本来ならば、秋風に波打つ銀穂が美しいススキ野、の筈だった。
それが、奇怪なる粘性の液体に充たされ、ススキが、岩盤が、野の地形が出鱈目に繋ぎ合わされた、尋常ならざる光景と成り果ててしまっている。
モザイクに覆われたその領域は、ワイルドスペース、と呼称されている。
そんな奇々怪々に佇む、1つの巨大な影――一言で表すならば『赤眼の黒狼』。機械仕掛けの狼面は、右眼は爛々と真紅に輝き、赤き涙が煌く。四つん這いの左腕及び右脚は、人間のそれ。だが、右腕と左脚は鉤爪具えた機獣だ。
ちぐはぐなアシンメトリーの狼は黒炎の毛並を燃え立たせ、黒鎖が絡まり合った炎尾をゆうらりと揺らす。
(「……これが、ハロウィンの魔力か」)
機獣に語る言葉は無い。だが、その思考は言語を話すワイルドハントと同じく、それなりの知性を有する。
(「この力あれば、我がワイルドスペースは濁流と化し、世界を覆い尽くす事すら叶うだろう」)
誇らしげに、二連装バスターキャノンを乗せた背を大きく伸ばす機械獣。
(「何でも、ケルベロスとやらが、ワイルドスペースを幾つも潰しているという話だが……ここまで来れば、恐れるに足らぬ」)
あの『オネイロス』を増援として派遣してきた『王子様』の為にも――だが、何より滾るのは、自滅も顧みぬ闘争への欲求。獣の動きで駆け回り、切り刻み、誰であろうと焼き尽くす。
(如何なる妨害も食い破り……必ずや、『創世濁流』作戦の成功を」)
――――――!!!
地の底から轟くような咆哮が、ワイルドスペースに響き渡った。
「緊急事態が発生しました」
堅い表情に険しさすら滲ませ、召集に応えたケルベロス達を見回す都築・創(青謐のヘリオライダー・en0054)。
「ドリームイーター最高戦力、『ジグラットゼクス』の『王子様』が、六本木で回収したハロウィンの魔力を使い、恐るべき作戦を開始しました」
創世濁流――日本全土を、ワイルドスペースで覆い尽くさんとしているのだ。
「現在、日本中に点在するワイルドスペースにハロウィンの魔力が注ぎ込まれており、急激な膨張を始めています」
このまま膨張を続ければ、近隣のワイルドスペースと衝突して爆発。合体して更に急膨張を続け、最終的には日本全土が1つのワイルドスペースで覆い尽くされてしまう事となる。
「幸い、ケルベロスの皆さんの活躍により、隠匿されていた多くのワイルドスペースが消滅しています。ハロウィンの魔力と言えど、すぐさま日本をワイルドスペース化する程の力はありません」
だが、それも時間の問題だ。
「手遅れの事態となる前に……急膨張を開始したワイルドスペースに向かい、内部に居るワイルドハントの撃破をお願いします」
ワイルドスペースの場所は、箱根の仙石原の一角。ススキ草原を無秩序に混ぜ合わせたようなモザイクの空間だが、戦闘に支障はない。
「ワイルドハントは、黒炎に包まれた狼の機獣のような姿をしています。手足に人の部分が残っていたりしますが、俊敏な四足歩行で敵を翻弄するようです」
機獣の鉤爪は敵の生命力を簒奪し、黒鎖を捩り合わせた炎尾を振るって締め上げる。
「又、背中の二連装のバスターキャノンは、巨大な魔力の奔流で敵群を一掃せんとしますので、油断されませんように」
このワイルドハントに加えて、ワイルドスペースには『オネイロス』という組織からの援軍が派遣されているようだ。
「オネイロスの援軍は『トランプの兵士のようなドリームイーター』との事ですが、詳しい戦闘力は不明です」
援軍は1体のみだが、ワイルドハントと同時に戦う事になる。苦戦は想像に難くない。
「ワイルドスペースは、ワイルドハントさえ倒せば消滅します。ワイルドハント優先が戦術的には正しいと言えますが……」
先にワイルドハントを撃破した場合、ワイルドスペースは消滅し、オネイロスの援軍は撤退してしまう。
「逆にオネイロスの援軍を先に撃破した場合、ワイルドスペースは維持されます。ワイルドハントとの戦闘は続行出来ますが、その上で勝利出来なければ、ワイルドスペース破壊は失敗に終る事になります」
又、特に重要なワイルドスペースには、オネイロスの幹部と思われる強力なドリームイーターが護衛として現れる可能性もある。
「幹部は強敵ですが、今回の作戦の中核戦力である彼らを撃破出来れば、今後の作戦が有利に運べるかもしれません」
幹部と遭遇した場合、幹部の撃破を狙うのか、或いは、ワイルドスペースの破壊を優先するのか、意思の統一も重要だろう。オネイロスの幹部は戦闘力が高い。中途半端な作戦では、どちらも果たせず敗退する事になりかねない。
「流石はジグラットゼクスの『王子様』。ドリームイーター最強戦力の謀は、スケールも大きいです」
日本全土をワイルドスペースの洪水で覆い尽くす、創世濁流作戦――勿論、看過出来ない。
「謎多きドリームイーター組織『オネイロス』の援軍も気になりますが、ワイルドハントさえ倒す事ができれば、本作戦は成功となります」
多くのケルベロスが地道に調査しワイルドスペースを破壊してきた結果、創世濁流作戦を阻止する機会を得られたと言える。
「皆さんで掴み取ったチャンスを無駄としない為にも……ヘリオンより健闘を祈っています」
参加者 | |
---|---|
ヒルダガルデ・ヴィッダー(弑逆のブリュンヒルデ・e00020) |
二羽・葵(地球人もどきの降魔拳士・e00282) |
スプーキー・ドリズル(亡霊・e01608) |
白雪・まゆ(月のように太陽のように・e01987) |
ミザール・ロバード(ハゲタカ・e03468) |
ムジカ・レヴリス(花舞・e12997) |
黒木・市邨(蔓に歯車・e13181) |
ユッフィー・ヨルムンド(夢竜の魔女・e36633) |
●ススキの原のワイルドスペース
箱根、仙石原――一面のススキの原は美しく、日の光を受けてキラキラとさざめくよう。だが、ある箇所を境に、その向こう側はモザイクに覆われた奇怪な領域と成り果てている。
「……む、余り時間は無さそうだぞ」
花飾りのアモン角を傾げ、眉を顰めるヒルダガルデ・ヴィッダー(弑逆のブリュンヒルデ・e00020)。
じわりと、ワイルドスペースが膨らんだように見えたのは、けして気の所為ではあるまい。ケルベロスが勝利せねば、この美しいススキの原も早晩、モザイクの濁流に呑まれる。
「かなりピンチなのかもですけど、作戦を阻止するチャンスをもらえたのですよね」
だが、白雪・まゆ(月のように太陽のように・e01987)は、相変わらず明朗そのものだ。
「いただいたチャンスを最大に生かして創世濁流、ワイルドハントといっしょに潰しますのですっ」
「創世濁流……モザイクに創られる世なんて、ごめんだわ」
モザイクは欠陥の証。ムジカ・レヴリス(花舞・e12997)にとって、大切なモノの喪失は何より忌避すべき事だ。誰もが誰かの大切な人であり、喪う事は2度としたくない。
「濁流でこの国を覆わせるなんて――させない」
強張るムジカの背を、黒木・市邨(蔓に歯車・e13181)は柔らかに押す。その微笑みは人懐こく、今日は戦場を共に歩む。
「さあ、往こうか」
揃ってワイルドスペースに足を踏み入れるケルベロス達。中は奇怪なる粘性の液体に充たされているが、呼吸や会話に支障が無いのは他と同じく。様々が出鱈目に混ぜ合わされた光景は、自然の造作を冒涜しているようにすら見える。
「ワイルドスペースを訪れるのは初めてだが、涙で滲んだ視界に似ているね」
興味深そうに首を巡らせるスプーキー・ドリズル(亡霊・e01608)。
「ここに、キャプテンのワイルドハントが……」
得物を握る二羽・葵(地球人もどきの降魔拳士・e00282)の両手に力が篭る。何処か不安そうな面持ちだが、ケルベロスコートの内に仲間を守り抜かんという決意を秘めて。
「ああ、海賊を狙うたあ面白え奴だな!!」
ミザール・ロバード(ハゲタカ・e03468)が顎でしゃくれば、果たして、浮遊する大岩の上に、二連装バスターキャノンを背に乗せた機械獣の姿。その周りを、ライフル銃らしきを担いだトランプ兵が機械的に哨戒している。胴に描かれたスートは「ダイヤの8」だ。
「援軍は、幹部では無さそうだな」
スプーキーの言葉に、ユッフィー・ヨルムンド(夢竜の魔女・e36633)は少し残念そうだ。
(「人の想像力がドリームエナジーならば……快楽エネルギーと似てますの。だとすれば、彼らとも共存の道が有り得るのかも……」)
真実はさて置き、夢を観るのは楽しいものだ。
「夢のある未来の為、悪夢の到来はここで止めますわ」
――――!!
一気呵成、攻め寄るケルベロスを睥睨し、雄叫び上げたワイルドハントは大岩を蹴る。
「うちのキャプテンの姿、奪り返させてもらいますよっ」
内気を堪えて声を張る葵より、オウガ粒子が放出される。
「御機嫌よう。暫し、私達と踊っておくれ」
飄々と嘯き、ヒルダガルデの轟竜砲はトランプ兵に。同時にスプーキーの猟犬縛鎖がその手足を捉える。
「七色の風に背押されて、さあ、往っておいで」
「ええ、いってくるわ! 市邨ちゃん!」
最愛の人の、市邨のいってらっしゃいとカラフルな支援を追い風に、ムジカは気咬弾を放つ。
だが次の瞬間、トランプ兵はカードのように平面な胴を捻るや、その反動でひらりと跳躍。
ガキィッ!
ムジカのオーラの弾丸を、銃身を盾にワイルドハントを庇い立てる。
「援軍はディフェンダーか」
「流石に間に割って入る程度じゃ、庇うのは邪魔出来ないかね」
改めてトランプ兵へ向かいながら、スプーキーとヒルダガルデは顔を顰めている。
ポジションとは、各自の戦場での立ち位置だ。そこに他者は影響を及ぼせない。仮に、敵のディフェンダーが『庇う』のを阻止出来てしまえば、ケルベロスのディフェンダーの『庇う』行為とて敵に阻まれるのも可能となってしまう。ポジション効果に変化が生じるケースも零ではないが、例外的な状況にはヘリオライダーの言及があるだろう。基本、作戦の立案は敵味方のポジション効果も考慮して然るべきだ。
――――!!
まゆがバトルハンマーを構えるより早く、ドリームイーター共が動く。ワイルドハントの黒鎖の炎尾が翻るや前衛を一斉に縛し、更にトランプ兵が弾丸を嵐のようにばらまく。
「……大丈夫でしたか!」
咄嗟にムジカを庇う葵。身長より大きな鉄塊剣をかざすも衝撃を殺し切れず、片目に血が入った視野狭窄の状態。それでも、ムジカを気遣う声を掛ける。
「しっかりしやがれ!」
すぐさまオラトリオヴェールを編むミザールだが、纏いつく黒鎖は解けず、まゆは小さく頭を振る。
メディックのキュアをして厄を解除しきれぬとなれば。
「ワイルドハントは、ジャマーのようですわね」
相棒の夢竜ボルクスに属性インストールの援護を頼み、ユッフィーは古代語魔法を詠唱する。石化でドリームイーター共の連携を阻むべく。
●指針と方策
ワイルドハントを倒せば、ワイルドスペースは濁流と化す前に消滅する。故に、トランプ兵は牽制に留め、ワイルドハントを優先して攻撃する作戦だ。
「日本を好きにはさせませんのですよっ」
全力ダッシュから相手の直前で一回転し、遠心力を乗せた一撃を叩き込まんとするまゆ。だが、寸での所でかわされる。先の厄で距離感を狂わされたのだ。
今回の編成は、歴戦の者も少なからず。序盤は、幾許かの強化と厄で押し切れるとも見られたが。
「危ねぇっ!」
ミザールの注意喚起に反応の暇こそあれ、ワイルドハントの二連装バスターキャノンより熱線が後衛を舐めた。装甲の表面が硝子化してひび割れる。
「くっ!?」
すかさず、トランプ兵が連射を以てユッフィーに追撃する。急ぎマインドシールドを張るミザール。ワイルドハントが使うドレイン技も気になる所だが……下手すれば、回復量を上回るダメージを被りかねない。メディックの身で、攻撃にまで気を回す余裕は無さそうだ。それは夢竜も同じく、只管、自らの夢の注入に忙しい。
「火よ、悪辣なる篝の王よ。烟る血潮は誰が為なるや。応え給え、示し給え」
巻添えを食った形のヒルダガルデは慌てず騒がず、自らを癒す。心の臓より流れる猛火が宿す蒼い熱は、蔓延る災禍を喰らい壮烈に燃え上がる。
「……すまないね、君の相手は僕達だ」
スプーキー自身にトランプ兵に嫌悪感はない。所属の違う尖兵という認識だ。故に、掛ける言葉も挑発には程遠い。
尤も、怒りによる強制でもない限り、双方、同じ戦場にいる限り誰を狙おうと自由だ。スプーキーとヒルダガルデが対峙するトランプ兵とて、構わずワイルドハントを庇うし連携して攻撃を畳み掛けもする。
「ああっ、モウ!」
クイックドロウを遮られ、忌々しげに唇を噛むムジカ。
敵は、ジャマーのワイルドハントとディフェンダーのトランプ兵。数の差はケルベロスの圧倒的有利だが、手数が増えればその分、庇われる回数も上昇する。
「この時期は毎度、貴殿らと争っている訳だが……なんだ、ハロウィン好きなのか?」
ヒルダガルデとて雑兵相手に回答は期待していないが、機械的なまでの無反応に溜息を吐きたくなる。
トランプ兵の役割は、あくまでワイルドハントの援軍だ。単に戦うだけでは真の意味で牽制とはなるまい。怒り無くして攻撃の標的までコントロールしたければ、相応の策が必要だっただろう。
更に、敵双方にプレッシャーの技があるならば、命中率とて油断は出来ない。
「全・力・全・開っ!」
『Feldwebel des Stahles』は、親友から受け継いだ大事なハンマーだ。いつも全力で振り抜くも、まゆのキャバリアランページは列攻撃であり、技との相性からも効率が相当に悪い。ユッフィーの地裂撃は命中率の兼合いから使用優先度は下がる上に、サーヴァント伴う身に厄付けは不得手だ。唯一、的確に足止め技を放てるだろうヒルダガルデは、トランプ兵の牽制に動いている。これでは、肝心のワイルドハントを捉え切るのに時間が掛かる。
(「これは、俺もワイルドハントに集中する方が良いね」)
中衛から冷静に戦況を見て取り、市邨はケルベロスチェインを手繰る。
「ご機嫌よう、歪な機械獣。闘争に焦がれる獣が世界を創るなど……」
笑止――冷ややかに言い放つや、黒鎖が唸りを上げる。次々と歪な四肢に絡みつく縛鎖。捕縛の厄は発動には厳しくとも、ジャマーが重ねれば。
(「何ヨリ心強い、市邨ちゃんが傍にいるカラ、得体のしれないこんな処でも戦えるノ」)
頼もしげに肩越しに見やり、向き直ったムジカから刃のような闘気が奔る。
In the middle of difficulty lies opportunity.――ひらり、ひらり。鋭き一蹴より生じるは、花びらが堕ち逝く様に、名残りを見出す風の刃。
些か、時間が掛かった感はあるが、じわりと増していく命中精度に、葵はホッと息を吐く。
「……ハッ! まだまだ、これからです!」
粘性のモザイクを掻き回すように、炎纏うローラーダッシュがワイルドハントを強襲する。
「よっさこーい♪」
ドラゴニックスマッシュ、は活性してなかったので、代わりにまゆはサイコフォースで封殺を狙う。
「日本全体のワイルドスペース化……このような暴挙は、ドリームエナジーの源たる人間を滅ぼしかねませんわ」
ワイルドハントに反応が無いのも構わず、ユッフィーは自らの主張を、スピニングドワーフと共に繰り出す。
「人が平穏を失えば、夢を見る余裕も失われましょう。もしあなた方が人類との共存を考えるなら、略奪など不要なのですよ」
ドリームイーターが人類との共存を考えているかどうかは、それこそユッフィーの想像に過ぎないが……その想像力こそが、ドリームイーターが定命の者を敵と定める主因なのは、ある意味皮肉だろう。
「ははっ、面白くなってきそうだな」
ミザールにとって、あらゆる何もかもが戦闘への方便で手段。戦って嬲って強くなる、勝利への過程は何よりの愉悦だ。
――――!!
だが、敵もこのままでは済まさない。高らかに叫ぶや、飛び掛ったワイルドハンドの爪が、市邨を貫いた。
●濁流を撃破せよ
「市邨ちゃん!!」
「大、丈夫……」
蒼白で振り返った恋人に辛うじて笑みを浮かぶも、生命力をごっそりと抉られた感触に、市邨は思わずたたらを踏んだ。
対照的に、ワイルドハントの傷が癒えていく。ドレインの回復効率は、クラッシャーよりジャマーの方が高い。
それでも、幾許かの武器封じの厄が、ワイルドハントの鉤爪を鈍らせていた。既に短期決戦とは言えぬ時間が経過しているが、その分、ワイルドハントには拭われぬままの厄が重ねられてきている。
「お返し――俺も外さない、よ」
無数に浮かぶ歯俥が、機械獣を撃ち砕く。一斉に駆ける歯俥の軌跡は正確で、狙い済ました連撃は容赦無く穿つ。
「市邨ちゃんの音に、合わせるワ」
市邨の反撃に畳み掛けるムジカ。ケルベロスが機械獣に刃を突き立てる事更に数合。ドレインの回復量を炎幕で燃やし尽さんと、ブレイズクラッシュとグラインドファイアを繰り返す葵。一撃絶大で叩き潰さんとまゆは重撃を繰り返し、ユッフィーは尚も敵の連携を乱さんと立ち回る。その応酬はけして軽くなかったが、ミザールとボクスドラゴンが癒し手を全うした。
ウ、ガァァァァッ!!
「また何処かで逢えたなら、この銃で、君のモザイクに風穴を」
いよいよ手数に圧倒され、初めて絶叫するワイルドハントに寄らんとしたトランプ兵の軌道を阻み、牽制の銃弾を放つスプーキー。金平糖を彷彿させる角付き弾丸は、トランプ兵の肩甲を掠め削る。すかさず、ヒルダガルデのハートクエイクアローが刹那を惑わせ、その動きを鈍らせた。
ほんの刹那、捻じ込んだ援護の空白に、ケルベロス達が次々と殺到する。
「生憎、此の世界は俺にとって愛すべきもの。濁流には呑ませない」
市邨がフォーチュンスターを蹴り込めば、オーラの星は機械獣の装甲を削る。
「御前は此処で終わりだよ。おやすみ、せめて最期は優しい夢を」
「王子様の元になんて駆けつけさせない。誰かの姿を借りることでしか在れない貴方……モザイクに満ちた空間でその姿を返し潰えなさいナ」
ムジカの懐に在るのは、緑の瞳の黒カエル。無事帰ると大切なお守りに誓い、ワイルドハントを還すと決意し、振るう降魔の拳は彼女にとっての最大火力。
「沈むのですっ」
今度こそ、まゆは『Centrifugal Hammer』を叩き込む。シンプル故に絶大な威力は、二連装バスターキャノン諸共に、真っ向からワイルドハントの背中から叩き潰す。
「ふたりの愛が燃えるとき! これが竜と花嫁の……スラッシュバーンですわッ!!」
相棒のボクスドラゴンと融合するや巨大な「鎧竜人ボルクス」に変身したユッフィーは、ハルバードを構えて突撃する。
「てめえが姿を借りてる奴な、同じ志を持つ者として黙ってられねえ。盗られたら奪い返す、利子はてめえの命で結構だ!!!」
ここまで来れば、ヒールも不要だろう。蒼黒い巨大な鎌を具現させるミザール。死神『ソウル・ディカスティス』を参考に編み出された【偽術】は、力任せに敵の生命を刈り取る。
「てめえの鉤爪が、ここまで届かなかったのが残念だぜ!」
「うちのキャプテンの姿をっ、奪り返しますっ……ふぅンっ、ぬぁぁぁぁっ!」
雄叫びにも似た必死の叫びが響き渡る。鎖状に連なったエネルギーに武器を連結させ、降魔の力を込めて、ワイルドハントを全力でブン投げる葵。全力の形相が丁度陰になって見えなかったのは、きっと彼女にとって幸いだ。
ガ……ア、ァァ……。
投げ飛ばされ、バウンドする機獣から、バラバラとモザイクの欠片が落ちる。ふらつくワイルドハントに、ヒルダガルデは軽い調子で声を掛ける。
「嗚呼、そうだ。その内、王子様や女王陛下にお目にかかると思うんだが。手土産は何が良いかな?」
半ばドリームイーターの陣容を探るブラフであったが、生憎と物言わぬ敵には分が悪い。
最期まで人語を話す事なく、ワイルドハントはドウと倒れ臥す。
同時に、ワイルドスペースは靄が晴れるように霧散し――秋風そよぐススキの原に、トランプ兵の姿はもう無かった。
作者:柊透胡 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年11月15日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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