創世濁流撃破作戦~赤腕の影竜

作者:宇世真

●紅く赤く
 ――歪んだ空間。
 細かく刻まれでたらめに再構築された様な山間の景色が周囲を覆う。
 鮮やかな紅葉の木々も、忘れ去られた野路の可憐な草花も、切り立つ崖も、大地ごと。
 モザイクと化した風景の中、何かに感じ入る様に『彼』は呟いた。
「これが、ハロウィンの魔力……か。この力があれば、私のワイルドスペースも――」
 表情は無のまま動かず。
 だが、その濁流を以て世界を呑まんとする狂熱を宿し、フードの下で静かに輝く黄の瞳。
 中空に浮かぶ紅葉の枝を無造作に掃う右手は、赤黒い鱗に鎧われ肥大化した竜の異形。
 ボロボロに擦り切れた衣服の胸元は大きく裂け、赤光するその箇所に手を当てる。
「ワイルドスペースをいくつも潰しているという、『ケルベロス』。……油断ならない」
 指先に力を込め、『彼』はモザイクの花畑で龍玉を掲げた。
「『王子様』は『オネイロス』を増援に寄越してくれた。――この『創世濁流』作戦、成功させる。必ず」

●祭の後に
「いよっすー。皆、ハロウィンは楽しんだか? 終わってすぐで悪ィが、緊急事態だぜ」
 いつものくだけた挨拶と共にやって来た久々原・縞迩(縞々ヘリオライダー・en0128)は、平時と変わらない調子で早速本題へと移る。
「ドリームイーター最高戦力であるジグラットゼクスの『王子様』が、六本木で回収したハロウィンの魔力を使って、日本全土をワイルドスペースで覆い尽くす『創世濁流』なんつーとんでもねぇ作戦を開始したらしい」
 日本中に点在するワイルドスペースにハロウィンの魔力が注ぎ込まれ、現在、急激に膨張を開始しているという。
「そのまま膨張を続けて行きゃあ、他のワイルドスペースとぶつかってどっかんどっかん合体しつつ、最後は日本が全部覆い尽くされっちまうだろーぜ。……だが、いくらハロウィンの魔力が凄ェつっても、すぐさま日本がどうにかなるって事ァ無ぇ。今までの皆の調査、活躍で、隠されてたワイルドスペースを沢山消滅させて来たからな!」
 誇らしげに指を立て、瞳に感謝を浮かべるヘリオライダー。
「今回は、急膨張を開始したワイルドスペースに向かう。お前さんらには、その中に居るワイルドハントの撃破を頼みたい。力を貸してくれ」
 それから、彼は戦場となる場所と戦うべき存在について、説明を始めた。
「ワイルドスペースはちょいと特殊な空間だが、戦闘への支障は無ェ。いつも通りにやってくれ。厄介なのは、ワイルドハントの方かもな。そいつは、とあるケルベロスによく似た姿をしてる様だぜ。それも最後の手段で力を解放した時の、な」
 即ち暴走時の。その、見た目の特徴を聞けば、心当たりのある者もいるだろう。
 だが、同じなのは外見だけで、戦闘能力は正真正銘ドリームイーターのそれだと告げる。
 異形化した腕は近距離の対象を斬り裂き、心を抉るという。はたまた、掲げた龍玉からモザイクを飛ばして来る事もあるだろう。オマケに回復手段も有している。
「更に、だ。ワイルドスペースには『オネイロス』とかいう組織からの援軍が派遣されてらしくてな。『トランプの兵士の様なドリームイーター』だが、戦闘力は不明と来た。一体のみだが、ワイルドハントと同時に相手にする事になる。気ィ抜けねェ戦いになるぜ」
 ワイルドハントを倒せば、ワイルドスペースは消滅する。
 ワイルドスペースが消滅すれば、オネイロスの援軍は撤退して行くだろう、と彼は言う。
 どちらを後に残すにせよ、ワイルドハントに勝利せねばワイルドスペースの破壊は叶わない。幹部クラスが援軍としてやって来る可能性をも示唆しつつ、いずれにしても、意思の統一をして臨めと、縞迩は真剣な眼差しをして――。
 一呼吸後にはいつも通り。
「『創世濁流作戦』……ッたく、なんつーもんを発動しやがる。日本全土のワイルドスペース化なんざ、許す訳には行かねェよな。『オネイロス』とやらも謎だらけで気になるトコだが、とにかく、ンな物騒な作戦は阻止してやろーぜ!」
 口の端を上げ、ケルベロス達に、拳を軽く突き出すのだった。


参加者
霧島・カイト(凍護機人と甘味な仔竜・e01725)
神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)
夜陣・碧人(影灯篭・e05022)
マサヨシ・ストフム(蒼炎拳闘竜・e08872)
小鞠・景(冱てる霄・e15332)
柚野・霞(瑠璃燕・e21406)
水神・翠玉(自己矛盾・e22726)
クラレット・エミュー(君の世は冬・e27106)

■リプレイ

●突入、そして臨戦
「……大丈夫ですよフレア、貴方を置いて居なくなりませんから」
 抱えた仔竜に声をかけながら、夜陣・碧人(影灯篭・e05022)は厳しい表情を浮かべていた。
 空間を彩る紅い継接ぎモザイクの景色が一層不安を煽っているかの様だ。彼によく似た姿のワイルドハントが存在するというこの領域に、共に乗り込んだケルベロス達の思いも様々。察するに余りある碧人の胸中を慮り、霧島・カイト(凍護機人と甘味な仔竜・e01725)がバイザー越しに彼を見遣る。
「平気か?」
 振り向きもせず頷く青年は気丈に見えたが、相応にキツかろうとカイトは思う。知らない仲ではないからこそ、我が身に置き換える事も容易。己や知人に似た姿を纏う敵と相見えるなど、愉快な事ではないだろうと小鞠・景(冱てる霄・e15332)も解する。何より大事な友の為に憤っているのは水神・翠玉(自己矛盾・e22726)だ。
「お友達の……姿を……盗むなんて……許せません……! それに……日本中が……ワイルドスペースになるのは……困ります……」
「ドリームイーターの思惑通りにはさせません」
 戸惑う様にトーンダウンする翠玉に景が応え、
「応とも。どんな敵であれ、敵は敵。好きなようにはさせんよ」
 続くクラレット・エミュー(君の世は冬・e27106)の頼もしい言葉に同調する仲間達。
「任せな、碧人。オメェより格下のそっくりさんなんぞ、オレが簡単にブッ潰してやるからよ」
 マサヨシ・ストフム(蒼炎拳闘竜・e08872)に軽く小突かれて、碧人はワイルドスペースに足を踏み入れてから初めて小さく笑みを浮かべた。が、次の瞬間には険しい表情へと変わって行く。
 その足で、件のワイルドハントとトランプ兵を発見するのに時間はかからなかった。『同時に相手にする事になる』と確かにヘリオライダーも言ってはいたが、実際目の当たりにするとそれぞれが明らかに異質な存在感を示していた。幹部では、ない様だが。青い瞳が見つめる先に仲間達もすぐに気付く。切り取られた紅葉の木々のモザイクの狭間に佇むそれは、あたかも彼らを待っていたかの風情。ケルベロス達が、特段意識せず堂々とワイルドスペースを突き進むのと同様に【彼ら】もまた、最初から身を隠す事もなく待ち構えていたのだろう、己の庭で、一行を迎え撃つべく。
「過去を思い出すその姿。語り部の『俺』を騙るとは嫌味か? 夢現どちらの世界からも消し去ってやる」
 碧人が低く呟いた。
 それが、散開の合図となった。
 ふむ、と定める様な神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)の一呼吸。
「見た目はどことなく夜陣君に似てはいるが……やはり別物だな」
 問答には応じる気配もないフードを被ったワイルドハントのその顔に、碧人が掛けている様な眼鏡は無い。印象を大きく左右する象徴の有無と、もう一つの決定的な相違点――天に掲げる赤鱗異形の右腕の先で龍玉が、光を集めているのが見える。
「なるほど、面影は確かに夜陣さんですね。よくも似せたものです。攻撃するのはあまり気は進みませんが……躊躇はしません」
 先陣を切って駆け出す柚野・霞(瑠璃燕・e21406)が振り抜いたドラゴニックハンマー『Virga Orichalci』から凍てつく弾丸が撃ち出された。狙うはワイルドハント。敵の龍玉から放たれた光が彼女を捉えるのと、果たしてどちらが早かったのか。
「くっ……う……!」
 即座に後に続いた晟は、ボクスドラゴンのラグナルに霞の治癒浄化を託しつつヒールドローンを展開し、景も同じく前衛のメンバーの超感覚を覚醒させるべく全身から光り輝くオウガ粒子を放つ。彼女のライドキャリバー、コロルは烈しく炎を纏ってワイルドハントに突撃して行き、次いでカイトもドラゴニックハンマーを砲撃形態にて構え、竜砲弾を打ち込んだ。と、殆ど同時にボクスドラゴンのたいやきが、前線で競り合う仲間の一人に自らの属性を注入。後列にマサヨシが仕掛けたブレイブマインが炸裂し、カラフルな爆発と共に爆風が吹き上がる中、碧人の詠唱が響き渡る。
「『我が竜は太陽を有する者、我が竜は空を制する者、地に伏せ我らに跪け!』」
 ワイルドハントと張り合う様に天に掲げた右手の先から光弾と化したフレアの力を放ち、上空から叩き付ける。閃光がワイルドハントを捉えた刹那を、縫う様に飛んで来たスペードのモザイクが、中空に再び姿を浮かべたフレアを襲う。
『ぎゃうぅ……っ』
 小さく悲鳴を上げて仰け反る仔竜に思わずハッとして手を伸ばす碧人。トランプ兵の横槍も完全に捨て置く気にはなれず、景と視線を交わしたクラレットは己のビハインド、ノールマンに『牽制』の指示を出す。金縛り、行動の阻害を。
「それでは供をして呉れ、ノーレ」
 そして自らは後発のメタリックバースト――後列に放散されたその光り輝くオウガ粒子を受けて、翠玉の感覚も研ぎ澄まされて行く。オラトリオの少女は、覚悟を秘めた強い呟きと共に、眠れる力を揺り起こした。
「絶対……倒します……『座標把握……。術式…展開……』」
 時空操作術『亜空投擲』――開かれた異空の扉より去来する、先触れなく動き始めた時の弾丸が爆発的な勢いでワイルドハントを穿つ。

●次手
 氷の次は炎だとばかりに霞はドラゴンの幻影をけしかけ、その火を更に大きくするかの様に踏み込んだ晟が烈しい摩擦を伴う蹴打を重ねて見舞う。前衛で頑張る仲間達に守護の力を届けるべく大地に輝く星座を描いているのは景である。彼女と共に奔るライドキャリバーは、烈しいスピンで以てワイルドハントに突っ込みながら、諸共にトランプ兵の足を轢き潰した。
「! 見ましたか、皆さん」
「ああ、奴ら、少なくとも同列か」
 些細な情報も共有しようと景が声を上げ、状況の変化を用心深く観察していたカイトが肯く。
 それで何かが劇的に変わるという訳でもないだろうが、何も判らないまま手探りで繋ぐより幾分マシだ。尤も、結局の所、地を固めるのが先決だろうと彼はファミリアシュートを放った。視界には、順次ケルベロス達への属性インストールに勤しむボクスドラゴン達の姿。モザイクと化した山野を駆けるが如くファミリアが跳ね、ワイルドハントに仲間達が付けた傷跡を抉って開く。とにかくこの場所を在るべき姿に戻すのだ。
「何にせよ、剥ぐだけだ」
 フレアと共にワイルドハントを削りにかかるべく、碧人が振り上げるのはその名を『鱗剥ぎの杖』という、エクスカリバールである。凶器じみた得物と相まって物騒な香り漂う発言に、笑み含む声が重なる。
「おう、やっちまえ。ここまで、悪くねェ流れで来てる」
 煽るマサヨシ。今度は前衛陣の後背にド派手な爆発を起こして後押し。勢い良く振り下ろされた『鱗剥ぎの杖』は、空を裂き、走り込んで来たトランプ兵を抉った。その陰で膨れ上がる殺気に内心舌打ち、飛び退る碧人を、横手から掴みかかる赤腕の横薙ぎの衝撃と共にトラウマが襲う。一方で、スペードの鍵も大きく横に振り抜かれ、マサヨシが胴で受け止めた。全身でそれを押し返すや、ノールマンのポルターガイストがトランプ兵を更に押しやる光景。そして、まだまだ余裕のありそうなマサヨシらを見遣り、クラレットは中衛で立ち回る景に支援の手を向けるのだ。
「皆、引きずってでも連れて帰るからな。心配無用で撃ち込んで呉れ。君ら自身、まだまだ大丈夫そうだがね」
 言って視線を流す先、翠玉がワイルドハントに猟犬縛鎖を掛けている所だった。

 そろそろ良いか。
 良さそうな気がする。
 ワイルドハントに攻撃を重ねる者達の間で交わる視線に浮かぶ手応え。
 実際に効果が発揮されない限り、目視のみでそう断ずる事は出来ないが、念には念を入れたつもりである。次の段階に進んでも良い頃合だ、と実戦経験豊富な者達は肌で感じていた。そんな中、味方への布石はまだかかりそうだと少々悔し気なマサヨシ。サーヴァントを含めて6名ずつの前、後衛。狙って効果を与える事が出来ない以上、盤石にしようとすればするほど、相応の時間はかかってしまう。それまで攻撃に加われないのが残念といった顔つきである。
 そんな彼の分までと思ったかどうかは定かでないが、不可抗力とは言え先刻は護衛の兵隊に邪魔されてしまった一撃を、今度こそはと意気込んで如意棒を繰り出す碧人。だが、その目前でワイルドハントは龍玉を掲げて己修復してしまった。
「何……っ!」
 ここまで積み上げて来たものが均された瞬間、思わず晟の声が出た。
「なんの、もう一度!」
「お見舞いしてやりましょう」
「何度でも……!」
 カイトが、霞が、不屈の精神で行動に移すのを見て、翠玉が倣い、晟も気を取り直してそれに続いた。
「違いないな」
 勝たねばならない。でなければ、彼らの目的も果たせないのだ。
「これ以上ワイルドスペースを広げられるわけにもいかんのでな。ここで食い止めさせてもらおう!」
 リスタート。
 全くのゼロからではないだけに、最初の布陣よりはもっと手早く進められるだろう。現に、景とクラレットの手は空いている。早速、ワイルドハントを護る様に前に出るトランプ兵を押し留める景の、螢光の箭(ルー・クラン) 。
「『お還ししますね』」
 それは極北の碑文の一節。燐光纏う蛍の群れが四面を焼き焦がし、灰燼と帰す。
「然らば私はこうだ」
 と、クラレットが杖から放つ雷にノールマンも動きを重ねて行く。目的は等しくトランプ兵の牽制だ。

●剣と盾
 繰り返す応酬。
 龍玉から放たれた禍つ光に貫かれたカイトが咳き込む。見た目以上に重い一撃には、ここまで既にボクスドラゴンのフレアが耐え切れずに脱落している。カイトに庇われ、事なきを得た霞が即刻反撃に打って出るも、その鋭く冴えた、凍り付く様な弾丸を受けてなおワイルドハントの表情は動かず、攻撃を畳みかける仲間達の顔には疲労の色が滲み始めていた。
 クラレットが翳したリングから生まれた光の盾がカイトを癒し護る傍ら、抑えの緩んだその隙を衝いて飛び出したトランプ兵が、モザイクの口で晟に喰らい付く。比べれば大した衝撃ではない。僅か眉間に寄せる程度で、構わずワイルドハントにアームドフォートの主砲を向けようとした彼だったが、感情はどうした訳か制御できずに、怒りに任せてトランプ兵へと砲弾を発射した。狙いを違えた事が一層腹立たしい。が――。
 トランプ兵を盾として、ワイルドハントが距離を取る。掲げる龍玉から溢れる光は、攻撃の為のそれではなく――。
「好機だ!」
 未だすぐには攻撃に移れぬマサヨシがグラビティのみならず仲間に発破をかける。
 『盾』が被るダメージ量が増えたのがどうやら功を奏したらしい。トランプ兵を回復する為、ワイルドハント自身の回復も、高火力の攻撃も『一回休み』だ。
「構わん、やれ!」
 晟も自らの事は後に回して焚き付ける。
 ラグナルは傍を離れず、彼の『怒り』を自らの属性で上書きしようと一生懸命。彼の事は彼のサーヴァントに任せる事にして、仲間達は集中的にワイルドハントへと攻撃を畳みかけて行く。引き続きトランプ兵の牽制にあたって再度手数を封じる事に尽力するのは景とクラレットである。
「如何でしょうか」
「やれるとも。ノーレ共々最後まで」
 ――最後まで立っていなくてはならない。それは彼女の、医に携わる者としての矜持。
「誰一人欠けさせない、其の為には此れを好きにさせておいてはならん」
「心得ました。転がしましょう、私達で」
 信を置く者の言葉に景はそう含み、作戦の主軸を担う仲間達の方をちらと流し見遣った。

 かくして、残る全員でワイルドハントを追い込んで行く。
「『砕き刻むは我が雷刃。雷鳴と共にその肉叢を穿たん!』」
 晟が振るう蒼竜之戟【淌】が纏う蒼雷、雄叫びと共に放たれる超高速の突刺にて刻む電撃傷が傷口を斬り広げる業深い一撃に、マサヨシが割り込ませて行く撲殺釘打法。
「よっしゃァー、オレにも『偽物』殴らせろォ!」
 遂に参戦できる歓喜に沸く獰猛な竜。普段の穏やかさが鳴りを潜めた彼の戦闘狂っぷりに、呆けた様に立ち尽くす翠玉を気遣いつつ、カイトもまた轟竜砲で重ねる足止め。向けられた気遣わし気な視線に、はっと我に返った翠玉は己の心を奮い立たせた。彼女は決して好戦的な類ではない。戦い慣れている訳でもない。
 しかし、この戦いに身を投じる理由があったのだ。
「碧人さんに……似てても……別人です……。躊躇う理由は……ありません……。大切な……お友達の……碧人さんのためにも……。ここで……倒します……!!」
 その為に、ここに立っている。覚悟と共に。
 今持てる全力で、最も威力が高いと自負するナイフの一撃。惨劇映す鏡面の刃が、ワイルドハントの有るか無きかの心を抉る。霞はドラゴンの幻影を再び現場に投じて、さながら最後の露払い。巨体が炎で導く先に、艶やかな美しい黒髪を揺らして場を空ける。
「さあ、どうぞ。碧人さん」
 空間に足を踏み出す青年の眼前に、不意に飛び出す赤腕。受け止めて痛みに耐えながらマサヨシが笑いかける。
「なんならオレが代わってやる」
「冗談」
 軽口を一蹴した碧人の手には鱗剥ぎの杖。
 無言で斬り裂く凶器のその下で、ワイルドハントは最期の最期の、その一瞬に、僅かに口元を歪めた様に見えた。それは彼の気の所為だったかもしれないし、彼以外の誰にもそれは見えなかった。

●帰還
 ワイルドスペースは消滅し、気付けばケルベロス達は茜の空の下、紅葉映える美しい森の中に居た。
 それが、この場所の本来の姿なのだろう。トランプ兵はモザイク世界の消滅と共に撤退した様だが、誰もその姿を見ていない。撃破していない事だけは、景とクラレットの談により明らかだ。
「皆ギリギリで、踏み留まっているな」
 凪いだ表情の中にもどこか安堵の滲むクラレットの声。
「……帰りましょうか」
 と、振り返る、碧人はもう見慣れた『いつもの』彼だった。

作者:宇世真 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年11月15日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。