●渇望する濁流
山と山の間に位置する小さな村。冬の気配を感じさせる風が吹き抜ける中、その場所は巨大なモザイクによって覆われていた。
ワイルドスペース。その地の主であろうドリームイーター・ワイルドハントは、自身の手にした力を確かめるようにして、そっと自らの胸元を両腕で抱き締めた。
「これが……ハロウィンの魔力。この力があれば、あたしのワイルドスペースも濁流になって、世界を覆うことだってできる……」
虚ろな表情で呟くワイルドハントの姿は、ボロ布を纏ったサキュバスそのものだった。だが、その華奢な体躯に見合わず、彼女の周囲には無数の砲塔が控えていた。
「ケルベロスっていうのが、ワイルドスペースをたくさん潰してるって聞くけど……大丈夫、だよね? あの『オネイロス』を増援として派遣してくれた『王子様』だもん。この『創世濁流』作戦を成功させたら……『王子様』も、あたしのことを必要としてくれるかな?」
その問い掛けに、答える者はいなかった。だが、それでも少女の姿をしたワイルドハントは、自らに与えられた使命を果たすべく動き出す。彼女の足元に漂うモザイクが、まるで七色の川のように、妖しげな輝きを放ちながら漂っていた。
●創世の濁流
「召集に応じてくれ、感謝する。ハロウィンのイベントが終わったばかりだが、緊急事態が発生した」
その日、ケルベロス達の前に現れたクロート・エステス(ドワーフのヘリオライダー・en0211)より告げられたのは、ドリームイーターの最高戦力であるジグラットゼクスの『王子様』が、六本木で回収したハロウィンの魔力を使い、日本全土をワイルドスペースで覆い尽くす作戦を開始したとの報だった。
「現在、日本中に点在するワイルドスペースに、ハロウィンの魔力が注ぎ込まれている。急激に膨張を開始したワイルドスペースは、やがて近隣のワイルドスペースと衝突して爆発、合体を繰り返し、最終的には日本全土を一つのワイルドスペースで覆い尽くす」
その名も『創世濁流』という、恐るべきドリームイーター達の作戦。だが、幸いというべきか、今までのケルベロス達の活躍で、隠されていたワイルドスペースの多くは消滅している。そのため、いかにハロウィンの魔力といえど、すぐさま日本をワイルドスペース化するまでの力は無い。
「そういうわけで、お前達には急膨張を開始したワイルドスペースに向かい、内部に居るワイルドハントの撃破を頼みたい。ワイルドスペースの場所も、既に俺の予知で特定済みだ。急成長をしたせいで、なんとか引っ掛けることができたからな」
クロートの話では、今回の任務で向かってもらいたいワイルドスペースは、山梨県の県境付近に位置する小さな山村を覆っているという。そして、そこを守るワイルドハントの姿は、リルカ・リルカ(わんこそば・e14497)の暴走した姿に酷似しているとも。
「敵の武器は、アームドフォートに酷似した砲台と、足元を漂うモザイクの奔流だ。その他にも、両腕で相手を抱き締めることによって、相手の生命力を奪う技を使ってくるぞ。守りに特化した間合いが得意で、見た目以上にタフなやつだから、その点だけは注意してくれ」
これに加え、ワイルドスペースには『オネイロス』という組織からの援軍も派遣されているらしい。オネイロスの援軍は『トランプの兵士のようなドリームイーター』のようだが、その詳しい戦闘力は不明のまま。援軍は一体のみだが、ワイルドハントと同時に戦う事になるので、苦戦を強いられることは間違いない。
また、特に重要と思われるワイルドスペースには、オネイロスの幹部と思われる強力なドリームイーターが護衛として現れる可能性もある。幹部は強敵だが、今回の作戦で敵の中核戦力を撃破する事ができれば、今後の作戦が有利に運べる可能性は高い。
「幹部と遭遇した場合、その撃破を狙うか、或いはワイルドスペースの破壊を優先するのか……どちらにするかは、お前達に任せるぜ。ただ、くれぐれも欲を出し過ぎて、作戦が失敗することのないように気をつけてくれ」
想定されるオネイロスの幹部の数は、全て合わせて5体ほど。どれも戦闘力が高いため、中途半端な作戦では、ワイルドハントも敵の幹部も撃破できずに敗退させられることだろう。どこのワイルドスペースに幹部が出現するかは不明のままだが、どちらにせよ、事前に意思統一をしていなければ、不測の事態には対応できない。
「日本全土をワイルドスペースの洪水で覆い尽くす、創世濁流作戦……確かに、恐ろしい作戦だぜ。だが、日本全土をワイルドスペース化などさせるわけにはいかない。今まで、お前達の仲間が多くのワイルドスペースを破壊してきた成果……それを無駄にしないためにも、お前達の頑張りに期待させてもらうぜ」
敵の目的が何であれ、これ以上はドリームイーター達の好きにはさせない。日本全土が悪夢で覆い尽くされる前に、何としても敵の作戦を阻止して欲しい。
最後に、それだけ言って、クロートは改めてケルベロス達に依頼した。
参加者 | |
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弘前・仁王(魂のざわめき・e02120) |
光宗・睦(上から読んでも下から読んでも・e02124) |
ピリカ・コルテット(くれいじーおれんじ・e08106) |
ガロンド・エクシャメル(災禍喚ぶ呪いの黄金・e09925) |
アシュレイ・ヘルブレイン(生まれたばかりの純心・e11722) |
リルカ・リルカ(ストレイドッグ・e14497) |
シルヴィア・アストレイア(祝福の歌姫・e24410) |
守部・海晴(空我・e30383) |
●濁流の中へ
膨張を続けるモザイクの中へ脚を踏み入れると、粘つく何かが全身に絡み付いて来た。
「うわ、気持ち悪ぅ……。なんか、凄くテンション下がりそうなんだけど……頑張って行かないとね」
気合いを入れ直す光宗・睦(上から読んでも下から読んでも・e02124)だったが、しかしこの場所はどうにも空気が悪い。否、そもそも空間を満たしているのが、果たして外界と同じ空気なのかどうかも不明だ。
「作戦通りに行きましょう、各々のタスクに集中すれば大丈夫」
飲み干した栄養ドリンクの小瓶を放り投げた方向へ、アシュレイ・ヘルブレイン(生まれたばかりの純心・e11722)が視線を向けた。転がる小瓶が音を立てて止まれば、そこに立っていたのは、多数の砲塔を従えたサキュバスの少女。
「どうやら、早速現れたようだねぇ……」
それだけ言って、ガロンド・エクシャメル(災禍喚ぶ呪いの黄金・e09925)は静かにハンマーを構えた。目の前の相手は姿形こそ似ているとはいえ、サキュバス等ではないことは、ここにいる全員が知っていた。
「まったく、偽物とか……。自分の心根の弱さを突き付けられてる感じで、正直いい気はしないね」
己の似姿をした敵を前にして、思わずリルカ・リルカ(ストレイドッグ・e14497)が顔を顰めた。
聳える無数の砲塔は、まるで他者を拒絶する心の象徴。それでいて、救いを求めるように伸ばされた両腕は、己を愛して欲しいという渇望の現れにも見える。
矛盾しているのだ、なにもかも。だからこそ、余計に見ていて不愉快な気持ちにさせられる。
「あたしは……王子様のために……」
虚ろな瞳のまま、こちらに迫り来るワイルドハント。その場から動かず、しかし砲塔から何かを発射するでもない行動に、ケルベロス達の顔を怪訝そうな表情が掠めたが。
「なにっ! いつの間に!?」
足元へ伸びるモザイクの奔流に気づき、守部・海晴(空我・e30383)が慌てて距離を取った。だが、既にモザイクの流れは彼に退くことを許さず、そのまま足元から絡み付いて来た。
(「もっと……もっと……あたしを見て……。他の誰でもない……あたしだけを……」)
途端に、心の中に響く耳障りな声。言葉が幾重にも反響する度に、周りの景色がぼやけ、視界が霞む。
「いけません! プリム! 海晴くんのフォロー、お願いします!」
慌ててピリカ・コルテット(くれいじーおれんじ・e08106)が指示を出したことで、間髪入れずにボクスドラゴンのプリムが海晴に桜色の輝きを届けた。
「すまない、助かった。……どうやら、見た目で判断すると痛い目に遭いそうだな」
気を取り直し、海晴は炎を纏った日本刀でワイルドハントに斬り掛かる。だが、燃え盛る太刀の軌道を寸前で避け、ワイルドハントはケルベロス達から距離を取った。
「なるほど、力量的にも決して侮れない相手のようですが……」
眼鏡の位置を軽く直し、弘前・仁王(魂のざわめき・e02120)はハンマーの柄をワイルドハントに向けて構えた。同じく、ガロンドも柄を構えたところで、タイミングを合わせて一気に仕掛けた。
「……っ!?」
叫ぶ暇さえも与えずに、立て続けに放たれる竜砲弾。その爆風が収まらない内に、煙を掻き分けて現れたのはミミックのアドウィクスだ。
「そいつの足を止めろ!」
ガロンドの命を受け、アドウィクスがワイルドハントの脚に噛り付く。懸命に振り解こうとするワイルドハントだったが、一度食らい付いたミミックは、そう簡単なことでは離れない。
「こういう時こそ、落ち着いていかないとね♪ ピリカちゃんも、手伝って!」
「久々の真剣な戦い……癒し手としての腕が鳴りますねっ!!」
オウガメタルの力を解放するシルヴィア・アストレイア(祝福の歌姫・e24410)の言葉に頷いて、ピリカも同じく光り輝く粒子を放出した。
戦場を覆う、光のプリズム。その最中、アシュレイは己の心を研ぎ澄まし、精神と現実を相互に繋いで行き。
「開け、万物を見通せし神の眼……ルーセントマインド!!」
それは、あらゆる『流動』の変化を感じ取り、その軌跡を見切ることで未来を予知する神の瞳。負担の大きい技ではあるが、数少ないチャンスを少しでも有効に使うには、出し惜しみは不要だ。
「逃がさないよ! 根性でっ! 当てるっ!!!」
ようやく、敵がアドウィクスを振り払ったところで、一気に距離を詰めたのは睦だ。
翼で練り固めた空気をジェットエンジンの要領で噴射し、そのまま勢いに任せて殴りつける。戦籠手と一体化したガトリングガンの砲身は、弾など出さずともその重さだけで、十分な凶器に成り得るのだ。
「ともあれ、銃弾で語り撃ち砕こう。デリカシーのなさは、痛みで償ってもらうことにするよ」
敵の怯んだ隙に、死角からリルカが光線を叩き込む。流れはこちらに傾いている。そう確信し、シルヴィアが思わず声を上げようとしたときだった。
「よ~し、いい感じ! このまま一気に……」
「……どうやら、新手が来たようですね」
相棒のボクスドラゴンが振り下ろされる鍵の一撃を受け止めるのを見て、仁王は新たなる敵の方へと向き直った。そこにいたのは、巨大な鍵のような武器を持った、ハートの絵柄を持つトランプの兵士。
「あれがオネイロスか。だが、どうやら幹部というわけではないみたいだねぇ」
それでも油断はできないと、ガロンドは改めて仲間達へと告げた。敵が増えたことには変わりなく、予断を許さない状況であることも同様だと。
当初の予定通り、まずはこのトランプ兵から撃破する。膨張を続けるモザイク空間の中で、ケルベロス達とドリームイーターの、互いの命運を賭けた戦いの火蓋が切って落とされた。
●無情のオネイロス
淀んだ気の漂う空間で、繰り広げられる激しい死闘。
ワイルドハントの援軍として現れたオネイロスのトランプ兵。それを撃破するために全力を注ぐケルベロス達ではあったが、しかし彼らの攻撃は、そう簡単にはトランプ兵に届かなかった。
「王子様のために……あたしは……」
譫言のように呟きながら、ワイルドハントは自らの身を呈してトランプ兵を庇う。一気呵成に畳み掛けたくとも、攻撃の合間に割り込まれることで、意図せず攻撃の連続を断ち切られる。
「…………」
なんら表情一つ変えることなく、トランプ兵はハート型のモザイクを飛ばして来た。間髪入れず、身を呈して仲間を庇ったガロンドだったが、モザイクが身体に付着した瞬間、脳髄を絞り取られたのではないかと思われる程の苦痛に、思わず表情を歪めて頭を抱えた。
「……耐えられない程ではないな。ただ、あまり重なり過ぎると、後々に響いて来そうだねぇ」
偽の財宝を撒き散らしてアドウィクスが敵を撹乱する中、ガロンドもまた、燃え盛る炎を纏った脚で、トランプ兵を蹴り飛ばした。
身体が重い。先のモザイクによる影響か、ともすれば断続的な痺れが思考そのものを麻痺させんと襲って来る。
「ガロンドさん! 今、治しますね!」
すかさず、ピリカが薬液の雨を降らせたが、身体の痺れを除去するだけで、回復量が心許ない。足りない部分はプリムにフォローさせてはいるが、ダメージの蓄積が重なれば、回復しきれない傷もまた増えて行く。
「持久戦ですか……。こちらの力を削がれないのは、ありがたいところなのですが……」
幾度目かの『神眼』の覚醒を果たし、アシュレイは改めて戦場の様子を見回した。
攻撃と回復を交互に行いつつ、自分も味方も強化する。戦いの方法としては王道にも思えるが、それは即ち、どちらの行動の効率も半分程度に落としてしまうことに等しい。速攻でトランプ兵から撃破することを考えた場合、準備の方を先に整えておいた方が賢明だった。
「私と相棒で牽制します。その間に、突破口を開いてください」
相棒のボクスドラゴンにブレス攻撃での牽制をさせつつ、仁王はケルベロスチェインを伸ばしてトランプ兵を捕縛する。それに続け、リルカと睦は互いに頷くと、自身の持てる最大の火力を惜しみなくトランプ兵へと叩き込んだ。
「他人の心の問題に、無粋な横槍を入れるな!」
「ハチの巣に! してあげるよっ!」
砲塔から放たれる無数の砲弾と、ガトリングガンの一斉射撃。それら、飛来する弾の数々に混ざり、上空から迫るのは海晴とシルヴィアの二人。
「皆の努力に報いるためにも、ここは一つ気張っていこうかな」
「派手に……いっけぇぇーっ!!!」
シルヴィアの蹴り出した星が爆炎に混ざって降り注げば、海晴は自らが弾丸の如く、トランプ兵へと蹴り込んで行く。一点集中な点の制圧。確かな手応えを感じ、敵を蹴った反動を生かして舞い戻った海晴が、思わず顔を上げて様子を窺うが。
「まあ、そう簡単に、突破させてくれるわけもないよな……」
煙の中から現れたのは、トランプ兵ではなくワイルドハント。全ての攻撃を防がれたわけではないが、彼女が割り込むことによって、攻撃の勢いを削がれ続けているのは事実だった。
「あぁ……もっと……もっと……あたしを、見て……」
リルカの似姿をしたワイルドハントが、虚ろな表情で手を伸ばす。その身に纏う異様な気に、思わず身構えるケルベロス達。もっとも、そんな彼らの様子などお構いなしに、ワイルドハントは仁王のボクスドラゴンを抱え上げると、力任せに抱き締めて生命力を奪い始めた。
「自ら盾を引き受けながら、攻撃と回復を両立させる……。思った以上に、面倒な相手だったかもしれませんね、これは」
力押しによる、削りの理論が通用しにくい。眼鏡の奥で鋭く瞳を輝かせる仁王は、この戦いの行末について、一抹の不安を抱きつつあった。
●流転する戦況
戦いは続く。淀んだ空気の漂うワイルドスペースでの戦いは、予想に反して長引いていた。
攻撃に特化した布陣で挑んだケルベロス達であったが、ワイルドハントやオネイロスのトランプ兵は、その力を削ぐような攻撃を仕掛けてくる。それを立て直しながら火力を集中しようとすれば、今度はノーマークになったワイルドハントが攻撃を仕掛けてくる。
長引く戦いで、既にサーヴァント達の何体かは、力を失い消滅していた。その他の者達も、回復し切れない傷が溜まって行く。
「来ないで……それ以上、あたしに近づかないで……」
浮遊する砲塔を散開させ、ワイルドハントが一斉にレーザーを放ってきた。その前に盾となり立ちはだかるガロンドだったが、さすがに攻撃の数が多過ぎた。
「……っ! ここまで、か……」
防ぎ切れなかった光線の何本かは後衛を直撃し、ガロンドもまた膝を付いて地に倒れ伏す。攻撃に偏り過ぎた故の、ディフェンダーへの負担増。回復を繰り返す削り合いとなれば、地力の高い方が上手となる。
「ま、まだまだ……。わたし達のステージは、ここからが本番だよっ!」
それでも、後僅かでトランプ兵を倒せると踏んでか、シルヴィアは聖歌を紡ぎながら立ち上がる。
「永い永い時の果て、世界に届け、私達の想い。魂よ響け、この世界中に。私達が願うのは星の未来。未来掴む為、さぁ、闇を祓おう……♪」
歌に誘われ、呼び出されしは5本の刃。楔のように配置された剣が生み出すのは、祝福を与える魔方陣。
これ以上、誰も倒れさせはしない。そんな彼女の想いは癒しの力として傷ついた仲間へと届けられるが、しかしそれを黙って見過ごす程、トランプ兵も御人好しではなく。
「きゃぁっ! ちょ、ちょっと……!?」
巨大なハート形のモザイクが膨らんで、シルヴィアを一気に飲み込み、覆い尽くした。極彩色の塊が齎すのは、食らった者を落とす無明の闇。
「シルヴィアちゃん!? ……くそぉっ!!」
慌てて海晴が一太刀を浴びせて敵を退けたが、モザイクから吐き出されたシルヴィアは、既に戦うための力を失ってしまった後だった。
攻守に特化した前衛や、狙撃と回復に特化した後衛に比べ、撹乱以外に利点のない中衛に立つ者は、盾が崩れれば意外と脆い。戦いにおける壁の薄さは、そのままに中に立つ者達への危険として現れる。
「……残念だけど、これまでだよね。攻撃目標を、ワイルドハントに切り替えるよ!」
倒れたガロンドに代わり、睦が叫んだ。それは、予め仲間内で決めていた『号令』だ。
このまま行けば、オネイロスの尖兵は倒すことができるだろう。しかし、欠員を二人も抱え、更に数体のサーヴァントも失った状態で、果たしてワイルドハントまで倒せるかどうか。
積極的にトランプ兵の盾になりながらも、ワイルドハントの消耗は、予想に反して少なかった。こちらの体力を、攻撃と同時に吸収する術を持っているからだろう。初手で猛毒の一発でもくれてやれば別だったかもしれないが、今さら悔いても仕方がない。
「作戦の目的は、あくまでワイルドハントを倒すことですからね。戦いに勝って、勝負に負けては話になりません」
仁王の放ったケルベロスチェインがワイルドハントに絡み付き、身体の自由を奪って行く。敵が倒れるのが先か、こちらが撤退するのが先か。戦いの行末は、まだ見えない。
●求める者、欲する者
攻撃の目標をワイルドハントへ搾ったことで、戦いの流れは再び変わった。
「あれは、こちらで押さえます。今の内に……!」
アシュレイがライフルでトランプ兵を牽制する中、他の者達はワイルドハントへと攻撃を集中させて行く。対する敵も懸命に反撃を試みるが、長引く戦いの影響だろうか。その攻撃は初めに比べて随分と制裁を欠き、威力も大きく低下していた。
「これ以上は、やらせません! リルカちゃん、一気に行っちゃいましょう!」
即興のショック療法でリルカの傷を癒し、ピリカが叫んだ。
ここまで来れば、遠慮は不要だ。今こそあの合わせ鏡のような偽物に、改めて引導を渡すとき。
「見苦しい……本当に、見苦しいね。その見苦しさはあたしだけのものだ」
絶対に放ってはおけない。覚悟もなしに、模倣される筋合いもない。
だからこそ、念入りに叩き潰す。そう誓い、リルカは躊躇うことなく引き金を引く。
「逃げられると思うなっ!」
瞬間、矢継ぎ早に連射された銃弾が爆ぜ、跳弾を伴い収束して行く。
それは、超常的な力ではない、純粋な技術の生み出す技。姿形だけを借りただけの模倣品には、決して真似できない鍛錬の賜物。
「ぁ……あぁ……。王子様……あたし、は……」
右手を伸ばし、縋るように倒れながら、消滅して行くワイルドハント。それと同時にトランプ兵が撤退し、奇怪な空間もまた消え失せて行く。
「ああ、本当に見苦しい。アレも、あたしも……」
誰にも真似されたくない、心の傷。最後に、それを取り戻したところで、リルカが呟くようにして口にした。
作者:雷紋寺音弥 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年11月15日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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