創世濁流撃破作戦~兎、兎、なに見て跳ねる

作者:一条もえる

「すごいですね。これがハロウィンの魔力ですか」
 モザイクで覆われた空間、ワイルドスペース。
 あたりにはスロットマシンやラシャの張られたテーブルがブロック状に断裁され、歪に融合して積み上がっていた。
 ひとりの女が目を細め、感心したように笑みを浮かべている。
「本当に、すごい。これほどの力があるならば、世界は濁流と化す。わたくしのワイルドスペースが、世界を覆い尽くすでしょうね」
 奇妙な姿をした女だ。バニーガールのような赤い衣装に押し込められた豊満な肉体は、なかば溢れてその存在を主張している。背には羽根、そして尻には尾。何より目立つのは、頭から生えたウサギの耳。
「いくつものワイルドスペースがケルベロスによって破壊されているという話ですけれど……」
 女は、片方の耳にかかった黒い王冠を弄びながら、呟く。
「この『創世濁流』作戦の前には、手も足も出ないでしょう。
 王子様のためにも、この作戦は必ず成功させてみせましょう。『オネイロス』を増援として差し向けてくださったんですから」
 そう言って女は再び目を細め、企みを秘めた笑みを浮かべた。

「イベントの後に悪いんだけど、緊急事態なの。
 お菓子が足りなかった? うん、それはそうなんだけどね」
 ミトンをはめた崎須賀・凛(ハラヘリオライダー・en0205)が、ケルベロスたちの方を振り返る。
 チーンと音を鳴らしたオーブンの鉄板を取り出すと、そこにはカボチャだの帽子だの、様々な形のクッキーが並んでいる。
「味見。もぐもぐ……。うん、おいしい!」
 緊急事態とはそうではない。
「ジグラットゼクスの『王子様』っていうのが、すごい作戦を開始したみたいなの。
 その名も、『創世濁流』。六本木で回収したハロウィンの魔力を使った、大作戦よ」
 焼きあがったばかりのクッキーを瞬く間に平らげ、凛は再びオーブンの扉を閉める。
「もぐもぐ……。
 このまえから、日本中でワイルドスペースの出現が報告されてるでしょ?
 そこに、ハロウィンの魔力が注ぎ込まれて膨張し始めちゃってるの。このままじゃ、近くのワイルドスペースとぶつかり合って大爆発。ついには合体しちゃって、日本中を覆い尽くしちゃうわ。それが敵の狙いみたいなのよ」
 味見してみて、と、凛は再び焼きあがった大量のクッキーを押しつけてきた。
 かっぽんかっぽんと型を使って生地をくりぬき、三たび、オーブンが奮闘を開始する。
「もぐもぐ……。
 幸いに、ね。今までみんながたくさんのワイルドスペースを破壊してきたから、すぐに日本中を覆い尽くすほどではなさそうなの。
 だから今のうちに、敵をやっつけちゃいましょ」

 ワイルドスペースは、モザイクに覆われた奇妙な空間である。
 もともとはアミューズメント施設かなにかだったようだ。置き去りにされた物品が不可思議に融合し、立体的に組み上がっている。入り組んではいるが、広さはさほどではない。
 中は粘性のある不快な液体で満たされている。最初は戸惑うだろうが、戦いに不都合はないだろう。
 そこにいるワイルドハント……ウサギの耳をはやした奇妙な女が、ここにいる一同の敵となる。
「もぐもぐ……。
 ただ、ちょっと気をつけておいてほしいんだけど」
 と、凛が注意を促してきた。
「『オネイロス』っていう組織からの援軍が、この空間に派遣されてきてるみたいなの。
 トランプの兵隊って知ってる? そんな感じのドリームイーターみたい」
 しかも、総勢5名程度の、幹部級と思われる動きも察知されている。
 言うまでもなく、その強さは通常の敵を遙かに上回る。
「幹部がどこのワイルドスペースに現れるかは……ごめんね、ちょっとわからないの」
 珍しく眉を寄せて申し訳なさそうな顔をして、凛は人の口にクッキーを押しつけてくる。
 増援は1体。ワイルドハントと同時に戦う事になるため、苦戦は必至だろう。
 ワイルドハントを倒せばワイルドスペースは崩壊し、オネイロスの増援は撤退するだろう。そちらの撃破も狙うのなら、ワイルドハントは後回しということになる。
 特に、幹部が増援に現れた場合だ。
 敵の作戦の核を成す幹部を倒すことが出来れば、今後の作戦が有利に働くだろう。
 もっとも、生半可な対策では幹部には返り討ちに遭い、ワイルドスペースの破壊には失敗しという事態にもなりかねないのだが。
「その辺りの対策は、私がここで考えてもどうしようもないから。
 みんなの判断に任せるわ。お願いね」
 そう言って凛は、片目をつぶる。

「悪い子たちにはお菓子もあげないし、悪戯も許してあげないわ。
 ワイルドスペース化、絶対に防いでみせましょ!」


参加者
村雨・ベル(エルフの錬金術師・e00811)
比良坂・黄泉(静かなる狂気・e03024)
レベッカ・ハイドン(鎧装竜騎兵・e03392)
パトリシア・バラン(ヴァンプ不撓・e03793)
アリュース・アルディネ(魂喰らい・e12090)
旋堂・竜華(竜蛇の姫・e12108)
響命・司(霞蒼火・e23363)
流水・破神(治療方法は物理・e23364)

■リプレイ

●モザイクの兎
 アミューズメント施設だった一角。そこはモザイクで満たされていた。
「初めて中に入りますけど、なかなかおもしろい空間ですね。
 無害なら、何かおもしろい遊びにでも利用できないかと思いますけど」
 いったいどんな物理法則で成り立っている空間なのか? レベッカ・ハイドン(鎧装竜騎兵・e03392)は興味深げに辺りを見渡した。
 残念だが、ここは無害とはほど遠い。
「……今回は、ふたり」
 豚まんを飲み込んだ比良坂・黄泉(静かなる狂気・e03024)が呟く。
「気合いを入れないとね」
「ワイルドな戦いの予感に、心躍りますね」
 村雨・ベル(エルフの錬金術師・e00811)は頼もしいことを言ったが、
「嘘です。強がりです。本当は帰りたいですけど……」
 と、周りを窺っては身震いした。しかしここに関心がないわけではないし、ケルベロスとしての使命感が、放置したままにすることを許さない。
「次から次と現れようが、やることは変わらん」
 響命・司(霞蒼火・e23363)はそう言って、階段のように積みあがったスロットマシンを見上げた。
 それを、流水・破神(治療方法は物理・e23364)が蹴り倒す。単に積みあがっているだけではなく各所が融合していたのではあるが、さながら発泡スチロールのように割れて砕けてしまった。
「……脆いな」
 不機嫌そうに鼻を鳴らし、くわえていたシガレットチョコをバリバリと噛み砕く。
「サッサと片づけて、このクソッタレな空間をブチ壊せばいいってことだ」
「そのとおり。現れる者は、炎の華で散らせるのみ……ですわ」
 そう言って旋堂・竜華(竜蛇の姫・e12108)は、微笑む。
「言うはヤスシなんデスけどねー。ま、ガンバリマショウ!」
 パトリシア・バラン(ヴァンプ不撓・e03793)が、拳を握りしめたときだ。
「果たして、止められるのでしょうか?」
 折り重なったビリヤード台の向こうから、聞き覚えのある、しかし本人とは似ていない口調の声が聞こえてきた。
 王冠のかかったウサギの耳を持つ女。その顔は。
「にゅふふふふ、まさか、本当に私にそっくりな偽者が出てきてしまうとは……」
 細い目をいっそう細め、アリュース・アルディネ(魂喰らい・e12090)はワイルドハントの方に向き直る。
「ハレンチな格好をして、ずいぶんと真面目なことを言ってますが!
 特訓でちょーレベルアップした私の敵ではありませんッ!」
 アリュースが、懐から取り出したスイッチのボタンを押す。
 屋内のあちこちで一斉に爆発が起こり、敵の姿は巻き上げられた砂塵の中に消えた。
「にゅふふふふ、速攻撃破ですよ皆さん!」
「そうだね」
「お任せください!」
 その声に応じて、黄泉とレベッカが跳ぶ。
「できるものかしら!」
 ワイルドハントが巨大なモザイクを飛ばしてくる。それは黄泉を包み込み、知識を奪っていく。
「負ける、わけには……!」
 しかし歯を食いしばってそれに耐え、再び地面を蹴って飛び上がる。
 そしてレベッカとともに、流星の煌めきと重力のこもった飛び蹴りを叩き込んだ。
 すかさず、ベルは杖を掲げる。
「回復は任せてください!」
 雷の障壁が黄泉の傷を癒し、敵の攻撃から仲間たちを護る。
「では、行きマスよーッ!」
 パトリシアの放った氷結の螺旋が、敵に襲いかかる。
「ふふ……簡単に倒せると思わないでください」
 跳び蹴りを喰らってよろめいていたワイルドハントだったが、寸前で身をよじる。氷結の螺旋は肩に命中したが、傷は浅い。
「アリュース様の偽者……この炎の華で、散らせていただきます!」
 竜華がケルベロスチェインを動かした、そのときだ。
「ヒョオオオオオッ!」
 奇声とともに、スロットマシンの瓦礫を蹴散らして敵が飛び出してきた。
「チッ!」
 襲い来るモザイクの前に、破神は吐き捨てるように舌打ちして立ちはだかった。破神の全身をモザイクが包み、知識を奪われて身体から力が抜ける。
「現れたな、増援か!」
 司が跳ぶ。敵は、巨大なトランプに頭と手足が生えた、奇怪な姿である。何かの物語で、見たことがあるような姿。
 観察しつつも、司の蹴りは『オネイロス』の増援の土手っ腹に命中し、敵をスロットマシンの残骸の中に吹き飛ばした。
「これは、戦い甲斐がありますね。ひとときの逢瀬、楽しみましょう♪」
 歌うように敵に語りかけ、竜華が増援に狙いを定めてケルベロスチェインを放つ。それは狙い過たず、増援を絡め取って締め上げた。
「オネイロスとやらの動きも気になります。逃がすわけにはいきません」
「面白いならなんだってかまいやしねぇぜ、俺様はよ!」
 破神の構えたバスターライフルから放たれた光線が、増援を押し包んだ。敵は思わず、手にした槍を取り落とす。

●オネイロスの兵隊
 新たに現れたオネイロスの増援。
「幹部では……なさそうですね」
 その姿を観察したベルが呟く。根拠があるわけではないが、まぁ、あの姿を見る限り、似たような姿を持つ者は多数いそうであるし。
 しかし、強敵には違いない。ケルベロスたちはまず、増援に狙いをつけて攻勢に出る。
「ワイルドハントだろうがオネイロスだろうが……すべて壊れろ、デウスエクス!」
「ヒョオッ!」
「ち……!」
 司は敵を睨み据え、極限まで集中した精神力で爆発を引き起こしたが。敵はギリギリのところでそれを察知し、飛び退いた。
「間抜けな姿の割りには素早いじゃないか」
「デモ、終わりじゃありまセン!」
 飛び込んだパトリシアのチェーンソー剣が、トランプの数字が見えなくなるほど、ズタズタに敵を引き裂いた。
 たまらず敵は退き、その傷口をモザイクで覆って補修する。
「させるかよ!」
 破神が増援に向け、カプセルを投じる。それは対デウスエクス用のウイルスカプセル。これで、敵は回復もままなるまい。
 ケルベロスたちはさらに間合いを詰めて、増援に手傷を負わせていく。
「では、撃ちますよ!」
 レベッカが、脇に抱えたアームドフォートの狙いを定める。狙いははずさない!
 しかし、増援に対して意識を向けた隙を、ワイルドハントが見逃さなかった。
「あら、わたくしのお相手はしていただけないの?」
「ッ!」
 懐に入られていた。主砲の狙いがそれる。
 飛び跳ねるように、敵は蹴りを叩き込む。10センチはあろうかというヒールが、レベッカの胸板に食い込んだ。
 堅いヒールは肉を貫き、骨を砕く。衝撃にレベッカは吹き飛ばされ、ビリヤード台を真っ二つに割って大の字になった。
 大きく息を吸い込んだとき、激痛が走り、続けて夥しい血を吐き出す。折れた骨が、肺を傷つけたか。
 それでも気丈に立ち上がろうとしたのだが、その眼前に立ちはだかったのは、忘れることのできない過去のトラウマ。
「うあ……ッ!」
「……!」
「あらら……」
 黄泉が息をのみ、アリュースが苦笑するように目を細める。
 しかしふたりは眼前の増援を仕留めんと、そちらに攻撃を仕掛けた。
 アリュースの放った黒色の魔力弾に敵は捕らわれ、襲い来る悪夢にのたうち回る。
 そこに、大斧が大上段から振り下ろされた。
 かろうじて頭蓋骨を粉砕されることこそ避けたが、増援はよろめいて背後の壁……と見えた横倒しになったルーレット台に手をついた。
「ぺらぺらの身体のくせに、しぶといんだね」
 思わず、間の抜けた感想を漏らしてしまう。
「ワイルドハントだけでも油断ならない相手だというのに……加えてオネイロスの増援ですからね」
 苦戦は必至であろう。しかしそう言う竜華の口の端は、笑っているかのように持ち上がっている。
 敵は、強ければ強いほど倒しがいがある! 竜華は全身を覆うオウガメタルを蠢かせた。
 しかし、増援にもその感情が伝わったのか、できるものかと言わんばかりに、槍を構えて突進してきた。
 速い! さきほど竜華が放った鎖の影響など感じさせぬ速さで、槍の穂先が襲いかかった。
 たまらず膝をつくが、気丈にも顔を上げて敵を睨む。いや、目の前にいたのは敵ではなく。
 自分ではないか。衝動のまま、無闇に他者を殺戮しようとする、自分。
「……私の望みは戦うことで、殺戮することじゃないんですよ!」
 脂汗がにじみ出る。
「竜華さん!」
 ベルが叫ぶ。しかし、先ほど負傷したレベッカの手術に手を取られている。
「お前はそっちに構っとけ! 俺様がやる!」
 前に進み出た破神が盾となって、敵の放ったモザイクに大槌を叩きつけ、打ち落とした。まったくの無傷というわけにはいかなかったが、
「この程度で俺様が倒れるわけにはいかねぇ。
 動くなよ……これで治るぜ!」
 そう言って、槍が貫いた竜華の肩をバチーンと叩いた。
「……痛いですよ。それで治るのだから、文句も言えませんけど」
「地元じゃ、叩いて治すのが当たり前だったぜ」
「どこです、それ?」
 肩をすくめた竜華が、全身からオウガ粒子を放出させる。敵の素早い動きさえも見逃さない超感覚が、ケルベロスたちに目覚めた。
 それにもかまわず、敵は嵩に掛かって仕掛けてきたが、
「ゆずにゃん!」
 司と、そのウイングキャット『ゆずにゃん』とがその前に立ちはだかった。繰り出されるハイヒール、スペードの形をした槍の穂先が彼らを傷つけたが、
「この程度! 突破させないのが、俺たちの役目だからな!」
 と、地が振動するほどの大声で叫んだ。その気合いが、傷さえもふさぐ。
「いいフォローだったぞ。いつも通りの、な」
 司は従者を見下ろして、笑った。
「強がりは言わない方がいいですわよ。苦しみが、長引くだけ」
「強がりなものか」
「そう?」
 ワイルドハントは目を細める。
 敵は左右に散らばってゆっくりと間合いを詰めてきた。ワイルドハントは高いヒールで器用に跳躍し、ジャングルジムのように折り重なったスツールの上に立った。
「どうデショウネ? このまま押していきたいところデスガ……」
 敵、そして味方の双方を見やって、パトリシアが呟いた。敵にも少なからず傷を負わせているが、一方でこちらの負傷者も多い。特に、ワイルドハントからトラウマを浴びたレベッカの傷が深い。仲間たちをかばう司や破神にも、疲労の色が濃くなっている。
「俺の心配などいらない。まだやれる」
「まだ足りねぇよ。もっと楽しませろ!」
 と、司と破神とは強気な態度を崩さない。
「了解デス! 敵を見逃すなんてアリエナイってことデスネ!」
 肩をすくめて笑ったパトリシアは地を蹴って、増援に迫る。
 後方からレベッカがバスターライフルを構え、魔法光線を発射した。
「ナイスデス!」
 パトリシアのチェーンソーがうなりをあげ、敵の傷跡をさらに切り裂いて広げた。
「ヒョオッ!」
 それでも敵は反撃のモザイクを飛ばしてきたが、幾たびも受けた攻撃のせいか、狙いは確かではない。パトリシアは女豹を思わせるしなやかな動きで、それを避けた。
「いーじーえいとさん、あとはよろしくね!」
 回復を自らの従者、シャーマンズゴースト『イージーエイトさん』に任せたベルの眼鏡が、キラリと光る。
「拘束制御術式三種・二種・一種、発動。状況D『ワイズマン』発動の承認申請」
 それは、敵を追尾するためのターゲットスコープ。ベルの体中に、無数の魔法陣が浮かび上がり、そこから奔流のように霊鎖が現れた。
「『敵機の完全沈黙まで』の能力使用送信……限定使用受理を確認。
 ……畳みかけますッ!」
 増援は鎖から逃れようとしたが、それはどこまでも敵を追う。ついにその身を捕らえ、鎖を伝って雷が襲いかかった。
「にゅふふふふ。全身が痺れて、うまく動けない?」
 アリュースが身に纏うブラックスライムが、鋭い槍のように形を変えていく。

●モザイクは崩れ、消え失せる
「……存外、頼りになりませんでしたね」
 目を細めて、ワイルドハントがため息をつく。
 アリュースのブラックスライムと黄泉のパイルバンカーとに貫かれ、オネイロスの増援はトランプの身体に大穴を開けて崩れ落ちた。
「にゅふッ、次はあなたの番よ」
 珍妙な笑い声をあげるアリュースの傍らで、黄泉がパイルバンカーを構えてワイルドハントを睨む。
「観念してよね、偽者!」
「うふふふ!」
 しかし、敵は地獄の炎を纏った竜華の得物を跳躍して避け、くるりと一回転して蹴りを放ってきた。
 立ちはだかって、それをまともに喰らった破神だったが。
「倒れてたまるかよ。倒れるのは……気合いが足りねぇんだ!」
 襲い来るトラウマに耐えつつ、叫ぶ。オウガ粒子が光を放った。
「さぁ、やっちまえ!」
「四十八つ裂きにするワヨ!」
 応じたパトリシアは宣言したとおり、両手に構えた得物で、敵をバラバラに引き裂いていく。
「足を止めます!」
 敵はそれでも、致命傷だけは避けようと身をよじり、飛び下がろうとしたのだ。
 それを見たレベッカが、横合いから跳び蹴りを放った。ワイルドハントがスツールをなぎ倒して転がっていく。
「く……!」
「にゅふふふふ、笑顔がなくなってるわよ」
 アリュースが、体内の快楽エネルギーから生み出した球体を投げつける。
「快楽はばくはつです~!」
 その派手な爆発が収まる前に、司と竜華とが間合いを詰めた。
「すべて壊れろ、デウスエクス! これがテメェらの送り火だ!」
「一気に焼き尽くして仕留めさせていただきます♪
 舞い散れ! 炎の華!」
 司の右腕から蒼い炎が、そして竜華の放った真紅の炎を纏った鎖とが敵に襲いかかる。司の拳と竜華の剣とがワイルドハントを打ち、蒼と紅の炎が混じり合って渦を巻きながら、敵を焼き尽くしていった。
「あああああああッ! これでは、王子様の、計画が……!」
 最後に残ったのは、耳にかかった黒い王冠。しかしそれも、灰となって崩れ落ちた。

「そんなの、知ったことかクソッタレ」
 ワイルドハントの最期を見届けた破神が、ついに力尽きて大の字に倒れる。
「わぁ、しっかりしてください破神君!」
 駆け寄ったベルが、慌てて手当を始めた。
「煙草が吸えるんなら、すぐに起き上がれるんだがな……クソッ」
 ワイルドスペースが崩壊していく。主を失った空間からはモザイクがはがれ落ち、何事もない日常へと戻っていく。
 しかしアリュースは眉を寄せて小首を傾げたのち、「にゅふふ」と笑った。
「あれが最後の私の暴走した姿だとは思えない。きっと第2、第3のワイルドハントが!
 ……なんてことになったら、どうする~?」
「勘弁してくれ」
 司が心底嫌そうに、渋面を作って頭を振った。暴走するような絶体絶命の危機には、なんとか陥らずに済んだというのに。
「他の場所でも、決着はついたのかな?」
 最後までワイルドハントを見つめていた黄泉が、仲間たちの方に振り返った。
「……一息ついて、吉報を待とうか。みんな、何か飲む?」
 きっと、日本中で激闘は繰り広げられたに違いない。そして、ケルベロスたちは勝利したに違いないのである。

作者:一条もえる 重傷:レベッカ・ハイドン(鎧装竜騎兵・e03392) 流水・破神(治療方法は物理・e23364) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年11月15日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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