紅に冴える影

作者:小鳥遊彩羽

 赤く染まった紅葉を夕暮れの赤が照らす、黄昏時。
「ここか……」
 何かに呼ばれるようにして、アラドファル・セタラ(微睡む影・e00884)が訪れたのは山の上にある小さな社。
 そして、その場所は例の如く――モザイクで覆われていた。
 微睡みから醒めたばかりのようなぼんやりとした眼差しを巡らせたのは僅かな間。アラドファルはそのまま、静かにモザイクの中へと足を踏み入れる。
「――やはり、そうか」
 粘性の液体に満ちたモザイクの内部は、凡そ彼が想像していた通りの光景が広がっていた。連なる鳥居も、その脇に並び立っていたであろう紅葉も、先へと続く石畳の道も――全てがバラバラに繋ぎ合わされたような、歪な世界。
 不意に感じた視線に、アラドファルは腰に帯びた剣を抜く。
 振り返った先には、赤と黒の色彩を纏う男が立っていた。
 おそらくは彼こそが――と、アラドファルが思考を巡らせるより早く、男は口を開いた。
「このワイルドスペースを発見出来るとは、この姿に因縁のある者と見た」
 赤い瞳にアラドファルの姿を映し、男は嗤う。
「だが、この地の事を知られる訳には行かないのでな。ここで死んでもらおう」
 一方的に告げられた言葉に、アラドファルは瞬き一つ。心なしか常よりも表情を引き締め、剣を構えた。
 既にこの調査のことはヘリオライダーに伝えてある。後は、皆が来るまで独りで持ちこたえなければならない。
「――そう簡単に、やられるとは思うなよ」

●紅に冴える影
 ワイルドハントについての調査を行っていたアラドファルが襲撃を受けたと、トキサ・ツキシロ(蒼昊のヘリオライダー・en0055)は急ぎ、その場に集ったケルベロス達へ伝える。
「アラドファルさんが向かったのは、山の上にある小さな神社。彼が懸念していた通り、そこはモザイクで覆われたワイルドスペースになっていて、アラドファルさんはそこで、自らが暴走したかのような姿をしたドリームイーター、ワイルドハントと接触したようなんだ」
 このままではアラドファルの命が危険だとトキサは続け、そして、改めてケルベロス達に彼の救援とワイルドハントの撃破を依頼した。
 ワイルドハントは先に述べた通り、アラドファルが暴走したかのような姿をしているが、あくまでも姿だけで、中身は全く別の存在となる。そして、戦いの舞台となるワイルドスペース内は粘性の液体に満たされた特殊な空間であるものの、動いたり喋ったり、呼吸をしたりといった行動には一切の支障がなく、戦闘への影響もないとトキサは言った。
 ケルベロスが暴走したような姿を持つ、ワイルドハント。ヘリオライダーの力でも予知が叶わなかったこの存在をアラドファルが見出だせたのは、敵の姿とも何らかの関連があるのかもしれない。
 だが、今は何よりも、無事にアラドファルを救い出し、ワイルドハントと名乗るドリームイーターを倒すことが先決。
「というわけで、これから急いで現場に向かうから、皆、しっかり掴まっててね!」
 そう言って説明を終えると、トキサは急ぎ、ヘリオンの操縦席へと向かった。


参加者
アラドファル・セタラ(微睡む影・e00884)
神乃・息吹(虹雪・e02070)
安曇野・真白(霞月・e03308)
黒木・市邨(蔓に歯車・e13181)
真山・現(夢現・e18351)
保村・綾(真宵仔・e26916)
十六夜・刃鉄(一匹竜・e33149)

■リプレイ

 ――誰そ彼。
 向かい合う、凶暴な色彩を纏う男が誰であるか、アラドファル・セタラ(微睡む影・e00884)にはわかっていた。
 紅い眼で、残酷に嗤うもう一人の自分。けれど、それはあくまでも見た目だけ。
「お前がこの地を知られたくないように、俺もその姿を必要以上に見せたくない……!」
 互いの得物で切り結びながら、アラドファルは叫びにも似た声を響かせる。

 何もかもが混ざり合った曖昧な空間の中で、神乃・息吹(虹雪・e02070)は静かに耳を澄ます。
 ワイルドハントとの対峙は今回が初めてではなく、己のそれとも既に邂逅を果たした息吹にとっても、友の姿を持つ相手は何度戦ってもやり辛いものだが――だから言って、手を抜くつもりは毛頭ない。
 それに何より、彼が最も心配するであろう保村・綾(真宵仔・e26916)が傍らにいる。
 いつもは明るく輝いて世界を映す紅の瞳が不安げに揺れているように見えて、息吹は柔らかく微笑んだ。
「きっと大丈夫よ、綾さん。いつもねむねむなアルさんでも、やる時はやるでしょうし」
 息吹の励ましに、綾はうんと頷き、笑みを覗かせて。
「ととさまは、綾のととさまはとっても強いのじゃ! だから絶対、ダイジョウブ! ……息吹あねさま、ありがとうなのじゃ」
 どういたしましてと息吹は微笑み、そして白いトナカイの耳をぴくりと動かす。
「……! ……あっち、ね」
 息吹の耳が捉えたのは、近くて遠い戦いの『音』。その方向を指し示せば、
「さっさと合流するぞ」
 ぶっきらぼうに吐き捨て、十六夜・刃鉄(一匹竜・e33149)が真っ先に走り出す。
「刃鉄あにさま!」
 慌てた様子の綾を刃鉄はちらりと振り返り、一瞥。
「どうせ皆走ってくるだろ、そんなに差はねえって」
 アラドファルを案じ、彼の元へ急ぐ刃鉄の心は傍目には分からないが急いていた。
 ゆえに、振り返ることなく駆けていく――それは仲間達を信頼しているからこそなのだが、同時に素直になれない彼の一面が顔を覗かせた証でもある。
 だが刃鉄もアラドファルを助けたい気持ちは皆と同じで、だからこそここにいることは、皆も良くわかっていた。
「――急ごう」
 そんな刃鉄にくすりと笑みつつ、黒木・市邨(蔓に歯車・e13181)と、そして安曇野・真白(霞月・e03308)が箱竜の銀華と共に続く。
 アラドファルは真白にとって恩義のある市邨の大切な友人で、そして、彼を迎えに来た皆も大切な仲間だ。
「無事に、揃って帰りましょう。そのために、真白は力を尽くします」
「ああ、先ずは、大事な友人を返してもらいに行こう」
 気難しそうな表情ながらも、真山・現(夢現・e18351)の声は朗らかで。
「その上で、ワイルドハントさんには速やかにご退場頂きませんと……ね?」
 穏やかに微笑んで、ハティ・フローズヴィトニル(蝕甚・e21079)が言葉を重ねる。
 ワイルドハント、謎の空間。気掛かりなことばかりではあるけれど、――今は何よりも『友』を取り戻すことが先決だ。

 無数の針が刺すような痛みを祓うよう、アラドファルは魂を喰らう降魔の一撃を放つ。
 一人で倒せたらどんなに良いだろうかと考えるが、一人ではそれは叶わないだろう。
 だが、必ず仲間達が来てくれる。それまでは何としても持ち堪えなければと、気合いを入れ直したその時だった。
「――ととさま!」
 それは聞き間違えるはずもない、声。
 禍々しい星の煌めきを小さな身体で受け止めた綾の背を、そして同時に現れたふっくらボディな猫の王様が癒しのステッキを振るうのを――ふわりと身を翻した文が翼を羽ばたかせて生む風を浴びながら、アラドファルは驚いたように見つめる。
「……新手か!」
「ととさまと同じ声で、しゃべらないで!」
 忌々しげに舌を打つワイルドハントを、綾は力強く睨む。
「無事か、アラドファル」
 綾と同じくアラドファルを護るように立った現は、敵の姿に一瞬目を瞠るもののすぐに真剣な眼差しで見据えて。
「アラドくん、元気、平気?」
「寝てねーよな、大丈夫か」
 市邨と刃鉄もまた、当人と随分違う印象を持つワイルドハントに驚きを隠せなかったが、彼らにとっては『敵』でしかなく。
「お待たせしました。眠ってしまわれる前に到着出来て良かった」
 一先ずは無事であるらしい様子に、ほっと胸を撫で下ろすハティ。
「駄目そうならば我々で片付けますが……」
 ふと息を吐き、ハティは冗談ですよと付け加えた。
「貴方は、まだ動けるでしょう? 終わったら紅茶の一杯は御馳走しますよ」
「……そうだな」
 アラドファルは安堵の息をつき、守りの構えを解く。
「似てるけど黒と赤ってカラーリング全然違えな。間違って斬ることもなさそうだ」
 ポジションを変える一瞬の隙を狙わせぬよう、刃鉄が鋭くワイルドハントを見据えながら吐き捨てる。
「そちらのアルさんは、チョイ悪な方向かしら。こちらのアルさんとは違った魅力があるかも……なぁんて、冗談よ」
 息吹は改めて『二人』を交互に見やりながら、楽しげに微笑んで。
「アラドであってアラドでないなら遠慮はいらねえな、さっさと倒そうぜ」
 刃鉄が更に続き、言うが早いか敵の鳩尾へ電光石火の蹴りを叩き込んだ。
 迫る夜闇に紛れそうな姿――それは、とても禍々しいもの。
「セタラさまはお返し頂きますの。真白も助太刀いたします!」
 真白が浮遊する光の盾をアラドファルの前に具現化させて、銀華も自らの属性を守りの力に変えて放ち。
「チョイ悪なアルさん、貴方はお呼びじゃないから、本物のアルさんを返してね」
 息吹は獣化した足――蹄に重力を乗せて渾身の蹴撃を見舞った。
「貴方の為に、蹄も磨いてきたのだわ。どうぞ、此方も存分に味わって頂戴、な!」
 つやつやに磨き上げられた蹄の跡をくっきりと刻まれ、その衝撃にワイルドハントがよろめく。
「――ああ、イブの蹄は今日も格好良いな。蹄スタンプ」
 なんて呟きながら、アラドファルは改めて皆を見る。
 ワイルドハントが持つ姿。
 あれが自分の中にあるものだなんて、思いたくなかった。知られたくなかった。
 けれど、皆の顔を見たらどうでも良くなってきた。
 あの姿を見られても、知られても。皆は変わらないと信じられるから。
「皆、――来てくれて有り難う」
 ただ一言。そこに言葉で伝えきれない想いを込めて、アラドファルは紡ぐ。
「肉体労働は苦手だが、君の為なら悪くない。……痛くない方が良いのは、確かだけれどね」
 現が笑って魔導書の中から守りの鎖を発現させ、ハティも同じように黒鎖を手繰りながら微笑みを返し。
「さあ、反撃開始と往きましょうか、ね。――蔓、草、出番だよ。往っておいで」
 市邨もまた微笑んで、蔓触手形態へと変形させた攻性植物を解き放った。

 戦いの最中、真白はふと想いを巡らせる。
(「……不思議な場所でございます、ね」)
 ワイルドスペースに初めて足を踏み入れた真白にとっては、目に見える景色も己を取り巻く感触も、全てが不思議に満ちていた。
 その正体が何であるかは未だわからない。けれどこの場はここで押し留めなければと守りの星を繋ぎ描けば、銀華が煌めくブレスを吹き付けて。
 燻る炎にも似た紅の瞳を真っ直ぐに見据え、真白は凛と紡ぐ。
「本当のセタラさまは大切な方々に手を向けることなどございますまい。姿のみを真似て在ろうとなさいますな」
 腕に絡むイペーの花をそっと撫で、市邨は影孕む男へと向き直った。
「然しワイルドアラドくん、随分色黒だな、焦げたのか」
 表情は変わらず柔和な笑みを湛えたまま、けれど瞳には冷えた色を灯し市邨は続ける。
「折角なら、もう少し肌を焦がしてみては如何が? ……遠慮するなよ、目一杯焼いてあげるから」
 刹那、掲げた掌から熱量のある竜の幻影が踊り、勢いを増した炎が夢喰いを飲み込んだ。
「怒ってんの?」
 何気なく問う刃鉄に、市邨はやんわりと微笑むだけ。
 向けられた歪な星の瞬きをナイフの刃で受け流し、ハティは光り輝くオウガメタルの粒子で前衛陣の命中精度を高める。
「現さん、お願いしますね」
 ハティが呼ぶ声に頷き、現は再び魔導書を捲った。
「幾ら転じた姿とはいえ、友人の姿を写されるのは不愉快だ、デウスエクス。……早急にご退場願おうか」
 頁を食い破るように伸びた鎖がモザイクを絡め取り、
「ドラゴンの君も、頼んだよ」
 呼ぶ声に応じ、現の箱竜が自らの箱ごと勢い良く飛び込んでいく。
 ケルベロス達の猛攻に次第に動きを鈍らせながらも、ワイルドハントは変わらず口の端を歪めて嗤っていて。
「ととさまは、赤くないもん。ととさまはそんな風に笑ったりしないもん!」
 綾は胸がぎゅうっと締め付けられるような心地を覚えながら、星を散らしたオウガメタルの拳を叩き込んだ。
(「……ととさまも、アレはきらい?」)
 傍らに立つ父をちらりと見上げ、綾は心の中で問いかける。
(「綾も、綾もアレは見たくない。なんだかとても、苦しくなるから」)
 でも、そんなことを言ったら、彼はきっとすごく心配してしまうだろうから。
「……綾?」
「――何でもないのじゃ、ととさま。早くやっつけよう!」
 視線に気づいたアラドファルに、綾はいつものように笑ってみせる。
 そうか、と答え、如意棒を手にワイルドハントへ向かっていくアラドファル。
「無理すんなよ」
 不意に刃鉄がアラドファルに聞こえぬよう落とした言葉に、綾は大きく目を瞬かせ、それから笑った。
「……ありがとうなのじゃ、刃鉄あにさま」
 ん、と頷き、刃鉄はアラドファルが夢喰いへ一撃を呉れたのを見て、間髪を容れずに踏み込んだ。
「さあ、打ち込んでみろよ!」
 繰り出された夢喰いの腕を払い、飛ぶ鳥を落とすが如く反撃に転じて。
「アルさん、背中をお借りしても良いかしら?」
「……ん? ――っ!?」
 息吹の言葉に振り返るよりも先に、アラドファルの背を襲う衝撃。
 それが、息吹が自身の背を踏み台にして蹴りかかったのだと理解したのは、蹄の跡がくっきりと敵に刻まれた後だった。
「さっき、羨ましげな顔をしてるように、見えたから。……上手に押せたかしら? 蹄スタンプ」
 そのまま綺麗に着地を決めて振り返る息吹に真白がまあ、と目を丸くし、
「……くっきり、でございますね」
「嗚呼、実に見事なスタンプだ」
 ふは、と市邨が吐息で笑う。
「……目が覚めたような気がする」
 自分ではまだ確認出来ないが、感じた手応えに心なしか嬉しそうなアラドファル。
 そうして夢喰いへと向き直れば、黒ずくめの身体の随所にモザイクの煌めきが溢れているのが見えた。
「イブからのプレゼントはお気に召したかしら? ――さようなら、赤の軍人さん。もうお会いしないことを祈ってるのだわ」
 息吹がそう告げて一歩下がり、代わりにハティがナイフの切っ先を向ける。
「そろそろ終わりにしましょうか。これに懲りたら人の姿を勝手に使わぬことです」
 ハティが浮かべる微笑は先程までと同じはずなのに、どこか氷にも似た冷たさを孕んで。
 振るわれた刃に宿るのは純粋な憎しみ。太陽と月を飲み込んで星々を落とし――全ての終焉を編み込んだ呪いを突き立てれば、
「が、ぁ……ッ!」
 苦しげな呻き声を漏らす夢喰いへ、市邨が手を伸ばした。
「現を離れ、良い旅を。――さようなら、在るべき場所へお還り」
 夢幻の四季を映す虹の環が夢喰いを囲い、現という名の呪縛から解き放たんと七色の煌めきと共に爆ぜる。
 積み重ねられたダメージに耐えきれず、膝をつくワイルドハント。
 その命が尽きかけているのを感じ、現は書を閉じる。
「後は君の、悔いの残らぬように」
「セタラさま、どうか――」
 真白も攻撃の代わりに満月に似た光球に想いと願いを託し、アラドファルに確かな力を添える。
「なんかあんまし想像できねえツラで笑ってるし殴りたいのわかる」
 己の構えを解いた刃鉄にアラドファルは頷いて。
「俺も一発ぶん殴らなくては気が済まない。……その姿、返してもらうぞ」
 そうしてなぞったのは光の軌跡。
 貫き、毀れて、夢喰いの体を走った爪痕から無数の星が溢れ消えていく。
 痛みを夢に、何もかもを飲み込んで。
 影を写したワイルドハントは、モザイクの煌めきの中に消えていった。

 戦いの終わりと同時にワイルドスペースも消失し、辺りには元の風景と静けさが戻る。
「ととさま!」
 ぎゅっと跳びついてくる綾をアラドファルはしっかりと抱き締めた。
「……その蹄のスタンプも、君の頑張りの勲章代わりだな」
 吐き出す息と共に現が微笑を覗かせ、市邨も羨ましそうに見つめ。
「綾も肉球スタンプでも付けてやれば?」
 刃鉄が何気なく言えば、綾がぱちりと目を瞬かせる。
「……そうだな、綾も猫スタンプお願い」
「……こ、……これで良いかのう?」
 てしっと息吹の蹄スタンプの隣に綾の肉球スタンプが(ついでに文の肉球スタンプも)押され、折角だからと記念に写真を。
「これでまた、幸せになれそうですね」
 並ぶ三つの足跡に、ハティが微笑んで。
(「――真白にワイルドハントがございますれば、銀華も一緒でございましょうか?」)
 そんな想いを巡らせつつ事の成り行きを見守っていた真白には、市邨がおいでと手を伸ばした。
 綺麗に残った蹄の跡にとても満足そうに、改めて息吹はアラドファルに微笑みかける。
「お帰りなさい、アルさん。ふふ、随分と頑張ったから、もう眠いんじゃない?」
「……ああ、お布団恋しい」
 欠伸を噛み殺すアラドファルの様子に、アラドくんらしいと市邨はけらけら笑って。
「アラドくんにはお疲れ様のご馳走より、ふかふかのおふとんかな? お疲れ様、存分に寝ると良い」
「暗くなる前に、帰りましょう。きっとね、今日は気持ち良く眠れるわよ」
「まあ今回ばかりは早く帰ってとっとと寝るのが一番だろうな」
 市邨と息吹が続けた言葉に刃鉄も頷き、アラドファルはいつ眠ってもおかしくない様子で現に告げた。
「取り敢えず現、背負ってくれ……」
「……今日だけだ、明日からは腰の看病に付き合ってもらうぞ」
 少しばかり呆れつつも現は願いを聞き入れ、うとうとし始めたアラドファルを背負う。
「頑張って下さいね、現さん」
 今回の主役を背負う友に、ハティは笑い掛けた。
「えへへ、ととさま今日は一緒にぐーぐーするのじゃ! ……ととさま」
 一緒に居てねと小さく紡がれた綾の声も抱き締めるように、アラドファルの意識は夢の世界へ落ちていく。
「……おやすみ」
 眠りにつけば何も恐れることはなく、何も考えなくていい――。
 義父の寝顔に安堵して、綾は最後に空っぽの境内を振り返った。
(「……おやすみなさい、しらないひと。いっぱい眠って、とってもとっても気持ちよく。そうすればね、少しはととさまに似るかもしれないよ」)
 でも、と綾は想う。
 願わくは『彼』があの姿を取ることが――この先もずっと、ないようにと。

作者:小鳥遊彩羽 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年11月6日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 4
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