病魔根絶計画~アクスレピオスの喚び声

作者:秋月きり

 深夜。暗緑色の室内灯は部屋の闇を払う役目を果たしておらず、ただ、昏い病室に二つの影を浮かび上がらせていた。
「亜希……」
 直治の声は震えていた。ベッドの上に座る亜希はしかし、恋人の声が届いていないのか、血の滲む程に爪を噛み、虚ろな視線を壁に向けている。
 彼女だけではない。この隔離病棟に備え付けられた無数の独房には彼女と同様に『憑魔病』に罹患した患者達が収容されていた。悪徳を良しとするこの病魔に侵された人々を治癒する手段は限られており、今は世間から隔離するしか方法が無かった。
「いつかきっと良くなるから、落ち着いて、ゆっくり休むんだ」
 それでも、直治は信じている。今は無理でも、いつか、必ず彼女は快復すると。何時か、元気で朗らかだった彼女に戻ると信じ、その掌を包み込む。
「うるさい! 貴方に何が判るの!」
 だが、その手は拒絶されてしまった。
 憑魔病に侵され、重症者と認定された彼女は、まるで悪魔の如き形相で、直治を罵倒し、睨みつけるのだった。

「今回はみんなに病魔を倒して欲しいの」
 ヘリポートに集ったケルベロス達に告げられたリーシャ・レヴィアタン(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0068)の依頼は、その文言から始まった。
 小首を傾げるケルベロス達に彼女は言葉を続ける。
「と言うのも、病院の医師やウィッチドクターの努力で、『憑魔病』と言う病気を根絶する準備が整ったからなの」
 現在、この病気の患者達が大病院に集められ、病魔との戦闘準備が進められていると言う。ケルベロスの皆にはこの中で特に強い『重病患者の病魔』を倒して欲しい。それがその依頼の概要であった。
「今回、重病患者の病魔を一体残らず倒す事が出来れば、憑魔病は根絶され、新たな患者が現れる事も無くなるようなの」
 勿論、敗北すれば病気は根絶されず、今後も新たな患者が現れてしまう事になっちゃうけど、と但し書きを付け加えるリーシャは、それでもみんなを信じている、と言葉を繋げる。
「デウスエクスとの戦いを考えれば、決して緊急の依頼じゃない。けど、この病気に苦しむ人たちを無くす為、是非ともこの作戦を成功させて欲しいの」
 そこまで告げたリーシャは空咳を行うと、手にした資料に視線を落とす。
「出現する病魔は病気そのものを表した攻撃と、外見に相応しい攻撃、それと自己増殖にも似た回復を行うようね」
 病魔と言えど、デウスエクスに似た力を行使する存在だ。油断出来る相手ではない。
「それと、この病魔に対する『個別耐性』を得る事で、戦闘を有利に運ぶことが出来るわ」
 その個別耐性だが、病魔に侵された患者を看病したり、話し相手になる、慰問して元気づける等の方法で、一時的に得る事が出来る様だ。個別耐性を得る事が出来れば、病魔から受けるダメージを減らす事が可能だ、との事だった。
「憑魔病に苦しんでいる患者さんは決して少なくない。その人々を助けて欲しいの」
 ケルベロスの活動を支えているのは無辜の一般人達だ。その人々を助ける事は周り巡って皆の為になると、リーシャは懇願の様に告げ、皆を送り出す。
「それじゃあ、行ってらっしゃい」


参加者
メイザース・リドルテイカー(夢紡ぎの騙り部・e01026)
八千草・保(天心望花・e01190)
イピナ・ウィンテール(眩き剣よ希望を照らせ・e03513)
白銀・夕璃(白銀山神社の討魔巫女・e21055)
ヨハン・バルトルト(ドラゴニアンの降魔医士・e30897)
明星・舞鈴(神装銃士ディオスガンナー・e33789)
雨後・晴天(本日は晴天なり・e37185)
田津原・マリア(ドラゴニアンのウィッチドクター・e40514)

■リプレイ

●罹患者、そして支える者
 鉄格子、薄い明かり、そして、閉ざされた窓。ベッドは一つしかなく、そこに横たわる人間が一人と、付き添うように座る人間が一人。
「独房、とはよく言ったもんやなぁ」
 八千草・保(天心望花・e01190)の独白に、白銀・夕璃(白銀山神社の討魔巫女・e21055)が「ええ」と頷く。
「……貴方、達は?」
 疲れ切った表情の青年が立ち上がり、誰何の声を上げる。彼が、ヘリオライダーの言葉にあった直治と言う名の青年だろうか?
「うちらはケルベロスです」
 田津原・マリア(ドラゴニアンのウィッチドクター・e40514)の微笑は青年にどの様に映ったのだろうか。戸惑い、そして、安堵。或いは断罪される悲哀。様々な感情が浮かび、消えていくのが見て取れた。
「亜希君を蝕む病魔――憑魔病を治しに来たのだよ」
 メイザース・リドルテイカー(夢紡ぎの騙り部・e01026)の言葉は彼にとっての福音だった。
 瞬きを繰り返し、言葉の意味を反芻しようとする。その様子は何処か、悲しげに思えた。
(「そうですよね。辛かったですよね」)
 病魔と闘う亜希も、それを支える直治も。闘病の苦は患者だけのものではない。それを支える者達もまた、同じ苦しみを受けるのだ、とヨハン・バルトルト(ドラゴニアンの降魔医士・e30897)は低い声で二人を慮る。
「ま、私たちに任せておいてよ。ばっちりハッピーエンドのエンディングを流してあげちゃうから」
 明星・舞鈴(神装銃士ディオスガンナー・e33789)の声は明るく響いた。

「こんな場所にずっと居たら、気も滅入るだろ」
 その提案は雨後・晴天(本日は晴天なり・e37185)から。同意を示すイピナ・ウィンテール(眩き剣よ希望を照らせ・e03513)は車椅子を押し出すと、亜希へ背を預けるよう、促す。
 憑魔病は悪徳を働く事を是とし、それを行う病気。だが、ケルベロス達の見守る中であれば、独房に隔離せずとも誰かに害を及ぼす事は無いだろう。少なくとも、彼女が何かを行おうとしたとしても、ここにいる八人で止める事が可能だ。
「……行きたい」
「ですよね。今日は凄い秋晴れなんですよ」
 彼女はどのくらいの日々をここで閉じ込められていたのだろうか。その渇望に胸を痛めながら、ヨハンは車椅子の背を押す。共に支える晴天も彼女を安心させる為か、それとも素なのか、笑顔を向けていた。
「大丈夫。ここはうちらに任せて下さい。貴方の支えでこの日を来たんです。よう頑張りましたね」
「だね。だから、お兄さんも少し、休んだ方がいいよ。寝落ちとかする前にさ」
 マリアと舞鈴の労いに直治はぺこりと頭を下げ、自身の恋人をケルベロス達に託す。
「亜希をお願いします」
「任された」
「治療そのものは夜になると思うけど、それまで、兄さんも休んでおいてな」
 メイザースと保の言葉に、青年の表情が明るくなるのを、確かに見て取ることが出来た。

●交流は陽の下で
 寒さすら感じる秋の空気の中、イピナによる歌声が響き渡る。闘病者を想い、それを支える周囲を想い、そして負けて欲しくないと言う願いを想う。
 目を閉じ、歌声に耳を傾けていた亜希は穏やかな表情を浮かべていた。
「いい歌ですね」
「それは多分、貴方が頑張っているからですね」
 良い物を良いと素直に受け取れる感性が残っている事をヨハンは賞賛する。
「私は、そんな……」
 対して、亜希は震える声で自身の二の腕を掻き抱く。指先から零れる血がパジャマを汚すが、それでも痛みよりも恐怖が勝っているのか、震えがその手を支配している。
 そこに重ねられるのは夕璃と晴天の掌だった。二人の紡ぐ治癒のグラビティが、損傷した指先を快方へと向かわせる。
「この手が何よりの証拠、ですよ」
 辛い気持ちも何もかも、ここに重ね、自身を責めていたのだろう。それが決して彼女のせいではなく、病魔に侵されたが故の物だと、二人共、知っていた。だから、自傷した彼女を責めるつもりはない。ただ、癒やすのみだ。
「ま、あんたの気持ちも判るけれど、彼氏に色々ぶつけた件も忘れないであげてね」
 舞鈴の言葉は辛辣で、項垂れた亜希は涙を零す。
「手厳しいわな。……でも、亜希さん。今の気持ちを忘れんといてな。あんたは病魔のせいで悪徳を求めて直治はんに色々やってしもうたと思うけど……それはきっと、悪徳の名を借りて自分がしたかった事か、その裏返しやったんやないかな? ……彼、あんたにとって大切な人なんやろ?」
 彼女は自分を責めている。だから、それを肯定した方が彼女の救いになる事を、保も理解している。舞鈴の言は辛辣だったが、だからこそ、亜希は気を楽に出来る。そんな気遣いもあるのだ。
「貴方の未来も、貴方自身も、見てくれる人はちゃんとおりますよ」
 だから、直治は亜希を見捨てなかったし、自分達の到着する時間を確保する事が出来た。全て、二人の、そして二人を支えた医療従事者達の献身の賜物だ、とマリアはその肩を支える。
 だから、とケルベロス達は言葉を続けた。それが、今、彼女の望んでいる言葉だとは、誰しもが知っていた。
「なぁに、大丈夫。どんな雨だろうと、降り止んでしまえば、必ず御天道様が顔を出すもんさ」
 晴天の微笑に釣られたのだろうか、ぎこちない笑みで亜希は応じる。その意味を彼は知っていた。亜希を蝕む病は辛い物だし、それを患った事が良かったなどと思える日々が来る筈も無い。だが、それでも、いつか、晴れの日が来る。それは、必ずだ。人生、雨ばかりの日々だけではないのだ。
「必ず治すと『約束』しよう。私は、そして私たちはこれでも約束は破らない人間だよ?」
 『これでも』と自嘲気味に笑い、メイザースは力強く断言する。
 約束は守られるものだ。

 夜が来た。
「ここなら、戦闘に申し分は無いですね」
 とは、夕璃談。月明かりだけでなく、多重のライトに照らされた中庭で、ケルベロスは共に頷き合う。
 亜希の身体はストレッチャーに載せられていた。病室の出入り口には直治、そして医者や看護師たちも待機している。病魔召喚が完了すれば、亜希の回収後、彼らは扉を閉ざし、病棟に立て籠もる予定である。
(「デウスエクス並の病魔相手にそれがどんだけ、有効か判らんのやけど」)
 病魔召喚の準備を進める保や夕璃、晴天のサポートは任せろと胸を張ったマリアは亜希の手を取る。
「亜希さん、貴方と歩む未来を願う人のためにも、うちらが貴方を治します」
 それは約束で、誓いであり、そして宣言だった。真摯な瞳に見詰められ、亜希がコクリと頷く。
「さぁ。始めようか。これが第一歩。『憑魔病』の根絶を行う為、やるしかないわ。そして、一人でも多くの患者さんが、救われますように」
「――ああ、この日をどんなに待ち望んでいたことか。なァ、快晴!」
 祈りの言葉は保から零れ、晴天は喜びを紡いだ。
「病の根源、取り除かん……憑き物よ、姿を現せ!」」
 二人が伸ばす手に夕璃の掌が重なり、亜希の胸に触れる。
「――っ?!」
 零れた悲鳴は、曇りガラスを擦り合わせるような甲高い物だった。まるで破砕音のように響くそれは、亜希ではなく、三者の掌が触れる個所より響き渡る。
「これが、病魔召喚」
 初めて見る光景にイピナが感嘆の声を零した。
 同時に。
「これが憑魔病かね。何と、禍々しい」
 亜希の身体から剥離したそれを見上げるメイザースは嫌悪を表情に浮かべ、得物である彼岸花の攻性植物と共に身構える。
 出現した病魔は、髑髏の外見――死の影を思わせる外見をしていた。無数に飛び出た爪は、被害者を捕らえ、苦しめる為の物にも思えた。
「じゃ、ゲームスタートと行きましょうか。勿論狙うは……フルスコア!」
 拳銃を手の中で回転させた舞鈴は、銃声と共に鬨の声を上げた。

●憑魔病
 病魔の爪が翻る。矛先が向かった先は他の誰でもなく――自らの宿主である亜希の元であった。
「この爪で人々を苦しめたのでしょうか」
 間に割って入り、爪撃をロッドで受け止めたヨハンは嫌悪で表情を歪める。次に彼が紡いだものは、許せないとの怒りだった。
「ああ。そうだね。その通りだ」
 彼の浮かべる怒りは皆も同じだと、時間凍結の弾丸を放ちながらメイザースは同意の文句を口にする。
「そうやって、嗤うのですね」
 夕璃の怒りは研ぎ澄まされた一撃となって病魔を捕らえていた。踏鞴踏むようにその場に釘付けになる病魔を尻目に、亜希の載ったストレッチャーが移動を開始する。
「亜希さんはやらせへんよ」
 ストレッチャーを繰るのはマリアだった。仲間達が盾になる中、爪の連撃を掻い潜り、扉の中に彼女を託し、思いっきり閉める。
 ガリガリと扉を梳る音が伸ばされた爪から響いたが、それ以上は病魔も行動を起こす事が出来ない。
 虹を纏う飛び蹴りが、その脳天に炸裂したからだ。
「お前の相手は僕達だ」
 地面に着地し、荒い息を吐くヨハンは挑発とばかりに病魔へ指を突き付けた。
 同時に発生する爆破は、舞鈴より念じられたもの。黒い煙が立ち上り、病魔の身体が大きく揺れる。生物であれば、悲鳴を上げていたに違いない。だが、身体を持たぬ病魔では、それを行う事は出来なかった。
 代わりに振るわれる長い爪は、保によって受け止められ、衝撃は在らぬ方向へと流されてしまう。
「――あまり、重うないな」
 それが一撃を受けた保の感想だった。先に攻撃を受けたヨハンも、そしてその傷を癒やす晴天もその意見は肯定とばかりにコクリと頷く。
(「これが『個別耐性』って奴なんかな?」)
 流星の煌きを足に宿らせ、飛び蹴りを行うマリアを横目で見ながら、保はヘリオライダーの言葉を反芻していた。病魔による爪の一撃は強烈だったが、それでもケルベロス達が負うダメージは軽微だった。
「……私も、被ダメージの大きさはちょっと、覚悟していたんだけど」
 迸る緑光を受けた舞鈴がぽつりと零す。
「キミの厳しい態度もまた、交流の一環だ」
 メイザースの言葉は穏やかで、そうかなぁ、と応える舞鈴の頬は何処か上気していた。
 彼は知っている。彼女の紡いだ厳しい言葉が悪意ではなく、二人の関係を想った上での善意から生じている事を。好意の反対が嫌悪ではなく、無関心だとはよく言ったものだと思う。もしも彼女が悪意を以て言葉を紡いだならば。或いは交流そのものを否定していたならば。結果、彼女に『個別耐性』は付与されなかっただろう。
「ここからは『剣』の出番、ですね!」
 イピナの斬撃は病魔を切り裂き、霊体を蝕む毒の如く汚染していく。
 自身らのやる事は全て終わった。後は病魔を打ち砕くのみだ。

 そして、それは彼女の言葉通りとなった。
「策は万全。個別耐性も適宜。……確かに、敗北の理由はないですね」
 全てに侵食する事を是とする為か、病魔の猛攻は激しく、故に治癒に回る晴天の手は止まる事はない。だが、それでも、仲間達が倒れなければ、自身を覆う疲労感すら心地よく感じていた。
「おいで……咲き乱れて」
「刃に宿りし魂に願う。かの者に邪気跳ね除ける衣を授けたまえ……」
 治癒を行うのは彼だけではない。保の奏でる真摯な歌は清浄な空気を辺りに周囲に散布し、咲き誇る花弁は癒しの共鳴を呼び覚ます。そして、夕璃の生み出した光衣は仲間を覆い、退魔の力を付与して行った。
「陰陽生じて鋲となり、陰陽転じて糧となる。 ――此の血を以って其の血を制してみせましょう」
 ヨハンの生み出した水晶針は病魔を貫き、内部からその霊体を食い破っていく。その宣言が皮切りとなった。
「もう一息やね!」
 石化の魔力を紡ぐマリアが微笑を形成する。病魔は目に見えて弱っていた。ウィッチドクターである自身の目は、それを見て取ることが出来た。
「ディオス・フィニッシュ! カウント・レディ!」
 バトルベルト――ウェスタンドライバーにカードを差し込み、舞鈴もまた笑顔を浮かべた。それは勝利への確信。得物であるリボルバー銃に満ちていく光がその意味を示していた。
「スリー、ツー、ワン、……カウント・ゼロ!!」
 そして光が弾ける。
「クリティカルシューティング!!」
 銃身が生み出したエネルギー弾は病魔の眉間へ着弾。頭蓋骨を思わせる容姿を粉砕していった。
「憑魔病……その災禍、今ここで断ち斬る!」
 動きを止めた病魔に飛び込むイピナの刺突は、水の精霊の加護を纏っていた。降り注ぐ雨の如く、その切っ先は病魔に無数の痕を穿った。
「――さあ。悪い夢は『おやすみ』の時間だよ」
 それが、約束の成就の刻。メイザースの生み出した魔力の太陽は病魔の身体を焼き、その身を焼失させていく。
 断末魔の悲鳴は零れない。ボロボロと崩れ落ち、端から消えていく様子が、幾多の患者を苦しめた憑魔病の最期だった。
「まるで、荼毘の様だね」
 手向けの如く、その言葉は紡がれたのだった。

●穏やかな日々よ
 陽光が燦燦と降り注ぐ。木漏れ日の様に穏やかな煌きは、柔らかな温もりを人々にもたらしていた。
「皆、お疲れさんでした」
 欠伸混じりの保は、芝生の上にへたり込む仲間に賞賛の声を送る。
 病魔を退治しても、それが終わりではなかった。むしろ、始まりだった。病魔根絶の為、他の患者に向かったケルベロス達、そして亜希を救った仲間と共に一晩中駆け巡る事になったのだ。――お陰で、憑魔病を克服する術を見つけた、と思う。少なくともその第一歩を踏み出す事が出来た。
 ヒールによって生じた白い花を弄びながら浮かぶ彼の微笑に、マリアが頷く。
「これで、事件が無事解決……だったらええんやけど」
「きっと大丈夫」
 彼女の抱く不安を払拭するよう、晴天が声を上げた。
「亜希さんは救われた。多くの患者は救われた。そしてこれから数多くの患者を私たちの残した結果が救う。……そうだろ?」
「ばっちり! ハッピーエンドなエンディングロールが流れているわ」
 歓声に応える舞鈴の指は、自然とVサインを形成していた。
「しかし、くったくたですね」
 ヨハンの強面にも疲労か陰りを作っていた。だが、それは心地よい疲労だ。全てやり切ったと言う充実感に満ちていた。
「それもこれも、患者さんの笑顔の為です」
 その為に気張る事が悪い事でないと、彼は知っている。
 視線の先には笑顔の亜希や直治、そして二人と言葉を交わす夕璃やイピナ、メイザースの姿があった。
 陽光の元、退院手続きを済ませた二人に掛けられる言葉を、ヨハンは知らない。だが、二人の顔を見れば、それが彼らの支えになる言葉だとは充分に察する事が出来た。
「本当、助かった良かった」
「ですね」
 太陽が辺りを照らしている。時刻は午後に差し掛かろうとする頃合いだった。
 勝利を祝い、喜びを表現する仲間達の表情は、いずれも、秋の太陽に負けず劣らず、輝いていた。

作者:秋月きり 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年11月8日
難度:やや易
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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