●静かに牙研ぐ
禍々しい赤色で満たされた空間に、異形が立っていた。
腕と脚、翼に尾。全身を覆い尽くすのは、くすんだ緑色の龍鱗。
太い角は捻れ、歪んだ口元には牙が覗き。唯一、人の名残を残すのは顔の左半分だけ。
しかしそこにも、狂気に満ちた金色の瞳が爛々と光り輝く。
そして半身を支えるべき腹部には揺蕩うは、赤黒い霧状の何か。
それは不定形にも関わらず、幾つもの鋭い牙と長い舌を備えている。
他にも各所に悍ましい口が開いて、その全てが獲物を求めるように蠢く。
――邪悪。
そう言い表すべき怪物は唸りながら、微かに言葉を吐き出す。
「……『オネイロス』ナド、タヨルマデモナイ。ココハ、オレノ、ワイルドスペース。オカシタモノハ、スベテ……オレガ、クライツクス」
踏み込んでくるかもしれない獲物たちを、怪物はじっと、待ち受けている。
●祭りのあと
「皆、大変よ!」
まだハロウィンの余韻に浸るケルベロスたちの元へ、血相変えて来たミィル・ケントニス(採録羊のヘリオライダー・en0134)は、驚くべき予知を告げる。
なんと、六本木で回収されたハロウィンの魔力を元に、ドリームイーター最高戦力であるジグラットゼクスの『王子様』が『創世濁流(ワイルド・マッド・ストリーム)』なる作戦を始めたというのだ。
それは日本全土をワイルドスペースの濁流で押し流すという、とんでもないものらしい。
「各地に点在するワイルドスペースが、注ぎ込まれた魔力で急激な膨張を始めていることも確認できているわ。このままではワイルドスペース同士が衝突して爆発、合体して更に膨らみ、いずれ日本中を飲み込んでしまうでしょう」
幸い、今日までにケルベロスたちがワイルドスペースの多くを消滅させていたことから、作戦の阻止に動くだけの猶予はある。
「すぐにワイルドスペースの一つに向かって、内部にいるはずのワイルドハントを撃破してちょうだい! 創世濁流を止めるには、それしかないわ!」
戦場となるワイルドスペースは特殊な空間だが、戦闘に差し障りはない。
その中で待ち受けるワイルドハントは、餓鬼堂・ラギッド(探求の奇食調理師・e15298)の暴走姿を模している。
「悍ましく力強い全身を駆使して、ワイルドハントは様々な近接格闘戦を仕掛けてくるでしょう。全てを喰らいつくさんばかりの攻撃は破壊的な威力に違いないから、弱化・強化・治癒、使えるものは惜しまず使うのよ。――それから、もう一つ」
大作戦を展開するにあたり、ワイルドスペースには『オネイロス』という組織からの援軍が派遣されているらしいと、ミィルは語る。
「オネイロスの援軍は『トランプの兵士のようなドリームイーター』で……ごめんなさい、詳しいことは分からなかったの。ただ、ワイルドハントとオネイロスの援軍を同時に相手取るのだから、戦いは厳しいものになるでしょう」
また、特に重要と思われるワイルドスペースには、オネイロスの幹部が出張っている可能性もあるという。幹部というからには、作戦の中核を成す強敵に違いない。
「創世濁流を止めるだけなら、オネイロスの援軍は捨て置き、ワイルドハントを集中攻撃するべきでしょうけれど……」
いずれは、オネイロスもケルベロスたちの前に立ちはだかるのだろう。
先々のことを考えるなら、今のうちに叩いて戦力を削ぐ……というのも作戦ではある。
しかしどうするにせよ、戦いに臨む者たちで話し合い、まず意志を統一せねばならないだろう。そうでなければ、オネイロスどころかワイルドハントすら倒せないかもしれない。
「重大な作戦を阻止する機会、敗北で無駄にするわけにはいかないわよね。大変な戦いになると思うけれど、創世濁流を防ぐために頑張りましょう!」
ケルベロスたちを叱咤するようにして、ミィルは語り終えた。
参加者 | |
---|---|
立花・恵(翠の流星・e01060) |
古鐘・るり(安楽椅子の魔女・e01248) |
ラハブ・イルルヤンカシュ(通りすがりの問題児・e05159) |
一津橋・茜(紅蒼ブラストバーン・e13537) |
餓鬼堂・ラギッド(探求の奇食調理師・e15298) |
北條・計都(凶兆の鋼鴉・e28570) |
長谷川・わかな(笑顔花まる・e31807) |
アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762) |
●
――邪悪が襲い来る。
それは奇しくも、己が内に潜む力を暴走させた様と似ている。
故に、餓鬼堂・ラギッド(探求の奇食調理師・e15298)が誰よりも早く最前へと躍り出たのは、当然のことだった。
悍ましくも強靭な下肢から繰り出される蛮行を真っ向から受け止めれば、骨が軋んで視界が揺らぐ。
「っ……ワイルドハント、その姿を真似るとは」
本質を。そこに至る深い絶望と激しい怒りを。
真の『飢え』を知らないままに上っ面だけをなぞるなど。
忌まわしい。今すぐ懐に渦巻く全てを曝け出して、お前を余すところなく喰らってしまいたい。
そんな衝動、湧き立つ嫌悪をぐっと堪え。ラギッドは力の限りに敵を押し返して間合いを取った。
見据える先には唸るワイルドハントと――もう一つ。
大きな銃を担いだ、ダイヤのトランプ兵が佇んでいる。
「あれがオネイロスの援軍……?」
身構えたまま、アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)が確かめるように呟く。
幸か不幸か。どうやら此処に送り込まれたのは幹部級でなく一兵士だったらしい。
「だからって、やることは変わらねーけどな」
38口径の拳銃を抜き、立花・恵(翠の流星・e01060)が不敵な笑みを浮かべた。
「ラギッド、あいつはしばらく預かるぜ」
「頼みます。此方も、すぐに片付けますので」
拳を軽く打ち当て健闘を誓う。銃口は邪悪な怪物へと向けられる。
「可能性、想像力? なんだか知らねーけど、その格好になったってことは、それ相応の覚悟があるってこったな? ……俺らの怒りを買う、覚悟がさ!」
言葉と共に噴き出す恵の闘志は、炎となって撃鉄を起こす。
そして鳴り響く銃声が、戦いの幕開けを告げた。
●
くすんだ緑色の龍鱗を燃え盛る銃弾が貫く。
呻き声が微かに漏れて。身じろぎするワイルドハントに、間断なく飛びかかったのは一津橋・茜(紅蒼ブラストバーン・e13537)。
「最初はオードブルから。メインディッシュは後で頂くのでじっとしておいて下さいね! っと!」
その軽やかな口ぶりとは裏腹に、赤いオーラを纏った茜は直上から紅蓮の渦巻く力で圧し掛かる。ラギッドの名残をとどめる顔が牙を剥き出し、怒りを露わにした。
(「知り合いと似た姿ってのは妙な気分にはなりますが――」)
あれは敵だ。北條・計都(凶兆の鋼鴉・e28570)は搭乗するライドキャリバー・こがらす丸のアクセルを全開にして吹かすと、押さえつけられたままのワイルドハントに突撃をかけた。
猛進する途上でこがらす丸は炎の塊と化し、速度を破壊力へと転化して叩きつける。
――邪悪なる怪物が、冥府の底から引きずり出したような咆哮を上げた。
(「かかった!」)
恵と茜が拳を握る。
怒りを滾らせた敵に正常な判断などできないだろう。あとは近接攻撃しか打てない相手を、ある程度の間合いから誘い続けるだけでいい。
そうしている間にトランプ兵を撃破、敵戦力の殲滅を目指すというのが今回の作戦。
「だから……お前の相手は、こっち」
ワイルドハントを見やるばかりだったトランプ兵に、ラハブ・イルルヤンカシュ(通りすがりの問題児・e05159)が詰め寄る。
彼女の武器はデウスエクスの残滓から作られた三つ首竜。その中心に位置する首が、紅白模様のトランプを黒く塗りつぶさんと槍の如く伸びた。
……が、しかし。トランプ兵は後ずさりながらトリガーを引いて、触れる寸前だった竜を弾き飛ばす。
「ならばッ!」
ラギットが地獄の炎弾を放つが、矢継ぎ早の銃撃がこれも相殺。
さらに続けざま、トランプ兵はワイルドハント目掛けて赤いダイヤ型のエネルギーを撃ち込む。
すると潮が引いていくように、邪悪な唸り声が鎮まってしまった。
「……ヨケイナコトヲ」
治癒されておきながら、ワイルドハントは苦々しい台詞を吐く。
「あのなりで回復役……?」
「だとしたら、余計に早く片付けないと!」
訝しむ古鐘・るり(安楽椅子の魔女・e01248)と合わせて、長谷川・わかな(笑顔花まる・e31807)が手にしていた爆破スイッチを押し込んだ。
辺り一面に満ちる禍々しい赤色を消し飛ばすようにカラフルな爆煙が咲き乱れる。そして巻き起こる風に乗って男が一人、高々と宙に舞う。
その男は片手の人形をしっかりと抱きしめたまま、落下の勢いを使って強襲すると続けて後ろ蹴りを繰り出し。
「此処だっ!」
敵が僅かに退いた瞬間、回し蹴りと共に魔法の矢を放つ。
アンセルムの脚から飛び出した矢は流星のように宙を流れて、トランプ兵に打ち当たると砕け散り、周囲に揺蕩った。
それを払おうと躍起になって、敵の足が止まる。
この隙を見逃してはならない。計都は拳銃サイズに小型化されたバスターライフルで狙いを定め、引き金を引いた。
まず一発。続けて二発、三発。迫る弾丸を、トランプ兵はその場に留まったまま銃床で打ち払う。
「やりますね。ですが、六発同時なら!」
こがらす丸を自走させて再装填。発砲音が一つに重なるほどの瞬く間に、六つの弾丸が飛び出した。
また叩き落とそうにも、今度は距離が縮まりすぎている。トランプ兵の振るう銃は空を切り、弾丸がダイヤマークに次々と命中していく。
最初は肝を冷やしたが――当たらない相手ではない。
倒せない相手では、ない。
「一気に畳み掛けます!」
ラギッドが敵の懐に飛び込み、惨殺ナイフを突き出した。
その刃は惜しくも、仰け反るトランプ兵の鼻先を掠めていく。
(「しかし本命はっ!」)
腕を振り切らずに止めて刃を閃かす。そこに映し出される惨劇の鏡像がトランプ兵を蝕むはず。
けれども。効果を確かめるまで相手を見続けてはいられない。
迫り来る殺気。咄嗟に身を捩るも、ラギッドの身体には深々と牙が突き立てられた。
「……ッ!」
「キサマカラ、クラウ……クライツクス!」
「ラギッド!」
一人では振り払えそうにない様子を見かねて、恵が脚に重力を宿しつつ跳び上がる。
そのまま狙い澄ました蹴りで割り込めば、ラギッドは辛うじて追撃の及ぶ前に難を逃れることができた。
「すぐに回復を!」
わかなが声を上げるも、返ってきたのは無言の静止。
まだ耐えられると言うのだろう。
「わかった! もうちょっとだけ頑張って、ラギッドさん!」
せめてもの励ましを浴びせながら、わかなは一転、攻勢のために爆破スイッチを押し込む。
再び色鮮やかな爆煙が巻き起こり、後衛陣の背中を鼓舞するように煽った。
(「やっぱり、あいつを自由にしておくのはマズい」)
当初の作戦を続けるか否か。僅かな逡巡を爆風と続行の意志で払って、恵は茜と視線を交える。
そして――次の行動へ移ろうとした瞬間、肩に強烈な痛みと熱を感じて屈する。
見上げれば、銃を構えるトランプ兵の姿。
「ちっ……そりゃ、そんなもん構えた奴が回復専任なわけねーよな」
「だとすれば、案外好都合かもしれないわ」
恵の自嘲気味な台詞に、るりが毅然とした声を重ねて指を鳴らす。
すると、少女の上には一振りの槍が喚び出された。
「玩具の銃を相手取るには十分でしょう?」
不遜な態度で言い放てば、槍は一直線に飛んでいく。
さすがに銃床で叩くのは無謀な相手と断じたか、トランプ兵は銃撃を浴びせて軌道を逸らそうと試みた。
だが、その槍は必中の神槍を模したもの。小手先でいなせるほど甘くはない。
槍は銃弾を物ともせずにど真ん中を穿ち貫き、串刺しとなったトランプ兵は防具に包まれた四肢をびくりと震わせる。
「玩具の兵隊如きが――」
「邪魔するな! です!」
続けてアンセルムと茜、二人が理の力を籠めた星型のオーラを蹴り込んで抜ければ。
ラハブは竜首の一つから地獄の炎を吐き出し、トランプ兵の力を吸い上げる。
さらには、ワイルドハントの周囲でライドキャリバーを激しくスピンさせたまま、計都が変形させた戦鎚を向けて竜砲弾を撃ち放つ。
(「これだけかき乱せば!」)
満足に動けまい。計都は小型ライフルに持ち替えると、トランプ兵に照準を合わせ直す。
しかしトリガーを引く直前。こがらす丸が突如唸りを上げて大きく身体を振った。
「――ッ!」
不意の出来事に投げ出される計都。
それが何を意図しての行動だったかは、すぐに理解できた。
いや、させられたと言うべきなのか。
目の前をワイルドハントの尾が過ぎる。ライドキャリバーが拉げて、彼方に吹き飛ばされていく。
一輪は虚しく回るばかりで、もう立ち上がりそうになかった。
●
だが、ケルベロスたちは怯まない。
当初の作戦を維持したまま、戦いを進めていく。
「地獄の業火を、もう一度灼きつけろ!」
恵が叫び、炎を纏った弾丸を撃ち出す。
その一撃がワイルドハントをぶち抜くのに合わせて、茜も再度巨獣のオーラを解き放つ。
「オラァ! 闇鍋の恨み! です!」
一撃目よりも更に重く、深く。押し込める限り押し込んでから飛び退けば、ワイルドハントは怒りに満ちた呻きを上げる。
「……なんです、今のは」
「やだなぁ、ラギッドさんには関係ないです、何も!」
大きな声で適当に誤魔化して、茜はトランプ兵に目を向けた。
看破とまではいかなくとも、此方の攻撃に意図があることはとっくに悟られているのだろう。敵はまたしてもダイヤ型の気を放出して、ワイルドハントの昂ぶりを鎮めた。
しかし。
「そんなことをしている余裕があるのかい?」
トランプ兵の横合いまで踊るように足を運んで、アンセルムはニコリと笑う。
手にはバトンほどの棒。一瞬で伸びたそれを回避しようにも、幾度浴びせた攻撃がトランプ兵から機動力を奪っている。
抉るように如意棒が突き刺さって、ダイヤマークがびりりと破けた。
「みんな! 頑張って!」
攻撃を集中させた甲斐あって、恐らくトランプ兵はあと少しの生命。
わかなはタンバリン片手に戦場を駆けずり回って、仲間たちを必死に励ます。
タンタンシャンシャン忙しない音も、今に限っては味方を奮起させる戦鼓の響き。
「騒がしいのは趣味じゃないのだけれど」
そうも言っていられない。るりはスイッチを押し込んで、賑やかしに何色もの煙を立ち昇らせる。
その中にあっても計都の照準は狂わず。
(「立花さんには負けていられない!」)
ガンスリンガーの誇りを賭して撃ち出されたグラビティ中和弾は、トランプ兵の中心に吸い込まれていく。
一方で、ワイルドハントはラギッドから狙いを変えようとしない。
オネイロスなど知ったことではない、と言わんばかりの態度だ。
「大人しくしていろ。お前は後だ」
爪を伸ばしてくる怪物を何とか凌いで、ラギッドはトランプ兵に地獄をぶちまける。
飛び散る火の粉から得られた生命力は僅かだが、構うことはない。
ダイヤのトランプ兵さえ倒してしまえば。
ケルベロスたちはそれだけ集中して、攻撃を叩き込んでいく。
そして――。
「ん、食い潰してやる」
ラハブの竜が、戦局を決定づける一撃となった。
「魂ごと欠片も残さず喰い尽くす」
その為の下処理とばかりに炎弾を吐きつければ、ついにトランプ兵は灰と散る。
となれば、怒りを鎮められる者はいない。
怪物の暴走は、もう止まらない。
●
「グガアアア!」
雄叫びを上げて荒れ狂うワイルドハントを、ケルベロスたちは掌上に運らす。
「ヒャッハー! 鉛玉をくれてやる! です!」
茜が、両手に携えたガトリングガンから銃撃を雨あられと浴びせて。
「ただ暴れるだけの害獣に……悪たる神意の鉄槌を」
ラハブは全身を地獄の炎で覆い尽くすと、一時悪意の権化となって力の限りに敵を叩き伏せる。
その猛撃が終わるも束の間。
(「ポチっとな」)
るりが見えない爆弾をスイッチ一つで起動させれば。
銃弾ほどの大きさにしていた如意棒を伸ばして、恵が突きを放つ。
渾身の一撃は懐を抉って、ワイルドハントは赤い大地を力なく転がっていく。
「めぐみちゃん、やるぅ!」
「……わかな、まだ気を抜くには早いぜ」
本来の読みでは名を呼んでくれない友人に、恵は苦笑を見せるも。
「だって、もう負ける気はしないでしょ」
わかなは快活に返して、何度目かも分からない爆煙を巻き起こした。
それを浴びながら、アンセルムは軽快なステップを踏んで。
「今更だけど、人の友達の姿を勝手に借りないでほしいな」
もはや言葉など理解できないだろう敵に向かって言うと「どうせなら僕を真似ればよかったのに」と続けた。
そうすればまたあの娘と――なんて台詞は、さすがに喉の奥へと戻して。
「あぁ、姿の選び直しとかはしなくていいよ。すぐに倒してやるから!」
鎖の名を持つ攻性植物を操り、起き上がったばかりの敵からお株を奪うように喰らいつかせる。
悶えるワイルドハントは四肢を振り乱すが、その所業は赤子が捏ねる駄々以下。
何の意味もなく、狙いをつけるのも容易い。
計都が六発の弾丸で撃ち抜けば、敵はいよいよ立つことすらままならなくなってきた。
「止めは任せましたよ、ラギッドさ――」
呼びかける途中で計都は息を呑む。
いつも紳士然とした男は、喋りかけるのも憚るような冷たい雰囲気を纏って、倒れ伏すワイルドハントに近づいていく。
「ググ……クラウ、クライツクス……スベテ、ヲ……」
此処に至って、まだそんな台詞を吐くのか。
ラギッドは足を止めて、冷ややかに自らと似た顔を見下ろす。
あの日の自分も、こんなに無様だったろうか。
(「……いや」)
ラギッドは頭を振った。
その身体からは地獄化した胃袋が、じとりと滲み出てくる。
それはゆっくりと開き、不気味かつ堅牢な歯牙を覗かせて。
獰猛な食欲を解き放つ時を、今か今かと待ちわびている。
「本物の飢餓と怒りを教えてやる。俺の胃袋がお前の墓場だ」
淡々と、しかし絞り出すように告げるラギッド。
そして全ては、その懐へと消えていった。
●
「……思っていたほどスマートには行かなかったが」
拳銃をくるくると回してからホルスターに収め、恵は「結果オーライってとこだな」と仲間を見回した。
こがらす丸以外に著しく負傷した者はいない。
正体不明の援軍が待ち受ける空間でワイルドハントを怒らせるという作戦は半ば博打であったが、その作戦を簡単に覆さなかったことが功を奏した戦いだった。
加えて、援軍が幹部でなく器用貧乏の兵士だったこと。攻守両面に働けるがゆえ、どっちつかずの行動を取り続けたこともあるだろう。
主を失い、真っ赤なワイルドスペースも崩壊を始めている。
「居心地の悪いところだったわ」
るりが淡々と語って『外』に歩み始めたのをきっかけに、ケルベロスたちは消え行く空間を後にする。
その最中。
「まったくふてえ野郎でしたね! ……ところであいつ、料理はできたんでしょうかね?」
「作れたとして、食べたいですか?」
ラギッドの意地悪い返答に、茜はぶんぶんと首を振った。
作者:天枷由良 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年11月15日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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