モザイクに覆われた領域――ワイルドスペース。
その内部に全身に赤黒い禍々しいオーラを纏う人影が一つ。
「これが、ハロウィンの魔力か。この力があれば、私のワイルドスペースは濁流となり世界を覆い尽くす事すら可能だろう」
人影――ワイルドハントが独り言のように呟く。
黒い軍服に身を包み、袖を通さず、肩から羽織っている白い外套が動くたびに揺れる。
「ケルベロスとやらが、ワイルドスペースをいくつも潰しているという話だが、些末なことだ。『王子様』があの『オネイロス』を増援として派遣してくださるのだ。必ず、この『創世濁流』作戦を成功させてみせよう」
ワイルドハントは腰にある黒塗りの鞘に納められた日本刀へと手をかけ、不敵な笑みを浮かべた。
「皆さん、ハロウィンのイベントが終わったばかりですが……緊急事態です」
セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が申し訳なさそうに説明を続ける。
「ドリームイーター最高戦力であるジグラットゼクスの『王子様』が、六本木で回収したハロウィンの魔力を使って、日本全土をワイルドスペースで覆い尽くす『創世濁流』という、恐るべき作戦を開始しました」
現在、日本中に点在するワイルドスペースに、ハロウィンの魔力が注ぎ込まれており、急激に膨張を開始している。
このまま膨張を続ければ、近隣のワイルドスペースと衝突して爆発、合体して更に急膨張し、最終的に日本全土を一つのワイルドスペースで覆い尽くされる事だろう。
「幸い、皆さんの活躍で、隠されていたワイルドスペースの多くを消滅させている為、ハロウィンの魔力といえど、すぐさま日本をワイルドスペース化するまでの力はありません」
「皆さんには、急膨張を開始したワイルドスペースへと向かい、内部に居るワイルドハントの撃破をお願いします」
戦闘場所はワイルドスペースという特殊な空間ではあるが、戦闘には支障はない。
「このワイルドハントは、日本刀を使った攻撃を得意としているようです。纏っているオーラにも注意しておいたほうがいいでしょう」
更に、ワイルドスペースには『オネイロス』という組織からの援軍が派遣されているらしい。
「オネイロスの援軍は『トランプの兵士のようなドリームイーター』のようですが、詳しい戦闘力は不明です」
援軍は一体の様だが、ワイルドハントと同時に戦う事と考えると苦戦を強いられる。
「ワイルドハントさえ倒せば、ワイルドスペースは消滅するので、ワイルドハントを優先するのがいいでしょう」
先にワイルドハントを撃破してしまえば、ワイルドスペースが消滅し、オネイロスの援軍も撤退する。
「また、特に重要と思われるワイルドスペースには、オネイロスの幹部と思われる強力なドリームイーターが護衛として現れる可能性もあります」
幹部は強敵だが、今回の作戦の中核戦力である彼らを撃破する事ができれば、今後の作戦が有利に運べるかもしれない。
「幹部と遭遇した場合に、幹部の撃破を狙うのか、或いは、ワイルドスペースの破壊を優先するのか、意思を統一しておく事も重要でしょう」
オネイロスの幹部は戦闘力が高い為、中途半端な作戦では、どちらも撃破できずに敗退する事になりかねない。
「謎の多いドリームイーター組織『オネイロス』の援軍も気になりますが、ワイルドハントさえ倒すことができれば、作戦は成功です。無茶だけはしないでくださいね」
参加者 | |
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赤堀・いちご(ないしょのお嬢様・e00103) |
安曇・柊(告罪天使・e00166) |
シアライラ・ミゼリコルディア(天翔けるフィリアレーギス・e00736) |
クローチェ・テンナンバー(キープアライブ・e00890) |
円谷・円(デッドリバイバル・e07301) |
朱藤・環(飼い猫の爪・e22414) |
ドゥーグン・エイラードッティル(鶏鳴を翔る・e25823) |
安海・藤子(道化と嗤う・e36211) |
●
ケルベロス達は『創世濁流』作戦を阻止する為、ワイルドハントを倒すべくワイルドスペースへと足を踏み入れた。
モザイクに覆われたその領域は、戦闘において影響はなさそうではある。しかし、右を見ても左を見てもモザイク。空や地面さえもモザイク。普段見慣れていない光景に不快感を覚える。それが今、徐々に膨張していっているのである。
「ここがワイルドスペース……ワイルドハントが溢れているところ……何だか少し怖いかも。私の影もいるのかなぁ」
円谷・円(デッドリバイバル・e07301)が周囲を見回しながら呟く。
「知り合いが出てきたりしたら、やりにくそうです……」
円の呟きに、赤堀・いちご(ないしょのお嬢様・e00103)が反応する。
「……ワイルドスペースを膨張させて創世濁流、ですか。厄介なことをしてくださるものですね。手ごわい相手との戦いとなりましょうが、ベストを尽くすのみです」
「出来ることなら、此処でしっかり仕留めておきたいです、ね」
シアライラ・ミゼリコルディア(天翔けるフィリアレーギス・e00736)と安曇・柊(告罪天使・e00166)はワイルドハントとの戦いに意識を向ける。
ワイルドスペースの中心部へと歩いていくと、2つの人影が立っているのが見えてくる。
「あそこに居るのが、おそらくワイルドハントなの」
円の声にケルベロス達は警戒を強め、姿が確認できる距離まで近づいていく。
赤黒い禍々しいオーラを纏う軍服の人物――ワイルドハントがこちらに気が付き、黄金色の瞳がケルベロス達を見据える。
その側にはトランプに手足、頭が付いたような兵士が控えている。身体にはスペードの3の絵柄。
「ケルベロスか……今は貴様達に構っている暇はない。早々に立ち去るのなら見逃してやるが?」
ワイルドハントが不敵な笑みを浮かべている。見逃すとは言っているが、その立ち姿には一分の隙も見られない。
「それで帰るなら、こんな所まで来ませんよー」
「そうデスネ! ワタクシも同じ考えデス!」
朱藤・環(飼い猫の爪・e22414)とクローチェ・テンナンバー(キープアライブ・e00890)が戦う意思表示に武器を構える。
「ケルベロスの方を相手取るようで、なんだかおかしな気分ですわね」
「この不思議空間をどうにかしたいわねぇ。そのためにも、目の前の相手をしっかり落としましょ? 大事なのは優先を見失わないことってね!」
各々が武器を構え始める。ドゥーグン・エイラードッティル(鶏鳴を翔る・e25823)と安海・藤子(道化と嗤う・e36211)の2人も続くように戦闘態勢に入る。
ケルベロス達の様子を見て、ワイルドハントの纏う雰囲気が変わった。
「そうか……私達の計画を邪魔するというのなら、排除するまで!」
●
ワイルドハントが刀を抜き放ち、一気に距離を詰めてくる。
「っ!? はや、うあぁあっ!」
ワイルドハントの斬撃が藤子を襲う。更に遠距離からトランプ兵の銃弾が追撃。
「藤子!? このっ離れてっ!」
ワイルドハントに向けて轟竜砲を放つ円。攻撃を受け、ワイルドハントが後退すると、追いうちに円のウイングキャット、蓬莱が尻尾の輪を飛ばし攻撃する。
その間にいちごが桃色の霧を放出し、藤子を包み癒す。
「……目を離したら、消えてしまうかも」
詠唱を終え、柊が『一番星』を放つ。美しく瞬く光がワイルドハントの目を惹き付ける。
「目標確認。あとは頼みましたよ!」
環が小型無人機を上空に放つと、障壁を展開。急降下してワイルドハントを押し潰す。
ドゥーグンがドラゴニックハンマーを変形させ、竜砲弾を発射する。
「スターサンクチュアリ」
シアライラがゾディアックソード『Oratio Eurydice』に力を込めると、地面に描かれた守護星座が光を放ち、守護の力が前衛に居る仲間を包みこむ。
「さっきはよくもっ! くらいな、猟犬縛鎖!」
藤子の放った鎖がワイルドハントを襲う。
「モードメディカル。VP-9413射出シマス」
クローチェが足元へと弾を射出する。弾は地面に着弾すると、スモーク状に薬品が噴出しクローチェ達を包んだ。
ワイルドハントが少し距離を取り、刀を横に振るうと闘気の刃が生まれ、後衛を薙ぎ払う。
「痺れてっ!」
攻撃を受けた円はすぐさま体勢を立て直し、痺れ薬を投てき。
「凍ってくださいー」
環の構えていたバスターライフルから、フロストレーザーが放たれる。
しかしワイルドハントはバックステップでそれを躱す。
「こいつは当たるか? ほら、避けてみな」
「ぐっ!?」
ワイルドハントが環の攻撃を躱した先、藤子が距離を詰めハンマーを叩き込んだ。
「今のうちに回復するのデス!」
ワイルドハントが怯んでいるうちに、回復を始めるクローチェ。
トランプ兵の放った銃弾が柊の右ふくらはぎを貫く。バランスを崩した瞬間、ワイルドハントの斬撃が眼前に迫る。
「くっ、しまっ……」
直撃を覚悟したその瞬間、横から柊のウイングキャット、冬苺が割り込み柊を庇った。斬撃を受け冬苺が地面に横たわる。
「赤堀さん……先にえと……冬苺の回復を、おねがい……します」
「は、はいっ」
柊は足から血を流しながら、ワイルドハントへと向かっていく。そして痛みを堪えながら、炎を纏った蹴りをワイルドハントへと放った。
その間にいちごは頼まれた通り冬苺の回復を始める。
「援護しますの」
柊の攻撃に続いて、ドゥーグンがパイルバンカーを構え飛び出す。凍気を纏った杭がワイルドハントを打ち抜く。
「これもおまけよ」
シアライラの放った炎弾が追撃。連続攻撃を受け、ワイルドハントは一度距離を取った。
●
ワイルドスペースの膨張を止めるため、ワイルドハントを優先的に狙ってはいるものの、一定距離を保ちつつ援護射撃をしてくるトランプ兵に邪魔され、こちらの体力も徐々に削られていく。
「トランプ兵、かなり邪魔デスネ!」
ダメージの回復をしながらクローチェ。
「ほんとにねー」
息を切らしながら同意する環。素早さを生かした戦闘スタイルを好む環としても、攻撃のタイミングを何度も邪魔されるのはしんどい。
「どうした、もう終わりか?」
ワイルドハントが斬りこんでくる。
「そう何度も……やらせない」
柊が攻撃を受け止め、反撃に拳を叩き込む。
「大丈夫ですか?」
「ありがとう、いちごさん。シグナス、援護お願いね」
回復を受けた後、シアライラが詠唱を始める。
「燃え盛る太陽よ、煌々と輝く月よ、夜空に瞬く無数の星よ。大いなる力を与えたまえ!」
シアライラのボクスドラゴン、シグナスが体当たり。さらにシアライラの放った光が降り注ぐ。
「凍える焔の果てに、その身を石と化せ」
続けて藤子の魔法が襲い掛かる。
「ライトニングボルト」
円の杖から雷がほとばしる。
「ぐああああっ」
ぶすぶすと煙を上げながら、ワイルドハントがよろめく。
「相手だって無敵じゃないんだ、押し切るよー」
「続きますわ」
環とドゥーグン2人の放つ攻撃が、続けざまにワイルドハントを襲う。
仲間が攻撃している間もクローチェは回復に専念する。
ボロボロになりながらも、攻撃の手を止めないワイルドハント。だが、その動きには最初の頃のような鋭さはなくなっていた。
いちごのボクスドラゴン、アリカがワイルドハントの攻撃を受け止める。
お互い限界が近い。そう捉えケルベロス達は一気に勝負に出る。
「私の力を貴方に。聞いてください、この歌を」
いちごが仲間の為に歌う。
「地獄を見せて……あげよう、か?」
全力で投げた痺れ薬がワイルドハントに直撃する。
「戦術超鋼拳」
「ゼログラビトン」
「熾炎業炎砲」
柊の拳が、環の光弾が、シアライラの炎弾が次々と襲い掛かる。
「このまま、ここで朽ちてしまう運命なのです」
ドゥーグンがグラビティを集中させ、赤い金属の球を生成する。そしてワイルドハントへと投げつける。
ドゥーグンの攻撃を避ける事が出来ずに、攻撃を受けたワイルドハントが吹き飛ぶ。
「我が言の葉に従い、この場に顕現せよ。そは静かなる冴の化身。全てを誘い、静謐の檻へ閉ざせ。その憂い晴れるその時まで……」
藤子の周囲に氷が集まる。それはやがて龍の姿を形作ると、ワイルドハントに向かって襲い掛かる。
『いけぇぇぇっ!』
「――――っ!?」
声をあげる暇もなく、ワイルドハントは氷に飲まれた。
●
ワイルドハントが消滅し、辺りを見回すといつの間にかトランプ兵の姿は無くなっていた。
どうやら作戦が失敗したことで撤退したらしい。
「ワイルドスペースの膨張はどうなりました?」
ドゥーグンの言葉に他のメンバーも周りを確認するが、ここからでは確認できずにひとまず外へ出ることにした。
ワイルドスペースの外から様子を窺うと、徐々にワイルドスペースが縮小していくのが見て取れる。
完全に消滅を確認できるまでは安心できない。そう考え、しばらくの間この場に留まることにした。
いちごとクローチェが駆け回りようやく傷の手当を終え、ワイルドスペースの様子を窺っていると、
「じっと待ってるだけより、お茶会とかどうかな?」
円が『紅玉のさえずり』と『お茶』を取り出し微笑む。
それならと『こころ』、『ショコラアイス』、『七色果実』と各々が持ってきていた様々なスイーツが目の前に並ぶ。
「つ、疲れ……ました」
お茶を一口飲み、ようやく一息と柊。
疲れ切った体にお茶とスイーツが癒しを与えてくれる。
しばしお茶会の時間を楽しむ。その間もワイルドスペースは縮小を続ける。
お茶と食べ物が無くなる頃、ワイルドスペースが完全に消滅した。周りは普段通りの景色へと戻っている。
「疲れてることだし、他に異常が無いようなら早々に帰りましょ?」
藤子が疲れ顔で立ち上がる。
「そうですね、それなら片付けを始めましょう」
続いてシアライラも立ち上がると片付けを始めた。
お茶会の片付けを終えると、ケルベロス達は帰還するためその場を後にした。
作者:神無月シュン |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年11月15日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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