創世濁流撃破作戦~市松斉放

作者:日野木尾


 魔力が渦巻く。空間が膨張する。
「はろうぃんノ魔力、素晴ラシイ」
 急激に成長を続ける一面モザイクの世界、ワイルドスペース。天地の境も曖昧なその中心に、地に根を張ったように微動だにせず佇む影が一つ。
 それは植物のような人間であった。或いは、人間のような植物であった。
 全身を植物の蔓と蔦、根が覆い、体の随所からは枝葉が生えている。根と蔦が絡み合って出来た歪な棍棒のような両腕、その先端では獲物を求めて大口が忙しなく開閉を繰り返し、鋭い歯を覗かせている。
 本来、口が在るべき顔は完全に植物に覆われ、その無貌からは何も窺い知る事が出来ない。
 下半身に纏う袴と草履。それが僅かばかりの人間らしさの証明であった。
 その者、ワイルドハントは体の表面にある目のような赤い器官を蠢かすと、無貌の奥から感情の無い声で呟く。
「ヤガテ、我ガわいるどすぺーすハ濁流トナリテ、世界ヲ覆ウベシ」
 彼、或いは彼女が言葉を紡ぐ今この瞬間にも、空間は膨張を続ける。
「『創世濁流』。何人ニモ止メル事能ワズ」
 左右の大口がにやりと、笑みを浮かべた。

「ハロウィンのイベントが終わったばかりですが、緊急事態です」
 慌てた様子で、セリカ・リュミエールが口を切る。
「ドリームイーターの最高戦力。ジグラットゼクスの『王子様』が、六本木で回収したハロウィンの魔力を用いて、日本全土をワイルドスペースで覆い尽くす『創世濁流』作戦を開始しました」
 現在、日本に点在するワイルドスペースに、ハロウィンの魔力が注ぎ込まれ、急激に膨張を開始している。
 やがてはワイルドスペース同士が衝突して爆発、合体して更に成長し、最終的には日本全土が一つのワイルドスペースで覆い尽くされる。それが『創世濁流』計画であった。
 幸いにも、既に多くのワイルドスペースがケルベロスの活躍によって消滅しているため、ハロウィンの魔力と言えど、日本がすぐさまワイルドスペースと化す事は無い。だが、対策は必要だった。
「皆さんには、これからワイルドスペースに向かい、内部に居るワイルドハントの撃破をお願いします」
 ワイルドスペースは特殊な空間であるが、戦闘には一切の支障が無い。灯りなど特殊な準備は必要ないだろう。この空間はワイルドハントが斃れると消滅する。
 ワイルドハントは暴走したケルベロスの姿を写し取ったドリームイーターである。今回の対象は、御滝・葵衛門(喇叭・e08530)のそれを模倣しているようだ。
 また、ワイルドハントとは別に、もう一体『オネイロス』という組織からの援軍とも戦わなければならない。
 こちらもドリームイーターであり、姿はおとぎ話に登場するトランプの兵士のようであると分かっているが、詳しい戦闘力は不明である。
 加えて、この援軍には5名程度『オネイロス』の幹部が加わっているようで、特に『創世濁流』に重要なワイルドスペースには、彼らが現れる可能性がある。
 彼らの戦闘力もまた不明だが、強敵である事は間違いない。危険な相手だが、もし撃破出来たならば以降の作戦に有利に働くだろう。
「ですが、今回の作戦はワイルドハントを撃破し、ワイルドスペースが消滅すれば成功です。くれぐれもご無理はなさらないでくださいね」
 一息で説明したためか、セリカはそこで一呼吸を置いた。そしてケルベロス達に深々と頭を下げる。
「この恐るべき作戦を阻止する機会が得られたのは、これまで皆さんがワイルドスペースを地道に破壊してきて下さったおかげです。人々を守るためにもうひと頑張り、どうかよろしくお願いします」


参加者
キャスパー・ピースフル(壊れたままの人間模倣・e00098)
シルフィリアス・セレナーデ(善悪の狭間で揺れる・e00583)
クーデリカ・ベルレイム(白炎に彩られし小花・e02310)
ククロイ・ファー(ドクターデストロイ・e06955)
端境・括(とうせんぼう妖怪・e07288)
御滝・葵衛門(喇叭・e08530)
一都橋・結以(サクリファイス・e25377)
エレオノーラ・ペトリーシェヴァ(白雪の刀剣女子・e36646)

■リプレイ


「まさかまさかというやつっすね……」
 自らの歪んだ鏡と相対する。その覚悟でモザイクの壁を突き抜け、内部への侵入を果たした御滝・葵衛門(喇叭・e08530)は息を呑んだ。
 見渡す限りモザイク、この曖昧な世界ではっきりとした輪郭を持つ者が2つ。1つは予知にあった通り、佇む深緑の人型。そしてもう1つは――、
「来たら厄介だなあ、なんて言ってたら、本当に来ちゃったみたいだね……」
 キャスパー・ピースフル(壊れたままの人間模倣・e00098)は呻くように呟いた。彼の額にはどっと汗が吹き出し、愛用のバンダナを湿らせている。その足元では、彼のミミック『ホコロビ』も困惑したようにパタパタと蓋の開け閉めを繰り返していた。
「噂、すれば、影」
「当たり、引いてしまったみたいっすね」
 一都橋・結以(サクリファイス・e25377)、シルフィリアス・セレナーデ(善悪の狭間で揺れる・e00583)含むケルベロス一同が見つめる先に立つ者。それは断じてトランプの兵士などではなかった。
 それは紳士服に身を包んでいた。豪奢なステッキを携えていた。シルクハットを被っていた。左手首に巻き付くようにモザイクが覆っていた。全体としてモノトーンを基調とする中、赤と紫と金が鮮やかに映えていた。
 それは若い男性のようであった。均整の取れたすらりとした長身であった。肌は白く、髪は黒く、シルクハットの縁に隠れた目元は窺い知れないが、その顔の下半分は実に端正であった。
 そしてそれは――紛れもなく、将であった。
「これはこれは」
 オネイロスの幹部、帽子の男はまるで歓待するかのように両手を広げた。
「ようこそ皆様、と申し上げておきましょうか。しかしどうやら招待状はお持ちで無いご様子。迷い込まれたなら、どうぞお引き取りを。お出口はあちらに」
 白い手袋がケルベロス達の来た道を真っ直ぐに指差す。
 馬鹿にされている――と、ケルベロス達の表情が険を帯びる。幹部に対面した一時の困惑は直ちに霧散した。
「……なに、幹部だろうが構うものかよ。予定通り、速攻でぶっ殺すだけだッ!」
 ククロイ・ファー(ドクターデストロイ・e06955)がエアシューズの踵を勢い良く打ち鳴らす。他の者も各々武装を展開し、身構えた。
 ケルベロス達の敵意に反応したのか、深緑の影が僅かに身じろぐ。その隣では帽子の男が、おやおやと大げさに肩を竦めた。
「なるほど、なるほど。そういうご用向きでしたか。であれば、おもてなしをしなければなりませんね」
「いいや、結構じゃよ。お構いなく」
 瞬きをするよりも早い抜き撃ち。端境・括(とうせんぼう妖怪・e07288)が放った銃弾は帽子の男が振り上げたステッキを弾き飛ばした。
 それを合図に、ケルベロス達はそれぞれが相対すべき敵に向けて駆け出す。深緑の影もその恐るべき両腕を振り上げる。
「ふふ、ふふふ……」
 一人帽子の男は立ち尽くし、唇の端を吊り上げて笑いを漏らす。その眼前に、放たれた砲弾が迫った。しかし――、
「消えたっ!?」
 砲弾の主であるエレオノーラ・ペトリーシェヴァ(白雪の刀剣女子・e36646)はその結果に目を剥いた。男はまるで魔術師のように一瞬の内に消え失せ、砲弾は何も無い空間を切り裂き、モザイクの空を穿ったのだ。
「何処に……」
「上っ……!」
 言い終わる暇も無い。クーデリカ・ベルレイム(白炎に彩られし小花・e02310)は急降下してきた帽子の男を斬霊刀で迎え撃つ。弾かれたはずのステッキは、いつの間にか男の手の中に。彼女は鍔迫り合い、刀に纏わせた白い炎越しに敵と睨み合う。
「……く、この程度ならっ!」
「『彼女』の理想を阻む者……。私は決して容赦しない」
「離れやがれ! セイヤァーッ!」
 ククロイの鋭い蹴りが、帽子の男をクーデリカから引き剥がす。男はステップを踏み、後退。細剣のように、ステッキを半身で構えた。
「その首残らず落として差し上げましょう。貴方達は『彼女』の夢を踏みにじろうとしている」


「まず、支援、するの」
「護りを敷くっす」
 結以のオウガメタルがもたらす輝き、葵衛門の展開する鎖の守護がケルベロス達に力を与える。輝きを纏って放たれたエレオノーラの魔法光線は、今度は帽子の男に着弾した。
 着弾点には僅かにモザイクが滲んだような痕跡が残るのみ。しかし、男は体勢を崩した。ククロイが追い討ちをかける。
「幹部の首、いただくぜェッ!! 処刑の時間だァ! オラァ!!」
 翳した手から凍てつく刃が生成される。それは氷の断頭台。氷の結晶を撒き散らし、モザイクの地面に断裂を刻みながらギロチンの刃が飛翔する。
「おっと」
 刃に切り裂かれて宙を舞うシルクハット。斬首を免れた男はひょいと手を伸ばしてそれを掴み取り、被り直す。
「やれやれ、霜が下りてしまいましたよ」
「超ムカつくっすねー。本体をカチンコチンにしてやるっすよ!」
 シルフィリアスはバチバチと音を立てる雷鳴の杖をくるくると器用に振り回す。雷は光の奔流となり、輝きの中で彼女の衣装が変わっていく。ひらひらとした愛らしいミニスカドレスに。それ即ち――、
「魔法少女ウィスタリア☆シルフィ参上っす。いくっすよー」
 可愛い決めポーズから、流れるような動きで杖の先端を帽子の男へと向ける。はちきれんばかりに収束していく魔力が限界を迎えるその瞬間に解放。全く可愛らしくない剣呑な極冷光線が男を呑み込む。
「思い知ったかっす!」
「上々ですね」
 白い冷気の中から悠然と姿を現した男は、躰の随所を氷で白く光らせていたが、歩みに些かも翳りは無い。その視線は、眼前に立つ者以外に注がれていた。
「なんじゃ、何を見ておる……?」
 注意深く敵を観察していた括は胸がざわつくのを感じ、夢中で男の視線を追った。
 視線の先では、ワイルドハントがケルベロス達と相対していた。
「……2人ダケカ?」
 深緑の影は自らの前に立った者を数えて、ふんと鼻を鳴らした……ような気がした。
「そうだね。あっちの片がつくまでは」
「先ずは私達の相手をして貰います」
「笑止ナ」
 キャスパーの砲弾が、クーデリカの飛び蹴りが突き刺さるも、ワイルドハントはたじろがない。そのまま片腕を伸ばし、先端の大口で彼女に噛み付き投げ飛ばした。
「くぅっ……!」
 内蔵に息が止まりそうな強い衝撃が走るも、受け身を取る事は出来た。続いて放たれた木の葉の群れを転がって回避する。
「残念、外れです」
「小娘ガ……」
 赤い感覚器官を通して、ワイルドハントの殺意がクーデリカに注がれる。どうやら上手く敵の気を引く事が出来たようだ。彼女は内心でほっと息をついた。
「いいのかなあ、クーデリカのお嬢ばかり見てて。それならそのまま凍っちゃえ!」
 憎々しげにクーデリカを追うワイルドハント。その横合いから放たれた凍結光線が深緑の躰を包み込む。すぐさま反撃にキャスパー目掛けて牙有る腕が伸ばされるが、その腕には氷がへばりついていた。
「うわっと、おっかないなあ。見た目だけとはいえ、葵衛門のお嬢のコピーなだけはある」
 衣服の一部を持って行かれながらも、キャスパーはこれを躱す。視界の端では、ホコロビがワイルドハントの頭に齧りついて、振り解かれるのが見えた。
(「これなら……」)
 ワイルドハントは2人で倒せる相手ではない。しかし、この分なら時間稼ぎは十分に出来るだろう。キャスパーがそう考えた瞬間だった。深緑が嗤った、ような気がした。
「笑止ト、言ッタハズダ」
「危ない!!」
 誰かの叫びに慌てて振り返ると、同じように振り返ったクーデリカ目掛けて、ステッキが突き立てられようとしていた。
「くっ……」
 警戒はしていた。だからきっと防御は間に合う。クーデリカは驚愕を捻じ伏せ、白炎の刀を突き出した。しかし――、
「ぁ……」
 ステッキは絡め取るような動きで刀を弾き飛ばすと、そのままクーデリカの鳩尾に突き立てられた。あらゆる加護が破られ、砕かれ、霧散する。刺突する形状にはなっていなかったようで貫通はしない。しかし、呼吸の一切を妨げられて、苦悶の声をあげる事すら出来ず両膝をついてしまう。
 無防備なクーデリカ目掛けて、緑の大口が迫る。彼女はワイルドハントの怒りを買っていた。
「させません!」
 間一髪、エレオノーラの砲弾がワイルドハントの腕を穿ち、軌道をずらす。帽子の男はシルフィリアスの雷撃が追い払う。
「すぐ、回復、しないと……! 死んじゃ、やだ……!」
 慌てて駆け寄る癒し手達。結以と葵衛門は息も絶え絶えなクーデリカに回復を施す。癒しのオーラと魔術医療が傷を治していく。
「動くなああ!!」
 味方が体勢を立て直せるよう、キャスパーは砲身が真っ赤になるほどの弾幕でワイルドハントを押さえつける。その後ろで濃密な気配が膨れ上がる。背筋に悪寒が走った。
「このっ……!」
 身を翻し、パイルバンカーで振り下ろされたステッキを受け止める。打ち合う事、数合。人がましい巧みな杖捌きは、腕を弾くとキャスパーの顎を打ち上げた。
「こ、の、野郎ゥ!!」
 体を仰け反らせるキャスパーに追撃を加えられる刹那、帽子の男の脇腹にククロイの蹴りが突き刺さった。ついで、両手に銃を構えた括が躍り出る。
「しばし止まっててもらおうか!」
 放たれた銃弾は2発。1発は男の体に。もう1発は地面に。括は、すかさず咒の詠唱へと移る。
「ひふみよいむな。葡萄、筍、山の桃。黄泉路の馳走じゃ、存分に喰らうてゆかれよ」
 2つの弾丸を要石に、両者の縁を括りつけて縛とする。男の動きが一瞬だが、止まった。その隙にケルベロス達はクーデリカを中心に体勢を立て直す。
「動いちゃ、だめ! まだ、じっと、してないと……」
「まだ、やれます……!」
 ケルベロス達の眼前には、ワイルドハントと帽子の男が並び立つ。
「なにやら、素敵な夢が見えたような気がしますね」
「一生山の幸に浸っておれば良いものを……」
 憎々しげに睨めつけながら、括の目は油断なくデウスエクスを観察していた。帽子の男は依然飄々としている。しかし損傷は与えている。総力で当たれば倒せるはずだ。――もしも、全てを投げ出せるのであれば。
「これは……」
 決断の時であった。


「プランB。やむを得ませんね……!」
 標的変更。幹部からワイルドハントへ。エレオノーラの駆る黒鎖が生き物のようにワイルドハントを締め上げる。静止する深緑の体に砲弾が雨あられと降り注いだ。
「なるほど……、しかしそれを消させるのは困りますね」
 ケルベロス達の方針転換を察したらしい。帽子屋が優雅にシルクハットを脱ぎ去ると、眼前へとそれを掲げる。一瞬露わになった顔の上半分はしかし、すぐにシルクハットより溢れたモザイクによって見えなくなった。モザイクは、泥の波のように前衛を呑み込む。
「なんなんっすか、これ!?」
 一瞬の後、モザイクは再びシルクハットの内に収まる。呑み込まれたシルフィリアスは自身の肉体を確認した。負傷は少ない。継戦可能だ。そう判断して顔を上げ――そして目を剥いた。右にも左にも、帽子の男の姿が在ったのだ。
「ぐおっ!」
「痛いっす!」
 互いに武器を向けあい、氷の刃と光線、衝突した凍てつくグラビティが両者を弾き飛ばす。シルフィリアスが攻撃したのは帽子の男ではない。ククロイであった。
「これは、催眠……! すぐに治すっすよ!」
 一瞬で状況を判断した葵衛門は彼らの頭上に飛び上がり、花弁のオーラを降らす。前衛の混乱はすぐに収まった。しかし、再びモザイクの波が迫る。
「同じ手は二度食わないっすよ!」
 葵衛門は続けざまに、鎖を操り壁と成す。波は盾の前に勢いを失って消え失せた。
「今っす!」
「当たり前だァ!」
 ククロイがワイルドハントに肉薄。斬首の刃を放つ。同時に、決めポーズも程々にシルフィリアスの光線も放たれた。
「グォォォォォ!!」
 ワイルドハントの左腕が切り飛ばされ、全身が凍てついていく。残った右腕が力任せに振り回され、2人を吹き飛ばした。
「こ、の、大人しくしてください!」
「縫い付けられておれ!」
 持てる武装の全てを費やして、エレオノーラと括はワイルドハントの動きを封じんとする。銃身が焼け付き、鎖を手繰る手、引き金を引く指には血が滲む。それでも手を休める事はしない。
 その間に、前衛が深緑の躰を徐々に削り飛ばしていく。ワイルドハントは全身の植物を生やすようにして、自身の修復を試みる。生えては削り、削っては生える。
「目障りですね……」
「そりゃ悪かったね……!」
 前衛を襲う帽子の男を、キャスパーは身体を張って受け止め続ける。顎を、胸を、腹をステッキで穿たれるも、ホコロビ共々懸命に食らいついていく。
「大丈夫、大丈夫。結以が、付いてる、の!」
 キャスパーが傷を受ける毎に結以が治癒する。加護が破られるのだとしても知った事ではない。その度に彼女は癒しを紡ぎ続ける。決して途切れる事は無い。死力を尽くして、死を遠ざけ続ける。
「マダ……ダ!!」
「まったく、鬱陶しいですね!」
 最後の足掻きだろうワイルドハントの豪腕が、苛立たしげに振るわれた帽子の男のステッキが、前衛を叩き伏せた。しかし、
「ああ、ずーっと言いたかったっす。最初に見た時から、ずっと」
 それまで支援に徹していた葵衛門が斬霊刀を手に駆け出す。目指すは己の鏡。まがい物だが、いつか本当にそうなるかもしれないという虚像。
「悪あがきを……!!」
 葵衛門を阻止せんと、帽子の男が迫る。突き出されるステッキは紛れもなく急所を穿つ軌道。キャスパーは間に合わない。しかし、それでも――、
「させ、ませんからね……」
「いやはや……」
 白い炎がシルクハットの縁を焦がす。男は、一振りの刀によって阻まれていた。無理を押したクーデリカは今度こそ倒れ伏す。その時間で十分だった。
 葵衛門が振りかぶる。ワイルドハントは動けない。絶叫がワイルドスペースに木霊した。
「もはや男にしか見えないじゃないっすか!! 私そこまで胸真っ平らじゃないっす!!」
 愚痴、それと轟音と共に放たれる斬撃。七之太刀『戦吼』・アウトレイジは彼女の鏡を粉々に打ち砕いた。


「ふむ」
 帽子の男は、景色をつまらなさげに見渡す。ワイルドハントは消え、ワイルドスペースもまた消失していく。崩れていく空間の切れ目からは、現実の空が見える。
「これは失態ですね。『彼女』が悲しむと思うと、実に気が重い」
 やれやれと首を振る帽子の男。その表情からは何も窺い知る事は出来ない。しかし、少なくとももう笑んではいなかった。
「では、皆様方。次の機会までご機嫌よう。首はその時に」
 大仰に一礼をすると、男は踵を返して去っていく。
 ケルベロス達が睨めつける中、ワイルドスペースは完全に消失。その背中もまた見えなくなった。
 ただ、長閑で緑溢れる景色が広がるばかりであった。

作者:日野木尾 重傷:クーデリカ・ベルレイム(白炎に彩られし小花・e02310) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年11月15日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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