創世濁流撃破作戦~激浪のアドウェルサ

作者:柚烏

 モザイクに覆われた、継ぎ接ぎだらけの歪な空間――ワイルドスペースと呼ばれるその領域に、恍惚めいた甘い吐息が漂う。
「……あぁ、これがハロウィンの魔力」
 朽ちかけた寝台に腰掛けて身悶えるのは、蠱惑的な美貌を持つ女だった。悪魔の如き角と翼を持つ彼女は、一見するとサキュバスのように思われたが――その正体は、ワイルドハントなるドリームイーターだ。
「この力があれば、私のワイルドスペースは濁流となって……世界を覆い尽くす事すら可能になる」
 見るものを虜にせずにはいられない、豊満な肉体を惜しげも無く晒し、ワイルドハントは悠然と足を組み替える。其処から覗くガーター上のブーツはどうやら、禍々しい影がかたちを成しているようだ。
「しかしケルベロスとやらが、ワイルドスペースをいくつも潰しているという話だけど……それもほんの些細なこと」
 柳眉をひそめたのは一瞬――直ぐにワイルドハントは、愛を囁くような蕩ける声でそっと呟く。あの『オネイロス』を増援として派遣してくれた『王子様』の為にも、必ずこの『創世濁流』作戦を成功させてみせる、と。
「もし、邪魔をする者が現れたのなら。この翼で、きつく激しく抱きしめてあげる――」

 賑やかなハロウィンが終わったと思ったら、緊急事態が発生した――息せき切って皆の前に現れたエリオット・ワーズワース(白翠のヘリオライダー・en0051)は、ひと呼吸置いてから、現在の状況についての説明を開始する。
「ドリームイーター達の最高戦力である、ジグラットゼクスのひとり『王子様』。その彼が、六本木で回収したハロウィンの魔力を使って、日本全土をワイルドスペースで覆い尽くす『創世濁流』と言う恐るべき作戦を開始したんだ……!」
 エリオットが続けるには、現在――日本中に点在するワイルドスペースにハロウィンの魔力が注ぎ込まれており、急激に膨張を開始しているのだと言う。
「これが続けば、近隣のワイルドスペースと衝突して爆発……合体して更に急膨張し、最終的に日本全土を一つのワイルドスペースで覆い尽くすことになるんだよ」
 その悲劇を想像したのか、エリオットの表情が微かに曇るが、でも――と彼は、希望に満ちたまなざしでケルベロス達を見つめた。
「幸い皆の活躍で、隠されていたワイルドスペースの多くを消滅させているから、ハロウィンの魔力といえど、すぐさま日本をワイルドスペース化するまでの力は無くなっている」
 ――それでも事態は一刻を争う。故に皆には、急膨張を開始したワイルドスペースに向かい、内部に居るワイルドハントの撃破をお願いしたい。エリオットはそう告げてから、任務に必要な情報を順に説明していく。
「まず、戦闘が行われるワイルドスペースについて。其処は混沌とした特殊な空間ではあるけれど、戦闘には支障ないから大丈夫」
 そして、その内部には『創世濁流』を行おうとするワイルドハントが居る。妖艶なサキュバスの如き彼女は、フェリシティ・フォード(サキュバスのプロデューサー・e01285)の暴走した姿をしているようだが――あくまでそれは外見を奪っただけに過ぎない。
「敵の能力はドリームイーターのもの……それでも、見た目に沿った攻撃をしてくるから、上手く対策を立てて挑んで欲しい」
 影を纏う足技と魔性の誘惑、そして悪魔の翼での抱擁――妨害能力に長けたワイルドハントは、此方を幻惑し無力化を誘ってくる筈だ。
「……そして、これに加えてワイルドスペースには『オネイロス』という組織からの援軍が派遣されているらしいんだ」
 どうやらトランプの兵士のようなドリームイーターらしいが、此方の詳しい戦闘力は不明だ。援軍は一体のみとなるが、ワイルドハントと同時に戦う事になる為、苦戦は免れないだろう。
「日本全土をワイルドスペースの洪水で覆い尽くす、創世濁流……何だか洪水神話を思い出す、壮大な作戦だけれど」
 そう言って溜息を吐いたエリオットだが――彼のまなざしには、このような暴虐をさせる訳には行かないと言う、強い決意が宿っていた。
「多くの仲間たちの地道な調査のお陰で、こうしてこの作戦を阻止するチャンスを得ることが出来たんだ。だからどうか、自信を持って戦ってきて」
 ――濁流に負けないほどの確かな流れは、此方だって創り出してきたのだ。大きくうねりを見せる潮流が、果たして何処へ行きつくのか。その行く末をエリオットは皆に託し、彼らの翼となるべくヘリポートへと駆け出していった。


参加者
メリルディ・ファーレン(陽だまりのふわふわ綿菓子・e00015)
リシティア・ローランド(異界図書館・e00054)
レーグル・ノルベルト(ダーヴィド・e00079)
藤波・雨祈(雲遊萍寄・e01612)
リコリス・セレスティア(凍月花・e03248)
影渡・リナ(シャドウランナー・e22244)
三枝・栞(野良メイド・e34536)
ブラッディ・マリー(鮮血竜妃・e36026)

■リプレイ

●濁流の呼び水
 寓話六塔――ジグラットゼクスのひとり、『王子様』によって開始された創世濁流作戦。それは、日本全土をワイルドスペースの洪水によって覆い尽くすという恐るべきものだった。
 幸い今までの調査活動が実を結び、ワイルドスペースの多くを消滅させてきた為、その勢いは減じているものの――一刻を争う事態に変わりはない。
「それでも、今回はみんなと一緒に行けるから心強いね」
 眼前に広がるワイルドスペースを一瞥してから、メリルディ・ファーレン(陽だまりのふわふわ綿菓子・e00015)はその二つ名に相応しい、陽だまりのような笑顔で仲間たちに頷いた。
 ――彼女がワイルドスペースに赴くのは、これで二度目。もうひとりの自分と向き合う体験は、色々な意味で衝撃的だったが、今回は敵の作戦を阻止出来るか否かの勝負所なのだ。
「ワイルドスペースが、それだけの力を持っていた事には驚きだけれど……何としてでも阻止しないとだよね」
 その想いはどうやら、影渡・リナ(シャドウランナー・e22244)も同じようで――彼女は霊刀を握りしめ、毅然としたまなざしで行く手を見つめている。
「うん、次の作戦に繋げる為にも、ここはしっかりと抑えてみんなで帰るよ」
 メリルディが決意を新たにする中で、藤波・雨祈(雲遊萍寄・e01612)は相棒であるレーグル・ノルベルト(ダーヴィド・e00079)に髪を結って貰っており。無骨なレーグルが、手慣れた様子で髪結いをこなす姿を意外に思う間もなく、準備を整えた雨祈は本気を出すとばかりに表情を引き締めた。
(「洪水神話……怒れる神の、天からの罰ですね」)
 一方、憂いを帯びた様子で混沌の空間を見つめるのは、リコリス・セレスティア(凍月花・e03248)。しかし今その災害を起こそうとしているのは、夢を喰らう侵略者――ドリームイーターに他ならない。
(「罰を与える罪など無いのなら……人々を守る為、その作戦を阻止してみせましょう」)
 ――そんなケルベロスとしての使命や、この星に生きるものの覚悟を抱く仲間たちが居る一方で、ブラッディ・マリー(鮮血竜妃・e36026)は己の衝動に従い、殺戮を求めて敵地へと赴く。
(「……ケルベロスの姿を持つ相手を、憚る事なく殺せる折角の機会だもの」)
 此処には居ない、オリジナルの子には悪いけど――とブラッディがちらりと視線を向けた先には、清楚なメイド服を着こなした三枝・栞(野良メイド・e34536)が居た。確か彼女は、ワイルドハントが姿を借りた相手の友人のようだったが――その愛らしい相貌に躊躇いは無く、新緑の瞳は義憤に燃えている。
「さぁ、皆様。参りましょうか」
 栞の声に促された皆は、一斉にワイルドスペース内部へと足を踏み入れ、粘性の液体とモザイクが織り成す混沌とした空間を進んでいった。どうやら此処は元々、廃墟となった屋敷のようであり――アンティーク家具の切れ端には時折、壁を侵食する木々の姿が見え隠れする。
(「今までのものと、特に変化は無いようね」)
 表情を変えぬまま、無機質に辺りの様子を眺めるのはリシティア・ローランド(異界図書館・e00054)で。どうやらこの奇妙な空間も、彼女の興味を惹くまでには至らなかったらしい。
「……そろそろだね、準備はいい?」
 そうして特に迷うことも無く、リナ達一行は空間の中心部へと辿り着き――其処では予知で知らされた通り、妖艶な暴走体の姿を取るワイルドハントが待ち受けていた。
 否、もうひとり。『オネイロス』なる組織からの援軍も加わっていたのだが――。
(「まさか、ここに幹部が派遣されていたの……?」)
 ワイルドハントの隣に立つ、その援軍の姿を捉えたメリルディは思わず息を呑む。相手の言動や、実際の戦いから推測しようと考えていたのだが――そんなことをせずとも、違いは明らかだった。
「ようこそ、お客様が沢山いらしてくれて嬉しいわ――」
 ――エプロンドレスの裾を摘まんで、優雅にお辞儀をするドリームイーター。一見ごく普通の少女にしか見えないが、その胸元にはモザイクが広がっており、見た目にそぐわない強大な力を嫌でも感じさせる。
(「オネイロスの援軍は、トランプ兵の姿をしているとの事でしたが……彼女は……」)
 不吉な予感を覚えたリコリスは、少女こそがオネイロスの首魁であるのかもしれないと眉根を寄せた。一方で事前の打ち合わせを思い出したレーグルは、相棒へ目で合図をしつつ巨槌を握りしめる。
『基本は援軍の撃破を優先。但し相手が幹部の場合、ワイルドハントの撃破を最優先とする』
 銃を構えて、幹部の抑えに雨祈が動く中――妖艶な夢魔の姿をしたワイルドハントは、とびきりの悪夢を見せようと深紅の翼を広げて迫って来た。
「……書物以外に私の心を動かすものはないわ。失せなさい」
 しかし、リシティアは冷ややかな声でそう一蹴すると、悪夢に相応しい終わりをもたらすべく、朗々と魔術の詠唱を開始したのだった。

●オネイロスの少女
 作戦に齟齬が無いことを確認した上で、一行は連携を意識しつつワイルドハントの撃破を狙う。相手は妨害能力に長けており、対策を怠れば自滅の危険もある――その特性を把握し、先ずリコリスは耐性を行き渡らせるべく星辰の剣を滑らせた。
「皆様に、星の加護がありますように……」
 ――綺羅星の如き光が舞い、地面に描かれた守護星座が聖域となり仲間たちを護る中、詠唱を終えたリシティアは一気に魔術を敵陣へと解き放つ。
「激情が怒りとなり、怒りは雷となる。吼え立て、唸れ」
 その指先が翻るや否や、異常な重力場が辺りに生まれ――其処から生まれた赫き落雷は、広範囲に渡って降り注ぎ麻痺をもたらしていった。
「……幹部も同列なのね、其方は任せたわ」
 己の魔術が、もう一体にも及んだのを確認したリシティアは、幹部を抑えようと動くメリルディの背にそっと声を掛ける。盾となる彼女は、ネロリの香を漂わせてこくりと頷くと、宿した御業で敵を鷲掴みにして動きを封じようとした。しかし――。
「躱された……!?」
 オネイロスの少女は、ふわりと舞う様にして御業の呪縛から逃れた後、モザイクを操り精神を侵食してくる。けれど咄嗟に動いた雨祈がレーグルを庇い、雨祈はそのまま幹部目掛けて、己の影を這わせていった。
「絡め取れ、影法師――」
 噛み切った指先から零れた血の雫が地面に吸い込まれた刹那、波紋の如く雨祈の影が波打ち、敵を締め上げようと伸びていく。しかしそれは、幹部の足を止めるには至らず――己の腕で命中させるのは難しいことを、雨祈ははっきりと思い知らされた。
「流石に、幹部とくれば格が違うのか……今の内にそっちを」
 ――恐らく相手はキャスター、ならば生半可な攻撃は命中しないだろう。ワイルドハントに集中してと促す雨祈へレーグルが頷くと、彼は先ず地獄の炎を纏わせて、加護を打ち砕く力を皆へと分け与える。
「侵攻をやめないなら、全力で相手になるよ!」
 見た目になんか惑わされないのだと叫びながら、リナは稲妻の幻影を刀身に宿らせ、ワイルドハントを一気に貫いた。槍の刺突を思わせる鋭い一撃は、そのまま敵の動きを封じ――其処へ間合いを詰めたブラッディが迫り、神速の突きを繰り出して獲物の護りを削いでいく。
「さぁ……その殺し甲斐のありそうな、綺麗で力強い身体を、存分に楽しむとしましょうか」
 ――彼女の抱く殺意は、狂おしい愛情にも似ていて。生命の欠片が零れ落ちていく様子にうっとりと目を細めながら、ブラッディは枷の鎖を鳴らし、尚もナイフで消せぬ傷を刻みつけようとした。
「ふ、ふふ……中々激しいのがお好みのようね?」
 しかし、ワイルドハントは妖艶な笑みを崩さず――此方の劣情を煽るように己の肢体をくねらせ、抗えぬ誘惑で心を縛る。
「その姿、その装い……率直に申し上げまして不快ですね。他人様の力を借りて、肌を晒して見せびらかすなどと……!」
 と、其処で、嫌悪も露わにワイルドハントを睨みつけたのは栞だ。輝く粒子を放出して穢れを浄化した彼女は元々、快楽を慎むように教育されていたこともあったが――それよりも何よりも、相手が姿を奪って好き勝手に振る舞っていることが許せないようだった。
「ましてやそれが、親しき女性の物となれば尚更です。恥を知りなさい、紛い物!」
「ええ――その誘惑を、断ち切ります」
 耐性を付与していったリコリスもまた、清廉な声を響かせると、翼の抱擁を受けたレーグルへ極光のヴェールを纏わせていく。その異常の全てを消し去るまでには至らないが、催眠の脅威は大分取り除けており――自滅を誘うワイルドハントに対処するべく、リシティアは竜の幻影を放ち、業火でその身を蝕んでいった。
「あなたがそう来るなら、此方はじわじわと焼き尽くすまでよ」
 ――更にレーグルが巨槌を振り下ろし、氷結の一撃を叩き込んだものの、直後にオネイロスの少女が傷ついたワイルドハントの治療に動く。
「向こうは回復も行うのか……!」
 思わずと言った調子で雨祈が髪を掻き毟るが、援軍の存在には不確定要素が混ざっていたので仕方ないだろう。オネイロスの幹部――それも首魁と思しき少女と対峙することになったのは、予知でも分からなかったのだ。
「理想の世界を創るために……邪魔はしないで頂戴?」
 そして――メリルディと雨祈がふたりがかりで抑えようと苦戦する中、幹部の少女はそれに構う事無く、回復の要である栞に狙いを定めていた。
「わたし達じゃ、抑えにならないの……?」
 成す術も無い状態に、メリルディが思わず溜息を零すが――敵の注意を惹くのならば、怒りを焚きつけるなどして、強制的に標的を変えさせる必要があったのかもしれない。
 ――結局、耐久性に勝る盾役よりも、相手は回復役を落とすことを優先した。そうなればもう、運良く庇えることを祈るしか無い。他の仲間たちは回復役に絶対の信頼を置いており、まさか栞が真っ先に危機に陥るとは思ってもいなかったのだ。
「もうひと頑張りで、ございます……って、まさか自分を励ますとは思ってもみませんでしたけど」
 賦活の雷で己を癒そうと試みる栞だったが、その表情は険しい。辛うじて回復に備えていたメリルディも気力を振り絞ったものの、幹部の勢いを押しとどめることは叶わなかった。
「皆様……すみ、ません――……」
 オネイロスの少女が生み出したモザイクの怪物が、栞を一気に呑み込んで――ワイルドハントの消滅を見届けること無く、彼女の意識はふつりと其処で途絶えた。

●悲しみと喜びと
「栞ちゃん……っ!」
 地面に崩れ落ちた栞――その様子を見つめるリナの脳裏に過ぎったのは、親友を失った過去であったのか。しかしリナは、これ以上栞が巻き込まれないように後方へと移動させると、皆を励ます為に声を振り絞った。
「挫けないで! 勝機は必ず見えるから!」
 ――そう。ワイルドハントさえ倒せば、この空間は消滅するのだから。そんな中でレーグルは、態勢を立て直す時間を稼ぐのも兼ねて、ワイルドハントへ問いかけていた。
「しかし……戦闘に赴いた事がない方の暴走姿も借り受けるとは、汝らは一体どこでその姿を見たのだ?」
「あら、馬鹿正直に答えると思って? 気を惹きたいのなら、もっと上手に口説きなさいな」
 しかし当然と言うべきか、ワイルドハントからの返答は素っ気ないものだ。まあ、ダメ元だったとは言え、彼らの口にした言葉が正しいかどうかも、此方は判断出来ないわけなのだが。
「オネイロス……だっけ。組織の狙いは何だ? つか、お前さんら連携取るメリットってあんの?」
 一方で雨祈も、幹部の少女へと尋ねていたが――大方の予想通り、答えが返ってくることは無かった。ウッカリ口を滑らせてくれないかな、と言う微かな期待もあったのだが、最早そんな楽観的な気分で居られる状況でも無い。
(「……そうだ。今は少しでも壁として立っていられるようにしないと」)
 深呼吸をひとつして、静かに雨祈が戦闘態勢を整える中で、ブラッディは淡々とオネイロスの少女の動きを観察していた。
(「少しでも情報を持ち帰って、次に殺す時の参考にしないとね……」)
 ――が、対峙してみて分かるのは、相手が強力なドリームイーターであると言うことのみだ。自分たちケルベロスが、戦う相手によって立ち位置や攻撃手段を変えるように、恐らく向こうもその時々に応じて戦法を切り替える位はやってのけるだろう。
(「だとすると、下手な情報に振り回されるのは却って危険ね」)
 それよりも先ずは、この戦いに勝利することを考えなくては――栞が倒れた今、戦線を維持し続けるのは厳しく、幹部はと言えば今度はリコリスに狙いを定めていた。
「今度は、状態異常の解除役を落とそうとしてきてる……!」
 リナの振るう雷槍が、ワイルドハントの動きを封じつつある中で、少女のモザイクは怒涛の勢いで仲間を呑み込もうとしている。それでもリコリスは、最後まで仲間たちの力になろうと覚悟を決めたようだった。
「――あ、……っ!」
 しかし、其処へメリルディが割って入り――彼女はリコリスを喰らう筈だったモザイクを、自身が盾になることで受け止めていた。
「どうして自らの手で、苦しみに満ちた生を……辛く悲しい道を選ぶの? 貴女、とても可哀想だわ」
「ちが、う……可哀想でも、悲しくもないよ……。だってわたしには、こうして動く身体があって、好きな事ができるんだもの……」
 心底不思議そうな表情で、メリルディを憐れむオネイロスの少女。そんな彼女へメリルディは、最後の力を振り絞ってはっきりと告げた――自分は生きているだけで丸儲けなのだ、と。
「……此方に気を取られている余裕はあるのかしら」
 そんな中でも、リシティアは冷静にワイルドハントを追い詰めており、その手に握られた禍々しいナイフが容赦なく標的を斬り刻む。何とか反撃に移ろうとするワイルドハントだが、身体に蓄積した麻痺によって動きを封じられ――其処へ加速したレーグルの巨槌が、容赦なく叩きつけられた。
(「知人の方へ、最後の一撃を譲りたかったが……そうも行かぬな」)
 ――止めを刺したのは、ブラッディの操る殺神技巧。脆くなった箇所を一気に貫かれたワイルドハントは、苦悶の表情を浮かべたまま霧のように掻き消えていった。

 ワイルドハントが倒された後、消滅していく空間を一瞥したオネイロスの少女は、そのまま撤退していった。こうして、創世濁流への力の供給を止めることが出来た一行であったが、いずれ彼の少女と再び見えることもあるかも知れない。
 ――大いなる流れの行き着く先は、未だ深い霧に閉ざされていた。

作者:柚烏 重傷:メリルディ・ファーレン(陽だまりのふわふわ綿菓子・e00015) 三枝・栞(野良メイド・e34536) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年11月15日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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