病魔根絶計画~Rの喪失

作者:質種剰


 そこは、まるで独房のようにすら見える、窓に鉄格子の嵌まった殺風景な部屋。
 中では1人の女が、狭い寝台に横たわっててんてんと寝返りを打っていた。
「あぁ、男が欲しい……彼女持ちの男や妻子持ちの男を寝取りたい……!」
 悩ましい吐息を洩らす女は、なるほど男好きのしそうな魅力ある容姿をしている。
 とはいえ、いかに男からモテようとも、人の恋人や旦那を奪う事は人の道に悖る行為と言わざるを得ない。
「赤木、具合はどう?」
 ふと、窓から同年代の女性が顔を覗かせた。
 ガタン!
 女がまろびそうになりながら窓へ駆け寄る。その目はストレスの為か吊り上がり、真っ赤に充血していた。
「ねぇ、お願いここから出してッ! 自由な恋愛の何処がいけないの! どうして私はこんな所に閉じ込められなきゃならないの!」
 矢継ぎ早に叫ぶ女へ気圧されて女性は言葉を詰まらせるも、すぐに宥めるように言った。
「自分が何したか解ってる? 友達から親戚からのべつ幕なしに色んな人の旦那に手を出して……あまつさえ、取引先の課長さんにまで色目使って。あの人、社長の娘婿なのよ。大口の契約が貴方の男遊びのせいでパアになったのよ?」
 見舞いに来たらしき女性は滔々と教え諭してから、深い溜め息をつく。
「本当に……病気になる前はこんな人じゃなかったのに。もっと奥ゆかしくて一途な人だったのに……」


「皆さんに今回お願いしたいのは、病魔の討伐であります」
 小檻・かけら(清霜ヘリオライダー・en0031)が説明を始める。
「それと申しますのも、病院の医師やウィッチドクターの方々の御尽力で、『憑魔病』という病気を根絶する準備が整ったからなのであります」
 現在、この病気の患者達が大病院へ集められ、病魔との戦闘準備を進めている。
「皆さんには、その中でも特に強い、『重病患者の病魔』を倒して頂きたいであります」
 今、重病患者の病魔を一体残らず倒す事ができれば、この病気は根絶され、もう新たな患者が現れる事も無くなるという。勿論、敗北すれば病気は根絶されず、今後も新たな患者が現れてしまう。
「デウスエクスとの戦いに比べれば、決して緊急の依頼という訳ではありません。ですが、この病気に苦しむ人をなくすため、必ずや作戦を成功させてくださいましね」
 かけらはぺこりと頭を下げた。
「さて、皆さんに討伐して頂く『憑魔病』についてでありますが……」
 かけらの説明によると、憑魔病は赤茶けた髑髏と肋骨のように大きな爪が浮いた外見をしているらしい。
 憑魔病は、遠くまでよく響く声で悪行を囁く事で、敵1人へ理力に満ちた魔法を浴びせて催眠状態に陥らせる。
 また、鋭い骨爪を振るって、近くの敵1体を深々と貫いてくる。頑健に優れたそれは油断できない破壊力である。
「もし、戦闘前にこの病魔への『個別耐性』を得られたなら、戦闘を有利に運べるでありますよ」
 個別耐性とは、今回ならば憑魔病の患者の看病をしたり、話し相手になってあげるなどの慰問によって元気づける事で、一時的に得られるようだ。
「個別耐性を得ると『この病魔から受けるダメージが減少する』ので、どうぞ積極的に狙っていってくださいね」
 かけらはそう補足して説明を締め括り、ケルベロス達を激励した。
「どうか、この病気で苦しんでいる患者さんを助けて差し上げてくださいましね。憑魔病を根絶するチャンスでもありますから……」


参加者
上述・環(私は隣人である・e17920)
ルフ・ソヘイル(秘匿の赤兎・e37389)
園城寺・藍励(冥府と神光の猫・e39538)
有馬・左近(武家者・e40825)
アンナ・ニートゥギャザー(ヴァルキュリアの自宅警備員・e41251)
狐田・ジェイミー(喉潰しのジェイミー・e41401)
パフェット・ドルチェ(自称お菓子の国の魔法少女・e41619)
彩葉・戀(蒼き彗星・e41638)

■リプレイ


 大病院の一隅。
 ケルベロス達は、憑魔病患者の1人、赤木の病室を訪れていた。
「誰? ……課長の奥様? 私、別れるつもりありませんからね!」
 赤木が噛みつきそうな顔で威嚇するのへ、
「違います。奥さんではありませんし、あなたの知り合いでもありません」
 上述・環(私は隣人である・e17920)が、テレビウムのピコピコさんを抱えたまま答える。
 心優しくおっとりした性格の環は、その友愛の精神をデウスエクス相手にも発揮。
 遭遇する度に落ち着かせようとするも、当然対話の段階にすら持っていけないのを悩ましく思っているのだとか。
「ですが、わたくしたちがあなたを救います。救いに来ました」
 環は、ピコピコさんを赤木の膝へそっと乗せると同時に、彼女の手を取って真摯に励ました。
 ピコピコさんも主の真似をして、はっしともう片方の手を取ったのが可愛い。
「救う? もしかしてここから出してくれるの!?」
 勘違いして——完全に勘違いとも言えないが——喜ぶ赤木を見て、
「こんなに綺麗な方なのに……とても苦しんで……かわいそうに……」
 思わず涙を零してしまう環だった。
 続いて。
(「赤木さんの病気が治る様に、そして病魔を倒す計画を無駄にしない為に……絶対倒して成功させるっす」)
 ルフ・ソヘイル(秘匿の赤兎・e37389)が、動物変身した姿で病室へ入ってきた。
 都会の荒波に揉まれた結果、何故か下っ端っぽい軽薄な口調となった螺旋忍者の男性。
 基本は明るく元気な性格だが、時に年齢相応の落ち着きを感じさせる言動も見せる、垂れ耳ウサギのウェアライダーだ。
 ぴょんこぴょんこ。
 赤茶色の垂れ耳ウサギと化したルフは、無邪気に床を跳ねて赤木のベッドへ飛び乗った。
 元より人懐っこい性だろうか、赤木へ対して興味津々といった風情で極自然に振る舞っている。
 これは、ピコピコさんを差し出した環同様、アニマルセラピーの効果を狙っての策だったが。
「あら、なぁに、お利口さんなうさぎさんね……」
 赤木は何かに気づいたのかルフを抱き上げ、頭へ鼻先を埋めた。
「あまりに賢すぎるわね、貴方。ウェアライダーでしょう」
 仲間達が顔を見合わせる。
「ああ、久々に嗅ぐ男の匂い……ちょっと獣臭いのも悪くないわね。ねぇうさぎさん、あなたどんな顔してるの。見てみたいけど、人に戻ったら抱っこできないわよね、あーんどうしよう」
 赤木は独りで勝手にテンションを上げて、兎ルフを抱き締めて必死に話しかけている。
 果たしてこれをアニマルセラピーと言って良いのか疑問だが、少なくともルフは確実に個別耐性を得られるだろう。
「にゃー」
 次いで入ってきたのは、白猫に変身した園城寺・藍励(冥府と神光の猫・e39538)。こちらもアニマルセラピー目的である。
 長い緑の髪と藍色の瞳、白い猫耳と尻尾が特徴的なウェアライダーの少女。
 初めて出来た友をデウスエクスから守る為に鎧装騎兵となるも、『狂月病』のせいでその友を失った過去を持つ。
「にゃーーん」
 藍励もルフ同様に甘えた声を出しながら、猫のフリしてすりすりと赤木の足へ頭を擦りつける。
「あら可愛い猫ちゃんねー、ダメよ、このうさぎさんは私が可愛がってるんだからー」
 赤木は楽しそうに笑ってから、白猫藍励へ向かって舌を出す。
(「……何か、ライバル認定された?」)
 内心戸惑う藍励だが、ルフを独り占めして勝ち誇る赤木を見ていれば、
(「彼女の情緒が安定しているのなら、このまま猫で居た方がいい……」)
 そう思って、せいぜい恨めしそうににゃーんと鳴いてみせた。
 一方。
(「男装かー……初めてだから緊張するよー」)
 覚悟を決めて室内へ入ってきたのは、パフェット・ドルチェ(自称お菓子の国の魔法少女・e41619)。
 元はダモクレスだったが、たまたま目にした魔法少女アニメをきっかけに定命化、レプリカントとなった少女。
 その為か、いつもならばピンクのサイドテールに星が煌めく青い瞳、パフスリーブのスモック風ワンピースと、とても調和の取れた外見をしている。
「はじめまして赤木さん。僕は鹵獲術士のドルチェです」
 しかし、今のパフェットはケルベロスコートと帽子で男装をした上、きらきら眩い光と共に変身中だった。
「初めまして……ドルチェさん、どなたかのお見舞いにいらしたの? もし、時間があればお茶でもいかが?」
 すっかり騙された赤木が、しなを作ってパフェットの手へ触れようとするも、
「ありがとうございます。気持ちは嬉しいのですが、今は貴方を助けたいんです。治療が終わったら、改めてお話しま——」
 彼女が丁寧な固辞を言い終わる前に、ばっと手を離して慄いた。
「貴方……女ね? 私を騙そうとしたの!?」
 突然金切り声を上げてパフェットを非難する赤木。
「待ちやんせ。わいらはおはんを騙したつもりはなかとよ」
 慌てて、有馬・左近(武家者・e40825)が赤木を止めに入った。
 一筆書きの眉と爛々と光る眼、顔のあちこちに走った傷が印象的なドワーフの男性。
 大上段に獲物を振りかぶって斬りかかる戦闘スタイルを得意とする刀剣士でもある。
 だが、この日の左近は女装をしていた。
 女性用の着物を身に纏い、瓶底眼鏡で目元を隠し、しっかり顔も化粧済み。
 更には、香薬・白檀爆弾を使って体臭を隠す徹底ぶり。
「おはんなないごて彼女持ち、夫持ちん男を好くんでごわすか、何か故あってか?」
 顔が見えないよう鍔の広い白い女優帽まで被って、左近が問いかける。
「理由なんてありません。ただ妻子持ちの男が魅力的に映るだけです。別に相手がいなくたって好きなものは好きよ。ねーうさぎさん、大人しくて可愛いわぁ」
 左近の凛とした佇まいが病人である赤木の背筋をもぴんと伸ばして、彼女の荒ぶる心を僅かながら押さえつけ、一瞬だけでも丁寧に対応させたようだ。
 他方。
「なるほど、心の赴くままに恋愛してた訳っすか。それなら、時には手酷い返り討ちにあった事もあるのでは?」
 アンナ・ニートゥギャザー(ヴァルキュリアの自宅警備員・e41251)は、いかにも好奇心に満ちた瞳を爛々と輝かせて、赤木の話を聞く態勢だ。
 過去に数多の戦場を駆け巡っていたヴァルキュリアの少女。
 というのは実は洗脳による偽りの記憶で、定命化の際に初めて現実と向き合ったものの、耐えられずに閉じこもってしまった。
 その間は自堕落な生活を送っていたらしく、気づけば自宅警備員になっていたそうな。
「ええ……不倫って、良い事ばかりじゃ無いのよ」
「知ってるけど、自分にはピンと来ないっす」
「クリスマスや年末年始は家族優先なもんだから、一緒に居られなくて寂しいし」
「そうなんすかぁ」
 良い話し相手と思ったのか、赤木はアンナへぺらぺら喋り出す。
「でもねぇ。奥さんと上手くいってないって嘘に縋って信じたくなる……わかる?」
「さぁ……ちょっと良くわかんないっす」
「仕方ないわよね。好きになっちゃったんだもの」
「素敵っすねぇ。どんな人を好きになっちゃったんすか?」
 赤木の話を、真剣に身を入れて聞いているアンナは流石だった。
「折角なんで教えて欲しいっすよ」
 彼女なりに『さしすせそ』の相槌を使い分け、赤木の精神を宥めようと一所懸命である。
「これ、自分じゃなくって知り合いの話なんすけどね?」
 話が一段落した後も、アンナは予めネットで調べた略奪愛の逸話を披露、赤木を面白がらせた。
「ま、世界は広ぇし、色情魔ってのもいっぱいいるもんだからな」
 狐田・ジェイミー(喉潰しのジェイミー・e41401)は、なかなかに恐ろしい内容を熱弁してみせた。
 色黒のスキンヘッドと筋肉質な体躯が迫力と威圧感を醸し出している、降魔拳士の男性。
 実は投獄されていた過去を持つ、根っからのアウトローである。
「前にムショの中で聞いた話だがよ。水も漏らさぬ仲だった筈の夫婦が、揃って変死を遂げた事件があってな。よくよく調べてみると旦那の方には実はオンナがいやがってよ……」
 そんな経験を活かしてか、ジェイミーは隣人力も併用しつつ、かつて耳にしたショッキングな事件の顛末を面白可笑しく赤木へ聞かせてあげた。
「やだ、怖い……犯人はその愛人だったの?」
 熱心に身を乗り出す赤木の様子は、まるで昼のワイドショーを観ているようだった。
「おう。けど途中で妙な事が解るんだ。実は旦那の方は……」
 楽しそうで何よりである。
 同じ頃。
「どうか、彼の者に御霊の加護を……」
 彩葉・戀(蒼き彗星・e41638)は、入院患者用の風呂場を借りて水垢離を実行、赤木の回復を一心に祈っていた。
 かつてはエインヘリアルの洗脳によって幾度も戦線に送られていたが、それもコギトエルゴスムのまま封印されていた長い期間を思えば茫々の昔。
 ケルベロスによって助けられた際に恩義を感じて定命化した戀だから、今はケルベロスを助けるべく日々戦っている。
「すまぬ、遅くなったの」
 戀は、赤木の病室を訪れた後も、彼女の話を親身になって聞こうと決めていたらしく、
「遠慮はいらん。その気持ち、ぶつけるのじゃ」
 彼女の眼を真っ直ぐに見つめて、その凝り固まった鬱憤を晴らすよう気遣った。
「私はただここを出て……ウチの人事部長と常務と取引先の課長さんに逢いたい!!」
 振り絞るように呻く赤木。
「そうかそうか、辛かったのぅ……」
 戀は憐憫の篭った視線を彼女へ向けた。
「奪って手にした愛は本物ではないと知ってるはずなのに……」
 我が事のように悲しむ環の涙は止まらない。
 ともあれ、ケルベロス達は親身な慰問を続けた結果、赤木へ巣食った憑魔病の個別耐性を得る事が出来た。


 その後、病院のウィッチドクターの病魔召喚によって、『憑魔病』が赤木の体内から引き摺り出された。
「はいはい、危ないから速やかに退出願うっすよ」
 すぐにアンナとジェイミーが2人を病室の外へ逃がして、いよいよ戦闘態勢に入る8人。
 予め病室の周辺廊下に立入禁止テープを張っていた為、赤木やウィッチドクターが室内へ戻ってくる心配は無い。抜かりのないジェイミーである。
 まずは藍励が、しっかり練り上げて複雑に絡み合ったグラビティをビブロストバスターの刀身へ籠めて一太刀。
 洗練した斬撃で刹那の内に憑魔病を薙ぎ払う。
「戦目、壱之型『執爆』――――エクスキューション・デトネイト」
 転瞬の間、強烈な爆風と共に大気が超振動して、辺り一帯へあたかも電撃が迸ったかの如き衝撃を引き起こした。
「キェェェェッ!!!!」
 左近は日本刀の柄を耳元まであげた独特の構えから、袈裟懸けに——一の太刀を疑わず——振り下ろす。
 今まで何千、何万と打ち込んで磨き抜いた剣技故の一閃は、まさに雲の合間を耀く稲妻の如く、憑魔病の堅い防御ごと上から叩き潰した。
「赤木さんから去ってください!」
 すらりと鞘から抜いた斬霊刀を非物質化して、憑魔病へ斬りかかるのは環。
「その病を断ち、苦しみを断ちます。だから――病魔のあなたも安らかに眠ってください」
 鋭く正確な太刀筋を見舞って、憑魔病の霊体のみを汚染破壊した。
 戦いは続いた。
「良識に縛られるな。倫理なんざ糞の役にも立たぬ。心を解放して正々堂々悪を成すが良い……!」
 憑魔病は、カタカタと骨だけの顎を動かして悪行を囁き、唆してきた。
「んな事、てめぇに言われなくてもようく知ってらぁ」
 すかさず、避難誘導を終えたジェイミーが戀を庇って、代わりにダメージを受ける。
 実は幽霊等が苦手な為、まるで悪霊みたいな見た目をしている憑魔病にも——決して顔色には出さないが——内心ビビっていたジェイミー。
 だが、個別耐性を得た安心感からか今は懸命に虚勢を張って、憑魔病へ肉薄。
 ——ゴスッ!!
 全身全霊をかけた拳を髑髏へ減り込ませ、卓越した喧嘩の技量を見せつけた。
「唸れ自分の運命力ぁ! 絶対、この手に掴み取ってやるっす……ッ!!」
 アンナは意識を研ぎ澄ませ、戦闘中という状況下であればガチャで大当たりを引く確率が上がりはすまいかと決死の覚悟で挑戦。
 残念ながら大当たりは引けず、外れた事に対する憤りを八つ当たりとしてぶつけるアンナ。
 憑魔病へ決して少なくないダメージを与えた。
「ここで一つ、お聞きあれ。幻想曲」
 主旋律を模倣して追いかける副旋律が印象的な曲を奏でるのは戀。
 星々の儚き光を連想させる調べは、あたかも癒しの光が優しく舞い降りたかのような錯覚を引き起こし、ジェイミーの傷を癒した。
「距離、風速……もう全部OK!」
 人形態に戻っていたルフは、精巧な幻覚で出来た弾を大量に連射して憑魔病を誘導。
「俺は意思のある武器! 勿体ぶらずにドドンといくっすよ!」
 更に、誘導した先で本命かつ本物の一発を撃ち込んだ。
 幻覚弾に撃たれても目がチカチカとするだけで痛みはないものの、偶にその中には本物の人参が混じっているそうな。
「お菓子の国の青い星! 魔法少女パフェット・ドルチェ!」
 すっかり男装を解いて前口上を決めるのはパフェットだ。
 大切なものを護る為、ダモクレス時代の――この世界を壊すために生み出された力を己が記憶から再現。
「もうあの人のために涙は流させない! 精神抑制90%! Parfect Doll"CrackEarth"!」
 憑魔病の生命活動を停止させるべく最終奥義を放って、見事に憑魔病を仕留めたのだった。
「皆、お疲れ様……ありがと」
 微笑んで仲間を労う藍励。
 死した病魔が空気に融けて消え失せるのを見届けてから、8人は病室の外へ出る。
 キープアウトテープの外側で、ドクターに付き添われた赤木が待っていた。
「ふたりとも、無事……? 病魔、倒したよ。もう、大丈夫……」
 藍励が優しく声をかければ、赤木も先程とは全然違う控え目な態度で応じる。
「ええ、お陰様で……不思議なぐらい、心が軽く、苛々が取れて楽になったんです」
「治って良かったっす!」
 その様子を見やって、ルフが明るく言った。
「さっきは騙してごめんなさい! でも、貴方を助けたいって思いに嘘はないよ!」
 と、素直に頭を下げるのはパフェット。
 赤木はゆっくり首を横に振って、
「こちらこそ酷い事申しまして……うさぎさんもねこさんも、本当にご迷惑をお掛けしました」
 アンナは、赤木が快癒しても尚男好きかどうか慮ると、
「んー、もし今も隣の芝生が青く見えるんだったら……青い芝生、育てちゃうとかどうっすかね?」
 親身になって恋愛のアドバイスをした。
「有難うございます。どうも恋愛には奥手で……これからは人様の家庭を壊さない範囲で、努力してみますわ」
 ずっと悪い夢を見ていたようで不倫は懲りました、と照れ笑いする赤木。
「まさかここまですっ事になっとはのう……赤木どんが快晴出来たから良かか」
 左近はようやく女装を解いて、人心地ついていた。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年11月8日
難度:やや易
参加:8人
結果:成功!
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