●
「諸君、私は折りたたみ傘の使い方を知らない。今日は降りそうだからと傘を持って家を出た事も無い。置き傘をした事も無い。何故なら、傘が必要な時、例えばコンビニの傘立てを見れば、そこには私に使われる為の傘が必ずや存在するからだ」
10人程の聴衆を前に、男は演説する様な口調で言い放つ。
と言っても、その身体は羽毛に覆われた異形。明らかに人間では無い。
「私に傘を取られた人間が困る? 否! 彼らは学ぶだろう、どの様な人間がいるか解らないこの世の中で、自分の所有物から目を離す事の愚かしさを。私は傘を取られた人間に社会の厳しさを教え、二度と他者を盲信しない様に学習させてやるのだ。これを善行と言わずしてなんと言おうか!?」
「……ふーむ、言われて見れば」
「そんな気もするな……」
羽毛に覆われた男、ビルシャナの言葉は明らかに屁理屈だが、聴衆は何となくその言葉に納得し始めている。
これこそが、ビルシャナの恐ろしい煽動力なのだ。
「さぁ都合が良い事に、今日は夕方から雨が降るという。お前達も街へ繰り出し、傘を盗むのだ! 平和ボケした人々に、社会の厳しさを教えてやれ!」
●
「今年は夏もそうでしたが、秋になっても雨が多いですね。……今回の事件ですが、悟りを啓き、ビルシャナとなった者の信者がまた悟りを啓き、新たな信者を獲得しようとしている様なのです」
ネズミ算の様にビルシャナが増殖してしまう事を、可能な限り早い段階で止めねばならない。
セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)はそう告げてから、事件の概要を説明する。
「今回のビルシャナは、傘を盗むのは善行であると言う教義の元、信徒を獲得しようとしています」
「人の傘を盗むなんて、悪い事なのパオ!」
エレコ・レムグランデ(小さな小さな子象・e34229)は類似のビルシャナ事件を幾つか解決した実績も持つ。
今回の様な事件が起こる事も、ある程度予測済みだった様だ。
「ビルシャナ化した者の説得は、一般人に対し強く作用します。このまま演説を続けられれば、10人程の聴衆は全て配下にされてしまうでしょう」
ビルシャナの配下となった者は、いずれ悟りを啓き、自身も新たなビルシャナになってしまう危険がある。
「皆さんには、演説をしている傘泥棒のビルシャナを討伐し、聴衆達を正気に戻して頂きたいのです」
まずは説得により演説に対抗し、配下になる事を防ぐのが良いだろう。
成功すれば、いざビルシャナとの戦闘となった時に数的な優位を得られる。
「ただ、先ほども言ったとおりビルシャナは一般人に対して強い説得力を有しています。一般的な正論や常識論では、これに対抗する事は難しいと思われます」
奇妙な屁理屈がまかり通ってしまうのがビルシャナの恐ろしい所だ。インパクトの有る説得で対抗する必要があるだろう。
またもし配下になってしまったとしても、ビルシャナを倒せば救出は可能だ。
もっとも、一般人が身を挺してビルシャナを守る状況となれば、戦いも一筋縄ではいかなくなってしまうだろうが。
「聴衆の10人程は、ビルシャナの教義を熱心に聞いています。否定的な反応を示す人間は既に逃げ去った後ですので」
2人はかなり強めに賛同しており、2人はまだ少し懐疑的、残りの6人はやや賛同しつつあると言った内訳だと言う。
全員に向けて語りかけるも良し、特定の一般人を狙い撃ちで説得するのも良いかも知れない。
トンデモ理論にトンデモ理論で対抗するも良し。或いは根性論、何となく勢いで押す、どの様なパターンでも、ともかく重要なのはインパクトだ。
「場所ですが、資材置き場の様になっている空き地です。聴衆以外の一般人がやってくる危険は無く、視界や足場は良好です」
ビルシャナの配下となった一般人は、弱いながらもケルベロスに対しダメージを与える事が可能となる。しかし何より、倒すと死んでしまうと言うのが厄介な点だろう。
「配下となった一般人の生死は任務の成否には影響しませんが、可能な限り救助をお願いします」
一方、ビルシャナ自体の戦闘力は決して高い訳では無い。逃走を図る事も無い為、討伐の難度はさほど高くは無いだろう。
「ビルシャナとなってしまった者はもう救う事は出来ませんが、新たなビルシャナを生むような連鎖は何としても断ち切らねばなりませんね」
説明を終えると、セリカは強い口調でそう締めくくった。
参加者 | |
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アギト・ディアブロッサ(終極因子・e00269) |
和郁・ゆりあ(揺すり花・e01455) |
新条・あかり(点灯夫・e04291) |
パトリシア・シランス(紅蓮地獄・e10443) |
エディス・ポランスキー(銀鎖・e19178) |
エレコ・レムグランデ(小さな小さな子象・e34229) |
風鈴・羽菜(シャドウエルフの巫術士・e39832) |
鮫洲・紗羅沙(ふわふわ銀狐巫女さん・e40779) |
●
建築会社の所有地なのだろう。
空き地には資材と思しきパイプやら、黒と黄色の三角コーンやらが、一定の秩序を保って積まれている。
普段は余りひとけの無いその場所に、今日ばかりは10程の人影。
制服姿の女子から、背広姿の中年男性まで幅広く、一見してどう言う集まりなのかを推測する事は難しい。
「私は傘を取られた人間に社会の厳しさを教え、二度と他者を盲信しない様に学習させてやるのだ。これを善行と言わずしてなんと言おうか!?」
人の輪の中心には、腕や身体を羽毛に覆われた鳥人の如き異形――ビルシャナ。
その両腕を広げる様にして、高らかに演説をぶっている。
「な、なるほど……?」
「言われて見れば……そうかも?」
見た目だけでなく言っている事も滅茶苦茶なのだが、聴いている人々は何となく納得し、共感を覚え始めている様子すらある。
「さぁ都合が良い事に、今日は夕方から雨が降るという。お前達も街へ繰り出し、傘を」
「社会の厳しさを教えるため、大いに結構……だが足りん」
「な、何だ? 何が足らんと言うのだ?!」
誰もがビルシャナの演説を静聴している所、拡声器片手に割って入ったのはアギト・ディアブロッサ(終極因子・e00269)。
「本数が全くもって足りない。All or nothing!」
これまで聴衆達が疑問を呈したのは、あくまで「そんな事していいの? 悪い事なんじゃないの?」と言う内容だったが、アギトのそれはビルシャナの主張の斜め上を行くものだった。
「その善行を為すのであれば全部盗るか、盗らないかだ。やるならとことんまでやれ!」
「……そ、そんな何本も盗んだら、手が塞がって自分もさせないだろうが」
「忘れるな、己が濡れない為ではなくそれは善行の為だ」
トンデモ理論で対抗しつつも、矛盾があれば逃さず指摘してゆくアギト。
「うっ! そ、それは当然だ! もちろん一本だけ盗まなければならないなんて決まりは無いからな……ははは……中々物わかりの良い信徒だ。うむ、より多くの傘を盗った方がより善行を積めるのは道理だな!」
聴衆の手前、声を荒げる事も出来ず、引き攣った笑いを浮かべながら平静を装うビルシャナ。
「あ、一生友達も恋人も要らないって人の集まりは此処?」
アギトがビルシャナの気を引いている間に、聴衆へやや挑発的な言葉を掛ける新条・あかり(点灯夫・e04291)。
「それはどう言う意味だね!」
頑固そうな中年男性が、語気も強く問いただす。
「だって、『社会の厳しさ』云々言ったって、結局は『自分が一番』『他人を信じるやつは馬鹿』って言いたいんでしょ。そんな人と誰が友達になりたい? 好きになる?」
「……」
「本当に人望がある人は、傘を盗ったりしなくても濡れないんだよ。何故だか分かる?」
顔を見合わせる人々に、あかりは問う。
「誰かが相合傘してくれるからだよ」
「あ、相合傘……!?」
ざわめく聴衆。
誰だって盗んだ傘を独りでさすよりは、異性と相合傘をしたいと思うのが人情だ。
「そもそも、傘立てに傘が置かれるということは雨もだいぶ降っていることになります。それまで雨に濡れながら待つのでしょうか?」
「えっ」
こちらはあくまで疑問を呈する様に尋ねる風鈴・羽菜(シャドウエルフの巫術士・e39832)。教義の根本的な部分に関わる指摘だ。
雨が降る前に出掛けて、雨が降り出し、傘を持った人間が傘立てに傘を入れるのを待つとなると、これは結構気の長い話になってくる。
「わざわざ待つ時間がもったいないかと思います」
「確かに……天気予報で雨だと言っていても、降らない事も当然あるしな……。そうなったら完全に待ちぼうけか」
よしんば雨が降ったとしても、長時間同じ場所で待機していれば目立つし、誰が傘を盗んだのか特定される危険性も高まる。
「最近はあちこちに防犯カメラもあるしな……」
仮に傘を盗ることが善行だとしても、窃盗犯になるリスクを冒してまでやる価値があるのか。
今更の様にそんな事に思い当たった様子の聴衆。
「惑わされるな! 相合傘など二次元やドラマの中にしか存在しない幻だ! それに傘を盗られたくらいで一々通報する人間がいる訳がない! そもそも善行を積まんとする者が、待ち時間が長いだの待ちぼうけだの、その様な些末な事を気にしてはならない!」
異変に気付いたビルシャナが、動揺する一般人を鎮める様に声を上げる。
「そ、それもそうか……労を惜しんで善行なんて積めないよな?」
「俺も17年生きて来て相合傘とかやった事無いし、相合傘なんて幻なんだ!」
ビルシャナの煽動によって、またも揺れ動く聴衆達。
「貴方、何かやましい事があるんでしょう? そうやって自分を正当化しないと、後ろめたい経験があるんでしょう?」
「な、何? 失礼な事を言うな小娘!」
その聴衆達はさておき、ビルシャナ本人へ揺さぶりを掛ける鮫洲・紗羅沙(ふわふわ銀狐巫女さん・e40779)。
「悪い事から逃げたくてしょうがないんでしょう……? その程度の事って自分に言い訳をしたいだけでしょう……? 誰にも見られていないとでも思っていて?」
「し、知った風な口を叩くな! 貴様が私の何を知っていると言うのだ! 我が教義こそ善だ! 善行を積む信徒を罪人に認定する法があるならば、その法こそが悪だ! 迷いや後ろめたさなど、有ろう筈が無い!」
声を荒げて、必死に否定するビルシャナ。
人を導かんとする者が、その心の迷いを暴かれることは致命的。群衆は常に迷い無く決断するリーダーを欲するからだ。
「いい? 盗むに大も小もないのよ! まずね、傘くらいたいしたことないって思わない? ううん、それが違うの。今から解りやすくそれを教えて上げるわ」
再びビルシャナが気を取られているうちに、一般人達へ語り掛ける和郁・ゆりあ(揺すり花・e01455)。
「教えるって、一体……」
「ショートコント。窃盗罪!」
怪訝そうな顔をしつつも、こちらを注目している聴衆の前に進み出るのは、パトリシア・シランス(紅蓮地獄・e10443)、エディス・ポランスキー(銀鎖・e19178)、エレコ・レムグランデ(小さな小さな子象・e34229)の3人。
●
「どうしよう……傘持って来てないのに。でも急がないと約束の時間に遅れちゃう……」
空を見上げ、困り顔でため息をつくエディス。
「彼女がふと傘立てを見ると、そこには何の変哲もない透明のビニール傘が。名前なども書かれていません」
小道具などは存在しない為、ゆりあが状況をナレーション。
「……ビニール傘だし良いわよね。緊急事態だし」
「彼女は後ろめたさを感じつつも、その傘を拝借することに」
傘を差すフリをして、舞台袖へ退出してゆくエディス。
「凄い雨。傘持って来ておいて正解だったわね……って、あれ?」
代わりに登場したパトリシアは、傘立ての中を漁って自分の傘を探す仕草。
「そう、彼女の傘は先ほど持ち去られたビニール傘だったのです」
「誰かに盗られたみたいね……。ちゃんと傘持って来たのに濡れて帰るなんて納得いかないし……私も適当に」
「こうして傘を盗られた彼女もまた、誰かの傘を持って帰る事に」
「……カエル柄だ」
パトリシアもまた、傘を差して退出してゆく。
「~♪」
最後にスキップしながらやってきたのは、エレコ。彼女も傘立ての中から自分の傘を探す仕草をするが……。
「な、無い……我輩の傘が無いのパオ……酷いのパオぉ」
ガクリと膝を突いて泣き崩れるエレコ。
「そう、盗られて無くなっていた傘は、彼女がとても大切にしている宝物の傘だったのです」
「……」
わんわんと号泣するエレコの熱演に、聴衆達は俯いたり視線を逸らしたり、一様にばつが悪そうなリアクションを示す。
ともすれば、自分達が彼女の様な少女を泣かせる張本人になっていたかも知れないのだから。
「やっぱり人の物を盗るのは良く無いわね……返しておきましょ」
と、そこに戻ってきたエディス。
「あら、エレコどうしたの?」
「我輩の大事な傘が、誰かに盗られちゃったのパオぉ……」
「えっと、もしかしてこれ?」
「ううん、違うパオ。かえるさんの傘パオ」
「彼女は自分が盗った傘が友人の大事な傘ではなかったと聞いて、一瞬ホッとしましたが、すぐに気付きます。一度傘を盗った以上、それを元の場所に戻したからと言って、全てが無かった事になるわけでは無いと言う事に」
3人の熱演に負けじと、ナレーションにも熱を篭めるゆりあ。
「もしかしたら、私がこの傘を盗ったから……盗られた人がエレコの傘を盗ってしまったのかも」
「えぇっ!?」
エディスもエレコの隣にへたり込んで、自らの罪を悔いる。
「やっぱり、誰かの思い出の傘だったりしたら寝覚めが悪いし……」
と、そこに戻ってくるパトリシア。
「あっ、それ! 我輩の傘パオ!」
「えっ……あ、そのビニール傘は私の」
「やっぱり……2人ともごめんなさい!」
2人に対して、深々と交互に頭を下げるエディス。
「私がこの傘を盗らなければ、あなたも他の人の傘を盗ろうなんて思わなかったはずよ」
「いえ、私も自分の傘を盗られたからと言って、他の人の傘を盗って良いはずは無かったわ。ごめんなさいエレコ」
「……2人とも、もう二度と誰かの傘を盗ったりしないなら、許してあげるのパオ! エディちゃん、一緒に傘に入るのパオ」
「こうして、些細な出来心が自分の大事な人を、そして時には自分自身を苦しめてしまう事を学んだ3人は、仲良く相合傘をして帰る事にしたのでした。めでたしめでたし」
4人は並んで一礼。
「こういう事よ、解った?」
「女子の相合傘……尊い」
先ほどあかりが触れた相合傘が劇中で再現された事に、思わず涙する聴衆(の一部)。
「貴方達。これでもまだ、一生孤独なまま他人の傘とってドヤ顔してるつもり?」
「いえ、心洗われました。私もいつか相合傘が出来る様な立派な人間になれる様、頑張ろうと思います」
「……頑張って」
彼らの中の相合傘のハードルが異常に高い事を不思議に思いつつも、そこは触れずにエールを送るあかり。
「……あぁ、確かにたかが傘と思っても……持ち主にとってはそうじゃないかも知れないもんな」
どうやら彼女達が伝えたかった事は、聴衆達にも十分に伝わった様だ。
「そうだ、もし妊婦や病人の傘だったりしたら、取り返しがつかない事態にもなりかねん!」
拡声器をビルシャナに取り上げられても、手をメガホン代わりに声を張り上げるアギト。
「いっそ雨に濡れて困っている人がいたら、予備に持っていた折り畳み傘を貸してあげるとか、そう言う善行を積む方が皆さんにとっても良いのではないでしょうか」
そう言いながら羽菜は、ポーチに入ったレインコートを聴衆達に手渡す。
「ビルシャナさんもこれから雨が降ると注意してくださっていますので、雨にぬれる前に家に帰りませんか?」
「有り難う。確かに、善行ってそう言う事だよな」
聴衆達は、皆すっかり憑物が落ちたような晴れやかな表情でその場を後にして行く。
「な、待て! 私の話はまだ終わっては……」
「残念でしたね。自分を偽り、誤魔化しながら人を導く事など出来ません」
去って行く聴衆を呼び止めようとするビルシャナだが、その前に立ち塞がる紗羅沙。
「き、貴様らぁ! 良くも私の布教活動を邪魔してくれたな! いかに慈悲深きと言えどもはや容赦せん!」
信徒に出来そうだった一般人もいなくなり、もはや平静を装う必要も無くなったビルシャナ。本性を現わした様に激昂して喚く。
●
「ぴーぴーとやかましい」
背後からドロップキックを叩き込むアギト。
「がはっ?! この力……貴様ら、まさか」
見舞われたのは魂喰らう降魔の一撃。
「今更気付いても遅いわ。皆、雨が降る前に一気に決めましょ」
「ほ、ほざけ! 貴様らを殺してから新たな信徒をぶはぁっ!」
極限まで高められるゆりあの集中。ビルシャナの胸部付近に小規模な爆発が起こり、燃えた羽が舞い散る。
「こ、小賢しい! 我が力の前にひれ伏せぇい!」
「っ!?」
浄罪の鐘が鳴り響き、ケルベロス達の動きを束の間鈍らせる。
「そうはさせないのパオ!」
花弁状のオーラを舞い散らしながら、ステップを踏むエレコ。仲間達を襲うトラウマを瞬く間に払ってゆく。
「演舞において視線を引き付けることも重要な役割ですよ」
「くっ、おのれ……」
こちら羽菜は純和風の舞踊。鈴の音を響かせながらの舞によってビルシャナの足を止める。
『気を付けて、「声」を奪われないように』
相変わらず表情や声には感情を表わさないあかりだが、つい先日お気に入りの傘を盗まれたばかり。
その恨みを晴らさんとばかりに、宵色の小鳥を相手の耳元で囀らせる。
「ぐあぁっ、馬鹿な……この私が、幾千幾万の信徒を従えるはずの、この私がっ……」
「あなたを導く燈火となりましょう」
幻楼燈火により、パトリシアへビルシャナの動きを予見する力を与える紗羅沙。
「有り難う、これは外さないわ。……燃え上がれ、悲しみを焼き尽くせ」
愛車の赤いライドキャリバーが炎を纏って突進するのに合わせ、リボルバーから炎纏う弾丸を放つパトリシア。
「ごぼぁっ!?」
弾丸はビルシャナの腹部を貫通し、同時にその身体を炎に包む。
「こ、この場は一先ず逃げて捲土重来を……」
「屍竜絶血」
今更の様に逃げ道を探して視線を泳がせるビルシャナだが、その身体にエディスのブラックスライムが食らい付いて捕える。
「ぐあぅっ!? 馬鹿な……こんなはずは!」
「痛みを知りなさい。貴方が他者を信じることが愚かだという思考に至った事には同情するけどね」
「さて、張り切っていこうか。お仕置きタイムだ」
ピコピコハンマーでボタンを押すアギト。
同時に放たれた無数の魔法矢がビルシャナに突き刺さり、その身体を天高く舞い上げてゆく。
「ぐわぁぁぁぁーっ!」
「そういえば、誰にも見られていないと思って? と言いましたけど、とても具体的なお方が、向こうにおりますよ、お会いできると良いですね~?」
手を振りつつ、ビルシャナに告げる紗羅沙。
尚も焼け焦げた羽がヒラヒラと舞い落ちては来たが、ビルシャナはそのまま空中で跡形も無く燃え尽きたのだった。
「それじゃ、俺達も引き揚げるか」
「えぇ。あとは閻魔様に任せましょう」
「一応、全員分の雨具は有りますが」
「濡れないに越した事は無いものね」
気付けば、黒い雨雲がすっかり空を覆っている。
やがて激しい雨になりそうだが、それでも、傘を盗まれて途方に暮れる人の数は、確実に減った事だろう。
ケルベロス達も足早に、帰途へと着いたのだった。
作者:小茄 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年11月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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