創世濁流撃破作戦~日本を覆う影と偽ヒーロー

作者:ハル


 粘液で覆われ、歪な建物が並んだ、常人ならば1分も持たず発狂してしまいそうなワイルドスペースに、彼――峰岸・雅也(ご近所ヒーロー・e13147)の姿を借りたワイルドハントの姿はあった。
「フゥー……」
 瞳の瞳孔は完全に開ききり、一目で理性が飛んでいることが窺える。
「こ、これが……ハロウィンの魔力……くっふははっ……この力さえあったら……俺のワイルドスペースで世界を覆い尽くす事だって……!」
 その第一印象に違わず、言葉の端々には狂気が。金色の右目が、爛々と輝いている。
「……ケ、ケルベロスが、ワ、ワイルドスペースをつくつも破壊しているみたいだけど……も、問題ないな。くくっ、有名な『オネイロス』まで味方につけたんだ……『王子様』の為にも、な。必ず、この『創世濁流』作戦を成功させて……」
 そこまでは、狂いながらも、そのワイルドハントは『王子様』に忠誠を捧げているのだと窺えた。だが――。
「そして、いずれは『王子様』すらも……ひひっ!」
 続く最後の言葉は、そのワイルドハントには、やはり完全に理性が欠けていることを知らしめるのだった。


「皆さん、ハロウィンイベントお疲れ様でした。……それで、少し言いにくいのですが、また緊急事態が発生してしまったようでして……」
 戻ってきたばかりのケルベロス達に、山栄・桔梗(シャドウエルフのヘリオライダー・en0233)が申し訳なさそうに切り出した。
「ハロウィンイベントでも話題に出た、ドリームイーター最高戦力であるジグラットゼクスの『王子様』……なのですが、六本木で回収した魔力を用いて、『創世濁流』という新たな作戦を開始したようなのです」
 創世濁流――それは、日本全土をワイルドスペースで覆い尽くそうという、恐ろしい計画である。
「日本中にワイルドスペースが人知れず点在しているのは、皆さんもご存じの通りだと思います。その空間が、ハロウィンの魔力を注ぎ込まれ、急速に膨張しているのです。このまま膨張を続ければ……近隣のワイルドスペース同士が衝突し、合体。さらなる拡大を誘発し、やがては『創世濁流』が現実のものとなってしまうのです」
 だが、ケルベロス達の必死の活躍により、多くのワイルドスペースが消滅もされている。幸いな事に、すぐにワイルドスペースが日本を覆うことはないだろう。
「皆さんのおかげですね」
 桔梗が言った。数々のワイルドハントに関する依頼をこなしてきたケルベロスの胸に、ほのかな達成感。しかし、喜ぶのは『王子様』の作戦を防いでからだ。
「急膨張したワイルドスペースに直ちに急行し、内部のワイルドハントの撃破をお願いします!」
 桔梗が、深く頭を下げた。
「ワイルドハントは、刃先の折れた日本刀で武装しています。刃先は折れているものの、剣技に錆び付きはないようなので、ご注意を。また、例に漏れずワイルドスペース内は特殊な空間ですが、戦闘に影響はないようです」
 ワイルドハントの瞳に理性はなく、会話はほぼ意味のなさないものとなるだろう。また、右半身には鱗などのドラゴンの特徴が見られるが、特にその特徴を生かした攻撃を仕掛けてくる事はないようだ。
「付け加えて、ワイルドスペースには、『オネイロス』という組織からの援軍が派遣されています。ですが――」
 桔梗は、援軍の詳しい詳細については、情報不足だと語った。力不足で申し訳ない。桔梗はそう謝意を告げながら、先を続ける。
「ただ、分かっていることだけお伝えしておきます。現時点で判明しているのは、援軍が一体のみであること、ワイルドハントと同時に戦う事になる可能性が高い事です」
 敵が2体同時となれば、ワイルドスペース攻略の難易度も当然上がる。
「必ずしも2体共を撃破する必要はなく、先にワイルドハントの撃破までもっていった場合は、ワイルドスペース消滅に伴い、援軍も撤退すると思われます」
 逆に、援軍を先に撃破すれば、ワイルドハントと合わせて2体共を撃破するチャンスがあるという事だ。無論、難易度は大きく高まり、ワイルドスペースを破壊できないかもしれないというリスクも背負うことになる。
「皆さんにまず第一に把握しておいてもらいたいのは、援軍に現れるドリームイーターの力量にも高低があるという事です。重要なワイルドスペースには、幹部級の援軍が送られ、またどこが敵にとって重要なワイルドスペースかを我々が把握できていない厄介な状況です」
 だが、強力な幹部を破壊できれば、今後の対ドリームイーターの戦いで、戦況を有利に運べる可能性はある。
「ワイルドハントを撃破し、ワイルドスペースを破壊するのはもちろんですが、両者を倒しきらんと戦うのか……。幹部と遭遇した際の対応はどうするのかについては、意思統一しておいた方が、私は良いものと考えています」
 通常の援軍はともかく、幹部は強力だ。中途半端な作戦では、一方を撃破する事もままならないと思って欲しい。
「久々に、皆さんにとっては少々厄介な相手……という事になりますね。ですが、創世濁流作戦が成功すれば、日本は……。今までのワイルドスペースの破壊を無駄にしないためにも、なんとかここを乗り切りましょう!」


参加者
星詠・唯覇(星天桜嵐・e00828)
峰岸・雅也(ご近所ヒーロー・e13147)
立花・吹雪(一姫刀閃・e13677)
月詠・宝(サキュバスのウィッチドクター・e16953)
碓氷・影乃(黒猫忍者おねぇちゃんー月影ー・e19174)
天泣・雨弓(女子力は物理攻撃技・e32503)
桔梗谷・楓(オラトリオの二十一歳児・e35187)
マリー・ビクトワール(ちみっこ・e36162)

■リプレイ


「おいおい、本物よりイケメンなんじゃね? でも……こりゃあ頭は悪そうだな」
「仕事が終わったら眼科行っとけ。確かにあいつはアホ面だが、俺よりイケメンって事はないだろうよ」
「……雅也、それ自虐か?」
 日本某所に生まれたワイルドスペースの中で、桔梗谷・楓(オラトリオの二十一歳児・e35187)と峰岸・雅也(ご近所ヒーロー・e13147)が軽口を叩き合う。その眼前には――。
「ひ、ひひっ、ケルベロス、か。お、俺と同じ顔の奴までいやがるじゃねぇか、は、はは!」
「…………」
 狂気じみた笑みを浮かべたワイルドハントと、ハートの模様を浮かべ、杖を携えたトランプ兵の姿。
「……雅也くんの姿で、こんなことを……」
 雅也に寄り添うように立つ碓氷・影乃(黒猫忍者おねぇちゃんー月影ー・e19174)が、虫酸が走るとでも言いたげに、瞳から色を消す。影乃の太陽を穢す、本来の彼とは正反対の有り様に、我慢ができないのだろう。
「本物と比べると、カリスマ性がまったく感じられんやつじゃな!」
「ええ、まったく。本人とは似ても似つかないですね」
 胸を反らし、人差し指を突きだして酷評するマリー・ビクトワール(ちみっこ・e36162)と立花・吹雪(一姫刀閃・e13677)が、それぞれの得物を構える。
 そんな中、『カリスマ性?』『マリー、俺の事をそんな風に思ってたのか!』この状況でも、茶々を入れる落ち着きのない楓と雅也。
「楓くん?」
 だが、天泣・雨弓(女子力は物理攻撃技・e32503)の鶴の一声で楓が黙り、雅也が肩を竦める。
「でも、一緒にこの場に挑めたのが、皆さんで本当に良かったです」
 百戦錬磨の女性である雨弓は、場を落ち着けるだけではなく、皆の気持ちを高ぶらせることも忘れない。それは、【日進月歩】の気の知れた仲間同士だからこそできる事。
「それには同感だ、雨弓。だからこそ、模す対象に雅也を選んだのは失敗だったな」
「く、くくっ、何故?」
 白いのを一撫でしてから立ち上がった月詠・宝(サキュバスのウィッチドクター・e16953)の視線が、薄笑いのワイルドハントを射貫く。その宝の視線に、表情に込められたのは、滾るような嫌悪。
「分からないか? 俺達がここにいる事こそが、その理由だ。皆で共に攻め込む事もできたからな」
 星詠・唯覇(星天桜嵐・e00828)が、煌めきを帯びた飛び蹴りを放つと、ワイルドハントに突き刺さる。
「油断せず行こう!」
 唯覇は皆を振り、気持ちを一つにするように告げた。
「ま、どうにかなるじゃろう」
 答えたのは、程よく気の抜けたマリー。凍結光線が、ワイルドハントのすぐ背後で控える援軍のトランプ兵を打ち抜く。
「彼の姿で……僕の前に現れた事を後悔させてあげる……」
 影乃が、手を翳す。すると、彼女の背後には、幻影の分身が守護するように浮かび上がった。
「策を弄して細工は流々……ってな」
 勝利への道筋を脳裏に思い描きながら、雅也が後衛を鼓舞すると、
「俺はサポートに回るぜ?! レディは俺が身を張って守りたい所だが、仕方ねぇ」
 唯覇、宝、マリーに向け、楓が「頼む!」と視線を向ける。その背後で、カラフルな爆風が花を添えた。
 だが――。
「補助は任せるぞ、援軍殿。……くはっ、『王子様』と……そ、そして俺自身のためにな」
「……任せよ」
 楓のエンチャント付与と同時に、ワイルドハントとトランプ兵も動き出す。
 ワイルドハントの弧を描く斬撃と宝のバールが激しく打ち合わされ、火花を散らした。
「そうそう、言い忘れてたが、日頃の恨みが有る奴はコイツにぶつけとけよ?」
 白いのの、ハート型バリアの援護がありつつも、クラッシャーの高火力に宝は押される。だが、彼は意地悪そうに笑いながら、凍結光線でワイルドハントを牽制する。
 しかし、間髪入れずに、今度はトランプ兵の撒いたトランプが、一斉に前衛に襲い掛かった。
「なるほど、そういう事ですか」
 斬魔刀【絶花】を握りしめた吹雪が、眉根を寄せる。トランプ兵の列攻撃により、彼女の火力補正がブレイクされていた。つまり、トランプ兵は火力特化のワイルドハントの弱点を補うように配置されているのだろう。
「遠距離だからと安心しましたか? この一撃は外しません!」
 しかし、その程度で怯む吹雪でも、【日進月歩】のメンバーでもない。吹雪の霊力で創造された弓矢が、トランプ兵を射貫いて凍結させる。
「頑張りましょう。ね、だいふく」
 雨弓が告げる言葉は、それで十分。主人の意思を汲み、だいふくがカランを攻め立てるワイルドハントにハート光線を。雨弓はトランプ兵に、竜砲弾を浴びせかけた。
 本来の方針ならば、まずはワイルドハントの行動を制限し、それからトランプ兵をゆっくりといたぶる算段。
 しかし――。
「野心はあるが、俺のイメージダウン必至の偽物だから、とっとと消したい所だが……」
 雅也の眼前で、トランプ兵が悠然とモザイクを纏う。その結果、トランプ兵を苛んでいた凍傷が僅か軽減されている。おまけに、火力補正まで。
 ――メディックか!
 ケルベロス達は、一斉に理解するのであった。


「吹雪! わらわに任せるのじゃ!」
「マリーさん、感謝します!」
 全身全霊で振るわれる折れた直刀が、マリーが盾としたチェリーブロッサム・アックスに直撃する。
「くはっ! こ、これが、ハロウィンの魔力……だっ!」
「ぐぬぅ……!」
 重い衝撃に、マリーの表情が苦悶に染まった。
「白いの!」
「だいふく!」
 宝と雨弓が、サーヴァントに命じる。すると、ハート光線と愛の心が、ワイルドハントを侵す。それにより、痺れを覚えたワイルドハントの追撃を、なんとか抑え込んだ。
(戦闘開始から、4分といった所でしょうか)
 吹雪の感じる手応えとしては、まだ五分といった所か。だが、トランプ兵に関しては、ワイルドハントと比べれば戦力的に平凡といった感もある。素の火力のある吹雪が、オーラの弾丸をトランプ兵に食い付かせると、敵が呻きを上げた。
「……ようやく、か。はっ、無様だなー、そこで指銜えて見てな!」
 日本刀に空の霊力を帯びさせ、斬りつけた雅也が、ニヤリと笑う。4分目にして、ようやくワイルドハントの行動をある程度制限できるまでになったからだ。トランプ兵のキュアにより、運悪く氷などの継続ダメージを少々打ち消されたのは誤算ではあるが。
「やったね、雅也くん!」
 動けないワイルドハントに向け、精神を集中させた影乃が爆破を引き起こす。数度目の爆破により、ワイルドハントの火力の低下を望めるか……そう思ったが。
 そこで、もう一つの誤算――。
(よくやった、お前の気合い、見せてもらったぜ?)
 これまでBS付与に貢献してくれた白いのが、ワイルドハントの居合い斬りにより沈められる。
 BSをワイルドハントに集中して付与した事により、トランプ兵のキュアを誘発した。誤算とは、その副産物として、【壊アップ】が大量にワイルドハントに付与されたことによる火力の大幅な強化だ。
「マリー、大丈夫かよ!? 今ヒールするからな!」
 楓が、マリーに緊急手術を施す。ブレイクの効果を持つのは楓だけだが、現状攻撃に向ける余裕はなかった。DFが自己回復の手段を持つため、すぐに沈められる訳ではないが。
「かっ……かはっ……ち、力が溢れるようだ! 援軍殿、き、君はどうかな?」
「……悪くはない」
 合間合間に挟まれるのは、トランプ兵のトランプ攻撃。それにより、エンチャントもある程度無効化されている。最も、【足止め】のおかげで、命中に関しては序盤から大きな進歩を見せていた。
「まだ、勝負はこれからだろ?」
 飄々と、宝が笑う。傷を負った身に、スタンドマイクを振り回すカランの応援が降り注ぐ。
「始めるぜ?」
 予想通り、宝の背にかかる声は、雅也のもの。ならば、宝はワイルドハントに向けた矛先を、トランプ兵に変え――。
「しっかり見てろよ……」
 一気にトランプ兵を葬り去ろうと、視覚を歪ませ隙を突いて攻め込む!
「わらわも続くのじゃ!」
 さらに、ワイルドハントの攻撃が小康状態に陥ったため、これまで仲間を誰よりも庇ってきたマリーが、トランプ兵に魔法光線を放って攻撃に転じる。
「お、俺を……わ、忘れるなよ?」
「安心しろ……忘れてはいない」
 無論、ワイルドハントとて健在だ。一時の痺れから解放されると、折れた刀で緩やかな弧を描き、ケルベロス達に凶刃を振るう。
 それに対抗するのは、唯覇とカラン。カランに刀身が深々と突き刺さり、消失する。唯覇は、これまで幾度も身を張ってくれた相棒のため、
「その怒りにひれ伏せろ!」
 カランの分も胡弓で戦慄の雷鳴を歌唱し、天地轟く雷をワイルドハントに落とす。
「唯覇さん、カラン……ありがとうございます」
 その両名だけでなく、雨弓は決定的な攻撃を防ぎ続けてくれているDF陣に感謝を。纏ったオーラを弾丸に変え、連続して撃ち出した。
「……い゛っ」
 威力が上方修正された一撃に、トランプ兵が膝を突く。

「楓くん、援護をお願いします!」
「分かってるぜ、姉さん。姉さんも、無茶しないようにな!」
 ここに来て、吹雪を中心に付与した氷に加え、命中率低下が効いてきている。トランプ兵がヒールに気を取られ、ブレイクの頻度が少なくなるに従って、雅也と楓のエンチャントも、効力を発揮する。楓が命中を補正すると、「砲撃形態」に変形させたハンマーを構える雨弓達後衛の火力も、向上が期待できた。
「一気に決めるぞ! 頼むな、お前ら!」
「言われるまでもないのじゃ! おぬしこそ、偽物にはないカリスマ性を見せるチャンスじゃぞ?」
「惚れてから後悔するなよ?」
 マリーが、凍結光線で氷をさらに加速させる。雅也が、炎を纏った蹴りを叩き込む。
「吹雪、そっちを決めてこい!」
 宝が、吹雪に折れた直刀で斬り掛かるワイルドハントを受け止めた。苦痛に表情が歪むが、火力の要である吹雪を沈められる訳にはいかない。
「こっちは僕達に任せて!」
「俺もいる! 安心しろ……影乃に怪我なんてさせない」
 宝の身体に、さらに深く直刀をねじ込もうとするワイルドハントに、影乃が五式刺殺武装【絡新婦】へ稲妻を帯びさせ、逆に串刺しに! 解放された宝が、咆哮を上げる間を生み出すため、追撃に迫るのは唯覇の時空凍結弾。
「――この一撃は外せません!」
 弓矢が、トランプ兵に狙いを定める。
「我らが理想の世界のために!」
 トランプ兵が、最後の力を振り絞る。だが、その行動は自分のためではなく、ワイルドハントへのヒールだ。
 その忠誠は立派であるが、吹雪の表情は凜々しく静謐さに満ちていた。
「まずは1体。これが私達の力です!」
 そして放たれた氷の矢は、寸分違わずトランプ兵を穿ち、消滅させるのであった。


「その怒りにひれ伏せろ!」
 唯覇の召喚した暗雲から、再び雷撃が降り注ぐ。
 トランプ兵を撃破し、戦闘は佳境に突入していた。
「し、死ね! わ、我らが『王子様』のために! そして……そ、その後にやってくる俺の時代のために! い、イヒヒ!」
 ワイルドハントの刃が、吹雪を刻む。白い肌に深々と裂傷が刻まれ、吹雪の顔にまで鮮血が散った。
 だが――!
「っ……私はまだ行けます!」
 襲い来る刀身を、怯まず吹雪は如意棒で捌き、合間に一撃を叩き込んだ。
「効いてきてるな……よしお前ら、もう一踏ん張りだ!」
 宝の放った魔法光線が、容易くワイルドハントを削る。
 最早、ワイルドハントへの援護の手は存在しない。一時は強力な火力を誇っていたワイルドハントであるが、影乃を中心に付与された武器封じをジグザグで増殖されると、抵抗の余地はない。
「助かったぜ、影乃!」
「雅也くんのためなら、火の中水の中……だよ?」
 雅也の空の霊力を帯びた斬撃が、さらにその流れを加速させる。
「追い詰め喰らう骨の蛇……『餓者髑髏…二番行くよ…! 蛇骨…!』」
「……は、ははっ……」
 影乃が魔法陣から、鞭のように撓る禍禍しい剣を召喚した。その縦横無尽に暴れる剣をワイルドハントは捌けず、乾いた笑いを漏らしながら、歪な建物をいくつも破壊しながら吹き飛んでいった。
「こ、殺す……こ、殺して、やる……!」
 無様に地に伏せ、ワイルドハントが屈辱に叫ぶ。言葉に宿った狂気と殺意そのままに、雅也を狙う折れた刀身が、根元まで庇いに入った唯覇の腹部に突き刺さる。
「――っっ!」
 不運にも威力の減衰の度合いが少ない一撃に、唯覇の口内から血が溢れ、膝をつく。
「楓、唯覇を助けるのじゃ!」
「分かってる! チッ、野郎には何してもいいが、モノには限度ってもんがあんだぞ!」
 フォローのため、マリーが前に出る。楓によって命中の補正を受けた凍結光線が、ワイルドハントに直撃し、後退させる。優に10を越えているはずの氷は、行動するたびにワイルドハントの体力を飛躍的に削っているはず。その証に、ワイルドハントは攻撃の度に苦悶の表情を浮かべていた。
 響き渡る唯覇の咆哮に合わせ、楓も緊急手術で唯覇の体力を整えようと必死だ。
「……ご苦労様です、皆さん。だいふくも」
 雨弓が、鉄塊剣を構える。最後の攻勢に出ようとしていたワイルドハントだが、だいふくのハート光線を受け、それもままならぬ様子。ワイルドハントの急激な火力アップに対応できたのは、強敵とぶつかる事も想定し、DFを厚めにしていたからこそだ。
「この斬撃、あなたに見切ることができますか? 一刀流――」
 気の知れた仲間と一緒だからこそ、予測不能の事態に遭遇しても、ここまで耐えられた。少なくとも、雨弓はそう思った。そして踏み込みと同時、雨弓の手に握られた鉄塊剣が、目身も止まらぬ早さで閃く!
「――剣舞神楽」
 それはまさしく舞の如く、ワイルドハントと一瞬の交錯を交わした雨弓は、勝利の血化粧を纏っていた。

「やったな!」
「うっす!」
 宝が手を上げると、その意図を察した楓や、他の仲間達が、それぞれ順番にハイタッチをしていく。
 と――。
「おぬしら、見よ! 消えていくのじゃ!」
 マリーが指を指す。ワイルドハントの消滅と同時、この地に陣取っていたワイルドスペースが、消失を始めたのだ。
「他の場所は……どうなっているのだろうな」
 唯覇が腕を組んで言った。敵の幹部が現れたのはどこで、そこでの戦闘がどういう決着に終わったのか……それは、彼ら最大の関心事。
「でも、私達――【日進月歩】の任務は無事終わりだね」
「……だね」
 影乃がそう言うと、吹雪の口調が普段の優しいものに戻り、顔を見合わせ笑う。そうして彼らは改めて、作戦の成功を祝うのであった。

作者:ハル 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年11月15日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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