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「あぁー、最高に美しい。なぜこうも美しいのか……メイドフィギュアは人類が生み出した萌え文化の到達点と言っても過言では無いな」
等身大のフィギュアを這いつくばる様なローアングルから見上げ、彼はため息を漏らした。
エプロンドレスを纏ったその美少女の人形は、一体百万円近い完全限定受注生産品。顔や身体はもちろん、衣装や小物など細部に至るまで、高い完成度を誇っている。
「鑑賞はこの角度がまさに最高だ。見えすぎてもいけないし、見えなすぎてもいけない。まさに至高の角度だ。そしてこの脚線美……手触りも最高だ」
「そんなに大切?」
夢中でフィギュアに縋り付いている彼に掛かる声。
「な、なんだ君達は?!」
そこに居たのは、魔女の様な出で立ちの女性と、褐色の肌をした露出度の高い女性。いずれも鍵の様な物を持っている。
「ハロウィン……? にしても、勝手に上がり込むなんて!」
彼女達は彼の問い掛けなど無視してフィギュアに近づくと――。
グシャッ。ボキッ。と無惨な音を立てながらそれをバラバラに解体してしまった。
「ああぁぁぁ!!? 何するんだぁ!? 僕の……あぁ、僕の……おぉぉ!」
床に散らばるフィギュアの破片をかき集めながら、絶叫し号泣する男。
「お前ら……お前らぁぁぁ!」
ポロポロと涙を零した後で彼は立ち上がり、魔女の一人へと掴みかかる。命の次に大事なフィギュアを理不尽に破壊されたのだ。激昂するのも無理はない。
しかし魔女達はそんな彼の手をいとも簡単にはね除け、逆に鍵を彼の身体に突き立てる。
「私達のモザイクは晴れなかったねえ。けれどあなたの怒りと」
「オマエの悲しみ、悪くナカッタ!」
外傷は無いが、意識を失って崩れ落ちる男。そしてその傍らに出現するのは、壊れたフィギュアの様にエプロンドレス姿を纏った少女が2人。
1人は悲しげな表情でポロポロと涙を零しており、もう1人は対照的に目をつり上げ憤怒の表情。
前者はアサルトライフルの様なゴツい銃を手にしており、後者は日本刀を腰に佩いている。さながら武装メイドと言った出で立ちだ。
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「またパッチワークの魔女が動いています。今回は、怒りの心を奪う第八の魔女・ディオメデスと、悲しみの心を奪う第九の魔女・ヒッポリュテの様です」
セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)の説明によると、この魔女達は一般人がとても大切にしている物を破壊し、生じた「怒り」と「悲しみ」の心を奪う事によってドリームイーターを出現させるらしい。
今回のケースでは、等身大のメイドフィギュアが破壊され、出現したドリームイーターもまたメイドの様な出で立ちだと言う。
「例によって、このドリームイーターは周囲の人間を襲い、グラビティ・チェインを得ようとします。対処が遅れれば、死傷者が出ることは明らかでしょう」
出現した2体のドリームイーターも連携して行動するらしく、注意が必要だろう。
「物とは言え、人の形をしたものなら思い入れが強くなる事もあるだろうね」
今回の魔女達の活動を知って、豊田・姶玖亜(ヴァルキュリアのガンスリンガー・e29077)が予感したのもやはり今回の様な事件だった。
古来より、人類は自分達に似せた形の物に様々な願いを篭めてきたのだ。被害者にしてみれば、恋人を失う程の激しい感情が生じたとしてもなんら不思議はない。
「今回の敵はこの2体です。被害者男性……と言っても意識を失っているだけで、ドリームイーターを討伐すれば彼は目を醒ましますが……彼の自宅から最寄りの駅方向へ移動すると予想されます」
地図をなぞるセリカの指が、やや開けたスペースで止まる。
「ここに小さめの公園が有ります。この場所で待ち構えれば、迎え撃つことが可能だと思います」
遊具等は多くが撤去されている為遮蔽物は少なめで、外灯も存在する為、戦うにも好都合だろう。
「ドリームイーターはいずれもいわゆるメイドさんの様な姿をしており、『悲しみ』の方は銃器による中衛からの遠距離攻撃を得意とし、『怒り』の方は刀による近接戦を得意とする様です」
彼女達は言葉を発するものの、意思の疎通は出来ない。会話によって情報を聞き出すと言った事は出来ないだろう。
「目の前で大切な物を故意に壊されるのは、とてもつらい事だと思います。でも、その感情から生まれたドリームイーターに、人命まで奪わせる訳にはいきません」
破壊されたフィギュアを元通りに直す事は出来ないが、ドリームイーターを討伐する事で、これ以上の被害拡大を抑え、被害者男性も意識を取り戻す事が出来るだろう。
参加者 | |
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館花・詩月(咲杜の巫女・e03451) |
スピノザ・リンハート(忠誠と復讐を弾丸に秘め・e21678) |
卜部・サナ(仔兎剣士・e25183) |
アレックス・アストライア(煌剣の爽騎士・e25497) |
豊田・姶玖亜(ヴァルキュリアのガンスリンガー・e29077) |
デリック・ヤング(渇望の拳・e30302) |
葛之葉・咲耶(野に咲く藤の花のように・e32485) |
リチャード・ツァオ(異端英国紳士・e32732) |
●
「全くもー、なんて悪趣味な奴なの!」
ウォーミングアップを兼ねてか、しゅっしゅっと虚空目掛けて正義の鉄拳を繰り出す卜部・サナ(仔兎剣士・e25183)。
その出で立ちは露出を極力控えたロングスカート。いわゆるブリティッシュメイドスタイルだ。
「いけませんよねぇ。大事なものを目の前で壊される辛さと言うのは計り知れないものです」
これに頷くリチャード・ツァオ(異端英国紳士・e32732)は、いつも通りの柔和な微笑を浮かべながらの相槌。
「通行人もいないし、巻き添えのリスクは考えなくて良さそうだ。……確かに、怒りも悲しみも人それぞれ。……利用するためとはいえ、それを為すのはいい気がしないね」
戦場となる公園内の広場と、園外の距離や位置関係を確認した後で、2人の話に同意を示す館花・詩月(咲杜の巫女・e03451)。
そして負の感情から生まれたドリームイーター達は、目に付く人々を容赦なく襲い、更なる悲劇を生む。
「しかしミニスカやら武装やら、メイドってそういうもんじゃねーだろうに……日本人の趣味ってのはわかんねーぜ」
ぼそりと小声で呟くのはスピノザ・リンハート(忠誠と復讐を弾丸に秘め・e21678)。
本来のメイドからは遠く離れ、日本独自の魔改造が施されたメイドではあるが、今回のドリームイーターの外見も壊れたフィギュアに影響を受け、武装メイドスタイルなのだと言う。
一見して化物に見えないと言う点は、一般人に対する脅威度はかえって高いかも知れない。
「生身の女の子だったらメイド服でも歓迎だけど、フィギュアは俺も趣味じゃないなぁ……ましてドリームイーターは」
肩を竦め、軽い調子で言うのはアレックス・アストライア(煌剣の爽騎士・e25497)。
「アレックスちゃんは、服よりその中身を気にする口だもんねぇ?」
キヒヒ、と笑いながら尋ねる葛之葉・咲耶(野に咲く藤の花のように・e32485)。顔の上半分を布で覆っているが、不思議と視界は塞がれていないらしい。
「男も女も、中身が肝心だよ」
アレックスもまた、顔なじみの言葉に笑顔でそう応える。
「でも、特注品でそんなに高価だと言うなら、怒るのも悲しむのも無理は無いね」
豊田・姶玖亜(ヴァルキュリアのガンスリンガー・e29077)はブリーフィングで聞いた参考価格を思い出しつつ、今は気を失っているであろう被害者男性に想いを馳せる。
古来より人は、自分達の姿を模して作られた人形には並々ならぬ強い感情を寄せてきた。
自動車の一台も買えてしまう額を払った事実をみても、彼にとってそのフィギュアはただの物品という枠を超えた存在であったに違いない。
ちなみに姶玖亜が防具として着用しているのもエプロンドレス。こちらは膝上丈のいわゆる「萌え系」ジャパニーズメイドスタイルだ。
「それにしても、エプロンドレスってちょっとふんどしの前垂れに似てるよなァ」
デリック・ヤング(渇望の拳・e30302)は、姶玖亜やサナの服と、自身のふんどしを見比べてそんな一言。
「まあ、ふんどしに比べたら断然劣るがな」
そう、彼はこの寒空の下でもふんどし一丁と言う姿であった。
「寒そう!」
「服というか下着だよね」
「そう言えば、若い女性の間でふんどしが静かなブームだと聞いた事が」
「皆さん、どうやらおいでになったようですよ」
「あれか……それにしても、随分と趣味的な」
夜闇に紛れてと言うより、明らかに目立って居る。ミニスカメイド服に銃器と刀を手にした女が2人。園内へと歩み入って来る。
「ぼちぼち始めるとするか」
「オーケー、皆をしっかり守らないとねぇ」
メイド達が園内中程まで進んだ所で、ケルベロスも一斉に行動を開始する。
●
「さて。ここから先へは行かせないよ」
天秤の星辰を宿した剣を抜き放ち、メイド達の前に立ち塞がるアレックス。
「……ご主人様、命の次に大切なものを目の前で破壊される悲しみ……解って頂けますか?」
足を止めて問い掛けてきたのは、ぽろぽろと涙を零す悲しげなメイド。
「あぁ、解るとも」
アレックスは、持ち前のコミュニケーション力で理解を示してみせる。
「主、てめぇなんかにアタシの怒りが分かるかよ!」
返答を聞き、もう一人のメイドが怒声を上げるが早いか、地を蹴って刀を抜き放つ。
間合いを詰めながら鞘を投げ捨てたメイドは、上段に構えた刃をアレックスの脳天目掛け鋭く振り下ろす。
「っ、なるほど。結局どう答えても襲われるわけね」
ガギィンッ! と響く鈍い金属音。
両者の刃が競り合って火花が散る。
「じゃあこっちも遠慮なく……行くよ、ディケー」
アレックスは相棒のウイングキャットに破邪の羽ばたきを指示しつつ、狼煙代わりのブレイブマインを炸裂させる。
「それにしても主人に手を挙げるメイドは、メイドと呼べるのかな?」
続く姶玖亜は、燐光を放つオウガ粒子を前衛に散布。超感覚の覚醒を促してゆく。
「では、僕も……」
詩月は自身の身の丈ほどもあろうかと言う折りたたみ式機械弓を展開し、その弦を爪弾く。
神楽の為の術具、楽器としても調整されているその音色に合わせて詩を吟じれば、紙の兵士達が前衛を護る様に展開されてゆく。
「援護ありがと、攻撃は出来るうちにしないとねぇ……雷纏いし精霊を、振り切れぬ物はないと知れ!」
懐から取り出した御札から、球状の雷を召喚する咲耶。
「こんなもの!」
斬り結んでいたアレックスから飛び退って距離を取り、飛来する雷球を一刀の元に断ち切る怒りのメイド。
「メイド服に、日本刀。サナと一緒ね? 貴方達も仲間だったら良かったんだけど……ざーんねん!」
間髪を入れずに走り込むのは、愛刀「星火燎原」を抜いたサナ。
美しい弧の軌道を描いた斬撃は、怒メイドのふくらはぎを掠める様に斬り裂く。
「ちっ?! この程度――ぐあぁっ!?」
微かに体勢を崩しかけて踏み留まったメイドだったが、その背面から直撃するのは両断した筈の雷球。
「まだ……活きてやがったのか」
「そう簡単には振り切れないって言ったじゃないかぁ……っとぉ」
不敵に笑む咲耶だが、すぐに身を翻して銃弾の雨を防ぐ。
「ご主人様、お嬢様……これが私の悲しみです!」
腰だめに構えたアサルトライフルから、弾丸を乱射して怒メイドを援護する悲メイド。
「予定通り、各個撃破でいきましょう。……闇を友とし光で貫く。我前に立つなら覚悟するが良い」
リチャードの手元から放たれたのは、蝙蝠の形を模した手裏剣。それぞれが曲線を描く様な軌道で一斉に怒メイドへ襲い懸かる。
「おう! メイドは戦うのが仕事じゃねえだろうが! さっさとくたばりやがれ!」
これに呼応する様に、エアシューズで跳躍するデリック。はためくふんどしは意外と絵になる?
「くうっ!? てめぇらっ……」
不規則な軌道に加え、摩擦熱で燃え上がる燐。炎を纏う蝙蝠に幻惑されつつ、デリックの鋭い回し蹴りを片腕で受ける怒メイド。
僅かによろめき、表情を歪めつつもすぐに刀を構え直す。
武装したメイドは戦闘力に優れると言うのが創作物でのお約束だが、今回のメイド達も例外では無いらしい。
「メイドってのは跳んだり跳ねたりするもんじゃねぇぜ。お行儀良くしてな!」
スピノザのリボルバーから放たれた銃弾は、怒メイドの足下。地面へと着弾する。
「どこを狙って……っ?!」
銃弾は付近の重力に作用し、メイドの足を地面に強く引き付ける。
「そこかな?」
アレックスの背に輝く光翼。間髪を入れず、怒メイド目掛けて強烈な突撃を繰り出す。
「が、はっ……!」
剣の切先が、エプロンドレスごと怒メイドの胸を貫く。
「取ったぁ」
続けざま、咲耶の渾身のストレートが、前のめりになった相手の頬を強かに打ち抜く。
夥しい闘気を宿した音速の拳は、直撃の手応えと共に怒れる侍女の顔を砕いたのだ。
「気をつけて、まだ」
「……って」
否、確かに手応えはあったが、それは人間を殴った感覚とは大きく異なる物。詩月の警告と同時に防御の姿勢を取る咲耶。
「てめぇらぁっ!!」
顔の半分を失ったメイドは一層激怒し、咲耶の首目掛けて刀を横薙ぎに一閃。
パッと散ったかと思うと、振るわれる刀に従って破線状に地面に滴る血飛沫。
「可愛い君を怪我させるわけにはいかないからね」
しかしこれは、とっさに庇ったアレックスのもの。
「アタイは大丈夫なのにっ! もう、カッコつけて無茶してぇ!」
素早く体勢を立て直すと、今度は彼を庇う様にしつつ敵との間合いを取る咲耶。
「治癒は任せて」
詩月の手から放たれる癒やしのオーラは、アレックスの傷を治してゆく。
「壊れた物は、二度と元には……」
その治癒力を厄介とみたのか、悲メイドは地面に片膝をつき、先ほどとは打って変わって狙い澄ます様に銃を構える。
ガァンッ!
「つっ!?」
響く銃声。しかしそれはメイドの銃から発せられた物では無い。
「さあ、踊ってくれないかい? と言っても、踊るのはキミだけだけどね!」
続けざま、愛銃セレスティアル・ベルのトリガーを引く姶玖亜。悲メイドは射撃を中断し、慌てて飛び退る。
「だったら、動けないくらいバラバラにしちゃえば良いんでしょ!」
「そいつぁ道理だ。援護するからぶった切れ」
再び刀を構え、半壊状態の怒メイドに向かうサナ。スピノザはこれを援護する様に銃弾を放つ。
「アタシの怒りを舐めんじゃ……ぐっ、ぎぃっ!」
刀を最上段に構える怒メイド。渾身の力でサナへ振り下ろそうとした瞬間、数発の銃弾がその背に突き刺さる。
「後ろ……だと?」
スピノザの銃弾は鉄棒に命中し、跳弾となってメイドの背後から襲いかかったのだ。
「お日様、お月様、お星様……サナに力を貸して下さいっ!」
束の間、周囲を照らすのは昼かと見紛う程の眩い光。
「日月星辰の太刀っ!」
太陽と月と星の力を宿した刀は、怒メイドの身体を真っ二つに縦断した。
「……私の悲しみを……ご理解頂けないのですか」
相方とも言える怒りのメイドを破壊され、ますます悲しげに涙を流す悲しみのメイド。
しかし泣いて訴えながらも、グレネードのピンを引き抜いて投げつけてくる。
「スモークか!」
「げほげほっ」
「もう一息だ。回復は僕に任せて皆は攻撃を」
詩月は引き続き弦を弾き、鈴を鳴らしながら朗々と吟じる。
「我が心は花なり。花が心は祝ぎなり。なれば祝ぎに相応しからぬものを遠ざけ給え」
展開された邪な力を祓う結界は、仲間の傷を癒し、バッドステータスをも解除。
「君達の生みの親は、最近やりすぎてるようだ。そろそろご挨拶に行く頃合いかな?」
姶玖亜が呼び出した御業は、尚も抵抗を続けようとするメイドを鷲掴みにしてその動きを制限する。
「解ってるね皆? 粉々にするんだよぉ」
一言念を押してから、再び追駆雷精呪を放つ咲耶。
「問わん。我が一撃は審判の一撃。汝に義あるか、理あるか」
時を同じくして天秤の剣を振るうのはアレックス。放たれるのは刃状に形成された重力の刃。
「ぐ……あぁっ!」
激しく電光が走り、次の瞬間にはメイドの身体は胴を境に上下に分断された。
「こっからだ、いくぜリチャード!」
「えぇ、後始末は任されましょう」
「決めるぜ、超音速の一撃……避けたらぶっ飛ばすぞ!」
半身になったメイドは尚も銃を構えんとするが、その背に叩き込まれたのはデリックの超音速・電磁加速拳。
拳が大地を揺るがしメイドの身体を砕くとほぼ同時、リチャードのサイコフォースがそれらの欠片を更に跡形も無く、爆炎の内に葬り去った。
●
「おぉぉぉぉ……僕の……僕のクロエが……僕の理想のメイドさんがあぁ……なんでだよぉぉ!」
公園の後始末を終えて、被害者の様子を見に来た一行。
青年は意識を取り戻していたが、改めて粉々に破壊されたフィギュアの残骸の前で、見るも哀れになる程に号泣していた。
「ご主人様、お加減は如何ですか?」
「えっ?」
メイド服である事を活かし、元気付けるべく尋ねる姶玖亜。
「クロエ! 帰ってきてくれたんだね、クロエ!」
早とちりして、その足元に縋り付く青年。
「って、ちょっと待った! ボクはキミの大事なフィギュアじゃなくて……」
「あぁ間違い無い。この脚線美……このアングル……あれ、何か違う様な?」
「って、ローアングルから見上げない!」
姶玖亜は慌てて青年の顔を手で覆う。
「……と、こう言う訳なんだよね。気の毒だけど、もし良かったらこれで」
「……そんな事が……それにしても酷すぎる。なんでよりによって……」
詩月は状況を掻い摘まんで説明した後、修理用の工具や資材などを手渡す。
「いつまでもメソメソするんじゃねぇ! ほら、こいつをやるから」
「これは?」
デリックが手渡したのは、筋肉とスマイルが眩しいふんどし姿のマッチョマンフィギュア。
「まあ似たようなモンだろ? いいから遠慮すんなよ、なッ!」
「全然……違うけど……」
青年は一応それを受け取ったが、慰めにはなっていない様な?
「これが百万円すんのか……とは言え、魔女の蛮行を許しちまった責任はあるしなぁ、一体分くらいなら……」
スピノザは別のフィギュアを眺めてから、青年に提案。
「いえ、皆さんには助けて頂いた上に、そんな事までして頂く訳にはいかないです……」
と、まだ涙ぐんではいるものの、辞退する青年。
「えっとぉ……幻想的になっちゃうけどぉ、それでも良いなら試しに直すよぉ……?」
「な、直るの?! 直して下さい! 僕の大事なメイドをぉ!」
ふと提案した咲耶に、一も二も無く縋る青年。
「いやぁ、完全には直らないからねぇ? じゃサナちゃん手伝ってぇ」
「うん、試すだけでもやってみよう!」
メイドフィギュアの破片を集め、ヒールを施す咲耶とサナ。
「……どぉ?」
「……かな?」
破片から復元されたのは、弓を手にした長い耳の金髪碧眼美少女。
ファンタジーモノに居そうな、狩人っぽいフィギュアだった。
「く、クロエ! ちょっと変わったけど……でも、良いんです。工具も頂きましたから、時間を掛けて自力で直していきます」
ケルベロスの善意に応えるための空元気か、本心か、それは当人にしか解らないが、ともかく彼は涙を拭ってそう宣言した。
「まぁ一応、めでたしめでたしなのかな」
彼の家を後にし、ふうっと息をつくアレックス。
いかに大事な品物も、人命には代えられないのだから。
「そう言えばここ最近武装したメイドって言うのが流行ってますけど、何故なんでしょうね? まあくだらない事ですけど……」
ぽつり呟くリチャード。
英名を持つ彼にとっては、やはり本来のメイドから離れた邪道なメイドには違和感があるのかも知れない。
とにもかくにも、そんな邪道なメイド達によって一般人の命が奪われる事態を防ぐことに成功したケルベロス一行。
平穏を取り戻した住宅街を後に、帰路へと着いたのだった。
作者:小茄 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年11月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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