創世濁流撃破作戦~芋娘のワイルドスペース

作者:そらばる

●山奥にて、芋を両手に
 持ち主が手放して数年が経過した、山奥の休耕地。
 辺りを木々に囲まれたその広大な平地は、今やすっぽりとモザイクに覆われていた。
 モザイクの内部は、土と沢と草木と青空の、休耕地の風景をバラバラに切り交ぜたような不可思議な領域、ワイルドスペース。
 その中央部に、誰かが佇んでいた。
「これが、ハロウィンの魔力ですか。この力さえあれば、私のワイルドスペースは濁流となって、世界を覆い尽くすことだって出来る……」
 右手にジャガイモ、左手にサツマイモを持ち、農作業用の武骨な長靴でワイルドスペースの地を踏みしめる、愛らしいエプロンドレス姿の少女。
 マルチナ・ヘイトマーネカ(じゃがいも愛好家一級・e14100)の姿を写し取った、ワイルドハントである。
「ケルベロスなどという連中がワイルドスペースをいくつも潰している、なんて話もあるようですけど、どうという事はありませんね。あの『オネイロス』を増援として派遣してくださった『王子様』の為にも、必ず、この『創世濁流』作戦を成功させなくては。私のこの、お芋の力で――!」
 ワイルドハントは微笑み、首にかけた大きな手ぬぐいをたなびかせた。強い決意と芋への信頼を、赤い瞳に閃かせながら。

●創世濁流の危機
「慶事の結びに水を差すようで申し訳ございません。――緊急事態にございます」
 ハロウィンイベントを終えたばかりのケルベロス達を招集し、戸賀・鬼灯(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0096)は毅然と語り始めた。
「ドリームイーター最高戦力ジグラットゼクス、その一塔たる『王子様』が、六本木で回収したハロウィンの魔力を用い、日本全土をワイルドスペースで覆い尽くすという、恐るべき『創世濁流』作戦を発動いたしました」
 現在、日本中に点在するワイルドスペースに、ハロウィンの魔力が注ぎ込まれ、急激に膨張を始めている。
 このまま膨張を続ければ、近隣のワイルドスペースと衝突して爆発、両者が合体して更に急膨張――これが繰り返され、最終的に日本全土が一つの巨大なワイルドスペースで覆い尽くされる事だろう。
 不幸中の幸いは、ケルベロスの活躍によって、隠されていたワイルドスペースの多くが消滅している事。ハロウィンの魔力といえど、すぐさま日本全体がワイルドスペース化する爆発力はないようだ。
「皆様は、急膨張を開始したワイルドスペースに向かい、内部に構えるワイルドハントの撃破をお願い致します」

 従来のワイルドハントとの戦い同様、戦場は特殊な粘液に満たされたワイルドスペース内となるが、呼吸・発声・戦闘行動に支障はない。
「ワイルドハントはマルチナ・ヘイトマーネカ様の暴走態と瓜二つの見目をしておりますが、姿を真似ただけの別人でございます。当然ながら、言動、攻撃方法なども異なりますゆえ、ご注意を」
 両手に携えた二種の芋で強烈に殴りつける、芋から伸ばした蠢く蔓で攻撃をしかける、どこからともなく爽やかな風を吹かせて回復する、といった戦い方をするようだ。
「加えて、ワイルドスペースには『オネイロス』という組織からの援軍が、護衛という形で派遣されております」
 オネイロスの援軍は『トランプの兵士のようなドリームイーター』らしいのだが、詳しい戦闘力は現在も不明だという。
 援軍は一体のみ。しかしワイルドハントと同時に戦う事になる為、苦戦は免れないだろう。
 さらに、特に重要と思われるワイルドスペースには、オネイロスの幹部と思しき強力なドリームイーターが援軍として派遣されている可能性もあるという。
「いずこのワイルドスペースに現れるかは……申し訳ございませんが、現状では特定出来ておりませぬ……」
 ワイルドスペースはワイルドハントを倒せば閉じ、援軍は撤退する。援軍を先に倒すや否や、もし幹部と当たった場合はどう対処するか、といった意志統一をしておく事も重要だろう。
「日本全土を覆い尽くさんとする創世濁流作戦、それを実行しうるジグラットゼクス、謎多きドリームイーター組織オネイロス……実に恐るべき事態にございます」
 鬼灯は伏し目がちな瞳の奥に戦慄を隠しながら、けれど、とケルベロス達に強く訴えかける。
「日本全土をワイルドスペース化させるわけには参りませぬ。こたび作戦阻止の機会を手に入れる事が出来たのは、多くのケルベロスの地道な調査の賜物。皆様の活躍を無駄にしない為にも、確実な作戦阻止をお願い致します」


参加者
デジル・スカイフリート(欲望の解放者・e01203)
毒島・漆(魔導煉成医・e01815)
ヴァンアーブル・ノクト(熾天の語り手・e02684)
樒・レン(夜鳴鶯・e05621)
鮫洲・蓮華(ぽかちゃん先生の助手・e09420)
原・ハウスィ(月刊少女ハウスィくん・e11724)
マルチナ・ヘイトマーネカ(そして全てが芋になる・e14100)
霧崎・天音(星の導きを・e18738)

■リプレイ

●思わぬ援軍
 休耕地を覆い尽くすモザイクの内部、ワイルドスペース。
「全く、デウスエクスの侵攻はいつまで続くんだろうね……」
 変わり果てた異常空間に首を巡らせながら、ヴァンアーブル・ノクト(熾天の語り手・e02684)は穏やかな声音に静かな憤りを秘めて呟いた。連中も生きる為に必死だとはいえ、侵略されるのは我慢ならない。『奪われた者』としては、なおのこと。
「例え人の姿をしていようとも、デウスエクスは死んでもらうよ」
 ヴァンアーブルの視線が、空間の中央へと流され、一人の少女の姿を捉えた。
 混沌とした景色の中心部に佇んでいるのは、左手にジャガイモを、右手にサツマイモを握りしめる少女。
「……本当に私そっくりです……」
 己を鏡写しにしたような敵を実際に目の前にして、マルチナ・ヘイトマーネカ(そして全てが芋になる・e14100)は呟いた。
「マルチナさんの姿を模したワイルドハントですか……ま、姿形は関係ないですね。所詮は偽物ですし」
 己の前に敵として現れたなら戦力で排除する。毒島・漆(魔導煉成医・e01815)の信条は揺らがない。
 マルチナと瓜二つのワイルドハントは、ケルベロス達を不敵な笑みで出迎えた。
「やはり来ましたか」
「ふぁぁ……あーあ、本当に来ちゃったか」
 ワイルドハントの言葉に続き、どこからともなく眠そうな声がしたかと思えば、ポポン、と可愛らしい音と煙を立てて、ワイルドハントの傍らに白いティーポットが現れた。
 ふいよふいよと浮かぶティーポットの蓋を持ち上げ、ひどく眠たげな鼠の姿のドリームイーターが顔を出す。
「ボクはあんまり、荒事は好きじゃないんだけどねぇ……まあ、ここでキミに倒れられたら困るから、全力で護衛させてもらうよぉ」
「よろしくお願いしますよ、オネイロスのお方」
「オネイロス……?」
 二体のドリームイーターのやり取りに、霧崎・天音(星の導きを・e18738)は無表情のまま正体不明の鼠を凝視した。
「ナンバーが……ない……トランプ兵じゃない……幹部……?」
「まさかの大当たり!? でもちょっと可愛いかも……あのポットの中身ってどうなってるのかな?」
 愉快なものを愛する鮫洲・蓮華(ぽかちゃん先生の助手・e09420)は、興味津々に目を輝かせる。
「幹部だろうと、やる事は変わらないわ」
 ぴっちりと肌に沿うスーツで全身を包んだデジル・スカイフリート(欲望の解放者・e01203)は、妖艶に微笑みながらワイルドハントを見やる。
 ケルベロス達の敵意は、一斉にワイルドハントへと殺到した。
 一行の目的は一つ。ワイルドハントの撃破による、ワイルドスペース破壊。
「どうも。ケルベロスです」
 銀縁眼鏡に咥え煙草、草臥れた白衣姿の漆は、端的に名乗りを上げた。
「そんじゃ、まあなんだ。とりあえず死んで下さい」
 言い放つや否や、黎刀【憑呪】で斬り込み、ワイルドハントの機動力を削ぎ落とす。
「芋について愛着持ってくれてるのはいいけど、そのままさせる訳にもいかないのよね。マルチナちゃんの姿ってのも放っておけないし、きっちり仕事しましょうかね♪」
 同じくオルタストライクアナザーで果敢に攻め込むデジル。格闘と魔術を織り交ぜた攻撃が、ワイルドハントを確実に打ち据える。
「なんだい、ずいぶんと気合入ってるなぁ。まぁまぁ、少し肩の力を抜こうじゃないかい。……ねぇ?」
 鼠はふわふわした毛並を撫でつけながら、ティーポットから白い蒸気を解き放った。もくもくと湧き上がったそれは前衛を甘ったるい香りで包み込み、思考力を鈍らせていく……。
「催眠……! しかもジャマーね!」
 デジルを庇った蓮華は鋭く察し、天音に付き纏う蒸気を桃色の霧で押しのけた。
「夜鳴鶯、只今推参」
 凛とした口上と共に、樒・レン(夜鳴鶯・e05621)は色づく紅葉の如き紙兵を大量散布し、前衛に浄化と守護を広げていく。
「……民草が楽しんだハロウィンの想いを、魔力として悪事を成さんとは無粋極まりない。ワイルドスペースは必ず撃破する」
 この忍務、必ず成し遂げよう――。
 静かな決意を秘めて、レンの双眸が敵を鋭く射抜いた。

●芋の糖蜜がけ
 蓮華のサキュバスミストに助けられながら、天音は嗅覚を刺激する芋の香りの錯覚を必死に振り払った。
「美味しそうなお芋……だけど……マルチナさんのお芋は……好きだけど……ワイルドハントのお芋には……負ける訳にはいかない……」
 駆け込んだエアシューズが流星の煌めきと重力をワイルドハントに叩き込む。続けざま、原・ハウスィ(月刊少女ハウスィくん・e11724)が轟竜砲で畳みかけ、着実に敵の動きを鈍らせていく。
「ならばお芋そのものの実力で魅了してあげます。お芋の秘める可能性、とくと味わいなさい!」
 ワイルドハントが空を仰ぐように腕を広げた瞬間、その両手に握る芋が急激に発芽した。波打ち蠢く蔓草が一挙に襲いかかり、前衛の防護を引き裂いていく。
「なんということでしょう。私に似ていますが全く違うグラビティを使ってきます」
 一種異様とも思える芋使いっぷりに、マルチナは見えない地雷の爆発でワイルドハントを打ち据えながら眉をひそめる。
「うーん……この時期のお芋は美味しいけど、お芋は食べるものであって世界征服するものではないと思うんだけどな!」
 言いながら、ヴァンアーブルは影茨の唄で、鼠のティーポットを締め上げた。攻撃弱化による援軍牽制。黒い茨に乗り物を取り巻かれ、鼠はおや、と首を傾ける。
「これはこれは。思ったより面倒、かなぁ……少しフォローしてあげるよ、ワイルドハント」
 ティーポットがふわりと浮き上がった。ワイルドハントの頭上で傾けられた注ぎ口から、黄金色の糖蜜がしたたり落ち、癒しと耐性を注いでいく。
「感謝します、オネイロスのお方。私のお芋も極上の甘露を浴びて喜んでいます!」
「いいから早くヤっちゃってよ。キミの働きには期待してるんだよぉ?」
「お任せください!」
 ワイルドハントは声を張り上げ、弱体化のほとんどを糖蜜の加護によって退けながら、両腕を掲げる。蔓を納めて通常状態に戻った二種の芋が、今度は二重三重の光の残像を帯びたかと思えば、ワイルドハントはデジルめがけて肉薄した。大仰に芋を掲げ、強烈に打ち下ろすシンプルな打撃攻撃。
 しかし硬質化した両芋を受け止めたのは、草臥れた白衣の男。
「肉を切らせて骨を断つなんて贅沢は言いません」
 漆は衝撃を出来うる限り逃がし、即座に撲刀【重】を翻した。
「骨を断たせて肉を削ぐ。今の俺にはそれで十分です」
 後方へ退こうとしたワイルドハントを、空の霊力を帯びた刃が襲う。傷を斬り広げられ、ワイルドハントは小さく苦痛の呻きを漏らした。
「その程度の守護でどうにかなると思う?」
 それを逃さずデジルが拳を叩き込むと、音速を超える衝撃に、付与されたばかりの糖蜜の加護の半分が吹き飛ばされた。
「人の姿の真似をするならちゃんと断っておかなきゃね。そうしておかないと大変なことになるんだからね!」
 そんな風にワイルドハントを叱責してやりながらも、グラビティを中和するエネルギー光弾をティーポットめがけて撃ち込む蓮華。援軍への牽制も怠りない。
「……やっぱり、面倒だ。少し本気を出さなくてはねぇ」
 鼠は眠たげな目を剣呑に細めて呟いた。

●紅茶の捕縛力と芋の打撃力
 デジルは威力と命中を備えた魔術と格闘で、天音は火力に特化した打撃をメインに、ワイルドハントを攻撃していく。マルチナはひたすらに敵の弱体化を狙い、ハウスィは行動阻害に従事、漆も行動阻害に増殖も積極的に交えていく。レンは御業の大蝦蟇を鎧となし、或いは梵字輝く光の盾を具現化し、そつなく仲間を守護していく。
 皆がワイルドハントを集中攻撃する傍ら、蓮華とヴァンアーブルによって攻撃力を削ぎ落された鼠は、ワイルドハントのフォローをメインに据えた。鼠の補助を得たワイルドハントは、両手の芋によって猛威を振るう。蔓で防御を破った上で、強烈な打撃での追い討ち。シンプルであるからこそ、一撃で陣営を崩しかねない脅威的な火力を叩き出してくる。
 危うい場面もいささかあれど、ケルベロス達は臨機応変に対応し、なんとか戦線を維持し続けた。
「はぁっ……はぁっ……なかなかやりますね……!」
 まるでスポーツでも楽しんでいるかのように肩で息をつくと、ワイルドハントは不意に構えを解き、目を伏せた。どこからともなく吹き込むのは、土と緑と水の香りをふんだんに含んだ、日差し煌めく爽やかな風。ワイルドハントの傷は見る間に癒え、首にかけた手ぬぐいが精悍にはためく。
「芋で攻撃して、畑の力で回復とは……。ワイルドハントだというのに空気を読んで下さい。キャラがだだ被りではありませんか」
 マルチナは憤然とぼやきながら、空から芋の雨を降らせた。マルチナお手製、食べると元気になる芋が前衛に降り注ぐ。
「あら。そんなに似ています? ごめんあそばせ。……とは言っても私、貴女ほど野暮ったくはないと思いますけどねぇッ」
 糖蜜と風の治癒を得て元気一杯、ステップを踏むように攻撃をいなしながら嘲笑うワイルドハント。野暮ったいか否かはさておき、かなりいただけない性格の持ち主であるのは間違いない。
「欠落を他人のそれを奪い満たそうとする、貴様達の本質は変わりようがないようだ。想像力を用いての顕現も、他者の姿を借りてが精々とはな」
 涼やかな音色の氷結の螺旋を放ちながら、レンは冷淡に言い放つ。
「しかも王子とやらの手駒として唯々諾々としているとは笑止也。……いや、そういう存在として在る貴様に言っても詮無きことか。哀れな」
「……ふふふ。フフフフフッ。貴方ムカつきますねぇっ」
「煽られないでよ、そいつは後回し。今は前の邪魔なのから始末するよぉ」
 鼠がワイルドハントを制すると同時、ティーポットから飴色の液体が湯気を立てて溢れ出す。液体は宙を浮きながら網状に広がると、素早くハウスィを捕らえて縛り上げた。じゅっ、と熱湯が皮膚を焼く音と、苦痛に満ちた叫び。
 そこにすかさず肉薄するワイルドハント。両手の芋が輝く残像を描きながら打ち下ろされる。強烈な一撃に吹き飛ばされるハウスィ。
 悲鳴じみた仲間達の呼びかけと治癒が殺到する。
「……マルチナさんに……似てても容赦しない……!」
 親友を嘲り仲間を傷つけるワイルドハントへと、冷静な言動の内に静かな激情を爆発させて、天音は両腕のパイルバンカーをジェット噴射して飛翔突撃をかけた。

●芋の敗北
「……面倒だ。あぁこれはもう、完全に厄介だなぁ」
 鼠はぼやいた。ワイルドハントを生かさねばならない、けれど後手に回り過ぎては勝機を失う。にも関わらずケルベロスはやけに固いししぶとい。攻撃か治癒か、一瞬一瞬の判断に気が抜けない。
「――ッ、この程度問題ありません! 私のお芋は無敵です!」
 ワイルドハントは数多の攻撃を浴びながらも、楽天的に声を上げる。とにかく攻撃、ちょっとキツイと思ったら回復強化。それ以外に脳もなければ手段もない。芋への信頼が心の柱。
 しかしドリームイーター達は攻めあぐねた。強烈な攻撃を浴びせても、適切な対処で応じるケルベロス達によって、今一歩のところで逃げられる。
 その上ワイルドハントへの集中攻撃は容赦がない。必然的に治癒の頻度が高まり、結局後手に回っていく……。
「芋を誇るのは良いけれど、そういう荒っぽい使い方をするのは……どうなんだろう?」
 ヴァンアーブルは苦笑しつつ、歌を謡う。影よ影よ、茨となれ――。大切な両芋を茨に侵食され、ワイルドハントが悲鳴を上げる。
「ドリームイーターよ、その定めから解放しよう。今涅槃へ送り届けてやる。――覚悟!」
 レンが結印するや、色鮮やかな紅葉が竜巻となってワイルドハントへ襲い掛かった。葉は両芋に纏わりつき、茨と併せてその力をさらに封じていく。
「集中した弾幕の恐ろしさと嫌らしさ、篤と味わうがいい!!」
 傷つきながらもギリギリで持ちこたえ、全力一斉牽制射撃を解き放つハウスィ。
「ぽかちゃん先生! 特訓の成果をお披露目だ!」
 蓮華の声の言葉に応え、愛らしいウイングキャットが新技を披露する。気魄のこもったキャットリングの一投が、練習の真価を発揮、特殊な軌道を描いてワイルドハントに命中した。
「この創世濁流って巫山戯た作戦を潰させてもらいますよ」
 昏い呪詛を宿した刃で斬り込む漆。戦いのさなか蓄積した呪詛は、いよいよワイルドハントの動きを縫い留めつつある。
「くぅ……っ、お、お芋が……っ、私が、負ける……!?」
 もはや満身創痍の態で、心なしかしおれたような両手の芋に愕然とするワイルドハント。
「幹部でも……絶対邪魔はさせないから……!」
 畑の風が吹くより早く、ティーポットが治癒に駆け付けんと動くより早く、大きく踏み込む天音。
「私が……全ての恨みを晴らす……地獄の……怨嗟の声を聞け……!」
 デウスエクスの犠牲者たちの憎しみの炎で、右脚を無数の刃に変えて叩き込む。地獄の炎に染み込んだ怨嗟が、ワイルドハントを激しく斬り裂いた。
「なんとかストリームはさせられないわ。その姿なら尚更ね」
 続けざま、デジルは格闘術で巧みに攻め込む。ワイルドハントは素早く身を翻すが、それは罠。
「避けられた、なんて思った? 魂の残滓、刹那の精霊を作り上げなさい」
 かつて喰らった魂の残滓が、敵の背後で女性の如き姿を象り奇襲。強烈な威力に、ワイルドハントが背筋をのけぞらせながら吹き飛ばされる。
 その先に待ち構えるのは、肘から先をドリルのように回転させるマルチナ。
「あなたの敗因は、アレです。えーと、ハウスィさんとか天音さんとか仲間の皆さんがいなかったことです」
 威力を増した一撃が、ワイルドハントの腹を抉り込む。
 ……ポッキン。
 生の芋が真っ二つに割れるような軽快な音と共に、ワイルドハントの体はバラバラに砕け、芋の断面に似た綺麗なクリーム色のモザイクとなって、大地に染み込むように消えていった。
「……ありゃりゃ」
 鼠がしおしおとヒゲを垂らした。
「さ、そそくさと撤退です。風のように去るのですー」
 鼠が動き出す前にマルチナが皆を促し、ケルベロス達は迅速に撤退を開始した。
 消滅したワイルドハントに軽く片合掌を送ったり、敵の追撃に備えたりしながら慌ただしく走り去る一行の耳に、鼠のぼやきが微かに届く。
「こりゃまいったねぇ。……しょーがない、ボクも退散、っと」
 ポポン。
 軽快な音にちらりと振り返ると、急速に元の休耕地へと収束していく景色の中に、ティーポットの鼠の姿は忽然と消えているのだった……。

作者:そらばる 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年11月15日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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