三獄三罪の羅刹

作者:澤見夜行

●煉獄の化身
 ――予感があった。
 上野・零(地の獄に沈む・e05125)はその日調査の為に訪れた山奥で、その予感を感じ取った。
 心を地獄化している零ではあるが――だが、その心の赴くままに、夜闇の中山林を往く。
 何度か方向を変えながら、奥へ、奥へ。
 山林を抜け、月光が揺らめく河原にさし当たると、予感が示す通りそれはあった。
 モザイクの空間――ワイルドスペースだ。
「……これは悪い予感が当たったかな。……行ってみればわかるか」
 幾度目かになるモザイクへの突入。身体に纏わり付く粘性の液体の不快な感触にも慣れてきていた。
 装飾美術めいた空間の中、慎重に歩む。
 河原を流れる水の音が、耳に響く。ふと水音が跳ねた。
「……こうしてハッキリと見るのは初めてになるのかな」
「ほう、アンタ、このワイルドスペースを見つけられるなんてな。この姿に因縁でもあるのか?」
 一度暴走を経験している零は自身の変容を理解しているつもりだったが、こうして目の前に現れまざまざと見ることとなり、改めて自身の変容ぶりを確認する事となった。
 翼と角が生え、瞳、皮膚、そして心に煉獄の炎が燃え盛る。
 足下に広がり立ち上らせるは生者を飲み込む黒い魂か。地獄の沼を彷彿とさせるソレが怪しく蠢く。
 零が冷静に観察していると、対する男は不愉快そうに口を開いた。
「訳知り顔って感じだな。気に喰わん。……早速だがアンタにはワイルドハントであるオレの手で死んで貰うとしよう。秘密を漏らすわけにはいかないからな」
「……そういうわけにはいかないよ。……相手が私の姿ならなおさらね」
 冷静に、そして速やかに武器を構える零。
 対するワイルドハント――夢喰いもまた、その右手に持つ髑髏の杖を構え、切り開かれた悪鬼の口を歪ませる。これから起こる殺戮を想像し狂気の笑みを浮かべた。
 今、三つの地獄と、三つの大罪を冠した己と相対する――。


「頻発するワイルドハントとの遭遇ですが、調査を行っていた零さんがやはり遭遇したようなのです」
 クーリャ・リリルノア(ヴァルキュリアのヘリオライダー・en0262)はそういうとモニターに資料を表示させていく。
 山間に流れる河原に生み出されたモザイクの空間。
 他の事件と同様に、ワイルドハントを名乗るドリームイーターがモザイクで覆った場所で何らかの作戦を行っていたようだ。
「このままでは、一人戦う零さんの命が危険なのです。今ならばすぐに救援に迎えるので、皆さんには急いで救援に向かって欲しいのです!」
 クーリャは続けて資料を読み上げ、詳細な情報を番犬達に伝える。
 戦闘地域はモザイクに包まれた河原。特殊な空間になるが、戦闘に支障はない。
「敵は零さんの姿を模しているのです。足下に広がる黒い沼のようなものを飛ばし捕縛する攻撃や、杖を髑髏に変え傷口を広げる魔法、更には自身を回復する力もあるようなのです」
 素早い動きで翻弄してくる厄介な相手だとクーリャは眉を顰めた。
 説明を終えたクーリャが番犬達に視線を合わせる。
 ヘリオライダーの予知でも予知できなかった事件を、零が調査で発見できたのは、敵の姿とも関連があるのかもしれない。
 そしてワイルドの力を調査されることもまた、恐れているのかもしれない。
「無事に零さんを救い出すために、どうか、皆さんのお力を貸してくださいっ!」
 一礼したクーリャは強い願いを込めて、番犬達を送り出すのだった――。


参加者
アジサイ・フォルドレイズ(絶望請負人・e02470)
御子神・宵一(御先稲荷・e02829)
上野・零(地の獄に沈む・e05125)
カルロス・マクジョージ(煌麗の満月・e05674)
タクティ・ハーロット(重力を喰らう晶龍・e06699)
村雨・柚月(黒髪藍眼・e09239)
ハインツ・エクハルト(光を背負う者・e12606)
一之瀬・白(八極龍拳・e31651)

■リプレイ

●そこにはきっと
 襲い来る夢喰いが、杖を髑髏へと変化させる。
 髑髏より放たれる魔弾を躱しながら上野・零(地の獄に沈む・e05125)は状況の悪さを自覚していた。
 仲間達との約束。
 無茶をしなければ良い話ではある、が――圧倒的な力の前にその約束も反故にせざるを得ないかもしれない。
「……しかし私と同じ顔なのは……見るだけで虫唾が走るな」
 水飛沫を上げながら河原を走る。
 相対する敵を視界に収めながら、その胸中を吐露した。
「逃げ回るばかりか。だが何れ捕まるぞ、そら!」
 夢喰いの足下の黒沼が零の足を捉える、動きを止めた零に夢喰いが襲いかかり殴り飛ばす。
「安心しろ、すぐに殺してやる。そうだな、ついでに仲間共も血祭りにしてやろう」
 夢喰いの言葉に、零は声色を変える。
「……暴走姿って事自体は正直どうでもいいが……お前がわざわざ『俺』や友を襲いに来るっていうなら話は別だ――全部奪い取った上で、殺してやるよ」
 零の口から漏れる詠唱が風に流れる。
 胸元の宝石と全身が黒い焔――地獄に包まれる。
「……久方ぶりに、全開の地獄のお披露目といこうか。『焼却式、起動』―――簡単に殺されると思うなよ」
「面白い芸当だが、なにも変わりはしない。さあ泣き喚いて許しを請うて見ろ!」
 互いの焔をぶつけ合いながら、命を奪う一撃を繰り出し合う。
 その最中、自身を模倣する夢喰いをその瞳で見据えた零は、過去の出来事を想起する。
 ――それは約三ヶ月前の出来事だ。
 螺旋忍軍との戦いにおいて窮地に追い込まれた零は、退路を拓くために暴走した。
 しかし窮地は脱した物のその果ては、現れた死神との戦いにやぶれ利用されるという、ひどい結末だった。
 あそこで、本来自分の命は終わっていてもおかしくなかった。
 けれど、友が、仲間達がそこから救い出してくれたのだ。
 いつだって仲間達は自分を心配し、そして助けてくれる。
 ――……無茶はしないよ。
 そう約束した傍からこれでは弁明のしようがないけれど、きっと――。
 互いに地獄の焔を叩きつけあい間合いが開くと同時、背後に水飛沫があがった。
 そう、振り返れば、そこにはきっと――仲間がいるんだ。
「助けにきたぞ、零!」
「……ホント、助けられてばかりだ」
 頼もしい仲間達の声に、表情は変わらなくともその声色は信頼への喜びに満ちている。
 集いし番犬達の反撃が始まる――。

●地獄の焔は立ち昇る
「三度目だと流石にはっきりとわかるな……ワイルドハントの中身が、本人と全然違うってこと! 例えあんた達が何者だろうと、もう容赦はしないんだぜ!」
 ハインツ・エクハルト(光を背負う者・e12606)がその溢れんばかりの心情を声に出し宣言する。
「というわけで、零お待たせ! 今回もきっちり連れて帰るぜ-!」
「零殿、お待たせしたのじゃ!」
 ハインツと一之瀬・白(八極龍拳・e31651)の言葉に苦笑しながら零が答える。
(「……これで助けて貰ったのは暴走の時と合わせて二度目になるのかな。返すのが大変だ」)
 零はその思いを胸中に大切に仕舞う。
「しかし、本当に『あの時』の零殿と同じ姿をしておるんじゃな……全くもって、救出しに行った時を思い出すのじゃ」
 白は夢喰いを睨み付けるように観察すると、その感想を述べた。
「じゃが、今回は『あの時』とは違う……貴様は零殿ではない、鏡写しの偽者に過ぎぬ!」
 裂帛の気合いとともに、夢喰いを偽物と断じる白。
 それは零との揺るぎない友情の上になりたつ言動だ。
「ワイルドスペースの秘密を喋るなら、今のうちじゃぞ……? 何せ、此処が……お主の墓場になるのじゃからな!」
「――皆殺しだ。全員生きて帰れると思うなよ!」
 爆発的に夢喰いの殺気が膨れあがり、場を支配する。グラビティが迸り足を濡らす川の流れを乱れさせた。
「だいぶやられたな」
「……流石に一人ではね、とはいえ相手にも同じくらいやり返したけどね」
「それだけ言えればまだまだいけるな」
 アジサイ・フォルドレイズ(絶望請負人・e02470)が零へとヒールを駆けながら発破を掛ける。
「無茶もほどほどにしてくださいね?」
「……毎度のことで悪いね」
 苦笑しながら零へと声をかける御子神・宵一(御先稲荷・e02829)。
 スラリと斬霊刀――若宮を抜くと夢喰いに切っ先を向けた。
「浅小竹原 腰なづむ 虚空は行かず 足よ行くな」
 挽歌、あるいは呪歌か。古謡の詠唱を媒介にグラビティが放たれる。
「グゥ……!」
 苦曇った呻きを漏らす夢喰いの足が止まる。
「所詮騙り……ってとこですかねだぜ?」
 天空高く飛び上がったタクティ・ハーロット(重力を喰らう晶龍・e06699)が、急降下しながら美しい虹を纏う蹴りを放つ。
 優雅に舞う様を挑発と受け取った夢喰いの怒りが、タクティへと向けられた。
「チビ助! タクティを助けてやりな!」
 使い魔のチビ助に指示をだしながらハインツは味方の強化を狙っていく。
「雷雲よ、みんなに力を!奔れ、研ぎ澄ませ、《閃(ブリッツ)》――ッ!!」
 掌に生み出された雲塊が、上空より稲妻を放つ。稲妻は仲間達へと落ちると肉体と神経を活性化していく。
 集中力が研ぎ澄まされるような感覚に番犬達は一つ頷き、握りこんだ手に力を込めた。
「気合入れていくぜ!」
 村雨・柚月(黒髪藍眼・e09239)のかけ声と共に、番犬達の背後にカラフルな爆発が広がる。
 モザイクの世界にあって目を引く爆風は、番犬達の士気を高めていった。
 番犬達が揃いその勢いを増したのも束の間、夢喰いはその相貌に凶悪さを生み出していく。
 それは幾多の罪を犯した大罪人か、はては罪人を地獄の業火に焼く鬼の形相か。
 黒き魂めいたグラビティを迸らせながら番犬達を傷つけ圧倒していく。
 だが、その姿を見て番犬達は、零とはかけ離れた存在だと思う。
「カルロス殿、宵一殿、いざ参ろうぞ!」
 仲間達に声を掛け合い、連携を密にするのは白だ。
 共に後衛の二人に呼びかけ、夢喰いを自由にさせない立ち回りを見せる。
 また夢喰いの動きをよく観察し、的確にその隙を狙う宵一の剣捌きは見事だ。
 俊敏なその動きに夢喰いも翻弄される。
 今もまた側面から回り込むように近づいた宵一が、体術を駆使し夢喰いの足を止めると、その体勢を崩すべく神速の突きを繰り出した。
 そのタイミングを白が逃さず追撃を重ねていく。
 連携を重視した立ち回りは、夢喰いを苛立たせる。
 カルロス・マクジョージ(煌麗の満月・e05674)も共に猛追していく。
 宵一の攻撃で体勢を崩した夢喰いに高速で殴りかかると、勢いそのままに炎を纏う激しい蹴りを見舞う。
 距離が開くとみれば、即座に古代語を詠唱し、石化光線を放った。
 攻撃は止まらない――さらに夢喰いへと肉薄する。
「平行世界って聞いたことある? 誰もが持つもうひとつの世界……君みたいなパチモンにはどんな世界が広がってるのかな? パラレルショックっ!!」
 ぐらり、と夢喰いの頭が揺れた。
 平行世界を見せ付けられた夢喰いはその複雑な情景を処理することができず、頭を振るう。
 その隙を狙って、宵一が飛び込み重い一撃を重ねていった。
 ――戦いは長期戦の様相を見せ始めていく。
 互いに譲らぬ攻防の中、疲労と状態異常が重ねられていった。
「這い寄れ無音の黒き影! 顕現せよ! シャドーステップ!」
 柚月がグラビティを込めてカードを振るうと、黒猫を思わせる影が現る。
「奴を翻弄してやれ!」
 柚月の声に、影がジグザグにステップを刻み、夢喰いの懐へと飛び込んだ。
 黒き影に翻弄される夢喰いは、いつしかその傷口を広げていく。
「まったく次から次へと、何を企んでいるのか――」
 アジサイは夢喰いを睨みながら、身体に纏わり付く液体を手で掬おうと動かす。
 こぼれ落ちる感覚は、奴らの企みを調査する感覚に似ていると感じた。
 ――だがまぁ、いい。
 夢喰い達が何を企んでいようが、撃破すれば潰せるようだ。
「……それだけわかれば十分だ」
 仲間へと癒やしの力を飛ばしながら、アジサイは決意を固める。
 仲間の、それも暴走した姿を模すなどという不快な行いは、零と自分達で終わらせるのだ。
 夢喰いにはじき飛ばされた柚月が大きく息を吐いた。
「持久戦か……そろそろあっちもきつくなってきたんじゃないか?」
 柚月の言葉にアジサイが笑った。
「持久力で負けそうか? いいや、粘り強さなら番犬の勝ちだ。そうだろ」
「あぁ、違いない――!」
 味方を鼓舞するように軽口を叩くアジサイが傷ついた柚月を癒やす。
 ハインツと役割を分担した回復は、確実に番犬達の動きを良い物にしていった。
 ――敵視をとることで、タクティに攻撃が集中する。
 その悉くをミミックと共にその身で受けながら、されど作戦通りと言わんばかりに笑みを浮かべた。
 その余裕を浮かべる態度に、さらに夢喰いは憤怒する。
「このスペースの存在意義くらいは話して沈んで欲しいのだけどなぁだぜ」
「――調子に乗るなよ」
 幾重にも虹を生み出しながら蹴りを見舞うタクティに対し、夢喰いが黒き沼を放ち、捕縛を試みるが、すぐさま仲間のヒールがその呪縛を打ち払う。
「残念だが、こっちには心強い仲間がいるんだぜ? さぁ覚悟するんだぜ」
 仲間への信頼を背に、タクティは更なる挑発を繰り返していく。
 夢喰いへと飛びかかり攻撃を重ねるのは白だ。
 しかし、その両手の武器を夢喰いに押さえられ攻撃を封じられる。
 ニヤリと悪笑を浮かべる夢喰いに、返すように口を歪め笑った。
「貴様の生温い炎と、余の御業の炎……どちらが熱いか勝負といこうかのう!?」
 瞬間、口から現れた半透明の「御業」が炎弾を放ち、夢喰いを焼き捨てた。
 溜まらず離れる夢喰いに、白は為て遣ったりと声を上げた。
「驚いたか、この御業は、こういう使い方も出来るのじゃ……!」
「味な真似を――!」
 虚を突かれた夢喰いの顔に痛恨の念が刻まれた。
 戦いが長引いてなお、夢喰いの動きはその凶悪性を保ち続けている。
 番犬達が飛び込み一撃を叩き込むが、時に躱され、時に反撃され傷ついていく。
「素早いな……捕らえろ!」
 その動き――俊敏な足を止める必要があると柚月は判断し半透明の「御業」を生み出し、夢喰いを捕縛する。
「オォ――!!」
 その隙を逃さず、カルロスが裂帛の気合いと共に飛び込み殴りつけた。
 その隙を援護するように飛び込んだ宵一の一撃が、夢喰いの傷口を広げていくと、注意を惹くタクティもすぐさま攻撃へと転じる。
 反撃するように夢喰いが黒沼を放ち白を捕縛する。そのまま頭蓋を叩き割ろうと飛びかかった。
 自由に身動きが取れない中、白はしかし最小限の円の動きでその腕を払うと、身体を横に向けながら腰に構えた音速の拳を放つ――それは八極拳、冲捶だ。
「我が拳技、一切問わず全てを撃ち砕くもの也……!」
 思いがけない反撃に苦悶の表情を浮かべる夢喰い。八極拳の構えを見せる白が言葉を浴びせる。
「命が惜しければその不愉快な姿を解き、退くが良い。逃げる者は追わぬのじゃ」
「……巫山戯たことを……」
 間合いをとった夢喰いが放つ魔弾を受けながら、白はその覚悟を風へと乗せる。
「……逃げぬか。ならば、ここで討ち取ってみせようぞ」
 闘志に燃える龍眼が、猛る偽身を射抜いた。
 ――戦いは終局へ向かいはじめる。
 傷つきながらも連携を駆使して戦う番犬達。一方一人その力を奮い続ける夢喰いは疲弊が目に見えるように明らかになってきていた。
 長い、長い戦いの果てに、その時はやってきた。
「その姿を騙ったことを後悔し沈むとよいのだぜ?」
 タクティが手に武装するガントレットを砲撃形態に変化させ竜砲弾を撃ち込んでいくと夢喰いが思わず膝をつく。
「足が止まってるぜ!」
 柚月の指摘の通り、ついに俊敏に番犬達を翻弄していた夢喰いの足が止まったのだ。
 その隙を番犬達は逃しはしない。
 懐へと飛び込み、止まらない猛攻を掛ける。
 だが夢喰いもただやられるばかりではない。
「死ね番犬共――!」
 凶悪な表情を浮かべた夢喰いが、番犬達をちぎり投げ飛ばす。
 溢れる殺気と魔力――地獄の奔流が、一人、また一人と苦しめていく。
「その姿でそんなこと言うもんじゃないぜ」
 零と瓜二つの姿で有りながら、その凶悪性に違和感を覚えるハインツが声を上げた。
 姿形は同じでも、やはり中身は別物なのだ。
 共に戦う零の姿を確認すると、その思いは確信へと変わる。
 そして夢喰いと番犬達の決定的な違いがもう一つ。
 ハインツ放ったヒールにより、傷を癒やされ立ち上がる仲間達の存在だ。
 八人が、罪を纏い地獄を撒き散らすただ一人の羅刹を睨む。
「絆の力ってやつを、侮ってもらっちゃ困るよな! なぁ零!」
「……あぁ、そうだな」
 そう番犬達には仲間がいる。
 絆、信頼、友情――。幾重にも絡み合った縁によって結ばれた心強い仲間達。
 その力があれば、どのような地獄だろうと乗り越えられる。
 零の地獄化された右目の炎が猛る。
 その瞳に気圧された夢喰いが、怨嗟の声をあげた。
 迎え撃つ夢喰いが放つ魔弾の悉くを躱し肉薄すると、静かに口を開いた。
「……その身に宿す罪に覚えはある。だがお前の罪は三罪――ソレ――ではない」
 かつて仲間の前に晒した自身の姿がその右目に映り込む。
 その姿を見て、仲間達はそれでも助けようと必死に戦ってくれた。
「……俺の姿で、俺や仲間達の命を奪おうとしたこと、ただそれだけだ」
 それを奪うことは、絶対に許されない――。
 ブラックスライムと地獄の焔が混ざり合い黑焔が生み出される。
 そして黑焔より錬成された幾多の武装が夢喰いを捉えた。
「……その罪の重さを自覚して、地獄に飲まれろ――」
 無数の地獄の剣が、三獄三罪の羅刹を貫いた。
 ――声を上げることなく、夢喰いはモザイクへと消えていく。
 甲高い音を立てて、髑髏の杖がいま、地に落ちた――。

●モザイクが残す物
 戦い終わり、辺りを探索した番犬達が戻ってきた。
「やはり何も見つからないか」
「ま、そんなものだよなぁ……」
 白と柚月の言葉に、アジサイは「時期がくればわかるだろうさ」と肩を叩く。
 それは諦観ではなく静観。起こるべき事が起こった時、対処すればよいとアジサイは考えていた。
「……また無茶をしてしまったかも」と頭を下げる零に、カルロスは微笑みながら語りかける。
「……上野くんはさ、こんなにもみんなに愛されてるんだ。大丈夫だよ。それに、友達の僕もいるから大丈夫さ」
 肩を叩くカルロスに、零は「……ありがとう」と礼を返した。
 零は落ちている髑髏を模した杖を拾い上げる。
 ――結局、唯一手にいれた物といえばこれだけだ。
 髑髏の杖を手にしながら、零は消えゆくモザイクの空を仰ぎ見た。
 訪れるかもしれない策動の予感を胸に、番犬達はその場を後にする――。

作者:澤見夜行 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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