美しき調べを載せて

作者:幾夜緋琉

●美しき調べを載せて
 埼玉県の、とある人気の無い公園。
 夕焼け空に色付く中、バイオリンを手にした男性が、一人ずっと、練習し続けている。
 そのバイオリンから奏でられる曲は、心奮わせられる、バイオリン激しく掻き鳴らす曲や、心に何か悲しさを覚えさせる、悲壮感のある曲等、様々なバリエーションをその手一つ、奏で続ける。
 ……そんな公園で演奏する彼を、背後からそっと近づいてくるは……『紫のカリム』。
「……ふふ……なかなか才能があるわね。なら……」
 軽く微笑むと共に、彼がバイオリンを降ろした瞬間、彼は紫色の炎へと包まれてしまう。
 そして……その炎が消えると共に、姿を現わしたのは、巨大なバイオリンを手にした、華美な服装に身を包んだ、3mの巨躯のエインヘリアル。
「……人間にしておくのは勿体ないわ……だから、これからは、エインヘリアルとして……私たちの為に尽くしなさい」
 と指示を与えると、エインヘリアルは頷き、喧噪の響く繁華街の方へと向かって行った。

「ケルベロスの皆さん、集まってくれたッスね! それじゃ、早速ッスけど説明するッス!!」
 と、黒瀬・ダンテは、集まったケルベロス達に力強く挨拶すると、早速説明を始める。
「最近は、有力なシャイターンの者達が次々と動き出している様なんッスけど、今回そのシャイターンの内の一人『紫のカリム』がどうやら事件を起こした様なんッスよ」
「この『紫のカリム』ら、シャイターンの彼女らは、死者の泉の力を操ることで、その炎で燃やし尽くした男性達を其の場でエインヘリアルとする事が出来る様なんッスよ」
「勿論、このエインヘリアル達が大人しくしている訳も無く、グラビティ・チェインが枯渇している状態だからこそ、人間を殺し、グラビティ・チェインを奪おうと暴れようとしている様なんッスね」
「つまり、ケルベロスの皆さんには、急いで現地に向かい、暴れているエインヘリアルの撃破を頼みたいんッス!」
 そして、続けてダンテはこのエインヘリアルについて。
「今回のエインヘリアルは、元々はバイオリン奏者の様で、どうやら、バイオリンを使った攻撃をしてくる様ッスね」
「バイオリンで攻撃……というか、そのバイオリンを弾いて奏でる旋律によって、様々なバッドステータスを抱かせてくる様ッス。例えば、激しいメロディは、怒りを覚えさせたり、悲しい曲はトラウマを呼び起こさせたり、スローテンポなメロディは眠気を催させたり……と言う具合の様ッス」
「これらバッドステータスは、メロディに載せてくるので、遠距離の列攻撃の効果になるッス。又、ジャマー効果も伴い、一気にバッドステータスが増やされる可能性があるから、バッドステータスの回避には特に注意して欲しいッス!」

 そして、ダンテは纏めて。
「エインヘリアルの行動を放置すれば、一般人達が次々と食い物にされてしまいかねないッスから、どうかここで始末をつけて欲しいッスよ!」
 と、拳を突き上げるのであった。


参加者
バーヴェン・ルース(復讐者・e00819)
ラインハルト・リッチモンド(紅の餓狼・e00956)
セルリアン・エクレール(スターリヴォア・e01686)
リュートニア・ファーレン(紅氷の一閃・e02550)
澤渡・和香(押しかけ事務員補佐心得・e13556)
伊・捌号(行九・e18390)
御門・美波(アストライア・e34803)
八点鐘・あこ(にゃージックファイター・e36004)

■リプレイ

●震える心
 埼玉県の某所にある、人気の無い公園。
 空は夕闇に包まれ、染まる紅が印象的な光景を醸し出している……。
 そして、そんな印象的な光景の下で、バイオリンの練習に精を出す男と、それをターゲットにしたシャイターンの一人『紫のカリム』。
 彼の芸術的才能に目を付けた彼女は、彼を紫色の炎に包み込み、そして巨躯3mのエインヘリアルへと変えてしまった。
「ーム。元バイオリニストのエインヘリアル……か……」
 と、こめかみをトントンと叩きながら呟くバーヴェン・ルース(復讐者・e00819)。
 それにセルリアン・エクレール(スターリヴォア・e01686)が肩を竦め。
「そうだな。エインヘリアル、か。元は才能のある人間だったみたいだし、出来れば人間の頃に音色を聞いてみたかったんだけどな」
 ダンテの話しからすれば、このエインヘリアルの攻撃方法はそのバイオリンから演奏される様々な旋律であると言う。
 ……その土台となっているのが、炎に包まれたバイオリニストであるのは疑いようのない事実。
 彼がエインヘリアルになる前まで、恐らく……血の滲むような努力をしてきたのであろう……と、バーヴェンは一端瞑目してから。
「……バイオリニストと言えば、なるのも目指すのも苦行と聞く……よほどバイオリンや音楽が好きだったのだろうか……」
 と、それに澤渡・和香(押しかけ事務員補佐心得・e13556)、リュートニア・ファーレン(紅氷の一閃・e02550)らも。
「そうですねぇ~。人を楽しませる為に頑張ってたはずの音楽で、人殺しをさせようなんて~、許せません~。被害が出る前に食い止めないと~」
「ええ。音楽は誰かを苦しめるものじゃなくて、勇気づけるものであってほしい。いつか紫のカリムとの決着を付ける為に……一先ずはこの人を止めないとね、クゥ」
『クゥ』
 ぎゅっと抱きしめられた彼女のボクスドラゴン、クゥが静かに鳴く。
 その鳴き声を聞きつつ、どこからともなく取り出したアップルジュースをゴクリと飲み干した伊・捌号(行九・e18390)が。
「……そうっすね。バイオリンは人に聞かせるのがお仕事ってもんっすよね、おにーさん」
 と、どこかふてぶてしく呟く言葉に、バーヴェンとセルリアンも。
「そうだな。わざわざ殺す必要もない人を殺してエインヘリアル化するのはなー。ちと胸糞悪いので、今回は全力で、出し惜しみなしで行こうか。さくさく殺ろうね」
「ああ。そのバイオリンが血に染まる前に……俺たちが成仏させてやる」
 そしてラインハルト・リッチモンド(紅の餓狼・e00956)と八点鐘・あこ(にゃージックファイター・e36004)が。
「そうですね……今回の被害者は……男性は、もう助けられないんですよね……」
「そうなのです。ミュージックファイターとして覚醒したかもしれない人を殺して、デウスエクスにしてしまうなんて許せないのです! 元には戻れないのなら……せめて、罪を重ねる前にやっつけるのです!!」
 あこの気合いに、御門・美波(アストライア・e34803)も。
「……助けられなくてごめんね。あなたを人間に戻す事は出来ないけれど、あなたの心と身体を利用させはしない。人として、楽にしてあげるね……」
 静かな口調ながらも、ぐっとりしめる。
 救えないのなら……今、ここで倒し、救う。それが、今できる最良の事だと信じ。
 ケルベロス達は、そんな気持ちを抱きつつ、エインヘリアルの現れる公園へ侵入していった。

●様々に彩られし曲
 そして、公園を歩くケルベロス達。
 ……人気が無いからこそ、静寂に包まれている公園の中は、不気味な雰囲気に覆われている。
 周りの人達に被害が及ばない事は、幸いな事ではあると思うものの……。
「……少々、怖いですね……」
 とリュートニアが思わず呟き、クゥを更に強く抱きしめる。
 でも、それで怯む訳にも行かないから、更に奥へ、奥へと進む。
 ……すると。
『……ククク……』
 と、突如聞こえてきた、含み笑いの声。
 その声に立ち止る、その声の方角へ顔を向けると……薄明かりの中に立つ、3mの巨躯のエインヘリアルの姿を発見。
 ただ、その巨躯の手には、これも大きなバイオリンが載っている。
 ……ケルベロス達の顔を見て、更にククク、と笑うエインヘリアル……その巨躯を見上げながら、セルリアンが。
「でっかい芸術家だなー。エインヘリアルだったか。それじゃさくさく倒して安全確保と行こうか」
 と、言うと共に、殺界形成を周囲へ一気に展開。
 見渡す限りはないと思うが、一応の人払いを行うと、更にラインハルト、バーヴェンも。
「……アナタの練習した事や、バイオリンに込めた想いが、こんな形で利用されるのは無念だと思います。だから……これ以上、貴方が望まぬ罪を重ねる前に、貴方を止めます」
「応ー。事件を起こす前に、おれたちの手で終わらせてやる」
 と、そんな二人の声に対し、エインヘリアルはバイオリンを構える。
 その動きに割り込む様に、すぐさま美波が。
「本気で行くよ……『魔眼開放』」
 と、眼鏡を外し、月の魔眼を開放、敵に足止め効果を放つ。
 しかしエインヘリアルには、効果未遂に終わる。
「やっぱり、バッドステータスに長けてる使い手はバッドステータスに耐性でも持ってるんッスかね」
 と捌号が呟きつつ、流れる様に仲間へ。
「聖なる聖なる聖なるかな。十字なる竜よ、我が神の威光を示せ」
 と聖句を伴い、前衛陣に『神聖たる十字に集いて咆えよ』を発動、BS耐性を付与していく。
「ありがとうございます。それでは、一気に仕掛けます……!」
 と強化を受けつつ、エインヘリアルとの距離を詰めるラインハルト。
 至近距離に詰め寄り、すぐさまスターゲイザーの一撃を放ち、足止め効果を……付与。
 そしてラインハルトに続き、バーヴェンとセルリアンのクラッシャー二人が続けざまに接近。
「……!」
 至近距離でのインフェルノファクターで壊アップを纏うバーヴェンに対し、鋭い一閃のシャドウリッパーを放つセルリアン。
 着実に削られるエインヘリアルが、反撃として奏でるは……心の中を揺さぶられる、悲しげなメロディ。
 そのメロディを聞いたケルベロス達は……心の中のトラウマが呼び起こされる。
「! ……ダメ~! あなたと闘う意味はもうないでしょう~?」
 と、そのトラウマに突き動かされた和香が、自分の前に対し、攻撃を仕掛けてしまう。
「和香さん、しっかりするのです! ほら、ご飯よ、飛んじゃえ!」
 と、すぐさま『鯖缶』召喚し、和香を回復。
「あれれぇ、ありがとうございます~」
 一瞬きょとんとするも、こくりと頷く和香。
 そして、続く捌号のボクスドラゴン、エイトはバーヴェンに属性インストールで和香にBS耐性を付与。
 合せてあこのウイングキャット、ベルも清浄の翼を振るわせ、中衛列にBS耐性を付与の強化。
 そして、リュートニアは自分自身の居る後衛に黄金の果実でBS耐性強化し、ボクスドラゴンのクゥも自分自身に属性インストールでBS耐性付与。
 全員に対しBS耐性が付与された状態になり、敵の攻撃に対する耐性が強化される。
 ……が、そんな事はお構いなく、エインヘリアルはバイオリンによる攻撃を継続。
 今度は、音の高低が激しい、気が狂いそうな奇妙なメロディを奏で、頭の中を狂わせてくる。
 ただ、BS耐性の効果が上手く効いている様で、催眠効果の発動迄には至らない。
「ふぅ……中々めちゃくちゃなメロディだ。やっぱり音の攻撃は効果範囲が見にくいし、ちと厄介だね。弦を切れば少しは楽になるのかもしれないけど、そんな余裕は無いか。壊したら機嫌損ねるかもしれないし」
 とセルリアンがそう言い捨てながら、エインヘリアルにドレインスラッシュの一閃を叩きつける。
 そして、同時にラインハルトが。
「Don't get so cocky!」
 と『次元斬・葬』で斬り断つと、バーヴェンはブレイズクラッシュで攻撃。
 クラッシャー三人の連続攻撃にて、その体力を大幅に削る。
 そして、和香が紙兵散布で前衛陣に更なるBS耐性を付与する一方、ベルも清浄の翼で、後衛の列にBS耐性を追加。それにメディックのリュートニアが更に黄金の果実でBS耐性を更に強化。
 続くクゥがボクスブレスでエインヘリアルに攻撃すると、美波も。
「力を貸してね? 『白蛇』」「いくよ『黒猫』」
 と、その手に光の槍を放ち、セイクリッドダークネスを喰らわせる。
 そして、捌号は。
「ほい、いらっしゃいっす」
 と飄々としながら、接近してのグラインドファイアを叩き込む。
 そしてあこが獣撃拳で攻撃し、もう少し体力を削る。
 ……更に次の刻。
 ただ、エインヘリアルの攻撃手段は、メロディは変わるものの、そのバイオリンから奏でるBS効果のみ。
 列に効果を及ぼす攻撃、掛かればかなり面倒な事にはなるであろうが……BS耐性を大量に重ねられたケルベロス達には、中々その効果が現れる事はない。
 でも、諦めずに何度も何度もエインヘリアルは攻撃を仕掛け続ける。
 まるで、自分のバイオリンで奏でる曲で、訴え駆けるかの様に。
 ……そして、そんなエインヘリアルの曲を聞き流し、経過する事数分。
『……っ……』
 唇を噛みしめ、地面に跪き……ケルベロス達を睨み付ける。
 ……そんなエインヘリアルの苦悶の表情に、静かに美波が。
「……心奪われる素敵な演奏、ありがとうね。お返しに、あなたの心も奪ってあげる……『月の魔眼!』」
 と、更なる魔眼開放を行い、エインヘリアルを地面に縛り付ける。
 そして。
「そろそろ、終わりにするっすよ」
 と、捌号が至近距離からの戦術超鋼拳。
 強烈な一撃が、顔から地面へと叩きつけられるエインヘリアル……そして。
「せめて祈ろう。汝の魂に幸いあれ……!」
 と、バーヴェンが『水龍天翔斬』の一閃を放つと……エインヘリアルは、絶叫と共に崩れ墜ちて行くのであった。

●上手なる影に
 ……そして、エインヘリアルの姿、消え失せた後。
「……どうやら……終わった様ですね……」
 と呟き、リュートニアは傍らのクゥを抱き上げる。
「……お疲れ様、ありがとう……」
 と、クゥの身体を優しく撫でる……クゥも、何処か気持ちよさそうに目を細める。
 そして、既に消え失せたエインヘリアルの遺骸の痕に。
「主よ、永遠の安息を……せめて、これからは安らかに……」
 と手を握り、目を瞑り、祈りを捧げる美波。
 更にラインハルトも。
「どうか、安らかに眠って下さい……」
 と、祈りを捧げる。
 ……そんな仲間達の祈りを、静かに聴きつつ……捌号は、エインヘリアルが傷付けた疵痕を、ヒールグラビティで一つ一つヒールしていく。
「あ、手伝うよ。荒れたままだと危ないしね」
「ありがとっす」
 セルリアンも手伝い、せっせと周りの回復をして……一通り終わった所で、祈りを捧げる二人も、目を開ける。
「さて、と。終わった終わった。近くにコンサートホールとか、ミニライブとかやってないかな? たまには音楽聴いてまったりしようかなーって」
 と言うセルリアンに、あこが。
「あ、それはいいのです! でも……何処にあるか解らないのです……」
「まぁ、そうだよね。ま、一度繁華街の方に行けば、何処コアにあるかな?」
「了解なのです!」
 と言うと、サッサと走って行ってしまうあこ。
 そんなあこの動静にくすり、と笑いながら、他のケルベロス達も、静けさを取り戻した公園を後にするのであった。

作者:幾夜緋琉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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