヒールドーンを自分含めた前列の皆へ。そして箱竜のイージスは属性インストールをスヴァリンへ。
 そこへ、兵が剣を振るう。すぐ近くにいたスヴァリンへと向けて。続けて、水晶竜も咆哮を上げた。
 その攻撃はどちらも、近くにいる者たちへの攻撃だった。
「誰も倒れさせないよ!」
 列攻撃には列回復を。結はフェアリーブーツの踵鳴らし仲間達癒す花弁のオーラを降らせた。
 そしてハコは結の助けとなるべく彼女へ属性インストールをかける。
 士浪の竜槌が砲撃形態へと為る。振り下ろせば弾丸が放たれ兵を撃つ。
 狙いを兵に定めヒコもその場から敵に喰らいつくオーラを放った。その狙いの精度は高まっている。
 仲間に疎外の耐性を与える為に星辰の剣振るううるる。
 そして美子はケルベロスチェインを地に展開し、前列の仲間へと守りの加護を齎す。
 兵の攻撃は、どうやら己にかかる影響はない様子。
「攻撃当たりそうだし、このままトランプ兵から」
「ええ、やっちゃいましょう」
 ここにいる皆となら、それができるわとうるるは軽やかに紡ぐ。ジルカはうんと力強く頷いた。
「じゃ、俺はこいつを抑える!」
 兵を倒す間、水晶竜を引き付けるのは蒼の役目。その前に立てば自然と意識は高揚する。
 どうあっても、何者であっても倒すつもりであった蒼はひるむ気配も何もなく、逆にやる気に満ちている。
 一緒に付き合うよ、と美子は蒼の手伝いを。
 方針が定まるのは早く、狙いの矛先はまず援軍である兵へ。
 仲間達が攻撃をできるように、そのために結がすべきことは仲間達を支えること。
「誰も倒れさせないよ! そのために、私も倒れない……!」
 メディックの意地、甘く見ないで! と結は敵を見据え、その力を振るう。
 満月に似たエネルギー光球を、スヴァリンへ。
 水気を集めた蒼は一角の姿をした氷の式鬼を呼び出した。
「薄氷の参式、穿て氷筍!」
 その声と共に、式鬼は水晶竜へと突撃し生気の流れそのものに穴を穿つ。
 今は回復する必要もなく、スヴァリンはアームドフォートの砲身を兵へと向けた。
 主砲からの一斉発射が敵を貫くように走る。
 するとその中をどうにかぬけて、兵が眼前に迫るがそこへ蒼が飛び出した。
「いかせないぜ!」
 鋭く降られる剣により蒼の身を切りつける。一撃で相手を追い詰める一撃でないものの、鈍い痛みはあった。
 その痛みが、ふと拭いた風で少し和らいだ。
 それはペコラの羽ばたき。皆へ清浄の風を送っていたのだ。
「あたらしい場所が、ほしいだけでしょ」
 どうして、だれかの世界を壊さずにはいられないのとジルカは思う。
「そういうの……あったま、来るんだけど!」
 その想い込めて思い切り投げつけたのはエクスカリバール。それは兵に当たり、ジルカの手元へと戻ってきた。
 いつだって、戦いは一歩、前に進むためにある。
 水晶竜が一歩進めばその周囲に水晶が生み出された。それらがまき散らされるように、向かい合うもの達へと放たれた。
 水晶竜が放った水晶がそれぞれの身を貫く。けれどそれで引くこともない。
「各ドローン同期完了、モード:リペア アクティブ。自陣の損傷、障害を速やかにクリアせよ……回復いっちゃうよー?」
 スヴァリンは回復機能備えたドローンを、味方の頭上に展開する。照射される淡い色の光によって傷を治し、さらに阻害を除去していく。
「紳士たる者、仲間の傷は直ぐに治さないとね!」
 癒しの負担を結だけにかけることなく、それぞれができることを。
「――……往け、お前たち」
 その掌から、鈴音ひとつふたつ、響きと共に飛び立つ折紙。祝詞に呪式、魔を籠めればそれは本物相違無い獣へと姿を変え敵へと向かう。
 その陰に潜むように走りこんだ士浪。その、走る熱は炎となって足で燃え上がる。
 勢い付けて一蹴放てば、その炎は敵の身の上でまた燃え上がった。
「十分倒せる相手ね、油断はしないけれど!」
 うるるの振るう星辰の剣より放たれるオーラは、水晶竜と兵とを同時に襲う。
 二体に襲い掛かったオーラはその場で氷結もたらし、その身を凍てつかせた。
 兵を削る間に、美子と蒼は水晶竜の相手を。
 美子はガトリングガンを構え、その弾丸を放つ。その弾丸は跳ねて、敵の纏う水晶の一角を砕く。
 その瞬間、ぐると喉奥鳴らし水晶竜が威嚇を。
「昂ぶるなって、戦いは常に冷静でいた奴が生き残るのが定説だ」
 そう言ってみるが、お前には通じないかと美子は言う。
 そして、兵に攻撃は集中し、水晶竜が回復を行うもののそれだけで支えきれるわけもなかった。
 が、回復のたびに兵の守りは硬くなる。しかし、それをそのままにしておくほど優しくはなく。
 そして、破る方法も十分にあった。
「――援護するわ」
 あやかしの力宿る扇をうるるがひらりと躍らせる。それは陣を見出し破魔の力を仲間へと与える。
 そして、その恩恵をさらにほかの皆へも、結は与える。
「打ち砕く牙、凍てつく焔となって、ここに」
 自らのグラビティを青白く凍えた焔に変える結。その焔は仲間を癒し、そして敵の加護を砕く力になる。
 うるるが前衛に、結は後衛に。
 その力を以て、兵の守りが攻撃重なり崩されていく。
 そして、ヒコの振るうマインドソードが兵を斬りつけていく。
 攻撃の重さに耐えられず兵はその攻撃で身を散らした。
 残るはこの場の主、ワイルドハントのみ。戦いはゆっくりと終わりに向かってゆく。

●竜の咆哮
 ワイルドハント、水晶竜は一体になれば攻撃に転じるようになった。
 自身も攻撃受け傷は増えるばかりだが、攻撃の手を緩めない。
 ズシンと重い音立てて踏みしめる。身を低くするようにし開く口。
「――――ッ!!!」
 低く、響く。
 目の前に立つ敵達へと向けた水晶竜の咆哮。その咆哮は力ある咆哮。
 その声の衝撃はジルカに届くものではなかった。けれど、響きはダメージとならずとも心震わせるものでもあった。
 けれど、咆哮に震えるのなら己も吠えれば良い。
 その指を、銃のかたちに。
「お、大きな声に、負けない! ……行けぇーっ!」
 その撃鉄はこころに。それを起こして、くちびるに引き金の呪。
 一歩を踏み出すために、それがたとえ小さくても。ジルカはその指先よりぎんいろの星屑散らし硝子の弾丸を。
(「遠い日に、いつかの日にも焦がれた誰かの背中に届くよに――俺達の背にしたものの為に」)
 ちっぽけな一歩を、退かないよと思っての弾丸。
「いやな声あげて……黙っててもらいたいもんだ」
 黙らせるために弾丸のプレゼントだと美子はガトリングガンを構えた。
 爆炎の魔力を込めて放たれる弾丸の雨。それは水晶竜の身を穿ち、小さな炎は連なって大きく燃え上がりその身を削る。
 先程の咆哮を一番近くで受けたヒコは、己が身に掛る圧を感じていた。
 けれどそれは、すぐに感じなくなる。
 結が踊れば、花のオーラが降り注ぐ。舞い踊ればそれに呼応するように一層華やかに。
 その花の恩恵は癒しと、そして阻害からの解放。
 結へと、ヒコは一瞬視線向ける。それには謝意を籠めて。結はその視線に気づいて、笑みを。
 それは己の矜持が、意地がまっとうに貫かれているという証明でもあるのだから。
 そしてひゅっと風切る音立てヒコが振るったのは如意棒だ。
 水晶竜の爪先をその先でとんと押し込んで、顎の下から突き上げれば巨体は傾ぐ。
 その、今開いた水晶竜の懐へと踏み込んだのはうるる。
「間近で見るとキラキラしてるのね、あなたの鱗。けど」
 華奢な見た目に反して、動きは大きく足を勢い着けて振り上げて。
「容赦はしないわ」
 言葉と共に放つ一蹴は電光石火で急所を射抜く。
 その直後だ。
「おい、ヒコ」
 ちょっと足場を貸せと士浪は言って、如意棒の先に瞬間、荷重がかかる。
「無茶ぶりには、応えてやらないとな」
 突然の事だが、それに反応しきれないことはなく。承ったとヒコは反動つけ、士浪を跳ねるように押し出した。
 期待通りと口端上げて、敵を見下ろす位置から士浪はその踵を振り下ろす。
 急所めがけて振り下ろされた一撃に、水晶竜は足元をぐらつかせる。
「お、結構効いたみたいだな」
 でも追い詰めるにはまだかと士浪は、しぶといなと零す。
 頭を振るい、地を踏みしめる水晶竜は攻撃に転じようとしていた。
 けれど。
「動くな」
 それを邪魔するように美子の声が響く。足元狙って打ち放つ弾丸は一層、その場に踏みとどまらせることになる。
「ったく、銃一挺で化け物が殺せるかよ」
 そう言って、美子は次に打つ手は、何が最善かを考える。
 一人では決して、倒せぬ相手だ。けれどそれぞれ役目を追って、動けば倒せぬ相手ではなく。
 すでに動きは鈍り、戦いの精度は落ちている。
 それでも攻撃をと自らの周囲に水晶を生み出し、水晶竜は放つ。
 その切っ先は、後列へと向いていた。しかしそれすべてが届くことはない。
 こちらには守り手がいるのだから。
「紳士としては、護りきらせてもらうよ!」
 スヴァリンは護る為の戦いを信条としている。どんな強大な相手であろうとも、仲間を護りきると誓っている。
 その身を水晶が切り刻もうとも、仲間の為であれば耐えられる。
 スヴァリンと蒼、そして守り手たるサーヴァント達が仲間を護ると、その矢面に立つ。
「図体でかいだけじゃ、どうにもならねぇな」
 片腕に霊気を纏い、水晶竜へと向ける。
「凍てつけ」
 氣が数多の氷弾に変換され、高速で一気に放つ。氷弾は容赦なく水晶竜へと突き刺さり、その身に食い込み凍結を広げていった。
「さっきのお返しだぜ!」
 動き鈍っている水晶竜へ、蒼は螺旋の軌跡を描く手裏剣を放った。それは螺旋力を帯びており、水晶竜の喉元を穿った。
 その傷は深く、水晶竜は膝から、その場に崩れ落ちていった。

●終わりで始まり
 その巨体が崩れ落ちる。
 ワイルドハントである水晶竜は呻き声と共にゆっくりと瞳を伏せ、その身の端から崩れていくように消えて行った。
 その姿が消えると共に、ワイルドスペースも消えて行く。
 美子は周囲の様子に視線巡らし、何も変わった様子はないんだなと紡いだ。
「これで相手の狙いを挫けたのなら、重畳だ」
「ここはこれで大丈夫そうね」
 そう言って、うるるはほっとする。この場から誰も失わず、戦いを終える事が出来たことに。
「やっぱり、謎だらけのやつらだったな。いや一つだけわかることがあるか」
 逃げ足は速い、と士浪は言う。
 その言葉にヒコはそうだなと頷いた。
「倒せばさっさと消えるのは変わらずか」
 何も跡を残さず、この場所はすぐ消えてしまったのだから。
 敵の拠点となる場所を一つ、挫くことができた。他の場所はどうだろうかと、ヒコは零す。
 何にせよ、この場からはワイルドスペースは芽吹かない。
 大きな作戦を挫くための、ここでの戦いは終わったのだ。
「ペコラ、俺……」
 すこしだけ大きく、強くなった俺で、いられたかなと。問う前に、その心見透かすようにペコラはその尾でぺちりとジルカの背を叩いた。
 それだけで、気持ち通じるようでジルカは躑躅の色に笑みを滲ませた。
「結ちゃん、深宮司くん、大丈夫?」
 スヴァリンは怪我はない、と言う。それを聞いて結は、二人の方がと言う。
「護った勲章みたいなものさ!」
 敵の前に立ち攻撃を受け、スヴァリンと蒼は傷を負ったままだ。
「これくらい大丈夫だって!」
 蒼もそう言うのだが、結としては心配。すぐ癒すからじっとしててと一言。
 頼りになる弟のような、そんな蒼に対して世話は焼きたいところ。
 怪我あるものの、今こうして立っていることに安堵を感じる。
「きっとこれは始まりなんだよ、ね……?」
 けれど、まだこれは事件の一端。
 戦いはまだ、終わってはいない。

作者:志羽 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年11月15日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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