創世濁流撃破作戦~殺意の血涙

作者:刑部

 モザイクで覆われた領域。
「これがハロウィンの魔力……この力なら俺のワイルドスペースは濁流となって世界を覆い尽くせるだろう」
 爪のある大きな両手をしげしげと見遣って呟くと、顔を上げて大きく息を吸い込み、
「幾多のワイルドスペースを破壊するケルベロス供とて恐れるに足らず」
 嗤っているのだろうか、コアの露出する胸元で腕を交差させた『それ』は長いマフラーを棚引かせながら肩を震わせた。

「みんなっ、ハロウィンのイベントが終わったばっかりのところ悪いんやけど、緊急事態や。
 ジグラットゼクスの『王子様』が、六本木で回収したハロウィンの魔力を使うて、日本全土をワイルドスペースで覆い尽くす『創世濁流』っちゅー作戦を始めよったみたいなんや」
 イベントを終え、くつろいでいるケルベロス達の前に現れた杠・千尋(浪速のヘリオライダー・en0044)が、少し早口でそう捲し立てる。
「今、日本中に点在するワイルドスペースに、ハロウィンの魔力が注ぎ込まれとって、ワイルドスペースが急激に膨張を開始しとる。
 このまま膨張を続いたら、近くのワイルドスペースと衝突して爆発、合体融合して更に急膨張し、最後には日本全土がワイルドスペースで覆い尽くされてまう事態になってまう」
 紡がれる千尋の言葉に頷くケルベロス達。
「せやけど、みんなの活躍で隠されとったワイルドスペースの多くを消滅できとるさかいに、ハロウィンの魔力や言うても、すぐに日本をワイルドスペース化するまでの力はあらへん。
 せやから急膨張を開じめたワイルドスペースに行って、中におるワイルドハントを撃破したら止められるんやないかと思うんや。お願いできるやろか?」
 と千尋は答える必要もない質問を口にして小首を傾げて見せた。

「ワイルドスペースは特殊な空間やけど、戦闘するに当たっては特に制限が発生する訳や無い、ワイルドハントは全体的に黒と濃い紫色で彩られ、胸元に赤いコアを露出した黒騎士っちゅーか忍者っぽい外見をしとって、長いマフラーが重力を無視してなびいとる。
 獣みたいな大きな腕をしとって、鋭い爪がついとるからこの爪の一撃は要注意や。
 それと、『オネイロス』っちゅー組織から援軍が派遣されとるみたいや。この援軍はトランプの兵士みたいなドリームイーターみたいなんやけど、戦闘能力とか詳しい事はさっぱり判れへん。あ、数は1体だけや」
 と敵についての説明を続ける千尋は、
「ワイルドハントに加え、この1体とも戦わなあかんからなかなか厳しい戦いになるで、気をつけてや」
 少し表情を引き締めてそう付け加え、
「それと重要なワイルドスペースには『オネイロス』の幹部級のドリームイーターが派遣されとる可能性もある。もしそうやったら2体撃破は難しいやろうからどっちを狙うかは決めといた方がえぇかもしれへんな。
 二兎追う者は一兎も得ずってな事になれへん様にな」
 と念を押す。

「みんなが地道に調査してワイルドスペースを破壊してくれたから、この作戦を阻止するチャンスを得る事ができた訳や。その努力に報いる為にも、気張っていくで!」
 そう言って笑顔を見せる千尋の口元に八重歯が覗く。


参加者
ラトゥーニ・ベルフロー(至福の夢・e00214)
清水・光(地球人のブレイズキャリバー・e01264)
ラティクス・クレスト(槍牙・e02204)
ウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)
葛籠川・オルン(澆薄たる影月・e03127)
城間星・橙乃(雅客のうぬぼれ・e16302)
八神・鎮紅(紫閃月華・e22875)
ラジュラム・ナグ(桜花爛漫・e37017)

■リプレイ

●ワイルドスペース
 モザイクに覆われた空間に侵入して来た者達を見ても、『それ』は腕を組んだまま僅かに片眉を上げ、それとは対照的に傍らの『クラブの4のマーク』のトランプに顔と手足が生えた様なドリームイーターは、此方に向き直って槍をくるくると回すと、穂先を下に斜めに構えて前に出る。
「なんや後から来はるんかと思っとったけど、最初から居はりますやないですか」
 毛先が地獄化したピンク色の髪を揺らした清水・光(地球人のブレイズキャリバー・e01264)が、その瞳を細めて口にすると、
(「連携されるとやっかいそぅだし、離さなぃと……」)
 その光の後ろでミミックの『リリ』を従えたラトゥーニ・ベルフロー(至福の夢・e00214)が、面倒くさそうに2体の敵の立ち位置を見比べる。
「前に出たという事は前衛でしょうね」
「ディフェンダーだな」
 トランプ兵の動きに予測を口にした八神・鎮紅(紫閃月華・e22875)に、ラティクス・クレスト(槍牙・e02204)がそう断じ、
「何故言い切れるのですか?」
「あの槍の構えは、敵を突くより攻撃を捌く事に主眼を置いた構えだ」
 地獄化した紫色の瞳を向けて問う鎮紅に、槍使いだけあって槍を識るラティクスは、自身の槍の穂先をトランプ兵に向けて説明する。
「好都合です。集中攻撃でトランプ兵を打ち破り、そのままワイルドハントを撃破しましょう」
 2人の会話に割って入ったのは、先日自身の姿を模したワンルドハントを倒したウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)。
「幹部でもない様ですし、それがいいですわね。ただ、その後ろからの攻撃には気を付けないと……」
 ウィッカの言に頷いた城間星・橙乃(雅客のうぬぼれ・e16302)が、未だ腕を組んだまま微動だにしないワイルドハントを見据えると、ワイルドハントは組んでいた腕を解き、
「ケルベロス……貴様らなど恐れるに足らず、掛って来い」
 と掌を上にして指を折り、此方を挑発する。
「お招き頂き恐縮です。残念ながら、あなたの姿に縁のある方がいらっしゃることは叶いませんでしたが、代わりに僕らがお相手致しましょう。なに、決して失望はさせませんよ」
 その仕草を皮肉の笑みで返した葛籠川・オルン(澆薄たる影月・e03127)が、胸の前で腕を折り深々と頭を垂れる。
「では、始めるとするか。おじさんの太刀で創世の濁流が流れ、断ち斬ってみせよう」
 ラジュラム・ナグ(桜花爛漫・e37017)が、愛刀『黒塗』の鯉口を切って腰を落とすと、
「この道を修羅道と知り推して参る」
 その横から地面を蹴って飛び出した光に続き、ケルベロス達が駆け出した。

●爪と槍と
 槍を構えるトランプ兵目掛けて駆ける一行目掛け、トランプ兵の後ろから絡め取ろうとワイルドハントのマフラーが伸びるが、
「させないのです」
 最後尾に位置したオルンが、くるくるっと回したロッドの杖頭を向けると、マフラーの前に雷壁が展開し、それに当たったマフラーが勢いを失う。その落ちるマフラーの上をウィッカの放った轟竜砲。
(「さて……」)
 効果を確かめる様に目を細めたウィッカの視線の先で、トランプ兵は槍を繰り出しその穂先を砲弾に叩き付ける。派手な爆煙が上がるが見た目程のダメージは与えていないだろう。だが、その爆煙を裂く雷槍の穂先。
「これが一番槍だ。来いよ、槍の使い方を教えてやるぜ」
 踏鳴を起こしたラティクスの迅雷の如き一突きがトランプ兵を穿ち、体勢を立て直す隙も与えずラジュラムと光が一閃を見舞う。だが抜ける光を狙ってワイルドハントが爪を乱舞させ、強かに穿がたれた光は、カバーに入った鎮紅に助けられつつ、破れたケルベロスコートを見て唇を噛み、痺れる体を引き摺って後退する。
 その間にも橙乃が黒い槍と化して伸ばした先端がトランプ兵を穿ち、ワイルドハント目掛けてミミックのリリを投げたラトゥーニもワイルドハントを気にしながら吹雪を叩き付けている。
「やはり侮れませんね。速くトランプ兵を屠って動きを押さえないと……」
 橙乃のスターサンクチュアリで耐性が上がっているにも関わらず、光に重ね掛けられた麻痺の効果を見たオルンは、電気ショックを飛ばして回復させながらそうごちる。
「っと、間合いに踏み込まれた時の対処は出来る様だな。だが、これはどうだ?」
 ラティクスは槍使いと相まみえた事で心無しか嬉しそうに技を繰り出し、トランプ兵の槍を跳ね上げると、鎮紅とラジュラムがすかさず攻撃を叩き込んで跳び退いたところに、
「ハロウィンの大侵略を退けたというのに、新年まで大人しくしておいてほしいものです」
 ツインテールに纏めた赤い髪を揺らしたウィッカが、五芒星を描いて印を結ぶと御業がトランプ兵を鷲掴みにしてその自由を奪い、仲間達が殺到してゆく。

「あぁやっぱりぃ壊れちゃったぁぁ」
 ラトゥーニの青い瞳には、ワイルドハントによって裂かれ霧散するリリの姿が映っていた。
「よく頑張ってくれたのです」
 そのラトゥーニに呼吸を整える為に一旦下がっていた鎮紅が声を掛け、オルンから回復を受けると再び地面を蹴ってトランプ兵に肉薄する。リリがワイルドハントの攻撃を受けたのは僅か3合程であったが、その間にラティクスやラジュラムをはじめとしてトランプ兵に攻撃を集中した事により、トランプ兵は既に満身創痍となっていた。
「ま、壊れちゃったなら仕方なぃよね」
 もうちょっと一緒に戦った方が良かったかな? と思わないでもなかったが、考えても面倒だし、しょうがないしと割り切り、うんうんと頷いたラトゥーニは、魔力を込めた瞳でワイルドハントを睨むも、目が合いそうになるとついーっと視線を逸らす。
「光さん左に!」
 その声に光が左へ跳ぶと、先程まで光によって死角になっていた所から躍り出る形になった鎮紅、それでも反応して槍を向けようとしたトランプ兵に、斜め方向からウィッカの轟竜砲が爆ぜ、
「残念でしたね!」
 鎮紅は深紅の一対となった2本の深紅のダガーに歪な濃紺のオーラを纏わせ、怯んだトランプ兵を裂く。その斬撃に震えるにして体をくの字に曲げるトランプ兵に、橙乃の蹴り込んだ星形のオーラが爆ぜ、トランプが大きく破れると、次々と仲間が波状攻撃を仕掛けた。

 ワイルハントの振るう爪に仲間を庇ったラティクスが押され、オルンが回復でラティクスを支える中、あと一息で倒せそうなトランプ兵に猛攻を仕掛けるケルベロス達。
「これでもう動けないのよ」
 橙乃が向けたファミリアロッドがツグミとなって空を舞い、旋回したツグミは鎮紅と斬り結ぶトランプ兵に側背から体当たりする。その瞬間、トランプ兵の体が震えると動きが一瞬止まり、その頭部目掛けてウィッカの喚んだ槍騎兵が氷のランスを繰り出す。
「そろそろお終いや。ゲームが終わったのに場にカードがあるのは不自然やろ?」
「最後ぐらい派手に送ってやるぜ」
 光が大きく振り被った鉄塊剣を振り下ろす刹那、ラジュラムがその前を水平に横切る。
 薄紅色の炎の残滓を陽炎の如く残したラジュラムの軌跡ごと纏めて、光の振り下ろした剛剣がトランプ兵を文字通り叩き潰した。
「残るはワイルドハントだけ……あぁ、冷え冷えと、香り漂うは冬の華」
 崩れ落ちるトランプ兵を見てワイルドハントに目をやった橙乃は、鮮血でその身を彩るラティクスを見て回復を飛ばし、周囲に芳しい水仙の花が漂い、ラトゥーニが放ったドラゴンの幻影に続き、ワイルドハントに仕寄る仲間達。
「っと、先ずはその腕を封じないとな」
 その場で黒塗を鞘に納めたラジュラムが、その場で片膝をついてライフルを構え、照準を定めて引き金を引くと、グラビティを中和し弱体化するエネルギー光弾が筒先から放たれ、幻影の炎に焼かれたワイルドハントを撃ち抜き、
「手心なしでいかせてもらうで」
 破れたケルベロスコートと流れる髪先の炎を揺らした光が、一気に距離を詰めて斬り掛る。

●ワイルドハント
「跪けケルベロスゥ!」
 怒気も露わに振るう爪に力を込めるワイルドハント。その爪を受ける雷槍《インドラ》を柄が、普通の槍であれば既に折れていたであろうその圧力を受け、悲鳴を上げる様にミシミシと唸る。
「断る。オレは強制されるのが一番嫌いなんだよ」
 抗するラティクスであったが、左眼は裂かれた額から流れた血が入って霞み、徐々にその力に押されていく。……が、そのラティクスの頭上をトンボを切って跳び越えて来た鎮紅。
「逃がしませんよ。其処はまだ、私の間合いです」
 ワイルドハントを睨み、鎮紅の振るう双刃から放たれた紫電の衝撃が、敵の体を奔ってその動きを縛り、
「橙乃さん」
「はいはい、合わせますよ」
 ウィッカの声に応じた橙乃。
 目配せし合った二人は、ラティクスの左右に躍り出ると、ブラックスライムを鋭い槍の如く伸ばし交差させてワイルドハントを貫く。
「小賢しいィ!」
 シャウトしながら爪を振るい、それらを裂いて跳び退くワイルドハント。
「逃がさないぜ」
 そうはさせじとラジュラムがバスタービームを放つ中、
「あなたばかり回復してますね。大丈夫ですか?」
「ここはぁこっちかなぁ? 集まれぇー」
 片膝をついたラティクスにエレキブーストを飛ばしたオルンが、苦笑しながら語り掛け、ふるふると顔を動かして小首を傾げたラトゥーニは、幻影兵団を出して前衛陣の行動を後押しする。
「簡単にはいかんのが闘いやね」
 踏み込んだタイミングで爪を振るわれ、攻撃中止し鉄塊剣を盾の様にして受けて防いだ光は、その威力に痺れる手を見てそう呟いた。
「しぇいらっ!」
 次の瞬間、ワイルドハントのマフラーが分裂して伸び、鎮紅、光、ラティクスの首に絡みついて締め上げる……も、絞められた鎮紅の姿が掻き消えた。それは先程ラトゥーニが造り出した幻影。
「またまだ残念でしたね」
 僅かに口角を上げた鎮紅が円を描く様に腕を振るうと、光とラティクスの首に伸びるマフラーが切断される。
「あと一息です。偽物無勢を駆逐しましょう」
 癒しの雨を降らしたオルンが仲間達を鼓舞し、
「最後は気合いでやるしかないんよね……散り乱れ、緋色の花を咲かせ!」
「全てを終えた時、此処がどうなるのかにも興味があります。その為にも……」
 ふわりと風に舞う花弁の如く距離を詰めた光の後ろから、橙乃が蹴り飛ばした星型のオーラが追い抜いてワイルドハントに爆ぜた所に、一転激しい斬撃を連続で見舞う光。
「ガアァァァァァァ!」
 咆えたワイルドハントが渾身の力を込めて腕を振り抜き、それを喰らった光は喰らう直前、僅かに跳んで吹っ飛ばされる事でダメージの軽減を図る。
「隙ありぃ」
 その振り抜いた腕によりがら空きになった側面にラトゥーニが吹雪を叩き付け、
「疾れ、風刃! 叢雲流牙槍術、弐式・窮奇!」
 ラティクスの繰り出した突きにより生じた風が枷となり、跳び退こうとしたワイルドハントを縛る。
「あ、足が……」
「黒の禁呪を宿せし刃。呪いを刻まれし者の運命はただ滅びのみ」
「これが画竜点睛というやつだ」
 ラティクスの攻撃で動かなくなった己の脚に視線を落としたワイルドハントに、赤いツインテールを躍らせたウィッカが魔剣を撃ち込み、桜花の如く炎を散らしたラジュラムの手元、黒塗の一閃が弧を描くと、ワイルドハントは膝から崩れ落ちる。
「その姿はどこで手に入れた? 本来の姿は別にあるのか?」
 膝立ちするワイルドハントにラジュラムが問うが、ワイルドハントは応える様に口を動かすもののも何も聞こえず、血の涙を流しながらニヤリと笑い、そのまま前のめりに崩れ落ちたのだった。
 ワイルドハントが事切れると同時に、モザイクに彩られた空間は急速に収束し始め、ケルベロス達は慌ててその空間からの脱出を図ったのであった。

作者:刑部 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年11月15日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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