創世濁流撃破作戦~魔弾とスペードのA

作者:そうすけ


 白くしなやかな指によって引き金が絞りこまれ、スプリングが伝えるその同じ力によってシリンダーが回転し、撃鉄が引きあげられる。
 星野・光(放浪のガンスリンガー・e01805) から見姿をコピーしたワイルドハントは、掲げられた銃の照星を覗き込んだ。とじられた世界のすべてが一点に集中する。
 撃鉄が落とされ、轟音とともに発射された二発の魔弾がケルベロスに見立てて作られた的を粉々に砕いた。
「これが……ハロウィンの魔力なのね」
 ワイルドハントは銃を降ろすと、的の残骸に近づき、見下した。
「この力があれば、私のワイルドスペースは濁流となり世界を覆い尽くす事ができる!」
 的の胸部から飛び出た心臓の大きな破片をブーツの踵で踏み潰す。
「ケルベロスたちがワイルドスペースをいくつも潰しているという話だけど、恐れることはなにもないわ。『オネイロス』を増援として派遣してくれた『王子様』の為にも、必ず、この『創世濁流』作戦を成功させないとね」
 邪悪な微笑みを口の端に浮かべて振り返る。
 トランプの兵士『スペードのA』は体を深く折り曲げて、二丁銃のガンマンに恭しくお辞儀した。


「みんな、ハロウィンのイベントが終わったばかりだけれど、緊急事態なんだ。力を貸して!」
 呼びかけに集まったケルベロスたちを前にして、ゼノ・モルス(サキュバスのヘリオライダー・en0206)はあわただしく説明を始めた。
「日本中に点在するワイルドスペースに、ハロウィンの魔力が注ぎ込まれて急激に膨張し始めているんだ。このまま膨張を続ければ、近隣のワイルドスペースと衝突して爆発、合体して更に膨張……最後には日本全土が一つのワイルドスペースで覆い尽くされちゃうよ!」
 これは、ドリームイーター最高戦力であるジグラットゼクスの『王子様』が、六本木で回収したハロウィンの魔力を使って、日本全土をワイルドスペースで覆い尽くす『創世濁流』という、恐るべき作戦を開始したために起こったのだという。
「いまから急膨張するワイルドスペースに向かい、内部に居るワイルドハントを撃破してほしいんだ」
 ワイルドスペース内部で倒さなくて張らない敵は二体、とゼノは指を立てた。
「一体は二丁銃使いのワイルドハント。その姿はケルベロス、星野・光さんにそっくりだけど中身は全然違う。邪悪そのもの。ドリームイーターが使うグラビティに加えて、オリジナルの攻撃を持っているよ」
 能力詳細は資料の最後に、といって、ゼノは先を続けた。
「もう一体は『王子様』が派遣したオネイロスの援軍。某童話のトランプ兵士のような姿なんだけど……ごめん、詳しい能力は分からないんだ。それとぉ……」
 おずおずと切りだした内容は、作戦に新たなる不確定要素を加え、戦いを困難にするかもしれないことだった。
「オネイロスの『幹部』と思われる強力なドリームイーターが、護衛として現れる可能性があるんだ。あくまで可能性の話なんだけど、万が一にも幹部と遭遇した場合は、幹部の撃破を狙うのか、或いはワイルドスペースの破壊を優先するのか、みんなの中できちんと決めておいた方がいいと思う」
 それというのも、オネイロスの幹部は戦闘力が高い為、中途半端な作戦ではどちらも撃破できず、敗退する事になるかもしれないからだ。
「先にワイルドハントを撃破した場合、ワイルドスペースが消滅し、オネイロスの援軍は撤退して戦闘が終了するよ。逆に、オネイロスの援軍を先に撃破した場合は、ワイルドスペースが維持されるので、ワイルドハントと続けて戦う事になるからね」
 ワイルドハントの撃破を優先するのが戦術的には正しいが、今後のことを考えると、オネイロスの援軍はできるだけ倒しておきたいところだ。
 特にオネイロスの幹部。今回の作戦の中核戦力である彼らを撃破する事ができれば、今後の作戦が有利に運べるだろう。
「これまでに多くの仲間が、地道に調査してワイルドスペースを破壊してきた結果、この作戦を阻止するチャンスを得る事ができた。みんなの努力を無駄にしないためにも、頑張って『創世濁流作戦』を阻止して欲しい」
 頼んだよ、というゼノの後ろに、ヘリオンが着地した。


参加者
喜屋武・波琉那(蜂淫魔の歌姫・e00313)
星野・光(放浪のガンスリンガー・e01805)
葛城・唯奈(銃弾と共に舞う・e02093)
コンスタンツァ・キルシェ(ロリポップガンナー・e07326)
リール・ヴァン(良物件求ム・e39275)
カレン・フェブラリー(七色の妖精・e40065)

■リプレイ


 仲間の姿を盗み取ったワイルドハントよりも先に狙われるとは、考えてもいなかったのだろう。
 トランプ兵は青くなったスペードをねじるようにして、ケルベロスの攻撃をかわした。薄い体の後ろを、ヴォルフ・フェアレーター(闇狼・e00354)が召喚した薄氷の妖精たちが空気を飛んで行く。
「ちょっと! なんで避けるのよ!」
 偽の光はトランプ兵の弱腰に苛立ち、怒りに震えながら、氷結した脇腹を叩いて霜を落とした。
 葛城・唯奈(銃弾と共に舞う・e02093)にロックオンされたことに気づき、慌ててモザイク化した瓦礫の陰へ転がり込む。
「ちえっ! もう0.1秒あれば頭をぶち抜けたのに!」
 残念がる言葉とは裏腹に、唯奈は落ち着いたしぐさでリボルバー銃の撃鉄を下ろすと、ハーフコックの状態にした。
「戦いは始まったばかりだ。焦らずいこうぜ」
 敵に鋭い目を据えたまま、ヴォルフは得物を打ち損ねた仲間にフォローの言葉をかけた。続けて、しかし、と独りごちる。
(「ワイルドハントもこうも続くと、別人と分かっていても気持ちとしては疲れてくるな……」)
 これまで三体のワイルドハントを撃破してきたが、どうしても慣れない。皮一枚、似ているだけのことと、とうそぶくが、友と同じ顔が苦痛に歪むたびに心が痛む。だが、この痛みに慣れてしまえばおしまいだ。デウスエクスと変わらぬ存在に下がり果てるだろう。
 ガラスに石が当たるような破裂音とともに銃弾が右肩をかすめた。肩を手で押さえてしゃがみ込む。
 つづけてもう一発。銃声が、ねっとりとした粘性の液体に満たされる世界に響いた。
 横を向くと、ディフェンダーのコンスタンツァ・キルシェ(ロリポップガンナー・e07326)が小柄な体を折り曲げていた。
 魔跳弾から喜屋武・波琉那(蜂淫魔の歌姫・e00313)の体を庇ったのだ。
「く~、さすが光のニセモノっす。分厚いディフェンダー陣の間を通して、二発続けてケルベロスにヒットとは……。ま、一発はアタシが阻んだっスけどね」
「ほんと。光ちゃんの偽物だとしたら銃撃戦も有り得るって思って来たけれど、まさかのっけから打ち合いになるなんてね」
 喜屋武・波琉那(蜂淫魔の歌姫・e00313)は、すぐ治してあげる、とコンスタンツァたちに声をかけた。
 体内のグラビティ・チェインを活性化させると、全身を覆うメタルの装甲と共鳴させてオウガ粒子を放出する。
 そこへトランプ兵がロングソードを構えて突撃してきた。
「さてさて、姿は真似られてもガンナー魂までは真似られるかね? 私の弾丸は、猿真似出来るほど軽かあないよ!」
 星野・光(放浪のガンスリンガー・e01805)は狙いをトランプ兵が振りかざした剣身に定めた。金属の冷たさと馴染み深いグリップの感覚に心が浮き立つ。
 銃声と閃光があがり、反動で銃口が跳ねあがった。次の瞬間にはもう、剣を振り降ろして仲間に切りかかろうとしていたトランプ兵がのけぞっていた。ワンテンポ遅れて、スペードのナックルガードをつけた剣が爆発する。
 スペード模様が飴のように粘る爆煙に紛れて消えた。
「無駄だ! この弾の流星群からは逃れられん」
 リール・ヴァン(良物件求ム・e39275)はカリフラワーのような白煙にガトリングガンを向けると、あえて狙いを絞らず引き金を引いた。左から右へ、銃口が弧を描くように動かす。
 激しい掃射音がワイルドスペースの大気を波打たせ、敵の隠れ蓑を吹き飛ばした。
(「ついでに、偽物もあぶり出そうと思ったが――」)
 姿を現したのはオネイロスの手先だけだった。トランプ兵の背後にあったモザイクの瓦礫は砕けてしまい、人が隠れるほどの大きさではなくなっている。
 ワイルドハントはすでに移動した後だった。
「姿を見れば不快、姿が見えずとも不快。まったく腹正しいヤツだ。まるであの害虫みたいだな」
 リールは特注マスクを引き上げ、不快感で歪む口元を隠した。
 ――どこだ。どこへいった?
 右か、左か。それとも遠ざかったのか。
 気がつけばほかの仲間たちも武器を構えながら辺りを見回していた。
「ねえ、先にアイツを片づけちゃおうよ。どうみても幹部って感じじゃないしね」
 カレン・フェブラリー(七色の妖精・e40065)はグラビティ・チェインを練り上げて作り出した七色のボムを手のひらに出した。
 再びケルベロスたちから殺気を向けられ、トランプ兵はあわてて折れた剣を振った。
 モザイクの塊が風景を崩しながら、シャドウエルフめがけて飛ぶ。
 アルトゥーロ・リゲルトーラス(蠍・e00937)は両手に銃を握りしめて素早く前にでると、グリップの底で飛んできた斬撃を叩き落とした。
「ふっ、悪あがきにしてもいまいち。雑な攻撃だ。先ほどからずっとお前の動きを見てきたが、確かにオネイロス幹部にしては弱い」
 脇を閉め、腰で肘を固定して銃身を上げる。
 凝りもせず逃走を図ったトランプ兵の足元に向けて、弾をばら撒くように撃った。
「は~い、おまたせ。カレンからのプレゼントだよ。それっ!」
 死を包括した極色彩の玉が、放物線を描きながら振り返ったトランプ兵のすぐ前に落ちる。
『爆発しろ』
 シェリフスタイルの黒ドレスが揺れると同時に、カレンの手で銃が咆哮を上げた。目にもとまらぬ早撃ちだ。
 弾丸が極彩色の爆撃玉を撃ち抜く。
 一瞬の静寂。
 時が動き出すとともに爆撃玉が弾け、七色のグラビティ・チェインが強烈な光を放ちながら渦を巻きながら広がった。
 魔渦は瞬く間にトランプ兵を飲み込み、燃やし尽くすと、デウスエクスの悪そのものを絞り包みながら消滅した。


 波琉那は急いでトランプ兵が消えた場所に駆けつけたが、土に体液の染みすらついていなかった。
 残念そうに唇を尖らせる。
「あ~あ、少しでもいいからオネイロスの手がかりがあれば、と思ったのに」
「まあ、そうしょげるなよ。ここは敵陣だ。いかに雑魚兵といえども、敵に情報を漏らすような下手は打たんだろう」
 辺りを警戒しつつ、アルトゥーロが慰める。
「それよりも……隠れていないで出て来いよ、偽物。ガンパーティーといこうじゃないか!」
 突然、回りの空間がぐにゃりと歪んだ。
 否、アルトゥーロはそんなふうに感じた。
 敵に死角から撃たれ、痛みを上回る強烈な眠気に襲われたのだ。
「ガンパーティー! いいわね。お望み通り、心ゆくまで打ちあいましょう! ただし、最後に立っているのはアタシ。そこの『そっくりさん』は最後の最後に撃ち殺してあげる」
 ヴォルフは声を頼りに敵の位置に辺りをつけると、素早く体の向きを変えた。狙いを定めている余裕などない。相手がひるんでくれることを祈るだけだ。
「『そっくりさん』だと? 盗人猛々しいとはまさに貴様のことだな!」
 高笑いを響かせながら走り去る影に向けて稲妻突きを放つ。
 影は崩れたモザイクの壁の後へ滑り込んだ。
(「――くそ! 外したか」)
 腹の底で悪態をつくが、闇狼はポーカーフェイスを崩さなかった。動揺のかけらもないフラットな声で、影が逃げ込んだ壁に向かって問いかける。
「ひとつ質問がある。ワイルドスペースとは何か?」
「そんなこと知ってどうするの?」
 間髪入れず、明後日の方向から声が聞こえてきた。
「解ったところで貴方たちに何ができるわけでもないでしょ」
 どうやら位置を特定されないように、常にモザイクの瓦礫の間を移動し続けているらしい。
「不利……なんて思わないよ。こっちも、障害物を利用させてもらうぜ!」
 唯奈は二丁の銃を巧みに操り、発射角度を少しずつ変えてモザイクで崩れた瓦礫を撃った。ビリヤードの「バンクショット」のように反射させて、標的に命中させようというのだ。
 弾丸はモザイクに浸食された鉄柱に当たって跳ね、さらに別の柱に当たり、焼け焦げたトラックの物陰で息を潜めていたワイルドハンドの左太ももを撃ち抜いた。
 とっさに唇を噛んで殺したか。しかし、ケルベロスたちの耳は短くも鋭い敵の悲鳴を、しかと捉えていた。
「そこっ!!」
 波琉那がグラビティ・チェインの鎖を飛ばした。
 盾にしたトラックともども偽物を縛り上げて、眼前に引きずり出そうとしたのだが僅かに遅かったようだ。
 締まる鎖でトラックにわずかに残っていたフロントガラスが粉砕され、細かなガラスが夕立のように降りそそぐ下を長い髪が走り抜けていく。
 光がかぶるウルブズハットにそっくりな、ガンナーズハットだけがその場に残された。
「次はこっちの番ね!」
 コンスタンツァの右前方にある低い木立の方向から、オレンジ色の閃光が走る。ワイルドハンドの銃が火を噴いたのだ。
 右の肘に被弾したテキサス娘は、ツインテールを捩じりながら地に膝を落とした。
「スタン!!」
 駆けてくる光に向かって、大丈夫、とウインクを飛ばす。
「アタシにもガンスリンガーの矜持があるっす。仲間にかっこ悪いとこ見せらんねっす!」
 片方を封じられてももう片方ある。
 コンスタンツァは右腕をまっすぐ伸ばして、友の写し姿を照星の中に捕えた。
「ワイルドハントなんてメじゃねっす。ホントの光はもっと強いってアタシちゃんと知ってるっす」
 あれは偽物。だけど大切な友だちに敬意を表して、けっして油断しない。全力で屠る!
『ゴー・トゥー・ヘヴン!』
 リボルバー銃から雷鳴のような轟音と閃光が発せられた。大地を荒れ狂う牡牛が蹴り進むような重い弾丸が、ワイルドスペースのねっとりとした空気の中を捩じり引きながら飛ぶ。目視など不可能な速度で進むごとに質量を増し、まさに重力の塊となってワイルドハンドをぶち抜いた。
「……って、まじっすか?」
 気がつけば鈍色の銃口を真正面から見つめていた。
「さすが。偽物でも光っすね。アレをまともに食らったっていうのに……しぶとい」
「バカ! 敵に感心していないで伏せなさい!」
 光は全速力で距離を詰めると、小さな友の背中に飛びついた。
 倒れる二人の頭上を熱い弾がかすめていく。
「しぶといって……それ、褒めてないから。そこはせめて『タフ』っていってよね」
 苦笑いするテキサス娘に背に落ちたカウガールハットを被せ直してやると、ともに体を低くしながら後退する。
 リールとアルトゥーロから援護射撃を受けながら、ミツバチの羽音に似た黄金色の波動が届く範囲まで友を援護した。
(「さあ、トドメを――?!」)
 ワイルドハンドはまたしても、ケルベロスたちの攻撃を巧みにかわし、モザイクの障害物の陰に身を滑り込ませていた。
 光は目を鋭くして己の現身を探したが、目に見えるのは奇妙に崩れたモザイクの風景だけだった。
「炙りだしてやる」
 微かな苛立ちとともに吐き出された言葉を合図に、ケルベロスガンナーたちは一斉に銃を抜いた。全方向へ重力弾をばら撒き、障害物を撃ち壊していく。
 ワイルドハンドも撃ち返してきた。だが、死角からの奇襲はろくに狙いもつけられていないようで、跳ね返りの音だけを響かせるだけ響かせてまったくケルベロスには当たらなかった。
 多くの意識が繰り広げられるガンファイトに集まる中、カレンはひとり密やかに影を渡り、ワイルドハンドに迫った。
 相手が気づくよりも早く、微かな風切りの音だけをたてて手刀を振り下した。目に見えぬ斬撃が、豊かに波打つ黒髪に隠れた背を切り裂く。
「驚いた、まだ動けるの?」
 ワイルドハンドは切られた衝撃を殺さずそのまま体の回転に勢いに転じ、威力をのせた左足の蹴りを放ってきた。
 ウエスタンブーツの分厚いソールが顔面を捉えるまえに、後ろへ体を引く。相手が銃口を向けたことに気づくと、そのまま影の中に溶け込んだ。


 追撃を諦めて仲間の元に戻ったカレンはため息をついた。
「ほんと、華奢な見かけとは裏腹に『タフ』なんだから」
「私を見て、それを言うんじゃないっていうの!」
 ケルベロスたちは外向きの円陣を組んだ。敵に撃たれては素早く円陣を解いて展開し、一点集中して攻撃を撃ち込む、を繰りかえした。
「提案がある」
 何度目かの攻防のあと、ヴォルフが声を上げた。
「もう幹部はやってこないだろう。来るならとうに来ているはずだ」
 それもそうだな、と反対側からリールが同意する。
「それで、提案とは?」
「壊しても、壊しても……敵が身をひそめる遮蔽物はたくさんある。このままでは埒が明かない。二手に分かれて偽物を光の前に追い込もう。最後は一騎打ち、西部劇よろしく決闘スタイルで決着をつける」
 次々に賛成の声が上がる。
 光はハウリングリボルバーの先でウルブズハットのツバをクイッと持ち上げると、不敵な笑みを浮かべた。
「望むところよ」
 銃声が聞こえ、モザイクがかったドラム缶に弾が当たって火花が散った。跳ね返った弾は唯奈のつま先のすぐ先をえぐった。
「面白くなってきた」
 唯奈は飴をかみ砕くと、棒を吐き捨てた。
「俺がヤツの気を引きつけておく。その隙に回り込んで後ろから追いたててくれ!」
 欺瞞の薄膜を重ねたまやかしの世界は、ワイルドハンドの銃が吐きだした微かな煙を残していた。
 二つの銃口が一点を狙って動く。唯奈の腕がぴたりと止まった。
『変幻自在の”魔法の弾丸”……避けるのはちーっと骨だぜ?』
 発射された魔弾は、まるで意思を持っているかのように空を自在に飛んで、太い鉄骨の陰に身を潜める得物に迫った。
 逃れきれずにダメージを負ったワイルドハンドが、苛立ったように応射してきた。
 まず、左手側から回り込んだヴォルフ、波琉那、コンスタンツァの三名が、道の真ん中で立ち尽し、一人集中を重ねる光から気をそらせるために右奥へ追い立てる。
 逃げた先で待ち受けていたのはカレン、リール、アルトゥーロの三名だ。
「日本全土をモザイクで覆い尽くす……か。また随分と大きく出たものだな。しかし、ここまでだ。光の姿を写し取ったのが失敗だったな!」
 たたらを踏んで立ち止まった偽物へ一斉に銃を突きつける。
「ちっ!」
 ワイルドハンドは光にそっくりな顔を歪めた。三対一で正面から撃ちあっては分が悪いと判断するやいなや、踵を返す。
 リールたちは敵の足が向かう先を狭めるように狙いを定め、引き金を絞った。
 果たして見姿盗人のワイルドハンドは、何も遮るものがない乾いた道の上で本物と対峙する。
「よりにもよって、私にソックリな奴を撃つことになるたあね」
 光は一対一の決闘の相手がホルスターに銃を収めるのを待った。

 ――脱力。

 次の瞬間。一秒と要さず、腰から二丁のリボルバーを引き抜く。
『お高い特殊弾だ……こいつは効くよ!』
 ゼロコンマの差、光の抜き撃ちのほうが速かった。
 銃弾はワイルドハンドの額を正確に射抜いた。衝撃と炎で偽の皮が吹き飛んで、モザイク状の本体が露わになる。
 ワイルドハンドは後頭部から血飛深を吹き出しながら崩れ、ワイルドスペースとともに消滅した。

作者:そうすけ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年11月15日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。