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それは、ハロウィンの賑わいからは遠く離れた山奥での出来事。
「これがハロウィンの魔力か。なるほどなァ、確かに、大したモンだ……これだけの力があれば、俺のワイルドスペースは世界を覆い尽くせるだろう」
モザイクに覆われ、不気味に形を変える空間の中で、大柄な男は徐々に広がっていくその光景を見渡していた。
今にも濁流の如く弾け、世界を覆わんとするワイルドスペース。男はただ静かに、拳を握る。
「来るなら来てみろ、ケルベロス。『オネイロス』を寄越してくれた『王子様』の為にも、この『創世濁流』作戦、必ず成功させてやる……!」
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「諸君、ハロウィンを楽しんでいた所すまないが、緊急の依頼だ」
招集されたケルベロスたちを見渡し、フレデリック・ロックス(蒼森のヘリオライダー・en0057)はやや口早に事態の説明を始める。
「ドリームイーター最高戦力とされているジグラットゼクスの『王子様』が動いた。ヤツは六本木で回収したハロウィンの魔力を使って事を起こそうとしているようだ」
その作戦の名は『創世濁流』。
現在、日本中に点在するワイルドスペースに、回収したハロウィンの魔力を注ぎ込む事で、空間を急膨張、近隣のワイルドスペースと衝突させる事で、最終的に日本全土を1つのワイルドスペースで覆い尽くすつもりらしい。
これまでもケルベロスの活躍により、多くのワイルドスペースを消滅させていたお陰で、すぐに全てが覆い尽くされる事は無いが、それも時間の問題だろう。
「キミたちには、すぐに膨張を始めたワイルドスペースに向かい、内部に居るワイルドハントの撃破をお願いしたい」
問題は、これまでのワイルドハント事件とは異なり、敵が1体ではない点である。
「ワイルドハントはこれまで同様、ケルベロスの誰かが暴走した姿をしている……あるいは、この中の誰かかもしれないし、そうでは無いかもしれない」
これに関しては、やはり『姿形を偽っただけの存在』である事も同様だろう。
そして、もう1体。トランプの兵士のような姿をした、恐らく予知の内容から『オネイロス』と言う組織から派遣された援軍と思しきドリームイーターが確認されている。
「今回はこの2体と同時に戦う事になる。言うまでもないが、苦戦は必至だと思ってくれ」
高い攻撃力を持ったオネイロスの援軍と、妨害による支援に特化したワイルドハント、どう対策をしていくかは十分過ぎる程に話し合う必要があるだろう。
しかし、ワイルドスペース自体はワイルドハントさえ倒せば消滅し、その場合オネイロスの援軍はそのまま撤退するようだ。
作戦を阻止するならばワイルドハントを狙うのが得策と言える。
「……のだが、これにも1つ懸念がある」
思案するように眉根を寄せながら、フレデリックは続ける。
「これは恐らくだが、特に重要となるワイルドスペースには、ただの兵隊ではなく幹部クラスの強力なドリームイーターが増援に来ると考えられる」
それがどのワイルドスペースか、そこまでは判断は付かないが、その戦闘力は兵隊の比ではないだろう。
当然、その場合は非常に熾烈な戦いとなるのも当然だ。
「しかし、逆に言えば敵の幹部を倒すチャンスになるとも言える……難しい判断になるが、そこも考慮に入れる価値は十分あるだろう」
纏めるとこうだ。
まず、大前提としてはワイルドハントさえ倒せばワイルドスペースは消滅、オネイロスの増援は撤退しこちらの作戦は成功となる。
しかし、いくつかの戦場にはオネイロスの幹部が増援に来ると思われる。これをこの場で倒す場合は相当険しい戦いになるが、倒せれば今後の作戦に置いて有利に働くだろう。
「いずれにしても過酷な戦いとなる。だが、何としても創世濁流作戦を阻止し、無事に戻ってきてくれ。それでは、頼んだぞ」
参加者 | |
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グーウィ・デュール(黄金の照らす運命・e01159) |
アイヲラ・スレッズ(羅針盤の紡ぎ手・e01773) |
クラト・ディールア(双爪の黒龍・e01881) |
ウォーレン・エルチェティン(砂塵の死霊術士・e03147) |
アウィス・ノクテ(ルスキニア・e03311) |
クレア・エインズワース(陽色の獣・e03680) |
ルリナ・ルーファ(あったかいきもち・e04208) |
シータ・サファイアル(パンツァーイェーガー・e06405) |
●
ちぐはぐに繋ぎ合わされた景色。奇妙な粘液に覆われた空間。『ワイルドスペース』と呼ばれるその空間に、ケルベロス達は侵入していく。
「もう何度も来てるけど、全然慣れないの……世界の全部がこんな風になっちゃったら、お気持ち悪くなっちゃう」
見上げても見回しても、常軌を逸した光景にルリナ・ルーファ(あったかいきもち・e04208)はげんなりとため息を零す。
そうならないためにも、創世濁流作戦を止めなくてはならない。そのために必要な事は1つ。
「ハッ! ルリナ様、危ない! ですわ!」
瞬間、空を切る弾丸と共に、銃声がワイルドスペースを駆け抜けた。
戦火を纏い強襲する銃弾の嵐を前に、咄嗟に飛び出たのはアイヲラ・スレッズ(羅針盤の紡ぎ手・e01773)。
「流石に、そう簡単にはいかねェか――っと、何だ、俺と同じ顔がいるじゃねェか」
銃弾が止んだ直後に姿を現したのは、ウォーレン・エルチェティン(砂塵の死霊術士・e03147)と同じ顔をした、大柄な男……ワイルドハントであった。
「予知でわかっちゃあいたが……本当に瓜二つ、大した男前じゃねェか。しかも、似たような術まで使うと来たモンだ。……嫌ンなるねェ、全く」
山の傾斜をゆっくりと降りてくるワイルドハントを睨み、ウォーレンはその周辺にちらつく人影のようなものに視線を巡らせる。
地の底より這い出るようにして半身を浮かばせ、こちらに銃口を向けるそれは、全て亡霊だ。
「ほう、お前も亡霊使いってェわけだ、ケルベロス? どっちが上手か、勝負と行くか?」
「――遊んでいる暇はないぞ、ワイルドハント」
挑発的な笑みを浮かべるワイルドハントとの間に走る、一触即発の空気。
だが、まるでその空気ごと場を撫で斬りにするようにして、不意打ちの斬撃がケルベロス達を襲った。
その刃を携えるのは、奇怪な姿のドリームイーターであった。
「創世濁流作戦の邪魔はさせん、我らオネイロスの名に賭けて!」
形容するならば、それはトランプの兵士。予知されていたもう1体の敵と見て間違いないだろう。
「こいつが……オネイロスからの増援か! こいつはこっちで抑えるので、手筈通り頼みます!」
「みんなで楽しんでいたハロウィンを邪魔するような無粋な奴らには言われたくはないわね。……その作戦、止めさせてもらう!」
斬撃から仲間を庇いつつ、クレア・エインズワース(陽色の獣・e03680)とシータ・サファイアル(パンツァーイェーガー・e06405)がトランプ兵へと向かっていく。
「オネイロスを抑えてるうちに俺を片付けようってか? そうは――」
「行かせるんだよ、俺たちでな!」
再び死霊術を準備するワイルドハントを、ウォーレンとアウィス・ノクテ(ルスキニア・e03311)の猛火が襲い、その炎を刃に走らせクラト・ディールア(双爪の黒龍・e01881)が一気に押し込んでいく。
「まねっこさん、今回も勝つから。すぐ終わらせて、みんなで帰るよ」
「そういう事ですので、手短に行かせて頂きます」
狙うは飽くまでもワイルドハントの撃破によるワイルドスペースの消滅。つまり、創世濁流作戦の阻止だ。
「残念ですが、明日も明後日も平和な日々が続くでしょうね。こんな風に」
グーウィ・デュール(黄金の照らす運命・e01159)の剣が煌めき、仲間達を星座の守護が照らしていく。
まるで、その予言めいた言葉を裏付けるように、輝きは仲間達を癒やしていくのだった。
●
「邪魔をするならば、まずは貴様らから始末する!」
「臨む所だ、やってみろ!」
この勝負、その流れは考えうる限り最速で決する事になるだろう。
詰まる所はワイルドハントの撃破が先か、それを妨害しようとトランプ兵がクレア達の戦線を突破するのが先かだ。
「悪いが、そう簡単にはやらせない!」
だが、的確な攻撃によりトランプ兵の視線を引き付けるクレア、その剣撃の威力をエネルギー光弾による支援射撃で抑えるシータの連携は安々とは崩れない。
「ちっ、流石に戦い慣れてやがる……だが、俺も王子様からここを任されてるンでな、『そう簡単には』ってのはこっちも同じなンだよ!」
「その王子とやらに会ってみたいものですね。もちろん、顔面に武器を投げて差し上げるのです」
だが、敵2体の単純な戦力はこちら1人1人よりも上だ。上手く戦線を分断しているとはいえ、戦況は熾烈を極める。
「なので、貴方との戦いで足を止めるつもりはありません!」
クラトの繰り出す斬撃を受けつつも、ワイルドハントは死霊術を展開する。
苦悶の混じる呻き声を吐き散らしながら溢れ出る亡霊。伸ばした手は掴んだ肉を抉るほど強く、生に縋るように決して離そうとしない。
「苦しそう……みんな、泣いてるみたい」
「あの野郎、そこらに漂ってる亡霊を無理矢理に使役してやがる……!」
ワイルドハントは、確かにこちらの姿を真似ているが、それは姿だけ。
似たような技を使うとしても、その根幹や理念までが同じとは限らない。そして、このワイルドハントが用いる術は、本職のウォーレンはおろか、アウィスの目から見ても凄惨たるものであった。
「なに、すぐにお前らも、お前らの仲間も、お前らが守りたいモンも、全部仲間に入れてやるさ!」
「創世濁流作戦が成れば、全ては我らの思いのまま!」
携えた亡霊たちをけしかけながら、ワイルドハントとトランプ兵は敵意を剥き出す。
事実、世界各地のワイルドスペースで繰り広げられている戦いの1つ1つが、世界の命運を賭けているのだ。
「断固として、そんな事はさせませんわ! 私たちが居る限り、此処から先は何事もまかり通りませんわよ!」
だが、だからこそ、ケルベロス達はこの一瞬に全力を尽くす。
2体のドリームイーターからの猛攻を一身に受けるアイヲラ。そして、群がる亡霊をグーウィのオーラが打ち払う。
「トランプに斬り刻まれる運命、亡霊に縛られる運命、この通り、いずれも見えません。見えるのは……そうですね、羊の裁き、とか?」
「どっかーん!」
意味深な言葉に続くルリナの大きな声。しかし、同時にモザイクを突き破る轟雷と、若干気の抜けるめぇめぇと言う響きがそれをかき消す。
落雷と共にトランプ兵の頭上に降り立ったのは、もふもふの雷雲……ではない。静電気を帯びた羊。弾ける電気は地味に、だが確実にトランプ兵の邪魔をする。
「もう、見たくないお姿で嫌な事言うワイルドさんなんて大っ嫌い! これで最後にするんだから!」
●
オネイロスからの増援がどのような戦力であろうと、ケルベロスたちの目的は一貫して創世濁流作戦の阻止だ。
狙いの統一は行動の無駄を無くす、それは確実に戦況に表れていた。
しかし、それでもやっと五分。一瞬でも戦線が崩れれば、そこから敗北に繋がるだろう。
「沈め、ケルベロス!」
そんな中、トランプ兵の剣尖が守りの要を担っていたアイヲラを貫いた。
同じく、前線に立つクレアもまた、限界は近い。ワイルドハントの撃破までもう数手ではあるが、こちらも状況も崖っぷちだ。
「このまま皆殺しにしてくれる!」
「――させるか!」
アイヲラを斬り伏せたトランプ兵の刃が、戦況を決するべく翻る。だが、その前にクレアが立ち塞がる。
「貴様、まだ邪魔をするか!」
「当然だ、アンタ達が俺の大事な居場所を壊そうって言うなら、俺はいつも通り盾で居るだけだ!」
立ち塞がるのはクレアだけではない。限界を超えた体に鞭を打ち、アイヲラもまた、トランプ兵の前に立った。
「淑女たるもの不動の如く。まだ私は立っていられますわ!」
魂を凌駕する叫びは、纏わり付く亡霊をも引き剥がし、痛みを熱の中へと沈めていく。
だが、2人とも最早気力だけで保っているようなものだ。その気迫と言う圧力が、トランプ兵を阻む最後の壁である。
「時間はありませんね、一気に片を付けましょう!」
その気力に報いる方法はただ1つ。クラトの言うようにワイルドハントを倒す事だけだ。
振り下ろされた刃より放たれる蒼閃が、木々を断ち切りワイルドハントへと伸びていく。
「ちっ、もう少しだってェのに、ここでやられてたまるか――ぐっ!?」
「逃さないのっ! クレアんだって頑張ってるんだもん、ボクだって!」
飛び退こうとするワイルドハント。だが、その足首をルリナが放ったブラックスライムが捉える。
「持ち堪えろワイルドハント! 今、援護に――」
「貴様の相手は、まだ私達だ!」
クレアとアイヲラを振り切り、駆け付けようとするトランプ兵を的確なタイミングでシータの砲撃が襲った。
弾幕が阻む隙は、ほんの僅か。だが、その僅かな時間はこの瀬戸際に置いては、何よりも大きい。
「俺の……俺たちの『夢』を貫く為に。次の代へと『幸せ』が廻る世界を創る為に。……手前ェは、潰す。……力を貸してくれ!」
強く描いた想いを、ウォーレンは手にしたドッグタグへと込める。
小さく揺れる鎖の音に呼び寄せられるのは、激しく巻き起こる砂嵐。そして、肉体を失って尚、その理想を夢見るかつての同胞。
「綺麗事を抜かすなよケルベロス! 俺も手前ェも、理想のためにこいつらの魂を利用してンのさ!」
だが、一手早かったのはワイルドハントだった。呼び出された亡霊は戦火を纏い、ウォーレンへと群がっていく。
しかし、同時に動いたのは2人だけではなかった。
「それは、違う。でも多分、あなたにはわからない」
「どうあれ、あなたの理想とやらは叶いませんよ。負けの予言は出しておりませんので」
戦火がウォーレンを蝕むより、グーウィのヒールがそれを打ち消す。
そして、亡霊で溢れたワイルドハントまでの射線をアウィスの謳が抜けていく。
「こいつが邪法なのは否定しねェよ。だが、それでも手前ェらは止めなくちゃあならねェ! 行くぜェ、野郎どもォッ!」
緩やかに軽やかに、心を揺さぶる謳声と、亡霊達の鬨の声がワイルドハントを飲み込んでいく。
間も無くして亡霊と共にワイルドスペースは消滅し、元通りになった森の中を、偲ぶような月明かりが辺りを照らしていくのであった。
●
「いかがなさいます? まだやると言うのなら、お相手致しますわよ!」
纏わり付くような不快な空気はワイルドスペースと共に消え、残されたのはオネイロスからの援軍、トランプ兵。
流石にワイルドハントが倒された今、形勢は逆転したと言えるだろう。これ以上の交戦は、ただ無為な消耗に過ぎない。敵もそれを理解しているのか、アイヲラの言葉を受け徐々にケルベロスとの間合いを離していく。
「ここは見逃すので、王子に『ケルベロスが貴方の首を喰い千切る』と言っておいてください」
「それも占いの通り。……必ず、そうなりますよ」
クラトとグーウィの言葉にも感情らしきものは見せないまま、トランプ兵は夜闇へと消えていく。
「……何とか、凌ぎ切ったみたいね」
「そのようですね。これで、創世濁流作戦も止められればいいんですが」
敵の気配が消えたところで、シータとクレアは小さく安堵の息を零す。
ひとまず、ここのワイルドスペースは消滅させられたが、創世濁流作戦そのものが止められるかは他の箇所に当たった仲間達次第だろう。
「クレアん、お怪我大丈夫!?」
「あぁ、僕は大丈夫。それより……」
心配そうに駆け寄るルリナにクレアは自分の無事を伝え、その視線をアイヲラへと移す。
「いえ、淑女たるもの、こう言う時こそ慌てず騒がず、ですわ!」
自慢の付け髭を指で撫で、胸を張るアイヲラ。しかし、その負傷はかなり大きく、立っているのが辛うじてと言った具合である。
その様子を見兼ねたアウィスは、彼女の肩に軽く手を乗せた。
「無理は駄目。帰って、ちゃんと治そう?」
「そうだな……帰るとするか!」
帰る場所、待っている人を想い、ウォーレンは力強く声を上げる。
ドリームイーターの侵攻や、ワイルドハントとの対峙、考えるべき事は多いかもしれない。だが今は、何よりも自分たちの無事を伝えるために。
作者:深淵どっと |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年11月15日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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