アッサムの誕生日~フォンデュパーティー!

作者:地斬理々亜

●彼の日常
 アッサム・ミルク(食道楽のレプリカント・en0161)は、買ってきたグルメ雑誌とにらめっこをしていた。
「これも美味しそうだし……こっちも捨てがたいね……おっと?」
 ページをめくる手が止まった。
 彼の視線の先には、『フォンデュはいかが? 身も心も温まる、至福のひと時』の文。
「……よし、ピンと来た。これだ!」
 にっこり笑って、アッサムは片目を閉じる。アイズフォンを使って、彼は電話をかけ始めた。
「もしもし。予約をお願いしたいんですけれど――」

●とろける幸せ
「ってなわけで、お店の予約入れちゃった。開催するよ! オレの誕生日パーティー!」
 うきうきした表情のアッサムは、ぱっと両腕を広げて告知した。
「行くのはフォンデュのお店だよ。なんと、チーズフォンデュとチョコフォンデュ、両方やってるんだって! どっちも楽しめるなんて最高だよね」
 熱々のソースに、各人が好みの具材をつけて食べるフォンデュ。寒くなってきた今日この頃には、まさにうってつけだろう。
「チーズフォンデュの方は、バゲットにミニトマト、じゃがいも、ブロッコリー、鶏肉やウインナー、エビにホタテ。チョコフォンデュは、バナナに苺、マシュマロ、キウイやパイナップル。それぞれ、他にも色々あるみたいだね」
 アッサムの目はきらきらしている。美味しいものを想像するだけで、夢が膨らんでいるのだろう。
 最後に、彼は満面の笑顔でこう締めくくった。
「貸し切りで食べ放題だから、皆でぱーっと楽しもうよ! フォンデュパーティー!」


■リプレイ

●入店前に
「誕生日おめでとう、アッサム」
「おめでとうございますな!」
 イヴリンとレカによって、花束がアッサムへと差し出された。
 アッサムは目を丸くして、それから笑顔を浮かべる。
「嬉しいよ! お祝い、ありがとうね!」
 花束を受け取りながら、彼は元気良く礼を言った。

●しあわせチーズ
 かくして、集まったケルベロス達は、店員に案内され、着席した。
 彼ら10名の前に、ほどなくして運ばれてきたのは、まず、様々な具材と、鉄の串。次に卓上コンロ、それに、チーズの入った小鍋だ。
 コンロが点火され、チーズがことこと煮える。
 【秋月蛍】の1人である姫は、金色の瞳で、それを物珍しげに見つめていた。見た目こそ知っていたものの、思ったよりもとろみが強い、そんな風に思いながら。
「チーズフォンデュ、家でよくやってたんだよ」
 エドウィンの表情は、懐旧の念からか、ふわりと綻んでいる。
「俺はフォンデュ初挑戦なんだけど……」
 おずおずと切り出したのは煌介。それを聞いて、姫はほっと息をついた。
「未経験が一人だけじゃなくて良かったわ」
 姫の言葉に、煌介もまた、安堵。
 そんな初挑戦組が微笑ましく思えて、メイセンの口元はわずかに笑みを形作った。
「それにしても、アルコールが入っていないのはありがたいですね」
 メイセンは言う。姫もそうだが、メイセンはドワーフである。
「そうね。ところで、これはどうすればいいのかしら?」
 姫は串を手に取って尋ねた。
「こうするといいですよ」
 メイセンはブロッコリーを丁寧な手つきで串に刺し、チーズを絡める。
「こういう感じ?」
「そうそう」
 見よう見まねしてみる姫へと、頷く経験者組。
「コンロの火は食べる間は点けたまま、具を鍋の中に落としてしまわないように……あと」
 注意事項を並べるエドウィンは、こう言った。
「熱いから火傷しないように気をつけてね」
 実のところ、やや緊張気味のエドウィンである。友達とフォンデュするのは初めてだからだ。
「まぁ……気楽にやってみよう」
 煌介はバゲットを串へ。どことなく張り切っているように見える彼の様子に、エドウィンはほっこり。
「これから食べるのがいいの?」
「うん、スイスだとパンが主……らしい」
 姫へと煌介は答えて。
「なんだか……本格的だね」
 ボク、食べる順番とか気にしたことない、とエドウィンは小さく呟く。
 煌介は、チーズソースを絡めたバゲットをそっと口に運んだ。
 芳しいチーズの香りがふわりと広がり、濃厚でまろやかな味わいが、幸福感をもたらす。
「蕩けるね……チーズの魅力全開だ……」
 拙い言葉ながらも、感動を表す煌介。
 普段よりはしゃいでいるような、その様子が面白く感じられて、メイセンは口元を押さえた。
「メイセンも、美味しい?」
「ええ、美味しいですね」
 煌介に言葉を返したメイセンは、口元を隠すようにした手をそっと外して、エビをぱくり。ぷりぷりの食感が楽しく、淡白なエビの身とコクがあるチーズのコンビネーションもまた良い。そんな味を、感じていると。
「……あちちっ!」
 突然、小さな悲鳴が上がる。ケルベロス達の視線が集まった。
 悲鳴の主は、さきほど『火傷しないように』と言った本人、エドウィンである。うっかり熱々のバゲットを口に入れてしまったのだ。
「……油断大敵、だね」
「大丈夫?」
 苦笑いと共に煌介は冷水を差し出し、姫は自分も気をつけなければと思いつつ心配する。
「大丈夫だよ、ありがとう」
 情けなさを感じながら、エドウィンは冷水を口に含んだ。
「どうぞ。多少垂れますし、つけたては熱いですから、冷ますのに使うといいですよ」
 メイセンは小皿をエドウィンに勧めて……それから、隣の席についているビハインドの口に、チーズ付けたてあっつあつのじゃがいもを突っ込んだ。
 ビハインドことマルゾは、ものすごくビックリした様子を見せ、どたばたする。
「本当に仲が良い……」
 煌介はメイセンとマルゾの様相にほのぼの。姫は興味深そうに眺めている。
 エドウィンは、ブロッコリーを一口食べて、笑顔をこぼした。しゃっきりした歯ごたえと、ソースの温かさが嬉しい。
 続いてエドウィンがホタテに手を伸ばせば、煌介もちょうど同じものを串に刺したところだった。
 軽く笑いあって、揃ってホタテを頬張り噛み締めれば、魚介の旨味いっぱいの熱い汁がじゅわり、口の中いっぱいに広がる。チーズのほど良い酸味がそこに爽やかさを添えて、いくらでも食べてしまえそうだ。
「ちょっと意外だったわ。どの食材もおいしいわね」
 姫は言う。色々試したが、どれもチーズに合っている、そう思えた。
「みんなで美味しいものを食べると、心もほっこり温かくなるね」
「ええ、皆で食事というのも良いものですね」
 ほわほわ笑顔を浮かべたエドウィンに、メイセンが頷く。姫も心地良さそうだ。
 煌介は思う。こんな風に皆と繰り返す、他愛ない仕草は、まるで。
(「楽しい魔法のようだ」)

 いつもは、レカは喫茶店の店主であり、イヴリンは客。
 けれど、今日は2人とも客であり、対等な友達同士である。
「フォンデュは誰かと食べる方が楽しいですから、イヴリンさんが来てくださってとても嬉しいですな~」
「こちらこそ。誘ってくれてありがとう」
 高身長でカッコいいのに、今日もレカの喋り方は面白い、そんな風にイヴリンは思いながら礼を言った。
「さて、いよいよフォンデュですな。色々試してみたいですぞ~」
 レカは柔らかな笑顔を浮かべて、まずウインナーをチーズに絡めて口へ。
 皮がぱりっと破れ、肉から甘い脂が溢れ出して、チーズとの二重奏が舌の上で始まる。
「シーフードなんかも入れるんだ」
 一方、イヴリンは、エビやホタテをちらりと横目に見て、でも、と続けた。
「定番のバゲットが好きかな」
 イヴリンはパンを串に刺して、チーズの海へ潜らせる。
 口に入れれば、カリッとした歯触りと、とろける舌触り。ほのかに甘いバゲットの味と、香ばしいチーズの芳香が心地良い。
「ワインとかにも合いそうだね」
 静かに微笑むイヴリン。その姿を見たレカも、便乗してバゲットを食べてみる。
 さくり。とろり。
「とろけたチーズがバゲットに合いますなぁ!」
 めいっぱい、至福の表情を浮かべるレカ。
「そうだね。ところで、レカ」
 食事を楽しみつつ、イヴリンは尋ねる。
「レカの出身って、どんな国?」
「アルバニアですな。イタリアの長靴の踵、そこから海を挟んだ隣にある国でしてな――」
 振られた話題にレカは応える。会話に、花が咲いていった。

「やっほー。楽しんでる?」
 アッサムが声をかけたのは、【リウランジャ】の一員。無表情でフォンデュ鍋をつつくピコであった。
 セツリュウはヨハンの説明を受けながら様々な具材を堪能しているが、ピコの感情表現は希薄なのだ。
 ピコは少し考えてから、発言した。
「楽しいのだと思います」
 どこか他人事のようだが、彼女なりに自己分析した結果である。
「ならオッケー。美味しいよねフォンデュ」
「はい。美味しいです」
 飾り気のない言葉で、ピコはアッサムに応答する。アッサムは少し考えて。
「どれが好み? オレはホタテが一番好きかな」
 ピコに尋ねた。すると、ピコは無言でバゲットを指さす。
「お、バゲットかぁ。いいよねーバゲット!」
 ハイテンションにはしゃぐアッサムは、ピコが、栄養面・糖分優先で判断したことなど、おそらく知らない。
「んじゃ、引き続き、楽しんでってね!」
 席を移動するアッサム。
「ほんに、美味であったの!」
 その直後に、セツリュウが、気になる具材を制覇し終えて、笑顔で串を置いた。
「そうそう、エンさん。チーズフォンデュのお楽しみは、最後に煮詰まったお焦げなのですよ」
 ヨハンは重低音の声音で丁寧に伝える。
「……ほう……! お焦げとな……!」
 竜派美女セツリュウの、琥珀色の瞳が、驚きと期待に染まった。
「締めに皆でこれを分け合う、というのも醍醐味なのです」
 ヨハンは慣れた手つきで、鍋からチーズのお焦げをはがしてゆく。
 ピコ、セツリュウ、ヨハンの3人で分け合って、お焦げを食したなら。
 かりり、と軽やかな音と共に、思い切り濃縮されたチーズの旨味が口の中に広がった。
「何という贅沢……」
「美味しいですよね」
 セツリュウのリアクションを見たヨハンは、どこか満足げ。
 お腹もほどよく満たされた。
「だが、我等の戦いは終わらぬ。のう、ピコ?」
 セツリュウは、そよ風のように微笑んで、ピコに水を向ける。
「戦いかどうかは分かりませんが、チーズは一通り食べてみたので、チョコフォンデュに移行する事には問題ありません」
 ピコは淡々と答えた。普段通りの応答で、セツリュウにはむしろ頼もしい。
「……おぉう、チョコフォンデュもいきますか」
 女性陣にヨハンは感心する。だが、自らの食欲も侮られるわけにはいかない……10代ドラゴニアン男子として。
「ふっふ……デザートは勿論、別腹であるぞ?」
 セツリュウはヨハンへと笑顔を向ける。
 かくて、ステージはチョコフォンデュへと移るのであった。

●ハッピー・チョコレート
(「食べ過ぎたからデザートは控えようと思ってたけど……」)
 イヴリンの眼前には、彼女の好物である苺。
(「やっぱり食べよう」)
 フォークを手に取るイヴリン。
「イヴリンさんは苺がお好きなんですなぁ~」
 そんなレカの言葉を聞きながら、イヴリンは苺をチョコにくぐらせる。
 口に入れ噛み締めれば、華やかな酸味を持つ果汁が、カカオの香りを引き連れて、舌の上を流れる。
「チョコと苺とか最高なんだけど」
「ふふ、チョコと苺は最強ですぞ!」
 最高にして最強のタッグを頬張りながら、イヴリンとレカは、共に、心躍るひと時を過ごした。
 また一緒に、遊びに。最後に交わされるのは、そんな約束。
 ありきたりかもしれないが、かけがえのない――輝かしい日常の一コマ。

(「甘い物でピコさんにかなう気はしませんね……」)
 そんな風に思うヨハンの視線の先、ピコは黙々と、次から次へ、フルーツ類をチョコに浸しては食べていく。
 ピコは大食いではないので、量自体は控えめだが、知的好奇心から、一通り試すことを選択している。
 また、チョコの方がチーズよりもピコには適している、そう彼女には感じられるのだ。脳を酷使するため、糖分を摂取することが必要になるがゆえ。
 ふとピコが顔を上げれば、チョコのかかったマシュマロを頬張るヨハンが自分を見ているのに気づく。
「どうかしましたか、バルトルトさん?」
「ふふふ。いえ、温かいものを皆で食べるのは楽しいことですね……!」
 ヨハンは素直な笑顔を浮かべた。
「フォンデュとは何故にこうも楽しいのかのう」
 セツリュウは、チョコのドレスを苺に纏わせる。
 それを口に含んだセツリュウは、ゆったりと尻尾を揺らした。苺とチョコのハーモニーは、尾の先まで蕩けさせてしまいそうな味わいだ。
 ほかほかと熱を持つのは、小鍋の中のソースだけではない。
 友と共に過ごす時が――あったかに、心の器を満たしゆく。

作者:地斬理々亜 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年11月22日
難度:易しい
参加:9人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 2
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