ここは何処かの城の中の一室であろうか。辺りは薄暗いが、英国様式の調度品や、家具、絵画が飾られているのが分かる。もっとも、その多くはそれぞれがモザイクのように切り刻まれた様に、バラバラとなっている。
その部屋の中央に、うずくまる一つの影があった。赤黒い翼と尻尾がドラゴニアンであろうことは想像できる。
「クク……。これが、ハロウィンの魔力か。すげえ……。力が漲ってくる。
この力があれば、オレ様のワイルドスペースは濁流となり、世界を覆い尽くす事すら可能じゃねえのか……」
そう言って、彼は体をのけぞらせて切れ長の目を見開き、大口を開けて吼える。ギザギザの歯をむき出しにして、髪を振り乱した。
「ああ、そういえば、ケルベロスってやつらが、ワイルドスペースをいくつも潰しているって話もあったなあ……」
右手を顔にあて、やはりクククと笑いながら呟く。
「取るに足んだろ……。『オネイロス』を増援として派遣してくれた『王子様』の期待に応えないとなあ……。
おお……! やってやるぜ! この『創世濁流』作戦を成功させてやるとするか!」
「おおっとお! みんなおった!」
ハロウィンのイベントから帰還したケルベロス達の前に、宮元・絹(レプリカントのヘリオライダー・en0084)が駆け込んできた。彼女もまた、ハロウィンの片付けをしていたらしく、まだその南瓜の帽子を取ってはいなかった。手には依頼から帰った仲間から受け取ったプレゼントもそのままだ。
「緊急事態や!
ドリームイーター最高戦力であるジグラットゼクスの『王子様』がな、六本木で回収したハロウィンの魔力を使って、日本全土をワイルドスペースで覆い尽くす『創世濁流』っちゅう、恐るべき作戦を開始したらしい」
絹の言葉に、顔を見合わせるケルベロス達が、なんだなんだとその場に集まっていく。
「どうやら日本中に点在するワイルドスペースに、ハロウィンの魔力が注ぎ込まれてるらしくて、急激に膨張を開始しているって話や。
このまま膨張を続けたら、近隣のワイルドスペースと衝突して爆発、そんで合体して更に急膨張して、最終的に日本全土を一つのワイルドスペースで覆い尽くされる事になるらしい。
幸い、みんなの活躍で、隠されていたワイルドスペースの多くを消滅することができてるから、ハロウィンの魔力といえ、すぐに日本をワイルドスペース化するまでの力は無い。けど、悠長にも構えてられへん。
みんなには、急膨張を開始したワイルドスペースに向かって、内部に居るワイルドハントの撃破をお願いしたい」
その事を聞き、ケルベロス達はハロウィンで浮かれていた頭をすぐに切り替える。そして、敵の情報を確認する。
「皆にはワイルドスペースの一つに向かってもらう。場所はうちが案内するから、その辺は任せてくれてええで。
そこに一人のワイルドハントがおる。うちも誰の姿をしてるか詳しくは分からんねんけど、どうやら赤黒い翼と尻尾を持ったドラゴニアンのような姿でな、目からは血の涙を流しとる。ページがない表紙だけの本と赤く光るページを浮かせてるらしい。それを使って攻撃してくるで。気をつけてな。
あと、や。ワイルドスペースには『オネイロス』ちゅう組織からの援軍が派遣されているらしい。『トランプの兵士のようなドリームイーター』らしいねんけど、詳細は不明や。援軍はこの一体のみやねんけど、ワイルドハントと同時に戦う事になるので、苦戦は必至や」
絹の話によると、どうやらこの援軍は先にワイルドハントを倒すと、ワイルドスペースの消滅とともに撤退するそうだ。援軍を倒しても、ワイルドハントを倒さない限り、このワイルドスペースは消滅しないということだった。
「あとな、特に重要と思われているワイルドスペースには、どうやらオネイロスの幹部が援軍にくる可能性がある。これは、ほんま何処に来るか分からんねんけど、幹部やったら当然その強さは強力や。幹部を無視して、ワイルドハントを倒してもええ。ただ、この幹部を倒したら、今後の作戦を有利に運ぶことができるチャンスでもある。でも、それには、中途半端な作戦やったら二兎を追うもの一兎も得ずになる。その辺、よう考えてな」
それを聞き、ケルベロスはどうすべきか思案を巡らせた。
「折角ハロウィンやったのに、ごめんな。でも、みんなのおかげで沢山のワイルドスペースをつぶすことが出来た結果や。その皆の活躍を無駄にしないためにも、頑張ってな!」
参加者 | |
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リーズレット・ヴィッセンシャフト(淡空の華・e02234) |
ライゼル・ノアール(仮面ライダーチェイン・e04196) |
空鳴・無月(宵星の蒼・e04245) |
黒住・舞彩(鶏竜拳士・e04871) |
瑞澤・うずまき(ぐるぐるフールフール・e20031) |
スノー・ヴァーミリオン(深窓の令嬢・e24305) |
鍔鳴・奏(あさきゆめみし・e25076) |
ラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869) |
●集まったもふリスト達
「あら? 奏、あなた私が送って差し上げた装備じゃないわね?」
スノー・ヴァーミリオン(深窓の令嬢・e24305)が、鍔鳴・奏(あさきゆめみし・e25076)の姿を見て言う。彼は魔導装甲を装備している。
「あのなあ……。確かに俺は装備何か無いかと言ったぜ。でもな、メイド服はないだろ?」
奏はそう言って、スノーに食って掛かる。
「お似合いだと思いましたのに……。ねえ、霙」
彼女の肩から銀色のオコジョがひょいと顔を出し、また彼女の髪に隠れる。
ケルベロス達は、絹の情報通りの現場に現れていた。目の前にはモザイクの塊。この奥に目的のワイルドハントがいるはずだ。
「……スノーは後でオシオキな。戦闘終わったら逆に着させてやるよ」
奏はそう言ってモザイクに進んでいく。
「リズ姉、大丈夫かな? ボク、ちょっと緊張してきたよ」
瑞澤・うずまき(ぐるぐるフールフール・e20031)が目の前のモザイクを見ながら、リーズレット・ヴィッセンシャフト(淡空の華・e02234)に言う。それを聞いた黒住・舞彩(鶏竜拳士・e04871)が、うずまきに声をかけた。
「大丈夫、中途半端な作戦ではない……筈よ? たぶんきっと。なんてね。
帰ったら宮元にご馳走作ってもらいましょうか。必ず成功させましょ」
舞彩はそう言ってモザイクに入っていく。
「そう! しっかり作戦練ってきたからな! 大丈夫だ!
うちのさにえんの方が、ふわふわのもこもこで可愛いと言う事を証明せねばな!」
リーズレットが言う『さにえん』とは、知人のエルネスト・サニエ(モフモフどらごん・e18224)の事だ。絹の情報から、どうやらこの先のワイルドハントは、エルネストの姿をしていると分かった。
「エルネストへの面識はない、けど、それで手を抜く理由にはならない、し。……勝手に姿を真似られるモヤモヤは、わたしも知ってるから」
空鳴・無月(宵星の蒼・e04245)はそう呟く。彼女は自らの姿を借りたワイルドハントと戦ったことがあるのだ。
「賑やかになってまいりましたね。少々この可愛らしさは緊張感に欠けますが、良いでしょう。
ハロウィンのお祭りの締めに相応しい騒ぎじゃあありませんか」
そう言ったのはラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869)。実を言うと、メンバー全員がファミリアを連れている。ラーヴァは全員のファミリアと、そしてサーヴァント達を眺めて頷いた。
「なんにせよ、ボク達が知るサニーとは違うワイルドハントだ。気を抜く事なく、でも、遠慮せずにいこう」
続いてライゼル・ノアール(仮面ライダーチェイン・e04196)がモザイクに入っていく。そして、ライゼルの後ろにはライドキャリバーの『クラヴィク』が、デブ猫の『シェーヌ』を乗せて続いていったのだった。
●ケルベロス達の作戦
ケルベロス達がモザイクの中に入ると、まるで城の中のような景色が広がっていた。しかし内部はモザイクのように切り取られた空間であり、そこがワイルドスペースである事を認識する。
すると、その城内に響く叫び笑う声。
「ぎゃはははははあぁ!」
その声にぎょっとするケルベロス達は、その声の主を探す。
「あれ……ね」
「ええっ!? さにえんとは似ても似つかないじゃない!?」
冷静に分析する舞彩に、リーズレットが反論する。
「そうね。宮元の言う通り、エルネストとは違うみたい。……そうだ、偽もふ竜とでも呼ぼうかしら。なんて……」
「偽もふ竜……賛成だね」
「ボクもそれが良いと思う。分かりやすくて♪」
舞彩の案に頷くライゼルとうずまき。すると、ケルベロス達の存在に気がついたのか、ワイルドハントが笑い声を止める。
「なんだあ? ケルベロスかあ……。こんな所まで来るとは、ご苦労だなぁ」
そう言って、ニヤリとむき出しのギザギザの歯を見せて笑う。
「おっと、ケルベロスですな? 助太刀いたす!」
すると、ワイルドハントの後ろから、トランプの兵隊が現れ、ワイルドハントと合流する。
「幹部……じゃない。でも……力は、尽くす」
無月が表情を変え、気を引き締める。そして、ゲシュタルトグレイブ『星天鎗アザヤ』を構えた。
「では、皆様。作戦通りに行きますわ……よ!」
ドゥン!!
スノーがドラゴニックハンマーから竜砲弾を打ち放つ。そして、奏がその砲撃に合わせ、ケルベロスチェインをトランプ兵に伸ばす。
「このモードは初めてだけど、勝利に繋ぐ……変身!!」
ライゼルがプリズムチェインに変身し、うずまきと共に最前列で体を張る。
戦闘の火蓋は切って落とされたのだった。
「さて……。偽もふ様は、ちょっと待っていてくださいねえ」
バスターライフルを構えたラーヴァが、ワイルドハントに向かって凍結光線を発射する。ただ、それは牽制だ。
『見えなき鎖よ、汝を束縛せよ』
本命はリーズレットの放つ束縛魔法である。その攻撃で、ワイルドハントの動きが少し鈍る。
『…大地よ。…弾けて、砕けろ』
そして、無月がトランプ兵に対して、地面に突き刺した槍の力をもってその足を挟みこんだ。
ケルベロス達は、一つの作戦を取っていた。
まずは、どちらか片方の敵を押さえ込み、そして、もう一方に集中することだった。
「どれだけ傷つこうとも、ライダーチェインは倒れない!」
ライゼルとうずまきが、その時を信じ、一身に攻撃を受ける。
「やっぱり、さにえんの方が、ふわふわのもこもこだな!」
リーズレットがそう言ってボクスドラゴンの『響』と共に、二人にヒールを施す。
流石にその攻撃力は強く、前を行くライゼルとうずまきは、何とか耐えているという状態であった。
だが、ケルベロス達の眼は、決して曇ることが無かった。
むしろ、何処か余裕がありそうな雰囲気をも放っていた。
「オラァ!」
ワイルドハントの攻撃は、最初のうちは耐えるしかなかった。だが、ケルベロス達はそれに対する防御のグラビティを徐々に追加していく。
サーヴァント達も、その回復に追われていたが、程なく余裕が出てくる。
それは、サーヴァントを含め、バランスよく配置した結果が成果となり、現れたのだ。
ワイルドハントの動きが鈍った時、トランプ兵の動きもかなり鈍っていた。後衛から、その足を止める攻撃を集中させ、正確に自由を奪っていったからだ。
『素敵な知人に術式を教わった秘術…どうせならあなたで試させてね。大丈夫逃げてもかならず当てるわ♪』
スノーの魔力弾が、トランプ兵の体力をかなり奪ったのが分かった。
彼らには、とっておきの秘策があった。今こそ、それを発動させる時だ。
無月の美しい虹をまとう急降下蹴りを放った時、ワイルドハントの動きが、止まる。
トランプ兵は、ラーヴァの付与した氷と、奏の炎。後衛が放った捕縛が絡みつき、かなりの動きが制限され始めていたのだ。
「さて、そろそろ頃合だな?」
奏がファミリアロッドからファミリアを呼び出した。
「架羅、壱。出番だな」
リーズレットも青と薄紫の双子ハムスター呼び出す。そのハムスター達を響の背に乗せる。
響はそのまま上昇し、壱が架羅をパチンコの玉のようにしてぶっ飛ばした。
バババババ!
そのファミリアたちの攻撃をモロに受けるトランプ兵。幾つもの氷が出現し、炎が噴出する。
「メイ、彩雪。姉妹の力、見せる時よ」
舞彩のファミリアであるにわとりのメイと彩雪。メイに比べ、彩雪は少し太っちょで、ぐーたらとしていた。その二匹を見て舞彩ははたと気付く。
「あ、そうだ。今日宮元にお願いするご馳走は、鍋にしましょうか? なんてね」
この子達を鍋にするつもりなのか? 彼女は、二匹を直視する。その意味に気がつくと、二匹は慌て始める。
『我竜転身。一緒にいきましょうか!』
その二匹を融合させ、その足をむんずと掴む舞彩。
「働け!」
どしーん!
大きな音と共に、トランプ兵の真上に落下した大きなにわとりが、大量の炎と氷を撒き散らせながらトランプ兵を消滅させていった。
ケルベロス達の作戦とは、全員が装備したファミリアロッドからのもふもふ攻撃であったのだ。
●偽もふ竜の最後
「くそがああぁあああ!」
その様子を見たワイルドハントが、闇雲に目の前のライゼルに噛み付こうとする。だが彼は、その動き既に見切っていた。
「シェーヌ!」
ライゼルはその攻撃を避けながら、ファミリアのデブ猫を呼び出す。
「もへぁ~」
だが、シェーヌは欠伸をしながら、空中で停止していた。それを問答無用とばかりに、むんずと掴むライゼル。
「も……もへ?」
そして大きく振りかぶる。
「…………せいやー!!!」
すると、勢い良く投げられたシェーヌは、もへあと叫びながらワイルドハントに飛び込んでいった。
「次は、シレンのばん」
無月が『星天鎗アザヤ』に、ネズミのシレンを乗せる。
「チュゥゥ……」
少し不安そうな泣き声を出すシレン。だが、彼女はその声を無視した。
「楽しそうだし、頑張ってくださいね蝙蝠」
「皆のファミリアちゃんに続けっ! ルビーさん! もふもふ攻撃☆」
ラーヴァとうずまきも同じく、自らのファミリアを武器に乗せて振りかぶる。
三匹の泣き声が、城内に響き渡る。
「ぐあああああああああ!」
そしてその攻撃が見事にヒットした時、ワイルドハントが変わりに叫び声を上げた。
「皆でやるファミリア攻撃。良いですわね。さあ、霙。仕上げですわ」
スノーの肩に乗せられたオコジョの霙はやる気満々で、爪を構えた。
『ファミリア!』
奏とリーズレット、舞彩が叫ぶ。
『モフモフ!』
ライゼルと無月。ラーヴァとうずまきが呼応する。
『アターック!』
そしてスノーが放った霙は、ワイルドハントを切り裂き、跡形も無く消滅させたのだった。
ワイルドハントが消滅すると、ワイルドスペースも、合わせて消滅していった。ケルベロス達は、元の場所へと帰ってきたのだ。
「決まったな。もふもふ攻撃!」
「……正直、ここまで効果があるとは思わなかったけどね」
「少し……びっくりした」
リーズレットの声に、ライゼルと無月が頷く。
「あ、思いついたんだけど、宮元にお鍋お願いしようかと思ってるんだけど。皆もどう?」
「寒くなって来ましたしね。ちょうど良いと思います。ええ、楽しみです」
舞彩が言うと、ラーヴァがバケツヘルムから炎をふわりと出現させた。するとその時、奏が叫んだ。
「ああー! モフリストであるこの俺が、もふもふを忘れてたぁ!」
どうやら彼は、もふもふのドラゴニアンをもふるのを思い出したようだった。
「あれはワイルドハントですし、可愛くも無かったですわ。当然、もふもふっぽい所も……。でも確かに……少し、残念ですわね」
スノーもそう言って、残念そうな表情を見せる。
「そうだ! お鍋をするんだったら、サニーも呼んで、もふもふさせてもらうってのはどうかな?」
「あ、それ賛成だ!」
ライゼルの提案に、リーズレットが頷く。どうやら、話は決まったようだ。
こうしてケルベロス達は、同じ目的を目指して帰路についていった。
北風が少し強くなって来たと感じる道中だったが、足取りは軽かった。
暖かい鍋と、もふもふが待っているのだから。
作者:沙羅衝 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年11月15日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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