創世濁流撃破作戦~フェアウェル・マイセルフ

作者:鹿崎シーカー

 乾いた風が荒野を駆ける。砂ぼこりが混ざったそれは、朽ち果てた無数の剣と死体で出来た原を抜け、瓦解した巨大な砦を過ぎていく。
 生きる者無く、ひとつとして草木なく、死体を漁る獣もない。死した大地を覆うのは、血染めじみて真っ赤な曇天。沈黙する古戦場を見守る空は突如渦巻き、丸い口を開いて見せた。巨大な穴から光の柱が噴き出し大地に命中!
「ウゥオオオオオオオオオオオオオオッ!」
 地面に達した光の中から、荒々しい雄叫びが響き渡った。古戦場に突き立つ光の中で吠える影。それは、全身にハリネズミめいて剣を生やした獣人であった。長い髪をたなびかせた獣人は、天に叫ぶ。
「確かに受け取ったぞ、王子様とやら! これが……これがハロゥインの魔力というやつか!」
 凶悪な愉悦を口元に浮かべ、獣人は自分の手に目を落とす。指から伸びた爪が鋭い輝きを増していく。手を力強く握りしめ、獣人は告げる。
「魔力に加え、俺に援軍を渡すとは。……いいだろう。お前の言う通り、この世界を全て濁流に変えてやる! せいぜい己が手を裂かれぬようにすることだ!」
 高笑いが、古戦場の乾いた空気を震わせる。それと同時に、殺伐の大地は強く鳴轟し始めた。


「はいはいちゅうもーく! 忙しいの乗り切ってハロウィン楽しんだ後だけど! またドリームイーター案件ですッ!」
 そう言うと、ジャック・オー・ランタン型の帽子を放り投げた跳鹿・穫はパンプキンパイを口に押し込み慌てて資料を取り出した。
 先のドリームイーターによる大規模作戦を指揮していたジグラットゼクスが一人、『王子様』が、六本木で回収したハロウィンの魔力を使って『創世濁流』なる作戦を開始したとの情報が入った。
 大量の魔力を手にした彼は、現在日本中に点在するワイルドスペースこれを注ぎ込み、急激に膨張させている。このままワイルドスペースの膨張が続けば、近隣のワイルドスペース同士が衝突して爆発、合体して更に膨らみ、最終的に日本全土を一つのワイルドスペースで覆い尽くすとのことだ。
 幸い、これまでのワイルドハント討伐作戦により、隠されていたワイルドスペースの多くを消滅させている為、すぐさま事が起こるということはない。
 皆には至急、急膨張を開始したワイルドスペースに向かい、内部のワイルドハントを撃破してほしいのだ。
 今回のワイルドハントは麻生・剣太郎(ストームバンガード・e02365)が暴走した時の姿を模しており、古戦場のようなワイルドスペースに待機している。全身からハリネズミじみて剣が生えた姿をしていて、これと手足の爪を用いた高速戦闘を得意である他、剣により高い物理防御能力を持つ難敵だ。加えて、王子様から与えられた護衛戦力として『オネイロス』なるドリームイーター達が派遣されているらしい。
 オネイロスはトランプ兵のような姿をしたドリームイーターらしいのだが、詳しいことはわからない。一体のみでの出現らしいが、注意した方がいいだろう。
 ただ、先にワイルドハントを撃破した場合、ワイルドスペースの消滅に伴ってオネイロスは撤退するが、オネイロスにかかり切りになるとワイルドハントと戦う時間が取れない可能性がある。また、特に重要と判断されたワイルドスペースにはオネイロスの幹部と思しき協力な個体が現れる可能性もある。幹部は作戦の中核戦力となるほど強力であるが、撃破できれば今後の作戦が有利に運べるかもしれない。
 ワイルドハントとオネイロスを相手にどう立ち回るのか。それが今回の作戦の肝となる。
「確かに危ない状況ではあるんだけれど、時間が全くないわけじゃない。焦らず、いつも通りに対処して。みんななら出来るさ!」


参加者
アニエス・ジケル(銀青仙花・e01341)
エリオット・シャルトリュー(イカロス・e01740)
御子神・宵一(御先稲荷・e02829)
二藤・樹(不動の仕事人・e03613)
ブリキ・ゴゥ(いじめカッコ悪い・e03862)
ヒメ・シェナンドアー(白刃・e12330)
リカルド・アーヴェント(彷徨いの絶風機人・e22893)
リノン・パナケイア(保健室の先生・e25486)

■リプレイ

 朽ちた古戦場に地鳴りが響く。捨て置かれた骨や錆びた剣が振動するのをチラチラ見つつ、トランプ兵は空を見上げる。渦巻く雲を貫く光の柱。地面に突き立つ魔力の塔で、ワイルドハントは雄叫びを上げた。
「蝕むが良い、我が世界! 満たし、侵せ! ウオオオオオオオッ!」
 戦場を揺るがす地震が強まる。曇天に波紋が広がり、嵐の大海じみてうなる様を眺めながら、トランプ兵はどこからか巨大な羊皮紙と羽ペンを取り出した。上から半ばまで並んだ文字列の一番下にサラサラと走り書きをしたためていく。
「ふむふむ。現状は問題なし。敵影もなし。衝突・融合こそまだなれど時間の問題。万事順調…………おや?」
 書き物の手が止め、トランプ兵士は足元を見た。強まっていた地震が弱まっている。怪訝そうな顔を上げる彼の目に、輪郭ぶれる魔力の柱と胸を押さえ背中を丸めたワイルドハントが飛び込んだ。明らかに様子がおかしい。凍りつく兵士の前で、ワイルドハントは空に吠えた。
「ぐっ、ぐっ……ぐああぁぁぁぁぁああ!」
 絶叫と共に光が弾ける。暴風と化した魔力に紙とペンを奪われ我に返ったトランプ兵は槍を取る。
「んなっ……一体何が! 敵襲!?」
 穂先を突き出しながら素早く哨戒。緊急警戒態勢に入った彼の耳が、後ろから迫る甲高い金属音を捉えた。振り返るトランプ兵の目前に竜巻で出来た飛竜が肉迫!
「おあああああああああああ!」
 飛竜着弾点からエメラルドブルーの竜巻が噴き上がった。屍と廃剣、砂ぼこりを巻き上げるそれに銃口を向けたリカルド・アーヴェント(彷徨いの絶風機人・e22893)は隣のエリオット・シャルトリュー(イカロス・e01740)に問う。
「見えたか?」
「ああ、ハートの6だ」
「フム。対して特殊なカードではない……雑兵ですかね?」
 独鈷杵を手にブリキ・ゴゥ(いじめカッコ悪い・e03862)。瞬間、渦巻いていた竜巻が破裂しトランプ兵が回転しながら飛び出した。ケルベロスより三メートル程の位置に降り立った彼は柳眉を逆立て槍の穂先を突きつけた。
「ヤァヤァそこな下郎共! この地を何処と心得ての狼藉か!」
 臨戦態勢と威圧的な怒声。憤怒に燃える兵隊をよそに、二藤・樹(不動の仕事人・e03613)はヒメ・シェナンドアー(白刃・e12330)と目配せをする。
「この領域は貴様らが踏み入ってはならぬ聖域! 然らば疾く立ち去れい! でなくば今すぐ首を差し出し……」
「ぃよっと」
 軽く跳躍した樹の左腕を機械のフェアリー達がつかまえ、彼を垂直上昇させる。樹はスイッチに親指をあてがい、気の抜けた声を放った。
「はいよー、そんじゃ時間ないんで本番入りまーす。ほれポチッとな」
 兵の前で虹色の爆発が噴き上がる。爆発から飛び出したアニエス・ジケル(銀青仙花・e01341)は青白二色のテレビウムと一緒に特攻、飛び蹴りを繰り出す!
「えぇいっ……!」
「ぬぅッ!?」
 真っ直ぐな一撃を兵は横にした槍で防御。激突と共に後ろに下がる兵の頭上からテレビウムのポチが白い傘で打ちつけに行く。トランプ兵は両腕に力を込めてアニエスを押しのけ傘打撃を槍の先で払い胴を突いた。吹き飛ばされたポチを狐型折り紙が受け止める。後方、御子神・宵一(御先稲荷・e02829)の大鎧の袖から狐型折り紙が複数体出現し、走るヒメ、エリオットと並走! 走るエリオットの爪先に蒼い炎が灯る。
「青炎の地獄鳥よ、我が敵をその地に縛れ!」
 直後エリオットが燃える足で地面を蹴った。飛翔する蒼炎のモズがトランプ兵めがけて突撃を敢行! 対するトランプ兵は槍を水平に構え真っ向から走る!
「愚か者! そんなものが当たると思うてか! ぬぇいッ!」
 トランプ兵は地面に突き刺し棒高跳びめいて大跳躍! モズを飛び越え槍を頭上で回転させる。宵一が手を伸ばし人差し指を上向け、二人に追随する狐折り紙を兵隊めがけてジャンプさせるもトランプ兵は槍を振り回して撃ち落とした。合わせてヒメがレッグパーツで地を蹴った。浮遊する二機の盾型ドローンから二刀を引き抜きトランプ兵に迫る。
「せいはァッ!」
 突き下ろされる槍の穂先をヒメは半身で回避し懐へ入る。薄い胴体に横薙ぎ一閃! そして足元に来た盾型ドローンを踏んで即座後退。後方回転しながら着地したトランプ兵の刀傷を見つめる樹はスイッチを押す。一直線の傷口が爆発!
「ぐっはぁ!」
「おし、ビンゴー。やったれ」
 のけ反るトランプ兵にブリキの独鈷杵が突き刺さり、サイドに回り込んだリカルドがリボルバーで連続射撃。放たれた弾丸は風の槍と飛竜に代わりブリキをドロップキックで弾いたトランプ兵にぶつかった。急制動をかけ銃を構えたリカルドの半身に衝撃! アーマーが砕けグレーのバイザーに亀裂が走る!
「ぐぉッ……お前、はッ……!」
 バイザー奥で藍色の目が真横を見下ろす。ハリネズミじみて生えた大量の剣。ショルダータックルをしかけたワイルドハントは口元を凶悪に歪めると空いた手をリカルドの腹にぶち込んだ。腹部アーマー貫通!
「がは……!」
「この世界で随分勝手してくれたようだな……礼だッ!」
 ワイルドハントは腹部を貫いた腕を振りリカルドをはがして地面に投げつけた。もう片方の爪を振り下ろした瞬間リカルドは仰向けのまま滑って移動! 口を結ぶワイルドハントの周囲に琥珀色をした子竜の群れが集り、光を放って一斉に爆発。アンバーの爆炎に、リノン・パナケイア(保健室の先生・e25486)は杖を突きつける。先端の宝珠が光線を撃ち爆炎を射抜くがワイルドハントの姿無し!
「!」
 素早く振り向いたリノンの背後、ワイルドハントは鋭い爪を振り上げる。即座に杖で地を突くリノンの足元からスライムが噴き出し爪を身代わり。鎌状の光翼を広げたリノンは再度琥珀竜の群れを呼び出し杖を振る。急降下していく子竜の群れをワイルドハントは爪撃と裏拳、鉄山靠めいた攻撃を駆使して全破壊! 追撃の光線を腕で防御すると、腕に生えた剣が切っ先から凍り始めた。光線を止めぬままリノンは宣告。
「お前の相手は、私が務める」
 リノンが杖持たぬ方の指を動かすと、離れた地面からスライムの槍が複数現れ二人を遠巻きに囲い込む。そうしてできた巨大なスライムの鳥籠を見回し、凍結光線を振り払ったワイルドハントは獰猛に笑った。
「相手? たった一人でか?」
「一人で十分」
 淡々と告げるリノンの杖が真鍮色のシャボンを膨らす。その光景を遠くに見たトランプ兵に大口を開けたブリキが飛びかかる!
「頂きますッ!」
 兵は噛みつきダイブを横っ飛びで回避。死体の山をかじり取る彼の脇腹を突き刺しに行く穂先をエリオットはタックルで逸らした。兵の懐に踏み込んで出されたフックが焼けた刀傷を打つ!
「うごぉッ……」
「あのワイルドハントが心配か!? あいつは絶対に止める! お前を倒してからなッ!」
 エリオットの零距離前蹴りを兵が片手で受け止めた。足裏をつかんで引っ張りジャイアントスイング! コマじみて高速回転するトランプ兵の目が怒りに燃える。
「退かんか……下郎めがぁッ!」
 勢いをつけて投げ飛ばされるエリオット! 彼の軌道上、マシンフェアリーにぶら下がった樹はフェアリーから手を離す。
「やべ。リリースリリース」
 妖精の手が樹を離れ代わりにエリオットをキャッチ。一方槍を構えたトランプ兵は離れた場所に横たわるリカルドとその治療を行う宵一へ猛然と走り出していた。狐型の影をリカルドの腹に巻かせた宵一は警告を飛ばす。
「まずは手負いの貴様からだッ! 休む暇は与えんぞ! 覚悟ッ!」
「……! アニエスさん、援護を」
「はいっ!」
 白い竜翼を広げたアニエスが疾駆するトランプ兵の背後に追随。玩具めいた弓を引き矢を二本一度に放つ。一本にポチが飛び乗り傘を振り回しながら兵の背後に急降下していく。トランプ兵は急制動をかけ前後反転、槍を横薙ぎに振るって二本の矢を撃ち落とした。華麗に着地し傘で仕掛けるポチ!
「プップー!」
「ふんッ!」
 兵は小さな胴を蹴っ飛ばし、ポチの眉間を槍で突く。亀裂走る画面! 死の大地を転がるポチに代わりアニエスは白い傘を突きつける。石突に仕込まれた銃口が火を噴きトランプ兵に砲火を浴びせた。うめき、よろめく彼にヒメが高速で距離を詰めていく。レッグパーツから青い魔力を噴出し高速起動! 踏ん張った兵は槍を回し走る斬撃を防御する。
「おおおおおッ!」
 槍と二刀がすさまじい速度でぶつかり合う。精確に急所を狙う斬撃をいなすトランプ兵は大振りになぎ払った。跳び下がるヒメのあばらが裂かれ血が噴出。兵はそのままリカルドへ突撃していく。ヒメは足から魔力を噴射して跳躍、斬撃に乗せて青く光る木の葉を飛ばした。トランプ兵の頭上を越えた木の葉がリカルドに渦巻き傷口を塞ぐのを見た宵一は起立し柏手を打つ!
「控えよ! そこな死にぞこない諸共我が槍にて射貫いてくれる!」
 駆けこんでくるトランプ兵に、宵一は無言で地面に手を突いた。その刹那、兵の前に昆布じみて半透明な狐の尾が生え行く手を阻む。突き出された槍を受けとめた尾は揺らぎこそすれ貫通はせず! 目を見開く兵の足元を見つめ、樹はスイッチを押した。爆発!
「ぐぬおおああああああ!」
 宙を錐揉み回転しながら飛ぶトランプ兵。ふらつきながらも立ち上がったリカルドはリボルバーの弾倉を閉じ、スートをにらむ。銃口に浮き上がる水色の魔法陣!
「渦巻け叡智、示し導き風よ絶て。吼えよ、絶風の咎凪よ……!」
 魔法陣が回転しながら収束すると同時に引き金を引く。銃声とともにエメラルドブルーの軌跡が描かれトランプ兵の胸を貫通。助走をつけたブリキが全力で跳躍し兵の背中を独鈷杵で貫き、羽交い絞めにする。
「さて、そろそろ前菜を終えねばなりませんね。メインディッシュが待っています!」
「ヌウゥ!」
 頭上で開くブリキの大口。歯噛みをしたトランプ兵はおもむろに槍の先を自分の腹に向け、思い切り突き刺した! 槍は薄い体を貫通しブリキの背中を突き破る!
「うぐッ……!」
「オネイロスの、オネイロスの名に懸けて……貴様らはただ一人として生かしておかんッ! ぬァァッ!」
 槍を抜き、もう一度刺す! 諸共に貫かれたブリキはしかし、トランプ兵の頭に噛みつく。渾身の力を歯に込め、その首を食い千切った! 外れた頭部を丸呑みにし、胴体を縦に引き裂く。枯れた大地に落ちた彼が残った胴を平らげるのを見たエリオットはスライムの鳥籠に向き直る。
「オネイロスは取った……リノンッ!」
 叫ぶ彼の視界の遠くで鮮血が散った。スライムで出来た鳥籠の中空、光翼を広げるリノンの体をワイルドハントの剣の毛皮がズタズタに引き裂いていた。口の端から血を流しながらもリノンは杖を掲げる。鳥籠の天頂部が弾け、解けたスライムの格子が槍めいた先端を以ってワイルドハントの頭上を強襲! ワイルドハントは宙で回りリノンを大地に投げ落とすと高速回転、襲い来るスライムの槍を全て跳ね返す。着地したその横顔に飛ぶ蒼炎のモズ!
「射止めろ地獄鳥ッ!」
 エリオットが叫び炎のモズは杭と化してワイルドハントの腕を貫く。樹はすぐにスイッチを押し杭を爆散させた。片腕が千切れ飛びワイルドハントは咆哮!
「ぐおおおおおおおおおおおおおおッ!」
「わーお。ほんとに本人とは似ても似つかぬワイルド系。俺の知ってるオリジナルは気のいいお兄さんなんだけどなー……んあ?」
 四散した青い炎の一部が弾け車輪じみて回転しながら樹の方へ接近してくる。炎がはがれたそれはアルマジロめいて突撃してくるワイルドハント。背中の剣が大地を埋める屍を削り飛ばしながら加速する!
「あらやだ。積極的」
「樹……!」
 剣の大車輪の真横にヒメが風切って走る。魔力放出、ミサイルが如き速度で距離を詰める彼女の目前、ワイルドハント進行方向に黒い巨影が立ち上がった。杖を握ったリノンは影とワイルドハントをにらみ低くつぶやく。
「……食らえ」
 魔獣の形に変じた影が吠え剣の車輪に組みついた! しかしワイルドハントの回転止まらず、無数の剣が魔獣の影を削りにかかる。杖握る手に力を込める彼の元に駆け寄るアニエス。
「わ、わ! リノンさん、いそぎ、回復します……!」
「私はいい。それより、他のメンバーを」
「え、はいっ! ポチくん!」
「ピプー!」
 慌てて走っていく二人を見送るリノンの影をワイルドハントが突き抜けた。丸めた体を開き残った爪を振り上げる。樹めがけて振り下ろされんとしたその瞬間、跳躍したヒメが胴の前を通過。斬り裂かれたワイルドハントの腹にリカルドの銃弾が突き刺さり、弾痕から飛び出した竜巻の龍ががんじがらめに締め上げた。ワイルドハントは構わず樹めがけてダイブ!
「グルルルァッ!」
 振り下ろされる隻腕の爪! 鋭い爪はカーテンのようになびく炎の壁にぶつかりせき止められた。片翼に炎を燃やすエリオットは合図を飛ばす!
「好きにはさせるか……! アニエス!」
 ワイルドハントの背中を狙い、アニエスが走りながら弓を引く。生えそろった剣と剣の隙間めがけて矢を撃った! 矢は飛び乗ったポチと一直線に空を駆け炎壁に爪を掲げるワイルドハントの背に命中。飛び降りたポチは敵の懐に潜り込みフェンシングめいて傘を突き出す!
「プップー!」
「邪魔だ」
 鳩尾を打たれたワイルドハントがポチを蹴った。そのまま炎壁を蹴って飛び下がる彼の懐にヒメが高速で近づき胸を斬りつける。彼女を横薙ぎの爪で打ち払い着地したワイルドハントは駆け込んだブリキの刺突を隻腕でガードしショートタックル! 厚い胸板をズタズタにされブリキがよろめく。
「すみません! 回復を……!」
 直後、アッパーじみた爪撃がブリキの腹から胸までを裂く! 血飛沫を散らすブリキの前に立ちふさがったエリオットのパンチを肩の剣で受け、腕を振る。腕部の剣がエリオットの胴をえぐり取った。直後、ワイルドハントの周囲が突如爆発し虹色の煙幕を生成。八人の姿を覆い隠した。辺りを見回し、ワイルドハントは喉を鳴らす。
「……どこへ消えた。我が剣の錆にしてやる」
 煙幕の中、かすかな足音。身構え、耳を澄ますワイルドハントは宵一の静かなつぶやきを聞く。
「他人の姿と力を借りて調子に乗ってる小物ですか。麻生さんに失礼ですね……この石の、沈むが如く、沈み臥せ」
 手の甲を打ち合わす音。同時にワイルドハントは胸を押さえ膝をつく。その胸元に、赤く光る亀裂が走り、一気に広がる! 煙幕を揺るがす苦悶の絶叫。煙越しにそれを見ながら、宵一は樹に合図を出した。
「樹」
「はいよー。ほんじゃみんなボロボロだし行きますか。これにて終幕、ポチっとなー」
 ワイルドハントの亀裂が輝き、赤い光が煙を切り裂く。樹がスイッチを押した瞬間、亀裂が爆発。ワイルドハントを爆散させた。

作者:鹿崎シーカー 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年11月15日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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