創世濁流撃破作戦~真球王の姿を取るモノ

作者:なちゅい

●発生するワイルドハント
 福井県、日本海に面したとある埠頭。
 放棄されたその場所で、いくつかの倉庫を巻き込むようにしてモザイクに覆われた空間が発生していた。
 その空間は、取り込んだ建物の屋根や壁、中にあったと思われる荷物などが周囲にバラバラになって浮かんでいる。
 ワイルドスペースと呼ばれるその中で、1体のワイルドハントが動き出していた。
「これが、ハロウィンの魔力でおじゃるか」
 その姿は、金色の金属球。王冠らしきものを被ったそいつの周囲にはいくつもの手が浮かび、道化師らしき顔が手と同じように浮かんでいる。
「このパワーがあれば、麿のワイルドスペースは濁流となり、世界をカバーことすら可能でおじゃろう」
 ふわふわと空間に満たされた液体に浮かぶ球体。そいつはさらに独りごちる。ケルベロスがワイルドスペースをいくつも潰しているという話だが、恐れるに足らぬ、と。
「あの『オネイロス』を増援として派遣した『王子様』に、麿こそがモーストビューティフルな存在だと知らしめる為にも、必ず、この『創世濁流』作戦をサクセスさせてやるでおじゃる……」
 しばらくの間、そいつの笑い声がモザイク内に響き渡っていたのだった……。

 ヘリポートに集まるケルベロス達。この場で彼らを出迎えたのは、リーゼリット・クローナ(ほんわかヘリオライダー・en0039)だった。
「ハロウィンのイベント楽しかったね。……余韻に浸りたいところだけれど、緊急事態が発生してしまったんだ」
 ドリームイーター最高戦力であるジグラットゼクスの『王子様』が、六本木で回収したハロウィンの魔力を使って、日本全土をワイルドスペースで覆い尽くす『創世濁流』という、恐るべき作戦を開始したと言う。
 現在、日本中に点在するワイルドスペースにハロウィンの魔力が注ぎ込まれており、急激に膨張を開始している。
「このまま膨張を続ければ、近隣のワイルドスペースと衝突して爆発、合体して更に急膨張し、最終的に日本全土を一つのワイルドスペースで覆い尽くされると見られているよ」
 幸い、ケルベロス達の活躍もあって、隠されていたワイルドスペースの多くを消滅させている。この為、ハロウィンの魔力といえど、すぐさま日本をワイルドスペース化するまでの力は無い。
「皆には、急膨張を開始したワイルドスペースに向かい、内部に居るワイルドハントの撃破を頼みたいんだ」
 リーゼリットが視たワイルドスペースの発生場所は、福井県某所にある埠頭の一角。数棟の倉庫を包むようにしてモザイクの空間が発生している。
「その内部は特殊な空間だけれど、戦闘に支障はないから安心して戦いに臨んで欲しい」
 現れるのは、王冠を被った金属球の姿をした敵だ。その周辺にはいくつもの手が不気味な道化師の面と共に浮かんでいる。その姿は、ウツロギ・アークエネミー(一機夜行・e00901)が暴走し、『真球王』となった姿に似ているのだと言う。
 この敵は、複数の手による斬撃、手にする杖で飛ばす火球、さらに道化師の面が浮かべる不気味な笑いによるグラビティによって攻撃を行うのが確認されている。
「あと……、ワイルドスペースには『オネイロス』という組織からの援軍が派遣されているらしいよ」
 オネイロスの援軍は『トランプの兵士のようなドリームイーター』のようだが、詳しい戦闘力は不明だ。
 援軍は一体のみだが、ワイルドハントと同時に戦う事になるので、苦戦は必至と見られる。
「ワイルドハントさえ倒せば、ワイルドスペースは消滅してしまうから、戦いは終わるはずだよ。もっとも、オネイロスの援軍を逃がしてしまうけれど……」
 逆に援軍を先に倒した場合はワイルドスペースは維持されるので、ワイルドハントと続けて戦うことが可能だ。こちらも合わせて撃破せねば、ワイルドスペースを破壊できなくなることを留意したい。
「敵が重要と見たワイルドスペースには、オネイロスの幹部と思われるドリームイーターが護衛として現れる可能性があるよ」
 幹部は強敵だが、今回の作戦の中核戦力である彼らを撃破する事ができれば、今後の作戦が有利に運べるかもしれない。
「チーム内で、幹部の撃破を狙うのか、それともワイルドスペースの破壊を狙うのか、予め意思統一しておいてほしいかな」
 幹部の能力は高い。中途半端な作戦で戦いに臨んでいた場合、どちらも撃破できずに敗退する可能性もあるので、心したい。
 謎の多いドリームイーター組織『オネイロス』の援軍も気になるが、ワイルドハントさえ倒すことができれば、作戦は成功と言える。
「とはいえ、できるならドリームイーターの戦力を削いでおきたいね」
 これも、地道に調査してワイルドスペースを破壊してきたケルベロス達の活躍があってこそだ。この作戦を阻止するチャンスはものにしたい。
「皆の活躍、期待しているよ」
 リーゼリットはケルベロス達へと微笑みかけ、メンバー達を現地へと送り届けるのだった。


参加者
ワルゼロム・ワルゼー(枢機卿・e00300)
トリスタン・ブラッグ(ラスティウェッジ・e01246)
アップル・ウィナー(キューティーバニー・e04569)
リィンハルト・アデナウアー(燦雨の一雫・e04723)
九条・櫻子(地球人の刀剣士・e05690)
ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)
渡羽・数汰(勇者候補生・e15313)
イリス・ローゼンベルグ(白薔薇の黒い棘・e15555)

■リプレイ

●真球王との対面
 ケルベロス達は、日本海を臨む福井県のとある埠頭へと降り立つ。
「では、よろしくお願いします」
 ワイルドな印象を抱かせるトリスタン・ブラッグ(ラスティウェッジ・e01246)が改めて、仲間へと挨拶を交わす。
「よろしく頼むぞよ」
 応じたワルゼロム・ワルゼー(枢機卿・e00300)は一声掛け、視界の向こうにモザイクの空間を見つけて。
「ドリームイーターの連中、ハロウィンに乗じてここまで仕掛けてくるというのか……」
「ふん、誰が相手だって関係ないわ」
 長い白髪を靡かせたゴスロリ少女、イリス・ローゼンベルグ(白薔薇の黒い棘・e15555)は気丈に言い放つ。
「幹部だろうと何だろうと、私がぎゃふんと言わせてあげるんだから」
「そうだな。この状況、こちらも利用させて貰おうか」
 ワルゼロムもイリスに同意し、今回の仕事の完遂を誓う。
 そのモザイクのスペースの正面にやってきた一行は突入するわけだが。
「ちょっといいデスカ?」
 念の為にと、アップル・ウィナー(キューティーバニー・e04569)は仲間達の能力、グラビティについて確認を取る。これも、戦況を判断する為の一助にと彼女は考えたのだ。
「私の武器はこちらですわ」
 無表情で語る九条・櫻子(地球人の刀剣士・e05690)。刀剣愛好家の彼女は、2本の刀で戦うとのことだ。
「……以上で間違いないデスネ?」
 アップルが得心したところで、メンバーは足並みを揃えて埠頭の倉庫を包むワイルドスペースへと突入していく。
 液体が包むモザイクの空間。呼吸や移動にほぼ支障はないこの場所には、取り込んだ倉庫の屋根や壁、中にあったと思われる荷物が断片的に浮かぶ。
「この短期間に、ワイルドハントとも3戦目か」
 見た目はごく普通の青年にも見える、渡羽・数汰(勇者候補生・e15313)。交戦を重ねた彼も、奇怪なワイルドスペースにも慣れたものである。
「そうだな、今更驚くこともないだろう」
 そばにいた、白に統一された衣装に身を包むティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)も幾度か突入経験があるらしい。……もっとも、彼女のクールな態度は素のようだが。
 スペース内を歩くケルベロス達はすぐに、球体の姿をした敵影を発見する。
「誰でおじゃる?」
 ふわふわ浮かぶのは、『真球王』を名乗るワイルドハント。そいつの周りには数本の手が浮かび、同じく浮かぶ道化師の顔が語りかけてきた。
「あ、ロードローラーじゃないんだ?」
 そいつを見た数汰は思わず、そんな感想を漏らす。
 トリスタンはそいつが何を守っているのかを確かめようと、ワイルドハントの周囲へと目を凝らすと、そばにいたのはトランプを胴体とした兵士。
 槍を獲物とするその兵士は、オネイロスの援軍に違いない。
「援軍が幹部だったら、それも倒せるのが一番良いんだろうけど……。何もかもが未知じゃ下手に手を出せない、よね」
 女性のような外見のリィンハルト・アデナウアー(燦雨の一雫・e04723)は情報の少ない相手に対し、身構える。
 もし、あのトランプ兵が幹部だったなら、メンバーはワイルドハント撃破を優先という手はずになっている。
「でもどんな敵なのかは、少しでも情報、持って帰りたいから。しっかり観察、するよ」
 リィンハルトはできるだけ相手を見極めようと身構えるが、彼は後方へと下がる。回復役として立ち回ることを予め表明していたのだ。
「ジグラットゼクスの一角を崩す為にも、この一戦は落とせない」
 ドリームイーターの最大戦力を切り崩すことにも繋がると、数汰が気合を入れる。
「麿をディフィートするでおじゃるか。……身の程を知るでおじゃる!」
 ケタケタと笑う道化師の面。周囲の手がふわりと浮かび、ケルベロスへと襲い掛かってきた。
「日本全部をワイルドスペースで覆い尽くそうだなんて、そうはさせないんだからね」
 その後ろのリィンハルトも腕を突き出して、纏わせたオウガメタルへと指示を出す。
「ここでしっかり、ワイルドハントを倒して壊さなきゃ」
 飛び出す仲間を援護する為、リィンハルトは援護の為にとオウガ粒子を飛ばすのである。

●『創世濁流』作戦を阻止せよ!
 ふわりと浮いてくるワイルドハント『真球王』。そして、『オネイロス』の援軍、トランプ兵。
 ケルベロス達は予め、この両者と戦うに当たって立てていたのは、先に援軍を全力で叩くという数汰立案の作戦だ。
 ただ、援軍が幹部だった場合はワイルドハントを先に倒すというものだが、果たして――。
「麿のパワー、とくと見るでおじゃる!」
 ワイルドハントは自身の周囲を飛ぶいくつもの手をけしかけてくる。それらは幾度も手刀で切りかかってきた。
「しかし、丸い……ボール遊びの化身でしょうか」
 それを抑えるトリスタンは全身に赤い筋を走らせつつも黒い鎖を操り、地面に魔法陣を展開して自分を含めた仲間を包み込む。
 敵の一挙一動に注視するリィンハルトだが、最優先は仲間の回復と考えて立ち回る。
「回復は僕達に任せて、みんながんばって……!」
 彼の腕から飛ぶオウガ粒子によって、前線メンバーの感覚が覚醒していく。
 ケルベロスの排除をと、トランプ兵は手始めに手にする槍を突き出してくる。
 目にも留まらぬ速さで繰り出されるその切っ先から、仲間を庇うのは櫻子だ。彼女は仲間の傷を気遣いつつ、その身を盾とする。
 その上で、日本刀を握りしめた櫻子はトランプ兵のカードと四肢の繋ぎ目を狙い、緩やかな軌道で斬撃を見舞う。
 その時、左目の地獄を燃え上がらせるイリスが動く。
 黒い茨のような攻性植物「シュバルツ・ヴァルト」に実らせた黄金の果実から放たれる光を、彼女はありがたく思いなさいと言わんばかりの態度で仲間へと振り撒いた。
「外さない」
 狙撃役となるティーシャは、トランプ兵目掛けてドラゴニックハンマーから砲弾を叩き込む。
 直後に、跳び上がった数汰がトランプ兵の頭へと、流星の蹴りを見舞う。
 多少、足を止めたものの、そいつも増援として送りこまれたドリームイーターである。簡単に倒される柔な敵ではなさそうだ。
 ワルゼロムは前線に、シャーマンズゴーストのタルタロン帝を送り出す。
 指示もあって仲間の盾になるタルタロン帝の後方で、ワルゼロム自身は前線メンバーの背後にカラフルな爆発を巻き起こして士気を高めていった。
「回復補助に重点を置いて動くぞよ!」
 攻撃は絶好のタイミングのみ。彼女はとにかく、仲間の支援に当たる。
 その支援を受けたアップルは、トランプ兵に自身のグラビティが当たるかどうかをチェックして。
「OKデス」
 問題ないと判断し、アップルはワイルドスペース内を跳躍しながら、燃え上がるエアシューズで敵の体を蹴りつけた。
 胴体を僅かに燃やすトランプ兵。その後ろのワイルドハントがにやりと笑って。
「それで、ウィンした気でおじゃるか?」
 不気味な声で笑う『真球王』は浮遊する手に握った杖を振り上げ、燃え盛る火の玉をケルベロスへと投げ込み、大きな爆発を巻き起こすのだった。

 2体のドリームイーターを相手に、ケルベロス達は奮闘する。
「黒き抱擁……貴方は耐えられるかしら?」
 イリスがワイルドハントを牽制すべく、攻性植物「シュバルツ・ヴァルト」を槍のように変化させ、それを投げつけた。穿った球体の敵を、植物は敵を内部から食い破ろうとする。
「それしきでは、麿はダウンせぬぞよ」
 ふわふわ浮かぶワイルドハントは不気味な上、奇術師を思わせる攻撃で攻め立てる。ケルベロス達へと火球を投げ込み、さらに不気味な笑いでトラウマすら植えつけてきていた。
 夢喰いどもの猛攻は、トリスタンら盾役がしっかり受け止める。
 トリスタンは仲間に合わせ、ジェットエンジンを加速させたバトルガントレットで殴打をトランプ兵へと見舞う。
 アップルもまた、重力を宿した蹴りで一撃を喰らわせた。
「斬撃が効いていマス!」
 増援の能力を確認したアップルはすぐ、仲間とその情報を共有する。
 そうして前線で戦うメンバー達を、ワルゼロム、リィルハルトが後方から回復していく。
 仲間達が万全に動けるように、ワルゼロムはフェアリーブーツでステップを踏みつつワイルドスペース内を舞い踊る。
 その度に花びらのオーラが周囲に降り、メンバー達に安らぎを与えて心身を正常な状態に戻していった。
「ワルゼロムちゃん、ここは僕が」
 リィンハルトも連携をとりつつ仲間を回復する。彼は敵の猛攻を抑える仲間へと緊急手術を施して傷を幾分か塞いで行く。
「あの増援、幹部ではない気がするよ」
 そんな中、トランプ兵を見ていたリィンハルトが仲間に告げる。
 敵は盲目的に攻撃を繰り返すのみ。言葉も発することなく槍を振るう敵に、幹部と思しき要素は全く見られない。
「よし、賭けには勝ったか。一気に勝負を決めさせてもらう」
 それならと、イリスはライフルから凍結光線を発射する。
 ギリギリ、敵に命中させられる許容範囲内での一撃ではあったが、イリスはしっかりとトランプ兵へと命中させることができた。
 ケルベロス達は一見、トランプ兵を順調に攻め立てているように見える。
 だが、ケルベロスの布陣はやや守りに偏っていた。
 その上、攻撃役の攻めにやや精彩さが欠けており、持久戦に及んでしまう。
 長期戦となれば、火力の高い夢喰い達が徐々に前線メンバーを押すこととなる。
「ほれ、どうしたでおじゃる?」
 まず、祈りを捧げるタルタロン帝。真球王の手刀で続けざまに切り裂かれ、その場から姿を消してしまう。
 敵の攻めはそこで終わらない。さらに、疲弊してきていた仲間を守るべく身を投げ出す櫻子へ、トランプ兵の槍から発せられた雷光がが櫻子の体を貫いたのだ。
「不覚……です」
 意識を失い、前のめりに倒れる櫻子。
 しかしながら、トランプ兵士の上体も大きく揺らいでいる。
 ティーシャが「バスターライフルMark9」からエネルギー光弾を発射すると、槍に亀裂を走らせた敵が大きく体勢を崩した。
 あと一息と判断した数汰はファミリアを飛ばし、仲間の与えた傷を抉っていく。
「幻兎変身、シャイニングモード!」
 足を竦めたそいつへ、輝く愛の光を纏って変身したアップルが攻め入る。
「この輝きは、邪なるものを浄化する愛の光!」
 それは金色の光で構成された巨大な手。アップルはそれによってトランプ兵士の体を掴みかかり強く握り潰す。すると、トランプ兵士はついに力尽き、モザイクになって消え失せた。
 だが、畳み掛けるタイミング、ケルベロスにできた大きな隙を、ワイルドハントは見逃さない。
 狙いは、トランプ兵が倒れたことで、攻撃対象を真球王へと切り替えようとしていたティーシャだ。
「ホホホ……」
 真球王は笑いながら、無数の手で彼女の体を切り裂いていく。
 自身の聞きを察したティーシャは暴走も考えたが、笑うワイルドハントが彼女を激しく攻め立ててそれをさせない。
「ジエンドでおじゃる」
「く……」
 白い服を赤く染めた彼女は力尽き、その場へと倒れてしまったのだった。

 残る敵は、ワイルドハント「真球王」のみ。
「増援も大したことないでおじゃるな」
 トランプ兵が倒れたことを、そいつは鼻で笑ってみせた。1人であっても、『創世濁流』作戦を諦めてはいないらしい。
「自分を捨ててまで手に入れた力で、一体何をしようというのかしら?」
 自分が至高と考えるイリスには夢喰いの考えが全く理解できぬらしく、彼女は問いかけながら再度槍状にした攻性植物を投げつける。
「決まっておろう。麿こそがモーストビューティフルな存在だと知らしめるでおじゃる」
 耐え続ける球形の夢喰い。だが、食い破られる体からはモザイクが滴り落ちている。
「冥府の最下層、陽の光届かぬ牢獄に汝を繋ぐ。全てが静止する永劫の無限獄にて魂まで凍てつけ!」
 ワイルドハントを休ませるわけにはいかない。数汰は掌に負の無限熱量を発生させ、絶対零度を下回るエネルギーを真球王へとぶつけ、その身体を破壊しようとする。
 アップルもかなり体力が減っている。しかし、ここは押し切るべきだと判断した彼女は怪我を押して、音速を超える拳で殴りかかっていく。
 回復に当たっていたワルゼロムもまた攻撃に出ており、バスターライフルから光弾を浴びせて敵のグラビティを中和する。
「何処までも追い注げ、霹の凄雨」
 リィンハルトはこのスペース内に自らが好きな雨を降らせ、追いすがるようにして夢喰いの体へと打ち付けた。
「スティル、倒れぬで、おじゃる」
 続くケルベロスの攻撃によって、真球王の全身が淡いモザイクに包まれてきている。ケルベロスとてボロボロだが、ここで引き下がるわけにはいかない。
「Deprived force type Grendel」
 そこで、トリスタンが一言告げると、その腕に忌まわしき沼の巨人より奪い取った力を宿した。
「うおおおおおおっ!」
 そして、彼は力の限り、ワイルドハントを殴り付けて行く。
 モザイクの中、球に亀裂が広がる。そして、そこから噴き出すようにモザイクが飛び出す。
「認めぬぞよ。認めぬで、おじゃ、る……」
 弾けるワイルドハントの体。それは粗いモザイクとなり、完全に消えてなくなっていったのだった。

●傷は負ったものの……
 重傷者こそ出しはしたが、無事にワイルドハントと増援の兵士を撃破したケルベロス達。
「立てますか?」
 トリスタンは重傷を負ったティーシャ、櫻子へと声を掛ける。
「問題ない・・・…」
 起き上がるティーシャはクールさを崩すことなく、一言返した。
 同じく、その身を起こした櫻子。彼女は眼鏡を外してその汚れを拭き取っていたのだが、容態を気にする仲間達が覗き込んでいることを気にして。
「ヤダ、そんなに見ないでください。恥ずかしいですわ」
 可愛らしい童顔の素顔を見られた彼女は、頬を赤らめてしまっていた。
 その手当てに当たる仲間達を背に、トリスタンはこの空間に何か隠されていないか探りを入れようとしたのだが、すぐにワイルドスペースは霧散していき、元の倉庫へと戻ってしまった。
 折角、撮影や何か証拠を持ち帰ることができるかと考えただけに、トリスタンは残念がっていたようだ。

 ともあれ、この場の安全を確保したケルベロス達は、傷を負った仲間の手当てを手早く済ませる。
 他のワイルドスペースに向かったケルベロスがどうなったのか気に掛けながらも、メンバー達はこの場を後にしたのだった。

作者:なちゅい 重傷:九条・櫻子(地球人の刀剣士・e05690) ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年11月15日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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