創世濁流撃破作戦~激流の鍵が開かれる

作者:のずみりん

 世界が膨張していく。魔力が満たされていく。
「これがハロウィンの力かぁ……いいね」
 モザイクに覆われた領域の中、染めたような黒髪の少女は愉快そうに笑った。
「この力があれば、ボクのワイルドスペースは世界を覆いつくす。感謝するよ『王子様』。あの『オネイロス』を派遣してくれたことも」
 須藤・梨乃(鍵憑きサキュバス・e02913)の面影を感じさせるワイルドハントは、得た力を確かめるように黒炎を思わせる鎌を握り、包帯に覆われた右手を横顔にあてる。
 激流の鍵は開いた。後は勢いのまま、押し寄せるのみ。
「来なよ、ケルベロス。幾つもワイルドスペースを潰したそうだけど、この『創世濁流』は止められない」

 ハロウィンの余韻も残るなか、リリエ・グレッツェンド(シャドウエルフのヘリオライダー・en0127)の顔は硬い。
「ハロウィンの魔力を集めていたドリームイーター最高戦力……ジグラットゼクスの『王子様』が早速仕掛けてきた。次の一手は『ワイルドスペース』だ」
 地図を指し示すリリエによれば、現在、日本各地に点在するワイルドスペースにハロウィンの魔力が注ぎ込まれ、急激に膨張を開始したのだという。
「このまま膨張を続ければ、近隣のワイルドスペースと衝突……爆発、合体、急膨張を伴いつつ、日本全土が一つのワイルドスペースで覆い尽くされるという予測が出た」
 これまで掴めなかったワイルドスペースの動きをヘリオライダーが予知できている、それほどの異常事態である。このまま手をこまねいていれば、すぐにも日本列島はドリームイーターの手に落ちてしまうだろう。
「ただ吉報もある。隠されていたワイルドスペースを皆が潰してきてくれたおかげで、まだ日本全土がワイルドスペース化するには猶予ができた。ここが残されたチャンスだ、ケルベロス」
 急膨張を開始したワイルドスペースは場所まで判明している。ヘリオンで強襲し、内部に居るワイルドハントを速やかに撃破、ワイルドスペースを破壊する。創世濁流を阻止するには、このワンチャンスしかない。

「ワイルドスペースについて簡単に説明しておこう。要はモザイクに覆われた特殊空間だが、ケルベロスの皆なら戦闘に支障はない。足場も感じられるし、別に溺れることもない」
 障害物や地形もないので奇策は取りにくいが、ワイルドハントが優位というわけでない。五分の条件での真っ向勝負だ。
「ワイルドハントの姿は千差万別……皆の暴走によく似たものもいるが、姿だけで内面は別物だ。今回の向かう先の相手は……これだ」
 大鎌を構える銀髪を黒く染めたサキュバスの少女は、予知の中で無邪気そうに笑っていた。攻撃は手にした簒奪者の鎌によるもの、それにサキュバスの特性を生かしたものを使ってくるのだろう。
「それともう一体、ワイルドスペースにはオネイロスというドリームイーターの援軍が『王子様』から派遣されているらしい」
 厄介な事に、オネイロスの能力はリリエたちヘリオライダーにもよくわからないという。予知から調べられたのはトランプの兵士のような姿らしいこと、各ワイルドスペースに一体が派遣されていること、幹部らしき強力な存在がいること。
「幹部級オネイロスは特に重要と思われるワイルドスペースに配備されているらしい……今回向かう所がそうなのかは、すまないがわからない」
 オネイロスは同時に襲ってくるが援軍なので、倒してもワイルドスペースは消滅しない。ワイルドスペースを破壊するには、主たるワイルドハントの撃破が必要だ。
「オネイロスの撃破が今後、有利に働く可能性はあるが……オネイロスとワイルドハント、どちらの撃破を優先するかは先に決めておいた方がいいだろうな」
 特に幹部級とぶつかった場合、どっちつかずの対応は危機に直結する。

「このままでは日本全土が『創世濁流』に飲み込まれる……ジグラットゼクスの『王子様』の能力は恐るべきものだが、まだ抗うことはできる。ピンチだが、そこがチャンスにもなるはずだ」
 それはこれまでのワイルドスペース撃破で掴んだ勝機だ。ここを切り抜ければオネイロス、ジグラットゼクスへと迫るきっかけもつかめるかもしれない。


参加者
アンノ・クラウンフェイス(ちっぽけな謎・e00468)
ラハティエル・マッケンゼン(マドンナリリーの花婿・e01199)
鳥羽・雅貴(ノラ・e01795)
マイア・ヴェルナテッド(咲き乱れる結晶華・e14079)
長船・影光(英雄惨禍・e14306)
アーニャ・シュネールイーツ(時の理を壊す者・e16895)
フェニックス・ホーク(炎の戦乙女・e28191)
嶋田・麻代(レッサーデーモン・e28437)

■リプレイ

●モザイクの世界
 モザイクの地面は不思議な感触だった。
 巨大なドットのような、ともすればレトロゲームの世界にでも迷い込んだような、荒いモザイクが描く戯画的な廃墟。しかし黒革のブーツが踏みしめる足下は、マイア・ヴェルナテッド(咲き乱れる結晶華・e14079)にしっかりと舗装の質感を伝えてくる。
「やれやれ……ワイルドハントには興味無いんだけど放っておくと面倒だし降りかかる火の粉は払わないと……ねぇ?」
「そのお言葉、ソックリ返させてもらいたいなぁ」
「あら、お出迎えとは礼儀正しいこと」
 ねめつけるようなマイアの目線に帰ってくる声と姿。このモザイクに覆われたワイルドスペースの世界で、はっきりとその異様を示す姿は隠しようもない。
「……縁もゆかりもない他ケルベロスの暴走姿と戦うのは、奇妙な感じだな」
 鎌を弄ぶ漆黒のサキュバスの姿は、情報によれば須藤・梨乃(鍵憑きサキュバス・e02913)の暴走時の姿らしいが……ラハティエル・マッケンゼン(マドンナリリーの花婿・e01199)にはあいにくと知らない相手だ。
「フフ、そう思う? このボクの姿と出会ったという事は、キミたちも何処かで縁があったのかもしれないよ、たとえば……」
 思わせぶりな口ぶりで振るわれる鎌が黒炎を描く……が、そこまで。
「番犬の化皮被って、良い趣味してんな。どんなカラクリか知らねーが……!」
 影より刹那。音もなく迫る鳥羽・雅貴(ノラ・e01795)の『閃影』が対話を拒絶する。間一髪、首の皮一枚で受けたワイルドハントの笑顔がひきつる。
「核心に迫る為にも先ずは此処を――この悪夢を、晴らすだけだ」
「あぁ、そう……ツマンない奴だね。オネイロスッ!」
 苛立たしげな呼び声。身構える雅貴へ瞬間、虚空より細長い槍が突き出された。
「そこのモザイクの影だよ! 危ないっ!」
 ワイルドスペースを観察していたフェニックス・ホーク(炎の戦乙女・e28191)の声に咄嗟、彼は踏み込みを一歩ずらす。切り裂くが、互いに浅い。
 同時、アンノ・クラウンフェイス(ちっぽけな謎・e00468)の放った御業の火弾がその敵を引きずり出した。
「これがオネイロス?」
 オネイロス……等身大のトランプに四肢と頭を付けた御伽話の兵隊が、御業の炎弾を大盾で受けている。
「その影に潜んでいたわけか……薄っぺらい野郎だ」
 どうやら敵はワイルドハントの傍に控えていたらしい。
 モザイクとは違う方向に戯画的な姿に、思わず雅貴も声を吐く。その様子が気に入ったのか、上機嫌にワイルドハントはころころ嘲った。
「ボクは好きだよ? 頼むよ、可愛らしいボクの兵隊さん……」
 オネイロスに前を任せ、ワイルドハントの鎌が飛ぶ。敵の能力は未知数、このまま布陣されるのは厄介だ。
「知らないね。悪いけど、今回はキミたちの相手をしてる暇はないんだ」
「だね。作戦通り、片方ずついっちゃおう!」
 ゆえにケルベロスたちは散った。追いかける相手に迷う一瞬でフェニックスのエスケープマインが射線を遮る。
「厄介だが、いやらしいタイプではないな。見た目通り、用心棒の兵隊か」
 突き出した長船・影光(英雄惨禍・e14306)の『晦冥之門』が、煙幕と共に槍を払う。
「というわけだ、キミの相手はボクが務めよう」
 ワイルド版図をかばうオネイロスをアンノの掃射が打ち据え、拘束。それは嶋田・麻代(レッサーデーモン・e28437)への合図でもある。
「支援は任せてください。私達の姿を見繕おうと、中身まで真似る事はできません!」
 弾幕を背負い、虹が飛ぶ。
 アーニャ・シュネールイーツ(時の理を壊す者・e16895)のアームドフォートからの支援砲撃を受け、麻代は急角度でワイルドハントへと飛び蹴りを叩き込んだ。
「結局どんなものか私にはわからないんですけど、アレだ」
 鎌とブーツ、虹と黒焔が激突して火花を散らすなか、短く本音。
「まぁ、切れるなら問題ないでしょ」
「は、ははっ! 面白いねぇ……受けて立ってやるよ!」
 笑い、押し返すワイルドハント。火花は爆発となり、双方を跳ね飛ばした。

●ワイルドハント、オネイロス
「……さすがにコレは幹部じゃない、よね?」
「ぶみー!」
 槍にしがみつく重量級ウイングキャット『まろーだー先輩』に振り回され……もとい、槍を振り回すオネイロスにフェニックスは確信気味の疑問形で首をかしげる。
「!? !!」
「……だな」
 対する影光も頷き、肯定。
 眼力に示される回避は高くない。サーヴァント一人、ケルベロス一人で打倒するには荷が重いが、二人がかりならどうとでもなる。
 まして外見からして、数多いトランプの一枚。ジョーカーでも絵札でもないダイヤの数字カテゴリーだ。
 振り払われたまろーだー先輩を受け止め気力で癒しながら、影光は結論に至る。
「コイツが幹部としたら、さすがに奇策がすぎる」
「ならば悠長に構っている暇はないな、しっかりと討ち滅ぼそう!」
 気を入れるラハティエルに『滅魔刀”レガリア・サクラメントゥム“』が鋭さを増す。三日月の軌道で鎌とぶつかるヴォルフラム鋼合金製の刀身が、地獄と化した翼が炎を燃やして加速する。
「ずいぶんと気楽に言ってくれるね……」
「いいや必死だよ。ここにいない幹部が、フィアンセと戦っているかもしれないと思うとね!」
 流された切っ先がワイルドハントの腿を裂く。傷は浅く……そも、この変幻自在のデウスエクスが人と同じ生態なのかも怪しいが、よろめいた様子を見るに効いているとみてよさそうだ。
「気合はいってるなぁ。けど、そういうの危ないよ……と!」
「!」
 言いつつ、アンノは無造作にライフルを抜き打ち、発砲。ラハティエルを狙うオネイロスが軌道を変えて庇いに入った。
 ダメージは小さいが計算通り、オネイロスへのダメージは徐々に重ねられている……敵も承知のうえでの捨て身かもしれないが。
「あまり時間を食わされるのは戦略的にも面白くないな」
 ラハティエルが見やったワイルドスペース……創世濁流は日本を飲み込まんと膨張を続けている。デウスエクス側からすれば、守れば勝ちだ。
「此処がそこまで重要じゃあない、って可能性もあるがね」
 ともあれ、やることは変わらない。推察に多少の煽りを混ぜ、雅貴の刀がワイルドハントへ銀の三日月を重ねる。包帯ごと肌が裂け、体勢が崩れる。ワイルドハントの舌打ちがモザイクの世界に響いた。
「偽物風情にわざわざ出向くほどの興味なんてなかったんだけど……せっかくだし遊んであげるわ、贋者さん」
「ムカつくよ、そういうの」
 蔦触手と化して絡みつくマイアの結晶花。その締め上げる圧力へ抵抗が増す。決まったかに見えた戦いは再び緊迫感を帯びた。
「既に鍵は開いたんだ……ボクが開き、起こした濁流だ」
「……やればできるじゃないの」
 立ち込める桃色の気配、馴染み深い快楽エネルギーの霧の中で輝くワイルドハントの紅眼に、マイアは懐へ逆手を伸ばす。因縁深い『白銀の選定者』へと。
「ケルベロス! 止められるもんかぁッ!」
「やばっ! 星喰らう影、天を蝕む黒き水泡……!」
 放出はワイルドハントの足元から。増大する気配にオネイロスを突き飛ばしたアンノは咄嗟、『反転世界・【黒天】』を起動する。ここだけは防御用の『白地』が欲しかったが……時間がない!

●濁流は止まるか
 煽情的な肢体が大きく弾む。千切られた極彩の攻性植物を納め、よろめくサキュバスの美女の前には第三の敵が一人。
「……わかってるわよ。あなたが今ここにいられるわけがない」
 なによりそれは彼女も良く知ったグラビティだ。白銀の長剣を構えた様は、傍からは孤独な剣舞に見えるに違いない。
「これだから、ボクらってば厄介!」
 普段は糸のような目つきをかしめ、アンノは皮肉げに吐き捨てる。
 形こそ違ったが、これは『トラウマ』だ。サキュバスにはそれを起こす力がある。
「わかったなら何とかならないの、これー!?」
「そっちは催眠です、フェニックスさん!」
 自分のサーヴァントとぐるぐる追いかけっこを演ずるフェニックスが叫ぶ。何処を敵と定めたのか、オネイロスを包んでしまう極彩色の爆発にアーニャも叫ぶ。
「ここは俺の仕事だ。お前たちはワイルドハントを」
「させると思ってる!?」
 影光へと突っ込んでくるワイルドハント、オネイロス。アーニャ一人では荷が重いが、あいにくと動けるものはまだいる。
 完全ではないが、確実にアンノの迎撃はワイルドハントの必殺の一撃を減じてくれていた。
「ま、アレだ。適材適所って奴で……そぉい!」
「!?」
 そうして切り抜けた麻代が気合の一撃を叩き込むのはデウスエクス……ではない!
「ふぅ……破れかぶれでも切り崩すことぐらいならできる。番犬の力、侮らないでくださいね?」
 貫いた腹部から溢れる心地よい地獄の炎に、麻代は猟奇的な笑顔で言う。ぶち抜いたファミリアロッドから飛び出したカラスのUターン軌道が、ほとばしる黒焔を切り払う。
「破れかぶれじゃないでしょ! おかしいよ、キミって奴は――」
 ワイルドハントの余裕は凍り付いた。比喩的な意味で、またアーニャにとっては物理現象として。
「テロス・クロノス……時よ、凍れ」
 発動からの数秒間、凍れる時の中を泳ぐ彼女を見られるものはいない。ケルベロスの仲間たちにさえ、認識できるのは発動と残された結果のみ。
「熱っつ!? あ、大丈夫!?」
 影光からの癒しの花弁を受けたフェニックスが目にしたのは爆発。
 使い切った兵装を捨て、肌を火照らせたアーニャの姿に影光は反撃の結果を悟った。
「切り札は出しきったか? ならば濁流に鍵をかけ直す」
 一度、コートの懐を握り、彼は言い放つ。あるべきものはあるべき場所へ。血に塗れた己が英雄と成り得ぬよう、いやそれ以上に、この濁流は世界に放たれてはならないものだ。
「あいにくとボクは、往生際が悪くてね……!」
「承知の上だ。決着をつけるとしよう」
 死神の黒焔に向かい立つのは、ラハティエルの地獄と化した烈火の翼。身は傷つけど、両手が支える千年王国の秘蹟は燦然と輝いていた。

●二兎を追うもの、二兎を討てるか?
 赤と黒、二つの炎がぶつかり合い混ざり合う。激突からの鍔迫り合い、脇から仕掛けようとするオネイロスに即座に身を引いて旋刃脚。
 地獄を帯びた足刀がオネイロスのカードの身体を深く裂く。
「ちっ……堂々とした割に足癖の悪いヤツ!」
「一騎打ちに割り込む方が無作法だろうさ!」
 文句をつけるワイルドハントに言ってのけるラハティエル。アンノの牽制があっても、一対一でオネイロスを封じるのは難しい。
 デウスエクスの連携を崩すべく、アーニャとフェニックスの砲撃が戦場を再び乱す。
「ワイルドハントを倒せば激流は止められます、が……」
「オネイロスのダメージも溜まってきてる、そろそろ片づけちゃおう!」
 今のオネイロスは二羽目の兎ではない、むしろワイルドハントを確実に仕留めるため……将を射つためにまず射貫くべき前座だ。
「同感だ。こう何度も邪魔されるのも業腹だしな」
 いまなら勝機十分。爆風を隠れ蓑に雅貴は身を低く跳躍した。
「もはやカードは伏せさせん。叶わぬ夢として、潰えな」
 無造作に振るわれる影からの刃。
「ッ!」
「おぉ、耐えやがりますか。ならアレだ」
 半身を裂かれながらも突っ込もうとするオネイロスに麻代は刀を置くように振るう。
「っと、邪魔はさせないよ」
「っ……しょせん、兵士は兵士か」
 アンノの打ち込む轟竜砲にワイルドハントは踏み込まず、オネイロスの身体が両断される。不利でもあり、そこまでする義理もないというところだろう。
 それでも、オネイロスは確かに仕事をした。
「油断したわけじゃあないんですけどね……」
「一種の執念だな……後は任せろ」
 脇腹を貫く槍に膝をつく麻代。庇い立つ影光が星辰の結界を再構築する前、再びケルベロスたちの刃がワイルドハントを捕らえつつあった。
「曲がりなりにもわたしを捉えてたのだもの、少しは本気を出そうかしら」
 マイアの静かな気迫が催眠の魔眼を打ち破る。幾重にも張られた結界と『まろーだー先輩』の起こす清浄な羽ばたきの空気には、もはやサキュバスの魔力も通用しない。
 古の縁敵より託された白銀の長剣が快楽の霧を断ち、そのエネルギーを吸い上げるように集中させる。
「我が力の源泉、悦楽の力を今解き放たん……甘美なる災い」
 突き付けらる切先よりワイルドハントへ『Sensual disaster』が炸裂する。
「な、あっ……ぁぁんっ……!」
「ん……少々浅かったかしら?」
 それは同族の姿を奪った彼女なりの意地だったのかもしれない。場に放出された快楽エネルギーの圧縮による爆発、凌駕すら許さぬ甘美な死の快楽をワイルドハントは耐えた。
 傷口から、影から、暴走さながらにほとばしる黒いトラウマの焔がマイアたちを跳ねのける。
「まだ……止まらないよ……濁流は……!」
「ならばその激流、燃やしつくすまで!」
 その凶状を迎え撃ったのはラハティエル。ブレイズキャリバーの地獄をもって、彼は正面から黒焔へ挑む。
「我が鮮朱の炎こそ、殲滅の焔」
 地獄とかした二枚の翼が大きく開き、灼熱劫火を放射する。ラハティエルは溢れる超高熱エネルギーの両翼を、ワイルドハントへと包み込むように集中させていく。
「揺らぐとも消えないその劫火は……地獄の中でも、燃え続ける!」
「ボクは……ボクの領域が……っ」
 しばしの拮抗、やがて圧倒へ。鮮朱の輝きは黒焔を押し切り、その中心までを諸共に飲み込んでいった。

「濁流は……止められたか」
「借りたものは返してもらったよ」
 膨張から収縮、消滅へ。主と共に消えゆくワイルドスペースを確認して息をついた影光に頷き、アンノは先に消えたワイルドハントへと言葉を投げた。
「この調子で切り抜けられればいいのだが……」
 ラハティエルは呟く。ここは食い止めたが、まだドリームイーターたち、そして『王子様』との戦いは終わったわけではない。
 未来の約束のため、傷ついた足で彼は、ケルベロスたちは、戦場跡より立ち上がった。

作者:のずみりん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年11月15日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。