創世濁流撃破作戦~魔法の黒水晶

作者:青雨緑茶

 薄暗い曇天の夕刻。
 モザイクに覆われたツギハギの庭園に、一人の淑女が佇んでいる。
「これが、ハロウィンの魔力……。
 この力があれば、私のワイルドスペースは濁流となり、世界を覆い尽くす事すら可能となるのですわね……」
 黒いゴシックロリータ衣装が白肌に映える。胸元のあいたデザインが妖艶さも持ち合わせるそれに身を包んだ銀髪の淑女が、抑揚のない声で密やかに囁く。
 淑女の正体はドリームイーター・ワイルドハント。この姿もまた、あるケルベロスの暴走状態を模した似姿をとったもの。
「目障りな番犬とやらが、ワイルドスペースをいくつも潰しているという話ですけれど。
 ですが、恐れるには及びませんわ……。
 あの『オネイロス』を増援として派遣してくれた『王子様』の為にも……。
 必ずや、この『創世濁流』作戦を成功させなくては」
 決意表明とも取れる言葉だが、上品な物腰と言葉遣いの内に感情の動きは見て取れない。
 その不気味な静謐さが、より冷ややかに、得体の知れない存在感を醸し出していた。


「ハロウィンの五方面同時決戦が終わったばかりですが、緊急事態です」
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)は声を据えて、集まったケルベロスに事件の概要を説明する。
「ドリームイーター最高戦力であるジグラットゼクスの『王子様』が、六本木で回収したハロウィンの魔力を使って、日本全土をワイルドスペースで覆い尽くす『創世濁流』という恐るべき作戦を開始ました。
 現在、日本中に点在するワイルドスペースにハロウィンの魔力が注ぎ込まれており、急激に膨張を始めています」
 このまま膨張を続ければ、近隣のワイルドスペースと衝突して爆発、合体して更に急膨張し、最終的には日本全土が一つのワイルドスペースで覆い尽くされてしまう事だろう。
「幸い皆さんの活躍により、隠されていたワイルドスペースの多くが消滅済みです。
 ですからハロウィンの魔力といえど、すぐさま日本をワイルドスペース化するまでの力は無いでしょう。
 お集まりの皆さんには、急膨張を開始したワイルドスペースの一つに向かい、内部に居るワイルドハントの撃破をお願いします」
 続けて、イマジネイターは資料を配る。
「モザイク内部は特殊な空間ではありますが、戦闘には支障ない模様です。
 敵のワイルドハントはアイリス・ウィンセル(魔法の白水晶・e00647)さんの暴走状態を模したと思われる女性の姿をしています。
 グラビティは空中に黒水晶を具現化してその輝きで傷を癒す単体ヒール、冷たい囁き声での詠唱による列ヒール、黒百合の刻印を飛ばして毒を与えてくる魔法……メディックというポジションから回復中心の行動をしてくるため、厄介な敵となりそうですね」
 これに加えて、ワイルドスペースには『オネイロス』という組織からの援軍が派遣されているらしい。オネイロスの援軍は『トランプの兵士のようなドリームイーター』だそうだ。
「援軍は一体のみですが、ワイルドハントと同時に戦う事になるので、苦戦する事が予想されます。
 ですがワイルドハントさえ倒せば、ワイルドスペースは消滅します。なので、戦術的にはワイルドハント撃破を優先する方が良いかと思われます」
 また、特に重要と思われるワイルドスペースには、オネイロスの幹部と思われる強力なドリームイーターが護衛として現れる可能性もある。
 幹部は強敵だが、今回の作戦の中核戦力である彼らを撃破する事ができれば、今後の作戦が有利に運べるかもしれない。
「幹部と遭遇した場合に、幹部の撃破を狙うのか、あるいは、ワイルドスペースの破壊を優先するのか、意思を統一しておく事も重要でしょう。
 オネイロスの幹部は戦闘力が高い為、中途半端な作戦では、どちらも撃破できずに敗退する事になるかもしれません」
 一通りの説明をして、イマジネイターはケルベロス達に深くお辞儀する。
「多くのケルベロスの皆さんが地道な調査によって各地のワイルドスペースを消滅させてきた結果、本作戦のチャンスを得る事ができました。どうか作戦を成功させ、無事に帰還して下さい」


参加者
蒼樹・凛子(無敵のメイド長・e01227)
セレナ・アデュラリア(白銀の戦乙女・e01887)
リュイェン・パラダイスロスト(嘘つき天使とホントの言葉・e27663)
アーリィ・レッドローズ(ぽんこつジーニアス・e27913)
鞘柄・奏過(曜変天目の光翼・e29532)
近衛・如月(魔法使いのお姉ちゃん・e32308)
曽我・小町(大空魔少女・e35148)
セレネー・ルナエクリプス(機械仕掛けのオオガラス・e41784)

■リプレイ


 芝生。丁寧に刈り込まれた庭木。優雅に弧を描く白いアーチ。
 それらをバラバラに切り離して無作為に繋げ、曇天の薄暗さで色褪せさせた、モザイクの庭園。
 ケルベロスは、そのワイルドスペースに飛び込んですぐ、討伐対象を発見する事となる。
「皆さん。作戦は、宜しいですね」
 鞘柄・奏過(曜変天目の光翼・e29532)が眼鏡を押し上げ、皆に確認を取る。庭園中央に佇む黒衣銀髪の淑女の横顔と、その傍に控える槍を持ったスペードのトランプ兵からは、視線を外さない。
 オネイロスの援軍は『トランプの兵士のようなドリームイーター』という情報は事前に聞いている。だが『幹部がトランプ兵の姿をしていない』という情報はない。外見で早計せず、作戦通りの基準で判断しようと呼びかける。
 頷いて一同が身構える中、ドレスの裾を揺らめかせ、淑女がゆっくり振り返る。
「ご機嫌よう、番犬の皆様……。そろそろ、来る頃かと思っておりましたわ」
 優雅に裾を摘まんでお辞儀する夢喰いの淑女。その風貌を目の当たりにして、蒼樹・凛子(無敵のメイド長・e01227)は表情を曇らせる。
「別人と分かってても、ほんとやりづらいこと……」
 友人と同じ顔をした敵の姿につい躊躇いそうになる。だがそれで刃を鈍らせるなら、彼女は今ここに来てはいない。
「ワイルドスペースの膨張、これが何を引き起こすのか知らないけど、迷惑なのは間違いないわね。あたしたちに喧嘩を売るってつもりだったら、買うしかないかしら?」
 曽我・小町(大空魔少女・e35148)は、夢喰いに負けず劣らずのゴシックロリータ衣装の肩に金翼の黒猫を乗せて、強気な双眸で敵を見遣る。
「毎度思うけど、悪趣味だよなあお前ら。自分の面でこいっつーの。――まあいいか。やっちまうか。其れが望みだろ」
 リュイェン・パラダイスロスト(嘘つき天使とホントの言葉・e27663)は周囲の士気を上げるように、自信に溢れた笑顔を浮かべる。
「まあ、噂通り……野蛮で、話が早いこと……」
 極僅かに、瞼を狭める淑女。微笑を浮かべたのだろうか。
 冷ややかな囁き声はそのまま詠唱となり、2体の夢喰いが淡い光に包まれる。
 番犬達も捨て置きはしない。槍を構え突進してくるトランプ兵と刃を交え、討伐戦は開始された。


「我が名はセレナ・アデュラリア! 騎士の名にかけて、貴殿を倒します!」
 名乗りを上げてケルベロスチェインを操り、セレナ・アデュラリア(白銀の戦乙女・e01887)はトランプ兵を捕縛せんとする。
 本人はこの場にいないが、夢喰いが姿を拝借したアイリスは彼女の騎士団の一員。団長としてアイリスの代わりに打ち倒すと、凛然たる騎士道精神を掲げて鎖を伸ばす。
「見た目はトランプ兵、か。でも、まだ分からないわよね」
 アーリィ・レッドローズ(ぽんこつジーニアス・e27913)はオウガメタルから光輝く粒子を放出し、自身を含む後衛の集中力を上げながら、慎重に見据える。
 ワイルドハントだってケルベロスの姿を模しているくらいだ。万が一にも下っ端に化けて騙し討ちなんて事が無いとも限らない。
「もぅ、ハロウィンの楽しい雰囲気に混ざるのならともかく……モザイクはノーサンキューなのよ!」
 近衛・如月(魔法使いのお姉ちゃん・e32308)は空高く飛び上がり、虹を纏う蹴りで急降下して、トランプ兵を引きつける。多くの弟妹を守って魔法少女の姿で戦う彼女にとって、日本を、ひいては世界を濁流で覆い尽くすなどという夢喰いの侵攻はとても見過ごせない。
(「ここがワイルドスペース……不可思議な所ですね」)
 セレネー・ルナエクリプス(機械仕掛けのオオガラス・e41784)は思う。ヘリオンからの降下中にも全体が一瞬見えたが、中に入るとより一層異質に感じられる。
 だが、考えるより今は歓迎に応じねばなるまい。
「挨拶されたからには返しませんとね。――ご機嫌よう、ドリームイーター!」
 まずはオネイロスの実力を測るべく、流星の煌めき宿す蹴りをトランプ兵に炸裂させた。


 夢喰いの淑女は掌に黒百合の刻印を浮かべ、ふっと息を吹きかけ、前衛目掛けて飛ばす。
 トランプ兵はその槍に炎を纏い、如月を狙って刺突の一撃。
 セレネーは、初手の手応えから読み取れた事を伝えるべく味方に声を張る。
「攻撃、ちゃんと通ります。このまま行けます」
 援軍撃破優先を基本方針としながらも、援軍にスナイパーの攻撃が半分も当たらないようであれば幹部と見なし撃破を断念、ワイルドハント撃破優先に切り替える。それが作戦の主軸だった。
「重畳です。ならば粛々と役目を果たしましょう」
 伝達を受け、奏過はグラビティで形成した鎖に雷を纏い、トランプ兵の槍に絡みつける。雷鎖絶手(ライサゼッシュ)、武器封じが目的だ。
「そう簡単には掻き消させませんよ!」
 セレナはグラビティ・チェインを白銀の騎士剣に乗せ、トランプ兵に叩きつける。淑女によってBS耐性が付与されている以上、最優先でブレイクせねばならない。
「カードを伏せて嫌がらせ。まあ普通の喧嘩ってそうなんだろけどさ。気に入らないね!」
 脚の推進器、スカート、ドレスを解放し、ふわと浮き上がりくるりと回転。
 リュイェンは最もダメージの大きい仲間に本当の言葉(ホントウノコトバ)を歌ってヒールしつつ、後衛からの観察で敵の挙動から得たデータを大声で告げる。
「そのトランプ、多分クラッシャーだ! 僕の光と歌で癒すけど、気をつけて!」
「あら……中々、考えておりますのね……?」
 犬の分際で、作戦なんて。とでも言うように淑女が後方からトランプ兵を回復させ、トランプ兵は今度は槍に氷を纏って突撃。
「貴方の相手はこっち! 知ってる? 魔法少女からは……簡単には逃げられないのっ!」
 如月は仲間を庇い、小さな身を挺してその攻撃を受け止める。ファナティックレインボウを攻撃の軸に、どこまでも足止めしてみせると足を踏ん張る。
 小町はウイングキャットのグリに清浄の翼でのヒールを任せ、皆が援軍を集中攻撃する間に、ワイルドハントの牽制も請け負う。
 淑女を真っ直ぐ見据える視線にその光を集め、一時的に動きを鈍らせるべく、一閃。
「『黄昏の輝きよ、瞳に《未来》を、貫け《現在》を! ――ヴェスパー……サイトッ!!』」
 アーリィは黒き太陽を具現化し、敵前衛に絶望の黒光を照射する。
「……使い慣れてないけど、教本に書かれてた文字は暗記してるわ」
 作戦はここまで順当。苦手とするイレギュラーが何も起こらなければ。
(「なのに、どうしてなの」)
 後方から陣営を見つめる彼女は、どこか、胸騒ぎにも似た違和感を覚えていた。

 暫し攻防が続いた。
 トランプ兵に数多く付与され、その上ジグザグで増やされたBS耐性は着実に足を引っ張っている様子。だがしかし淑女の回復量が大きいため、中々落とせない。
 それでもヒール不能ダメージは蓄積される。このままいけば、後手後手でジリ貧になるのは夢喰いの方だろう。
(「ワイルドスペース……本当に何なのでしょうね、これ」)
 西洋風の庭園によく似合うヴィクトリアンメイド服姿で、斬霊刀で汚染破壊する斬撃を放ってトランプ兵を追い込みながら、凛子は思う。
 ワイルドスペース。ワイルドハント。知り合いの顔をした敵。
 このトランプ兵さえ落とせば、次は淑女の番。やりづらくても倒さなくてはと、改めて胸に刻む。
(「初陣……まだ先の話だと思っていたけど、それがこんな大事になるなんて」)
 チームでの初めての戦い。だがセレネーは、出撃メンバーに選ばれた以上は全力で戦う所存で臨んでいた。
 それが、ケルベロスとしてなすべき事だから。炎を纏ったグラインドファイアの蹴りを見舞い、ダメージを加速させる一助とする。
 一方、アーリィは交戦開始から徐々に芽を出して膨らむ感覚、その正体が、ここにきてようやく浮上した。
(「……動きが、合ってない」)
 仲間の一人一人の行動は大枠においては作戦通りで、頼もしくもある。
 だが、半数以上が個々に動いている。声は掛け合っているが、連携までは叶わない。
 散々読み漁った教本からの受け売りが、彼女の頭を駆け巡る。個人の力量や立案がどれだけ優れていても、それだけで戦局は動かせない。群れで戦うケルベロスにとって仲間との信頼関係は、強敵を前にした時、『あと一歩』の押しになる事もあるもので――。
 その時ハッとして、注意喚起を叫ぶ。
「――いけない、このままだと……っ!」
 だが間に合わなかった。如月が、後少しで裂けそうなトランプ兵の槍に貫かれ――沈む。
 仲間の付与したジグザグは、如月が主軸として付与し続けた【怒り】も増幅し、それだけ集中攻撃を誘発していた。しかも彼女はディフェンダーで、時には他の者へ逸れた攻撃も庇ってしまっていた。
 無論、仲間のジグザグは敵を不利にするバッドステータスを増やす目的。だがジグザグの効果は、増やすものを任意で選ぶ事も、優先させる事もできない。
 メディックの単体ヒールがほぼつきっきりで、彼女自身のシャウトもあったにしても、それでも、ヒール不能ダメージが蓄積していたのは敵だけではなかったのだ。彼女の意図した引きつけと引き換えに。
「皆さん! 彼女を後方へ!」
 セレナが号を飛ばし、戦闘不能となった人員にとどめを刺されないように、後衛よりも後方になるようにと、残りのメンバーが全体的に前へ出るように位置取りを変える。
 そこに敵の隙をついて奏過が肉迫し、駆動式動力剣による一撃を決める。ここで、トランプ兵は撃破となった。


「こんな形は想定外でしたが……残るは、あなただけです」
「……まあ、大変。……オネイロスの援軍……思ったより、期待外れでしたわね」
 奏過の言葉にやはり抑揚のない声で、淑女は自身の周囲に黒水晶を具現化する。闇の輝きが共鳴し、牽制で受けた傷を癒してゆく。
「それもケルベロスの姿よね。すぐにそのふざけた物真似が出来ないようにしてあげるわ」
 ファミリアロッドを前へ掲げ、凍結の弾丸を精製し、射撃する小町。
「誰でもないから誰かの真似事! 下らないな! 冗談にもならない! 本物で勝負しに来いよ! 夢の簒奪者!」
 戦場という名のステージに立つ歌姫の意志を強く宿し、リュイェンは地面に描いた守護星座を光らせ、仲間を護る。
 メディックである淑女の攻撃は、クラッシャーのトランプ兵が沈んだ後となってはそこまで脅威ではない。ただし援軍よりも格上である事から耐久力は高く、時に行動を阻害しながらも削っては回復されの長期戦となるなら、気力の勝負。
「貴方、アイリスさんの意識とかはあるのかしら……?」
 前衛を失った淑女へ踏み込み、絶空斬で斬り広げて凛子は問う。
「……あるように見えて?」
 淑女は口元を歪める。はぐらかされたが、凛子の友人はこんな厭な表情は――しない。
「『アデュラリア流剣術、奥義――銀閃月!』」
 セレナは騎士剣を振るい、渾身の力を籠めて冴えた剣技を閃かせる。
「ヴァレイショー、行くよ。OK?」
 アーリィは自身の攻撃の命中率を見て取り、威力優先でビハインドと息を合わせる。
 掌からドラゴンの幻影を放って気を惹くうちに、ヴァレイショーが敵の背後に出現し、素手で強かに殴り込む。
「彼の方に所縁があるわけではありませんが、この国をモザイクで埋め尽くさせるわけにはいきません」
 敵を凍らせるべく、セレネーは氷結の螺旋を放つ。
 この戦いのため愛用の義骸装甲から装備を変えて今、愛する空を思うままに飛ぶ事が出来なくても――すべては、人々を守るために。

 戦いが長引くほどに、淑女には消し去り切れないバッドステータスが重なる。
 厄介な回復量をアンチヒールで下げられた事も良い方向へ働いた。
 ディフェンダーの穴はサーヴァント達が補い、回復中心の行動をとる淑女からは攻撃される頻度も低い。
「毒が来ます、備えて下さい!」
 淑女が掌に浮かべる黒百合の刻印を見て取り、セレナは味方に警戒を呼びかける。
「このまま押し切るわよ」
 ファミリアロッドを黒い小鳥の姿に戻し、魔力を籠めて射出する小町。もっと、もっと、氷漬けにしてしまいたい。
「これも一種の物量戦。避ける暇なんて、与えないから」
 爆破スイッチを押して戦場にばら撒いた見えない地雷を一斉に起爆し、更にも足止めを重ねるアーリィ。
「みんな、あと少しだ! 僕も、最後まで歌い続けるから!」
 リュイェンは高らかな歌声に乗せてオーロラのような光で仲間達を包み、毒を治癒し淑女に対抗する。
「これだけ動けなくなっていれば、攻撃を当てるくらい容易です」
 戦場に立つ経験こそ不足していても、仲間に貢献は出来る。セレネーはスターゲイザーで更に足止めを加える。
 動きも鈍り、優雅な黒いドレスもあちこち凍り付いた淑女は、僅かに眉を顰めた。
 冷たい声で自らに向け囁く。感情の抑揚を見せない敵であっても――その表情や声音よりも雄弁に、余力のなさは見て取れる。
「封じさせてもらいますね……徹底的にっ」
 奏過は双節自在棍『曙』を自在に取り回し、熟練の職人の如く淡々と、だが力強く斉天截拳撃の一撃を見舞う。
(「ごめんなさい、アイリスさん。貴方を斬りますね」)
 あと一撃で、決めてみせる。蒼き龍たる凛子は芝を蹴って踏み込み、心の中で詫びながら一族に伝わる氷の剣技を繰り出す。
「『我は水と氷を司りし蒼き鋼の龍神。我が名において集え氷よ。凛と舞い踊れ!』」
 蒼龍魔王剣・氷刃華斬(ソウリュウマオウケン・ヒョウジンカザン)。刃に乗せた氷の吐息を神速の斬撃で叩きつける。
 動きの止まった淑女。その唇が、ゆっくり、声なく動いた。――『残念』と。
「……私のワイルドスペースに、覆い尽くされた世界……見て、みたかった……」
 凍りついた傷口が、淑女の胸に氷華を咲かす。氷が割れるように全身に亀裂が入り、黒い光が砕け散って――魔法の黒水晶の淑女は、塵へと還った。

 主を失い、ワイルドスペースは崩壊する。
 周囲のモザイクが晴れて、一同はツギハギではない整然とした晩秋の庭園に佇んでいた。
 幸い戦闘不能になった者も回復し、8名は揃って帰還する事ができそうだ。
「……誰とやったかも解らない。消化不良だねえ」
 リュイェンが口を尖らせる。ケルベロスの暴走姿を模すワイルドハント。その本当の姿については未だ、何一つ明らかになっていないのが現状だ。
 だがいずれにしてもワイルドハントとオネイロスの援軍を2体とも撃破し、任務は完了。
 番犬達は、ドリームイーターによる創世濁流作戦の一端を確かに打ち砕いたのだった。

作者:青雨緑茶 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年11月15日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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