●モザイクの水底に佇むのは
上へ行くほど薄くなる青のグラデーション、ユラユラと揺れるそこはモザイクと不思議な液体に満たされた水底の世界だ。
元は山の中の空き地だったのか、木々や草花の姿かちらほらと見つけられる。
そんな世界の真ん中に、一人の青年の様な姿をしたドリームイーターが居た。
黒地に血管の様な紅が走る鱗や尻尾、皮膜のある翼。片方だけの髑髏の仮面を身に着けた姿はどこか近寄りがたい。
「これが、ハロウィンの魔力か」
手を握り締め、ドリームイーターはくつくつと笑った。己とこの場に満ちる魔力のなんと膨大な事か。
「これならば創世濁流作戦とやらを、成功させられるな。まぁ、俺は暴れられるならどちらでも良いんだが」
背後に気配を感じて、ふぅと息を吐く。
「王子様とやらに興味は無い。無いが、もらった魔力とオネイロスの増援分は仕事をしようか」
モザイクのアクアリウムの中で、そのドリームイーターは楽し気に口元を歪め、気配の元へと歩いて行った。
●緊急事態、ワイルドハントを討伐せよ
「ハロウィンが終わったばっかりっすけど、皆さん、緊急事態っす!」
いつになく真剣な表情で黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)はケルベロス達に向かって声を発した。
「ドリームイーター最高戦力であるジグラットゼクスの王子様が、六本木で回収したハロウィンの魔力を使って、日本全土をワイルドスペースで覆い尽くす創世濁流という、恐るべき作戦を開始したっす。現在、日本中に点在するワイルドスペースに、ハロウィンの魔力が注ぎ込まれており、急激に膨張を開始しているっすよ!このまま膨張を続ければ、近隣のワイルドスペースと衝突して爆発、合体して更に急膨張し、最終的に日本全土を一つのワイルドスペースで覆い尽くされてしまうっす!」
一気に言い切ったダンテは一息吐いた。
「幸い、皆さんの活躍で、隠されていたワイルドスペースの多くを消滅させている為、ハロウィンの魔力といえど、今すぐ日本をワイルドスペース化するまでの力は無いっすけど、急膨張を開始したワイルドスペースに向かい、内部に居るワイルドハントの撃破をお願いするっす!」
ダンテはテーブルに資料を広げ、はっきりとした声で読み上げる。
「まず、戦闘が行われるワイルドスペースは、モザイクと不思議な液体が満たされた世界っす。だからと言って水圧が加わったり、息ができない、動きが阻害されるなんて事は無いっすから、安心して下さいっす! ターゲットはワイルドハントとオネイロスからの増援一体、合計二体っす。ここでとれる戦略は二通り、ワイルドハントを撃破してオネイロスからの増援を撤退させる事、先にオネイロスからの増援を倒して、ワイルドハントを倒す、になるっす」
ここまで話したダンテは念押しする様に続けた。
「ワイルドハントを倒せばワイルドスペースは消滅するっす。そうなってしまえばオネイロスの増援は撤退するしかないっす。でも、もしオネイロスの増援から倒した場合、ワイルドスペースは消滅せず、連戦になるっすよ。ですから、よく考えてから選んで下さいっす! ワイルドハントの攻撃手段は尻尾での薙ぎ払い、両手の爪での攻撃、モザイク弾での武器封じっす。オネイロスの方は残念ながら、戦力がわからないんで何とも言えないっす」
しゅんとしていたダンテはおもむろに、顔を上げた。
「楽しいイベントの直後に、日本ワイルドスペース化なんて冗談じゃないっすよ! 皆さん、厳しい戦いっすが阻止するために力を貸して下さいっす!」
テーブルに頭が付きそうな勢いで、ダンテは頭を下げた。
参加者 | |
---|---|
エヴァンジェリン・エトワール(白きエウリュアレ・e00968) |
相馬・竜人(エッシャーの多爾袞・e01889) |
不破野・翼(参番・e04393) |
一之瀬・瑛華(ガンスリンガーレディ・e12053) |
比嘉・アガサ(のらねこ・e16711) |
君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801) |
櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597) |
尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130) |
●姿写しのバーサーカーとトランプの兵士
揺蕩うモザイクの水底に立ったケルベロス達とそのサーヴァント達は、ターゲットの元へと歩みを進めていた。
液体特有の重さは特に感じないが、髪や衣服が水の中の様に揺らめくのは不思議で、アクアリウムの様な風景は美しい。あくまで見た目だけは。
ケルベロス達が来た方向とは反対、つまり真正面から青年の姿をしたドリームイーターとハートの十と書かれた兵士の様なドリームイーターが現れる。ケルベロス達を見た青年、仮面のバーサーカーはニヤリと笑った。
「ほう? 誰かと思えば、この姿の持ち主ではないか。お前が相手をしてくれるのか?」
「……チッ」
相馬・竜人(エッシャーの多爾袞・e01889)は嫌悪を隠さずに、舌打ちをする。
「相馬の偽物、か……仲間の姿を騙られルのは、不快なもノだな」
「あぁ、本当に」
君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)の横で、不破野・翼(参番・e04393)が仮面のバーサーカーを睨みつける。
旧い学生姿のビハインド、キリノが仮面のバーサーカーの様子を窺い、ボクスドラゴンのシュタールは主人に同調してか、低く唸り声を上げていた。
「あれが、オネイロスの増援か……、何処かで見た事のある様な姿だが……」
櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597)はオネイロスのトランプ兵を見つめ、眉間にしわを寄せた。
「見た所、幹部では無い様ようだな」
「油断はしませんが……さて、鬼が出るか蛇が出るか。……楽しみ、ですね」
引き継いだ一之瀬・瑛華(ガンスリンガーレディ・e12053)は目を細め、トランプ兵へ好戦的な視線を向ける。
それに気が付いた仮面のバーサーカーは、二人に視線を向けた。
「そこの二人はこいつの事が気になると見える。警戒するのは結構だが、妬けてしまうな」
「知っている顔で、そいつが言いそうにないセリフを言われると……ゾワッとするな」
笑顔が引きつった尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)の隣でエヴァンジェリン・エトワール(白きエウリュアレ・e00968)が大きく頷いた。その白い指先は、himmelに触れている。
「うわー、似合わな……コホン、さて、どこかで見たような顔だけど、敵は敵、遠慮は無用でいいんだよね?」
言いかけた言葉を咳払いで打ち消した比嘉・アガサ(のらねこ・e16711)は苦虫を噛み潰した様な顔をしている竜人に問いかけた。
「……俺が殴る分、残しとけよ」
「わかってるって」
アガサの答えに深くため息を吐くと、仮面のバーサーカーを見つめ、それに問いかける。
「一つ聞きてえんだがよ。なんでその姿をガワにしようと思った?」
「うん? 知りたいのか? 持ち主殿」
「いや、やっぱ答えんな」
仮面のバーサーカーのネットリとした笑顔に何かを察したのか、竜人は間を置かずに止めた。そして、闘志のこもった視線を仮面のバーサーカーへ向ける。
「これでも感謝してんだぜ? 世界で一番気に食わねえツラ、ぶん殴れるんだからなぁ!!」
「おや、残念だ。この姿は気に入っているのだが……まぁ、殴れるものなら殴ってみせるがいい、持ち主……いや、ケルベロス!」
同じ顔を持つ二人の青年は向き合い、同時に構えた。それを合図にそれぞれが己の指定位置に散っていったのだった。
●戦闘開始、まずは増援から倒せ
「夢から醒める時間よ、夢喰い。悪夢の華が、夢の終を導いてあげる」
そう言ってエヴァンジェリンは、爆破スイッチを押した。後衛組を鼓舞する爆発が起こる。眸が千梨に向かって祝福の矢を放つ。キリノが仮面のバーサーカーに向けて、小石や小枝を飛ばした。
その様子を見ていた仮面のバーサーカーは、途端につまらなそうな顔をした。
「威勢のいい事を言った割には、こんなものか」
「……そんなわけ無いじゃない」
捕食形態に変化したブラックスライムが、仮面のバーサーカーを襲い、その右の翼にかぶりついた。
「あたしと遊ぼうよ。偽物さん」
仮面のバーサーカーの前に立ち、アガサは無表情だが挑発する様に言う。彼女の言葉と攻撃に仮面のバーサーカーは喜色を浮かべた。
「……そうこなくてはなぁっ!」
両手の爪を伸ばし、仮面のバーサーカーは彼女に襲いかかる。それを上手く躱しながら、彼女は仮面のバーサーカーを引き付け、牽制していった。それにキリノが続く。
残りの仲間達はトランプ兵へと向かっていく、一瞬、振り返った瑛華は仮面のバーサーカーの相手をするアガサに盾を生み出して、仲間達に続いて行った。
戸惑うトランプ兵の周りに千梨は、昏い炎を幾つも灯していく。
『灯火消えれば、怪異が踊る』
その言葉の通り、トランプ兵が炎の輪から抜け出そうと足を進めるたびに、目に見えぬ怪異がトランプ兵を襲っていく。
炎の輪が消える頃には、噛み痕、刃物による傷など様々な傷がトランプ兵についていた。
しかし、見た目ほどダメージは無い様だ。
トランプ兵は手にしていた鍵型の槍を、エヴァンジェリンに向けて突き出す。それを庇ったのは広喜だ。右腕で槍を受け流す。その際、右腕に傷が付いた。
「俺はそう簡単には壊れねえぞ」
楽し気なその様子に、トランプ兵はたじろぎ、数歩後ろに下がる。
その背後から、竜人のハンマーからの砲撃が襲った。
「連帯責任って奴だよ。知っとけ」
一撃を受けてよろめくトランプ兵にもう一度、砲撃が襲いかかるが、こちらは気付かれて避けられてしまった。
「……外しましたか」
悔し気な翼の横をシュタールがすり抜けるように飛んで行き、トランプ兵にブレスを吐きかける。
こうしてケルベロス達は二手に分かれたのだった。
●破れたトランプ兵とバーサーカーの第二ラウンド
それからの戦いは攻守の入り乱れる戦況となった。いち早くトランプ兵を倒すため、攻撃を集中させる。そのうえで守りもある程度固めていた。
エヴァンジェリンや広喜、瑛華がそうだ。先の二人は攻撃をしつつも仲間を庇い、残る一人は傷を癒しつつ、仲間を守る盾を生み出した。
ケルベロス達が戦いを進める中で、障害となったのは仮面のバーサーカーだ。トランプ兵に攻撃が集まってると気が付くと、別れた側のケルベロス達に攻撃を仕掛け始めた。
「だから、あなたの相手はこっちだって!」
仮面のバーサーカーがそちらへ向かおうとするのを牽制役が、どうにかして止め、仮面のバーサーカーを引き離す。
キミノは今、仮面のバーサーカーでは無くトランプ兵を攻撃しているが。
意外と重いトランプ兵の攻撃に苦戦しつつも、何とか倒した。トランプの破片が舞いながら消えていく中、仮面のバーサーカーはこちらへと突っ込んで来る。
その動きはだいぶ鈍くなっていた。
「俺の相手をしろぉぉぉ!!」
力任せに振るわれた尻尾が前衛組を襲う。庇う間も無く叩きつけられた尻尾に、前衛組は膝をつきそうになった。
瑛華が舞う事で生まれた花のオーラによって、事なきを得たが。
明らかに興奮した様子の仮面のバーサーカーに、ケルベロス達に緊張が走った。そこから仮面のバーサーカーとの第二ラウンドが始まる。
基本的な戦い方は先ほどまでと変わらない。アガサが合流した事くらいだろう。
戦いが長引くにつれ、仮面のバーサーカーは笑い声を上げた。
「もっと、もっとだ。俺を楽しませろぉぉぉ!」
力任せな攻撃と戦い方はケルベロス達に苦戦を強いた。
「どうする? 装甲は破れタぞ」
眸の右手が豪快に胴体を貫いても、それがどうしたと仮面のバーサーカーは叫ぶ。
その様子はオリジナルと酷似していた。
何度目かの攻撃の末、仮面のバーサーカーがやっと膝をついた。
●鏡写しの二人
「任せたぞ」
すれ違いざま呟いた千梨に、竜人は頷き仮面のバーサーカーと対峙する。
「あぁ、楽しい、楽しい! やはり戦いは心が躍る!」
ケタケタと笑う様はバーサーカーの名の通り、狂っていた。
「そんなに楽しいか?」
「楽しいさ、強者との闘い、相手を蹂躙する瞬間……その全てが俺にとっての娯楽、快楽だからな。たとえ、俺がこの場で敗れてもそれすらも、楽しいと答えるさ」
強烈な喜色を浮かべる仮面のバーサーカーに、写し元となった彼は深くため息を吐き、嫌悪を隠さず睨みつけた。
「きっちり、死んどけ!」
吠える様に声を上げ、両腕を黒竜のそれへと変える。
『ボサっとしてる食っちまうぜ?』
左右同時に叩きつけ、言葉通りに噛み付かれた様な傷痕を仮面のバーサーカーに、のこした。
この一撃が決めてになったのか、仮面のバーサーカーはボロボロと崩れ始める。その顔が崩れてしまうまで、彼は笑っていた。
●ある種の黒歴量産
戦いが終わり、モザイクの海は消え去った。元に戻ったその場所に、ケルベロス達は安堵の息を吐いた。
広喜とエヴァンジェリンはお互いを労い合い、その様子を眸と千梨が微笑ましく見つめている。
「お疲れ様です、アガサさん」
「お疲れ様です」
「……お疲れ」
笑顔の翼と瑛華に、表情を緩めて彼女は答えた。
和やかな雰囲気の中、写し元となってしまった彼は一人、頭を抱えた。
「何だ、あのクサイ言い回しはよぉ!」
仮面のバーサーカーの顔は自分と同じだ。浮かべていた表情の違いはあれど、同じだったのだ。誰かも言っていたが、自分が言いそうにない言い回しや、セリフを自分の顔や声で言われると、かなりくるものがある。ゾワッと。
自分では無いのだが、黒歴史の様な何かを生み出されてしまった彼を仲間達は、苦笑して見つめていた。
ポンと肩を叩かれ労われても、しばらくの間、彼は悶えていた。
作者:白黒ねねこ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年11月15日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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