男は死ね、女はその後殺す

作者:青雨緑茶

 夜。人通りのない路地裏で、一人の男性が携帯端末を耳にあてて応答している。
「勿論さ、僕ほどキミを愛している男はいないよ。それで、もしよかったら今から……」
 彼の名はショウ。声音ばかりはやたらと甘ったるいが、表情は眼の奥が死んだ薄笑い。ひとかけらも真心が籠もっていない事がありありと表れ出ている。
 関係ある女性の一人と約束を取り付け、通話を終えた途端に、こうだ。
「チッ、この女も面倒になってきたな。またそろそろ簡単に貢いでくれそうな養分探すか」
 端末をしまおうとする彼だったが、その動きがふと止まる。
 いつの間にか炎彩使い『青のホスフィン』が目の前に現れ、値踏みするように彼を眺めるからだ。
「あなた、とってもイケメンなのね。色白で、スマートで、それでいて少し陰があるような雰囲気が放っておけない気にさせるタイプ。何人もの女性を手玉に取って暮らすくらいだもの、自分の容姿の価値をしっかり理解しているっていうところも素敵よ」
 ショウは動揺する。魅惑的な女性に褒められるのは良いが、道徳的でない自身の処世術にまで言及されるとなると、生来の性質は小者なのか警戒が先立つ。
 だが彼が口を開きかけたのを待たず、ホスフィンの青い炎がその身を包んだ。
 火柱となった炎の中から現れたのは、身の丈3メートルほどの黒騎士。実用性よりも、自慢の顔やスタイルをより良く見せるために特化したようなデザインの騎士だ。
 それを見上げて、ホスフィンは満足そうに言う。
「なかなか、良い見た目のエインヘリアルにできたわね。やっぱり、エインヘリアルなら外見にこだわらないとよね」
「お褒めに与り光栄です。美しいあなたのため、何でも致しましょう」
 エインヘリアルとなったショウが恭しく片膝をつき、そのまま歯の浮くような口説き文句を連ねるのに気分が良さそうに笑み、ホスフィンは命じる。
「それなら、見掛け倒しはダメだから、とっとと人間を襲ってきてね。そしたら、迎えに来てあげる」
 その命令に、ショウは下卑た表情を浮かべて問う。
「仰せのままに。ですが、あなたのように美しい俺好みの女は、ゆっくり味わって殺しても構いませんか?」
「いいわよ。グラビティ・チェインを奪いさえするなら、好きなように殺しなさい」
 ホスフィンの返答に満足そうに頭を下げ、夜の街へ向かうショウ。整っているはずのその顔に、卑屈さと残忍さの滲む薄汚れた笑みを浮かべて――。


「外見重視の黒騎士、でありますか」
 クリームヒルト・フィムブルヴェト(輝盾の空中要塞騎士・e24545)は事件の概要を聞いて、その眉を顰める。
「そうだ。シャイターンに選定されてしまうぐらいだ、被害者は世辞にも素行が良いとはいえない男性だったようだが」
 ザイフリート王子(エインヘリアルのヘリオライダー)は冷静に、更に詳しい説明をする。
 有力なシャイターンが動き出したらしい。炎彩使いと呼ばれる彼女達は、死者の泉の力を操り、その炎で燃やし尽くした男性を、その場でエインヘリアルにする事ができるようだ。
「今回のシャイターンは炎彩使い『青のホスフィン』だが、この任務で戦闘対象となるのは彼女ではなく、エインヘリアルの方となる。
 出現したエインヘリアルは、グラビティ・チェインが枯渇した状態のようで、人間を殺してグラビティ・チェインを奪おうと暴れだすようだ。
 急ぎ、現場に向かって、暴れるエインヘリアルの撃破をお願いしたい」
 続けて、王子は資料を配る。
「敵はエインヘリアル一体のみ。『青のホスフィン』も他のシャイターンも現れない。
 素体となった男性は既に死者であり、救出する事も、説得する事も不可能だ。
 装備は黒いゾディアックソード、グラビティもそれに準じたものを扱う。
 時刻は夜。エインヘリアルは発生現場から繁華街を目指して移動する。ケルベロス諸君はその通り道であるビルの屋上にヘリオンで降下して貰いたい。
 ……それとこのエインヘリアルは、攻撃対象とする順番に趣味があるようだ」
「趣味? どういったものでありますか?」
 首を傾げるクリームヒルトに、王子は告げる。
「彼は生前、自身の容姿や話術を駆使して、複数の女性から経済的援助を受け……端的に言えば、ヒモとして生活していた。
 いわゆる女好きであり、同時に、女性に対する歪んだ鬱憤も抱えていたのだろうな。
 躊躇なく殺人を行う姿勢の中には『自分は優れた男であったがために導かれて勇者になった』という無駄なプライドの高さと、『特に女は自分の欲望を満たすための存在だ』という救いようのない意識が窺える。
 そこでどうやら、自分好みの女性を見つけたら後回しにして、邪魔者を先に排除してからゆっくり惨殺したいと考えているようだ。
 この事から攻撃優先順位は『男性』、『好みでない女性』、最後に『自分好みの女性』となるだろう」
 この性質を利用して性別を考慮してポジションを考えたり、また必要とあらば男装や女装をして敵の目を誤魔化す事で、有利に戦う事も出来るだろう。
 一通りの説明をして、王子はクリームヒルト達ケルベロスを激励する。
「状況は予断を許さないが、お前達ならばきっとエインヘリアルによる虐殺を止めてくれると信じている」
 クリームヒルトは義憤に燃えて、王子に敬礼する。
「救出不能の人間というのが遺憾でありますが、女性の敵としか言いようのないエインヘリアルでありますね。ボク達が必ず倒すであります!」


参加者
サラ・エクレール(銀雷閃・e05901)
姫宮・楓(異形抱えし裏表の少女・e14089)
四条・玲斗(町の小さな薬剤師さん・e19273)
ウルリカ・エレルヘグ(救天戦女・e25723)
リィナ・アイリス(もふもふになりたいもふもふ・e28939)
伽藍堂・いなせ(不機嫌な騎士・e35000)
ラジュラム・ナグ(桜花爛漫・e37017)
エトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)

■リプレイ


 夜。予知されたビルの屋上に降下した8名は、敵の出現に備えて待機する。
 照明を用意していた周到な者もいた。だが現場は周辺ビルの窓から無数に漏れる灯かりで薄明るく、視界に支障はない様子。
「殴り殺してェ……」
 伽藍堂・いなせ(不機嫌な騎士・e35000)は、実に胸糞悪そうに舌打ちする。
 作戦の都合上、確実に女性と見せるために嫌々着ているメイド服に対してではない。ショウの生前の素行に元伴侶の姿を重ね、余計に苛立ちが増していた。
「元の性格に難があるのもわかるけれども、あまり相手にはしたくない相手ね」
 四条・玲斗(町の小さな薬剤師さん・e19273)はこの場へ至る道すがら、念のため避難誘導が必要な一般人の姿がないか警戒していた。勿論ヘリオライダーの予知は信頼しているが、ひとえに彼女の責任感と情の篤さからくる行動だった。
(「……セクシーな、女性が、狙われにくいって、聞いたけど……この中には、それに選ばれる人、いるのかなぁ……?」)
 リィナ・アイリス(もふもふになりたいもふもふ・e28939)は自身を含め見渡し、小首を傾げる。
 ショウが後回しにするのはセクシーな大人の女性。今回のメンバーの女性陣は勇ましく凛々しい女性や、大人というには年若い見目の者が占めている。あるいは誰も好みではないという事もあるのだろうかと、彼女が純粋に疑問を抱くのはもっともだった。
 ――カツンッ。
 屋上の手すりを飛び越え、甲冑の爪先を鳴らす着地体勢すら気障ったらしく、現れる黒騎士のエインヘリアル。
「多くの女性を騙し、貢がせて生活するヒモというのはさぞかし良い生活だったのでしょうね」
 サラ・エクレール(銀雷閃・e05901)が、そう声をかける。
 ショウは一瞬驚いたようだったが、今の自分が持つ圧倒的な力を再確認するようゾディアックソードの柄を握り直し、薄ら笑みを貼り付ける。
「これはこれは。美しい女性がお揃いで、この僕をお出迎えとは嬉しいね。その言葉、褒め言葉と受け取っておくよ。――邪魔な野郎共もいるのが気に喰わないけど」
 軽薄な台詞を並べながらも、値踏みめいた厭な視線で女性陣を舐め回すショウ。
「エインヘリアルになっても、屑は救い様のない屑にしかなれないというのは笑えない話なのですけどね。ですがそれも、ここで終わりです」
 返すサラは戦いを前にして冷静沈着ながらも、視線の主に対する嫌悪感が滲み出ている。
 さて、どの女性が自分好みだろうと、ショウは品定めした結果――。
「……何だか取っ付きにくい女性が多いな。子供は論外だし……となると、そこの彼女か。できたら、もっと大人の色気がある方が好きなんだけど」
 彼が注目したのはリィナだった。唯一のサキュバスというのもあるのだろうか。だが、その上でも失礼な上から目線の注文などつけるのだから始末に負えない。
「――その方がさ。ゆっくり、ゆっくり、斬り裂いて楽しみ甲斐があるだろう?」
 整った造形に薄汚い嗜虐的な笑みを浮かべ、剣を構える。
 自身の容姿にも、現在の力にも過剰な自信を持つ敵は、ケルベロスの力量も知らずに獲物と見なした。
 番犬達も速やかに臨戦態勢へと移行する。その浅はかさを迎え撃つべく。


「エインヘリアル化する前に救えなかった事は実に無念だ。どんな人間だったにせよ悔やまれる」
 ラジュラム・ナグ(桜花爛漫・e37017)は、仲間が開幕の支援攻撃やエンチャントを見舞う中、まずは相手の力量を計るように桜焔抜刀【春風】(ブレイズキャノンハルカゼ)を繰り出す。
「――だからこそ、罪を重ねる前にしっかり屠ってやろう」
 薄紅色の炎を舞わせ、彼は右眼の地獄を細める。
「無念? 悔やむ? ……ははっ。俺は、そういう善人面する男が一番嫌いなんだ」
 取り囲まれ、ショウは嘲笑う。人の道など偽善と一笑に付す姿が、その身丈に反する精神の矮小さをより浮き彫りにする。
「欲に溺れると身を滅ぼすと聞くけど……、シャイターンに『選定』されるなんて……」
 姫宮・楓(異形抱えし裏表の少女・e14089)は敵であり被害者でもある相手へ複雑な感情を抱きながらも、祈る様に手を組み、魂の中の異形の人格を解放する。
「私の中の悪意……お願い……! 私を……、皆を……助けてあげて……!」
 覚醒・逢魔之時(カクセイ・ホウマノトキ)。金髪赤眼となり力を増した彼女は、先ほどまでとはがらりと表情を変え、高慢不遜な眼差しで敵を射る。
「へえ……! 良いじゃないか、キミ。その方がずっとセクシーだよ!」
 ショウは変貌した楓に感嘆した。どうやら彼の好む色気とやらに響くものがあったようで、キミも後回し、と思い上がり甚だしく指さす。
 敵の剣に星座のオーラが宿る。事前情報通り、まずは男性陣を排除対象とし、後衛へ向けて飛ぶ攻撃。
「男を妬み、女は騙した挙句に搾取する、か。いくら容姿を鼻にかけようと、その腐りきった性根、オークにも等しき醜さよ」
 ウルリカ・エレルヘグ(救天戦女・e25723)は流星の煌めき宿す蹴りを見舞って返し、見下しきった眼差しで唾棄する。
「ぐっ……! 酷いなあ。折角の美人なのに、そう着込んでちゃ勿体無いね」
「黙れ。そのにやけた面を見せるな。虫唾が走る!」
 生真面目で凛々しい女戦士たる彼女は、今回の味方の男性陣は戦友として信頼する一方、肌を露出しない戦装束が不満だと下卑た薄笑みを浮かべるショウのような敵は最も嫌うタイプだった。
「……随分、順序に拘るのですネ。……美味しい物は最後に取っておくといウ、心情に似ているのでショウカ」
 エトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)は白銀の鎖で地面に守護魔法陣を描き、受けた傷を癒しながらも釈然としなかった。
 こちらの作戦が上手くいくのならば、文句はない。だが彼にとって、敵の行動理念は理解に苦しむものに他ならなかった。


 初手はヒールドローン、次手からはメタリックバースト。得手ではないのを計算の上である程度繰り返すつもりでエンチャントを付与しながらも、いなせは射殺さんばかりの表情を敵に向ける。
「おお、怖い怖い。そんなに睨まないでくれよ、メイドさん?」
「うるせェッ!! 女を食い物にしてんじゃねェよ、外道がッ!」
 いなせの気迫溢れる怒号に気圧され、軽薄に口説いたショウは口を噤む。
「……やれやれだ。こんな色男が目の前にいるんだ、もっと歓迎してくれてもいいんじゃないかな?」
 自意識過剰に髪を掻き揚げてリィナへと色目を使うショウに、彼女は氷結の螺旋で返す。
「……容姿が、いいのは、魅力的だけど……それに、固執して、女の子を、騙すのは、ダメだと、思うの……。いつか、性格の、黒さが、顔に、出てきちゃうよ……?」
 すげなくされて面白くなさそうに、敵は再びゾディアックミラージュを後衛へ。先ほどと同じ攻撃だ。
(「……黙っていても狙われるなら、敢えては申しませんが」)
 キャスターである敵の命中率をもってしても、見切りやすくなればそれだけ脅威は減る。更に、後衛の3人とも防具耐性で理力攻撃の回避率を上げている効果も実感出来る。
 小まめな回復で確実な対症療法を取りながらも、やはりエトヴァは解せなかった。
 サラは敵味方の状況を観察し、作戦通り同種の攻撃を放つ敵の行動を予測して立ち回る。
「生きている時は女性を翻弄し騙していた訳ですから、今度はその立場に自分がなって下さいね」
 攻撃をしたならばその位置には留まらず、位置を変えて翻弄。的確に隙を狙って稲妻を帯びた超高速の突きを見舞い、冷たく言い放つ。
(「……狙うのは男性優先らしいけど、その次くらいには狙われる自信があるわね」)
 起伏に乏しい少女の見目の玲斗は、自身が初手で放った第六感(インヴィジブルセンス)が味方の妨害エフェクトを手堅く増やすのを見て取りつつ、十二分に警戒して癒しの雨を降らす。
「他の男を疎むのは、実は自分に自信がない表れかな?」
 攻撃を見切って受け流したラジュラムは、その隙をつき不可避の攻撃を狙う流派・花楽音流の流儀に従い、敵を挑発する言葉を乗せると共に、ゼログラビトンのエネルギー光弾を射出する。
「何だと! くそ、目障りなんだよテメェら……!」
 ショウは攻撃が思うように通らない忌々しさに眉を歪め、地面に描いた守護星座を光らせ、受けた痛手を癒す。
「それが貴様の本性か。どこまでも見下げ果てた奴よ」
 ウルリカは男性陣相手には露骨に口汚く罵倒する敵に目を眇め、全身を光の粒子に変えての突撃を喰らわせる。
「行くぜ、ビタ。いけ好かねェあのツラに一発かます」
 いなせはウイングキャットに声をかけ、自身の轟竜砲とビタのキャットリングをショウの顔面目掛けて撃ち出す。竜砲弾と尻尾の輪が、敵を襲う。
「欲に忠実な者は欲に身を焼くと聞くが、面白い事になったのう」
 楓本来の気弱な人格は、自らの美貌に自信が持てず、自分はきっと先に狙われるだろうと思っていた。だがその予想が外れて後回し対象になったとしても『今』の彼女は動じず一笑し、黒い塊を身に纏い、異形武装(剣ノ型)・斬魔黒刀を操り痛烈な雷刃突を繰り出す。
「この女っ……俺の顔に何してくれてんだよ! 女は女らしく大人しくしてろってんだ!」
 ショウは星座の重力をを宿した剣で重い斬撃を放つ。対象は、いなせ。女性陣に軒並み嫌悪される中でも、彼女の口の悪さは特に気に入らなかった様子の激昂だ。
「……どこを狙っているのですカ? 男は目障りなのでショウ」
 エトヴァはすぐさまいなせに気力溜めでヒールを施し、標的を再び自分達に向けさせるべく挑発する。幸い彼女も身構えは充分で、手傷は浅い。
「……うさちゃん、いっけー!」
 リィナはロッドを茶色の垂れ耳うさぎの姿に戻し、魔力を籠めて射出する。ジグザグの効果が、敵の得たBS耐性と拮抗する。
「女らしさを強要するのも今時どうかと思うけれど、紳士的で男らしくすら無いあなたが言えた事かしら」
 隙を縫い肉迫し、エアシューズ・不知縫に炎を纏って、蹴技を見舞う玲斗。
 事前の想定では敵が逃走する可能性も考慮し退路を塞ぐ事も考えていたが、どうやら番犬達に手こずるショウにその心配はいらなさそうだ。
「このっ! その澄ましたお綺麗な顔、ムカツくな!」
 再び後衛へのゾディアックミラージュ。後方まで届く技をそれしか持ち合わせていないがゆえだが、まんまとケルベロスの作戦に嵌められている。
「さっきまでの余裕はどうした。まるで張子の虎だな。否、余計な戯言をほざかぬ分、張子の虎の方が余程立派に見える」
 後衛狙いの攻撃にはウルリカも巻き込まれる形になるが、仲間のヒールと彼女自身の備えもあって大事には至らない。
 彼女の音速を超えるハウリングフィストの拳が、ショウのBS耐性を打ち砕く。そこへ続けざまにチベタンマスティフの風貌をしたオルトロスのアルスランが、ソードスラッシュの一撃を加える。
「ラジュラムさん、合わせましょう」
「よしきた。おじさんに任せな!」
 声を掛け合い、ラジュラムがバスターライフルから発射するフロストレーザーが着弾し、装甲の内の熱を急激に奪い敵の注意を惹きつける。その隙にサラが敵の背後に回り込み、銀雷閃のオウガメタルを鋼の鬼と化し、拳を叩き込んで敵の漆黒の鎧にヒビを入れる。
「無様じゃの。だが哀れみは無いぞ、それはお主が望んだ結果じゃろうて」
 もはや言うまでもなく、番犬達の圧倒的優勢。楓は振るう斬魔黒刀に空の霊力を帯び、その装甲のヒビを広げるように正確になぞって斬り払った。


「――ああ、くそっ、くそっ! ゆっくり味わいたかったが、こうなったらせめて女共を斬り裂いてやる!」
 エトヴァや玲斗が味方の状態を万全に保ち、ウルリカや楓が容赦なく叩く。
 敗色濃厚に苛立つ敵が、剣撃を前衛へ放つ。だがその攻撃は――。
「うぜェんだよッ! 死にぞこないは墓に帰れッ!」
 メイド服でも柄の悪さでも覆い隠せない、騎士の如き姿で立ち塞がるいなせのオウガメタルによって、すべて庇われた。
「無駄です。『我が閃光、その身に刻め!』」
 奥義【一閃改追】(オウギイッセンカイツイ)。足掻こうが劣勢はもう覆せないと、サラは冷徹かつ苛烈に追い詰める。伯耆国安綱を構え、抜刀術の閃きで斬り捨て、更に突きで追撃を加え。
「……たくさんの人、傷つけた、罰だよ……。……ねぇ……教えて……? 今、どんな気分か……」
 リィナの見せる幻影、快楽の虜・悪夢の餌(オアプレジャー・オアナイトメア)。幻影の虜になって無防備になったショウに、容赦なく攻撃が炸し。
「さて、これで最後だ。『派手にいくぞ!』」
 ラジュラムはショウの至近に踏み込み、日本刀・黒塗を地獄の炎で爆発的に抜いて、薄紅色の炎纏う斬撃の旋風を放つ。
「ひっ! ま、待てよ! そうだ、イイ女紹介してやるから……!!」
 開幕の小手調べとは比べ物にもならない渾身の一撃が、無様な命乞いごと敵を斬り払う。
 千切れた炎の片鱗が桜の如く舞い散る中、黒騎士のエインヘリアルは塵へと還った。


 ヒールを施し、出来る限り現場を元通りに。そして一部の者は祈る。
 例えどのような敵であっても、一個の戦士であり、エインヘリアルとされた被害者であり、そして一人の人間であった事に変わりはないと。
「骸すら残らず塵は塵へ、か。おじさんの炎で彼岸に送れたかな」
「次に生まれ変わる時は見た目だけでは無く、心も美しければよいですね」
 サラとラジュラム、それに玲斗がそれぞれの流儀で供養する中、エトヴァは考える。
「………実に非合理デス」
 生身の人間が元となったデウスエクス。非論理的に、あるいはあまりにも人間的に、自身の感情を優先する敵。静謐が戻っても、彼にとってはやはり測りかねる対象だった。
 いなせとウルリカは遠巻きに離れている。彼女達にとってはその対象ではなくとも、仲間が祈るならばそうする間は何も言わず待つ。
「早いところ、シャイターンを何とかしたいところだけれど」
 何か良い手立てがあれば。見えてくるものがないだろうかと、玲斗は考える。
「もう助からない……、元の人も……褒められた人間じゃないと解っている……。それでも……」
「……ショウくんも、いなくなっちゃった、なぁ……。ちょっと、悪い人、だったけど……寂しいの……」
 それでも、何とか救いたいと思うのは悪い事なのだろうか。
 いつかは、エインヘリアルと化したような人も助けたい。
 楓とリィナは自問するように、あるいは釈然としないように呟く。
 善人でも、悪人でも、死をもって止めるしかない戦い。少なくとも今は、まだ。
 唯一確かなのは、それが無辜の民に仇なす者であるなら番犬達は逃がさないという事だ。

作者:青雨緑茶 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年11月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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