飴細工の芸術・世界で一つだけの猫

作者:白鳥美鳥

●飴細工の芸術・世界で一つだけの猫
「うん、上手くいったな。あの子も、よくこんな姿をしていたっけ」
 洋介は、やっと完成した飴細工を見て、大きく溜息をついた。
 彼の目の前には、大きな飴細工があった。ほぼ、実物大の毬と戯れる縞猫。いわゆる装飾用の飴細工。
 飴細工は、装飾用であっても、いつかは壊れてしまう。それでも、飴細工にしか出せない美しさというものがあり、現物をいつまでも保存しておく事は出来ないけれど、短期間でも多くの人に見て貰えるし、洋介も、同じ美しさを残せないけれど、その姿を写真に収めている。
「……今回の猫は、本当に上手くいったな。先日、亡くなってしまった、あの子に本当に良く似たものが出来た。こんなもの、二度と作れないよ」
 写真に収めよう、そう思った時に、洋介の前に、第八の魔女・ディオメデスと第九の魔女・ヒッポリュテが現れ、そして彼の目の前で思い出の沢山詰まった猫の飴細工は粉々に破壊されてしまった。
「……! なんて事をするんだ! これは僕にとっては特別な……!」
 洋介がそう言い終わる前に、二人の魔女は同時に彼の心臓を鍵で貫く。
「私達のモザイクは晴れなかったねえ。けれどあなたの怒りと、」
「オマエの悲しみ、悪くナカッタ!」
 倒れていく洋介。そこから、大きな縞猫と毬の姿をしたものが現れたのだった。

●ヘリオライダーより
「みんな、飴細工って知ってる? 身近な所だと縁日だったりするけど、装飾用に大きな飴細工を作る事もあるんだよ」
 そう言って、デュアル・サーペント(陽だまり猫のヘリオライダー・en0190)は、事件の概要を話し始める。
「実は、パッチワークの魔女がまた動き出しているんだけど、アルト・ヒートヘイズ(写し陽炎の戒焔機人・e29330)が予知した通りの事件が起きてしまったみたいなんだ。今回のドリームイーターは、大切な物を壊された『怒り』と『悲しみ』から生まれた2体のドリームイーターだ。みんなには、このドリームイーター達が事件を起こす前に倒して欲しい」
 デュアルは続けて状況を説明する。
「今回の被害者は洋介さんっていう洋菓子職人で飴細工が得意な人なんだ。場所は、その洋菓子を作っているキッチンにドリームイーター達はまだ留まっている。夜の洋菓子店のキッチンで、洋介さんしかいないけれど、場所が場所だけに、ヒールで直せるとはいえ、出来るだけキッチンからは離れて戦う方が良いと思う。……といっても誘導出来ても、その先には、普段、洋菓子を売っているショーケースとかもあるんだけど……こちらの方が広さはある。どちらにせよ周囲には被害が出るけど、戦う場所に関しては、みんなにも考えて欲しいな。壊されたものは、猫の飴細工。モデルはどうやら彼の亡くした猫みたいだ。……再現して、もう一度会ってみたかったのかな……。それで、『悲しみのドリームイーター』は、その猫の姿をしている。壊された辛さを心から嘆いているんだ。もう一つは『怒りのドリームイーター』。こちらは、その猫が遊んでいたと思われる毬の姿をしている。このドリームイーター達は、連携しながら戦ってくるよ。……どちらもちょっと大きいから気を付けて戦ってね。それから、このドリームイーター達は、嘆き悲しむ事と、怒りを伝える事しか出来ないんだ。だから、会話は成立しない。残念だけれどね。でも、これ以上、悲しみの連鎖を広げないように、みんなには頑張って欲しい」
 デュアルの話を聞いていたミーミア・リーン(笑顔のお菓子伝道師・en0094)。
「猫ちゃんの飴細工なの? 飴細工っていえば、昔、屋台で作って貰った事があるけど、可愛すぎて食べられなかったの。それが、大きいのよね? どんなのかな……想像がつかないの。でも、洋介ちゃんの大切な猫ちゃんが悲しさと怒りで酷い事をしたら、洋介ちゃんはもっと悲しむの。みんな、手伝ってほしいの!」


参加者
瀧尾・千紘(唐紅の不忍狐・e03044)
朔望・月(既朔・e03199)
アルト・ヒートヘイズ(写し陽炎の戒焔機人・e29330)
瀬入・右院(夕照の騎士・e34690)
櫻田・悠雅(報復するは我にあり・e36625)
宵闇・月夜(地球人の刀剣士・e36673)
フィア・ミラリード(自由奔放な小悪魔少女・e40183)
ココ・チロル(一等星になれなかった猫・e41772)

■リプレイ

●飴細工の芸術・世界で一つだけの猫
 深夜の洋菓子店。そのキッチンに被害者と、悲しみと怒りのドリームイーターが、それぞれ一体ずつ居る。
 ドリームイーターをおびき出すのは、キッチンと隣接している、お菓子などの販売場所のショーケースがある場所だ。
 キッチンに踏み込むのは、瀧尾・千紘(唐紅の不忍狐・e03044)と、フィア・ミラリード(自由奔放な小悪魔少女・e40183)。
 千紘は、まず洋介の位置を確認し、応援に来てくれたイッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)に、安全を確保して貰えるように委ねた。
「壊されてしまったのにゃ……壊されてしまったのにゃ……。とても素敵な姿になれたのに……悲しいのにゃ……悲しいのにゃ」
 さめざめと嘆く飴細工の姿をした縞猫。壊された悲しみをひたすら悲しみ嘆き涙すら零している。その傍では赤い毬が跳ね、怒りを露わにしているようだった。
 が。
 嘆く猫達は、キッチンから動いてくれる様子が無い。とはいえ、わざわざキッチンから引き離す事を決めたのに、攻撃を加えて、結果的にここで暴れ回られても困る。
 嘆く猫達を誘導する為、朔望・月(既朔・e03199)、瀬入・右院(夕照の騎士・e34690)も手伝い、猫達の気を引きながらショーケースの方へと移動を試みる。千紘は、猫達の話を聞く素振りを見せ、他のケルベロスも攻撃では無い方法でショーケースの方に来てくれる様に呼びかけ、誘導を試みた。
 飴細工の猫は悲しみを聞いてほしい。それを伝えられるのならと、少しずつショーケースの方へ移動して来てくれる。その後ろを、赤い毬が跳ねながらついてきた。
 一方で、何らかのきっかけで人が入ってきてしまわないようにと、アルト・ヒートヘイズ(写し陽炎の戒焔機人・e29330)と、ミーミア・リーン(笑顔のお菓子伝道師・en0094)は、協力しながらキープアウトテープを貼っていく。
 ショーケース側で、待ち伏せの形を取るのは、櫻田・悠雅(報復するは我にあり・e36625)と宵闇・月夜(地球人の刀剣士・e36673)、ココ・チロル(一等星になれなかった猫・e41772)。いつでも戦闘態勢に入れる様にしていた。
「ふにゃあああ~ん、ふにゃあああ~ん~、酷い事されたのにゃ、されたのにゃ」
 仲間達に誘導されてやって来る縞猫。その後ろを赤い毬が跳ねて来る。もし、この飴細工の猫が泣いていなくて、毬が怒っていなかったら……遊んでいる姿が見える様な気がした。
「飴でできた猫………。うん、あいつのトコのあいつに耳入らなくて良かったわ」
 飴細工の猫を見たアルトはそう呟く。彼の知り合いの相棒に美味しいものが大好きなボクスドラゴンがいて、喜び勇んで良そうな姿が直ぐに思い浮んでしまった。それと、飴細工の難しさを知っているアルトとしては、この姿を見て……儚い飴細工の風情が無くなっているのも残念で仕方が無い。
「泣いているな、あの猫は」
 悠雅はそう言葉を零す。悠雅には大切な物を失う悲しみが分からない。だから、泣いている猫に、その気持ちを重ねる事が出来ない。だが、このドリームイーター達を倒す事、それは己が役目。まずは、猫の傍を跳ね回る毬に狙いを定める。広い所に出て来た所で飛びかかった。
「煉獄の鎖、かの者を切り刻め」
 地獄の力を集めて鎖を作り上げ、その鎖を悠雅は毬のドリームイーターに向かい放ち縛り上げる。続けて、月夜が精神集中をして爆破攻撃をしかけた。その間にココは悠雅達に向かって雷で出来た壁を作り上げる。
 その攻撃を受けて、赤い毬は炎の様に赤くなった。
「酷いにゃ、酷いにゃ……この人達も私達を壊すつもりなのにゃ!」
 まずは、赤い毬が最初に攻撃をしかけてきた悠雅に跳ねながら突撃していく。そして、間髪おかずに飴細工の猫が、毬と共に彼に対してじゃれつくように襲い掛かってきた。悠雅も右手に構えたルーンアックスを使って防ごうとするが、この連続攻撃はかなりきつい。
 その連続攻撃が加えられている隙を狙い、右院が赤い毬に向かって輝きを放つ重い蹴りを放つ。
「アイゼン、行くぜ」
 アルトは相棒のウイングキャット、アイゼンに声をかけると、毬に向かって古代魔法に炎の光を乗せて放った。一方のアイゼンは清らかなる風を月達に向かって送っていく。
 その月は頭部にカメラを設置すると構える。出来れば目の前で動く、洋介の作った飴細工の猫をドリームイーター姿とはいえ捕らえたいからだ。そう、彼の亡き猫とそっくりだという、その猫のドリームイーターを。
「櫻」
 ビハインドの櫻に声をかけると、彼女も頷く。そして、念を込めると、それを飴細工の猫の方に向かって放つものの、それは毬が跳ねあがって攻撃を防いだ。
 月は歌を歌う。それは『ねがいうた』。願いと祈りを乗せた温かい光の音色は、悠雅の傷を癒していった。
「この世への未練を焼き切ってあげましょう」
 千紘は跳ねる毬の動きをじっと見て攻撃のタイミングを図る。そして、毬が着地した瞬間、その足元からサンゴの広がりを見せる紅色の逆さ雷が発生した。
「もったいないけどドリームイーターだもんね!」
 そう言いつつ、フィアはパイルバンカーを構えて冷気を纏った凍結の杭を毬へと打ち込む。また、ココのライドキャリバーも炎を纏って突っ込んでいった。
 ミーミアはイッパイアッテナと共に回復に動く。まず、ミーミアは悠雅に向かって施術を施し回復をしていき、イッパイアッテナはドローンを展開して守りを固め、ウイングキャットのシフォンは清らかなる風を送っていった。
「ふにゃあああ……酷い、酷いにゃ……!」
「許さない、許さない!」
 猫と毬はそう叫びながら動き始める。猫は悲しみを乗せた泣き声を、毬は不思議な動きで転がりまわり始めた。両者の声、動きは、やはり悠雅をしつこく狙って惑わしにかかってくるが、それを月と櫻が共に庇う。その間に生れる隙を再び狙って、右院は溶岩の力を毬に向かって放った。
「助かった」
 月と櫻にそう言葉をかけると、螺旋を絡ませた手裏剣を毬に向かって撃ち放つ。続き、アルトが重い蹴りを叩き込んだ。一方のアイゼンは月達へと清らかなる風を送っていく。
 体勢を立て直した月は、ウイルスを籠めた弾丸を飴細工の猫に向かって撃ち放ち、櫻もそれに合わせて金縛りの攻撃を繰り出す。しかし、それらの攻撃は毬が受け止めた。
「フィアちゃん、合わせましょう」
 フィアに千紘声をかけると、螺旋の力により生み出した毒を込めた手裏剣を毬に向かって撃ち放つ。
「私も頑張るよ!」
 フィアも合せて弱点を狙って斬りつけた。少し頼り気の無い攻撃ではあったものの、千紘と合せたからこそ上手くいった連携攻撃。
「ミーミアさん、私は月さんを」
「うん、分かったの」
 ココはミーミアと回復相手の確認をすると、月に向かってオーラを放ち癒していく。バレはスピン攻撃を毬に向かって行った。それに続き、月夜は妖刀・紅雨の椿を抜刀すると、空の霊気を乗せて毬の傷をさらに深く斬り広げていく。
 ミーミアは、まだ傷が癒え切っていない悠雅へと雷の力をつかって癒していく。それは彼自身の力も高めていった。イッパイアッテナは黄金の光を月夜達に放って護りを固め、シフォンは右院とフィアへと清らかなる風を送って護りを固めていく。
 毬は跳ねまわりながら攻撃を避けるように動き始めた。それをサポートする様に飴細工の猫も動いていく。
「ゆっくり回復してもらう訳にはいかないよ」
 右院は毬に向かって重い蹴りを叩き込んだ。
「戒めるは焔気、刻むは遺恨の傷、滅ぼすは怨敵! 『戒焔剣:焔讐』、斬り刻めェ!!」
 更にアルトは一気に畳み掛けに入る。焔気を練り上げ、相手を追尾する炎の刃を生成すると毬に向かって放った。追尾する炎は赤い毬を更に赤く燃え上がらせていく。そして、真紅に染まったかと思うと、そのまま弾けるように消えていった。
「ふにゃあああっ! 壊されちゃったの、壊されちゃったのっ! 酷いの、酷すぎるのにゃ!!」
 残された飴細工の猫が悲痛な声をあげる。そして、毬を倒したアルトに襲い掛かってきた。それを、月と櫻が遮る。
「大丈夫ですか?」
「助かったぜ」
 アルトの言葉にアイゼンも直ぐに飛んできて、二人の傷を癒した。
「後はあの猫か」
 ロングスカートのメイド服を躍らせて、『深緑の縛鎖』……地獄の力を鎖にして飴細工の猫を絡め取り縛り上げる。そこを狙って月の竜砲弾を撃ち込み、櫻は念を飛ばした。
「職人さんの心。返して貰いますよ!」
 千紘は螺旋の力を籠めて猫のドリームイーターに触れ、そこから爆破攻撃を与える。続けてフィアが思いっきり凍結の杭を打ち込んだ。
「月さん、回復します」
 ココは月へオーラによる回復を行う。月夜は精神集中をし、飴細工の猫へと爆破攻撃をしかけ、加えてバレの炎を纏った突撃が襲い掛かった。
「月ちゃん、回復するの!」
 ミーミアは月に対してココの回復の上に施術を重ねて治療していく。イッパイアッテナは黄金の光で月達を包み込み、シフォンは月夜達に向かって、清らかなる風を送った。
「みやぅ~……、酷いにゃ、酷いにゃ……酷いにゃ~……」
 飴細工の猫は歌う様に鳴きだす。悲しみに満ちたその鳴き声は余りに悲痛で心に訴えかけてくるものがある。それは、悲しみが分からない筈の悠雅の何かに響くようで……。そんな悠雅に、別の歌声が聞こえてくる。そちらは温かな光を感じさせる対照的な物。その歌で悠雅の意識は戻ってくる。月が素早く彼を連れ戻したのだ。
「これ以上、あなたが暴れると洋介さんが悲しむよ」
 右院は三体の幻想の狼を纏わせると、飴細工の猫に向かい次々と攻撃を加えていく。続き、アルトのアームが貫いた。
「感謝する」
 月に礼を言うと悠雅は構える。そして螺旋の力を帯びた手裏剣を飴細工の猫に向かって思いっきり叩き込んだ。その攻撃を受けた飴細工の猫は、儚い飴細工と同じ様に消えていったのだった。

●飴細工職人と猫
 洋菓子店の中、壊れたショーケース等をヒールしたり、ガラス片を掃除したりしながらなるべく元の洋菓子店の姿に戻していく。洋介の方はココを中心にヒールで癒し、意識を取り戻した。
 一通りの事情を聞いた洋介は、ケルベロス達に感謝しつつも、つい先程仕上がったばかりの飴細工の猫を思い、泣きそうな気持ちを堪えているようだった。
 月は撮影した動画を見たものの、やはりドリームイーターとして襲い掛かってくる猫を見せるのは却って辛いのではないかと諦める事にした。
 千紘も洋介が気を失っている事で、大切な猫とお別れするのは洋介にとっては辛いのだと改めて思う。それは、見ていても見ていなくても、事実として、そこには無く失われているのだから。
 しかし、そこは明るい性格の千紘。明るい言葉を洋介にかける。
「何もかもを失ったような顔をなさらないで。確かに、飴の猫さんは砕けてしまいましたけれど、猫さんとの思い出や作っていた時の気持ちとか、そういったものは心の中に全部残っていますでしょう? これからもずっとずっと一緒なのですよ」
 ドリームイーターだとはいえ、彼の作った飴細工の猫を月は見ている。それは確かに素敵な物だった。
「洋介さん、貴方の愛猫さんの姿、ドリームイーターではあったけれども、僕も見ました。とても素敵でした。手に残らなくとも僕らの心の中にはちゃんと居ます。洋介さんの心にも確かに居ますよね? 洋介さんがこれからも作品を作り続けることを愛猫さんも願っていると思います。……時間はまだかかるかもですけど……どうか、少しでも元気を出してくださいね」
「あなたの大事な、猫さんを、あなたが大事に作った気持ち、きっと、猫さんにも届いたと、私は、そう思います」
 ココもそう声をかける。フィアもそれに続けた。
「気持ちが落ち着いたらまた作ろうよ。同じものができないからこそ、きっとそれも世界で一つだけの大切なものになるから」
 違う視点で励ますのは月夜と悠雅。
「戦闘の巻き添えで色んなお菓子がダメになってしまいましたね? しかし、どれも素敵な香りがいたします。お味も良い、そう思います。それは、作り手の想いが宿っている証拠でしょうか。形は変われど、お菓子に対するその想いまでは壊れていませんよね?」
「……新たな家族を迎えることも一つの手ではなかろうか?」
 洋介は何も飴細工のみの職人では無い。洋菓子の職人なのだ。その事に関して話す月夜。そして、もう一人の家族を提案するのは悠雅だ。それも、きっと洋介の心を癒してくれる筈だから。アルトの頭に乗っていたアイゼンも飛んできて、洋介の頬をぺろりと舐めて慰める。
 そんなケルベロス達の言葉に、洋介は少し微笑んだ。少しは元気を出してくれたようだ。
「洋介ちゃんさえ良かったら、お茶会にするの! お菓子のお話とか猫ちゃんのお話とか聞かせてほしいの」
「ええ、そうですね。俺も、あなたの話を沢山聞いてみたいです」
 ミーミアはクッキーの入ったお菓子を持ちあげ、右院も頷いた。それが少し洋介には嬉しかったようで、洋介のお菓子は無理だけれど、ミーミアの用意した紅茶とクッキーでお茶会を披く事になった。イッパイアッテナも加わり、10人の賑やかなお茶会。少しは元気を取り戻して欲しい、その一心で。
「飴細工って技術自体も練度が要るものだよな。いちおー菓子扱ってる人間としては、猫も精巧に再現できるって技量は羨ましい……なァ」
「確かに飴細工は飴が熱いうちに作らなくてはなりませんし……。でも、小さなものならお教え出来ると思います」
 そう語りかけるアルトに、洋介は頷く。その姿に少し笑顔が戻って来ていて嬉しく感じた。
 紅茶とクッキーが好きな右院は、洋介の話を聞くのも、紅茶とクッキーを味わうのも嬉しかったりする。でも、男子だから洋菓子好きとはオープンにし難くて心の中でこっそり思っていたのだが……ここには残念ながらお菓子が全てのオラトリオが居た。
「良かったら、右院ちゃんも、もっとクッキーと紅茶を楽しんでほしいの」
 そっと耳打ちされてしまう。でも、気持ちは汲んでくれているらしく、なるべく他の人には分からないように配慮して。
「……また、あの子を作るのも良いかもしれませんね。それに……新しい子を迎える事も……」
 そう話す洋介は穏やかな顔付きになっていて……嬉しい気持ちになる。
 心ばかりのお茶会は、和やかに進む。色々なお菓子の事、猫の事、その他、色々な事を……。きっと、洋介は前を向いてくれるだろう、そんな気持ちになれる。それが何よりも嬉しいケルベロス達だった。

作者:白鳥美鳥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年11月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 8/キャラが大事にされていた 1
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