金木犀の花が人を襲う!

作者:柊暮葉



 松村綾子は、早朝の散歩が日課である。
 現代の会社員らしく慢性的な運動不足である彼女は、ダイエットもかねて、余程天気が悪いのではない限り、近所の運動公園を2~3周する事にしていた。
 その日も、夜中に雨が降ったらしかったが、綾子は頑張って公園を訪れ、早足でせっせと舗道を散歩していた。
 秋の紅葉や美しい花壇のある公園を一人で歩くのはなかなか気分がいい。
「ああ、金木犀がもう咲いているのね」
 公園の大きな花壇からよい匂いがしてくるので、綾子はそちらの方へ歩いて行った。
 オレンジ色の花と濃い緑のコントラストが美しい金木犀は雨に濡れてうなだれながらも鮮烈な香りを放っている。綾子は思わずその匂いを深々と吸い込んだ。
 その金木犀に見えない位置から謎の花粉を振りかけている者がいた。
 鬼縛りの千ちゃんである。
 その花粉を受けた金木犀はみるみるうちに醜悪な形に巨大化、変形していく。
「ひっ……」
 声を引きつらせる綾子をあっという間に金木犀の攻性植物は触手で絡め取り、吸収してしまった。
「人は自然に還るのが一番なんだから。これって、人助けよね」
 何を考えているか分からない様子で鬼縛りの千ちゃんは微笑むと、いずこかへと消えて行った。


「静岡県の運動公園内に、植物を攻性植物に作り替える謎の胞子をばらまく、人型の攻性植物が現れたようです。その胞子を受けた金木犀の株が、攻性植物に変化し、その場に居た会社員の松村綾子さんを襲って、宿主にしてしまいました。急ぎ現場に向かって、綾子さんを宿主にした攻性植物を倒してください」
 セリカ・リュミエールが集めたケルベロス達に説明を開始した。
 プルトーネ・アルマース(夢見る金魚・e27908)は真面目な顔で話を聞いている。


「綾子さんは早朝五時過ぎに運動公園を訪れます。夜中に雨が降っていた事もあって、公園内には他に人はいません。気になるようでしたらキープアウトテープなどを施すといいでしょう。攻性植物の能力は以下になります」
 セリカは資料を配った。
 光花形態……身体の一部を光を集める「光花形態」に変形し、破壊光線を放ちます。
 収穫形態……身体の一部を黄金の果実を宿す「収穫形態」に変形させ、その聖なる光で味方を進化させます。
 埋葬形態……地面に接する体の一部を大地に融合する「埋葬形態」に変形させ、戦場を侵食し敵群を飲み込みます。侵食された大地は戦闘後にヒールで治ります。
「攻性植物は1体のみで、配下はいません。取り込まれた人は攻性植物と一体化しており、普通に攻性植物を倒すと一緒に死んでしまいます。ですが、相手にヒールをかけながら戦うことで、戦闘終了後に攻性植物に取り込まれていた人を救出できる可能性があります。ヒールグラビティを敵にかけても、ヒール不能ダメージは少しずつ蓄積するので、粘り強く攻性植物を攻撃して倒す……ということが可能です」
 なお、鬼縛りの千ちゃんは既に立ち去っているため、戦う事は出来ないらしい。


「攻性植物に吸収された人を救出するのは難しいでしょう。ですが、なんとか助けてあげて欲しいのです。彼女は早朝に日課の散歩をしていただけの、ごく普通の若い女性なんですから……!」


参加者
羽乃森・響(夕羽織・e02207)
デニス・ドレヴァンツ(花護・e26865)
プルトーネ・アルマース(夢見る金魚・e27908)
天喰・雨生(雨渡り・e36450)
フレア・ナトゥール(不屈の魂・e39543)
カレン・フェブラリー(七色の妖精・e40065)
レベッカ・ウィンドワード(精霊の詠み手・e40084)
シーラ・クロウリー(氷槍・e40574)

■リプレイ


 攻性植物発生の情報を得たケルベロス達は迅速に鼓動を開始した。

 秋の早朝--朝霧が微かにただよう肌寒い公園にケルベロス達は到着した。
 既に被害者の松村綾子は巨大化した異形の金木犀の太い幹の中に囚われている。
 四肢が完全に幹の中に埋められ、宙に持ち上げられるような格好で、その顔は既に蒼白であり、最早声も出ない様子であった。

「本当に植物に捕まってる人がいてびっくりしたの。絶対助けなきゃ! このまま吸収されちゃうなんてダメだよ」
 プルトーネ・アルマース(夢見る金魚・e27908)は、自分もいつか人の役に立てる大人になるのが夢。囚われた綾子を見て真剣にそう言った。
「金木犀の香りがすると、秋が来たなと思うよ。今回はいらぬ者まで来てしまったみたいだけれど」
 天喰・雨生(雨渡り・e36450)は大きめのフード付きローブと一本足の高下駄姿で現れた。敵にシニカルな視線を当てながら左半身を意識している。
「宿主の人は必ず助けましょう。スタイルが羨ましい……」
 羽乃森・響(夕羽織・e02207)は切なそうな様子で綾子の盛り上がった旨を見ている。
「きっとまた彼氏もできると思うわよ。努力している人は、いつだって魅力的だもの」
 響はセリカから彼女の情報を聞いていた。現代の会社員が慢性的な運動不足である事はよく知られている。自分の健康のために頑張っていたらこんな目に合うなんて。
 そこでデニス・ドレヴァンツ(花護・e26865)がまだ薄暗い公園に光源を用意した。全員のベルトに電灯を挟ませて、視界を明るくしていく。
 さらに一般人が公園に近づかないように殺界形成を展開した。
 雨生はデニスとかぶさらないように離れた位置から殺界形成を展開。
 響も足りない範囲を多うように殺界形成。
「……さぁ、始めようか」
 デニスが唸るようにうっそりと微笑んだ。

「アレに人が捕まってるんだね! すぐに助けよう!」
 フレア・ナトゥール(不屈の魂・e39543)が元気よく言う。
「行くよフレア! ぴよこ!」
 叫んで決めポーズを取ろうとするカレン・フェブラリー(七色の妖精・e40065)。
 しかしひよこが頭に乗らず顔面を直撃。
「へぶっ。変身! プリンセスモード!」
 声がこもったままバンクして変身するカレン。
 パステルの虹の光に包まれ、魔法少女服に。右手側でぴよこがステッキに変わるが掴む事が出来ず悲鳴。
「魔法少女プリンセス☆カレン! と魔法少女ブレイジング☆フレアが必ずたしゅけます!」
 噛んだ。
「うん、一緒に頑張ろうね! えーと、こうかな? 変身! ダイナマイトモード!」
 カレンの声に答えて戸惑いながらも魔法少女ブレイジング☆フレアに変身するフレア。
 燃え立つ炎に包まれ、魔法少女の衣装になるとドラゴニックハンマー『封じられた太陽』の石突を右手で地面に打ち付ける。
 カレンは無理矢理前に杖を向け、左腕でブレイジング☆フレアを抱き寄せたー!
「うみゃっ!? カレンちゃん皆の前なのに大胆だよぉ」
 カレンに抱き寄せられながらフレアはまんざらでもない様子。
 後ろで桃と橙の煙の爆発演出!
「妹たち、他の皆が存分に戦い切れるようにの?」
 そこにレベッカ・ウィンドワード(精霊の詠み手・e40084)がローブを取り狐耳と尻尾で登場した。噴き出すカレンとフレア。
「わらわを仲間はずれにしてくれるな」
 そうして無駄に巨乳を押しつけながらカレンを抱き締め、妹を困惑させた。
 そしてカレンとフレアはうなずき合いながら前進する。
 そうこうしている間にも、シーラ・クロウリー(氷槍・e40574)も含めてケルベロス達は全員で攻性植物を取り囲み展開していく。

 攻性植物は蔓の異形に変化した枝をしならせながら、その先に黄金の果実を実らせた。そしてその聖なる輝きで自らを照らすと耐性を高めていく。
「フォオオオオ……!」
 不思議なうなり声を上げて攻性植物はケルベロス達を威嚇した。
 その声を聞いて、綾子は今にも気絶しそうになっている。ごく普通の一般人だ。怖くて仕方ないのだろう。

 雨生がその収穫形態を見て皮肉に口を歪めたかと思うと、音速を超えた速度で動き、拳を鋭く叩きこんだ。
 彼の左半身に刻まれた梵字の魔術回路が、グラビティに呼応して赤黒く輝く。
 加護が砕けたのを視認するとデニスが動く。
『腹を空かせているようだ――味わってみるか?』
 月獣の爪(オニュクス)により、影より出でた月のごとき銀狼が、朝霧の中、咆哮を上げる。瞳を赤く輝かせて高く駆けて飛ぶ狼が、鋭い爪で攻性植物を破壊しようとする。
 響はケルベロスチェインを地面に展開し、前衛達を守護する魔方陣を描き上げる。
 同じく、彼女の黒いウイングキャットのフォンも清浄の翼を広げて仲間を守る。
 シーラは雷の壁を形成してさらに力を高めていく。
 レベッカは古代語で魔法の光線を放ち、攻性植物を石化しようとする。
「大丈夫ですか? 絶対助けますから!」
 綾子に声をかけるカレン。
『エル・エステル・プリズマ・アステル。魔法の矢よ、標的を射ち抜け』
 カレンは魔矢『プリズム・ボルト』の七連射開始。
 呪文を唱えてステッキを振り、パステルカラーの虹色に輝く魔法の矢を発射。初撃だけ詠唱した後は、プリズム☆プリンセスロッドを振る度に虹の矢が敵にめがけて飛んでいく。
 フレアはカレンの隣で仲良く『封じられた太陽』を振り上げて竜砲弾を撃っていく。
 確実にダメージを与えて行くケルベロス達。
 その動きを見ながら、プルトーネがおもむろにショック打撃と魔術切開を駆使しながら緊急手術を攻性植物に行う。ヒール不能ダメージが直撃。
 彼女のテレビウム、いちまるの凶器攻撃。

「ファァ……オォオオオ……!」
 醜悪な異形となったオレンジの花からうなり声を上げながら攻性植物は、その花を不気味に輝かせ始める。
 怪しい光の花が飛び散ったかと思うと、火花は前に出ていた雨生を狙った。
 その途端にレベッカがさらに前に飛び出る。
 光花形態を受けて燃え上がるレベッカ。

「大丈夫! あなたはわたしが治してあげる」
 プルトーネがライトニングロッドで雷の壁を構築。
 雨生とレベッカを守る。
 いちまるがテレビフラッシュで攻性植物の注意を引く。
「……あぶないわね」
 響は冷静に気力溜めでオーラを飛ばし、レベッカを即座に回復。
 主人の動きに合わせて、フォンはキャットリングで攻性植物を攻撃した。
「辛いだろうけど、もう少し耐えて。そこから必ず、助け出すから」
 攻性植物が怒りにぶるぶると震え、綾子の顔色が真っ青になっているのを見て、雨生はマインドリングから光の盾を取り出すと攻性植物へヒール不能ダメージを蓄積していった。
「少しの我慢だよ。元の日常に戻るまで、少しの、我慢だ」
 デニスは綾子を落ち着かせるためにゆっくり言葉を紡ぐ。
 そして、流星を散らしながら重力を帯びた跳び蹴りを攻性植物に行い、確実にバッドステータスを溜める。
「必ず助けますから安心してください!」
 連携してシーラは再び攻性植物にウィッチオペレーション。
「は、はい……」
 綾子は弱々しい声で返事をする。
 カレンはプリズム☆プリンセスロッドを振ると、小動物を射出して攻性植物の傷口を攻撃。
「おっと~こんな所に由緒ある魔法のレアカードがぁ~」
 突然胸から光を出すカードを取り出すレベッカ。
「ぴよこぉ!?」
 つられて捕まえようとするカレン。
「アタシは程よく敵を叩くよ!」
 フレアはその援護射撃を受けながら、電光石火の蹴りを抜き放ち、攻性植物を麻痺させていく。
「カレンよ。魔法少女は踊りながら戦場ヒールするって聞いたがの~?」
 そして立ち直ったレベッカが半透明の「御業」で攻性植物を掴み上げ、捕縛した。
 とぼけた口調でそんなことを言う姉に愛して、カレンは周囲の視線を気にしてああふた。
「ちょおま」

「グォォァアア!」
 確実に溜められるヒール不能ダメージ、そして通常ダメージ。
 その苦悶に攻性植物は狂ったような咆哮を上げる。
 そして攻性植物の根が……幹が……。
 地面に接している部分が次々と融合を果たし、地鳴りを上げ始めた。
「逃げろ!」
 飛びすさる雨生。
 しかし、間に合わず、攻性植物は地面に巨大な亀裂を走らせる。
 埋葬形態により飲み込まれていく響、デニス、プルトーネ、フレア。
 悲惨な悲鳴を上げながら苦しむ仲間達。
 いちまるが応援動画で懸命にプルトーネを回復する。

 間髪入れずにレベッカはゾディアックソードで地面に守護星座を描くと仲間を回復していく。
 それを受けて響は再びサークリットチェイン。
 フォンは再び清浄の翼を広げる。
『エル・エステル・プリズマ・アステル。魔法の矢よ、標的を射ち抜け』
 カレンは再びステッキを振りかざすと、虹色の矢を勇敢に撃ち放つ。
『うみみゃあああァァァーーーッ!』
 連携した波状攻撃のように、フレアは限定解放・爆熱波(フレアインパクト)を使う。
 フレアの地獄化された心臓の鼓動に合わせ、『封じられた太陽』が持つ膨大な熱量を喚起すると、渾身の力をこめてハンマーを振り下ろす。同時にごく限定的な範囲にその熱量を解き放つ大技だ。派手な爆発、そして轟音。
「せっかくの金木犀のお花がこんな変な植物に……絶対負けないもん!」
 プルトーネはそれらの攻撃と攻性植物を見比べて、ウィッチオペレーションでヒール不能ダメージを溜める。
「お姉ちゃんはお散歩が好きなんだね。お花好き? 私もお花大好きだよ」
 そして恐がっている綾子に、明るい笑顔で話しかけた。
『――味わってみるか?』
 月獣の爪(オニュクス)で再び銀狼を呼び、攻性植物を獣の爪で引き裂いていくデニス。
 デニスの動きを見て雨生は畳みかける。
『血に応えよ――天を喰らえ、雨を喚べ。我が名は天喰。雨を喚ぶ者』
 第壱帖丗肆之節・塵核(カワキノココロ)、一族に伝わる雨呪を詠唱する雨生。
「これで、お仕舞い――枯れ落ちろ」
 第零帖壱之節・解天により敵を解析。解析した敵が保有する水気と自らの魔力をシンクロさせると、掌底で撃ち込む。衝撃の後、体内へと入り込む波動は水気に混じり、融け込むが、それらを急速に吸収。敵を内から炙るようにひからびさせるのだ。
 外見は何も変わらない--だが塵となりはてる攻性植物。
 そこにシーラが確実にウィッチオペレーションでヒール不能ダメージを送り込んだ。

「グォオ……」
 微かに攻性植物のうなり声は消えて行く。
 そして、幹が何度も大きくうねったかと思うと、綾子の体が一気に吐き出されたのだった。


 戦闘後、ケルベロス達は戦場だった箇所にヒールと片付けを施した。
「また素敵なお散歩できるといいね」
 プルトーネが綾子に声をかけ、デニスが顔色の悪い彼女にヒールをした。
「ありがとうございます……これからは気をつけます」
 綾子はすっかり恐縮しきった様子で礼を言っていた。
「姉の愛じゃ」
 レベッカは錫杖の柄でカレンをフレアの方に突き飛ばした。
 カレンはフレアを抱き締めて押し倒す格好になり、偶然にもキスする形になってしまった。
「うみゃああああッ!?」
 慌てるフレア。キョドるカレン。すっかりコメディ調である。
 一方、響は掌に落ちる金木犀の花弁を見つめていた。
「守るのは――誰でもない、わたしのため」

 ケルベロス達はまた一つ事件を解決した。
 早朝から朝の時間に過ぎていき、暖かい太陽の光が彼らの笑顔を照らし出していた。

作者:柊暮葉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年11月3日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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