創世濁流撃破作戦~紺碧のルビーアイ

作者:ハッピーエンド

「へぇ。これが、ハロウィンの魔力か。この力さえあれば、ボクのワイルドスペースは濁流となって世界を覆い尽くす事すらできそうだね」
 鬼のような右手を、じっと見つめるように掲げながら、白髪の美青年は無垢な笑みを浮かべていた。
「ケルベロスって奴らが、ワイルドスペースをいくつも潰してるって聞いたけど、恐れるに足らず。ってやつだ」
 青年がボロボロのウィザードハットをクイっと持ち上げると、闇から混沌の影が現れ、おどろおどろしい戦舞を踊り、また闇に融けていった。風に煽られ、くたびれたウィザードコートがはためく。
「あの『オネイロス』を増援として派遣してくれた『王子様』のためにも、必ず、この『創世濁流』作戦を成功させてみせるよ」
 純真な表情で鬼の手を握ると、蒼い炎が空間に生まれ、そのまま闇を呑み込むように包み込み、静かに消えていった。
 青年の背後では、大地や建造物が、バラバラに混ぜ合わされたように揺らめいているのだった。


「皆様、緊急事態です」
 アモーレ・ラブクラフト(深遠なる愛のヘリオライダー・en0261)は、深刻そうな表情を浮かべ、ケルベロス達を見つめた。
「日本全土をワイルドスペースで覆い尽くす『創世濁流』という、恐るべき作戦が動き始めました。六本木で回収したハロウィンの魔力を使ったもので、ドリームイーター最高戦力であるジグラットゼクスの『王子様』による企てです」
 アモーレはコクリと息を呑むと、よりいっそう強い眼差しでケルベロス達を見つめた。
「現在、日本中に点在するワイルドスペースに、ハロウィンの魔力が注ぎ込まれ、急激に膨張を開始しております。このまま膨張を続ければ、近隣のワイルドスペースと衝突して爆発、合体して更に急膨張し、最終的に日本全土を一つのワイルドスペースとして覆い尽くす事になるでしょう」
 ざわめきが起きた。それに反応し、アモーレは固い表情を少し緩める。
「とはいえ、幸い、皆様の活躍で、隠されていたワイルドスペースの多くを消滅させていたため、ハロウィンの魔力といえど、すぐさま日本をワイルドスペース化するまでの力はありません」
 安堵の息が漏れた。アモーレは続ける。
「皆様には、急膨張を開始したワイルドスペースに向かい、内部に居るワイルドハントの撃破をお願いしたいのです」
 ケルベロス達は、力強く頷いた。
「特殊なモザイク空間での戦いとなりますが、戦闘は支障なく行えます。
 敵は2体。1体がワイルドハント。もう1体は『オネイロス』という組織からの援軍となります。
 援軍の戦闘力は不明ですが、『トランプの兵士のようなドリームイーター』ということだけは分かっています。
 ワイルドハントの方は、白髪でウィザードルックをした青年の風貌をしており、これから言う3つの攻撃を使用します。
 自身の周りに混沌の影を召び出し、近くにいる者の生命力を奪う攻撃。
 鬼の様な手を握り、空間に蒼炎を出現させ、誰か1人を包み込む攻撃。
 マントをはためかすと同時に、灰色の有害な霧を生み出す攻撃。
 いずれも厄介な攻撃ですが、すべて魔法の力によるものというのが救いでしょうか」
 なるほど対策は立てやすいのかもしれない。
「ワイルドハントを先に撃破した場合、ワイルドスペースが消滅し、オネイロスの援軍は撤退して戦闘が終了することが分かっています。
 オネイロスの援軍を先に撃破した場合は、ワイルドスペースが維持されることになります。その場合、ワイルドハントと戦い続ける事は可能ですが、その戦いに勝利できなければ、ワイルドスペースを破壊する事ができなくなりますので、注意してください。
 また、特に重要と思われるワイルドスペースには、オネイロスの幹部と思われる強力なドリームイーターが護衛として現れる可能性があります。
 幹部は強敵です。それゆえ、今回の作戦の中核戦力である彼らを撃破する事ができれば、今後の作戦を有利に運べるかもしれません。
 幹部と遭遇した場合に幹部の撃破を狙うのか、あるいはワイルドスペースの破壊を優先するのか、意思を統一しておく事も重要となるでしょう。
 オネイロスの幹部は戦闘力が高いため、中途半端な作戦では、どちらも撃破できずに敗退する事になるかもしれませんので、注意してください」
 説明を終えたアモーレは、ここで一度大きく息を吐き出した。そしてキッと顔を上げる。
「多くの仲間が、地道に調査し、ワイルドスペースを破壊してきた結果、我々は今回、この大規模な作戦を阻止するチャンスを得ました。その意気に応えるためにも、持てる限りの力を尽くそうではありませんか!」
 アモーレは力強くケルベロス達を見つめると、深々とお辞儀をするのだった。


参加者
カトレア・ベルローズ(紅薔薇の魔術師・e00568)
新城・恭平(黒曜の魔術師・e00664)
マキナ・アルカディア(蒼銀の鋼乙女・e00701)
鈴木・犬太郎(超人・e05685)
羽鳥・紺(まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339)
アリア・ホワイトアイス(氷の魔女・e29756)
霧山・和希(碧眼の渡鴉・e34973)
香月・渚(群青聖女・e35380)

■リプレイ


 眼前に焔の花が咲いた。蒼い焔が、ボッボッボッボッとそこかしこに灯っていき、薄闇のワイルドスペースを青く照らしていく。
「ようこそケルベロス諸君。ボクがこのワイルドスペースの主だ。楽しんでいってくれたまえ」
 紺碧のウィザードルックに身を包んだ銀髪の美青年が、階段の上から仰々しく会釈した。ここは廃城。朽ち果てた石柱や苔むした扉が無残に横たわり、天井は既に崩れ落ち、顔を上げれば薄闇の天涯が広がっている。
 青年は、時を感じさせる玉座に腰を落とし、悠然と脚を組んだ。
 が、ある一人のケルベロスに目を留めると、ハッと表情が一変する。
「似ている……いや、本人か。期待はしていたが、まさか会えるとは」
 目線の先にいたのは、彼と双子のような風貌をした黒髪の魔術師。黒のウィザードルックに身を包むケルベロス、新城・恭平(黒曜の魔術師・e00664)。
 恭平は暫し視線を絡めると、
「己の敵は己である、か。…アリアさん、下がっていてくれ」
 大切な人を庇うように立ちはだかった。
 言葉を投げかけられた純白の女性は、白い冷気の息を零しながら、
「己って、程じゃ無いと思うよ…? 見た目、ちょっと似てるだけ」
 イヤイヤイヤとばかりに冷静に突込みを入れた。
「雰囲気全然違うし、別物」
 下がりながらも、アリア・ホワイトアイス(氷の魔女・e29756)は、追い打ちをかける。先ほどから「……なるほど、あれが、恭平の暴走姿」と、興味深そうに青年を観察していたが、普段から恋人のことをよく見ている彼女にとって、アレは見てくれだけ似た敵であると結論されたようだ。
「大丈夫かしら?」
 恭平の横から、銀髪のグラマラスな女性が声をかけた。仲間と同じ姿の者と戦うとは、複雑な心境だ。本人なら、なおのことだろう。
「気遣い感謝する。だが、アレは見た目が似ているだけらしい」
 その表情を見て、「そう」とマキナ・アルカディア(蒼銀の鋼乙女・e00701)は微笑みを零した。恭平の顔には余裕が感じられた。
 その横では、豊かな栗毛の女性が、穏やかに口角を上げていた。彼女も思っていたのだ。恭平の姿をした相手と戦うことは、やり辛い。だが、本人やその彼女であるアリアの方が更にやり辛いはずだ、と。羽鳥・紺(まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339)は、2人の様子に胸を撫でおろした。特に、アリアが思いつめていないか心配だった。
 紺の向ける視線に気づくと、アリアはその意を察して頷いて見せた。紺も頷き返す。
「どうやら『俺』達の方は仲が良いらしい。しかしボクの方だって負けていないさ。ねぇ相棒」
 玉座の声に応え、槍を手にしたトランプ兵が姿を現した。その動きは熱がこもっておらず、意思が薄いように見える。
「あら? あれも恭平のワイルドハントかしら?」
 トボけたような声が、緋色の服を身に纏った赤髪のお嬢様から上がった。
「あ、ホントだ。あれも恭平のワイルドハントだね」
 カトレア・ベルローズ(紅薔薇の魔術師・e00568)のボケに、青いセミロングの少女、香月・渚(群青聖女・e35380)もクスッと笑う。
「確かに去年はトランプ兵の仮装をしたが…」
「……なるほど、あれも、恭平の暴走姿」
「アリアさん?」
「つまりボクはトランプ兵クンと合体すれば完全体に?」
「キミもなにを言っているのかな??」
 笑う青年から、トランプ兵は無言で一歩距離を取った。
 そんなやり取りを見つめながら、この場で最年長の男がフゥッと息を吐く。
「そういう風に油断させる腹積もりか? 喰えねぇ野郎だ。お前らの作戦。日本全土を包み込もうだなんて、ずいぶん大規模だよな。好きにはさせねぇよ。ここ、地球が俺達の星だってこと、みせてやる!」
 黒髪の偉丈夫、鈴木・犬太郎(超人・e05685)は地獄化された炎を巻き上げながら英雄の鉄剣を突き付けた。
「人々からドリームエナジーという奪った力で地球侵攻。そして他のデウスエクスから有利になろうという思惑、私達が潰させて貰うわ」
 マキナもエクスカリバールをブオンッと構え、ピシャリと言い放つ。
「座談は終了。お次は舞踏会ということかな」
 青年の全身が粒子の光を纏い、呪術めいた色合いを帯び始めた。
「2体を相手にするのは大変でしょうけど、私達も頼もしい仲間がいますわ」
「さぁ、行くよドラちゃん。サポートは任せたからね」
 カトレアが仲間を鼓舞し、渚が相棒のアゴを撫でる。金色のボクスドラゴン『ドラちゃん』は気合を入れるように雷光を迸らせた。
 暫時、漆黒のガンスリンガー、霧山・和希(碧眼の渡鴉・e34973)がマントを翻し、恭平の横へと位置取った。構えるオウガメタルを十年来の友人のように扱い、臨戦態勢に入る。無意識なのか、右目が少し細められた。
 青年は、敵の戦闘準備が整ったと見ると、悠然と玉座から立ち上がり、
「さぁ、楽しもうか」
 不敵な表情を顔に貼り付け、番犬達を見下ろした。


 光と音が戦場を駆けた。
 和希は仲間の命中を補佐すべくオウガ粒子を煌めかせ、光を受けた紺とアリアが青年の機動力を削ぐべく先駆ける。
「砲撃開始します」
 轟音と共に竜砲弾が青年に迫り、
「その身を縛るは、鋭く冷たい氷の茨」
 青年の足元から召喚された氷の精霊が、氷の茨となって切っ先を伸ばす。衝撃が細身を揺らし、氷の茨が自由を絡めとった。青年の顔が歪む。
「当てやすく、なったはず」
 白の彼女の言葉に乗って、黒の魔術師がロッドを振るう。
「怒りの雷霆よ」
 恭平の放った雷光が、態勢を立て直そうとする青年を焼き焦がした。
「さすが『俺』。良い攻撃じゃないか」
 青年は嬉しそうに恭平を見つめると、視線をスッとその後ろへ。
「悪夢の灰は深き霧となりて、汝を蝕むだろう」
 蒼い光にマントがはためくと、禍々しい灰が後衛たちを包み込んだ。苦悶の声が漏れる。
 したり顔で恭平を一瞥する青年。だが、灰の中から羽音が鳴った。
「傷を癒し、護りを固めるのが私の一番の役割。皆を支えてみせるわ」
 マキナの作り出したヒールドローンが仲間を護るように飛び交っていた。へぇ、と青年が愉しそうに笑う。
 その時、階下で叫び声が上がった。
「ぐあっ!」
 仲間への攻撃を庇った犬太郎が、トランプ兵の鋭い突きを受け、大地に転げる。
「やばい威力だ! こいつ、クラッシャーだぞ!」
 身をもって得た情報を叫ぶ。番犬達に緊張が奔った。
 その時、廃城に歌声が鳴り響いた。不思議と活力の湧く歌だ。
「さぁ、皆。元気を出すんだよ!」
 渚は笑顔を弾ませ、歌い続ける。今回の作戦には知り合いがたくさん同行している。頼もしいことだ。これだけのメンバーで負けるわけにはいかない。その想いを、歌でぶつける。
「力が湧いてきますわね!」
 歌の力を身に受けて、緋色の化身がトランプ兵の懐へと飛び込んだ。達人の一撃によって降り抜かれた紅ノ咆哮が、唸りを上げてトランプ兵の身体を弾き飛ばす。
 後方では、ドラちゃんが大ダメージを負った犬太郎に稲妻の光を与えていた。
「助かるぜ」
 ニッと笑いながら犬太郎はトランプ兵へと向き直る。
「守りの俺が倒れるわけにはいかないんだよ!」
 獰猛に躍り掛かると、敵の魂を奪い取り、自身の傷を癒してみせた。

 一手交えただけで、双方感じ取ったことがある。
 青年は想定より自身の火力が低いことに首をひねり、番犬達は逆に対策を凝らした敵の攻撃が、思った以上にかわし難く、また火力があることに舌を巻いていた。
「でも、厄介なのはあいつだぜ」
 油断なく構えた視線の先には、斬撃を得意とするトランプ兵。2体同時に相手取るには火力がきつい。この戦いのカギは、いかにあのトランプ兵を迅速に倒すかだ。
 和希は今度は前衛へと光の粒子を走らせた。
 同時に、戦況を分析するやターゲットを切り替え、トランプ兵の死角へと駆け出した者もいる。
「私も、すぐにそっち、行くから」
 アリアは走る栗毛に声をかけると、青年の側面へと跳躍した。青年はその動きに合わせ、鬼の手を動かす。そこに、
「大地に眠りし黒の刃よ」
 恭平の詠唱。一瞬、青年の注意が逸れた。
 次の瞬間には、重い跳び蹴りが青年の身体を弾き飛ばす。アリアは反動で宙を舞うと、勢いによって浮かびあがった純白の帽子を、大切そうに押さえながら距離を取った。
「彼の敵を浸食し爆ぜて砕けろ」
 体勢を崩した敵に、黒曜石の爆撃が突き刺さる。
 階下にも動きがある。睨み合うはカトレアとトランプ兵。
「行きますわよ」
 不敵な笑みと共にローラー音が鳴り響き、薔薇の飾りがついたブーツが炎を撒き散らす。トランプ兵が身構えた瞬間、不意にカトレアは笑った。
「じわじわ苦しんでください」
 シュガッと音をたて、死角から伸びた黒い槍がトランプ兵を貫く。紺が突き出したブラックスライムは、トランプ兵を侵食すると、ジュルンと主の腕に帰還した。
 間髪入れず、カトレアの紅蓮の蹴りがトランプ兵の額を焼き砕く。
 見事なコンビネーションに視線を絡ませる2人。だが、大気に陽炎が揺らめいた。
「危ない!」
 叫び声と同時に、蒼炎がカトレアのいた空間を呑み込んだ。
「渚!」
 階上からの攻撃に、身代わりとなって焼かれたのは青髪のオラトリオ。
「わりと熱痛いね」
「感謝しますわ」
 焦げ付きながらも、笑顔を絶やさず立ち上がる。そのダメージは決して小さくはない。
 刹那、2人に疾風のような影が迫った。体勢を整える前に、大振りに槍が薙ぎ払われ、ソニックブームが風を斬る。
 ――当たる。渚が身を固くしたとき、
 犬太郎とカトレアの装甲が切り裂かれた。渚の分のダメージも負った犬太郎の負担は大きい。
「ありがとう。けど大丈夫?」
 身を案じる渚に、犬太郎は脂汗を浮かべながらもニッカと笑って見せた。
「サポートはあまり得意じゃないからな、体を張ってそこはカバーだ」
「では、あなたのカバーは私がするわ」
 背後からかけられた声。マキナが流れるような手腕で緊急オペを施していく。
「みんな、元気になーれ!」
 重ねるように渚の元気な歌が、傷ついた仲間に染み渡った。ドラちゃんも、自分の主人に稲光を与えている。
 犬太郎は跳ね起き、
「一撃だ、俺のたった一撃を全力で完璧にお前にブチ込む」
 獄炎と降魔力を拳に纏わせ、トランプ兵を討ち抜いた。蓄積されたダメージに、トランプ兵の身体がゆらりと崩れ、
「踏ん張れ! 世界をワイルドスペースで満たすんだろう!」
 激に応えるように、トランプ兵は力強く槍を構え直した。


 戦局は流れ、ターニングポイントが訪れた。
「燃え盛れ!」
 恭平の炎が、トランプ兵を焼き焦がす。
 トランプ兵はガクリと脚を崩すと、ギギッと青年の方を向き、
 パァァァッ。
 青年に向かって光を注いだ。
「ボクじゃない! 自分の回復を!!」
 次の瞬間トランプ兵はカトレアの斬撃を受け、闇に霧散した。青年の顔から表情が消える。
「本当に、無口な相棒だったねキミは。だけれど――」
 粒子は彼の身体に纏わりつくと、その身に破壊の力を纏わせた。
「心強い相棒だった! 『創世濁流』はボクに任せて休むと良い!」
 魔術帽が眩い光を放ち、現れた屈強な影が、激流の如く戦舞を踊った。濁流に呑まれ、カトレア、渚、犬太郎が大地に崩れる。3人の疲労はピークを迎えていた。
「騎兵召喚、突撃」
 敵の追い打ちを警戒し、アリアが急いで氷の騎士を青年へと差し向ける。振り上げていた鬼の手と、騎士の攻撃が火花を散らす。
 続いて、和希が漆黒の剣身を煌めかせ、青年の間合いへと駆け抜けた。剣身に刻まれた赤い紋様が空間に線を引く。時折何かを振り払うように顔を歪めるのは、彼自身の内に潜む狂気に抗ってのことか。
 マキナ、恭平、ドラちゃんは、その隙に3人の治療に当たる。
 すると、突如、緋色の女性がグワッ! と立ち上がり、雄々しく胸を張った。
「このくらいの敵の方が燃えますわ! そうは思いませんこと? 犬太郎! 渚!」
 ガクガク脚を笑わせ、勝気なルビーの瞳を燃やし大地を踏みしめる。
「心強いねカトレア! ボクも同感だよ!」
 同じように、脚を震わせながら、ふふんと不敵な笑顔で立ち上がる渚。
「相手にとって不足なし!」
 犬太郎も跳ね起きると、地獄化した炎を巻き上げ、己の身体を奮い立たせるように咆哮を放った。3人の瞳には、闘志が揺らめいていた。

 戦いは苛烈を極めた。数多回復の光が瞬き、四方八方から銃弾や剣撃が飛び乱れ、敵の呪術が唸りを上げた。だが、ようやく終局を迎える。
 回避に特化された青年は、しかし身に付けられた数々の足止めや麻痺が身体を縛り付け、結果多くの攻撃をその身に浴び、またかわしたところで氷の裂傷がその身を蝕んだ。
「負けるわけには、いかない……」
 最後の力を以て混沌の影を使役するが、すべて虚しくかわされる。
 闇に消える影の後ろから、やけに物騒な発射音が轟き。青年は気づくと宙を舞っていた。射線の先では、和希のメタリックな白いバスターライフルが煙を吐いていた。
「終わり……か」
 青年は呟くと、瞬くように姿を消した。
 フッと自分と同じ姿を持つ者の前へと姿を現す。
 漆黒の瞳が青年を見据え、ルビーアイが恭平を見つめた。
「できれば『俺』の手で、幕を引いてくれ」
 恭平の身に着けた三日月型の黒曜石が、精神を鋭敏に研ぎ澄ませて行き――、
「大地に眠りし黒の刃よ。彼の敵を浸食し爆ぜて砕けろ」
「王子! 武運を!!」
 バァンッ!
 青年の身体は、生み出された黒曜石と共に、キラキラと光の粒子をバラまきながら弾けて消えた。


 濁流の世界は霧散した。今は心地よい風が、ケルベロスたちの頬を撫でている。
「ん。よかった。きれいな、空に戻った」
 アリアが嬉しそうに空を見つめ、
「これで、一つ計画を打ち崩せたね。他の仲間たちはうまくやっているかな?」
 紺は彼方を見つめると、手の中で一輪の薔薇を遊ばせた。
「定命とケルベロスの力がドリームイーターを破る力となるのね」
 マキナは、ドリームエナジーの消耗に息を吐き、
 和希は、普段の穏やかな性格に戻ると、仲間達をヒールして回っていた。
 渚、カトレア、犬太郎は疲れ果てて或いは眠り、或いは空を仰いで休んでいる。
「結局、手掛かりは掴めずか」
 戦場跡を一通り見てきた恭平がつまらなそうに顔を出した。
「いいじゃないの。恭平のワイルドハントを2体も倒せたんだから」
 寝息を立てているかのように見えたカトレアが、クスッと片目を開いてみせた。
「どっちも強かったよねぇ」
 渚もクスクス笑い声を上げる。
「青い恭平はもちろんだけど、トランプの恭平も厄介だったよな」
 犬太郎も笑い声を上げる。どうやら全員起きていたらしい。
「恭平の暴走姿、どっちも興味深かった」
「アリアさん?」
 抜けるような空の下で、笑い合うケルベロス達。これこそが、彼らが護ったものなのだろう。

作者:ハッピーエンド 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年11月15日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 1/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
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