創世濁流撃破作戦~悪魔のごとく嘲笑うもの

作者:青葉桂都

●ワイルドな悪だくみ
 そこは、モザイクに覆われ、濃密な液体に満たされた空間。
 おそらくもとは民家だったのかもしれない。それも、けっこう大きな屋敷。
 かき混ぜられ、混沌とした空間に浮かんでいるものの中には、豪華なソファや食器棚、テレビなど、人家にあるべきものが混ざっている。
 もちろん本来そこにあるべき日常は、もはやどこにも存在しない。
 いるのは黒い羊の角を生やした1人の青年だけだった。
「これが、ハロウィンの魔力か」
 彼は自信に満ちた表情で呟く。
 燕尾服を着た彼はまっすぐ背を伸ばしており、またそうしているのが自然な様子だ。
「――この力があれば、私のワイルドスペースは濁流となり世界を覆いつくすことすら可能となろう」
 抑えきれぬ自信は世界全てを嘲笑うような笑みとなって現れていた。
「ワイルドスペースを潰して回っているという番犬ども……いや、走狗どもというべきかな。いずれにせよ、最早問題にもならぬ」
 巨大な蝙蝠の羽根を背負った青年が両腕を広げると、周囲に雷球がいくつも浮かんだ。
「それに、『王子様』があの『オネイロス』を増援に派遣してくれたのだ。是が非でも、この『創世濁流』作戦を成功させねば」
 青年はモザイクに包まれた中で、薄笑いを浮かべ続けていた。

●ワイルドな依頼
 ケルベロスハロウィンへ参加した者たちをねぎらった後、石田・芹架(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0117)は集まった者たちへ本題を切り出した。
「皆さんに至急対処していただきたい事件を予知しました。六本木で回収したハロウィンの魔力を用いて、日本全土をワイルドスペースで覆いつくそうとする者がいます」
 首謀者はドリームイーターの最高戦力、ジグラットゼクスの『王子様』だ。
 ワイルドスペースと呼ばれる空間が先日から発見されていたことは、知る者も多いだろう。
 今もなお日本中に点在しているワイルドスペースにハロウィンの魔力が注がれており、空間が急速に膨張しているのだ。
 もっとも、膨張したことでワイルドスペースについてヘリオライダーが予知できるようになったのは皮肉な話なのかもしれない。
 膨張を続ければワイルドスペース同士が衝突して爆発、合体してさらに膨張することが予測される。最後には日本がワイルドスペースで覆われてしまうのだ。
「幸い、これまでケルベロスの皆さんが多くのワイルドスペースを消滅させていることもあり、すぐさま日本をワイルドスペース化することはできないようです」
 急ぎ、ワイルドスペースに向かって、ワイルドハントを名乗るドリームイーターを倒して欲しいと芹架は告げた。
 それから、彼女は敵の戦力について説明を始めた。
「向かったことのある方はご存じでしょうが、ワイルドスペース内は液体で満たされたような特殊空間となっています」
 もっとも戦闘に影響があるわけではないので、気にする必要はないだろう。
 芹架が予知した場所にいるワイルドハントはシェリン・リトルモア(目指せ駄洒落アイドル・e02697)が暴走した際の姿をしているらしい。
 本人はまだ少年だが、敵は彼が成長し、大人になった姿のようだ。
「周囲に雷の球がいくつも浮いており、それをぶつける攻撃を行うようです。ワイルドハントの意思で動くだけでなく、狙った相手を追尾させることもできます」
 しかもぶつけるだけが使い道ではない。
 雷球を叩くことで指向性を持つ雷を発生させ、飛ばすことができる。雷球は複数あるので、連続で飛ばして追撃をしかけることも可能だ。
 また、3つの雷球とそこから伸びた雷をつなげてトライアングルを作り、それを奏でることで雷の波を発生させる範囲攻撃を行う。雷を受けると足が止められ動きにくくなる。
「他に『オネイロス』という組織から各ワイルドスペースに1体ずつ援軍が派遣されているようです」
 援軍はトランプに手足や頭が生えたような姿のドリームイーターらしい。
 ワイルドハントと同時に戦うことになるが、戦闘の手段や能力の詳細はわからない。
「2体と同時に戦うことになりますが、必ずしも2体とも倒す必要はありません」
 先にワイルドハントさえ倒してしまえば、ワイルドスペースが消滅するためオネイロスは撤退するものと予測されるからだ。
 ただ、敵にとって重要なワイルドスペースではオネイロスでも幹部クラスが派遣される可能性があるという。
 撃破しておくことができれば今後の戦いが有利になるはずだ。
 とはいえ、具体的にそれがどのスペースかは予知でもわからないし、その戦闘能力は高い。中途半端な作戦になってしまえば幹部もワイルドハントも倒せないかもしれない。
「日本全土をワイルドスペースにできる『王子様』の能力は驚異的というしかないでしょう。……ですが、敵が強いからといって諦めるわけにはいきません」
 阻止できるのはケルベロスだけなのだと、芹架は最後に告げた。


参加者
シルク・アディエスト(巡る命・e00636)
天尊・日仙丸(通販忍者・e00955)
ムギ・マキシマム(赤鬼・e01182)
シェリン・リトルモア(目指せ駄洒落アイドル・e02697)
メアリベル・マリス(グースハンプス・e05959)
風音・和奈(哀しみの欠如・e13744)
エドワウ・ユールルウェン(夢路の此方・e22765)
ラルバ・ライフェン(太陽のカケラ・e36610)

■リプレイ

●日常が失われた場所へ
「……行かなきゃ、いけないんですよね……」
 言ったのは、シェリン・リトルモア(目指せ駄洒落アイドル・e02697)だった。
 眼前にあるのは巨大なモザイク。膨張を続けている『ワイルドスペース』だ。
「ビクビクするんじゃねえよ、団長」
「此度の戦いは拙者らがついているでござる。ご心配めされるな」
 隆々たる筋肉を誇るムギ・マキシマム(赤鬼・e01182)や、穏やかに笑う天尊・日仙丸(通販忍者・e00955)が少年に声をかける。
「そうですよね。今回は旅団の皆さんが一緒にいる……とっても心強いです」
 シェリンが仲間たちを振りむく。よく見知った顔が並んでいる。
 集まった仲間たちは全員が同じ旅団に所属する者たちだった。みんなシェリンにとっては親しい仲間なのだ。
「……それじゃ、行きましょう、皆さん!」
 少年はモザイクへと足を踏み入れた。
 視界に入ったのは、かき混ぜられた建物と家具の部品。日常であったもののカケラ。
 きっとここにも、旅団『エブリデイ☆マジック』の面々がシェリンと共に過ごしているのと似た、奇跡のような日常があったのだろう。
 けれど日常は失われた。
「創世濁流なんざやらせてやるもんか。そもそもシェリンの姿をしてるってのが気に入らねえぜ」
 濃密な液体にも似た謎の空間でも元気を失うことなく、ラルバ・ライフェン(太陽のカケラ・e36610)が突き進む。
「シェリンさんのすがたで、悪事をはたらこうだなんて、ゆるせません。ぜったいにやめさせないと」
 エドワウ・ユールルウェン(夢路の此方・e22765)のぼんやりとした言葉の中にも、憤りが含まれていることを仲間たちはきっと感じたことだろう。
 ワイルドスペース内を捜索し、ケルベロスたちはやがて1人の青年を見つけた。
 彼はシェリンが浮かべることなど決してない類の笑みを浮かべている。
「成長したシェリン殿、といったところでござるか。なかなか美男子でござるが、所詮は偽物。我らが団長には及ばぬでござるな」
 日仙丸が呟く。
 隣に立つ、トランプに手足が生えた生き物がオネイロスなのだろう。ダイヤの10のカードは槍を構えて控えている。
「そのお顔で嗤う様は少々不愉快です。疾くと地に還して差し上げましょう」
 シルク・アディエスト(巡る命・e00636)が氷雪をモチーフにした形状へ変化したアームドフォートを敵に向けた。
「ミスタ・リトルモアはメアリの大事なお友達。彼の姿を借りて悪さだなんて許さない。みんなでおしおきね」
 フェアリーブーツをはいたメアリベル・マリス(グースハンプス・e05959)が、歌うように告げて軽くステップを踏んだ。
 他の者たちもすでにそれぞれの武器を構えている。
 ワイルドハントも武器である雷球を浮かべ、動き出す機をうかがっているようだった。
「語尾にぽっぺれぷわちゃーは? 抱腹絶倒の駄洒落は? エブリデイの隠されたアイドル、悪戯好きのツチノコ君は知ってる? 本物のビルシャナツリーは?」
 戦闘が始まる寸前のわずかな沈黙に、顔の半分を仮面で覆った風音・和奈(哀しみの欠如・e13744)が問いを発する。
「なにをわけのわからないことを言っている?」
「そんなことも分からないって言うのなら、その姿でいる資格なんて無いよ」
 自分を見下すワイルドハントへと2挺のガトリングガンを1つにまとめた重たい銃器を和奈が向けた。
「さっさと消えな!」
 引き金に指がかかった瞬間、それよりも早くワイルドハントの雷球が動いた。

●トランプを打ち破れ
 ドリームイーターが掲げた手の下で、雷球が綺麗な三角形を描く。
 雷でできた棒でワイルドハントがトライアングルを叩くと、そこから放電する波が広がっていった。
 後衛へと向かうその波を、体で受け止めたのは1人の巨漢。
 ムギはシェリンの前に立ち、彼をかばったのだ。
「お前達なんかに俺の大事な仲間をやらせるかッ!」
 筋肉を覆うジャケットは一見ただの服のようだが、防弾防刃効果を持つ戦闘服だ。
 無傷ではすまないが、容易く貫けるものでもない。
「どのような姿であれその姿はシェリンのもんだ、お前が勝手に使っていいもんでは断じてない。俺達の団長の姿を勝手に使ってるんだ、それ相応の覚悟をしてもらう!」
 全身に力を込めて、体にまとわりつく雷をの一部を吹き飛ばす。
「ムギさん、すみません!」
「この筋肉はこういう時の為にあるのさ、さあまずは俺のこの筋肉を超えていけ!」
 後方から声をかけてきたシェリンに、手を突き上げて応じる。
 その間にシルクのキャノンと日仙丸のハンマーがオネイロスを撃った。
「空間魔法陣-災胴-展開! 動きを封じます! ドン! ドコ!! ドォン!!!」
 魔法陣を太鼓に見立ててシェリンがロッドで打った。災弾がシルクや日仙丸の影から2体まとめて脚を止める。
 エドワウも攻撃に合わせて、おもちゃのようなドローンを展開してムギを含む前衛を守ってくれた……だが、次の瞬間オネイロスの突撃がまたも彼の筋肉を貫く。
「まだだ! 活性化せよ筋肉、不屈の意思を持って立ち上がれ!」
 初手は攻撃に回るつもりだったが、その前に回復しないと危ない。自身の経穴を突いて、彼は己が筋肉を活性化させた。
 和奈は引き金に指をかけたまま、ワイルドハントを狙っていた。
「魔力の呪詛と超高熱、全部混ぜ込んでぶつけてやるよ!」
 中距離から敵の動きを最も制限できるタイミングをうかがって、魔力を込めたテルミット弾を発射する。
 2挺分の銃口から同時に放たれる弾丸が、連続して着弾。
 高熱が、敵の武器である雷球を削り取っていく。
 攻撃を続けながら、彼女は敵の動きを観察していた。
「幹部じゃなさそうだな」
 同じく敵を観察していたラルバが言った。
「そうだね。幹部にしては弱すぎる。……ま、私たちよりは強いけど」
 ケルベロスたちよりは強いが、ワイルドハントには及ばない。オネイロスの兵士が持つ力をケルベロスたちはそう見立てる。
 動きを見れば、それぞれの役割もわかる。
「ワイルドハントが打撃役。トランプの兵士はワイルドハントを守ろうとしてるよ!」
「わざわざ自分から攻撃を受けに来てくれるなら、こちらにとっては好都合でござるな」
 和奈の言葉に、日仙丸が応じた。
 彼らは可能ならオネイロスのほうから狙っていく作戦を立てていたからだ。
 先ほどワイルドハントを狙った銃口を、和奈はトランプへと向けた。
 メアリベルはオネイロスのほうへと向けられたワイルドハントの視線に、割り込んだ。
 少女の姿に、敵は不快げに眉を寄せる。
「ミスタ・リトルモアは大事なお友達。
 いつもお世話になってる旅団の団長さん。
 面白くて優しくてメアリ大好き」
 少女は軽やかに声を上げる。
「彼の姿を勝手に借りる不届き者はこらしめなきゃ」
 傍らにいるのは、亡き母に似た姿を持つビハインド。『ママ』と一緒に敵を引きつけるのが彼女の役目だった。
「マフェット嬢のおでましよ!
 エブリディマジック!
 毎日が喜劇的狂騒曲!」
 黒い渦が生まれた。
 這いずりだしてきた蜘蛛の糸が、熱で破損した雷球を絡め取る。
「さあミスタ・リトルモアのニセモノさん、よそ見しないでメアリと踊りましょ。
 稲妻の鞭だって怖くない。なんてステキな雷のワルツ」
 攻撃を引きつける技を使っているわけではない。だから、戦術的な理由があればワイルドハントはメアリベルを無視しただろう。
 だが、特に理由がないならば、目障りな少女をまず排除しようとしてもおかしくない。
 乱舞する雷球が少女へと襲いかかった。
 その間に、他の仲間たちはオネイロスを攻撃していく。
 交差した2本のロッドからシェリンが雷撃を放ち、ラルバが半透明の御業で敵を縛り上げていた。シルクや和奈の弾丸や日仙丸が放つ氷結の螺旋も敵を削っていく。
 とはいえ守りを固めたオネイロスを倒しきるのは容易ではない。
 トランプを追い込むケルベロスたちの横で、ワイルドハントの猛攻が続いている。
「ママ!」
 メアリベルが叫ぶ声が聞こえてきた。
 シルクは横目でワイルドハントを見た。倒れていくビハインドを嘲り笑う敵。
 気に入らない笑いだ。
 シェリンの面影があることが、なお気に入らない。
 死にかけのトランプは笑っていないけれど、そちらにしたところで彼女の嫌いな不死の力を持つ者であることに変わりはない。
「氷の花よ、咲き誇れ。その者の命を糧として」
 使用者の都合で形状を変えるというアームドフォートで狙いをつけて、引き金を引く。
 氷の弾丸から伸びた蔦がトランプを絡め取り、氷の花を咲かせた。

●濁流を押し返せ
 シェリンの姿をしたワイルドハントは、オネイロスが倒れてもその笑みを消すことはなかった。
「オネイロスめ、意外と大したことはないな。役立たずが」
 エドワウはその言い草に、眉をひそめた。
「……おれのしっているシェリンさんは、みんなを幸せに、笑顔にしてくれる人です」
 本物ならば、倒れた仲間にそんな言葉は絶対にかけないだろう。
「似ているけど、やっぱり、ちがいますね」
 敵は鼻を鳴らして雷鳴の連打をメアリベルに向かって飛ばす。
 無数の雷を浴びた少女がよろめき、後ずさる。
 だが、傷ついた仲間を支えるのはエドワウの役目だ。
「メアリベルさん、まけないで。おほしさまの、からだの、ちからを」
 ワイルドスペースの空中に、天の川をかたどったエネルギー流体が出現する。
 雨のように降り注ぐエネルギーが、メアリベルの傷を癒して彼女の士気をあげる。
「あなたはだあれハンサムさん。
 どんなにステキな貴公子だって そんなの見せかけだけ。
 今のミスタ・リトルモアの方がかっこいい。
 彼はステキな大人になるんだもの」
 地獄化した歌声が少女のブーツを炎で包みこみ、そのまま彼女はリズムに乗って敵を踏みつけていった。
 だが、単体になってもワイルドハントはなお強敵だ。
 敵を攻撃を弱め、さらに守りを固めていたとはいえ……敵の注意を引いていたメアリベルはすぐに限界となっていた。
 ムギやラルバがかばっていたが、しかしすべての攻撃をかばえるわけではない。
 雷球がメアリベルの動きに合わせて踊り、そして少女を焼き尽くす。
「メアリベルさん!」
 シェリンは倒れていく仲間の名前を呼んだ。
「大きくなったボク、イケメンでちょっと嬉しいかも……なんて思ってたけど、そんな場合じゃありませんでした。これ以上、ボクの格好で悪さは許しません!」
 戦いが始まればもう怯えはない。
 両手にロッドを構えてシェリンはワイルドハントに宣言する。
「ふん……威勢だけで勝てると思うなよ」
 敵の言葉に耳を貸さず、クレアが青白く輝く炎から竜の幻影を呼び出した。
「はっ、威勢だけなのはどっちのほうだろうね?」
 炎を浴びてひるんだ隙に、和奈が『クウ』と名付けたオウガメタルを変形させた。
 鋼の拳が放たれて、ワイルドハントの身に着けた燕尾服を引き裂く。
 背を伸ばした男の体のうち、何か所も氷漬けになって攻撃を受けるたびにさらに傷を深めているようだった。
「ワイルドハントが相手でもやることはさっきと同じです。息もつかせぬ連撃で片付けてやりましょう!」
 狙いすました動きでシェリンは一気に敵へと近づく。
 掲げた両手のライトニングロッドを連続して叩き込み、シェリンは敵へ雷を流し込む。
 大打撃を受け、それでもなおワイルドハントは動きを止めなかった。
 ムギやラルバは危険な状態だ。いや、シルクや日仙丸にしても次の攻撃で倒れてもおかしくはない状態だった。
 だが、追い込まれているのは敵も同じ。
 悪態をつきながら雷球を叩く。澄んだ音と共にシルクへ雷撃が何条も飛ぶ。
 ラルバはその雷の前へと飛び込んだ。
 少年の全身を痛みが断続的に走り抜ける。体から力が抜けていくのがわかった。
「倒れる気はねえし、これ以上誰も倒れさせるかよ!」
 けれど……肉体ではなく意志の力で少年はこらえきって見せた。
「お礼の言葉は落ち着いてから言わせてもらいますよ」
 シルクがラルバの陰から飛び出して、死角からグレイブで敵を切り裂く。
 その隙に、ムギが経穴をついて筋肉を活性化させてくれた。
「我が友に筋肉の加護をってな、俺もお前も膝を屈するにはまだ早い」
「ああ! 逃げられると思うなよ! 疾風の狼、行っけぇぇ!!」
 グラビティ・チェインを練り上げ、ラルバは気合と共に放った。狼のごとき形をとったそれはワイルドハントを引き裂いた。
 エドワウも星を降らせて回復してくれる。
 けれど、ラルバがそれ以上攻撃を喰らうことはなかった。
 日仙丸は敵の側面に回り込み、己が編み出した通販忍法の構えを取っていた。
「この性能、その身をもって味わうといいでござる」
 通販はとても便利だ。外出することもなく品物が届く。
 ワイルドスペースに閉じこもって悪事を働いていた敵に、死を届けるのにこれほど似合いの技があろうか。
 発射した刃物が配送先……すなわちワイルドハントへ自動的に飛んでいく。
 過たず届いたその衝撃を受け、青年になったシェリンは大きく目を見開いた。
「拙者の言った通りでござったな。姿を似せたところで、貴殿は我らが団長殿に及ばぬ。美男子ぶりはもちろん、心根や力も同じでござる」
 嘲りの笑みは消え失せて、そしてドリームイーターの姿もまた、消えていった。

●夢の終わり
 2体とも完全に消滅したところで、ケルベロスたちは体から力を抜いた。
「幹部ではなかったけど、両方片付いたわね」
 和奈が言った。
「ラルバさん、先ほどは助かりました。……いえ、最後の攻撃だけでなく、ずっと守ってくださってありがとうございます」
「気にすんなよ。俺はただ、大事な仲間を護りたかっただけだぜ」
 シルクに礼を言われて、ラルバの尻尾がパタパタと動いた。
 ムギやメアリベルにもシルクは礼を言おうとした。
 けれど、倒れている少女へと真っ先に駆け寄ったのはシェリンだ。
「メアリベルさん、大丈夫ですか?」
「ええ、私もママも、大きなケガではないわ」
 抱き起された少女が頷く。
「むりは、しないでください。おれが、いま、なおします」
「重傷でないならまず脱出してはいかがか。ここは傷によい空間ではなさそうでござる」
 エドワウの言葉に、日仙丸が混沌とした空間を見回す。
 動けないメアリベルを支えて、ケルベロスたちはワイルドスペースを脱出する。
「さようならミスタ・リトルモアのニセモノさん。また会う日まで」
 モザイクの外に出るときメアリベルは声をかけた。あの姿にまた会うとき、それはきっとニセモノではないのだろうが。
 外には来た時と変わらぬ風景が広がっている。
「さあ俺達の帰るべき場所に帰ろうか」
 ムギが仲間たちに告げた。
 いつもと変わらない、だからこそ大切な日常へと、彼らは帰っていった。

作者:青葉桂都 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年11月15日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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