創世濁流撃破作戦~北限を越えるプルメリア

作者:ほむらもやし

●開花する異変
 山中にある谷間を埋め尽くすモザイクはまるで霧のようで、谷の中心に向かうにつれて密度を増しているように見えた。それは沼地の泥に身体を埋めてしまったと錯覚するほどだ。これ程の量のモザイクが集まるとはにわかには信じがたい出来事だった。
 全身に漲ってくるハロウィンの魔力を感じながらワイルドハントは澄んだ声で吠えた。
 山肌で反射する声がこだまして奇妙にくぐもったように繰り返す。
 これほどの力が自分の思い通りにできるなら、世界を覆い尽くす濁流だって作り出せる。
 が、脳裏に浮かぶのは、いつも邪魔する者の存在。
 ケルベロスとやらが、いくつものワイルドスペースを破壊している話は伝え聞いている。
「でも、今のぼくに怖いものなんて無いよ」
 そう呟いてワイルドハントは首筋に赤い注射を射すと苦しげでいてかつ恍惚とした表情で樹状の身体を震わせてクリーム色のつぼみを開花させる。
 そうだよ。ぼくはひとりぼっちなんかじゃない。
 あの『オネイロス』を増援として派遣してくれた『王子様』の為にも、必ず、この『創世濁流』作戦を成功させてやる。

●空気を読まない依頼
「昨夜はお楽しみのようでしたね——と言ってあげたかったけれど、それどころでは無くなった」
 用意していたネタを潰された悔しさを滲ませつつも、ケンジ・サルヴァトーレ(シャドウエルフのヘリオライダー・en0076)は、真面目な顔で緊急事態を告げる。
「ドリームイーター最高戦力であるジグラットゼクス、通称、『王子様』が、六本木で回収したハロウィンの魔力を使って、日本全土をワイルドスペースで覆い尽くす『創世濁流』という、恐るべき作戦を開始した」
 日本各地に点在するワイルドスペースの総数を把握できたかは分からない。だが、現時刻で判明しているだけでも相当数、そこにハロウィンの魔力が注入され、今、正に急激な膨張を始めている。
「何も手を打たずに、このまま膨張を許せば、近隣のワイルドスペースと衝突して爆発、融合して更に膨張を続けるだろう。やがてそれは日本列島を覆い尽くし、一つの巨大なワイルドスペースにしてしまうと予想できる」
 だが、これまでの皆の活動の結果、秘匿されていたワイルドスペースを数多く消滅させている。ハロウィンの魔力が莫大とは言っても、すぐに日本全体をワイルドスペース化する力まではない。
「残された時間は少ないけれど、今から急膨張を開始したワイルドスペースに向かい、内部にいるワイルドハントの撃破をお願いしたい」
 戦闘はワイルドスペースと呼ばれる特殊な空間内で行われるが、戦いには支障はない。
 現場となるのは福岡県と佐賀県の県境付近、背振山系のある盆地だ。
 山肌に挟まれた場所を、モザイクが埋め尽くしているような感じとなっている。
 アリル・プルメリア(なんでも屋さん・e00097)の暴走姿をしたワイルドハントの戦闘能力は攻性植物やドリームイーターのそれに似ている。伸ばした枝や根で相手を捉え毒を注入しつつ取り込もうとしたり、また枝に棘を生やして鞭のように振るったり、身体のあちこちに咲いているプルメリアに似た花から光線を放ったりするようだ。
「1体でも厄介なワイルドハントだけど、今回はオネイロスの援軍が加わるから、厳しい戦いになるだろう」
 オネイロスの援軍の数は1。
 標準的な外見は『トランプの兵士のようなドリームイーター』であるが、詳しい戦闘力は不明。
「ワイルドハントさえ倒せば、ワイルドスペースは消滅する。だから、ワイルドハントを優先するのが、戦術的には正しいと思う。ただ同時に、オネイロスの援軍も撤退するから、両方の撃破は難しくなる」
 オネイロスの援軍を先に倒せば、引き続きワイルドスペースの中でワイルドハントの撃破を狙うことが出来る。
 ただし、ここであなた方が敗北すればワイルドスペースは破壊できない。
 しかも、特に重要と思われるワイルドスペースには、オネイロスの幹部と思われる強力なドリームイーターが護衛として現れる場合もある。幹部は強敵だが、もし中核戦力である彼らを撃破できれば、今後の作戦に良い影響を与えるだろう。
「オネイロスの幹部は、特に戦闘力が高い。だから、幹部と遭遇した場合に、幹部の撃破を狙うのか、ワイルドスペースの破壊を優先するのか、皆の気持ちをひとつにする必要がある。中途半端な作戦、どっちつかず作戦では、為す術もなく蹴散らされてしまうだろう」
 依頼の内容を告げた、ケンジの表情は重い。本来であればハロウィンの余韻を楽しんでいるはずだったのだから。
 ヘリオライダー、そしてケルベロスの仕事は突然ブラックになる場合がある。
「日本全土をワイルドスペースの洪水で覆い尽くすなんて思いもよらなかったよ。創世濁流作戦……絶対に阻止しないといけない」
 辞表も退職届も受け付けない。
 そんな厳しい表情でケンジはヘリオンに向かうのであった。


参加者
リリィエル・クロノワール(夜纏う刃・e00028)
アリル・プルメリア(なんでも屋さん・e00097)
フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)
ミライ・トリカラード(獄彩色鉄鎖・e00193)
レクシア・クーン(咲き誇る姫紫君子蘭・e00448)
七種・徹也(玉鋼・e09487)
久堂・悠月(悠久の光を背負うもの・e19633)
ユリア・ベルンシュタイン(奥様は魔女ときどき剣鬼・e22025)

■リプレイ

●序
 谷間に満ちるモザイクは日に照らされて淡く波打つように揺れているようだった。
 その中に降下する人影が8つ。
(「ボクの偽物! お店のイメージがすっごく悪くなっちゃうじゃないか」)
 降下するとすぐに、アリル・プルメリア(なんでも屋さん・e00097)は、不機嫌そうに唇を尖らせて走り出す。
 控えめな胸、それから背中側にも『本物のアリル』と大きく書いた名札をつけている。彼女がアリルだと言うことは皆知っているので、なぜその様なことをしているか疑問に思ったが、緊迫した雰囲気が、それを尋ねることを躊躇わせる。
「さてさてー、何でも屋ちゃんの為にーお手伝いにきましたよー」
 陽気な声で肩をポンと叩いて来るのは、フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)。
「それにしても、とうとう私は、5度目のワイルドですわねぇー」
 近所のおばちゃんが、まるで掃除の手伝いをするかのように言うので、緊張がほぐれる。
「うん、でも今回ばかりは、……早く倒さなきゃだよ」
「私たちがついていますから、大船に乗ったつもりでいて下さいですの」
 揺れる大きな胸は女性としての自信の表れか、目を細める笑顔には、不思議な頼もしさを感じた。
 さて、敵が居ると目されるは、このワイルドスペースの中央部、ミライ・トリカラード(獄彩色鉄鎖・e00193)は嗅覚に意識を集中して、この土地にはないはずの南国の花の香りを探す。
 いろはにほへどちりぬるを――いろは歌の冒頭にもあるように、季節の色彩と匂いの関連は昔から語られている。匂いの異質さを想定し、着目したことは優れた読みであったが、今回は、日の目を見なかった。
「アリルの姿で好き勝手はさせない、必ず撃破する!」
「ありがとう! お願いするよ」
 久堂・悠月(悠久の光を背負うもの・e19633)の力強い声に、勇気づけられるアリル。
 だからこそ、万が一にも間違わないように、名札も服に縫い付けた。
 間が抜けているように見える行動も皆を気遣ってのことと分かれば、それを笑う者は居ない。むしろ、そこまでして備える心遣いに応えようと思うのが道理。

●会敵
「来た!」
 ミライの警告が飛び、次いで迫り来るトランプ兵の繰り出した打撃を、前に跳び出た、七種・徹也(玉鋼・e09487)が弾き飛ばした。直後、敵はカードのような身体から伸びた細い足を踏み込んで踏みとどまる。
 それと同時、一行は素早く散開――経験から来る勘に拠って、戦闘に適した間合いを取った。
「どうして分かった?」
 ミライの警告が無ければ、全く気づかなかった。
 徹也は額に汗を滲ませる。ここは敵地で地の利は敵にある、初撃に気づけるか否かは戦いの流れを大きく左右する。その問いにミライは答え無いが、極限まで嗅覚を研ぎ澄ましていたが故、急接近する異物のつくり出す空気の揺らぎ、のようなものを察知できたのかもしれない。
「偶々かな。想定とはすこし違うけど――で、キミがいくら咲き誇ろうと、ボクらがいる限り実を結ぶことは無いよ! 徒花は徒花のままだよ。そのまま散っちゃえ!」
 トランプ兵と対峙すると同時、直ぐ近くに潜むワイルドハントの存在をも捉えた。
 この敵が手練れであることはすぐに分かった。が、『幸運』にも圧倒的な戦力では無いことも直ぐに分かる。
「見た目が全てじゃないが、どうやらババは引き当てずに済んだよだな」
 つまり、幹部クラスの戦力ではないことは明らかだ。
 ならば、どちらも倒せる可能性も高いと一行は瞬時に理解して必勝の気合いを入れた。
(「何であれ、知り合いの似姿の敵とは、あまり気持ちの良いものではありませんね」)
 レクシア・クーン(咲き誇る姫紫君子蘭・e00448)に、油断や動揺は無かったが、遣りにくさを感じていた。
 トランプ兵のスートがまず見えた。それはクラブ、手にしている得物はメイスに見える。
「さあ、ここからです」
 強い決意を滲ませて、レクシアはヒールドローンを発動する。
 呼び出された無人機の群れが縦横に飛び回り、前に立つ者に加護をもたらす中、それを受けて、無銘の戦槌――ドラゴニックハンマーを砲撃形態と変える、ユリア・ベルンシュタイン(奥様は魔女ときどき剣鬼・e22025)。山々を揺さぶるが如き轟音を響かせて放たれた竜砲弾がドランプ兵を直撃して巨大な火柱を昇らせる。
「こっちの流れね。なら、景気よくいくよ!」
 リリィエル・クロノワール(夜纏う刃・e00028)が繰り出すのは、絶空斬、空の霊力を帯びた斬撃が襲いかかる。それと前後して、トランプ兵の背後側に無数の光点が煌めく。リリィエルは反射的に後ろに跳んだ。
 直後、無数の光の筋が、一気呵成にトランプ兵の殲滅を狙う前衛群に迫り来る。
「――?!」
 物質の時間を凍結する弾丸を生成させる、アリルを庇うように、光の前に踊り出た、ミミックのみっくんが、光の筋に貫かれる。刹那、穴だらけの身体から灰を散らして脱落する、みっくんの姿に哀愁を感じながらも、アリルは作り上げた時空凍結弾を撃ち放った。
 命中した弾丸が爆ぜると同時、トランプ兵の身体は白い霜に覆われる。機を同じくして、フラッタリーは白い繊手の中に地獄の炎の火種を握りしめると、一人ワイルドハントの方に向かう。
「あまり好きに動かれるのもこまりますわねぇー、何でも屋ちゃんのそっくりさん……」
 さらに力を注ぎ込み、封炎を得物に宿した一撃を叩き付ける。直後花火の如き鮮やかな爆炎が広がる様が、開眼した金色の瞳に映った。
 流星の輝きを帯びた悠月の蹴りがトランプ兵を打ち据える。まるで段ボールの出来た看板のように直角に折れ曲がる身体は、予測していたと言わんばかりの表情が浮かべて、元の形に戻る。
 唇の端を噛む悠月を横目にミライは猟犬縛鎖を放つ。精神によって伸びる黒く武骨な鎖は想い人にそうするように、トランプ兵の手足を縛り薄い身体をクシャクシャに締め上げる。
 今だ。
 拘束された細い手から投げ放たれたメイスを、徹也は強引にたたき落とし、続く動きから繰り出したグラビティブレイクがトランプ兵の身体を突き破る。分解寸前のトランプ兵、そこに、追い縋る者には燃え立ち諌め、振り離す者には燃え上り戒めよ。レクシアの放った蒼く小さな地獄の炎弾群が殺到する。
 生命力を食らうが如き光の中でトランプ兵は灰を散らしながら消滅し、果たして、一行の意識は残されたワイルドハントに集中される。

「貴女は、なぜその姿を? ――気分が悪いわ。私に『娘』を、斬らせるなんて」
 私の知っている、ワイルドハントは自身の正体を探る者に、その姿で反撃をしてきた……。でも、今回は違うはずよね。ユリアは心の内につっかえたような感情、親しく、娘に似たアリルの姿をした敵をを斬ることへの、割り切れ無さを感じながら、斬霊刀を振るった。
 非物質化した刃から放たれた一閃は霊体を穢す斬撃となって、ワイルドハントに見えない傷を刻む。
 戦場を覆い尽くす影のような枝が振るわれて紙兵たちが粉砕される度に、フラッタリーは繰り返し、紙兵を撒いていた。
「さすが、いい手際ですわねぇー」
 槍の役割をトランプ兵に任せていたせいか、ワイルドハントの攻撃は広く浅くで、フラッタリーに攻撃が集中しなかったことは僥倖でもあった。
 広く展開されたワイルドハントの枝は藪の如くに見える、その隙間を縫うように、リリィエルは潮の流れの如き流麗な動きで駆け抜け、剣を振るう。
「海賊っていうのは強欲なの。狙った獲物は逃がさない、ってね♪」
 死線を越えるほどに間合いを詰め、繰り出された舞踏剣技は少女の形状をした胴体を斬り裂く。
 次の瞬間、まるで暴徒に辱められた女の如くに、裂かれた布を握りしめて、胸を隠そうとする暴走姿のアリルそのもの、ワイルドハントの姿があった。
「――ッ!」
 当然、それが攻撃を躊躇う動機にはならないが、全く背徳感が無いないと言えば嘘になる。
「やめろー、ボクのはもっと大きい、こんなのぜんぶうそっぱちだよー」
 言い放ち、アリルはオラトリオヴェールを発動する。直後、カーテンのように舞い降りてくる光が仲間たちを包み、溢れる光が物事の細部をぼかして見えにくくする気がした。
「ウチの小さな店長&看板娘の姿とか、名誉毀損だぞ! 偽造問題だ!」
 ローラーダッシュの火花が生み出す炎を纏い、悠月が繰り出す蹴撃が当たると同時、ワイルドハントの身体は橙色の炎に包まれる。煌めく光の中で咲き誇る花は瞬く間に灰と変わり、左右に金の髪を乱して熱から逃れようと藻掻く様は火刑に処された無実の魔女の如くにも見えた。

 戦いは終始ケルベロス側が優勢で、序盤か戦いの主導権を握っていた。
 ワイルドハントはケルベロスの攻撃に備え、幾重にも策を巡らせていた。が、戦闘開始時の一撃を阻まれたことで、作戦は機能不全に陥っていた。
「見た目を似せただけの偽物なんかには惑わされないよ!」
 ミライの構えるナイフが燃え盛る炎に照らされて橙色に輝く、刀刃に映されるのはワイルドハントが記憶の奥底にしまい込んでいたトラウマだ。――直後、炎に包まれた半身が激しく揺れる。無造作に振るわれ、振り下ろされる枝には無数の棘が現れ、打撃の嵐となって襲い来る。
(「しまった」)
 それは、まず咄嗟に庇い、食い止めようとした、徹也を直撃した。
 かなりの威力。自身に取っては耐えきれる攻撃であったが、悪いことに荒れ狂う攻撃の奔流は前衛群を蹂躙する。
「かはっ!」
 喉の底から競り上がって来る血の塊を吐き出して、アリルは膝を着いた。守ってくれるみっくんは既にいない。もしポジションがクラッシャーのままであれば、大変なことになっていたが、何とか踏みとどまり、気力溜めを発動する。
「よーし、ラッキー、ボクの方はなんとかなりそうだから、どんどんやっちゃって」
「確かに今のは痛かったよね。だからって、私が守りに入ると思ったら大間違いなのね」
 徹也の放った癒やしの炎の輝きが満ちる中、言い放って、再び敵との間合いを詰めるリリィエル。
 潮の流れの如き流麗、かつ激しい動きから繰り出される剣技が、ワイルドハントの枝を次々と切り落とせば、同じく間合いを詰めた、ユリアもまた刀を振るい、残る枝を徹底的に刈り落として行く。
「ふふ、うまく受けて頂戴ね? 首が落ちたら、つまらないもの」
 果たして、ワイルドハントの枝は殆どが斬り落とされて、丸裸とされた。
「いつも金にがめついて! もっと女の子っぽくしやがれ! おっと、間違った。なんでもないぞ、アリルー」
 調子づいたように言い放って、悠月が掲げた二振りのルーンアックスから、繰り出すのはダブルディバイド。交差する二筋の刃が見知った少女の形をした、ワイルドハントを裂き、同時にこれまでに刻まれたバッドステータスを一挙に花咲かせる。
 もはや敵に戦局を覆す力は残されていないだろう。ほぼ勝利が確定的な状況から来る気の緩みが、皆の攻撃を急がせて居るのだろうか、不吉な懸念を抱きつつ、レクシアはアリルに向けて癒やしのオーラを送る。
「うわあ……ボクと同じ顔した子がボコボコに……」
 アリルが言った。すごく複雑な感情が滲みでている。
「嫌な思いをさせて、すみませんねぇー」
 微笑みを崩さないままに、フラッタリーは返しつつ、火種を繊手の中に握りしめる。
「安心しろ、ここからは速攻で片付けてやる。――終わったらでかいケーキでパーティでもやるか?」
 口ではひょうげていて、気丈に振る舞ってはいても、女の子の心は繊細で傷つきやすい。
 年齢を重ねた男の勘で、優しく言い置くと、徹也はワイルドハントの華奢な身体を目がけて、グラビティブレイクを叩き込んだ。
「あ……れ……」
 全ての枝を切り落とされ、小さな胸を隠す腕では、防ぐ暇も無かった。身体に突き刺さるオーラから流れ込んでくるグラビティチェインが破壊の力と変わり、残っていたプルメリアの花弁が四散し、人の皮膚の色をした部分に青紫色の血管が浮かび上がり、そこかしこで破裂して赤いモザイクと散らす。
「どう……して……、ぼ、く、しにたく……」
「ひどい目にあわせちゃってごめんなさいねぇー。もうこんなことはこれっきりですのー」
 そして、フラッタリーは炎を叩き付ける。
 そこでワイルドハントのこの世の記憶は終わる。
 流れる金髪と己の地で赤黒く塗られた半身を、力なく投げ出したワイルドハントは花火の如き鮮やかな業火の中で塵となって消えてゆくのであった。

●戦い終わって
 道案内して貰ったりお店で買ったりが恩。
 集った者たちの縁が、その程度かどうかは人によりけり。
 だが、フラッタリーにとっては、少なくとも、命を賭すに値した。
「いえーい、なんでも屋さんの勝利だよ!」
「はい?」
「はい? じゃないよ、いえーい!!」
 戦いの余韻が覚めないフラッタリーの手を掲げさせると、アリルは「撃破おめでとう」と、ハイタッチをする。
「いぇーい、なんでも屋さん大勝利ー!」
 俺もがんばったよ。という様子で駆け寄ってくる、悠月ともハイタッチを交わす。
 なお、守銭奴とか女の子っぽくなどと言っていたことは覚えているが、今のところは不問として、続けてミライ、リリィエルとも、さらに手を掲げている仲間たちとも、アリルはハイタッチを繰り返す。
「よーし、帰って祝杯だ!」
 ミライの陽気な声に異を唱える者は居なかった。
 穴だらけになっていたミミックのみっくんも、いつの間に元に戻っていて、心配は無さそうだ。
 谷間を埋め尽くしていたモザイクは殆ど消え去っており、もはやワイルドスペースの機能は果たさないと思われる。
 他の地域は成功できただろうか、幹部はどうなったのだろうか、気になることは沢山あったが、今は分からない。ともあれ自分たちは成功したし、役割は果たした。だから胸を張って帰ろう。
「しかし、流石なのね」
「そうかしら、でも、あなたもお強いのよね」
 リリィエルが剣のことを言っていると、ユリアはすぐに気がついて、穏やかに言葉を返した。
 剣の道は際限の無い道だ。
 僅かでも修行を怠れば、その差は果てしないものとなってしまう厳しい道でもあるが、好敵手の存在はその道を楽しい道のりに変えてくれる。
 見上げれば、無限に続くような青い空が広がっている。

作者:ほむらもやし 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年11月15日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 0
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